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平成23年1月26日判決言渡
平成22年(ネ)第4377号地位確認等請求控訴事件
主文
1原判決を次のとおり変更する。
(1)本件訴中,本判決確定の日の翌日以降の金員の支払を求める部分を
却下する。
(2)控訴人が,被控訴人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にある
ことを確認する。
(3)被控訴人は,控訴人に対し,
①平成20年10月から本判決確定の日まで毎月末日限り,金42万
8059円
②平成20年12月から本判決確定の日まで,毎年6月10日,12
月10日限り,各金100万円
及びこれらに対する各支払時期の翌日から支払済みまで年6分の割合
による金員を支払え。
2訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
3この判決の第1項(3)及び第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2控訴人が,被控訴人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを
確認する。
3被控訴人は,控訴人に対し,
(1)平成20年10月から毎月末日限り,金42万8059円
(2)平成20年12月から,毎年6月10日,12月10日限り,各金10
0万円
及びこれらに対する各支払時期の翌日から支払済みまで年6分の割合による
金員を支払え。
4訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
5第3項につき仮執行宣言
第2事案の概要(略語等は,原則として,原判決に従う。)
1本件は,平成12年10月1日,被控訴人に従業員として雇用された控訴人
が,被控訴人に対し,被控訴人が,平成20年8月25日(以下,平成20
年の出来事は月日のみで表示する。),9月30日をもって控訴人にした諭
旨退職処分(本件処分)が無効であるとして,雇用契約上の地位の確認,本
件処分の翌月である10月から毎月末日限り月額42万8059円の給与の
支払,12月から毎年6月10日及び12月10日限り,各100万円の賞
与の支払及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの商事法定
利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2原審は,本件処分は社会的に相当な範囲にとどまるものであるとして,控訴
人の請求のうち,判決確定日の翌日以降の賃金支払請求の部分は訴えの利益
がないとして不適法却下し,その余を棄却したところ,控訴人が控訴した。
3争いのない事実等,主たる争点及びこれに対する当事者の主張は,原判決書
10頁3行目の「真撃」を「真摯」に,同頁11行目の「禁反原」を「禁反
言」に改め,次のとおり加えるほか,原判決「事実及び理由」中の第2の1
及び2に摘示されたとおりであるから,これを引用する。
(当審において控訴人が追加又は敷衍した主張)
1控訴人の欠勤は,懲戒事由(就業規則51条3号後段)に該当しない。
(1)被控訴人においては,就業規則63条で欠勤の手続を規定しているが,
同条の手続を履践しない欠勤が「無断欠勤」に当たると規定しているわけ
ではないから,同条の手続を履践しなくても被控訴人に対する欠勤の通告
がされていれば「無断欠勤」には当たらない。控訴人は,6月3日,所属
長のAマネージャー及びB部長らに対して,同月4日以降欠勤することを
報告していたし,欠勤見込みの期間についても,ビジネス倫理ヘルプライ
ンに調査依頼を行い,同日,申告を受けた旨のC本部長からの連絡があっ
たから,客観的に見れば被害事実の正式な調査は完了しておらず,控訴人
は,必要な調査が終了するまでの期間と申告するしかなかった。したがっ
て,控訴人は,被控訴人に欠勤の理由と見込日数を届けているから,同条
の手続を履践したものといえる。被控訴人においては,一般に,同条の
「就業報告書」による報告の履践はされていなかったのであるから,控訴
人に「就業報告書」の提出を求めるのは無理であり,控訴人には事前の届
出ができない「やむを得ない事由」があったといえる。
仮に,控訴人が「就業報告システム」によって報告を行っていなかったと
しても,控訴人は,これによって報告を行うべきことを知らなかった。欠
勤申請手続を履践しなかったことが懲戒事由になるならば,被控訴人は,
控訴人が欠勤するに当たり,欠勤申請手続について説明すべきであったが,
その説明はなかった。控訴人は,6月3日には,被控訴人のContac
tHRに対して休職申請をしていて,休職申請が却下されるまでは正式な
欠勤届の手続を行うことは困難であるから,事前の届出ができない「やむ
を得ない事由」があった。
控訴人は,同月27日,控訴人の上司であるAマネージャーが就業報告シ
ステムに控訴人の欠勤報告を代行入力したことに異議を述べたが,同年7
月1日,C本部長から休暇申請を正式に却下されたので控訴人は異議を
撤回し,上記欠勤報告の代行入力を承認した。したがって,遅くとも同日
には「就業報告システム」による報告をしていることになる。
控訴人は,6月3日,ビジネス倫理ヘルプラインに調査依頼を行い,同月
4日申告を受けた旨のC本部長からの連絡があったから,被控訴人は,倫
理委員会において事実関係の調査を行い,確認する義務を負っていた。被
控訴人は,同月3日の時点で被害事実が不存在であることを前提とした行
動は取れないはずであり,同月4日以降に欠勤の正式な手続をとることは,
控訴人にとって著しく困難である。
仮に控訴人の欠勤が「無断欠勤」に当たるとしても,「使用者が事前に予
測し,あるいは事後速やかに欠員を補充して通常の生産機能を維持するこ
とをできなくするような仕方での無届欠勤」には当たらないのであるから,
被控訴人は,控訴人に懲戒処分をすることができない。
(2)本件欠勤には「正当な理由」が存する。
控訴人は,職場における嫌がらせ及び情報漏えいに対して被控訴人に対し
て調査を求めており,適当な調査に基づく被害防止措置がとられていない
ことから欠勤をしたものであり,「正当な理由」がある。
(3)B部長は,6月3日の電話において,同月4日以降の欠勤が,無断欠勤
に当たらず,「結果として欠勤」になると述べたのであり,これにより,
控訴人は,同日以降の欠勤が無断欠勤に当たるとは考えていなかった。被
控訴人の管理職であるB部長の発言によりこのような認識を持つに至った
控訴人を被控訴人が「無断欠勤」に当たるとして懲戒処分をすることは,
禁反言の原則に反し許されない。
仮に,B部長が「無断欠勤」に当たらないと説明したのではなく,控訴人
の質問に対する回答を回避したに過ぎないのだとしても,控訴人は,本件
欠勤が懲戒事由に当たるか否かという労働契約の内容に関する質問をした
のであるから,B部長の回答拒否は労働契約内容の理解促進義務(労働契
約法4条)に違反する行為であり,本件欠勤が「無断欠勤」に当たらない
と信じた控訴人の本件欠勤を「無断欠勤」と扱うことは許されない。
本件欠勤が「無断欠勤」に当たるとしても,被控訴人の職場秩序を乱すよ
うなものではない。
被控訴人による本件処分は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相
当と認められず,懲戒権を濫用したものとして無効である。
2使用者の配慮義務違反による無効(第二次的主張)
被控訴人が調査の上で控訴人の申告した被害事実は存在しないと判断したの
であれば,被控訴人は,控訴人が精神疾患が原因の被害妄想でかかる被害申
告をしていると把握したか,少なくとも容易に認識し得たはずであるから,
少なくともこれを疑い,使用者としての配慮義務を尽くすべきであった。被
控訴人は,4月中旬ころ,控訴人のメンタルヘルスの異常を強く疑っており,
「健康相談室」の担当者が控訴人の実家に架電し,控訴人の母親や実兄に,
控訴人は,「言動にしても普通じゃない状況です,通常の状態ではありませ
ん,何かあったら暴発する可能性があるし,会社や自分が加害者だと思って
いる誰かに危害を加えるかもしれないが何か起きたら遅いです」などと述べ
た上,神奈川県のメンタルヘルスに関する相談窓口の連絡先を告げた。被控
訴人が控訴人に何らかのメンタルヘルスの異常性を認識し,対処が必要であ
ったことを知悉していたことは明らかである。
控訴人がとりつかれた被害妄想は,控訴人が自ら詳細な調査をしたり,警察
に捜査依頼することなどまで行っていることから,相当強度で,直ちに就労
において配慮が不可欠なものであり,何ら配慮せずに就労を命じるべきでは
ないことは明らかである。本件処分は,被控訴人が使用者として,雇用する
労働者に対して果たすべき安全配慮義務,すなわち,メンタルヘルス対策と
して,少なくとも一定期間休職措置をとり,労働者の労働義務を免除するな
どの配慮義務を行わずに行使されたことになり,解雇権の濫用により無効で
ある。
(当審において控訴人が追加又は敷衍した主張に対する被控訴人の反論)
1無断欠勤該当性
(1)ContactHRは,人事部に問い合わせを行うための窓口に過ぎず,
休職申請窓口ではない。被控訴人において欠勤の届出や休職の申請は,就
業報告システムを通じて行うことになっていたのであり,Contact
HRを通じて休職申請をすることはそもそも不可能である。6月3日に控
訴人から口頭でされた休職申請には,上司のAから休職は認めない旨明言
し,翌日以降出社するよう通達した。
(2)被控訴人においては,全従業員が「就業報告システム」を利用して電子
的に「就業報告書」を提出している。控訴人が6月3日のB部長との電話
で「問題が解決しない限りは,就労できない」としていることは,控訴人
として,被害事実がなくなったと納得しない限り出社する意思がないこと
を明確に表明したものである。欠勤の見込日数は形式的にも実質的にも届
けられていない。
(3)欠勤する正当な理由の不存在
被控訴人は,6月3日にB部長を通じて控訴人に対し,被控訴人としての
調査結果を伝え,出社する上で障害はないから安心して出社して欲しい旨
伝えた。この時点で控訴人が出社する上で障害はなくなっていたのであり,
控訴人は,出社して労働力提供義務を果たしながら,倫理委員会の調査結
果を待っていれば良かったのである。
(4)Bは,6月3日の電話で,控訴人に出社を求めるため,被害事実がない
ことを説明しようと考えていたところ,控訴人の話が横道にそれたため,
「今は無断欠勤の話をしているのではない」という趣旨の発言をしたこと
はあったが,控訴人が欠勤をしても被控訴人が無断欠勤として扱わないこ
とを認めるとか保証するというような趣旨の発言は一切していない。
控訴人が,被控訴人から何度も出社を命じられていたにもかかわらず,無
断欠勤を40日という長期間継続したことの悪質性は高い。被控訴人は,
このような控訴人の悪質な職場秩序侵害行為にもかかわらず,控訴人の利
益を最大限考慮して退職金を受け取ることができる「諭旨退職」処分を選
択した。
2第二次的主張について
(1)控訴人は,被害事実がないなら控訴人が精神疾患ということになるとい
う議論を展開しているが,論理に飛躍がありすぎる。精神疾患がなくとも
他人の発言や態度の趣旨を誤認して,悪意をもって扱われているとか,い
じめられていると誤解するということは十分にあり得るのであり,「被害
事実が存在する」のか「控訴人が精神疾患である」のかの二者択一である
とする控訴人の議論は当を得ていない。
(2)使用者側の安全配慮義務の一環として従業員のメンタルヘルスにも一定
の配慮をすべきではあるが,使用者が何をすべきかは従業員にかかるスト
レスの程度や従業員の態度の異常性の程度等の個別具体的事情により決ま
る。控訴人は「極端な過労もなく安定した就業状態」であり,本件処分当
時,メンタルヘルスが問題となり得るような過度の残業もなく,控訴人か
らの申告もなかった。このような具体的事情の下で,被控訴人が控訴人の
メンタルヘルスの異常を疑い,控訴人に対して医療機関の診察を命じる等
の措置をとる義務があったとは到底いえない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の請求のうち,判決確定後においても被控訴人がなお給
与及び賞与を支払わないと認めるに足りる事実はないから,判決確定後の給
与,賞与を求める請求は「あらかじめその請求をする必要がある場合」に該
当しないから不適法として却下するべきであるが,その余の控訴人の本件請
求は理由があると判断する。
その理由は,次のとおりである。
2判断の前提となる事実
原判決「事実及び理由」中の第3の1に説示されたとおりであるから,これ
を引用する。
3控訴人が被控訴人に申告した被害事実
(1)4月上旬以降,控訴人が被控訴人に対して申告し,調査を依頼した事実
は,原判決「事実及び理由」中の第2の1(3)に摘示されたとおりであるが,
B部長がした控訴人の周囲の従業員に対する聞取り調査,控訴人が被控訴
人に対して提出したICレコーダに録音したデータのいずれの調査によっ
ても,控訴人が申告した被害事実は確認されていない。そして,甲19に
よれば,倫理委員会調査チームの調査によっても控訴人が申告した被害事
実は確認されず,6月17日には追加の再調査がされないことが決定され
た。甲15の2によれば,1月30日に控訴人が被控訴人のF事務所3階
で録音したデータも録音状態が悪く,単純に音声を聞いただけでは発言内
容の確認が困難であったことは,控訴人自身が認めている。したがって,
本件においては,控訴人が申告した被害事実を認めるに足りる証拠はない
ということができる。
(2)控訴人は,本件被害事実への対応,調査を進めるとして,4月8日以降,
有給休暇を取得して出社しなくなったが,乙14によれば,控訴人は,同
日,控訴人の上司であるAマネージャーらに対して,「ストーカーの件で
いい加減頭にきたので,警察に行ってきます。能力の及ぶ限り,全力で復
讐してやります。しばらく有給休暇が続く限り休みます。内部告発も含ま
れるので,そのまま退職するかもしれません。警察の事情聴取がそちらに
伺ったら,よろしくお願いいたします」というメールを送信している。
また,証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,上司に対し,
4月上旬ころから,社外(メイド喫茶)でのトラブルを原因とした主とし
て社外(自宅)におけるストーカー被害を受けている「疑い」があると述
べていたが,同月8日,控訴人の上司は,控訴人に連絡がつかないため,
被控訴人のEHS(環境・衛生・安全部門)のマネージャーであるDに相
談したところ,Dは,午後6時30分ころ,控訴人の実家に連絡して,午
後7時30分ころまで控訴人の母や兄と話し,ストーカー被害を相談する
のであれば控訴人自宅所在地のG警察署である旨,ストーカー被害により
精神的に追いつめられているのであれば,区民相談という形で保健師のア
ドバイスも受けられる旨を伝えたことが認められる。
(3)控訴人が被控訴人に申告した被害事実は,αにある某メイド喫茶のウェ
イトレスとの間のいざこざがきっかけで,加害者集団が雇った専門業者,
協力者らによる控訴人に対する盗撮・盗聴・つけ回しが始まって,情報が
控訴人の見えないところで加害者集団により共有され,加害者集団は,控
訴人の上司や同僚を強迫したり,欺罔することにより,約10名ほどの被
控訴人社員を使って,控訴人に対して仄めかし等による嫌がらせをしたな
どというものであるが,6月3日の時点では,被控訴人の調査によっても,
控訴人が申告したこれらの被害事実はなかったという結論に至っており,
控訴人が被控訴人に申告した被害事実(乙2)中には,「1月28日,問
題を解決すべく,自宅にあるであろう盗撮カメラに向かって,刑事告訴す
るぞと加害者を脅迫」などという記載があること,上記(2)の事実,控訴人
がB部長から控訴人の申告した被害事実は調査の結果存在しなかったと説
明されてもなお被害事実に固執していたこと,控訴人は,有給休暇を消化
した6月4日以後,有給休暇をすべて消化した事実を知りながらAマネー
ジャーからの数度の出社要請にもかかわらず,上記被害事実の存在に固執
して被控訴人に出社してこなかったことなども考慮すれば,被控訴人にお
いて,控訴人の申告した被害事実は,控訴人の被害妄想など何らかの精神
的な不調に基づくものではないかとの疑いを抱くことができたと認められ
る。被控訴人は,精神疾患がなくとも他人の発言や態度の趣旨を誤認して,
悪意をもって扱われているとか,いじめられていると誤解するということ
は十分にあり得ると主張するが,上記控訴人の申告した被害事実の内容等
に照らすと,他人の発言や態度の趣旨を誤認したということだけでは説明
できない事実が含まれており,被控訴人の主張を採用することはできない。
4被控訴人の対応
(1)控訴人が,4月8日に有給休暇を取得して以降,同月22日には,有給
休暇が残り少なくなって休職の特例を認めるよう被控訴人に依頼してきた
ことに対し,被控訴人は,同月30日,休職を許可することはできないと
対応した。
(2)5月9日からは,AマネージャーからB部長に控訴人の問題が引き継が
れ,控訴人は,同月14日,B部長に対し,控訴人が申告した被害事実の
調査と休職の特例を認めるよう依頼したが,同月30日,B部長は,控訴
人に対し,申告された被害事実は存在せず,休職の特例は認められないと
回答した。
(3)控訴人の有給休暇は,6月3日までであったが,同日,B部長は,控訴
人に対し,電話で,控訴人が申告した被害事実は確認できない旨伝えたほ
か,証拠(甲7の1・2)によれば,B部長は,控訴人に対し,次のよう
な対応をした事実を認めることができる。
控訴人からの,欠勤となるのは嫌なので,犯罪被害に対しては休職として
認めて欲しいとか,正式に休職届を出せばいいのか,休職を申請する場合,
ContactHRに出せばいいんですねなどの問いに対して,B部長は,
直接回答しなかったり,私は別にお勧めしていない,必要ないと担当人事
としては思いますなどと回答している。
調査の結果が出るまでの人事上の取扱いを尋ねる控訴人に対し,欠勤にな
る理由が見当たらないので,会社としては就業についてくださいというこ
とですなどと回答し,控訴人から,出勤しなければ,無断欠勤として扱う
ことかなどの問いに対しては,違います,何でそういう話になる方向に持
っていくんですかなどと回答している。
そうすると,被控訴人は,約2か月間に及ぶ有給休暇を消化した後も申告
した被害事実に固執し,出勤しようとしなかった控訴人に対し,休職の申
請についての質問に対して明確な回答をしていないばかりか,勧めていな
いとか必要ないなどと対応しており,被控訴人が休職を認めない状況のま
まで欠勤を継続すれば,どのような不利益な取扱いがあるのかなどの説明
もしていなかった。
上記のような対応をしたことについて,B部長は,陳述書(乙7),証人
尋問において,電話で話をする目的は,調査結果を伝え,出社を促すこと
のみに絞っており,それ以外の,例えば出社しない場合の処分等について
は一切触れるつもりがありませんでしたなどと述べているが,B部長は,
控訴人が上記電話において解雇や処分を気にしていたことを認めているの
であり,従業員にとって,解雇や処分は重要な関心事であるから,解雇や
処分に対する説明をするべきであったということができる。
控訴人は,就業規則63条で定める「就業報告書」による欠勤の届出をし
ていないが,処分をちらつかせて就業させても不安を感じたままでは気持
ちよく就業してもらうことは困難であるというB部長の意図があったにせ
よ,休職申請を出そうとしている控訴人に対して,休職に関する直接の回
答を避け,無断欠勤の話をしているのではないなどと休職についての問題
を回避するような対応は,欠勤あるいは休職についてどのような手続を履
践すればよいのかを控訴人に対しあいまいなままにしていたということが
できる。
控訴人は,6月3日,人事部門に対して,本問題の解決まで特例の休職を
申請するので承認するよう依頼している(甲14)が,このことは,休職
に当たってどのような手続をとる必要があったのかについて,B部長から
明確な回答がなかったために控訴人がとった対応だったということができ
る。また,被控訴人は,甲14において,6月3日に控訴人が特例の休職
を申請し,7月1日に控訴人が欠勤とせざるを得ない状況を承知するまで,
特別の理由による休職は認められないとの回答を繰り返しているが,控訴
人が欠勤することについて,就業規則63条の就業報告書による届出が必
要なことは教示していない。
(4)E本部長は,7月25日,控訴人に対し,控訴人が6月上旬以降,勤務
を放棄し,欠勤していること,理由なき欠勤が更に続くと最悪の事態を招
くことにもなるので,被控訴人として,直ちに出社し就業するよう命ずる
旨の連絡メールを出した。これに対し,控訴人は,同日,E本部長に対し,
控訴人は理由なき欠勤をしていないなどE本部長が連絡してきた内容には
異議があり,他部署への異動を検討して欲しいなどの回答をした。しかし,
同月30日,E本部長から,控訴人が申告していた事実はなく,被控訴人
は控訴人の理由なき欠勤が長期にわたり発生し,かつ,継続しているもの
と理解する,存在しない事実を理由とした異動の検討は行わない,速やか
に出社・就業するよう要請するとの連絡を受けると,これに応じて,同月
31日から出社した。
5本件処分について
証拠(甲3,乙9)によれば,本件処分は,控訴人が就業規則51条(欠勤
多くして,正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶとき)に該
当することを理由にされた処分であるが,被控訴人は,控訴人の行為が無断
欠勤に該当し,欠勤を正当化する事由はなく,正当な理由のない欠勤は事前
連絡の有無に関わらず許容されていないなどと主張する。
控訴人は,6月3日に有給休暇をすべて消化した後,被控訴人が主張する
「就業報告書」による欠勤届を出していない。
ところで,被控訴人の就業規則63条では,「傷病その他やむを得ない理由
で欠勤するときは,あらかじめ就業報告書により,その理由および見込日数
を届け出なければならず,やむを得ない理由により事前の届出ができない場
合は,すみやかに適宜の方法で欠勤の旨を所属長に連絡するとともに,その
後遅滞なく所定の手続きをとらなければならない」ことになっている。
控訴人が欠勤を継続したのは,上記説示のとおり,控訴人の被害妄想など何
らかの精神的な不調に基づくものであったということができるから,控訴人
は,上記就業規則の「傷病その他やむを得ない理由」によって欠勤すること
が可能であったということができる。そして,控訴人が,B部長から調査を
しても被害事実はなかったとの説明を受けながらこれに納得せず,倫理委員
会調査チームに更なる調査を依頼して調査の継続を求めていたことからすれ
ば,控訴人には,被控訴人に申告した被害事実が,自己の精神的な不調に基
づく被害妄想であるなどという意識はなかったということができ,控訴人の
それまでの状況からすれば,被控訴人も,控訴人が申告した被害事実につい
て,控訴人がこれを自己の精神的な不調に基づく被害妄想であるという意識
を有していないことを認識していたということができる。B部長が,被害事
実に固執し,休職しようとしていた控訴人に対し,休職の申請についての質
問に対して明確な回答をしていないばかりか,勧めていないとか必要ないな
どと対応していたことなどを考慮すれば,控訴人が上記就業規則63条によ
り,病気を理由として欠勤を事前に届け出ることは期待することができず,
前示の事情の下では,上記就業規則63条の「やむを得ない理由により事前
の届出ができない場合」に該当するということができる。さらに,控訴人は,
B部長に対して休職届を出す方法を尋ね,調査結果が出るまでは欠勤を継続
する意思を示し,6月4日には,被控訴人の人事部門に対して本問題の解決
まで特例の休職を申請するなどしていることなどを考慮すると,「適宜の方
法で欠勤の旨を所属長に連絡」したものと認めることができる。したがって,
控訴人が有給休暇を消化した後に,申告した被害事実を理由に欠勤を継続し
たからといって,直ちに正当な理由のない欠勤に該当するということができ
ず,これを無断欠勤として取り扱うのは相当でない。
6月3日の控訴人の電話に対するB部長の対応も,控訴人が申告した被害事
実は認められないことと,控訴人に出社を要請するにとどまり,控訴人から
の休職願いをどのように出したら良いかとか無断欠勤になるのかなどの質問
に対しては明確な回答をしておらず,有給休暇消化後に無断欠勤を継続する
ことは懲戒処分の対象になることなど,控訴人にどのような不利益が及ぶ可
能性があるのかを説明していない。上記就業規則63条には事前の届出がで
きない場合は,「その後遅滞なく所定の手続きをとらなければならない」こ
とになっているが,その手続について控訴人に対する説明はなかった。控訴
人は,E本部長が,同年7月25日に出した出勤命令に対しては異議を述べ
ながらも同月31日にはこれに応じて出社しているのであるから,控訴人の
欠勤に対して,精神的な不調が疑われるのであれば,本人あるいは家族,被
控訴人のEHS(環境・衛生・安全部門)を通した職場復帰へ向けての働き
かけや精神的な不調を回復するまでの休職を促すことが考えられたし,精神
的な不調がなかったとすれば,控訴人が欠勤を長期間継続した場合には,無
断欠勤となり,就業規則による懲戒処分の対象となることなどの不利益を控
訴人に告知する等の対応を被控訴人がしておれば,6月4日から7月31日
まで約40日間,控訴人が欠勤を継続することはなかったものと認められる。
そうすると,被控訴人が本件処分の理由としている懲戒事由(無断欠勤,欠
勤を正当化する事由がない)を認めることはできず,本件処分は無効と言う
べきである。
第4結論
以上判示したところによると,原判決は,相当でないから,変更することとし
て,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官岡久幸治
裁判官三代川俊一郎
裁判官小野洋一

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その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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