弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件請求を棄却する。
         理    由
 本件請求の趣旨は、「請求人に対し金六二七万九、九四〇円を交付する。」との
裁判を求めるというのであるが、その理由として述べるところの要旨は概ね以下の
とおりである。すなわち、請求人は、傷害被告事件(東京地方裁判所昭和四七年刑
(わ)第七三四五号、東京高等裁判所昭和五〇年(う)第四六〇号、最高裁判所昭
和五二年(あ)第一三五三号)の被告人であつた者であるが、昭和五二年六月一四
日東京高等裁判所において公訴棄却の判決を受け、同判決は検察官の上告が棄却さ
れたことにより昭和五五年一二月二〇日確定した。ところで、刑訴法一八八条の二
第一項本文は、「無罪の判決が確定したときは、国は、当該事件の被告人であつた
者に対し、その裁判に要した費用の補償をする。」と規定し、費用補償を請求でき
るのは「無罪の判決が確定したとき」とされているけれども、そもそも刑訴法一八
八条の二以下に規定されている費用補償制度の趣旨は、要するに、結果的にその者
が不当な公訴の提起を受けたことが確定した場合にはその者が応訴を余儀なくされ
たことによつて生じた財産上の損害を国で補償することとするのが公平の精神に合
致するということにあるのであるから、かかる制度の趣旨に照らすと、費用補償の
要件を単に無罪の場合のみに厳格に限定して解釈すべきではなく、公平の見地から
実質的に無罪と同視できる場合には可能な限り補償を認めるように解するのが相当
である。ところで、本件は公訴棄却の判決によつて終局した事案ではあるけれども
講求人は検察官の不当な公訴提起により応訴を余儀なくされ、実体審理を尽くした
うえで公訴権濫用による公訴棄却の判決が確定したものであるから、前記費用補償
制度の趣旨に照らして、本件の事案は費用の補償については無罪と同視されて然る
べきものと考える。もつとも、右制度に関する立法時の政府関係者の説明による
と、無罪の裁判を受けた場合に限つて補償することにしたものであつて、免訴ある
いは公訴棄却の裁判等で事件が終了した場合については補償は行われない(第七七
回国会衆議院法務委員会議録第七号参照)というのであるが、その理由とするとこ
ろは、免訴あるいは公訴棄却の場合には補償を行うのが相当でない場合があるこ
と、また、刑事補償法二五条と同一の要件すなわち「もし免訴又は公訴棄却の裁判
をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事
由があるとき」という要件で補償するとした場合、実体審理をせずにいわば門前払
で訴訟が終了したのに、費用補償をするか否かの目的のためだけに改めて有罪か無
罪かの実体審理を決定手続ですることは適当でないことにあるというのであつて、
本件の如く、実体審理を尽くしたうえでの公訴棄却がありうる、ことなど全く想定
されていなかつたことが明らかである。ところが本件の場合は改めて決定手続にお
いて実体審理を行うという不都合はないのであるから、このような場合についてま
で費用の補償をしないというのが立法の趣旨であるとは解せられない。また、本件
上告審決定は、検察官の上告を棄却しながら、その理由中において原審の公訴棄却
判決は失当であると述べる部分もあるが、結論において原審の公訴棄却判決を維持
してこれを確定させているのであつて、実体審理を尽くした末に結局有罪にならな
かつたという事実に変わりはないのであるから、上告審決定の理由中の右の部分
は、直ちに費用補償を否定する理由にはなりえないものというべきである。そし
て、請求人が本件審理に要した費用は、別紙(一)の計算書に、その内訳は別紙
(二)ないし(五)にそれぞれ記載したとおりであつて、その合計は金六二七万
九、九四〇円であるから、請求人に対し右金員を交付するとの裁判を求める、とい
うのである。
 よつて考察するのに、刑訴法一八八条の二から一八八条の七までの六か条の規定
からなる同法第一編第一六章の費用補償の制度は、昭和五一年法律第二三号による
刑訴法の一部改正法律によつて新たに加えられたものであるが、右一連の規定中国
が費用を補償する場合の要件を定めた同法一八八条の二第一項本文には、「無罪の
判決が確定したときは、国は、当該事件の被告人であつた者に対し、その裁判に要
した費用の補償をする。」とあり、従つて、右の制度によつて費用補償が認められ
るのは、無罪の判決が確定した場合であることは、右法文の文理及び費用補償に関
する右関係規定中には、刑事補償法二五条のような、免訴や公訴棄却の裁判をすべ
き事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があ
るときは補償を請求できる旨の規定が置かれていないことに照らして明らかという
べきである。それ故、本件の事案のように公訴棄却の判決が確定した場合は費用補
償の対象には該らないといわなければならない。もつとも、これに対して、所論
は、本件の事案が無罪判決の確定した場合ではなく、公訴棄却の判決が確定した場
合であることは事実であるけれども、右判決は実体審理を尽くしたうえでなされた
ものであつて、実体審理をしないで公訴棄却の判決がなされた場合とは異なり、費
用補償の目的のために改めて有罪か無罪かを究明する実体審理を行う必要はないの
であり、しかも、右公訴棄却の判決が公訴権の濫用を理由とするものであることを
考え合わせれば尚更、本件の事案については、制度の趣旨に従い、無罪の判決が確
定した場合に準じて費用補償の対象となると解すべきであ<要旨>る、と主張するの
であるが、凡そ費用補償の制度を設けるか否かは、憲法に根拠規定を有する抑留、
拘禁に対する刑事補償の場合とは異なり、費用補償の制度を設けた場合の補
償の範囲とともに、全く立法の裁量に委ねられている事項であり、かつ、右関係法
律に関する国会審議の経過に徴しても、これらの法律ほ無罪の裁判が確定した場合
に限つて補償することにし、免訴や公訴棄却の裁判等で事件が終了した場合につい
ては、一律に補償は行わない趣旨で制定されたものであつて、このように免訴や公
訴棄却の裁判等で事件が終了した場合を費用補償の対象に含めなかつた事情につい
ては、これらの場合には事件の実体について審理をしないで判決がなされるのが通
常であり、補償するかしないかを決める目的だけのために、しかも決定手続によつ
て、有罪か無罪かを究明すべく更に実体審理を行うことは技術的にも大変困難であ
り、また、適当でもないと考えられたため、結局免訴や公訴棄却の裁判等で事件が
終局した場合はすべて費用補償の対象としないという趣旨で制定されたものである
ことが認められるのであつて、たとえ本件の事案については、所論のいうように、
既に実体審理が尽くされていて、有罪か無罪かを究明するために更に実体審理を行
う必要がなく、かつ、公訴権濫用を理由として公訴棄却の判決がなされたものであ
つても、公訴棄却の判決の確定により終局した事案である以上、刑訴法一八八条の
二以下の規定する費用補償の対象には含まれないと解せざるをえない。それ故、本
件請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。
 よつて、刑訴法一八八条の七、刑事補償法一六条後段により本件請求を棄却する
こととして、主文のとおり決定をする。
 (裁判長裁判官 四ツ谷巌 裁判官 高橋省吾 裁判官 仙波厚)
別 紙 (一)
<記載内容は末尾1添付>
別 紙 (二)
<記載内容は末尾2添付>
別 紙 (三)
<記載内容は末尾3添付>
別 紙 (四)
<記載内容は末尾4添付>
別 紙 (五)
<記載内容は末尾5添付>

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