弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決をとりけす。
     被控訴人は、控訴人から金七千九百六十八万三千百四十三円の支払をう
けるとひきかえに、控訴人にたいして別紙目録記載の土地および建物について、昭
和二十五年十一月八日附売買による所有権移転登記手続をし、かつ、みぎ物件をひ
きわたすべし。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、原判決をとりけす、被控訴人は控訴人から金七千九百六十八万三
千百四十三円をうけとるとひきかえに、控訴人にたいし、別紙目録記載の土地およ
び建物につき、昭和二十五年十一月八日附売買による所有権移転の登記手続をな
し、かつ、みぎ物件を引渡すべし、以上の請求が理由のない場合は、被控訴人は控
訴人にたいし金千七百七十一万三千円、およびこれにたいする昭和三十一年三月一
日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決、なお物件の引渡、金銭の支払を求め
る部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決をもとめた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は後記のとおり附加するほ
か原判決の事実らんにしるすところと同じ(ただし判決二枚目(判決原本について
いう、以下同じ)裏後から三行目「賠償機」とあるのは「賠償機械」と、同八枚目
裏後から三行目「賠償保全」とあるのは「賠償機械の保全」と、同十一枚目裏六行
目「法律上及び事務上」とあるのは「法律上及び事実上」と、同十三枚目表六行目
「払下再審請」とあるのは「払下再申請」と、同十三枚目裏後から三行目「万全を
期する」とあるのは「万全を期するため」と、同十四枚目表、後から五行目「求
め」とあるのは「求める」とそれぞれ訂正する)であるからこれを引用する。
 (控訴人の主張)
 控訴人は、予備的請求の原因について、次のとおり主張を明確にする。
 一、 被控訴人国が本件売払契約の解除を強行した理由は、本件物件を駐留軍宿
舎として提供するがためであつて、分納代金の支払遅滞という契約解除の理由は、
これをカムフラアジするための単なる一口実に過ぎないものである。
 被控訴人は、本件売払契約が有効に存続中なるに拘らず、信義に反し、秘かにこ
れを駐留軍宿舎として提供することを劃策し、よつてその有力なる候補物件として
建物リストに掲上し提出した。この行為は、被控訴人が自ら、本件売払契約を無視
し、これを破棄しようとの意図を外部に表示したものであつて、極めて注目に値す
る事実である。
 被控訴人は、控訴人協会をして本件払下再申請を断念せしめる代償として「協会
の今日までの所要経費は別途を以て補償救済する」旨確約したが、これは、被控訴
人が上記行為の不当性を自ら承認して、これに対する補償救済を為さんとしたもの
である。
 当時、A大蔵大臣が協会の右損失を補償救済する目的を以て主計局長B及び防衛
分担金担当の主計局次長Cの両氏を大臣室に招致し協議した事実、その結果、国の
予算として支出するとすれば、協会の手になる設計図その他の有益費に限られ、多
くを望めないので、協会の満足するところとはならないだろうという事情から、更
に建設省当局と補償方法につき種々接衝を遂げた事実は、甲第九号証の一、二の書
簡及び証人Dの証言並びに甲第四号証強制調停決定書の各記載によつて明瞭であつ
て、大蔵当局によつてかかる異例の措置が採られた所以は、勿論単なる同情により
発したものではなく、当該国家機関において、本件売払契約の解除を強行し、協会
をして遂に本件払下を断念せしめることが如何にも不当である、国として何等かの
形においてこれを補償すべきである、との良識ある判断より出でたものと見るべき
であつて、被控訴人が、協会の所要経費を補償するのは当然の義務であるといわな
ければならない。
 しかして、控訴人は、本件物件を改造して住宅一千二百戸収容人員六千人という
一大庶民住宅を建造するという一大創意着眼を以て、この目的達成を唯一の存立目
的として設立されたものであつて、昭和二十五年七月協会設立より昭和二十七年七
月本件払下再申請を断念するに至るまでその間に、協会が支出した経費の総額は合
計金一千七百七十一万三千円であり、右事実は甲第二十三号証収支元帳の記載及び
証人E、同Fの各証言によつて極めて明瞭である。
 よつて控訴人は前記損失補償契約に基いて被控訴人に対し右金員の支払を求める
ものである。
 二、 仮りに、以上の主張が理由がないとしても、控訴人は、昭和二十五年八月
一日より同年十一月八日本件売払契約締結に至るまで国有財産たる本件売払物件の
管理をなし、その間においてその事務管理のため金四十三万円を支出した。即ち、
当時本件物件について売払契約は未だ締結に至らなかつたが、本件売払物件現場に
紛失事件が頻発したので、控訴人は関東財務局と相談の結果、その指示に従い、こ
れを防止するため、協会はG外三名の職員を関東財務局立川出張所の嘱託名義を以
て本件現場に派遣し、常時物件の監視に任ぜしめると同時に、現場は賠償機械の存
置場所を除いて殆ど爆撃の被害を受けて六棟の建物をつなぐ連絡通路さへなく、通
行透視に危険困難を伴う状態であつたので、人夫を使用する等して応急の妨害物の
除去等の清掃取片附け作業を実施したのである。これがため、監視人たる協会職員
の俸給十八万円及び清掃費二十万二千円及び清掃用器具、懐中電燈等雑費四万八千
円合計四十三万円を支出したのであつて、右事実は甲第二十三号証収支元帳の記載
及び証人E並びに同Fの各証言によつて明瞭である。
 しかして右事務管理のため支出した費用は、国有財産の滅失毀損を防止し、よつ
て国の財産を保全するために有益に支出された費用であるから、被控訴人に対し右
金員の償還を求める。
 三、 次に控訴人は昭和二十五年十一月八日関東財務局との間に本件売払契約を
締結したのであるが、同契約第十一条に「売払物件内の賠償機械は甲及び現管理人
と協議し管理保全に万全を期すると共に機械の移転その他の一切については乙の負
担とする」との条項があつたので、愈々現場管理を徹底し、管理保全に万全を期さ
なければならないと考え、本件物件内に(イ)事務所を設置し(電話も架設した)
(ロ)職員六名を常時配置し(ハ)人夫を使用して本件売払物件の紛失防止のため
監視及びコンクリート破片の取片附け清掃等及び(ニ)専門業者に依頼して本件建
物の内外に散在したスクラツプを一定場所に集積せしめ、リストを作つてこれを点
検して管理する等、本件売払物件の管理保全のため昭和二十五年十一月八日本件売
払契約締結日より昭和二十七年二月十日頃契約解除通知了知の日まで約十五ケ月間
に亘つて、(イ)事務所費として金二十二万一千二百円(ロ)職員六人の俸給金百
三十五万円(ハ)清掃費七十一万円及び(ニ)業者による清掃請負費用金五十万円
合計金二百七十八万一千二百円を支出したものであつて、右事実は甲第二十三号証
収支元帳及び甲第八号証の一、二の各記載及び証人E並びに同Fの各証言によつて
明瞭である。
 控訴人は、以上のように、本件契約締結以前より本件物件の管理を行い、本件契
約締結後においては、契約書第十一条の規定する管理義務を誠実に実行するため、
前記のように多額の費用を支出して管理を継続して来たのである。若し本件物件の
引渡以前においては(契約書第四条によつて第一回分納金納入の時)第十一条の管
理義務は発生しないものと解すれば、控訴人は義務なくして本件売払物件の管理を
行つたものであり、控訴人が支出した事務管理費用は有益費用として当然国に対し
償還請求が出来る筈のものである。
 仮りに然らずとしても、控訴人が前記の如く多額の費用を支出して本件物件の管
理を行つたので、被控訴人は国有財産の滅失毀損を防止し且つ良好な状態において
これを管理するに必要なる出費を免れたものであるから、被控訴人は控訴人の損失
において右金額に相当する利得を得たものというべく、よつて被控訴人に対しその
返還を求める。
 四、 最後に、被控訴人が本件物件を現在の米駐留軍宿舎として改造建設するに
ついて、控訴人が訴外長建設株式会社に依頼して約二ケ年の長期に亘つて作成完成
した本件物件の住宅改造に必要不可欠なる建築設計図を、国が利用し、短期間内に
現在のような駐留軍宿舎を完成したのであつて、右事実は、甲七号証ノ一工事設計
料及び証人H同Fの各証言によつて明瞭である。
 若し国が右設計図を利用することなく、全く新規に設計を行つたとすれば、少く
とも右設計料に相当する金六百万円以上の出費は当然必要とした筈であつて、被控
訴人は控訴人の右建築設計図を利用することによつて右金額相当の出費を免れたも
のであるから、被控訴人は控訴人の右財産によつて不当に利得した金六百万円の利
益を返還しなければならない。
 (被控訴人の主張)
 被控訴人は、控訴人のみぎ主張に対して次のとおり陳述する。
 一、 第一項について
 (1) 控訴人は、被控訴人が契約解除をした理由は本件物件を駐留軍宿舎とし
て提供するためであつたと主張されるが、これを否認する。
 被控訴人が本件物件を駐留軍宿舎として米軍に提供したことは争はないが、関東
財務局が控訴人に対し契約解除の通知を発送した頃には、駐留軍宿舎として米軍に
提供することは全然関知していなかつたものである。
 なお、関東財務局長が控訴人に対し再払下の申請に応じられない旨を回答したの
は、甲第十三号証によるもので、すなわち、昭和二十七年十二月十八日のことであ
り、日米合同委員会において本件物件を駐留軍宿舎として使用することに決定をみ
たのは、翌昭和二十八年八月四日である。
 関東財務局長のなした契約解除は、何等信義に反するものでない。
 (2) 控訴人は、被控訴人において控訴人に対し別途補償救済する旨を確約し
たと主張されるが、これを否認する。被控訴人は、控訴人に対し補償の義務はな
く、また、義務あることを認めたこともない。なお、この点に関する控訴人のその
余の主張事実は、従前答弁したもののほかは知らない。 二、 第二項について
 控訴人が昭和二十五年八月一日から昭和二十五年十一月八日までの間、本件物件
を管理したとの事実は否認する。
 売買契約締結前の右期間においては、被控訴人において控訴人に本件物件を引渡
すはずもなく、また、その事実もないから、この期間において控訴人に事務管理の
生ずる余地はない。
 なお、本件物件は物納によつて国有となつた後右期間の前後を通じ国において管
理し、現実には、通商産業省から旧所有者(物納者)である訴外富士産業株式会社
に管理を依頼し、管理費を支払つていたものであるから、控訴人において管理する
ことはあり得ないものである。
 その余の控訴人主張の事実は知らない。なお、G外三名を嘱託した事実はない。
 三、 第三項について
 控訴人は、昭和二十五年十一月八日から昭和二十七年二月十日頃まで本件物件を
管理したと主張されるがこれを否認する。
 控訴人において管理した事実のないことは前項において述べたところと同様であ
る。控訴人は、売買契約第十一条によつて管理したと主張されるが、本件物件は、
第一回の分納金を納付した日をもつて、別に何等の手続を用いず引き渡したものと
することになつており、(契約第四条、甲第一号証御参照)それ以前において引渡
はなく、契約第十一条は、引渡後の賠償機械の管理に関する規定であつて本件物件
(土地、建物)の管理に関する規定でないことは明瞭である。本件物件は、賠償指
定地域であつたため、一般には立入が禁止されていたもので、控訴人協会の職員等
が許可を受けて地域内に立入つたことはあり、金融の便をはかるため、すなわち出
資者等を案内した際多少は綺麗にみせたいから清掃させて貰いたいとの申入を容れ
たことはあるが、これに基いて控訴人において地域内を清掃しても、何等事務管理
となるものではなく、また、清掃等によつて被控訴人に何等利得を生じたものでも
ないから、被控訴人には不当利得の返還の義務もない。
 控訴人主張のその余の事実は知らない。
 なお、控訴人は、昭和三十一年二月二十五日付「請求並に請求原因変更の申立」
書中において、控訴協会自体の経費として四、五〇四、四〇〇円を要したと主張
し、右金額についても事務管理乃至不当利得の成立を主張しておられるが、控訴協
会において右金額を協会費として支出した事実は知らない。協会自体の経費の如き
は、事務管理としても、また不当利得としても、被控訴人に返還を求めることはで
きないと考える。
 四、 第四項について
 控訴人は、設計費用六、〇〇〇、〇〇〇円を不当利得として主張されているが、
控訴人において設計費用六、〇〇〇、〇〇〇円を支出したかどうかは知らない。仮
りに右金額を支出したとしても、被控訴人は、控訴人主張の設計図を利用したこと
はないから、不当利得返還の義務はない。すなわち、被控訴人は、控訴人主張の設
計図とは別途に長建設株式会社に対し調査を依頼し、これに対し費用を支払つてい
るものである(証人Hの証言、御参照)。
 (証 拠)
 控訴代理人は甲第十三ないし二十二号証、第二十三号証の一、二、第二十四号証
の一ないし十、第二十五、二十六号証を提出し、当審証人F(第一、二回)、I、
J、H、K、Dの各証言を援用した。
 被控訴代理人は甲第十三号証、第二十六号証の各成立を認め、その他の甲号証は
いずれも不知と答えた。
         理    由
 別紙目録記載の土地、建物はもと中島飛行機株式会社L製作所工場およびその敷
地で終戦後まもなく富士産業株式会社から大蔵省え物納せられ国有財産となつたも
のであること、控訴人は戦後の深刻な住宅難緩和のため耐震耐火の文化住宅の建設
を目的として昭和二十五年七月設立せられた財団法人であるところ、みぎ目的達成
のため前記もと中島飛行機L製作所工場を更生活用して耐震耐火の理想的大庶民住
宅(建設住宅一二〇〇戸、収容人員六〇〇〇人)となすべく計画し、同年十一月八
日関東財務局長との間に国有財産であるみぎ工場および敷地について別紙甲第一号
証契約書写記載のとおりの売払契約を締結したこと、および控訴人は昭和二十七年
二月七日当時の帝国銀行(現三井銀行)本店国庫代理店にみぎ売買代金の第一回分
納金千九百六十八万三千百四十三円および延滞利子金五万七千六百九十八円を納入
したところ、関東財務局は前記契約はすでに解除されたことを理由にその受入を拒
否し、返戻の処置をしたことはいずれも当事者間に争いないところである。
 しかして原本の存在およびその成立に争ない甲第一号証、成立に争ない乙第一な
いし四号証、同第六および七号証の各一、二、原審証人Mの証言により成立を認め
得る乙第八号証の一、二に、原審証人N、O、Mの各証言、原審における控訴人代
表者P本人尋問の結果および本件における当事者双方の弁論の全趣旨をあわせる
と、控訴人は被控訴人から買受代金中第一回の分納金千九百六十八万三千百四十三
円について納入期を昭和二十六年二月二十日と指定する納入告知を受けたが、この
期日にみぎ分納金を納入せず、第二回の分納金千万円の納入期日たる同年三月三十
一日もなんら代金の支払をしないままで過ぎた。そのうち同年十月二十五日になつ
て控訴人から分納金支払期限の延期を申請したところ、関東財務局においてこれを
容れ同年十一月七日まで第一回および第二回の分納金支払期限をのばし、ただし万
一この期限にも不納入の場合は契約を解除する旨の書面を作成し、同年十月三十日
控訴人に送達した。ところが、控訴人はみぎ期限にも約束の各分納金を支払わなか
つたので関東財務局においては同年十二月二十五日当初の契約条項にもとずき本件
売買契約を解除する旨書面をもつて控訴人に通知をしたところ、控訴人はそれより
以前に中央区ab丁目cの事務所を事実上他に移転していたため、みぎ書面は昭和
二十七年一月八日被控訴人に返戻せられた。関東財務局では控訴人から事務所変更
の届出もないので当時控訴人代表者Pが参議院議員であつたところがら同月十日参
議院議員会館内みぎPあてに、返戻書面をそのまま封じ入れて発送したところ、同
書面はその翌十一日同会館受付係に配達せられ、受付係から庶務係を経てみぎPの
秘書官Qに到達し、同人においてPを代理して受領した。しかしそのころ、Pは地
方遊説に出ており、参議院議員会館にいなかつたため、同人はその通知の内容を知
らず同年二月十日ころにみぎ解除の通知のあつたことを知つた次第である。このよ
うな事実をみとめることができる。
 控訴人は、被控訴人の契約解除の意思表示は原判決事実らん記載の(1)ないし
(6)のような事情のもとになされたものであるから無効であると主張し、契約の
履行として本件の請求をするという。よつて被控訴人がはたして当時行い得べき解
除権を有したかどうかを検討する。
 <要旨>甲第一、二号証と当事者間争ないところをあわせてみると、本件契約には
控訴人がこの契約上の義務を履行しない場合には被控訴人は無条件で契約を
解除することができる旨の約定があるので(甲第一号証契約書第九条)、控訴人が
被控訴人の納入告知書により指定期間内に代金の支払をしないと、ただ、それだけ
ですぐに、被控訴人は解除権を有することになるようにみえる。ところが本件契約
にはなお、売買の目的物である本件物件は、約定の第一回分納金を支払つた日にお
いて別になんらの手続を用いず完全に控訴人にひきわたしたものとし(契約書第四
条)、控訴人はひきわたしをうけた日から一般住宅難緩和の目的で住宅経営をする
という本件売買の目的すなわち甲第一号証契約書にいわゆる「申請の目的」にした
がつて本件物件を使用することという第八条の約定があるのである。前述の控訴人
が本件物件を買い受ける目的、本件物件が国有財産であつて、国は控訴人の公益的
目的達成をたすける趣旨で、本件売買は、いわゆる国有財産を払い下げるものであ
ること、みぎ契約書記載の各約定事項全体を考えあわせると、この第八条による物
件の使用は控訴人にとつて権利であると同時に義務であり、もし控訴人が物件ひき
わたしをうけながら、申請の目的にしたがう使用のために、なんら、ことをはこは
ないとか、他の目的に使用するとかするならば、それは契約書第九条に控訴人が
「本契約の義務を履行しないとき」にあたるものと解せられる。かような条項をも
含む甲第一号証の約定事項全部を統一的に考えると、控訴人がまず第一回分納金の
支払をすますならば被控訴人はただちに目的物件ひきわたし義務を履行すべきもの
と定めるものであるといわなければならない。
 契約当時本件の土地建物内にはずいぶんたくさんのいわゆる賠償機械があつたこ
とは本件の弁論の全趣旨からあきらかであり、甲第一号証契約書の第十一条からみ
ても控訴人が前記「申請の目的一のために本件物件を使用するには、まず、みぎ賠
償機械をどこかえ運びだしてしまわなければならないことは、売主である被控訴人
の担当機関たる関東財務局の係員も、また買主である控訴人の代表者も、ともに、
よくこれを知つていたことであることが認められる。しかし同時に両者とも、賠償
機械の移転はもちろんのこと本件物件を控訴人の占有支配にうつすことが、後にあ
きらかになつたようにきわめて困難であることはつゆ知らず、ひきわたしについて
は前記の契約書第四条で十分と考え、賠償機械はたやすく他え運び去ることができ
るものと考えていたことは、当審証人F(第一、二回)同Iの証言によつてみとめ
られるところであつて、それだからこそ、前記のように、第一回分納金支払と同時
に本件物件は控訴人にひきわたされたこととし、かつ控訴人はひきわたしの日から
「申請の目的」にしたがつて使用すべきことと約定したのであると解せられる。す
なわち本件契約は第一回分納金支払さえすれば控訴人は本件物件を現実にその支配
のもとにおき、すぐにも賠償機械の移転をし「申請の目的」にしたがつて使用する
ための工事にとりかかることができるということを前提としてとりきめられたもの
と認めるのが相当である。
 したがつて本件契約中の被控訴人は控訴人が本件契約の義務を履行しないときは
無条件で契約を解除することができるとの特約(契約書第九条)もまた前述の物件
ひきわたし、使用可能を前提とするものと解せられ、この前提がそなわらないかぎ
り、控訴人が代金を支払わないからといつて被控訴人から無条件に契約を解除する
ことはできないとしなければならない。もしこれを反対に解するならば契約当事者
双方の地位は、はなはだしく、つりあいのとれないものとなり、とくべつの事情の
ないかぎりかような意味の契約をするはずはないというべきであり、本件において
とくべつの事情のあることはみとめられない。前説示のとおり解するのが相当であ
る。
 それならば控訴人が被控訴人の納入告知書に指定された期間内に代金の約定金員
を支払わない場合に、被控訴人は相当期間を定めて支払を催告し、その期間内に支
払がない場合に、被控訴人は民法第五四一条によつて本件契約を解除し得るであろ
うか。もちろんのことであるが、本件物件に関する事情が前記のように、当事者双
方が契約当時信じていたとみとめられるように代金支払あり次第控訴人がたやすく
本件物件を支配し得る状況であるならば控訴人の代金不払があれば民法第五四一条
の適用をみるのであるが事情が全く反対である本件の場合に被控訴人がこのことを
知りながら代金の支払をもとめ、それに応じないからといつて契約を解除するは契
約当事者間の信義に反するそしりをまぬかれない。そればかりではなく、前記諸証
拠および成立に争ない甲第二十六号証によると、本件売買契約はその締結当時の社
会上の急務である住宅難緩和に役立たせるためなされたもので、控訴人の代金調達
は銀行その他の金融機関からの借り入れによることを被控訴人も承知しその予想の
下にことを運んでいたのであること、ところが前記のように賠償機械の存在とその
移動が不可能なため、住宅建設工事着手の見込がたたず、金融機関においても控訴
人にたいする融資をちゅうちょし、したがつて本件第一回分納金の納期も何回か延
期せられていたこと、それが昭和二十六年十月ころになつて右賠償指定解除の見込
が確定的となつたので控訴人の理事者らにおいて金融の方法を得るべく奔走した結
果、昭和二十六年十二月末ころようやく三井不動産株式会社から第一回分納金と遅
延利息金に相当する額の借り入れ方につき承認を得、さらに引き続いて第二回分納
金についても同会社から借り入れることのできる見込がついたこと、本件土地建物
は賠償指定地域として東京都によつて管理せられていたのを昭和二十七年四月二十
八日賠償指定解除となつたことをそれぞれ認めることができる。それならば控訴人
はあくまでも本件住宅建設工事に着手することを熱望し、しばしば第一回分納金支
払の猶予方を懇請し、その調達に誠実に努力もしていたことが明らかであるから、
被控訴人としてはみぎ事情のもとにおいては昭和二十六年十一月七日の第一回の分
納金の納期をさらに延長するについて十分の考慮を払うのが信義誠実の原則上相当
と考えられるのである。ところが被控訴人はその手段を講じないで、かえつて昭和
二十六年八月ころから本件物件を米国駐留軍の宿舎に供するための候補物件として
あげられていたところがらこの要求に応ずるため、控訴人がいまだ前示第一回分納
金の支払をしていないのを、これさいわいとばかり、昭和二十六年十二月二十五日
契約解除の通知を発したものであること、理由のはじめに認定したみぎ解除の通知
送達の経緯、当審証人Fの証言(第一回)、同Iの証言および弁論の全趣旨によつ
て認められるのである。これをくつがえすにたる証拠はない。
 以上の事情をかんがえると、被控訴人の本件契約解除の意思表示は一見控訴人の
代金支払義務不履行にもとづく正当なもののようであるけれども、実は被控訴人
が、控訴人の第一回分納金の支払いあり次第ただちに被控訴人の義務としてなすべ
き本件土地建物の引渡が当時不可能なことを十分知りながらあえてなしたもので、
控訴人の代金納入がおくれたのにつけこみ、これをいいぐさにして、一般民衆の福
祉を目的とするとしてした本件売買契約の趣旨をみずから破つたものといわざるを
得ないのである。すなわちみぎ契約解除の意思表示は民法第一条第二項にしめされ
る信義誠実の原則に反するものであつて、無効のものとなすべきこともちろんであ
る。
 それならば、その他の争点について判断するまでもなく本件売買契約はなお存続
するものとみとめるべきであり、したがつてその履行として被控訴人が本件におい
てもとめる第一次の請求は理由あるものとして認容しなければならない。
 よつて民事訴訟法第三八六条にしたがい原判決をとりけし、主文中物件ひきわた
しの部分について仮執行の宣言をつけることは相当でないとみとめ、この点に関す
る控訴人の申立は却下することとし、なお訴訟費用の負担について同法第九六条、
第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 谷口茂栄 判事 満田文彦)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>
          目  録
 一、東京都武蔵野市d字e附fのg
     宅 地    二三、一八七坪8合
 一、同所hのi所在(家屋番号第七二の二附属建物)
     鉄筋コンクリート造地下室附四階建工場
      建  坪    一〇、一四七坪〇 四勺
      外地階      四、二七八坪一合八勺
      二  階     九、七三六坪五合七勺
      三  階     九、七三六坪五合七勺
      四  階      、八九二坪七合一勺

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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経験不問です。

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写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
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