弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六年に処する。
     原審における未決勾留日数中二百日を刑期に算入する。
         理    由
 検察官竝びに弁護人江島晴夫の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおり
であるから、ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 一、 検察官の論旨第一点(事実誤認の主張)について。
 原判決が所論引用の昭和三十四年九月一日附起訴にかかる本位的訴因の傷害・傷
害致死の公訴事実を排斥して、同傷害ならびに致死は被告人の自動車運転者として
の業務上の注意義務懈怠に基くものであるとする予備<要旨>的訴因の事実を認定し
たことは、原判示判文上明らかである。しかるに、原判決が原判示第二・三の事実
を認定するに引用した各証拠を綜合して考察すれば、原判示A小学校校庭に
おける盆踊り大会終了後被告人が同校庭前国道上から原判示c川橋下まで原判示貨
物自動車を運転して帰ろうと考えた頃には、被告人は既にそれまでの飲酒のため相
当に酔が廻つており、そのことだけでも最早前方注視が覚束ないため正常な運転が
できない虞があつたばかりでなく、前照燈の故障により無燈火で暗夜の道路上を運
転するのであるから、前方注視が殆ど不可能であつて、到底正常な運転ができない
状態であつたため、折柄帰宅の途上にある盆踊り帰りの多数歩行者に自動車を突き
当てて同人等を転倒させたり跳ね飛ばしたりする危険のあることを十分認識しなが
ら、酒の勢に駆られ、そのような結果の発生を何等意に介することなく、敢て原判
示貨物自動車を運転して原判示A小学校前国道上からc川橋方面に向い、その途中
前説示の理由により、正常な運転ができなかつたことから、原判示上B駅北側附近
国道右側を同一方向に歩行していた盆踊り帰りの原判示第二の被害者等に右自動車
を次ぎ次ぎに突き当て、被害者Cを除きその余の者等を附近に転倒させ或るいは跳
ね飛ばし、因つて同人等に原判示第二の各傷害を負わせ、うちD・E・Fの三名を
右傷害により原判示のとおり死亡するに至らしめたものであることが認められる。
かかる事態の推移に鑑みれば、被告人には右運転開始に先立ち、原判示第二の被害
者等に対し自己の運転する貨物自動車を突き当てて同人等を転倒させ或いは跳ね飛
ばすことにつき、いわゆる未必の犯意があつたものと認むべきであるから、被告人
は右暴行と因果関係あることの明らかな原判示第二の傷害或いは死の結果につき傷
害罪或いは傷害致死罪としての刑責を負うものといわなければならない。してみれ
ば、このことを看過して前掲本位的訴因の公訴事実を排斥して、予備的訴因の公訴
事実を認定した原判決は事実の認定を誤つたもので、この誤は判決に影響を及ぼす
ことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由が
ある。
 二、 弁護人の論旨第一点(心神喪失乃至心神耗弱の主張)について。
 原判決が原判示第二・三の犯行当時被告人が心神喪失乃至心神耗弱の状態にあつ
たものと認定しなかつたことは、原判示判文上明らかである。そこで記録に基き検
討するに、被告人が原判示第二のように昭和三十四年八月十四日午後七時頃から午
後八時頃まで飲酒したのち、普通貨物自動車を運転して広島県安佐郡a町b川橋下
の川原を発し、原判示の径路を経て同郡d町A小学校校庭に立寄り、同所で盆踊り
を見物していた頃までの間は、原認定のとおり、被告人の当時の言動や爾後被告人
がそれらの模様を相当具体的に記憶しておるものと認められることなどからして、
心神喪失乃至心神耗弱の状態にあつたものとは認められない。しかし、右盆踊りが
終る直前の頃から盆踊り大会終了後貨物自動車を運転して前記A小学校前国道上を
発し、同国道上をc川橋方面に向い、途中原判示第二の被害者等に右自動車を突き
当てて同人等を転倒させ或いは跳ね飛ばしたりなどしたのち、A小学校前国道上か
ら四百四十米余隔たる進路右側のGブロツク工業所作業場入口附近に衝突して自然
停車するまでの間は、被告人及びRの検察官に対する各供述調書の記載によつて認
められる当時の被告人の言動、精神活動の状況、殊に盆踊りが終り仮装の審査発表
に次いで表彰式が行われている最中にもかかわらず、被告人は会場中央の櫓上で、
他人の迷惑をもかえりみず、太鼓を叩いたり、被表彰者を弥次つたりしたのち、被
告人の連れの者が校庭で地元青年団員と喧嘩を始めた際これを制止し、その場に駆
けつけた巡査に向い馬鹿丁寧に三・四回も御辞儀をして「せわない。この男はわし
が連れて帰る。」と申向けながら、その直後に及んで他人の制止をも聞かず今度は
被告人自身何の原因もないのに右青年団員に喧嘩をしかけて右巡査から校門外に押
し出されるに至つた常軌を逸した行動や、その直後における前方無視の全く無茶苦
茶な運転状況自体等から判断し、且つこれらに原審鑑定人Hの鑑定書の記載を合わ
せ考察すると、被告人は原判示第二の飲酒(殊にA小学校校庭における約四合のひ
や酒)による酩酊のため、元来抑制作用の甚しく乏しい精神薄弱を伴う重篤な犯罪
性性格異常に更に拍車がかけられて製肘作用に著しく障碍をきたし、事の理非善悪
を辨識する能力の点においては兎も角、その辨識に従つて行動する能力が著しく減
退した状態、即ち心神耗弱の状態にあつたものと認めるのが相当である。したがつ
て、このことを看過した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認が
あり、原判決はこの点においても破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて、検察官竝びに弁護人の爾余の各論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟
法第三百九十七条第一項・第三百八十二条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但
書に従い直ちに判決する。
 当裁判所が認定した事実竝びにこれに対する証拠は、原判示第二・三の事実を一
括して、
 被告人は本籍地の新制中学卒業後鳶職或いは自動三輪車の運転手等として働いて
いたが、昭和三十四年五月からは伯父Iの経営する広島県安佐郡a町b川原の土砂
採取現場に赴き積込人夫として働いているうち、負傷したため一旦本籍地に帰り、
治療してから再び右現場に戻つて土砂積込の手伝などをしていたものであるとこ
ろ、同年八月十四日午後七時頃から同町中島J方外一箇所でビール約二合、清酒約
一合二勺を飲んだのち、法令に定められた運転資格もないのに、同夜八時過頃同町
b川橋下の川原に駐車してあつたI所有の普通貨物自動車(広一す三二五九号)を
無断運転して同町eK方に立寄り、同所で濁酒の「うわずみ」約一合を飲み、同夜
九時頃引続き右自動車を運転して大竹市に向う途中広島市f町附近で前照燈が故障
して消えたため已むを得ず同所から引き返し、同郡d町A小学校前国道上まで運転
し、同所に右自動車を一旦駐車して右小学校校庭で催されていた盆踊り大会の見物
に立寄り、その見物をしながら更に清酒約四合を飲み、右大会終了後の翌十五日午
前零時過頃前記Iから自動車を無断で持ち出したことを叱責されることを恐れて、
どうしてもこれを元の場所に戻しておこうとの考えから、その頃は既に前記飲酒の
ため相当に酔が廻り、そのことだけでも最早前方注視が覚束ないため正常な運転が
できない虞があつたばかりでなく、前照燈の故障により無燈火で暗夜の道路上を運
転するのであるから前方注視が殆ど不可能であつて、到底正常な運転ができない状
態であつたため、折柄帰宅の途上にある盆踊り帰りの多数歩行者に自動車を突き当
てて同人等を転倒させ或いは跳ね飛ばす危険のあることを十分認識しながら、酒の
勢に駆られ、そのような結果の発生を何等意に介することなく、敢て前記貨物自動
車を運転して前記A小学校前国道上からc川橋方面に向い、その途中前述の状熊で
正常な運転ができなかつたことにより、折柄同町国鉄上B駅北側附近国道右側を同
一方向に歩行していた盆踊り帰りの別表記載のD外九名に次ぎ次ぎに右自動車を突
き当て、Cを除きその余の者等を附近に転倒させ或いは跳ね飛ばし、因つてD・
E・Fを別表記載の傷害により同表記載の日時場所において死亡させ、L・M・
N・C・O・P・Qに対し別表記載の傷害を負わせたものであつて、被告人は右傷
害・傷害致死竝びに酩酊による無謀操縦の犯行当時心神耗弱の状態にあつた、
 と改め、且つこれに対する証拠として、Rの検察官に対する供述調書、原審第一
回公判調書中被告人の陳述記載を、原判示第一事実に対する証拠として、原審第二
回公判調書中被告人の陳述記載を各加える外、原判決の当該摘示するところと同一
であるから、ここにこれらを引用する。(ここで便宜原判示第一事実を第一とし、
原判示第二・三事実を一括して新たに認定しなおした前判示事実を第二とする。)
 法律に照らすと、被告人の判示各所為中、第一の傷害の点は刑法第二百四条、罰
金等臨時措置法第三条第一項に(懲役刑選択)、第二のうち傷害致死の点は刑法第
二百五条に、傷害の点は同法第二百四条、罰金等臨時措置法第三条第一項に、飲酒
酩酊による無謀操縦の点は道路交通法附則第十四条、道路交通取締法第二十八条第
一号・第七条第一項・第二項第三号に(以上第二の各所為は一個の行為で数個の罪
名に触れる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段・第十条により犯情最も重
いDに対する傷害致死罪の刑に従う。)、無資格運転による無謀操縦の点は道路交
通法附則第十四条・道路交通取締法第二十八条第一号・第七条第一項・第二項第二
号に(懲役刑選択)に各該当するところ、被告人には原判示の前科があるので刑法
第五十六条第一項・第五十七条に則り第一竝びに第二のDに対する傷害致死、無資
格運転による無謀操縦の各罪の刑に(右傷害致死の罪の刑については同法第十四条
の制限内で)再犯の加重をし、うち第三のDに対する傷害致死罪は心神耗弱による
ものであるから同法第三十九条第二項、第六十八条第二号により法律上の減軽を
し、且つ以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文・第十
条に則り最も重い第一の傷害罪の刑に同法第十四条の制限内で法定の加重をした刑
期範囲内において本件の態様・殊に判示第二の犯行による結果の重大性に、この種
交通事犯の一般社会に及ぼす影響等各般の事情を綜合して、被告人を懲役六年に処
することとし、なお同法第二十一条を適用して原審における未決勾留日数中二百日
を右刑期に算入し、原審及び当審の各訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但
書を適用して、被告人にこれを負担させないこととする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡辺雄 裁判官 高橋正男 裁判官 久安弘一)
別 表
<記載内容は末尾1添付>

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