弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人大澤孝征、同近藤文子、同中松村夫、同福嶋弘榮の上告理由第一の一
1について
 自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)七二条一項に定める政府の行う
自動車損害賠償保障事業は、自動車の運行によって生命又は身体を害された者があ
る場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が同法三条の規定
による損害賠償の請求をすることができないときは、政府がその損害をてん補する
ものであるから、同法七二条一項にいう「被害者」とは、保有者に対して損害賠償
の請求をすることができる者をいうと解すべきところ、内縁の配偶者が他方の配偶
者の扶養を受けている場合において、その他方の配偶者が保有者の自動車の運行に
よって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることがで
きた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求すること
ができるものというべきであるから、内縁の配偶者は、同項にいう「被害者」に当
たると解するのが相当である。
 そして、政府が、同項に基づき、保有者の自動車の運行によって死亡した被害者
の相続人の請求により、右死亡による損害をてん補すべき場合において、政府が死
亡被害者の内縁の配偶者にその扶養利益の喪失に相当する額を支払い、その損害を
てん補したときは、右てん補額は相続人にてん補すべき死亡被害者の逸失利益の額
からこれを控除すべきものと解するのが相当である。けだし、死亡被害者の内縁の
配偶者もまた、自賠法七二条一項にいう「被害者」として、政府に対して死亡被害
者の死亡による損害のてん補を請求することができるから、右配偶者に対してされ
た前記損害のてん補は正当であり、また、死亡被害者の逸失利益は同人が死亡しな
かったとすれば得べかりし利益であるところ、死亡被害者の内縁の配偶者の扶養に
要する費用は右利益から支出されるものであるから、死亡被害者の内縁の配偶者の
将来の扶養利益の喪失に相当する額として既に支払われた前記てん補額は、死亡被
害者の逸失利益からこれを控除するのが相当であるからである。
 原審の確定した事実関係によれば、上告人らはいずれも本件交通事故によって死
亡したD(当時満六二歳)の妹であるが、Dには内縁の配偶者Eがおり、同人の生
計は専らDの収入によって維持されていたところ、被上告人は、自賠法七二条一項
に基づき、Eに対して、同人がDの死亡によって喪失した将来の扶養利益に相当す
る額として既に七〇〇万九六三一円(原判決四枚目表に「七〇〇万円」とあるのは
誤記)を支払った、というのであり、以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に
照らして首肯するに足りる。したがって、被上告人がEに対して支払った右てん補
額は、上告人らが請求するDの逸失利益の額からこれを控除すべきである。これと
同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
論旨は、これと異なる見解に立って原判決の違法をいうものであって、採用するこ
とができない。
 同第一の一2について
 所論は、原審の判断を経ていない事項につき原判決の違法をいうものにすぎず、
採用することができない。
 同第一の二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、原審の
専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用すること
ができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎

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