弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人相馬達雄の上告理由について
 原審の認定した事実によれば、(1) 上告人と被上告人は、昭和二四年九月二六
日婚姻の届出をし、昭和二五年二月一二日に長女Dを、昭和二六年八月一〇日に二
女Eを、昭和二八年八月一三日に三女Fを、昭和三〇年一月一二日に四女Gをもう
けた、(2) 上告人は、昭和二五年ころから、次々と他の女性と関係をもち、その
ために夫婦関係に円滑を欠くようになつたが、昭和三一、二年ころからは、清掃業
を営む事務所に寝泊りして自宅に帰らないことが多くなり、被上告人が上告人のも
とへ行つても、何度か追い返すようなことをした、(3) 上告人は、昭和四五、六
年ころから、他の女性と同棲するなどして全く被上告人のところに寄りつかず、被
上告人に対して生活費を渡さなくなり、昭和五〇年ころからは、訴外Hと同棲し、
現在に至つている、(4) 被上告人は、当初上告人に対して女性関係を改めるよう
要求していたが、上告人からの生活費が途絶えたころから上告人との結婚生活を諦
め、自ら上告人と連絡したり、接触することも一切止め、現在は長女Dと同居し、
その扶養を受けて生活している、(5) 上告人は、被上告人と夫婦としての関係を
回復する意思はないとして離婚を望んでいるが、一方、被上告人は、上告人との共
同生活の回復を望む気持は全くないものの、上告人に対する不信感とその意のまま
にされたくないとの気持から、上告人との離婚を拒絶している、というのである。
 原審は、右事実関係の下において、上告人と被上告人との婚姻関係は回復不可能
なまでに破綻しているが、その責任は専ら上告人にあり、しかも、上告人は被上告
人に対し自らの責任を軽減あるいは消失させるに足りる真しな姿勢を示すこともな
く、そのほかその責任を軽減ないし消失させるとみられる事情も認められないので、
上告人からの離婚請求を許すことはできないとして、右請求を棄却した第一審判決
を正当として控訴棄却の判決をした。
 しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。民法七七〇条一項五
号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下
「有責配偶者」という。)からされた場合であつても、夫婦の別居が両当事者の年
齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在
しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷
な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるよ
うな特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であると
の一事をもつて許されないとすることはできないというのが当裁判所の判例である
(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六
号一四二三頁)。前記事実関係の下においては、上告人と被上告人との婚姻につい
ては同号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被
上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約一六年に及び、同居期
間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には
未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、右のような特段の事情がない限り、
これを認容すべきものである。
 したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴
請求を排斥した原判決には民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違
法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄
を免れない。そして、本件については、右特段の事情の有無につき更に審理を尽く
す必要があるうえ、被上告人の申立いかんによつては離婚に伴う財産上の給付の点
についても審理判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に
差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官角田禮次郎の補足意見、裁判官佐藤
哲郎の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官角田禮次郎の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見とその見解を一にするものであるが、離婚給付について、人事訴
訟手続法一五条一項による財産分与の附帯申立は離婚請求をする者においてもする
ことができるとの意見を補足する。その詳細は、多数意見の引用する当裁判所大法
廷判決における補足意見において述べたとおりであるから、これを引用する。
 裁判官佐藤哲郎の意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見の結論には賛成するが、その結論に至る説示には同調することが
できない。
 私は、婚姻関係が破綻した場合においても、その破綻につき専ら又は主として原
因を与えた当事者からされた離婚請求は原則として許されないが、右のような有責
配偶者からされた離婚請求であつても、有責事由が婚姻関係の破綻後に生じたよう
な場合、相手方配偶者側の行為によつて誘発された場合、相手方配偶者に離婚意思
がある場合は、もとより許容されるが、更に、有責配偶者が相手方及び子に対して
精神的、経済的、社会的に相応の償いをし、又は相応の制裁を受容しているのに、
相手方配偶者が報復等のためにのみ離婚を拒絶し、又はそのような意思があるもの
とみなしうる場合など離婚請求を容認しないことが諸般の事情に照らしてかえつて
社会的秩序を歪め、著しく正義衡平、社会的倫理に反する特段の事情のある場合に
は、有責配偶者の過去の責任が阻却され、当該離婚請求を許容するのが相当である
と考える。その理由は、多数意見の引用する当裁判所大法廷判決における意見にお
いて詳述したとおりである。
 原審の認定した事実関係の下においては、上告人と被上告人との婚姻は破綻し、
上告人はその破綻につき専ら原因を与えた有責配偶者というべきであるから、本訴
離婚請求は、前示特段の事情がない限り許されないというべきである。したがつて、
右特段の事情の有無について審理判断しないまま上告人の本訴請求を排斥した原判
決には、民法七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決の結
論に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、右特段の事情
の有無について更に審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻すのを相当と考
える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎

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