弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年6月29日判決言渡
平成22年(行ケ)第10062号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月11日
判決
原告X
訴訟代理人弁護士中村誠一
同近藤誠一
同千川原公一
被告ジャス・インターナショナル株式会社
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2008−301079号事件,取消2008−301080号
事件,取消2008−301082号事件について平成21年10月20日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,別紙「本件各商標目録」記載(1)の登録第2390317号商標
(以下「本件(1)商標」という。),同目録記載(2)の登録第44521
28号商標(以下「本件(2)商標」という。)及び同目録記載(3)の登録
第4643039号商標(以下「本件(3)商標」という。また,本件(1)
ないし(3)商標をまとめて「本件各商標」という。)の商標権者である。
被告は,平成20年8月27日,特許庁に対し,本件各商標につき商標法5
0条1項に基づく不使用による商標登録取消審判(本件(1)商標について取
消2008−301079号事件,本件(2)商標について取消2008−3
01080号事件,本件(3)商標について取消2008−301082号事
件)を請求し(以下,この各請求を「本件各取消審判請求」という。),平成
20年9月11日,その各請求の登録(以下「本件各予告登録」という。)が
された。
特許庁は,審理を併合した上,平成21年10月20日,「登録第2390
317号商標,同第4452128号商標及び同第4643039号商標の商
標登録は取り消す。」との審決をし,その謄本は,同年10月30日,原告に
送達された。
2審決の理由
審決の理由を要約すると,以下のとおりである(別紙審決書写し参照)。
(1)本件各商標の不使用について正当な理由があるとはいえない。すなわ
ち,被請求人(原告)は,①被告が,原告との間で本件各商標以外の商標に
係る専用使用権設定契約(以下「本件専用使用権設定契約」という。)を締結し
ていたから,その間は事実上,本件各商標を自ら使用することができず,ま
た,本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日に終了した後にも,
被告がその登録抹消に直ちに応じなかったから本件各商標を使用することが
できなかった,②そして,その専用使用権の登録抹消がされた平成19年5
月9日から本件各予告登録日までのわずかな期間内に,海外在住の原告が日
本国内において新たにライセンス契約を締結して本件各商標を使用すること
は,不可能であった,③また,被告は,前記の専用使用権設定登録の抹消か
ら約1年後の平成20年5月15日時点においても,自社のホームページ上
において自ら「スマイリー・フェイス商品化代理人」を名乗り,本件各商標
に関して,「所有」又は「専用使用権を得ている。」などとして,権利関係
を混同させるような言動を続けていた(甲37)。④よって,本件各商標の
不使用については正当な理由がある,と主張する。しかし,商標法50条2
項所定の正当な理由があることとは,地震,水害等の不可抗力によって生じ
た事由,放火,破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由,法令に
よる禁止等の公権力の発動に係る事由等,商標権者等の責めに帰すことがで
きない事由(以下「不可抗力等の事由」という。)が発生したために,商標
権者等において,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用するこ
とができなかった場合をいうものと解される。そうすると,被請求人(原告)
が主張する前記理由は,被請求人(原告)が自らの自由な意思に基づく選択
によって締結した契約に起因していることであるから,このような当事者間
における契約を原因とする事情は,不可抗力等の事由に当たると認めること
はできない。また,被請求人(原告)が,本件各商標について被告がこれを
「所有」し又は「専用使用権」を有しているかのような言動をしている証拠
として提出した甲37(平成20年5月15日当時の被告ホームページ)の
下部の記載は,インターネットのURLであるとは認められず,特定のコン
ピュータに記録されたホームページのデータであると解されるから,これを
もって平成20年5月15日当時の被告のホームページ上の記載であると認
めることはできない。よって,被請求人(原告)の本件各商標の不使用につ
いては正当な理由があるとはいえない。
(2)請求人(被告)による本件各取消審判請求は,信義則違反・権利濫用
には当たらない。この点について,被請求人(原告)は,本件各商標を唯一
使用することができた請求人(被告)が本件各商標を適切に使用せず,また
使用できない状態の継続に深く関与しているにもかかわらず,自ら不使用取
消審判を請求することは,信義則に反して同審判制度を悪用するものであり,
権利濫用として許されない旨主張する。しかし,商標法50条1項が何人も
登録商標の不使用取消審判を請求することができる旨を規定していることか
らすると,請求人(被告)による本件各取消審判請求が専ら被請求人(原告)
を害することを目的としていると認められる特段の事情がない限り,当該審
判請求を違法なものとすることはできない。これを本件についてみるに,本
件専用使用権設定契約は平成16年10月30日に終了しているから,それ
以降に被告が本件各商標について専用使用権を有することはあり得ず,本件
各予告登録日(平成20年9月11日)前3年以内に本件各商標を適切に使
用しないとの原告の主張は,理由がない。また,使用できない状態の継続に
深く関与していると被請求人(原告)が主張する事情は,本件各取消審判請
求の対象外の商標についてその専用使用権設定登録の抹消を遅滞させたとの
事情であるから,本件各商標の不使用とは関係がない。以上に照らすと,被
告が原告を害する目的で本件各取消審判請求をしたものであると認めること
はできず,請求人(被告)による本件各取消審判請求が信義則違反・権利濫
用に当たるとはいえない。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,(1)不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り(取消
事由1),(2)本件各取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらないと
した判断の誤り(取消事由2)がある。
(1)取消事由1(不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り)
本件各商標の不使用については,以下のとおり,正当な理由がある。
ア原告は,平成12年10月30日,本件各商標の管理権を与えていたス
マイリー・ライセンシング・コーポレーション(現在のスマイリーワール
ド・リミテッド。以下「SLC社」という。)を代理人として,被告との
間で,契約締結後に登録されるものも含む原告所有に係る商標(後に登録
された本件各商標も含まれる。)について,契約期間4年の約定で再許諾
権を含む専用使用権を設定する旨の本件専用使用権設定契約を締結した
(甲32)。その際,被告は,本件各商標以外の前記商標について,その
契約期間4年を上回る10年を存続期間とする専用使用権設定登録(以下
「本件専用使用権設定登録」という。)の同意書を原告(代理人SLC社)
に対して送付し,契約期間を4年とする登録の同意書であると原告(代理
人SLC社)を誤信させてその同意書に署名をさせ,平成12年12月2
0日,事実に反して契約期間を10年とする専用使用権の違法な設定登録
(本件専用使用権設定登録)をした。
イそして,本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日の契約期
間満了時に更新契約がされなかった上,再三にわたる原告からの本件専用
使用権設定登録の抹消要求にもかかわらず,被告は平成19年1月9日(甲
40)まで本件専用使用権設定登録の抹消に同意せず,実際に抹消登録を
したのは,同年5月9日であった。
ウさらに,被告は,平成20年5月15日の時点において「本件各商標中
の本件(1)及び(2)商標については被告が所有しており,また,その
専用使用権を得ている。」旨の虚偽の事実を被告のインターネットのホー
ムページ上で広告するという,原告に対する営業活動妨害行為をしていた
(甲37)。
なお,甲37のホームページを印刷した書面は,K弁護士が平成20年
5月15日当時にインターネットで閲覧し,瑕疵なくプリントアウトする
ため,自己のパソコンのプリント・スクリーンに一度取り込んでから印刷
したものであり,弁護士倫理に反して証拠操作をしたようなものではない
から,甲37の信用性を否定した審決の判断は誤りである。
エこのように,原告は,本件専用使用権設定登録が残っていたため,本件
各商標の使用許諾契約を締結しようとしても,契約交渉の相手方から本件
各商標の通常使用権許諾契約の締結を拒絶された。また,本件専用使用権
設定登録が抹消された平成19年5月以降においても,前記ホームページ
上の営業活動妨害行為を受けていたほか,本件各取消審判請求がされた平
成20年8月27日まではわずかな期間しかなかったことから,外国在住
の原告が新たにライセンス契約を締結することは,不可能であった。
オ以上のとおり,原告が本件各予告登録前3年以内に日本国内において本
件各商標を使用することができなかったのは,被告が,期間を10年とす
る違法な本件専用使用権設定登録をしたほか,本件専用使用権設定登録の
抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上で営業活動妨害行為をした
ことに原因があるから,本件各商標の不使用については商標法50条2項
にいう正当な理由がある。その正当理由を認めなかった審決の判断は,誤
りである。
(2)取消事由2(本件各取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらない
とした判断の誤り)
本件各取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらないとした審決の判
断は,次のとおり誤りである。
ア被告は,前記のとおり,本件専用使用権設定契約の更新を原告から拒絶
されたことから,原告に報復し,原告の利益を害することを目的として,
ホームページ上で営業活動妨害行為をし(甲37),本件各取消審判請求
をしたから,そのような請求は,信義則違反,権利濫用に当たる。
イまた,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に関する商標法
4条1項7号の適用に関しては,「特定の商標の使用者と一定の取引関係そ
の他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商
標を剽窃したと認めるべき事情があるなど,当該商標の登録出願の経緯に著
しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の
予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も,この規定に該当
すると解するのが相当である。」とされている(東京高等裁判所平成16年
(行ケ)第7号平成16年12月21日判決参照)。この法理は,商標法5
0条による商標取消審判請求にも適用されるべきであり,本件各取消審判請
求は,本件専用使用権設定契約を締結していた被告が,前記のとおり違法な
本件専用使用権設定登録並びに信義則違反及び権利濫用による行為により
2年6か月余にわたって原告による本件各商標の使用を妨害した上で,不使
用期間3年の経過を待って商標法50条1項により本件各商標の登録取消
審判請求をしたものである。
よって,被告による本件各取消審判請求は,商標法の予定する秩序に反す
るものとして到底容認し得ない場合に該当するから,信義則違反又は権利濫
用に当たるものとして,許されない。
ウなお,被告が前提となる背景事情として述べる事実関係は,否認又は争う。
2被告の反論
(1)取消事由1(不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り)に対

ア前提となる背景事情
(ア)原告は,スマイル・マークの著作者ではないこと
原告は,1971年にスマイル・マークを自ら創作,著作したと公言
している。しかし,原告は,仏国の「フランス・ソワール」紙が197
0年当時に「スマイル・キャンペーン」を行った際のスマイル・マーク
を盗用して,その商標登録をした者にすぎず,著作権者ではない(乙3
8の1及び2,乙39,乙40,乙41の1及び2)。なお,1968
年ころ原告を含む3人のフランス人が,アメリカ旅行をした際にスマイ
ル・マークを見て,帰国後に3人の名前でフランスでの商標登録の出願
をしようと約束したが,原告が単独でスマイル・マークの商標登録出願
をした旨のレポートの記載がある(乙45,49頁)。
また,原告は,すべての「スマイル」関連商標について,米国特許庁
により「拒絶」されている。
さらに,原告は,米国「People」誌において,「自分はスマイ
ルを創作した事はなく,商標登録をしただけである。」旨告白している
(乙49)。
(イ)米国人Hがスマイル・マークの著作者であること
スマイル・マークは,1963年に米国人Hが創作,著作したもので
ある。スマイル・マークが創作・著作された経緯は,Hの故郷である米
国マサチューセッツ州ウスター市の2つの保険会社が合併する際,両社
の社員の融合を図るために保険会社副会長が,当時ウスター州でグラフ
ィック・デザイナーをしていたHにバッジやカード,ポスター等に使え
る小さなシンボルマークの制作を依頼した。Hは,同依頼に基づきスマ
イリー・フェイスを制作した(乙10の1及び2)。当初,同保険会社
は,「バッジ」を顧客に配布していたが,「バッジ」の人気が全米に広
まり,米国民1億人の胸に「スマイル・バッジ」が着けられた。200
1年4月12日,Hが死去したときには,全世界の新聞で「スマイルの
生みの親」の死去として紹介された(乙18の1及び2)。
ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団又は有限会社ハーベイ・
ボール・スマイル・リミテッドは,スマイル・マークの基本マーク
(「DESIGNEDBYHARVEYR.BALLUSA1963」と一体となったもの)等1
04件について米国で商標登録をし(乙8),我が国でも834件の本
件各商標及びその関連商標についての商標登録をし(乙7),126件
の著作物について「著作権登録」をしている(乙6)。
(ウ)日本でのスマイリー・フェイスの登場
日本では,1970年(昭和45年),「ニコニコ・マーク」,「ラ
ブ・ピース」の大流行とともに,スマイリー・フェイスの人気が高まっ
た。文具メーカーが,スマイル・マークを使用し,文具等の企業26社
が「ラブ・ピース・アソシエーション」を作り,大規模な共同宣伝を行
った(乙21)。その結果,人気が高まり,スマイル・マークは,知ら
ない者がいないほど著名になった(乙20)。「ニコニコ・マーク」の
大流行は,当時のアメリカを訪問した文具メーカーの担当者がアメリカ
の大流行を真似したものであり,それもHの功績であるといえる。
(エ)原告の日本での権利主張
他方,原告は,平成9年ころ,来日し,当時の代理人であった株式会
社イングラム(以下「イングラム社」という。)と共同で「記者会見」
を行い,「スマイルは自分が『著作権』と商標権を有している。」,「無
断使用者には断固たる処置を行う。」旨宣言し,同時に平成9年2月1
1日付け及び同年4月10日付けの日本経済新聞において,「私を勝手
に使わないで!」などとする全面広告による警告を行った(乙42の1
及び2)。
そのため,スマイル商標を使用していた日本の企業約30社は,原告
に対して,多額の支払を余儀なくされ,共同広告まで強要された(乙4
3,乙44の1及び2)。
イングラム社は,平成10年,株式会社エフエム東京に対し,「原告
及びイングラム社が,詐欺ビジネスを行っている。」旨の放送が営業妨
害又は信用棄損に当たると主張して,損害賠償等を求める訴訟を提起し
た。2審の東京高等裁判所は,平成12年1月19日,原告はスマイル
・マークの創作者でも著作権者でもなく,スマイル・マークの商標権を
有しておらず,「『国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めている』と形
容することも,あながち不当ではない」などと指摘して,イングラム社
敗訴の判決を言い渡し(東京高等裁判所平成11年(ネ)第5027号
事件),これが広く新聞報道された(乙38の1及び2)。
(オ)被告と原告との本件専用使用権設定契約の締結
被告は,既にハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団とのライセ
ンス契約に基づく「スマイル商品化事業」を「文房具」等を中心として
行っていた。しかし,被告は,イングラム社と原告との代理人契約の終
了により困窮したライセンシーの混乱を収拾し,ハーベイ・ボール・ワ
ールド・スマイル財団をライセンス元とする前記「スマイル商品化事業」
に対する原告からの妨害を排除して,「スマイル商品化事業」を維持発
展させるため,平成12年10月30日,被告との間で,契約期間を4
年間とする独占的使用権(再許諾を含む。)を設定する契約(本件専用
使用権設定契約)を締結した。
イ違法な本件専用使用権設定登録及び本件専用使用権設定登録の抹消拒否
による使用妨害行為が存在しないこと
(ア)被告は,専用使用権設定登録における存続期間については「10
年」とすることについて,原告に説明して,その同意を得ていた。すな
わち,専用使用権設定登録については,その手続の煩雑さ,費用負担そ
の他を考えて,商標権の存続期間を10年にするのが業界の常識であり,
本件専用使用権設定登録もそれに従ったにすぎない。よって,違法行為
はない。
(イ)被告は,本件専用使用権設定契約の更新を懇願したにもかかわら
ず,原告から一方的に更新を拒絶され,本件専用使用権設定契約は,平
成16年10月30日の期間満了により終了した。その「専用使用権」
の登録抹消が遅れたのは,原告から平成19年まで要請がなかったため
失念していたものにすぎない。
(ウ)また,本件各商標はスマイルに係る文字商標であり,本件専用使
用権設定登録がされたスマイルに係る図形商標とは,全く関係がないか
ら,本件専用使用権設定登録が期間満了後も残存していたとしても,原
告が本件各商標を使用することについては何ら支障がなかった。よって,
本件専用使用権の設定登録の残存は,本件各商標の不使用についての正
当な理由にはなり得ない。
さらに,前記商標の相違の点を除いても,本件専用使用権設定契約が
期間満了により終了している以上,本件専用使用権設定登録が残存した
状態でも原告が第三者と通常使用権許諾契約を締結することは可能であ
った。実際にも,原告は,本件専用使用権設定契約が平成16年10月
30日の期間満了により終了した後,「LICENSINGASIA2
006・2007」に出展し,本件各商標を使用するライセンシーを探
していた。したがって,本件専用使用権設定登録が抹消されなかったこ
とと,本件各商標が使用されなかったこととの間には因果関係が存在し
ない。
(2)取消事由2(本件各取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらない
とした判断の誤り)に対し
前記のとおり,原告は,スマイル・マークの創作者ではなく,著作権者で
もなく,スマイル・マークの商標権を有しておらず,「『国際的詐欺ビジネ
スの様相を見せ始めている』と形容することも,あながち不当ではない」な
どとする東京高等裁判所の判決言渡しを受けた経緯がある。原告が,スマイ
ル・マークのライセンス事業を拡大できないのは,そのような事情が原因で
ある。何人も商標不使用取消請求をすることができるとの制度の下で,その
ような事情によって使用されていない商標に対して,被告が商標の不使用取
消請求をすることが信義則違反や権利濫用に当たる余地はない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(不使用に係る正当な理由を認めなかった判断の誤り)について
原告は,本件各予告登録前3年以内に日本国内において本件各商標を使用す
ることができなかったのは,被告による違法な本件専用使用権設定登録,その
登録抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活動妨害行為があ
ったためであるから,本件各商標の不使用については,商標法50条2項にい
う正当な理由がある旨主張する。
しかし,原告の主張は,理由がない。以下,その理由を述べる。
(1)事実認定
各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア日本においては,昭和45年ころから,アメリカで既に大流行していた
スマイル・マークに似た「ニコニコ・マーク」,「ラブ・ピース」が流行
した(乙38)。
イその後,同マークの流行は収まったが,被告は,米国では米国人Hが「ス
マイリー・フェイス」の創作者であるとされていたことから,平成10年
以降,米国のハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団をライセンス元
とする「スマイリー・フェイス」のライセンス契約を締結し,許諾された
スマイリー・フェイスに関するサブ・ライセンス契約を締結し(乙56の
1及び2),現在まで,日本における同マークの商品化事業を継続してき
た。
ウ他方,フランス人である原告は,平成9年ころ,来日し,当時の代理人
であったイングラム社と共同で記者会見を行い,イングラム社は,平成9
年2月11日付け及び同年4月10日付けの日本経済新聞において,「ス
マイルマークは登録商標です。」「私を勝手に使わないで!」「日本にお
いてスマイルマークを使用される場合は,X氏及び弊社の事前承認が必要
となります。」などとする全面広告による警告を行った(乙42の1及び
2)。
その後,当時のイングラム社について「詐欺ビジネスを行っている。」
旨放送した「エフエム東京」に対し,イングラム社は,営業妨害又は信用
棄損に当たるとして東京地方裁判所に提訴したが,2審(東京高等裁判所
平成11年(ネ)第5027号事件)において,平成12年1月19日,
敗訴判決の言渡しを受けた。同判決は,①原告は日本においてスマイル・
マークの出願をしている者にすぎず,第三者に対して差止請求をし得る商
標権者ではなく,スマイル・マークの創作者でも著作権者でもない,②原
告がスマイル・マークの創作者,著作権者であり,スマイル・マークが登
録商標であるなどとする広告内容は虚偽であり,イングラム社の許諾なし
にスマイル・マークを使用することができないことを前提として,イング
ラム社が,同人との間でライセンス契約を締結するよう宣伝することは,
原告の詐欺的商法に加担したと言われてもやむを得ない,③原告又はイン
グラム社の商法について「国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めている」
と形容することも,あながち不当ではないというべきであるなどと判断し,
イングラム社の請求を棄却した(乙38の1及び2)。
エ被告は,イングラム社と原告との間の代理人契約が終了したことにより
困窮した数多くのメーカーを,ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財
団をライセンス元とする前記「スマイル商品化事業」に取り込み,併せて
同事業に対する原告からの妨害を排除するため(乙55),平成12年1
0月30日,本件各商標を含む原告名義の商標権の管理を委託されていた
SLC社(代表者原告)との間で,契約書添付の一覧に示す原告名義のス
マイル・マーク商標について,「添付の一覧に記載のない現存の商標,お
よびSLCが本契約の調印後に登録する商標は,いずれも自動的に同一覧
に含まれる。」との特約の下に,契約の有効期間を契約執行の日付けから
4年間とし,許諾地域を日本とし,対象商品を商標権の全指定商品として,
被告に対して独占的権利(再許諾権を含む。)を設定する旨の本件専用使
用権設定契約を締結した(甲32,弁論の全趣旨)。
オ本件専用使用権設定登録
スマイルマークに係る図形商標(例えば,登録第4383223号商標)
については,平成13年2月8日,期間満了日を平成22年5月19日と
する本件専用使用権設定登録がされた(乙54,弁論の全趣旨)。他方,
スマイルに係る文字商標である本件各商標については,本件専用使用権設
定契約の対象には含まれるが,その専用使用権設定登録はされなかった。
カ本件専用使用権設定契約は,被告が契約更新を希望したにもかかわらず,
原告がこれを受け入れなかったため,4年の契約期間の満了により平成1
6年10月30日に終了した。
キ本件専用使用権設定契約の終了から約2年半後である平成19年5月9
日に,本件専用使用権設定登録が抹消された(乙54)。
ク他方,原告は,平成18年と平成19年に,日本国内外の企業が著作物
や商標権を展示して商談を行う「LICENSINGASIA2006」
又は「LICENSINGASIA2007」に,それぞれ権利者とし
て出展し,本件各商標の「商品化事業」を行う相手先の日本企業を探す等
の営業活動をした(乙57)。
(2)判断
上記認定した事実に基づいて検討する。
ア専用使用権の違法な設定登録行為について
以下のとおり,被告が違法な本件専用使用権設定登録をしたとの原告の
主張事実を認めることはできない。すなわち,①被告と原告との間の専用
使用権の登録における満了日が,当初の契約期間満了日より遅い期限とさ
れていることについては当然に原告(代理人SLC社)が知り得る事項で
あったにもかかわらず,特に異議を留めずに原告が各登録手続に協力して
登録が完了していること,②本件専用使用権設定登録の抹消を合意した原
告と被告との間の平成19年1月9日付け和解契約書(甲40)及びそれ
に先立つ「専用使用権抹消登録申請のご協力のお願い」と題する被告あて
の書面(乙58)においても,被告が原告を欺罔して無断で存続期間10
年の長い設定登録をしたことをうかがわせるに足りる記載がないことに照
らせば,原告は,当初の契約期間である4年よりも長い存続期間を想定し
た登録を了解していたと推認するのが合理的である。よって,登録期間満
了日が実際の契約期間満了日より後の日付とされたことをもって,被告が
原告を欺罔して違法な専用使用権の設定登録行為をしたと認めることはで
きない。その他に前記原告主張事実を認めるに足りる証拠もない。
イ本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為について
また,被告が本件専用使用権設定登録の抹消を拒否し,本件各商標の使
用妨害行為をしたとの原告の主張事実も認めることはできない。すなわち,
本件専用使用権設定登録の抹消を合意した前記和解契約書(甲40)及び
それに先立つ「専用使用権抹消登録申請のご協力のお願い」と題する被告
あての前記書面(乙58)においても,専用使用権の登録抹消が平成16
年10月30日の契約終了時から約2年半遅れたことについて,被告に原
因のあることをうかがわせるに足りる記載はないから,単に登録抹消が遅
れた事実をもって,被告が本件専用使用権設定登録抹消を拒否して本件各
商標の使用妨害行為をしたと認めることはできない。また,その他に前記
原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
また,そもそも本件各商標はスマイルに係る文字商標であるから,スマ
イルに係る図形商標についてされた本件専用使用権設定登録が期間満了後
に残存していたとしても,原告が本件各商標を使用することについては事
実上も何ら支障がないはずである。よって,本件専用使用権設定登録の抹
消拒否(登録残存)は,本件各商標の不使用についての正当な理由にはな
り得ない。
ウホームページ上での営業活動妨害行為について
さらに,被告が平成20年5月15日当時の被告ホームページ上で本件
各商標を「所有」し又はその「専用使用権」を有するかのような営業活動
妨害行為をしているとの原告の主張事実も認めることもできない。すなわ
ち,「file://C:¥DOCUME~1¥AE9E3~1.KAR¥LOCALS~1¥Temp¥4LVDJ3A8.htm」(甲
37左下欄)の記載からすると,それがインターネットのURLであると
認めることはできず,むしろ前半部の「file://C:¥DOCUME~」の記載からす
れば,特定のコンピュータに記録されたホームページのデータであるもの
と推認される。この点について,原告は,当時の代理人弁護士がホームペ
ージを瑕疵なくプリントアウトするため,自己のパソコンのプリント・ス
クリーンに一度取り込んでから印刷したものであると主張する。しかし,
原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,インターネットのホーム
ページを裁判の証拠として提出する場合には,欄外のURLがそのホーム
ページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって
常識的な事項であるから,原告の前記主張は,不自然であり,たやすく採
用することができない。そうすると,原告提出の甲37をもって原告主張
の営業活動妨害行為があったことを認めることはできず,他にこれを認め
るに足りる証拠はない。
エ不使用に係る正当な理由の存否について
以上によれば,被告による違法な本件専用使用権設定登録,本件専用使
用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活
動妨害行為があったから本件各商標の不使用について正当な理由があると
する原告の主張は,その前提事実が認められないから,理由がない。かえ
って,前記認定のとおり,原告は,平成18年と平成19年に,日本国内
外の企業が著作物や商標権を出展して商談を行う「LICENSINGA
SIA2006」及び「LICENSINGASIA2007」に,そ
れぞれ権利者として参加し,本件各商標の「商品化事業」を行う相手先の
日本企業を探していたと認められるから,平成20年9月11日の本件各
予告登録前3年以内に本件各商標を使用しないことについて「正当な理由」
が存在したと認めることはできない。
2取消事由2(本件各取消審判請求が信義則違反,権利濫用に当たらないとした
判断の誤り)について
原告は,被告による違法な本件専用使用権設定登録,本件専用使用権設定登
録の抹消拒否による使用妨害行為,ホームページ上での営業活動妨害行為があ
ったから,そのような被告による本件各取消審判請求は,信義則に反し,権利
濫用に当たる旨主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,被告による違法な本件専用使
用権設定登録,本件専用使用権設定登録の抹消拒否による使用妨害行為,ホー
ムページ上での営業活動妨害行為があったと認めることができないことは,前
記説示のとおりであるから,原告の前記主張は,その前提を欠き,主張自体失
当である。
そして,前記認定のとおり,本件各取消審判請求は,被告が,「スマイル・
マーク」に係る事業を行う上でその障害となる本件各商標を排除するためにし
たものであると推認されるが(乙55),そのような被告が,不使用取消審判
を請求することは,格別違法なものであるということはできない。また,前記
認定のとおり,①イングラム社を代理人として展開していた原告の事業は,「エ
フエム東京」とイングラム社との間の訴訟の控訴審判決において,「国際的詐
欺ビジネスの様相を見せ始めていると形容することも,あながち不当ではない」
などと厳しい評価を受け,その後のライセンシー獲得に困難を来したこと,②
被告が原告と本件専用使用権設定契約を締結した動機は,原告からの妨害行為
を回避する目的によるものであったこと等の事実を総合すれば,被告による本
件各取消審判請求が信義則に反し,権利濫用に当たるということはできない。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は
縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求はいずれも理
由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
齊木教朗
裁判官
武宮英子
(別紙)「本件各商標目録」
(1)(乙1の2及び3)
登録第2390317号商標(取消2008−301079号)
商標の構成「スマイリー」の文字を横書きしてなるもの
登録出願日平成元年6月15日
設定登録日平成4年3月31日
指定商品及び指定役務:第32類に属する「食肉,卵,食用水産物,野菜,
果実,加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として平成4
年3月31日に設定登録され,その後,平成14年11月5日に商標権の存
続期間の更新登録がされ,さらに,平成15年2月5日に指定商品を第29
類「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果
実,肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆
布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),かつお節,
寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,
焼きのり,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,
豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,
ふりかけ,なめ物」,第30類「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペ
ースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじ
ゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオ
リ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のも
と,酒かす」,第31類「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,
野菜(「茶の葉」を除く。),茶の葉,糖料作物,果実,コプラ,麦芽」及
び第32類「飲料用野菜ジュース」とする書換登録がされた。
予告登録日:平成20年9月11日
(2)(乙1の4及び5)
登録第4452128号商標(取消2008−301080)
商標の構成:SMILEY
登録出願日:平成11年6月9日
設定登録日:平成13年2月9日
指定商品及び指定役務:第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,乳清飲
料,ビール製造用ホップエキス」及び第38類「移動体電話による通信,テ
レックスによる通信,電子計算機端末による通信,電報による通信,電話に
よる通信,ファクシミリによる通信,無線呼出し,テレビジョン放送,有線
テレビジョン放送,ラジオ放送,報道をする者に対するニュースの供給,電
話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」
予告登録日:平成20年9月11日
(3)(乙1の6及び7)
登録第4643039号商標(取消2008−301082)
商標の構成:SMILEY
登録出願日:平成13年4月10日
設定登録日:平成15年2月7日
指定商品:第21類「ガラス基礎製品(建築用のものを除く。),デン
タルフロス,おけ用ブラシ,金ブラシ,管用ブラシ,工業用はけ,船舶ブラ
シ,ブラシ用豚毛,洋服ブラシ,かいばおけ,家禽用リング,家庭用燃え殻
ふるい,石灰入れ,ねずみ取り器,はえたたき,ろうそく消し及びろうそく
立て(貴金属製のものを除く。)」
予告登録日:平成20年9月11日

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛