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平成26年12月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第33365号職務発明譲渡対価請求事件
口頭弁論の終結の日平成26年11月4日
判決
原告A
同訴訟代理人弁護士水口洋介
金井克仁
被告株式会社セガ
同訴訟代理人弁護士川田篤
同訴訟復代理人弁護士町田健一
主文
1被告は,原告に対し,60万円及びこれに対する
平成23年10月27日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを500分し,その3を被告の
負担とし,その余を原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することが
できる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の従業者であった原告が,被告に対し,職務発明について特
許を受ける権利を被告に承継させたことにつき,特許法35条(平成16年
法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項の規定に基づき,相当
の対価合計32億0720万円(名称を「物体識別方法及び装置」とする発
明について9億0720万円,名称を「競争ゲーム装置及びその制御方法」
とする発明について23億円)のうち1億円及びこれに対する訴状送達の日
の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論
の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
被告は,アミューズメントマシン及び家庭用ゲーム機の製造販売等を事
業とする株式会社である。原告は,昭和58年3月に被告に入社して,第
1研究開発部新技術開発課に所属し,平成元年に退職したが,平成4年7
月に再び被告に入社して,平成10年1月に退職した。原告は,被告在職
中,ゲーム装置の開発に従事していた。
(2)被告による特許権の取得等
ア物体識別方法及び装置に関する発明について
(ア)原告は,昭和61年頃,物体識別方法及び装置に関する発明(以
下「本件発明1」という。)をした。本件発明1は,その性質上被告
の業務範囲に属し,かつ,発明に至った行為が被告における原告の職
務に属するものであって,特許法35条1項所定の職務発明に当たる。
(イ)被告は,原告から本件発明1について特許を受ける権利を承継し,
昭和61年10月6日,発明の名称を「物体識別方法及び装置」とし,
原告を発明者として特許出願をし,平成8年9月19日にその特許権
(特許番号第2564120号。以下「本件特許権1」といい,この
特許を「本件特許1」という。)の設定登録を受けた。請求項の数は
6である。
(ウ)本件特許1に対し特許異議の申立て(平成9年異議第72838
号事件)がされ,同事件の係属中の平成10年1月5日,被告は,明
細書の特許請求の範囲の訂正をした。この訂正は,請求項2及び3を
削除し,請求項1及び4の記載を訂正して請求項4ないし6を請求項
2ないし4にそれぞれ訂正するというものである。特許庁は,同年6
月30日,訂正を認め,特許請求の範囲請求項1及び2に記載された
発明についての特許を維持するとの決定をし,同決定は,その頃確定
した。上記訂正後の特許請求の範囲の記載は別紙「訂正後の特許請求
の範囲の記載1」に記載のとおりである。
(甲1,乙32,33)
(エ)本件特許権1は,平成18年10月16日,存続期間満了により
消滅した。
(オ)被告は,平成13年まで,本件発明1を実施して,ワールドビン
ゴ,ビンゴパーティというビンゴゲーム機(以下「被告ビンゴゲーム
機」という。)を製造,販売したが,これについて,他社に実施許諾
をしたことはない。
イ競争ゲーム装置及びその制御方法に関する発明について
(ア)被告従業者は,昭和63年春頃,競争ゲーム装置及びその制御方
法に関する発明をした。上記発明は,その性質上被告の業務範囲に属
し,かつ,発明に至った行為が被告における被告従業者の職務に属す
るものであって,特許法35条1項所定の職務発明に当たる。
(イ)被告は,被告従業者から上記発明について特許を受ける権利を承
継し,昭和63年4月9日,発明の名称を「競争ゲーム装置及びその
制御方法」とし,原告を発明者として特許出願(以下「本件原々々出
願2」という。)をし,平成9年5月9日に特許権(特許番号第26
45851号)の設定登録を受けた。被告は,平成8年12月12日,
本件原々々出願2の一部を新たな特許出願(以下「本件原々出願2」
という。)とし,平成10年12月11日に特許権(特許番号第28
61978号)の設定登録を受けた。被告は,平成10年8月28日,
本件原々出願2の一部を新たな特許出願(以下「本件原出願2」とい
う。)とし,平成11年8月13日に特許権(特許番号第29650
35号)の設定登録を受けた。
被告は,平成11年6月7日,本件原出願2の一部を新たな特許出
願(以下「本件出願2」という。)とし,平成12年7月7日に特許
権(特許番号第3084412号。以下「本件特許権2」といい,こ
の特許を「本件特許2」という。)の設定登録を受けた。請求項の数
は12である。
(ウ)被告は,平成17年3月28日,本件特許2について,明細書の
特許請求の範囲の訂正審判を請求した。この訂正は,請求項1ないし
5及び7ないし11を削除し,請求項6及び12をそれぞれ請求項1
及び2とし,それぞれを訂正するというものである。特許庁は,平成
17年6月16日,訂正を認めるとの審決をし,同審決は,その頃確
定した。上記訂正後の特許請求の範囲の記載は,別紙「訂正後の特許
請求の範囲の記載2」に記載のとおりである(以下,訂正後の特許請
求の範囲の請求項1及び2に係る発明を「本件発明2-1」及び「本
件発明2-2」という。)。
(乙1の1・2)
(エ)本件特許権2は,平成20年4月9日,存続期間満了により消滅
した。
(オ)被告は,本件原々々出願2及び本件原々出願2並びに本件原出願
2に係る発明及び本件発明2-1及び2を実施して,ワイルドダービ
ー,ロイヤルアスコット,エキサイティングボートレースというゲー
ム機(以下,併せて「被告競馬ゲーム機」という。)を製造,販売す
るとともに,これらについて,他社に実施許諾をし,平成12年4月
1日から平成15年3月31日までに●(省略)●の実施料収入を得
た。
(3)被告における補償金に関する職務規程及びその運用
ア被告は,職務発明等について,「従業員による発明等に対する補償規
則」(以下「補償規則」という。)を定めていて,その対象となる補償を,
出願補償,登録補償,実績補償及び特別補償の4つに区分し(2条),
それぞれの額及び支給手続などについては,細則に基づくものとしてい
る(3条1項)。なお,補償対象者である従業者が退職しても,これに
より生じた補償金を受ける権利は消滅しないとしている(7条)。
イ「実績補償細則」(以下「補償細則」という。)は,国内で登録済みの
特許権等で,その実施によって被告が相当の利益を受けたと認められる
もの又はこれを他社へ実施許諾すること等によって被告が相当の実施料
収入を得たものを対象として,毎年4月1日から支給該当年3月31日
までの1年間の国内における実施実績及び当該期間における実施許諾に
基づく実施料収入の額について調査を行い(3条1項),知的財産権部
は,調査の結果を基に補償金の額を評定して,その評定結果を経営会議
へ諮り(7条1項),経営会議は,知的財産権部の評定結果について審
議し,補償金支給の可否,支給時期及び支給額について決定するとして
いる(同条2項)。なお,補償対象者が退職者(懲戒解雇者を除く。)で
ある場合は,対象者又はその相続人から請求があれば次期に補償し,請
求がない場合は補償を留保し,民法に定める時効により消失するとして
いる(8条3項)。
ウ補償規則及び実績補償細則の運用
被告は,平成7年度から実績補償制度を導入し,各事業年度(毎年4
月1日から翌年3月31日まで)の実施実績などについて,その事業年
度の終了後に調査をすることにしたが,平成7年度の調査は,その時点
において登録されていた特許について,実績補償制度の導入前の実績に
ついても遡及的に調査をした。この調査は,翌事業年度又は翌々事業年
度には終了し,知的財産権部が補償金の額を評定して,経営会議に諮り,
経営会議が決定した支給時期に補償金が支払われた。なお,被告は,補
償金の額の算定に際し当初の出願に係る発明と当初の出願を分割した出
願に係る発明とを二重に評価することにならないよう,当初の出願に係
る発明において当初の出願を分割した出願に係る発明を含む全体の実績
を評価して,補償金の額を評定していた。
被告は,退職者に係る発明の実績補償金については,その額の評定を
して支払金額を確定したが,支払を留保した。
経営会議が決定した実績補償金の支給時期は,平成7年度(平成7年
4月1日から平成8年3月31日)分が平成8年7月24日,平成8年
度(平成8年4月1日から平成9年3月31日)分が平成9年11月2
1日,平成9年度(平成9年4月1日から平成10年3月31日)分が
平成11年1月20日,平成10年度(平成10年4月1日から平成1
1年3月31日)分が平成12年5月11日,平成11年度(平成11
年4月1日から平成12年3月31日)分が平成13年4月27日,平
成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日)分が平成
14年5月13日,平成13年度(平成13年4月1日から平成14年
3月31日)分が平成15年5月20日であった。
(乙2)
(4)被告による実績補償金の支払
原告は,平成22年4月16日,被告に対し,本件発明1並びに本件発
明2-1及び2を含む複数の発明について実績補償金の支払を請求した。
被告は,同日,原告に対し,本件発明1についての実績補償金として10
万円を,本件原々々出願2及び本件原々出願2並びに本件原出願2に係る
発明及び本件発明2-1及び2について被告による実施に係る実績補償金
として44万円,実施料に関する実績補償金として●(省略)●をそれぞ
れ支払う旨を告げ,平成22年5月21日,原告に対し,これを支払った。
(甲3,乙2,23)
(5)消滅時効の援用
被告は,平成23年11月22日の本件口頭弁論期日において,原告に
対し,本件発明1並びに本件発明2-1及び2について,平成11年度以
前に支払時期が到来した相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効を援用
するとの意思表示をした。
2争点
(1)本件発明1について
ア相当の対価の額
(ア)被告が受けるべき利益の額
(イ)被告が貢献した程度
(ウ)共同発明者の有無
イ消滅時効の成否
(2)本件訂正発明2-1及び2について
ア原告が本件発明2-1及び2の発明者か
イ相当の対価の額
(ア)被告実施に係る部分について被告が受けるべき利益の額
(イ)被告が貢献した程度
(ウ)共同発明者の有無
(エ)他の発明の貢献の程度
ウ消滅時効の成否
3争点に関する当事者の主張
(1)本件発明1について
ア相当の対価の額
(ア)原告
a被告が受けるべき利益の額
被告ビンゴゲーム機の平成13年度までの売上高は,被告直営店
におけるゲーム機による収益を併せて224億円を下らない。原告
が本件発明1をした頃,数字のついた玉を扱うビンゴゲーム機は存
在しなかったが,本件発明1により,複数の数字のついた玉をラン
ダムに抽出し,その数字を読んでいくことでゲームを進めるビンゴ
ゲーム機が実現し,これにより,被告は,長期間,多額の売上げを
得ることができた。そうであるから,本件発明1による超過売上高
は,被告ビンゴゲーム機の売上高の60%である。被告は,ゲーム
センター用ゲーム機を製造し,直接これを販売するが,その利益率
は高いから,仮想実施料率は15%である。
そうすると,本件発明1により被告が受けるべき利益の額は20
億1600万円である(224億円×60%×15%=20億16
00万円)。
b被告が貢献した程度
被告は玉読取式に関する技術を有しておらず,原告が拒絶査定や
異議申立てに対応したのであるから,被告が玉読取式を発案して原
告に研究を指示したことを考慮しても,被告が貢献した程度は5
5%である。
c共同発明者の有無
被告の当時の第1研究開発部新技術開発課のB(以下「B」とい
う。)は本件発明1の共同発明者でなく,本件発明1に共同発明者
はいない。
dしたがって,原告の主張する相当の対価の額は,9億0720万
円である(20億1600万円×(1-0.55)=9億0720
万円)。
(イ)被告
a被告が受けるべき利益の額
被告ビンゴゲーム機の平成10年度から13年度までの売上高は,
3億5000万円である。被告直営店におけるビンゴゲーム機によ
る収益は,法定通常実施権の範囲であるから,売上高に含まれない。
また,平成11年頃から本件発明1の代替技術としてICタグが普
及し,玉番号読取式のビンゴゲーム機には穴番号読取式のビンゴゲ
ーム機という代替製品も存在するのであって,ゲーム機における企
画の重要性を考えれば,本件発明1による超過売上高は,被告ビン
ゴゲーム機の売上高の10%を超えない。本件発明1は,競業他社
から実施許諾の申入れがされたことがないし,ICタグが普及し始
めた平成11年以降は本件発明1についての実施許諾を受ける意義
は失われ,その市場価値は限りなく低いから,仮想実施料率は,お
よそ1%を超えるものではない。
そうすると,本件発明1により被告が受けるべき利益の額は,高
くても35万円である(3億5000万円×10%×1%=35万
円)。
b被告が貢献した程度
被告の当時の新商品の企画力,資金力,営業力及びブランド力,
本件発明1をするに至った経緯,本件発明1について特許を受ける
までの事情,被告ビンゴゲーム機の製品化及び販売における原告の
関与の低さなどを考慮すれば,被告の貢献度は95%を下回るもの
ではない。
c共同発明者の有無
Bは,3本の検出用コイルを3次元に設ける構成を創作したもの
であって,本件発明1の共同発明者であり,その寄与した割合は3
分の1である。
dしたがって,被告の主張する相当の対価の額は,高くても1万1
667円である(35万円×(1-0.95)×(1-1/3)=
1万1667円)。
イ消滅時効の成否
(ア)被告
a消滅時効の起算点
勤務規則等に,事業年度ごとに,発明の実績に応じた金額を支給
する旨の定めがされている場合には,各事業年度の実績補償金の支
給時期がそれぞれの実績に対応する相当の対価の支払を受ける権利
の消滅時効の起算点となる。
被告においては,勤務規則である補償規則及び補償細則により,
事業年度ごとに当該発明の実績に応じた金額を支給する旨の定めが
されているのであり,各事業年度の実績補償金の支給時期がその事
業年度に対応する相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算
点となる。
b消滅時効期間の経過
勤務規則に基づく補償金支払請求権と法定の相当の対価の支払請
求権とは併存し,勤務規則による補償金の支払をしても,相当の対
価の支払請求権について債務の承認をしたことになるものではない。
c消滅時効の援用
原告が被告在職時に補償規則,実績補償細則に関心を持たなかっ
たために,相当の対価の支払を請求しなかったのであり,退職者に
通知がされていないとしても,退職者による権利行使自体が妨げら
れるものではなく事実上の障害があるに過ぎないから,被告が消滅
時効を援用することが信義則に反するものではない。
(イ)原告
a消滅時効の起算点
相当の対価の支払を受ける権利は,従業者から使用者等への特許
を受ける権利の譲渡時点において一定の金額をもって発生する1個
の権利で,使用者等が現に得た利益や実績とは無関係な概念として
理解され,期間ごとに区分されるとは観念することができないので
あって,実績補償金の最終支払時期が相当の対価の支払を受ける権
利の消滅時効の起算点となる。
仮にそれぞれの事業年度の実績補償金の支払時期が相当の対価の
支払を受ける権利の消滅時効の起算点となるとしても,被告の補償
規則及び補償細則の定めは従業者に周知されていないし,合理性を
欠くから,労働契約の内容にならず,補償金の支払通知を受けた日
が消滅時効の起算点となる。また,原告は,現実に実績補償金の支
払を受けるまでは,相当の対価の支払を受ける権利を行使すること
ができないから,補償金の支払を受けた日までは消滅時効が進行し
ない。
b消滅時効期間の経過
仮に相当の対価の支払請求権の消滅時効が実績補償金の支払期日
ごとに進行するとしても,被告は,平成22年4月16日,本件発
明1ついて実績補償金を支払うことを告げて債務の承認をした。
c消滅時効の援用
平成9年から運用を開始した実績補償の支給手続の根拠となる実
績補償細則等が原告の在籍中に説明されておらず,本件訴訟前の知
財仲裁センターによる調停段階でも明らかにされなかったこと,退
職者について実績補償金の支給の可否や支給時期等を知らせない体
制であったことを考慮すると,被告が相当の対価の支払請求権につ
いて消滅時効を援用することは信義則に反する。
(2)本件発明2-1及び2について
ア原告が本件発明2-1及び2の発明者か
(ア)原告
本件発明2-1及び2の特徴的部分は,走行ラインに沿った一連の
目標位置で構成される走行テーブルを設定すること,走行体の現在位
置を検出しその値と,走行テーブルから読み出した次の目標位置とで
計算して走行体を制御し,模型体が走行ラインに沿って順位を競って
走るようにすることにある。走行体を走らせるための走行テーブルが
少なくとも観客がベットした状況を要素として所定のアルゴリズムに
従ってレースの度毎に作成するという構成は,公知であり,本件発明
2-1及び2の特徴的部分ではない
原告は,実験デモ機及び馬走行ソフトを開発することにより,上記
特徴的部分の完成に創作的に寄与したのであるから,原告は,本件発
明2-1及び2の発明者である。
(イ)被告
本件発明2-1及び2の特徴的部分は,走行体を走らせるための走
行テーブルが少なくとも観客がベットした状況を要素として所定のア
ルゴリズムに従ってレースの度毎に作成するという構成であり,原告
は,この構成に創作的に寄与していない。
イ相当の対価の額
(ア)原告
a被告実施に係る部分について被告が受けるべき利益の額
被告の競馬ゲーム機の平成13年度までの売上高は,被告直営店
におけるゲーム機による収益を併せて445億円を下らない。原告
が本件発明2-1及び2をした頃,競馬ゲーム機市場では,馬がそ
れぞれ決まったトラックを走る固定トラック方式が主流であったが,
原告により馬がフィールド上を自由に走ることのできる方式の競馬
ゲーム機を発明したことで,被告は馬がフィールド上を自由に走る
ことのできる方式の競馬ゲームを製品化して市場を席捲したのであ
る。そうであるから,本件発明2-1及び2による超過売上高は,
被告競馬ゲーム機の売上高の75%を下らない。被告は,ゲームセ
ンター用ゲーム機を製造し,直接これを販売するが,その利益率は
高いから,仮想実施料率は15%である。
そうすると,被告実施に係る部分について本件発明2-1及び2
により被告が受けるべき利益の額は,50億円になる(445億円
×75%×15%=50億円)
b被告が貢献した程度
原告が馬がフィールド上を自由に走ることのできる方式の競馬ゲ
ームを独自に発案したことを考慮すれば,被告が貢献した程度は5
0%である。
c共同発明者の有無
本件発明2-1及び2に共同発明者はいない。
d他の発明の貢献の程度
被告が有する競馬ゲーム機に関する特許が他にあるが,いずれも
機能が限定的であり,本件発明2-1及び2の寄与の程度は80%
である。
eしたがって,原告の主張する相当の対価の額は,23億円である
(57億5000万円×(1-0.5)×80%=23億円)。
(イ)被告
a被告実施に係る部分について被告が受けるべき利益の額
被告競馬ゲーム機の平成10年度から13年度までの売上高は,
50億円を上回らない。被告直営店における競馬ゲーム機による収
益は,法定通常実施権の範囲であるから,売上高に含まれない。競
馬ゲーム機については,平成12年に有力な競業他社に包括ライセ
ンスがされていること,代替製品としてCG式のものが従来から存
在し,かつ,被告においても平成12年以降はCG式のものに切り
替えられていること,ゲーム機市場一般における代替製品が存在す
ることのほか,ゲーム機の売上げにおける企画や資金力,営業力及
びブランド力の重要性を考えれば,本件発明2-1及び2による超
過売上高は,被告競馬ゲーム機の売上高の5%を超えない。被告は,
本件発明2-1及び2を実施料率5%で実施させているから,仮想
実施料率はこれを超えるものではない。
そうすると,被告実施に係る部分について本件発明2-1及び2
により使用者等が受けるべき利益の額は,高くても1250万円で
ある(50億円×5%×5%=1250万円)。
b被告が貢献した程度
被告による企画を契機に本件発明2-1及び2が生まれたこと,
競馬ゲーム機の技術開発が多数の被告従業者によりされていること,
特許出願及び審査の経緯,競馬ゲーム機の商品企画における原告の
寄与が皆無であること,資金調達,営業活動及びブランド向上への
原告の寄与は皆無であること,製品の販売努力並びにその後の製品
開発及び販売努力への原告の貢献がないことを考慮すれば,被告が
貢献した程度は99%を下回るものではない。
c共同発明者の有無
本件発明2-1及び2の特徴的部分は,走行テーブルを顧客のベ
ット状況を要素としてレースのたびごとに生成する点にあり,この
ような技術的思想を創作したのは,被告第1研究開発部のC(以下
「C」という。)及びDである。その他の構成は,原告以外の者の
着想によるものか,公知のものである。そうであるから,原告が本
件発明2-1及び2の発明者であるとしても,原告の寄与の程度は
20%にとどまる。
d他の発明の貢献の程度
被告が有する競馬ゲーム機に関する特許権の件数は24件あり,
親子関係にあるものを一体としてみると,13群に分けられる。本
件発明2-1及び2は,競合他社とのライセンス契約において代表
特許とされず,競馬ゲーム機の基本的な構成のうちの駆動手段を制
御する構成を開示するにとどまるから,競馬ゲーム機についての本
件発明2-1及び2の寄与の程度は20%程度にとどまる。
eしたがって,被告の主張する相当の対価の額は,高くても●(省
略)●×(1-0.8)×1%×20%=●(省略)●)。
ウ消滅時効の成否
(ア)被告
各事業年度の実績補償金の支給時期がその事業年度に対応する相当
の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点になるから,平成11
年度までの実績補償金については,その支給時期から10年が経過し
て,消滅時効が完成した。
(イ)原告
実績補償金の最終支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅
時効の起算点となるから,消滅時効は完成していない。
第3当裁判所の判断
1本件発明1について
(1)まず,消滅時効の成否について判断する。
ア消滅時効の起算点
(ア)勤務規則等に,特許を受ける権利を使用者等に承継させたことに
よる相当の対価の支払時期が定められているときは,勤務規則等の定
めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける
権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求める
ことができないというべきであり,勤務規則等に,使用者等が従業者
等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,
その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点と
なると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号
平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁)。
被告の実績補償制度は,知的財産権部が,各事業年度(毎年4月1
日から翌年3月31日まで)の実施実績などについて行った調査の結
果に基づいて補償金の額を評定し,経営会議が,補償金支給の可否,
支給時期及び支給額を決定するというのであるから,相当の対価のう
ち各事業年度における特許発明の実施等に対応する分については,そ
れぞれ当該期間の特許発明の実施等の実績に応じた額の支払時期が到
来するまでその支払を求めることができない。そうであるから,各事
業年度の実績補償金の支払時期が特許発明の実施等の実績に応じた相
当の対価のうちの当該期間における特許発明の実施に対応する分の支
払を受ける権利の消滅時効の起算点となるのであり,これを本件発明
1について特許を受ける権利を被告に譲渡したことによる相当の対価
についてみると,そのうちの各事業年度における特許発明の実施に対
応する分の支払を受ける権利の消滅時効の起算点は,平成7年度分が
平成8年7月24日,平成8年度分が平成9年11月21日,平成9
年度分が平成11年1月20日,平成10年度分が平成12年5月1
1日,平成11年度分が平成13年4月27日,平成12年度分が平
成14年5月13日,平成13年度分が平成15年5月20日である。
(イ)原告は,相当の対価の支払を受ける権利は,従業者から使用者等
への特許を受ける権利の譲渡時点において一定の金額をもって発生す
る1個の権利で,使用者等が現に得た利益や実績とは無関係な概念と
して理解され,期間ごとに区分されるとは観念することができないの
であって,実績補償金の最終支払時期が相当の対価の支払を受ける権
利の消滅時効の起算点となると主張する。しかしながら,勤務規則等
に,相当の対価の支払時期が定められているときは,その支払時期が
到来するまでの間は支払を求めることができないが,その支払時期が
到来すると支払を求めることができるのであるから,それぞれの事業
年度の実績補償金の支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅
時効の起算点となるのであり,実績補償金の最終支払時期がその起算
点となるものではない。原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,被告の補償規則及び補償細則の定めは従業者に周知
されていないし,合理性を欠くから,労働契約の内容にならないと主
張する。しかしながら,前記前提事実に証拠(乙2,23)を総合す
れば,被告は,原告が被告に在職している期間中,補償規則及び補償
細則を差替式の規定集として各部に備え付けていて,従業者が自由に
これを閲覧することができたことが認められるし,補償規則及び補償
細則の内容が合理性を欠くということもできない。原告の上記主張は,
採用することができない。
さらに,原告は,現実に実績補償金の支払を受けるまでは,相当の
対価の支払を受ける権利を行使することができないから,補償金の支
払を受けた日までは消滅時効が進行しないと主張する。しかしながら,
被告の補償規則及び補償細則は従業者に周知されていたから,原告が
現実に実績補償金の支払を受けていないとしても,各事業年度の支払
時期に相当の対価の支払を受ける権利を行使することができたもので
ある。原告の上記主張は,採用することができない。
イ消滅時効期間の経過
(ア)原告が本件訴訟を提起したのは,平成23年10月13日である
から,原告の相当の対価の支払を受ける権利のうち平成7年度分から
平成11年度分までの実績補償金の支払時期を起算点とする消滅時効
期間が経過していることになる。
ところで,前提事実に証拠(甲3,乙2,23)を総合すれば,被
告は,平成22年4月16日,補償金対象特許等や未払額について原
告に説明した際に,本件発明1の実績補償金について,平成9年度以
前の15万円は消滅時効が完成したが,平成10年度ないし平成12
年度の各3万円及び平成13年度の1万円は消滅時効が完成していな
いと説明し,同年5月21日,原告に対し,平成10年度ないし平成
13年度の合計10万円を支払ったことが認められる。これらの事実
によると,被告は,相当の対価のうちの平成10年度及び平成11年
度の支払を受ける権利について,債務を承認したものであり,これに
より,その消滅時効は中断したといわなければならない。そうすると,
平成10年度及び平成11年度の相当の対価の支払を受ける権利につ
いては,原告が本件訴訟を提起した平成23年10月13日までに消
滅時効期間が経過していないものである。
(イ)被告は,勤務規則に基づく補償金支払請求権と法定の相当の対価
の支払請求権とは併存し,勤務規則による補償金の支払をしても,相
当の対価の支払請求権について債務の承認をしたことになるものでは
ないと主張する。しかしながら,勤務規則等に使用者等が従業者等に
対して支払うべき対価に関する条項がある場合において,従業者等は,
これによる対価の額が特許法35条4項の規定に従って定められる対
価の額に満たないときに,同条3項の規定に基づいて,その不足する
額に相当する額の支払を求めることができるのであるから,使用者等
が勤務規則による補償金の支払をしたときは,相当の対価の支払をし
たものというべきである。被告の上記主張は,採用することができな
い。
ウ消滅時効の援用
したがって,平成9年度分以前の相当の対価の支払を受ける権利は,
被告の消滅時効の援用により消滅したものである。
原告は,平成9年から運用を開始した実績補償の支給手続の根拠とな
る実績補償細則等が原告の在籍中に説明されておらず,本件訴訟前の知
財仲裁センターによる調停段階でも明らかにされなかったこと,退職者
について実績補償金の支給の可否,支給時期等について知らせない体制
であったたことを考慮すると,被告が消滅時効を援用することは信義則
に反すると主張する。しかしながら,被告は,原告が被告に在職してい
る期間中,補償規則及び補償細則を差替式の規定集として各部に備え付
けていて,従業者が自由にこれを閲覧することができたのであり,また,
証拠(乙2,23)によれば,被告は,原告を考案者とした考案の名称
を「移動体への給電装置」とする実用新案(登録番号1996748号)
につき,平成9年11月12日付「特許等実績補償金支給明細書」を作
成し,同月24日,原告に対し,平成8年度分の実績補償金10万円を
支払っていることが認められるから,原告は,平成9年の時点で職務発
明について実績補償金の支払があることを知ることができたのである。
これらの事情に鑑みれば,被告による消滅時効の援用が信義則に反する
ということはできない。原告の上記主張は,採用することができない。
(2)そこで,平成10年度以降の相当の対価の額について検討する。
ア被告が受けるべき利益の額について
(ア)使用者等は,職務発明について特許を受ける権利等を承継しない
場合でも,当該特許権について無償の通常実施権を取得することがで
きるから,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,
使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体をい
うものではなく,使用者等が従業者等から特許を受ける権利を承継し,
当該発明を排他的かつ独占的に実施する地位を得,その結果,実施許
諾を得ていない競業他社に対する禁止権を行使することによって得ら
れる利益の額をいうものと解される。この利益の額は,特許権者が当
該発明を他社に実施許諾をせずに自ら実施している場合は,他社に対
して当該発明の実施を禁止できることにより,他社に実施許諾してい
た場合に予想される売上高と比較して,これを上回る売上高,いわゆ
る超過売上高を得たことに基づく利益をいうものと解される。ここで
超過売上高とは,仮に他社に実施許諾した事態を想定した場合に使用
者等が得たであろう仮想の売上高と現実に使用者等が得た売上高とを
比較して算出された差額に相当するものというべきであり,使用者等
が得た売上高に,特許の価値,ライセンス契約の有無,市場占有率,
市場における代替技術の存在等の諸般の事情を考慮して定められる独
占的地位に起因する一定の割合を乗じて算出すべきである。そして,
超過売上高を得たことに基づく利益は,上記方法により算出された超
過売上高に,仮想実施料率を乗じて算出するのが相当である。
(イ)弁論の全趣旨によれば,被告ビンゴゲーム機の平成10年度から
13年度までの間の被告の直営店及び第三者に対する売上高は3億5
000万円であると認められる。
証拠(甲4,乙27)及び弁論の全趣旨によれば,平成4年頃,ビ
ンゴゲームやルーレットゲームなど数字を合わせるゲームであるナン
バーゲーム機の市場規模は36億円であり,被告の製品は,その中で
69.5%を占めていたこと,平成11年頃からICタグ(RFID)
が普及して,本件発明1の代替技術として,これを使用したビンゴゲ
ーム機を導入することができるようになり,被告も平成14年からI
Cタグへの切替えをしていること,ビンゴゲーム機には,大別して,
玉番号読取式のものと穴番号読取式のものがあり,被告は,本件発明
1の実施品である玉番号読取式のビンゴゲーム機を製造,販売したほ
か,平成元年から穴番号読取式のビンゴゲーム機「ビンゴサーカス」
を製造,販売して現在に至っていることが認められ,これらの事情を
併せ考えると,本件発明1を自ら実施したことによる超過売上高は,
平成10年以後の被告のビンゴゲーム機の売上高の50%であると認
めるのが相当である。
被告は,本件発明1について他社に実施許諾をしたことはなく,ま
た,平成11年頃からICタグを使用したビンゴゲーム機を導入する
ことができるようになり,これは,本件発明1の代替技術となるもの
であるから,当業者が本件発明1について実施許諾を受ける必要性は
乏しいといわなければならず,これらの事情に照らすと,仮想実施料
率は2%であると認めるのが相当である。
そうすると,本件発明1の実施により被告が受けるべき利益の額は,
350万円であると認められる(3億5000万円×50%×2%=
350万円)。
イ被告が貢献した程度について
前記前提事実に証拠(甲4,12,乙9,10,16,32,33,
39)及び弁論の全趣旨を総合すれば,(ア)昭和61年頃,原告が所
属していた被告の第1研究開発部新技術開発課は,原告のほか,入社2
年目のBが所属していた,(イ)Cは,玉が落ちる穴の番号を読み取る
方式のビンゴゲーム機が発売されていた中で,実際のビンゴゲームのよ
うに,大きく玉をかき混ぜた後に取り出した玉の番号を読み取る方式の
ビンゴゲーム機開発の企画書を作成して被告研究開発部本部長E(以下
「E」という。)に提出し,Eは,原告に対し,ビンゴゲーム機におい
て玉の番号を読み取る技術の開発を指示した,(ウ)原告は,これを受
けて,電磁的な方法により玉の番号を読み取る方式を検討し,Bは原告
の指示を受けながらビンゴ玉の試作品の製作を担当していた,(エ)B
は,玉内の検出用コイルの本数を1本にして実験をしていたところ,玉
が検出器に入る角度によって検出用コイルの信号を検出することができ
ない場合があることが判明し,原告と打ち合わせをする中で,玉内の検
出用コイルの本数を3本に増やしてみた,(オ)原告は,任意の玉から
1ないし25の番号を読み取る実験に成功し,本件発明1を着想したが,
その具体的な製品化や販売には関与していない,以上の事実が認められ
る。
そうすると,原告は,被告から発明の課題を提供され,被告の資材等
を用い,被告従業者の補助を得て本件発明に至ったものである。これら
の事情に照らすと,本件発明1がされるについて,被告が貢献した程度
は,80%であると認めるのが相当である。
ウ共同発明者の有無について
上記イ認定の事実によると,Bは,原告の指示に従いその実験等を補
助したにすぎず,本件発明1の完成に創作的に寄与していないから,本
件発明1の共同発明者であるということはできない。そして,他に本件
発明1の共同発明者がいると認めるに足りる証拠はない。
エしたがって,本件発明1について特許を受ける権利を被告に承継させ
たことによる平成10年度ないし平成13年度の相当の対価の合計額は,
70万円になる(350万円×(1-0.8)=70万円)。
オ被告による実績補償金の支払について
被告は,平成22年5月21日,原告に対し,平成10年度ないし平
成13年度の本件発明1の実績補償金合計10万円を支払っているから,
原告は,被告に対し,平成10年度ないし平成13年度の相当の対価の
未払額60万円及びこれに対する支払を催告した日の翌日から支払済み
まで民法所定の年5分の遅延損害金の支払を求めることができる。
2本件発明2-1及び2について
(1)原告が本件発明2-1及び2の発明者かについて判断する。
ア発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,その具体的
な技術手段を完成させた者,すなわち,ある技術手段を着想し,それを
具体化して完成させるための過程において発明の特徴的部分の完成に創
作的に寄与した者をいうと解すべきところ,この発明の特徴的部分とは,
特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られな
い部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をい
うと解するのが相当である。
イそこで,本件発明2-1及び2の特徴的部分についてみる。
(ア)証拠(乙1の2,2)によれば,本件発明2-1及び2は,複数
の走行体が走行面を走行する競争ゲーム装置及びその制御方法に関す
る,工場内で製品等の荷物を運搬する無人運搬車のような自走車の走
行は,従来,床などの走行面に例えば白線により走行ラインを描き,
自走車がこの走行ラインに沿って走行することにより行われ,白線か
ら外れそうになると,白線からのずれを無人運搬車が検知して,その
ずれを無くすように無人運搬車の走行方向を修正しているが,従来の
無人運搬車は予め決められた走行ラインに沿って動くものであり,無
人運搬車の走行ラインを変えるには,走行ライン自体を引き直さなけ
ればならないし,自走車が大きく走行ラインを外れた場合には修正が
困難であり,状況を判断して自走車の走行ラインを変えたりすること
は不可能であった,また,競馬,自動車レース等を模倣した従来の競
争ゲームは,環状のトラック上を馬や自動車模型のような自走車を走
らせて,到着順位を競ったり,到着順位を予想するものであるが,こ
の競争ゲームでは,自走車をあくまで決められた環状のトラック上し
か走らせることができず,フィールド上の自由なコースを走って競争
する実際の競馬や自動車レースに比べて臨場感に薄れ,興味も半減し
たものとならざるを得なかった,このように従来は,予め決められた
走行ラインを外れないように自走車の走行を制御するもので,走行ラ
インを必要に応じて変えたり,走行状況に応じて変えることができな
いので,無人運搬車の場合は必要に応じた適切な制御ができず,競争
ゲームの場合は臨場感のあるゲームができなかったところ,臨場感に
溢れ興味深い競争ゲームを楽しむことができる競争ゲーム装置及びそ
の制御方法を提供することを目的として,別紙「訂正後の特許請求の
範囲の記載2」に記載のとおりの構成を採用した,本件発明2-1及
び2は,このように構成したので,走行体の位置と進行方向を正確に
検出して,自由に走行させることができ,臨場感に溢れ興味深い競争
ゲームを楽しむことができる,以上の事実が認められる。
そして,前記前提事実に証拠(乙1の1・2,15)及び弁論の全
趣旨を総合すれば,平成13年3月5日,本件特許2に対し特許異議
の申立て(異議2001-70718号事件)がされ,特許庁は,同
年11月19日,本件特許2を取り消すとの決定をした(以下「本件
取消決定」という。),被告は,平成14年1月11日,東京高等裁判
所に本件取消決定の取消しを求める訴え(同裁判所平成14年(行ケ)
第29号)を提起し,同事件の係属中の平成17年3月28日,明細
書の特許請求の範囲の請求項1ないし5及び7ないし11を削除し,
請求項6及び12を請求項1及び2とし,それぞれを訂正するとの内
容の訂正審判を請求した,特許庁は,同年6月16日,本件取消決定
において本件原々々出願2と同一とされた請求項1,2,7及び8が
削除され,引用された刊行物には,「少なくとも観客がベットした状
況」によってレース展開が変化する旨の記載及びそれを示唆する記載
は認められないから,「少なくとも観客がベットした状況」によって
ゲームのレースの展開が変化する点は,当業者が容易に想到できたも
のとは認められないとして,訂正を認めるとの決定をした,東京高等
裁判所は,同年8月30日,本件取消決定を取り消すとの判決を言い
渡し,特許庁は,同年10月22日,本件特許権2を維持するとの決
定をした,以上の事実が認められる。
(イ)上記認定の事実によれば,走行体をトラック上でなく任意の走行
ラインに沿って走行させることは,本件出願2の出願日である昭和6
3年4月9日よりも前の周知技術か,又は周知技術に基づき当業者が
容易に設計変更できる事項であると認められる。そうすると,本件発
明2-1及び2の特徴的部分は,臨場感に溢れ興味深い競争ゲームを
楽しむことができる競争ゲーム装置及びその制御方法を提供するとい
う課題を解決するために,「走行テーブルは少なくとも観客がベット
した状況を要素として所定のアルゴリズムに従ってレースの度毎に作
成される」という構成を採用したところにあると認められる。
ウ証拠(乙7ないし9)によれば,Cは,昭和62年4月頃,Eから,
競馬ゲームの企画を考えるよう指示を受け,シグマ社の競馬ゲームと異
なり,馬の能力を順位付けしたり,ベットを条件として考慮して順位及
びレース展開を決定することにより客がある程度レースを予測すること
ができるような競馬ゲームの企画をしたこと,企画に変更が生じた場合
はCに連絡することとされたことが認められる。そして,原告は,本件
発明2-1及び2の特徴的部分であると認定した上記構成が公知である
と主張しているところ,このことを併せ考えると,原告が上記構成の完
成に創作的に寄与したと認めることはできない。
そうであるから,原告が本件発明2-1及び2の発明者であると認め
ることはできない。
(2)したがって,本件発明2-1及び2に係る原告の請求は,その余の点
について判断するまでもなく,理由がない。
3以上のとおりであって,原告の請求は,本件発明1について,60万円及
びこれに対する支払を催告した日の後であり訴状送達の日の翌日であること
が記録上明らかな平成23年10月27日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理
由がなく,本件発明2-1及び2については理由がない。
よって,上記の限度で原告の請求を認容することとして,主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官藤田壮
(別紙)
訂正後の特許請求の範囲の記載1
【請求項1】各々共振周波数の異なる被検出用共振回路が付設された複数個の物
体を各々識別する物体識別方法であって,前記物体を検出用コイルに接近させ,
前記検出用コイルを,前記各被検出用共振回路の共振周波数を含む周波数帯域で,
掃引発振器により周波数を掃引して励磁し,励磁周波数の変化に伴って,励磁中
の前記検出用コイルに生ずるインピーダンスが変化した時点を検出し,前記変化
した時点での励磁周波数を周波数計算手段により計数し,前記周波数計算手段に
よる計数値を予め設定してある被検出用共振回路の共振周波数と比較して,当該
周波数に対応する共振回路を有する物体を識別することを特徴とするゲーム機に
おける物体識別方法。
【請求項2】各々共振周波数の異なる被検出用共振回路が付設された複数個の物
体を各々識別する物体識別装置であって,角度を異ならせて設けた検出用コイル
と,前記複数の検出用コイルを,順番に,前記各被検出用共振回路の共振周波数
を含む周波数帯域で周波数を順次変化させて励磁する励磁手段と,物体の接近に
伴って,励磁中の前記検出用コイルに生ずるインピーダンス変化を検出するイン
ピーダンス変化検出手段と,前記インピーダンス変化を検出した時点の,前記励
磁手段の励磁周波数を検出する周波数検出手段と,前記検出された励磁周波数を
各物体について予め設定してある被検出用共振回路の共振周波数と比較して,物
体を特定する判定手段とを備えてなることを特徴とするゲーム機における物体識
別装置。
【請求項3】前記励磁手段として,掃引発振器を備えたことを特徴とする特許請
求の範囲第2項記載のゲーム機における物体識別装置。
【請求項4】前記励磁手段として,周波数を順次切替える機能を有する多段周波
数発振器を備えたことを特徴とする特許請求の範囲第2項記載のゲーム機におけ
る物体識別装置。
(別紙)
訂正後の特許請求の範囲の記載2
【請求項1】複数の模型体がフィールド上を順位を競って走行する競争ゲーム装
置であって,前記複数の模型体が自由走行可能に配置されたフィールド面と,前
記フィールド面の下方に配置された走行面と,前記フィールド面を挟んで対応す
る模型体のそれぞれと磁力を介して結合するように前記走行面上に配置され,そ
れぞれに搭載された駆動手段によって自走可能に構成された複数の走行体と,前
記複数の走行体のそれぞれについて,所定の制御周期で各走行体の現在時刻にお
ける位置の座標値を順次検出する手段と,前記複数の走行体のそれぞれに対し,
前記所定の制御周期に対応して所定時間間隔で設定された,曲線を含む自由な走
行ラインに沿った一連の走行目標位置の座標値を含む走行テーブルを設定する手
段とを有し,前記複数の走行体のそれぞれについて,検出された現在時刻におけ
る位置の座標値と対応する次の時刻における走行目標位置の座標値とに基づき次
の時刻までの間に各走行体の進むべき走行方向および速度を含む前記駆動手段を
制御するための駆動量を前記制御周期毎に順次演算し,これに基づき前記駆動手
段を制御することにより,前記走行体のそれぞれが設定された走行テーブルに格
納された制御周期毎の前記位置座標値によって規定される前記走行ラインに沿っ
て走行し,走行体に牽引される各模型体が順位を競って前記自由な走行ラインに
沿って走行するように構成されてなり,前記走行テーブルは,少なくとも観客が
ベットした状況を要素として所定のアルゴリズムに従ってレースの度毎に作成さ
れることを特徴とする競争ゲーム装置。
【請求項2】複数の模型体がフィールド上を順位を競って走行する競争ゲーム装
置の制御方法であって,前記複数の模型体をフィールド面上に自由走行可能に配
置し,前記フィールド面の下方に配置された走行面上に,前記フィールド面を挟
んで対応する模型体のそれぞれと磁力を介して結合するように複数の走行体を配
置し,前記複数の走行体は,それぞれに搭載された駆動手段によって自走可能で
あり,前記複数の走行体のそれぞれに対し,所定の制御周期に対応して所定時間
間隔で設定された,曲線を含む自由な走行ラインに沿った一連の走行目標位置の
座標値を含む走行テーブルを設定し,前記複数の走行体のそれぞれについて,前
記所定の制御周期で各走行体の現在時刻における位置の座標値を順次検出し,前
記複数の走行体のそれぞれについて,検出された現在時刻における位置の座標値
と対応する次の時刻における走行目標位置の座標値とに基づき次の時刻までの間
に各走行体の進むべき走行方向および速度を含む前記駆動手段を制御するための
駆動量を前記制御周期毎に順次演算し,これに基づき前記駆動手段を制御するこ
とにより,前記走行体のそれぞれが設定された走行テーブルに格納された制御周
期毎の前記位置座標値によって規定される前記走行ラインに沿って走行し,走行
体に牽引される各模型体が順位を競って前記自由な走行ラインに沿って走行し,
前記走行テーブルは,少なくとも観客がベッドした状況を要素として所定のアル
ゴリズムに従ってレースの度毎に作成されることを特徴とする競争ゲーム装置の
制御方法。

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