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平成14年(ネ)第4837号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平
成13年(ワ)第15252号)(平成14年11月27日口頭弁論終結)
          判          決
       控訴人   アオイ産業株式会社
       訴訟代理人弁護士   安   福   謙   二
       同          井垣 弘
       同          堀   西   俊   光
       被控訴人   日立機材株式会社
       訴訟代理人弁護士   大   崎   巖   男
       同          森       明   吉
       同          菊   地   達   也
       同          吉澤敬夫
       同          牧野知彦
          主          文
      本件控訴を棄却する。
      控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は,控訴人に対し,2255万円及びこれに対する平成13年1月
22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 4 仮執行宣言
第2 事案の概要
   本件は,西松建設株式会社(以下「西松建設」という。)の発注に係る土砂
搬送機の受注競争を展開した控訴人と被控訴人との間において,控訴人が,被控訴
人側の担当者らが自社の特許が無効理由を有していることを知りながら西松建設の
担当者に対して特許取得の事実を告知した行為は,不正競争防止法2条1項14号
所定の不正競争行為に該当すると主張して,被控訴人に対し損害賠償を求めた事案
であり,控訴人において,その請求を棄却した原判決の取消しを求めているもので
ある。
   本件の前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり
訂正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び
2のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決の訂正
 (1) 原判決2頁16行目,4頁4行目及び末行,7頁24行目及び25行目,
8頁1行目及び4行目の「土砂運搬機」をいずれも「土砂搬送機」に改める。
 (2) 同2頁23行目の「甲4」の次に「,以下,枝番号の記載は省略する。」
を,末行の「伊藤忠建機」の次に「株式会社(以下「伊藤忠建機」という。)」を
それぞれ加え,3頁12行目の「平成12」を「同」に,13行目の「特許登録」
を「設定登録」に,16行目の「平成13」を「同」に,19行目~20行目の
「取消訴訟を提起し,現在係属中である」を「取消訴訟(平成13年(行ケ)第4
50号)を提起したが,平成14年11月20日,請求棄却の判決が言い渡され
た」にそれぞれ改める。
 (3) 同4頁9行目~10行目の「特許出願した。このように,被告は」を「特
許出願をしたものであって」に,6頁12行目の「特許を許した」を「特許審決を
した」にそれぞれ改める。
 2 控訴人の当審における主張
 (1) 原判決は,不正競争防止法2条1項14号の解釈において,「一般に,自
社が特許を取得した場合,そのことを取引先等に告げたりして,営業面で有利に活
用することは,特段の事情のない限り,自由競争の範囲内の正当な営業活動と解す
べきである」と判断する(原判決10頁(2)項第2段落)ところ,当該特許が有効な
ものであれば妥当な解釈といえるが,当該特許が無効理由を有しており,かつ,そ
のことを特許権者が知っている場合には,当該特許を営業活動に用いることは,も
はや自由競争の範囲内の正当な営業活動とはいえない。また,取引先が競争者の製
品を購入することをちゅうちょする状況においては,単に自社が特許を取得した旨
を告知するにとどまっても,取引先の紛争回避的性向を利用したものといえるか
ら,同号の不正競争行為に該当するというべきである。
 (2) 西松建設は,平成12年12月12日に,工事名「常新加平工事」の工事
に使用する土砂搬送機を控訴人に発注することを内定した。ところが,同月13日
ころ,被控訴人側の担当者らが,西松建設のAに対し,被控訴人の製品のバケット
に関する特許が成立した旨を告げたため,西松建設は,発注先を被控訴人と決定す
ることとなったものである。このことは,Aが控訴人にファクシミリ送信した「バ
ケット式垂直土砂搬送設備のメーカー決定について」と題する書面(甲18)にお
いて,控訴人の製品を不採用とした理由について,特許紛争に関して西松建設のリ
スクを最小限にすることのみを挙げて記載していることからも明らかである。これ
に反するAの陳述書(乙1)の記載のみを採用することは許されないというべきで
ある。
 3 被控訴人の当審における主張
   控訴人の主張は争う。
   なお,本件特許を無効とした審決の取消しを求めた東京高裁平成13年(行
ケ)第450号審決取消請求事件は,請求棄却で終わったが,本件特許が結果的に
無効となるかどうかは,本件の結論に何ら影響を与えるものではない。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり訂正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第
3争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決の訂正
   原判決9頁13行目~17行目を削り,9頁23行目~24行目,10頁3
行目及び20行目の「土砂運搬機」をいずれも「土砂搬送機」に改め,10頁7行
目の「決定する」の次に「こととされた」を加える。
 2 控訴人の当審における主張に対する判断
 (1) 控訴人は,特許が無効理由を有しており,かつ,そのことを特許権者が知
っている場合には,当該特許を営業活動に用いることは,もはや自由競争の範囲内
の正当な営業活動とはいえないとして,不正競争防止法2条1項14号の不正競争
行為の成立を主張する。しかし,本件において,本件特許に関する告知行為として
証拠上認められるのは,上記引用に係る原判決の認定(原判決9頁イの項第1段
落)のとおり,伊藤忠建機の従業員のBが,平成12年12月12日,西松建設の
従業員のAに対し,被控訴人の製品のバケットに関する特許が成立したと告げた行
為及び被控訴人の従業員の逢見が,平成13年2月13日ころ,上記Aに対し,本
件特許の特許証及び特許請求の範囲が記載された書面を提示した行為にとどまり,
それ以上に,控訴人の土砂搬送機が本件特許権を侵害している等の事実を告知した
と認めるに足りる証拠はない。そして,告知に係る事実が「虚偽」であるかどうか
は,その受け手の普通の注意と聞き方を基準として,当該事実につき,真実と反す
るような誤解をするかどうかで判断すべきところ,上記の認定事実からして,上記
告知行為の受け手である西松建設は,本件特許権が成立したとの事実及びその客観
的な内容を認識するにとどまるというべきであって,何ら真実と反するような誤解
を生じさせるものということはできない。したがって,仮に,伊藤忠建機のBの上
記行為を被控訴人の行為と同視し得るとしても,本件特許に関して西松建設に告知
された内容は,客観的に事実と異なるものではなく,不正競争防止法2条1項14
号に規定する「虚偽の事実」の告知又は流布があったということはできないという
べきである。また,本件特許に関して,後日,無効審決がされるとともに,その審
決取消訴訟において被控訴人の請求が棄却されたとの一連の経過は,本件において
不正競争行為の成否が問題となっている告知行為以後のことであって,当該告知行
為の当時において,本件特許に無効理由が客観的に存在していたかどうか,被控訴
人がそれを知っていたかどうか,さらには,上記無効審決の確定により本件特許権
が初めから存在しなかったものとみなされることとなるかどうかは,上記認定判断
を左右するものではなく,被控訴人がその無効理由の存在を告知行為の当時に知っ
ていたことを認めるに足りる証拠もないから,控訴人の上記主張は採用することが
できない。
 (2) 次に,控訴人は,取引先が競争者の製品を購入することをちゅうちょする
状況においては,単に自社が特許を取得した旨を告知するにとどまっても,取引先
の紛争回避的性向を利用したものといえるから,このような場合には,不正競争防
止法2条1項14号の不正競争行為に該当する旨主張するとともに,西松建設は,
被控訴人側の担当者らの告知行為の当時,既に,工事名「常新加平工事」の工事に
使用する土砂搬送機を控訴人に発注することを内定していた旨主張する。しかし,
控訴人の主張するような西松建設における内定の事実があり,また,西松建設にお
いて上記発注先を被控訴人と選定した理由が,控訴人の主張するように,特許紛争
に係るリスクの回避にあったとしても,そのことゆえに,被控訴人又は伊藤忠建機
の担当者が西松建設の担当者に本件特許の成立を告げた行為が,不正競争防止法2
条1項14号に規定する「虚偽の事実」の告知又は流布と評価し得ることになるも
のではないから,その主張は,上記不正競争行為の成否に何ら消長を来すものでは
なく,採用の限りではない。
 3 結論
   以上のとおり,控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないから,これを棄
却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。
   よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠原勝美
    裁判官 長沢幸男
    裁判官 宮坂昌利

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