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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 原告の請求
被告が原告に対して平成二年一二月二七日付けでした次の各更正(以下「本件各更
正」という。)を取り消す。
一 原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度(以下
「昭和六三年三月期」という。)に係る法人税の更正のうち、所得金額三億五八万
一九一五円及び納付すべき法人税額八一一五万六八〇〇円を超える部分
二 原告の昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度(以下「平
成元年三月期」という。)に係る法人税の更正のうち、所得金額一億二一九〇万二
六〇〇円及び納付すべき法人税額三二九一万三五〇〇円を超える部分
三 原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度(以下「平成
二年三月期」といい、右各事業年度を合わせて「本件各事業年度」という。)に係
る法人税の更正のうち、所得金額二億一三八四万三〇四五円及び納付すべき法人税
額五七七三万七六〇〇円を超える部分
第二 事案の概要
一 公益法人に関する法人税の課税関係等
宗教法人を含む公益法人等は、収益事業を営む場合に限り、その収益事業から生じ
た各事業年度の所得について法人税が課され(法人税法(以下「法」という。)四
条、五条)、収益事業以外の事業(以下「非収益事業」という。)から生じた所得
については法人税が課されない(法七条)。
ここにいう収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して
事業場を設けて営まれるものをいい(法二条一三号)、法人税法施行令(以下「施
行令」という。)五条一項五号は、右事業の一つとして、不動産貸付業を掲げてい
る。ただし、公益法人等が行う不動産貸付業のうち、主として住宅の用に供される
土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他大蔵省令で定める
要件を満たすもの(以下「低廉住宅用地貸付業」という。)は、収益事業とされる
不動産貸付業から除外されている(施行令五条一項五号へ)。右大蔵省令で定める
要件とは、主として住宅の用に供される土地の貸付業の貸付けの対価の額のうち、
当該事業年度の貸付期間につき経常的に収受する地代の額が、当該貸付けに係る土
地に課される固定資産税額及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に
三を乗じて計算した金額(昭和六三年四月一日前で、当該土地につき地代家賃統制
令の適用がある場合において、当該金額が同令三条に規定する停止統制額又は認可
統制額の当該貸付期間に対応する金額を超えるときは、これらの金額)以下である
ことをいう(法人税法施行規則四条の二)。
本件は、自己所有の土地を低廉住宅用地貸付業に係る貸付けに供していた宗教法人
である原告が、借地権者が右借地権を譲渡する際の承諾料として得た収入(以下
「譲渡承諾料」という。)を、非収益事業に係る収入として益金の額に算入せずに
本件各事業年度に係る法人税の申告をしたところ、被告から、これを収益事業に係
る収入として益金の額に算入すべきであるなどとして本件各更正を受けたため、原
告が、被告に対し、本件各更正の取消しを求めているものである。
二 当事者間に争いがない事実
1 原告は、昭和二七年九月二六日に設立された宗教法人である。
2 原告は、別紙一記載の各旧借地権者(以下「本件旧借地権者」という。)に対
し、同各対象土地(以下「本件各土地」という。)を賃貸していたところ、本件旧
借地権者が右賃貸に係る借地権を同各新借地権者(以下「本件新借地権者」とい
う。)に譲渡し、原告はこれを承諾した。
原告は、右承諾に伴い、別紙一記載の各収受日に、同各譲渡承諾料(以下「本件譲
渡承諾料」という。)を収受した。
原告の本件旧借地権者に対する本件各土地の貸付け(以下「本件旧貸付け」とい
う。)は、低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとして非収益事業に該当するのに対
し、原告の本件新借地権者に対する本件各土地の貸付け(以下「本件新貸付け」と
いう。)は、収益事業としての不動産貸付業に係る貸付けに該当するものである。
3 原告の本件各事業年度に係る法人税の申告、本件各更正及びその後の不服申立
ての経緯は、別紙二表1から3までに記載したとおりである。すなわち、原告は、
本件譲渡承諾料を、非収益事業に係る収入として益金の額に算入せずに本件各事業
年度に係る所得金額の申告をしたところ、被告は、これを収益事業に係る収入とし
て益金の額に算入すべきであるなどとして、本件各更正をした。
三 本件各更正の適法性に関する被告の主張
1 昭和六三年三月期
(一) 申告所得金額                   二億八三一二万九
六七二円
右金額は、原告の申告による所得金額であり、当事者間に争いがない。
(二) 第一次減額更正処分に係る所得金額         二億七九一八万二
〇一五円
右金額は、被告が昭和六三年一二月二七日付けでした当期に係る原告の法人税の更
正後の所得金額であり、当事者間に争いがない。
(三) 譲渡承諾料の計上もれの額                 一億五六
四〇万円
右金額は、別紙一1から3までに記載した譲渡承諾料の合計額であり、収益事業に
係る収入として益金の額に算入すべきものである。原告が当期に収受した譲渡承諾
料の合計額が右金額であることについては、当事者間に争いがない。
(四) 更新料(借地条件変更承諾料)収入の計上もれの額        三五
〇〇万円
右金額は、原告が、昭和六二年七月八日付け協定書に基づき、借地人Aから借地条
件変更承諾料として収受したものであり、右賃貸に係る土地は事業用として使用さ
れているため、収益事業から生じた収入として益金の額に算入すべきものである。
右金額については、当事者間に争いがない。
(五) 地代収入の計上もれの額                  一一万五
三二〇円
右金額は、原告がAに賃貸している土地に係る当期分の地代の額であり、右土地は
事業用として使用されており、住宅用地とは認められないため、収益事業に係る収
入として益金の額に算入すべきものである(平成元年三月期、平成二年三月期につ
いても同じ)。右金額については、当事者間に争いがない。
(六) 事業経費の認容額                   二四六〇万五
七五九円
右金額は、(三)から(五)までの収益事業に係る経費であり、次の(1)から
(4)までの合計額である。
(1) 報酬給与                       二一二万四三
一五円
(2) 租税公課                         四万二二
七七円
(3) 不動産管理料                       二七四万
八五円
(4) 支払手数料                     一九六九万九〇
八二円
(七) 寄付金の認容額                  一億六六九〇万九
五六一円
右金額は、法三七条四項に基づいて、(三)から(五)までの金額の合計額から、
(六)の金額を控除した金額を、収益事業に係る寄付金の額とみなしたものであ
る。
(八) 寄附金の損金不算入額               一億一六八三万六
六九三円
右金額は、原告の申告による寄付金額に(七)の金額を含めて、寄附金の損金不算
入額を再計算したものである。
(九) 所得金額                     三億九六〇一万八
七〇八円
右金額は、(二)から(五)までの金額に(八)の金額を加算した金額から、
(六)及び(七)の金額を控除して算出したものである。
2 平成元年三月期
(一) 申告所得金額                   一億二一九〇万二
六〇〇円
右金額は、原告の申告による所得金額であり、当事者間に争いがない。
(二) 譲渡承諾料の計上もれの額                   八〇
〇〇万円
右金額は、別紙一4及び5に記載した譲渡承諾料の合計額であり、収益事業に係る
収入として益金の額に算入すべきものである。原告が当期に収受した譲渡承諾料の
合計額が右金額であることについては、当事者間に争いがない。
(三) 地代収入の計上もれの額                   二三万
六四〇円
右金額は、原告がAに賃貸している土地に係る当期分の地代の額であり、当事者間
に争いがない。
(四) 事業経費の認容額                   一一八一万八
六〇二円
右金額は、(二)及び(三)の収益事業に係る経費であり、次の(1)から(4)
までの合計額である。
(1) 報酬給与                       二四〇万四〇
五八円
(2) 租税公課                         七万五六
〇円
(3) 不動産管理料                         四三
〇一円
(4) 支払手数料                     九三三万九六八
三円
(五) 寄付金の認容額                    六八四一万二
〇三八円
右金額は、法三七条四項に基づいて、(二)及び(三)の金額の合計額から、
(四)の金額を控除した金額を、収益事業に係る寄付金の額とみなしたものであ
る。
(六) 事業税認定損                     一五四二万二
三〇〇円
右金額は、所得金額の増加に伴う事業税の増加額である。
(七) 寄付金の損金不算入額                 四七五六万七
二五一円
右金額は、原告の申告による寄付金額に(五)の金額を含めて寄附金の損金不算入
額を再計算したものである。
(八) 所得金額                     一億五四〇四万七
五五一円
右金額は、(一)から(三)までの金額に(七)の金額を加算した金額から、
(四)から(六)までの金額を控除して算出したものである。
3 平成二年三月期
(一) 申告所得金額                   二億一三七四万三
二六〇円
右金額は、原告の申告による所得金額であり、当事者間に争いがない。
(二) 譲渡承諾料の計上もれの額             二億一三六八万八
八〇〇円
右金額は、別紙一6から9までに記載した譲渡承諾料の合計額であり、収益事業に
係る収入として益金の額に算入すべきものである。原告が当期に収受した譲渡承諾
料の合計額が右金額であることについては、当事者間に争いがない。
(三) 地代収入の計上もれの額                  二七万一
六八〇円
右金額は、原告がAに賃貸している土地に係る当期分の地代の額であり、当事者間
に争いがない。
(四) 事業経費の認容額                   二六二二万三
二〇二円
右金額は、(二)及び(三)の収益事業に係る経費であり、次の(1)から(4)
までの合計額である。
(1) 報酬給与                       三九〇万九三
一三円
(2) 租税公課                         八万五一
八八円
(3) 不動産管理料                       三万八四
三二円
(4) 支払手数料                      二二一九万二
六九円
(五) 寄付金の認容額                  一億八七七三万七
二七八円
右金額は、法三七条四項に基づいて、(二)及び(三)の金額の合計額から、
(四)の金額を控除した金額を、収益事業に係る寄付金の額とみなしたものであ
る。
(六) 事業税認定損                       四〇五万
一〇〇円
右金額は、所得金額の増加に伴う事業税の増加額である。
(七) 寄付金の損金不算入額               一億三二六三万一
一二五円
右金額は、原告の申告による寄付金額に(五)の金額を含めて寄附金の損金不算入
額を再計算したものである。
(八) 所得金額                     三億四二三二万四
二八五円
右金額は、(一)から(三)までの金額に(七)の金額を加算した金額から、
(四)から(六)までの金額を控除して算出したものである。
以上のとおり、本件各更正における所得金額は、右各所得金額と同額であるから、
本件各更正はいずれも適法である。
四 原告の本件各事業年度に係る所得金額の主張額は、別紙三表1から3までの
「原告主張」欄に記載したとおりである。
五 争点
譲渡承諾料は、不動産の貸付けから生じる収入であるから、非収益事業に係る収入
に該当しない限り、収益事業とされる不動産貸付業に係る収入として益金の額に算
入すべきであることについては、当事者間に争いがない。本件の争点及びこれに関
する当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。
1 本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当
するか否か。
(一) 被告の主張
(1) 譲渡承諾料は、旧借地権者が、新借地権者に借地権を譲渡するに際し、賃
貸人と新借地権者との間の賃貸借関係を有効に存続させるために、賃貸人に対して
譲渡の承諾を求めることの対価として支払われるものである。すなわち、譲渡承諾
料は、賃貸人が、旧借地権者との間の賃貸借関係を終了させて、
新借地権者との間の賃貸借関係を設定し、又は旧借地権者との間の賃貸借関係を新
借地権者に承継させることを承諾することの対価である。
右のような譲渡承諾料の性質に照らすと、譲渡承諾料は、賃貸人が旧借地権者に対
する貸付けをそのまま継続する限りにおいては取得できず、正に賃貸人が新借地権
者に対する貸付けを行うことを承諾するからこそ取得できるものであるから、その
所得の源泉は、賃貸人の旧借地権者に対する貸付けにあるのではなく、賃貸人が新
借地権者に対する新たな貸付けを承諾することにあるものというべきである。
したがって、譲渡承諾料は、賃貸人の新借地権者に対する貸付けから生じた収入で
あるというべきであるから、これが低廉住宅用地貸付業に係る収入であるかどうか
については、賃貸人の新借地権者に対する貸付けの内容が低廉住宅用地貸付業に係
る貸付けに該当するかどうかによって判断されるべきである。
そうすると、本件新貸付けは低廉住宅用地貸付業に係る貸付けには該当しないか
ら、本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入には該
当しないというべきである。
(2) なお、原告は、譲渡承諾料の法的経済的負担者は旧借地権者である旨主張
するが、新借地権者は、借地権の譲渡を受けるために必要な費用を、借地権の譲渡
代金に譲渡承諾料の額を加算した額としてとらえているのであるから、譲渡承諾料
は、これを新借地権者が支払う場合はもとより、旧借地権者が支払う場合であって
も、実質的には、新借地権者が、自分が当該土地を賃借するために必要な費用とし
て出損しているものであるというべきである。
また、原告は、譲渡承諾料には地代の後払としての側面がある旨主張するが、当事
者には、地代の後払という意識は全くなく、借地権譲渡代金又は借地権価額を基準
として譲渡承諾料の額を決定しているから、右主張は取引の実態に合致していない
のみならず、本件においては、本件譲渡承諾料が地代に含まれるものとして本件旧
貸付けの地代の額を計算すると、本件旧貸付けが低廉住宅用地貸付業に係る貸付け
としての要件を満たさないことになる。
したがって、原告の右主張は、いずれも相当ではない。
(二) 原告の主張
借地権の譲渡は、旧借地権者が、新借地権者に対し、賃貸人との間の賃貸借関係
を、一体として、かつ、同一の内容で承継的に移転することであり、譲渡承諾料
は、
賃貸人が、右の賃貸借関係の承継的移転を承諾することの対価である。
また、譲渡承諾料の経済的実質をみると、旧借地権者が、賃貸人に対し、過去に支
払った低い地代の差額を後払するという側面を有するものである。
しかも、譲渡承諾料は、旧借地権者において、借地権を譲渡して投下資本の回収を
図るに当たり、賃貸人から無断譲渡に基づき賃貸借契約を解除されるのを避けるた
めに負担するものであるから、その法的経済的負担者は旧借地権者であるというべ
きである。仮に、新借地権者が賃貸人に対して直接譲渡承諾料を支払う場合であっ
ても、それは、旧借地権者が、支払の煩雑さを避けるために、借地権の譲渡代金の
額から譲渡承諾料の額を控除して新借地権者に支払わせているものにすぎず、譲渡
承諾料の最終的な負担者が旧借地権者であることに変わりはない。
これらの点にかんがみると、本件譲渡承諾料は、本件旧貸付けに係る付随収入とし
て、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するというべきであ
る。
2 本件各更正は、信義則に違反して違法か否か。
(一) 原告の主張
被告は、原告の過去一〇数年に及ぶ法人税の申告について、譲渡承諾料を収益事業
に係る収入とする旨の指導をしなかったものであり、このことは、譲渡承諾料を非
収益事業に係る収入とする旨の公的見解の表示をしたことにほかならない。
しかるに、被告は、従前の指導を翻し、既に税務調査が終了した昭和六三年三月期
の法人税の申告に遡って、本件譲渡承諾料を収益事業に係る収入であるなどとし
て、本件各更正をしたものである。
このように、本件各更正は、法的安定性を著しく害し、課税の公平性及び明白性を
欠くものであるから、信義則の法理を適用すべき特別の事情が存するというべきで
ある。
(二) 被告の主張
租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用
については、慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公
平という強い要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者
の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情が存する場合に、
初めて右法理を適用し得るものである。
そして、右の特別の事情が存するかどうかを判断するに当たっては、少なくとも、
税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者
がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する
課税処分が行われ、そのために納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基
づいて行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという
点を考慮する必要があるというべきである。
しかるに、本件においては、担当職員が、過去の税務調査において、譲渡承諾料を
非収益事業に係る収入とした原告の申告に対して格別の措置をとらなかったという
事情は認められるものの、右事情をもって、被告が原告に対し公的見解を表示した
ものとはいえないし、本件各更正によって、原告に不利益を与えたことにはならな
い。
したがって、本件各更正には、信義則の法理を適用し得る特別な事情が存するとは
いえない。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収
入に該当するか否か。)について
1 施行令五条一項五号へは、低廉住宅用地貸付業を収益事業とされる不動産貸付
業から除外し、右貸付業から生じた所得を非課税としているところ、右規定の趣旨
は、公益法人等が低廉な対価によって住宅の用に供する土地の貸付けを行っている
場合には、他の営利法人との間で競合関係が生じることが少ないので、右貸付業か
ら生じた所得をあえて収益事業から生じた所得として課税しなくても、課税上の不
均衡等の弊害が生じないことを顧慮したものであると解される。
右規定の趣旨に照らすと、公益法人等の土地の貸付けから生じた収入が、低廉住宅
用地貸付業に係る収入に該当するかどうかについては、右収入の基因となった貸付
けが、右収入を収受した時点における当該土地の利用状況に照らして、低廉住宅用
地貸付業に係る貸付けとしての要件を満たすものであり、他の営利法人との間で競
合関係が生じないといえるものであるかどうかによって判断するのが相当である。
そして、たとえば、賃貸人が、借地権の設定、更新、条件変更等のために権利金、
更新料、更改料その他の一時金等を収受した場合においては、右収入は、借地権の
設定、更新、条件変更等によって新たに設定された賃貸借関係に基因するものとい
うことができるから、新たに設定された賃貸借関係が低廉住宅用地貸付業に係る貸
付けとしての要件を満たしているときには、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付
業に係る収入に該当することになる。
ところで、借地権の譲渡は、旧借地権者から新借地権者に対して借地権が承継的に
移転するという法的効果をもたらすものではあるが、これを実質的にみれば、賃貸
人と旧借地権者との間の賃貸借関係を終了させ、新借地権者に当該土地を将来に向
かって利用させるものであるから、賃貸人と新借地権者との間に新たな賃貸借関係
を設定することにほかならない。
したがって、賃貸人が借地権の譲渡を承諾した際に収受する譲渡承諾料は、賃貸人
と新借地権者との間に新たな賃貸借関係を設定するための対価としての実質を有す
るものであり、前記の権利金、更新料、更改料等と同様、賃貸人の新借地権者に対
する新たな貸付けに基因するものというべきである。
しかも、前記施行令五条一項五号への趣旨に照らすと、公益法人である賃貸人の旧
借地権者に対する貸付けが、低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとしての要件を満た
していたとしても、借地権の譲渡により、当該賃貸人の新借地権者に対する新たな
貸付けが、一般の用に供される貸付けになった場合には、当該賃貸人が借地権の譲
渡を承諾することによって、他の営利企業との間で競合関係が生じ得る状態になっ
たものというべきであるから、右承諾の対価である譲渡承諾料を非収益事業に係る
収入として益金の額に算入しなければ、課税上の不均衡が生じることになる。
右のような譲渡承諾料の性質及び施行令五条一項五号への趣旨にかんがみると、譲
渡承諾料が非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するかどうか
については、賃貸人の新借地権者に対する新たな貸付けが低廉住宅用地貸付業に係
る貸付けとしての要件を満たしているかどうかという観点から判断するのが相当で
ある。
そこで、本件について検討すると、本件新貸付けが収益事業とされる不動産貸付業
に該当することについては当事者間に争いがないから、本件譲渡承諾料は、非収益
事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するとは認められず、収益事業
に係る収入に該当するというべきである。
2 これに対し、原告は、譲渡承諾料は、旧借地権者が、新借地権者に対し、賃貸
人との間の賃貸借関係を、一体として、かつ、同一の内容で承継的に移転すること
の対価であり、その法的経済的負担者は旧借地権者であるから、本件譲渡承諾料
は、本件旧貸付けに係る付随収入として、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業
に係る収入に該当する旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、譲渡承諾料は、これを実質的にみると、賃貸人と旧
借地権者との間の賃貸借関係を終了させ、新借地権者に当該土地を将来に向かって
利用させるための対価として支払われるものであり、賃貸人の旧借地権者に対する
貸付けをそのまま継続する限りにおいては取得できず、正に新借地権者に貸付けを
行うことを承諾するからこそ取得できるものであるから、借地権が承継的に移転す
るという法的効果をもってしても、譲渡承諾料が賃貸人の旧借地権者に対する貸付
けに基因すると解するのは相当ではない。
なお、譲渡承諾料は、現実に旧借地権者により支払われる場合と新借地権者により
支払われる場合があるが、譲渡承諾料が新借地権者が当該土地を将来に向かって利
用できるようにするための対価としての性質を有する以上、現実の支払がいずれに
よりなされたかによって、いずれに対する貸付けに基因するかが左右されるもので
はないというべきである。仮に、いずれにより支払われたかにより、これが左右さ
れるとすれば、いずれにより支払われるかは、賃貸人、旧借地権者及び新借地権者
の三者間における個別的な取引によって決められるものであるから、右三者間の合
意いかんによって、これを収益事業に係る収入とするか、それとも非収益事業に係
る収入とするかという取扱いを異にする結果をもたらすことになって、課税の公平
を欠くことになり、相当ではないというべきである。
したがって、原告の右主張は失当である。
3 さらに、原告は、譲渡承諾料は、過去に支払われた低い地代の差額の後払とし
ての側面を有するから、本件譲渡承諾料は本件旧貸付けに基因する旨主張する。
確かに、譲渡承諾料の中には原告主張のような差額地代の後払的側面も含まれるこ
とは一般に指摘されているところである。しかし、それは、借地権の譲渡の承諾に
伴って支払われる金員が、結果としてみれば、過去に支払われた低額の地代を補完
するという側面をも有するという経済的実質を指摘しているものとも考えられる
上、借地権が譲渡されることなく終了した場合には、当然のことながら差額地代の
後払はされないこと、一般に、譲渡承諾料の額は、利回り方式等により算出された
在るべき適正地代と現実に支払われた地代との差額に着目して決定されるものでは
なく、借地権の譲渡代金又は借地権価額を基準として算出されることが多いこと、
借地権の譲渡に当たって、新借地権者は、借地権譲渡を受けるために必要な費用は
借地権に見合う譲受代金に譲渡承諾料を加算した額であるととらえ、他方、旧借地
権者は、借地権譲渡により得られる利益は譲渡代金から譲渡承諾料を控除した額で
あるととらえて、当事者間で借地権譲渡代金等が合意されるのが通常であることか
らすれば、譲渡承諾料の実質的負担者は、法律形式や契約上の定めはともかく、新
借地権者であるとみ得る場合が多いこと等借地権譲渡の取引の実態に関する当裁判
所に顕著な事実をも考慮すれば、譲渡承諾料は、新借地権者が当該土地を将来に向
かって利用できるようにするための対価として支払われるものであると解するのが
素直であるというべきである。そうすると、譲渡承諾料の中に差額地代の後払的側
面が含まれるとしても、そのことをもって、譲渡承諾料が新借地権者に対する貸付
けに基因するものであるとする前記解釈を左右するものではないというべきであ
る。
なお、乙三ないし五号証によれば、原告は、本件譲渡承諾料の額を算出するに当た
り、本件旧借地権者から本件新借地権者への借地権の譲渡代金又は譲渡当時の相場
による借地権価額の一〇ないし二〇パーセント相当額の金額を提示したものであ
り、本件旧借地権者が過去に支払った権利金や地代の額を全く考慮していないこと
及び本件譲渡承諾料には、本件新借地権者に対する地上権設定料や借地条件変更承
諾料と一括して額が決められたものもあることが認められ、このような取引の実態
に照らしても、現に、原告は、本件譲渡承諾料を、新借地権者に本件各土地を将来
に向かって利用させるための対価としてとらえていたことが窺われるのであり、本
件譲渡承諾料が本件旧貸付けに係る地代の後払として支払われたものとは認められ
ない。
したがって、原告の右主張は失当である。
二 争点2(本件各更正は、信義則に違反して違法か否か。)について
原告は、被告が、原告の過去一〇数年に及ぶ法人税の申告について、譲渡承諾料を
収益事業に係る収入とする旨の指導をしなかったのに、本件各処分をしたのは、信
義則に反して違法である旨主張する。
もとより、信義則の法理は、法の一般原理であって、租税法律関係にも適用され得
るものであるから、租税法規に適合する課税処分についても、右法理の適用によ
り、これを違法なものとして取り消すことができる場合もないとはいえない。
しかしながら、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法
理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平
等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税
者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合
に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。
そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官
庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその
表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処
分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるか
どうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼し、信頼に基づいて行動したこと
について、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点を考慮する必要が
あるというべきである。
これを本件についてみると、被告の原告に対する過去の税務調査において、担当職
員が、譲渡承諾料を非収益事業に係る収入としていた原告の申告に対し、格別の措
置をとらなかったという事実があることについては当事者間に争いがないところで
はあるが、右事実は、被告が課税しない状態が事実上継続したというにすぎないも
のであり、それだけをもってしては、被告が原告に対し公的見解を表示したことに
該当するとはいえず、その他、課税につき一定の責任ある立場の者が原告に対し公
的見解を表示したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件において、信義則を適用し得べき特別な事情があるとは認められ
ないというべきである。
したがって、原告の右主張は失当である。
三 なお、原告は、本件譲渡承諾料を課税するか非課税とするかの判断は、通達に
基づき恣意的になされているから、本件各更正は租税法律主義に反して違法である
と主張するかのようである。
しかしながら、租税法律主義とは、租税の賦課及び徴収は、すべて、法律の根拠に
基づかなければならないとするものであるところ、本件において、被告は、法、施
行令及び施行規則の規定を合理的に解釈して、本件譲渡承諾料が課税の対象となる
と判断したものであり、法律の根拠に基づかずに租税の賦課を行ったものというこ
とはできない。
したがって、原告の右主張は失当である。
四 結論
以上によれば、本件譲渡承諾料は、収益事業に係る収入というべきであるから、原
告の本件各事業年度の益金の額に算入すべきである。
また、原告は、被告の、本件譲渡承諾料が収益事業に係る収入であることを前提と
した本件各事業年度の所得金額の計算については明らかに争わない。
そうすると、前記第二、三の当事者間に争いのない事実に照らせば、原告の本件各
事業年度に係る所得金額は、被告主張額のとおりになることが認められる。
よって、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却すべきこととなる。
(裁判官 秋山壽延 竹田光広 森田浩美)
別紙一ないし三(省略)

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