弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官古谷菊治の控訴趣意は別紙の通りである。
 控訴趣意第一点について。
 被告人Aに対する本件公訴事実は「被告人Aは電気通信事務官にして室蘭電気通
信管理所長の職に在る国家公務員であるから政治的行為を禁じられているのに拘ら
ず昭和二十五年四月二十四日北海道幌別郡a温泉族館b第c新館に於て、昭和二十
五年六月四日施行の参議院議員選挙に全国区から立候補した元電気通信省次官Bか
ら同人の選挙運動資金として使用せしめるためCの手を通じて現金三万円の交付を
受けるや、同月二十五日午前九時半頃北海道D協会総会開催中の札幌市de丁目E
に於て相被告人Fに対し同協会長である相被告人Gをして右総会に列席中のH外二
十数名のD等に饗応してB候補に投票を獲得せしめんため、その資金として右Gに
手渡方を依頼の上現金五万円を手交し以て政治的行為をしたものである」というの
であつて右は国家公務員法第百二条に違反し同法第百十条の罰則を適用すべきであ
るとして起訴せられたものである。ところか原審は国家公務員法第百二条第一項の
規定による人事院規則一四―七第六項所定の行為は同規則一四―七第五項に列挙せ
られた政治的目的意思を欠く場合は犯罪の成立を阻却するもので被告人Aの右所為
は右規則一四―七第五項第一号所定の選挙に於て特定の候補者を支持するという政
治的目的を以てした同規則一四―七第六項の第一号乃至第三号に該当する政治的行
為であるかの如き外観を呈するけれども右規則一四―七第五項第一号に「特定の候
補者を支持し又はこれに反対すること」とある「特定の候補者」とは成規の手続に
従い候補者の届出がなされ候補者として法的資格を有するに至つたものをいうので
あるからその届出前に於ては未だ右規則の条項に所謂候補者ではない。従つて右公
選の選挙に際し届出前の特定の立候補を支持したとしても政治的目的があつたとい
うことは出来ないと解すべきであるとし右Bが昭和二十五年六月四日施行の参議院
議員選挙に立候補した日は同年五月四日であり被告人Aは右立候補届出前の同年四
月二十四日から二十五日の間に公訴事実掲記の趣旨の現金を授受したものであるか
らそれは右人事院規則に所謂特定の候補者に関しないものであり従つて政治的目的
を欠き国家公務員法第百二条に違反しないとの理由で同被告人に対し無罪の言渡を
したことは検察官の指摘するとおり<要旨>である。而して国家公務員法第百二条に
より国家公務員の政治的行為を禁止又は制限した所以のものは国家公務員は
国民全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではないという公務員の本質上その中立性
を維持せんとするに在るのであるから同条による人事院規則一七―四第五項第一号
の「特定の候補者」とは立候補の届出をした候補者のみならすまだ立候補の届出は
しないが立候補しようとする特定人をも包含する趣旨であると解するのが相当であ
る。蓋し公務員が公選の選挙において特定人を候補者として支持しその者の為政治
的行為をなすことはその特定人が立候補の届出をしたと否とに拘らず常に公務員の
本質に反しその中立性を維持せんとする同条の精神に反するもので此の種の行為は
立候補届出後のもののみを制限すべきであるという特別の事由はないからである。
従つて原審は法令の解釈、適用を誤つたものでありその誤りが判決に影響を及ぼす
ことは明白であるから論旨は理由がある。
 控訴趣意第二点の(1)について。
 記録によると被告人F及び同Gに対し原審が無罪の言渡をした部分は
 被告人Fは札幌市東郵便局所属の郵政事務官で北海道D会連合会並びに財団法人
北海道D協会の事務局長を兼務する者、被告人Gは郵政事務官で芭露郵便局長をな
し右連合会会長、同協会会長を兼務している者て何れも国家公務員として政治的行
為を禁ぜられているにも拘らず
 一、 被告人Fは昭和二十五年四月二十五日午前九時半頃前記Eに於て被告人A
から(同被告人に対する公訴事実記載の)右趣旨で被告人Gに現金五万円の手渡方
を依頼されるや其の情を了知しながら之を受領し同日饗応の機会を逸したGから命
ぜられて之を保管し同日午後七時頃札幌市fg丁目料亭IことI方に於て現金二万
円を、同年五月中頃同市hi丁目J百貨店六階にある右協会事務所に於て現金一万
五千円を夫々右Gに対し前記Bに投票獲得する為の運動資金として手交し以て政治
的行為をなし
 二、 被告人Gは同年四月二十五日午前九時半頃右Eで被告人Aより被告人Fを
通じて前記趣旨で現金五万円を託せられたが同日饗応の機会を逸した為Fをして之
を保管せしめていたが同日これを右Bの投票獲得のための運動資金として使用する
目的で右Fより同日午後七時頃右I方に於て現金二万円を、同年五月中頃右協会事
務所に於て現金一万五千円を夫々受領し以て政治的行為をなし
 たもので両名の右所為は一面国家公務員法第百二条、第百十条に該当すると共に
他面新法の公職選挙法第二百二十一条第一項第五号を適用すべき所為で包括一罪を
構成する犯罪であるとして起訴せられた事実である。
 而して原審は「被告人Fは右公訴事実記載の日時、場所において被告人Aから現
金五万円を被告人Gに手渡すべき旨の依頼を受けたがその際被告人FはAが当日前
記Eにおいて開催中の北海道D協会総会に列席中のH外二十数名に対し自己の職務
上の地位を利用して前記Bが昭和二十五年六月四日施行の参議院議員選挙に立候補
したならばその投票方を勧誘する趣旨で饗応する為の資金として該金員をGに授与
するものであるとの情を知り乍ら右依頼に応じて現金五万円を預かり而して該金員
は同年四月二十五日午後七時頃迄の間に被告人Gに引渡し、只その依頼によつて同
人の要求次第何時でもこれを手交返還するものとして保管していたものであるこ
と、同日は右饗応の機会を逸したので内金二万円を、其の後同年五月中頃要求によ
り金一万五千円を夫々公訴事実記載の場所でGに手交した」という事実を認定した
上被告人Fの国家公務員法違反の点につき次の如き理由によつて無罪の言渡をし
た。
 (一) 被告人Fが被告人Aからの依頼により右現金五万円を預つた行為及び被
告人Gに対して内金二万円を手交した行為は何れもBが立候補した同年五月四日以
前の行為であるから被告人Aの行為が無罪であると同一の理由即ち人事院規則一四
―七第三項第一号の特定の候補者を支持したことにならないので政治的目的を欠き
罪とならない。
 (二) Gに現金一万五千円を手交したのは右Bが立候補の届出をした後ではあ
るがその時以前既にGに引渡しGの計算に帰属した預り金を返還したに過ぎないの
であるから右金一万五千円の授受は人事院規則(一四―七第六項第四号)にいう金
品を「与える」場合には該当しないものであり従つて人事院規則所定の政治的行為
ではない。
 (三) Gに対し内金二万円と一万五千円とを現実に交付した時夫々これを同人
に授与したものであると仮定してもF被告人の立場はA被告人の行為を補助する従
犯者の地位に比適するものであるところ主犯者の地位に比適するAはFとG間に於
てBの立候補後に金員の授与をなすことを予見したとの証拠はないからA被告人と
しては補助者たるF被告人に依頼した時には犯意を構成する政治的目的がなかつた
ということになり右金一万五千円を授与した行為については犯罪の責を負わしめる
訳にはいかない。主犯者としての地位に比適するAに刑事責任がない以上その補助
者たる従犯者の地位に比適するFのみが独立して刑事責任を負うとするのは刑罰の
権衡を保つことが出来ない訳で刑事責任の通念に反する。
 (四) 人事院規則の規定によれば政治資金を「与え」又は「支払う」ことの外
これを「受領する」こと、「受領行為に干与する」ことをも処罰の対象としている
が被告人Fは被告人Aから依頼されて右現金をGに交付する立場にあつたものであ
るから依頼したAの行為に干与したとは言えるが金銭授受につき受働的立場にある
Gの受領行為に干与したものではない。と解すべきである。尤も右金五万円を受領
するに当り被告人Fに其の保管方を依頼はしたがそれは受領後のことであるから受
領行為完了後における保管行為に干与したに過ぎない。
 更に被告人Fに対する公職選挙法違反の点については次の如き理由により無罪の
言渡をした。
 (1) 公職選挙法は昭和二十五年五月一日施行せられたのであるが旧法時に生
じた事項については同等経過的規定がないから公職選挙法施行前の選挙罰則違反行
為は同法は勿論、同法によつて廃止せられた旧選挙法によつても処罰出来ない、従
つて公職選挙法施行前である昭和二十五年四月二十五日に金銭を授受した点は処罰
し得ない。
 (2) 同法施行後Gとの間に於て金一万五千円を授受した点は(イ)Gの依頼
により保管していた金銭を同人に返還したものであるから公職選挙法第二百二十一
条第一項第五号の「交付一の観念には当てはまらない。(ロ)しかのみならず何条
第一項第一号乃至第四号所定の行為をさせる目的があつたことは認められない。
 よつて先ず国家公務員法違反の点について事実認定の当否につき調査するに検祭
官に対するCの各供述調書、同被者人Aの第六回供述調書、同被告人Fの第四回乃
至第七回供述調書、同被告人Gの第二回供述調書等によると判示の現金五万円はF
がAから交付を受けた日の四月二十五日午後七時頃迄の間にGに引渡したものでは
なく同日札幌市の料亭Iで内金二万円を、同年五月中頃同市のJ百貨店内にある右
協会事務所で内命一万五千円を夫々Gに引渡したことが認められるのであつて是等
の証拠から見てFはAから受取つた判示金五万円を即日午後七時頃迄の間にGに引
渡し、改めてGの依頼により同人の要求次第手交返還することにしてこれを保管し
ていたもので同日金二万円、五月中旬頃金一万五千円を夫々Gに手交したのは保管
金を返還したものであると認定するには記録上証拠が不充分である。従つて原審の
右事実認定は事実を誤認したものと断ぜざるを得ない。而して原審が右金一万五千
円をGに交付した行為を無罪とした(二)の理由及び(三)の後半の理由は原審が
誤認した右の事実を前提としているのであるから原判決には判決に影響を及ぼすこ
とが明かな事実誤認があると言わたければならない。
 次に(一)及び(三)の理由は法令の解釈、適用を誤つたものでその誤が判決に
影響を及ぼすことは控訴趣意第一点について説明した通りである。
 更に(四)の前半の理由について考えて見ると政治的目的を以て金銭を受領する
者が受働的立場に在り目つその受領者から依頼を受けなかつたとしても該金銭授受
に干与する行為は人事院規則一四―七第六項第三号所定の金銭受領行為に干与した
場合に該当することは「何等の方法を以てするを問はずその受領行為に干与するこ
と」を禁止している右規定の精神上疑のないところであるから原審はこの点於ても
法令の解釈を誤り判決に影響を及ぼすことが明かな法令適用の誤りを犯したことに
なる。
 公職選挙法違反の点に関する無罪理由の(2)(イ)は前記の如く金五万円はF
が一旦Gに引渡し更に改めてGの為これを保管していたものでGに交付した一万五
千円はその保管金を返還したに過ぎないという原審が認定した事実を前提とするも
のであるから結局判決に影響を及ぼすことが明かな事実誤認があることに帰するこ
とは前の説明から了解出来ると思う。
 又検察官に対するCの第一回乃至第三回供述調書、同Aの第六回供述調書、同F
の第二回、第四回乃至第七回供述調書によるとFがGに渡した現金一万五千円はB
の為投票獲得の運動資金として渡したもので公職選挙法第二百二十一条第一項第一
号に掲げる行為をさせる目的を以て交付したことが肯認出来るから(2)(ロ)の
理由により無罪としたのは判決に影響を及ぼすことが明白な事実誤認があると言わ
なければならない。次に公職選挙法違反の点に関する無罪理由の(1)についてで
あるが公職選挙法施行に伴う経過規定は「公職選挙法の施行及びこれに伴う関係法
令の整理等に関する法律」に規定せられているのであつて公職選挙法施行前に行わ
れた参議院議員の選挙に関してした行為に対する罰則の適用についてはなお従前の
例により旧参議院議員選挙法の罰則並びに同法第八十七条により準用せられる旧衆
議院議員選拳法の罰則を適用すべきものであることは右「関係法令の整理等に関す
る法律」第二十五条の規定上明白であるから(1)の理由により五万円及び二万円
を授受した行為は罪とならないとした原審はこの点に於ても亦判決に影響を及ぼす
ことが明白な法令適用の誤を犯したものである。
 控訴趣意第二点の(2)について。
 被告人Gに対する無罪の理由は原審が認定した前記の事実を前提とし(一)国家
公務員法違反の点につき(イ)同人が被告人Fから金二万円の交付を受けたのはB
の立候補前であるから政治的目的を欠く。又(ロ)金一万五千円の交付を受けたの
はFに保管せしめていた五万円の内金の返還を受けたに過ぎないものであり右五万
円はB立候補前の四月二十五日に受領したのであるから政治的目的を欠く。という
のであり(二)公職選挙法違反の点についての無罪理由は右の外被告人Fに対する
無罪理由を引用しているのである。然しながら原審が叙上の理由により被告人Gに
対し無罪の言渡したのは判決に影響を及ぼすこが明白な事実誤認及び法令適用の誤
を犯したものであることは控訴趣意第一点及び第二点のに(1)対する判断に於て
説明した通りである。
 なお被告人Gに対する本件公訴事実中原審が有罪と認定処断した行為と同被告人
の無罪とされた行為とは併合罪の関係にあるのでもし無罪とされた行為につき有罪
と認定されるものとすれば同被告人は全部の行為につき併合罪として処断せられる
関係にある訳でありこの点に於て原判決の有罪部分も亦破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条により原判決全部を破棄し同法第四百条本文に
より本件を原裁判所に差し戻すことにし主文の通り判決する。
 (裁判長判事 西田賢次郎 判事 百村五郎左衛門 判事 東徹)

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