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裁判例


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平成22年1月28日判決言渡
平成22年1月19日口頭弁論終結
平成21年(行ケ)第10265号審決取消請求事件
判決
原告シコー株式会社
原告東京パーツ工業株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士對崎俊一
同訴訟代理人弁理士佐野惣一郎
被告レキシンジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士佐藤治隆
主文
1特許庁が無効2008−800154号事件について平成21年7月
28日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告らは,発明の名称を「振動型軸方向空隙型電動機」とする特許第213
4716号(昭和62年5月21日出願,平成10年2月6日設定登録。以下
「本件特許」という。)の特許権者である(甲8,9)。
被告は,平成20年8月18日,本件特許を無効にすることを求めて審判請
求(無効2008−800154号)をし,特許庁は,平成20年12月24
日,「特許第2134716号の特許請求の範囲に記載された発明についての
特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は同年12月26日原告らに送
達された。
これに対し,原告らは,上記審決を不服とし,平成21年1月23日,当裁
判所に対して上記審決を取り消すことを求めて訴訟を提起した(当裁判所平成
21年(行ケ)第10017号)。
原告らは,平成21年2月20日,特許庁に対し訂正審判を請求し(訂正2
009−390018号),当裁判所に対して特許法181条2項所定の決定
を求めたところ,当裁判所は,同年3月3日,上記規定により「特許庁が無効
2008−800154号事件について平成20年12月24日にした審決を
取り消す。」との決定をした。
特許庁は,原告らが上記訂正審判請求において提出した訂正明細書(甲7)
を特許無効審判における訂正の請求とみなして(特許法134条の3),審理
の上,平成21年7月28日,「訂正を認める。特許第2134716号の請
求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,
同年8月7日に原告らに送達された。
2特許請求の範囲
本件訂正後の本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりで
ある(訂正箇所に下線を引いた。)。
「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,
偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基
準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形
成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対
向し且つ回動自在に支持してあり,各電機子コイルは環状を成しており,複数
個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられ
ている,振動型軸方向空隙型電動機。」(以下この発明を「本件発明」とい
う。)
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,実願昭47−4
3639号(実願昭49−4108号)のマイクロフィルム(甲1,以下「刊
行物1」という。)記載の発明(以下「甲1発明」という。)及び特開昭55
−122467号公報(甲3。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下
「甲3発明」といい,甲1発明と併せて「引用発明」という場合がある。)に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条
2項の規定により特許を受けることができないから,本件特許は,特許法12
3条1項2号に該当し無効とすべきであるとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本件発明と甲1発
明との一致点と相違点及び相違点に対する容易想到性を次のとおり認定判断し
た。
(1)引用発明の内容
ア甲1発明の内容
「界磁コイルを固定子に備え,重量的に不平衡を生ぜしめるとともに回
転数に比例した周波数の振動を生ずるように回転子鉄心に複数の回転子巻
線を回転中心を基準に片寄らせて配置することで回転軸方向から平面視し
た際に略扇形となるように切り欠ぎ部を形成した鉄心を有する偏平の回転
子を上記界磁コイルと径方向の空隙を介して面対向し且つ軸受に支承され
た回転軸に固着してあり,各回転子巻線は回転子鉄心の切り欠ぎ部以外の
部分に配置されており,切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大
させるための部材が取り付けられている,振動発生用径方向空隙型電動
機。」
イ甲3発明の内容
「界磁マグネットを固定子として備え,環状をなしている無鉄心電機子
巻線を配置した無鉄心偏平電機子を,円環状の界磁磁極と軸方向の空隙を
介して面対向させた軸方向空隙型電動機。」
(2)本件発明と甲1発明との一致点
「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁発生部材を固定子として備え,
偏心且つ振動して回転するように複数の電機子コイルを回転中心を基準に片
寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成し
た偏平電機子を上記界磁発生部材と所定方向の空隙を介して面対向し且つ回
動自在に支持してあり,各電機子コイルは所定の態様をなしており,変形形
成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている,振動型
所定方向空隙型電動機。」である点。
(3)本件発明と甲1発明との相違点
ア相違点1
界磁発生部材に関し,本件発明では,「界磁マグネット」としているの
に対し,甲1発明では,「界磁コイル」である点。
イ相違点2
所定の態様をなしている電機子コイルに関し,本件発明では,「コアレ
ス」電機子コイルであって「環状を成して」いるのに対し,甲1発明では,
「回転子鉄心に」回転子巻線が配置されているところから「有鉄心」電機
子コイルと解されるとともに,形状は特定されていない点。
ウ相違点3
偏平電機子に関し,本件発明では,「コアレス」偏平電機子としている
のに対し,甲1発明では,「鉄心を有する」偏平電機子である点。
エ相違点4
空隙の存在する所定方向に関し,本件発明では,「軸」方向としている
のに対し,甲1発明では,「径」方向である点。
オ相違点5
変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられてい
る構成に関し,本件発明では「複数個の電機子コイルの少なくとも1個の
電機子コイルの環の内側に」錘が「入れ」られているのに対し,甲1発明
では「切り欠ぎ部と対称の位置に」錘が「取り付け」られている点。
(4)相違点に対する容易想到性の判断の要点
「甲3発明は,界磁マグネットを固定子として備え,環状をなしているコ
アレス電機子コイル(『無鉄心電機子巻線』が相当,以下同様)を配置した
コアレス偏平電機子(『無鉄心偏平電機子』)を上記界磁マグネットと軸方
向の空隙を介して面対向させた構成からなる軸方向空隙型電動機である。
また一般に,電動機の界磁発生部材として,『界磁マグネット』と『界磁
コイル』の2つのタイプが存在すること,電動機の電機子コイルとして,
『コアレス』型と『コア(有鉄心)』型の2つのタイプが存在すること,さ
らに,電動機の空隙のタイプに,軸方向空隙型と径方向空隙型の2つのタイ
プが存在することは,電動機の技術分野において技術常識といえるところで
あり,これら電動機を構成する要素の各タイプのうちの何れを採用するかは,
当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項にすぎない。
ところで,甲1発明は回転子に切り欠ぎ部を設けると共に,切り欠ぎ部と
対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材を取り付け,回転子自
体を不平衡にして振動を発生させていることで,従来設けていた振動発生の
ための不平衡重りを省略するという課題及びその解決手段において本件発明
と軌を一にするものである。
そうすると,甲1発明において,上記課題及び解決手段の下に,電動機を
構成する要素のタイプとして,相違点1ないし4に係る構成を全て兼ね備え
ている甲3発明の上記構成のものに改変することで,相違点1ないし4に係
る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものというべき
であり,かかる採用を阻害する要因も何等認められない。
また,上記改変に伴い,錘を取り付ける位置は必然的に電機子コイルの近
傍となるから,当該電機子コイルの近傍から具体的な位置を選択することは,
当業者が適宜行う任意選択事項と認められ,電動機の形状を大きくすること
なく配置することのできる位置として,コイル環の内側の空間を利用するこ
とは当業者の通常の創作能力のもとに為し得ることといえる。そこで,『複
数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に』錘が
『入れ』られている位置を選択し,相違点5に係る本件発明の構成とするこ
とは当業者が容易に想到し得たものというべきである。
そして,本件発明の全体構成により奏される効果も,甲1発明及び甲3発
明から当業者が予測し得る範囲内のものである。」
第3取消事由に係る原告らの主張
本件発明の相違点5に係る容易想到であるとした審決の判断は,以下のとお
り誤りである。なお,本件発明の相違点1ないし4に係る構成が容易想到であ
るとした審決の判断に誤りがないことについては認める。
1審決は,「錘を取付ける位置は必然的に電機子コイルの近傍となる。」と判
断したが,誤りである。
(1)本件発明に係る特許請求の範囲には,電機子コイルがコアレス電機子上
にどの程度の面積を占めて配置されているかまでは特定されていない。よっ
て,コアレス偏平電機子に錘を取り付ける場合には,電機子コイルの周囲に
広い空間が生じる場合もあるから,電機子コイルの近傍になるとは限らない。
(2)振動が生じない通常のモータである甲3発明を甲1発明の不平衡荷重の
概念を適用するように改変して,甲3発明のコアレス電機子コイルが配置さ
れたコアレス偏平電機子に錘を取り付けるとした場合,その位置は必然的に
電機子コイルの近傍となるとはいえない。すなわち,甲1発明には,その第
4図に示されるように電機子(回転子2)の軸方向における両側面に錘(切
り欠ぎ部の残屑7)を取り付けることが開示されている。この構成を甲3発
明に適用しようとすれば,甲3発明の電機子7の軸方向の両側面(甲3発明
の第1図参照)に取り付けることになるだけであり,錘を取り付ける位置を
電機子コイル(例えば,甲3発明の第7図(b)に示される13−3,13
−5等)の近傍に限るとは限らない。
また,コアレス電機子の外周側部に錘を取り付けた場合には,電機子コイ
ルの環の径が小さくなってしまい,これにより半径方向のコイル部分の寸法
が小さくなるから有効な回転力が得られなくなる。よって,電機子コイルの
近傍であっても少なくともコアレス電機子の外周部には錘を取り付けること
ができないから,回転力の観点からも,錘を取付ける位置は必然的に電機子
コイルの近傍となるとした審決の判断は誤りである。
2甲3発明の第1図から明らかなように,軸方向空隙型偏平電動機においては,
軸方向に配置された電機子7の電機子コイルとマグネット6との間には僅かな
隙間しかなく,径方向空隙型である甲1発明のように電機子7の軸方向の面に
錘を取り付けることは容易に想到できない。何故なら,いわゆるコアレス電機
子は,マグネットに対面する電機子コイルに電流を流すことにより,電機子コ
イルにフレミングの左手の法則に基づいて回転力を生じさせるものであるから,
マグネットと電機子コイルとの間は可能な限り接近させているからである(隙
間を大きくとることができない)。したがって,当業者は,甲3発明に甲1発
明を適用して電機子に不平衡荷重効果を適用した場合には,仮に甲3発明に甲
1発明の切り欠ぎ部を設けることは想定できたとしても,錘を取り付けること
は想定できない。
この点,被告は,本件発明のコアレス電機子において,錘を配置すると,環
状の電機子コイルの環の外側と内側とに空間があるから,この空間に錘を取り
付けると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,電機子コイ
ルの推進力となるのは,半径方向のコイル部分のみであるから,甲1発明のよ
うにコアレス偏平電機子の外周側部に錘を取り付けた場合には,電機子コイル
の環の径が小さくなってしまい,有効な回転力が得られなくなるのであるから,
コアレス偏平電機子の表面に空間があれば,その空間に錘を取り付けることは,
当業者は想定できない。しかも,錘を取り付けると,コアレス電機子の外周側
部ほど不平衡荷重効果が大きくなるが,電機子コイルの推進力を大きく取れな
くなる。
3甲3発明は,振動しない通常のモータであるから,甲3発明に錘を取り付け
るという発想はなく,甲3発明のようなコアレス偏電機子において錘を付けた
従来技術がないのであるから,仮に甲3発明に甲1発明の錘を取り付けること
を観念しようとした場合,錘を取り付ける具体的位置を選択するということは
できず,甲3発明に甲1発明の錘を取り付けようとすれば,必然的に甲1発明
と同じ位置(電機子の軸方向の面)に錘を取り付けることが想定できるだけで
ある。
4甲3発明は,振動を生じない通常のモータであり,そのコイルの結線方法の
発明を開示したものであるが,甲1発明のようにコイルを片寄って配置(複数
のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置)した場合として
考えるならば,第7図(b),第17図(b),第20図(b)のように隣合
う環状コイルを重ねて配置することが考えられる。なお,甲3発明のその他の
図面,例えば,第7図(d),第17図(c),第17図(d)等は環状の電
機子コイルは均等な配置としてある。このように甲3発明において,コイルを
片寄って配置した場合には,環状の電機子コイルは周方向に一部重ねているの
で,コイルの環の内側に他のコイルの半径方向の部分が位置してしまい,コイ
ルの環の内側に錘を配置できない。何故なら,前記2のとおり,コイルに電流
を流したときには,コイルの半径方向の部分のみが電機子に推進力を生じさせ
る部分だからである。
よって,環状の電機子コイルを片寄らせて配置した場合には,甲3発明の環
状の電機子コイルの環の内側に甲1発明の錘を配置しようとしても重ねてある
他の電機子コイルの半径方向部分を錘が覆ってしまい,電機子コイルが機能し
なくなってしまうので,甲3発明のように片寄って配置された電機子コイルの
環の内側に甲1発明の錘を配置できない。したがって,甲3発明には甲1発明
を採用することができない阻害要因がある。
5本件発明によれば,電機子コイルの環の内側に錘を配置することにより,電
機子のデットスペースを利用して錘を取り付けできるので,電機子の厚み(軸
方向の寸法)を大きくすることなく錘を取り付けることができるという効果を
奏する。しかし,甲1発明では,その第4図から明らかなように,電機子の厚
みよりも錘が突設しており,電機子の厚みを大きくすることなく不平衡荷重効
果を得るという本件発明の作用効果は,甲1発明と甲3発明を組み合わせても
得ることができないものである。
第4被告の反論
原告ら主張の取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき違法はない。
1電機子コイルは,回転体であるから,この電機子コイルを振動させるために
回転中心を基準に片寄らせて配置した複数のコアレス電機子コイルに錘を取り
付ける場合,電機子コイルの近傍の空間に取り付けられることとなる。この空
間部分は,電機子コイルの外周部分とコイルの環の内側に存在することも甲3
発明から明らかである。審決の認定判断に誤りはない。
2甲3発明の電機子コイルでは,電機子コイルの外周部分とコイルの環の内側
に空間があるのであるから,そこに錘を取り付けることは容易に想到し得るこ
とである。審決の認定判断に誤りはない。
3重心が偏心した電機子が回転すれば振動することは明らかであるから,甲3
発明に接した当事者は,振動させる又は振動を制御することを意識することと
なる。そして,変形形成していないコアレス電機子の重心を偏心して振動させ
るために錘を取り付ける場合,その空間部分は電機子コイルの外周部分とコイ
ルの環の内側に存在することは,甲3発明から明らかである。
したがって,「錘を取り付ける位置は必然的に電機子コイルの近傍となる」
との審決の認定に誤りはない。
4本件発明でも甲3発明でも,錘の材質や大きさの限定はないのであるから,
錘の材質や大きさを任意に選択すれば電機子コイルが機能しなくなるというこ
とはあり得ない。原告の主張に理由はない。
5甲3発明には,電機子コイルの外周部分とコイルの環の内側に空間部分が存
在する。原告主張の電機子の厚みを大きくすることなく不平衡荷重効果を得る
という作用効果は,「コアレス」型電動機の持つ作用効果であって,錘の有無
とは無関係である。原告の主張に理由はない。
第5当裁判所の判断
本件発明の相違点1ないし4に係る構成が容易想到であるとした審決の判断
に誤りがないことについては,当事者間に争いはない。
そこで,本件発明の相違点5に係る構成が容易想到であるとした審決の判断
に誤りがあるか否かについて検討する。
1刊行物の記載
(1)刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。
ア「不平衡荷重の遠心力により振動を発生させる振動発生用電動機におい
て,不平衡荷重を生ぜしめるために軸心線に対し非対称の切り欠ぎ部を,
回転子自体に設けたことを特徴とする振動発生用電動機」(実用新案登録
請求の範囲)
イ「第4図の実施例は,積層板の切り欠ぎ部23を打ち抜いた残屑あるい
は他の部材7を,切り欠ぎ部23と対称の位置に取り付けるようにしたも
ので,不平衡荷重効果を増大させることができ,とくに小形の回転子に大
きな振動力を生じさせ,取付位置によって振動力調整を行なうようにする
こともできる。」(3頁18行∼4頁4行)。
ウ「第5図に示す実施例は,回転子巻線22を含めて回転子外周に開口す
る切り欠ぎ部23を形成したもので,重畳的に不平衡を生ぜしめるととも
に鉄心を切り欠いだ部分の磁気的吸引力が小さくなり,振動が助長され
る。」(4頁5行∼9行)
エ「本考案は上述のように回転子の軸心線に対し,非対称の切り欠ぎ部を
回転子自体に設けることにより,回転子を不平衡にしてあるので,軸受間
隔は不平衡荷重に関係なく,一般の電動機と同じく電動機として必要な間
隔だけでよく,また不平衡荷重が回転子鉄心部分以外の空間を占めること
がないので,従来の不平衡重りを回転子とは別に回転軸に取りつけてある
構造のものよりも,電動機全体の寸法を小さく,自重も小さくすることが
できるとともに,構造を簡単ならしめ,・・・不平衡重りが軸受の外側に
ないため,安全カバーなどを設ける必要がなくとくに小形の振動発生機と
して有効である。」(4頁10行∼5頁4行)
オ第4図では,他の部材7が切り欠ぎ部23と対称の位置で,回転子2の
下部に設けられ,回転子の厚みより突設している。
(2)刊行物2(甲3)には,以下の記載がある。
ア「N,S極に等しい開角で磁化された2n個(nは1以上の整数)の磁
極を備えた界磁磁極と,該界磁磁極の磁路を閉じる為の磁性体と,発生ト
ルクに寄与する導体部の開角が前記した界磁磁極の磁極幅にほぼ等しく巻
回された複数個の電機子巻線と,該電機子巻線の端子がそれぞれ接続され
る整流装置と,前記した電機子巻線が互いに等しいピッチで配設されると
共に,前記した磁路内で前記した界磁磁極に対向して設けられた波巻電機
子と,該波巻電機子若しくは前記した界磁磁極を回転自在に支持すると共
に,外筺に設けた軸承に支承された回転軸とより構成される直流電動機に
おいて,前記した電機子巻線を所定個削除して構成された電機子と,削除
された前記した電機子巻線の両端子が接続していた整流装置を電気的に短
絡する短絡部材とより構成されたことを特徴とする少数個の電機子巻線に
構成した波巻電機子を備えた直流電動機。」(1欄5行∼2欄3行)
イ「本発明は,波巻電機子を構成する電機子巻線の所定個数を短絡するこ
とにより削除し,従って電機子の厚みを薄く形成し,しかも整流特性を良
好にした波巻電機子を円板状若しくは円筒状に形成して有効な直流電動機
に関するものである。・・・従来の重ね巻或いは波巻の巻線を無鉄心電動
機に採用する場合においては,電機子巻線が多層に重畳されることになる
ため,電機子の厚みが増加する。かかる厚みは電機子を貫通する有効な界
磁磁界を著しく弱化して効率及び起動トルクを減少せしめる欠点がある。
このため従来においては,発生トルクに寄与する導体部の厚みを薄くする
よう努力していた。しかし,かかる工程は加圧成形等によって行なわれる
ために,電機子巻線が断線したり,短絡等の不良品が多く発生してい
た。」(2欄17行∼3欄17行)
ウ「第1図は,円板状の電機子を設けた整流子電動機の構成の説明図であ
る。プレス加工された軟鋼性の筐体3には軸承5が固定され,またプレス
加工された軟鋼性の筐体2がビス11によって筐体3に固定されて磁路と
なっている。筐体2には,軸承4が固定され,軸承4,5には回転軸1が
支承され,回転軸1の一端は筐体3に圧接している。筐体3にはN,S磁
極が回転軸方向に磁化された円環状の界磁磁極6が貼着して固定されてい
る。回転軸1には一体にモールドされた電機子7及び整流子8が固定され
ている。電機子7は筐体2と界磁磁極6との空隙磁界内に介在するように
構成されている。記号10は刷子保持具であり,整流子8に摺接する刷子
9を保持している。」(5欄1行∼5欄14行)
エ「次に第2図示より第20図示において説明するものは,上述した整流
子電動機に本発明を適用した実施例の展開式巻線図,及び界磁磁極,電機
子の実施例の展開図である。第1図示の界磁磁極6に相当するものは,第
2図示より第6図示においては,第7図(a)に示すように90度の開角で
N,S極に回転軸方向に磁化された磁極12−1,12−2,12−3,
12−4よりなる界磁磁極12であり」(5欄15行∼6欄3行)
オ「第2図に示したものは,界磁磁極が4磁極で,4個の電機子巻線より
なる実施例の展開式巻線図である。電機子13は,電機子巻線13−3,
13−4,13−5,13−6が第7図(b)に示すように配設され,一体
にモールドされて構成している。即ち,電機子巻線13−3と13−4,
13−4と13−5,13−5と13−6はそれぞれ約51.4度の開角
(磁極幅の4/7)で,電機子巻線13−6と13−3は約205.7度
の開角(磁極幅の16/7)で一部分が重畳して配設されている。電機子
巻線の発生トルクに寄与する導体部(電機子巻線13−3の場合は13−
3−a,13−3−b部である)の開角は90度で磁極幅とほぼ等しくさ
れており,第1図示の電機子7に相当する。」(6欄14行∼7欄8行)
カ「電機子13は,各電機子巻線の発生トルクに寄与する導体部の開角を
磁極幅と同一にした従来より公知の7個の電機子巻線よりなるオープン接
続正規波巻を,点線で図示した4個の電機子巻線を整流子片を介して短絡
することにより構成したものである。かかるオープン接続正規波巻につい
て説明すると,7個の電機子巻線13−1,13−2,……,13−7は
波巻接続とされ,電機子巻線13−1と13−4,13−4と13−7,
13−7と13−3,13−3と13−6,13−6と13−2,13−
2と13−5,13−5と13−1の接続部はそれぞれ整流子片14−2,
14−5,14−1,14−4,14−7,14−3,14−6に接続さ
れている。本発明による実施例は,電機子巻線13−1,13−7,13
−2を削除し,各電機子巻線の両端子(巻き始めと巻き終わり端子)が接
続されていた整流子片同士を短絡部材(導線等)により電気的に短絡して
構成しているものである。即ち,電機子巻線13−1を削除することによ
り整流子片14−6と14−2を,電機子巻線13−7を削除することに
より整流子片14−5と14−1を,電機子巻線13−2を削除すること
により整流子片14−7と14−3をそれぞれ短絡している。」(7欄1
1行∼8欄15行)
キ「上述した全ての実施例は,円板状の無鉄心電機子を設けた整流子電動
機に本発明を適用したものである」(53欄3行∼53欄5行)
ク第7図(b),第17図(b),第20図(b)には,それぞれ環状コ
イルが回転中心を基準に片寄らせて配置しており,それぞれ隣り合う環状
コイルが重ねて配置されている。
2相違点5の構成の容易想到性に関する判断
(1)刊行物1の第4図によれば,切り欠ぎ部と対称の位置にあり電機子の軸
方向における両側面に他の部材7(錘)を取り付けることが開示されている
のみであり,環状のコアレス電機子コイルの内側に錘を入れることについて
は記載も示唆もないし,コイルの内側に錘を配置することが本件発明を含む
軸方向空隙型電動機の技術分野で周知の技術的事項であると認めるに足りる
証拠はない。また,径方向空隙型電動機である甲1発明から軸方向空隙型電
動機である本件発明を想到するに当たって,甲1発明において径方向空隙型
を軸方向空隙型に変更したことに伴い,甲1発明における錘の配置位置を軸
方向から径方向に変更した場合は,電機子の軸方向の側面に代えて電機子の
径方向の側面に錘を配置することとなり,これは電機子の外周に錘を設ける
こととなるから,当業者において電機子コイルの環の内側に錘を入れること
を想到させるものではない。
さらに,前記刊行物2の記載によれば,軸方向空隙型電動機である甲3発
明において,その電機子に対して厚みのある部材を付加することは排除され
るべき技術的事項であって,たとえ甲1発明に不平衡荷重効果を増大させる
ための部材を取り付けることが開示されているとしても,不平衡荷重効果を
増大させるような部材は,一般に密度が高く所定の厚みを有するものである
し,また,電機子巻線の近傍にこのような部材を配置することは,従来行わ
れてきた加圧成形等の妨げにもなり得る。したがって,甲1発明の電動機の
各構成要素を,軸方向空隙型電動機である甲3発明の構成のものに改変した
ものにおいて,電機子に錘となる部材を取り付けることを想到することは困
難であるというべきである。
(2)被告は,甲3発明の電機子コイルでは,電機子コイルの外周部分とコイ
ルの環の内側に空間があるから,その空間に錘を取り付けることは容易に想
到し得ると主張する。
しかし,被告の主張は失当である。すなわち,前記刊行物2の記載によれ
ば,第7図(b),第17図(b)及び第20図(b)において複数のコア
レス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置されているところ,か
かるコイルを重ねて偏らせて配置した場合には,環状の電機子コイルの環の
内側に他のコイルの半径方向の部分が位置することとなる。電機子コイルの
環の内側に空間が存在するとしても,その空間は平面視で他のコイルの半径
方向の部分で狭められたり区切られたりすることとなるので,かかる空間に
不平衡荷重の効果を増大するための質量の大きい部材を配置することは容易
には想到し得ないというべきである。被告の主張は理由がない。
(3)したがって,甲1発明の電動機の各構成要素を,軸方向空隙型電動機で
ある甲3発明の構成のものに改変した場合において,不平衡荷重効果を増大
するための手段として,複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コ
イルの環の内側に錘が入れられている構成を採用することは,前記のとおり
コアレス電機子コイルの内側に錘を取り付けることについて刊行物1に記載
も示唆もなく,また本願の出願時において周知の技術的事項であるとも認
められない以上,当業者において容易に想到し得るものということはできな
い。審決の相違点5に対する容易想到性の判断は誤りである。
3結論
以上の次第であるから,原告ら主張の取消事由は理由がある。よって,原告ら
の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸

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