弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人小見山繁、同河合怜、同小坂嘉幸、同川村幸信、同山野一郎、同弥吉
弥、同江藤鉄兵、同富田政義、同片井輝夫、同伊達健太郎、同竹之内明、同加藤洪
太郎、同華学昭博、同仲田哲の上告理由について
 特定の者が宗教団体の宗教活動上の地位にあることに基づいて宗教法人である当
該宗教団体の代表役員の地位にあることが争われている場合には、裁判所は、原則
として、右の者が宗教活動上の地位にあるか否かを審理、判断すべきものであるが、
他方、宗教上の教義ないし信仰の内容にかかわる事項についてまで裁判所の審判権
が及ぶものではない(最高裁昭和五二年(オ)第一七七号同五五年四月一〇日第一
小法廷判決・裁判集民事一二九号四三九頁参照)。したがって、特定の者の宗教活
動上の地位の存否を審理、判断するにつき、当該宗教団体の教義ないし信仰の内容
に立ち入って審理、判断することが必要不可欠である場合には、裁判所は、その者
が宗教活動上の地位にあるか否かを審理、判断することができず、その結果、宗教
法人の代表役員の地位の存否についても審理、判断することができないことになる
が、この場合には、特定の者の宗教法人の代表役員の地位の存否の確認を求める訴
えは、裁判所が法令の適用によって終局的な解決を図ることができない訴訟として、
裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当たらないというほかない。
 これを本件についてみるのに、上告人らの請求は、被上告人B1(以下「B1」
という。)が被上告人B2(以下「B2」という。)の代表役員及び管長の地位に
ないことの確認を求めるものであるが、原審の判示するところによれば、B2にお
いては、代表役員は、管長の職にある者をもって充て、管長は、法主の職にある者
をもって充てるものとされているところ、代表役員は、宗教法人法に基づき設立さ
れた宗教法人であるB2を代表する地位であり、法主は、B2の宗教上の最高権威
者の呼称であって、宗教活動上の地位であるというのである。原審の右認定判断は、
記録に照らして首肯するに足り、右事実関係によれば、B1が代表役員及び管長の
地位にあるか否かを審理、判断するには、B1が法主の地位にあるか否かを審理、
判断する必要があるところ、記録によれば、B2においては、法主は、宗祖以来の
唯授一人の血脈を相承する者であるとされているから、B1が法主の地位にあるか
否かを審理、判断するには、血脈相承の意義を明らかにした上で、同人が血脈を相
承したものということができるかどうかを審理しなければならない。そのためには、
B2の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが避けられないこと
は、明らかである。そうであるとすると、本件訴えは、結局、いずれも法律上の争
訟性を欠き、不適法として却下を免れない。したがって、本件訴えを却下すべきも
のとした第一審判決は相当であるから、上告人らの控訴を棄却すべきものとした原
判決は、その結論において是認することができる。論旨は、原審の判断の違憲、違
法をいうが、原判決の結論に影響を及ぼさない部分を論難するものにすぎず、採用
することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官大野正男の反
対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官大野正男の反対意見は、次のとおりである。
 一 多数意見は、B1が代表役員及び管長の地位にあるか否かを審理、判断する
には、B1が法主の地位にあるか否かを審理、判断する必要があるところ、B1が
法主の地位にあるか否かを審理、判断するには、B2における血脈相承の意義を明
らかにした上で、同人が血脈を相承したものということができるかどうかを審理し
なければならず、そのためには、B2の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、
判断することが避けられないことは明らかであるとし、本件訴えは、結局、法律上
の争訟性を欠き、不適法として却下を免れないとして、これと同旨の第一審判決は
相当であるから、上告人らの控訴を棄却した原審の結論は是認することができると
するのであるが、私は、本件に法律上の争訟性が欠けるとすることに同意すること
ができない。その理由は、次のとおりである。
 1 本件において、裁判を求められていることは、B1がB2における代表役員
及び管長の地位を有するか否かである。
  そして、B2にあっては、代表役員は管長の職にある者をもって充てる(宗教
法人法所定の規則であるB2宗制五条、六条一項)とし、管長は、法主の職にある
者をもって充てる(宗教団体としての規則であるB2宗規一三条二項)とし、更に
法主の選任手続としては、「法主は、必要と認めたときは、能化のうちから次期の
法主を選定できる。但し緊急やむを得ない場合は大僧都のうちから選定することも
できる。」(宗規一四条二項)と定めている。
  本件の争点は、まさにB1が右宗規の条項に適合して法主に「選定」されたか
否かである。
 2 ところで、B2においては、右「選定」は、「血脈相承」という宗教的儀式
によってされるものである。そして本件では、B1が昭和五三年四月一五日当時法
主の地位にあった日達上人から「血脈相承」を受けたか否かが直接の争点事実とな
っている。しかし「血脈相承」はB2の教義ないし信仰の内容にかかわる宗教的儀
式であって、その意義及び存否は、裁判所の判断の対象とはならない。その点は多
数意見のいうとおりである。
  しかし、そのことから直ちに法主の「選定」の有無が裁判所によって判断でき
ない非法律的な宗教的事項になるわけではない。法主の「選定」があったか否かは、
「血脈相承」それ自体を判断しないでも、「選定」を推認させる間接事実(例えば、
就任の公表、披露、就任儀式の挙行など)の存否、あるいは選任に対するB2内の
自律的決定ないしこれと同視し得るような間接事実(例えば、責任役員らによる承
認、新法主による儀式の挙行と列席者の承認など)の存否を主張立証させることに
よって判断することが可能である。「選定」の直接事実は「血脈相承」であり、そ
れは裁判所の判断すべき事項ではないが、右例示の間接事実は、教義、教理の内容
にわたるものではなく、裁判所にとって判断可能な社会的事実であり、これらの事
実の存否によって、裁判所はB1が宗教法人たるB2の代表役員であるか否かを判
定することが可能であり、また必要である。
  けだし、裁判所は、宗教団体の教義、教理ないし信仰の内容に介入することは
できず、また、介入してはならないが、B2は宗教団体であると同時に、国家法で
ある宗教法人法によって設立されている法人であることにも留意しなければならな
い。すなわち、B2は、その財産を所有し、維持運用し、業務及び事業を運営する
ことに資するため宗教法人法により法人格を取得し法律上の能力が与えられている
のであり(宗教法人法一条)、その限りにおいて法律的世俗的存在でもあって、所
轄庁の認証を受けた規則(代表役員の任免は必要的記載事項である(同法一二条一
項五号)。)によって代表役員が選定されたか否かは、まさに法律的事項である。
したがって、その選定の直接事実が教義、教理にかかわる宗教的儀式であるからと
いって、直ちに本件紛争そのものが法律上の争訟性を欠くとすることは適当ではな
い。第一審判決のように、本件を法律的事項でないとして司法権が及ばないとする
と、宗教法人たるB2は、代表役員の地位が司法上確定できないことになり、本来
は法律的事項に関する紛争についても司法権による法の実現ができず、法人の財産
の維持、運用、その業務及び事業の運営が困難になるであろう。それは、およそ裁
判所が宗教団体の自主性を尊重することとは、全く反対の結果となる。そのような
結果になることは、B1が正当な代表役員であることを主張する者にとっても、そ
れを否定する者にとっても不利益である。
 3 以上のように、私は、多数意見が教義、教理や信仰の内容に干渉してはなら
ないとする点にはもとより賛成であるが、そのことから直ちに本件を法律上の争訟
でないとして第一審判決を支持したことに反対である。
 二 なお、本件につき、原審は、団体の構成員は、理事等の役員の任免に関与し
得るものとされている場合には、特定の者の役員たる地位の存否を争う適格と法律
上の利益とを有するが、役員等の任免に関与し得ない場合には、自己の権利義務又
は直接自己にかかわる具体的法律関係の存否の問題を離れて、一般的に、特定の者
につき、その役員たる地位の存否を争う適格及び法律上の利益を当然には有しない
と解すべきであるとし、B2の末寺の代表役員等である上告人らは、法主の任免に
関与する機会を有しないから、B1がB2の代表役員及び管長たる地位にあるか否
かを争う適格及び法律上の利益を有しないとして、本件訴えを却下している。
  しかしながら、上告人らは、原審の判示するとおりB2の末寺の代表役員等の
地位にある者であるところ、その地位の存否がB2の管長の任免によることなどを
考慮すれば、B1がB2の管長たる地位にあるか否かにつき、上告人らが法的にも
重大な利害関係を有することは否定できない。したがって、上告人らは、B1の管
長たる地位の存否ひいては管長をもって充てられるB2の代表役員たる地位の存否
を争う適格及び法律上の利益を有するというべきである。これと異なる原審の判断
を是認することはできない。
 三 以上説示したところによれば、本件訴えは、これを不適法として却下すべき
ものではなく、B1の代表役員及び管長の地位の存否について進んで本案判断をす
べきものであるから、原判決を破棄し、第一審判決を取り消して、本件を第一審に
差し戻すのが相当であると考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男

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