弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人野武興一の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は事実誤認,単なる法
令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,被告人の過失行為と被害者らの死傷という結果との間の
因果関係につき,職権で判断する。
 1 原判決及びその是認する第1審判決によれば,本件の事実関係は,次のとお
りである。
 (1) 被告人は,平成14年1月12日午前6時少し前ころ,知人女性を助手席
に乗せ,普通乗用自動車(以下「被告人車」という。)を運転して,高速自動車国
道a自動車道下り線(片側3車線道路)をb方面からc方面に向けて走行していた
が,大型トレーラー(以下「A車」という。)を運転し,同方向に進行していたA
の運転態度に立腹し,A車を停止させてAに文句を言い,自分や同乗女性に謝罪さ
せようと考えた。
 (2) 被告人は,パッシングをしたり,ウィンカーを点滅させたり,A車と併走
しながら幅寄せをしたり,窓から右手を出したり,A車の前方に進入して速度を落
としたりして,Aに停止するよう求めた。これに対し,Aは,当初は車線変更をす
るなどして被告人と争いになるのを避けようとしていたものの,被告人が執ように
停止を求めてくるので,相手から話を聞こうと考えるに至り,被告人車の減速に合
わせて減速し,午前6時ころ,被告人が同道路d起点28.8キロポスト付近の第
3通行帯に自車を停止させると,Aも被告人車の後方約5.5mの地点に自車を停
止させた。なお,当時は夜明け前で,現場付近は照明設備のない暗い場所であり,
相応の交通量があった。
 (3) 被告人は,降車してA車まで歩いて行き,同車の運転席ドア付近で,「ト
レーラーの運転手のくせに。謝れ。」などと怒鳴った。Aが,運転席ドアを少し開
けたところ,被告人は,ドアを開けてステップに上がり,エンジンキーに手を伸ば
したり,ドアの内側に入ってAの顔面を手けんで殴打したりしたため,Aは,被告
人にエンジンキーを取り上げられることを恐れ,これを自車のキーボックスから抜
いて,ズボンのポケットに入れた。
 (4) それから,被告人は,「女に謝れ。」と言って,Aを運転席から路上に引
きずり降ろし,自車まで引っ張って行った。Aが,被告人車の同乗女性に謝罪の言
葉を言うと,被告人は,Aの腰部等を足げりし,更に殴りかかってきたので,Aは
,被告人に対し,顔面に頭突きをしたり,鼻の上辺りを殴打したりするなどの反撃
を加えた。
 (5) 被告人が上記暴行を加えていた午前6時7分ころ,本件現場付近道路の第
3通行帯を進行していたB運転の普通乗用自動車(以下「B車」という。)及びC
運転の普通乗用自動車(以下「C車」という。)は,A車を避けようとして第2通
行帯に車線変更したが,C車がB車に追突したため,C車は第3通行帯上のA車の
前方約17.4mの地点に,B車はC車の前方約4.9mの地点に,それぞれ停止
した。
 (6) C車から同乗者のD及びE(以下「Dら」という。)が降車したので,被
告人は,暴行をやめて携帯電話で友人に電話をかけ,Aは,自車に戻って携帯電話
で被告人に殴られたこと等を110番通報した。
 (7) それから,被告人は,Dらに近づいて声を掛け,A車の所に共に歩いて行
ったが,Aは,Dらを被告人の仲間と思い,Dらから声を掛けられても無言で運転
席に座っていた。
 (8) 被告人は,午前6時17,18分ころ,同乗女性に自車を運転させ,第2
通行帯に車線変更して,本件現場から走り去った。
 (9) Aは,自車を発車させようとしたものの,エンジンキーが見付からなかっ
たため,暴行を受けた際に被告人に投棄されたものと勘違いして,再び110番通
報したり,再度近付いてきたDらと共に付近を捜したりしたが,結局,それが自分
のズボンのポケットに入っていたのを発見し,自車のエンジンを始動させた。
 (10) ところが,Aは,前方にC車とB車が停止していたため,自車を第3通行
帯で十分に加速し,安全に発進させることができないと判断し,C車とB車に進路
を空けるよう依頼しようとして,再び自車から降車し,C車に向かって歩き始めた
午前6時25分ころ,停止中のA車後部に,同通行帯をb方面からc方面に向け進
行してきた普通乗用自動車が衝突し,同車の運転者及び同乗者3名が死亡し,同乗
者1名が全治約3か月の重傷を負うという本件事故が発生した。
 2 【要旨】以上によれば,Aに文句を言い謝罪させるため,夜明け前の暗い高
速道路の第3通行帯上に自車及びA車を停止させたという被告人の本件過失行為は
,それ自体において後続車の追突等による人身事故につながる重大な危険性を有し
ていたというべきである。そして,本件事故は,被告人の上記過失行為の後,Aが
,自らエンジンキーをズボンのポケットに入れたことを失念し周囲を捜すなどして
,被告人車が本件現場を走り去ってから7,8分後まで,危険な本件現場に自車を
停止させ続けたことなど,少なからぬ他人の行動等が介在して発生したものである
が,それらは被告人の上記過失行為及びこれと密接に関連してされた一連の暴行等
に誘発されたものであったといえる。そうすると,被告人の過失行為と被害者らの
死傷との間には因果関係があるというべきであるから,これと同旨の原判断は正当
である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)

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