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平成25年6月25日判決言渡
平成24年(行ケ)第10376号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年6月11日
判決
原告帝國製薬株式会社
訴訟代理人弁理士草間攻
被告特許庁長官
指定代理人瀬良聡機
鳥居稔
中島庸子
堀内仁子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2011-12515号事件について平成24年9月19日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶審決の取消訴訟である。争点は,容易想到性及び
先願明細書発明との同一性である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年2月29日,名称を「外用貼付剤用の包装袋」とする発明に
つき特許出願(特願2000-54035)をしたが(甲6),平成23年3月2
5日付けで拒絶査定を受けたので(甲9),同年6月13日に不服の審判(不服2
011-12515号)を請求するとともに(甲10),同日付けで手続補正をし
た(甲11)。特許庁は,平成24年2月15日付けで拒絶理由を通知した上で(甲
12),同年9月19日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は,同年10月3日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本願発明の要旨は,平成23年6月13日付け手続補正書(甲11)の特許請求
の範囲の請求項2に記載された次のとおりである(本願発明)。
「想定した開封ラインに沿って,変形ミシン目状の切目線を包装袋の表面側複合
包装材および裏面側複合包装材の両面に形成した外用貼付剤用の密封包装袋におい
て,表面側または裏面側の複合包装材のいずれか一方に波形の変形ミシン目状の切
目線を形成し,他面側の複合包装材に概略直線状の変形ミシン目状の切目線を形成
したことを特徴とする外用貼付剤用の包袋袋。」
3審決の理由の要点
審決は,「本願発明は,引用発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであ
るから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」,「本願
発明は,先願明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願発明の発明者が
上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時
に,その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので,本願
発明は,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。」と判断し
た。
審決が上記判断の前提として認定した特開平5-147660号公報(引用刊行
物,甲1)に記載された発明(引用発明),本願発明と引用発明との一致点及び相
違点,本願発明と引用発明との相違点についての審決の判断,特願平11-275
009号(特開2001-97396号)の願書に最初に添付した明細書及び図面
(先願明細書,甲2)に記載された発明(先願明細書発明),本願発明と先願明細
書発明との一致点及び相違点,本願発明と先願明細書発明との相違点についての審
決の判断は,以下のとおりである。
(1)引用発明
「包装用積層フィルムを折返して相互にヒートシールして形成した表面側部分お
よび裏面側部分のそれぞれに,引き裂き誘導線としての破線状の線状溝部分を形成
してなる易開封性包装袋であって,表面側部分に形成した線状溝部分と,裏面側部
分に形成した線状溝部分とを,いずれか一方の面側を全幅にわたって円弧状に,他
面側を全幅にわたって直線状に形成し,側端縁位置でのみ相互に重なり合って位置
させた易開封性包装袋。」
(2)引用発明との一致点及び相違点
ア一致点
「想定した開封ラインに沿って,切目線を包装袋の表面側複合包装材および裏面
側複合包装材の両面に形成した密封包装袋において,表面側または裏面側の複合包
装材のいずれか一方に曲線状の切目線を形成し,他面側の複合包装材に直線状の切
目線を形成した包袋袋」である点
イ相違点a
曲線状の切目線について,本願発明においては,波形であるとされているのに対
して,引用発明では,全幅にわたって円弧状に形成されている点。
ウ相違点b
切目線の形態について,本願発明においては,変形ミシン目状とされているのに
対して,引用発明では,破線状である点。
エ相違点c
包装袋の用途について,本願発明においては,外用貼付剤用とされているのに対
して,引用発明では特定されていない点。
(3)相違点についての審決の判断
(相違点aについて)
本願発明の「波形」に関して,特許請求の範囲に特定がなく,明細書全体をみても
定義がない。したがって,波形の波の数や長さに一切特定がないのであるから,引用
発明の円弧状についても,半波長の波または波の一部といえる以上,相違点aは実質
的な相違点とはいえない。
また,「波形」という用語を明細書全体から技術的意義のあるように解釈したとし
ても,いずれか一方の切目線を「波形」に形成することとは本願明細書【0030】
【0033】【0035】の記載から,反対面側に設けた直線状の切目線または開封
ラインと異なる形状とし,両者が完全に重なり合うことがないようにして,開封後の
開口部の引き開きが容易になるように形成することを意味するものであって,引用刊
行物の摘記c)の課題の記載,摘記d)の作用の記載,摘記f)の【0020】【0
021】の直線状の線状溝部分と,円弧状の線状溝部分とを,袋の幅方向の大部分に
わたって,相互に重なり合うことなく位置させることで,口開きを極めて容易にした
旨の記載からみて,本願発明の「波形」と引用発明の「円弧状」とが実質的に相違す
るとはいえない。
仮に,相違点であるとしても,「波形」という用語の明細書全体からの技術的意義
の上記検討から明らかなように,当業者であれば,直線と重ならないための曲線形状
として,波形を選択することは容易に想到し得る。
(相違点bについて)
包装袋の技術分野において,切目線の形態として,開封ラインに沿って逸れなく容
易に開封できるように変形ミシン目状とすることは,実願平3-45435号(実開
平4-89760号)のCD-ROM(実用新案登録第2566444号公報(甲3)
と同内容)に記載されるように,周知技術であり,引用発明の切目線の形態として,
摘記e)及び摘記f)から種々の切目線が採用でき,摘記d)から引用発明の切目線
は引き裂き誘導線として設けられているのであるから,引用発明の切目線として,逸
れなく容易に開封できるようにした前記周知の変形ミシン目状を採用することは当
業者であれば容易になし得る。
(相違点cについて)
本願発明においては,包袋袋の用途を「外用貼付剤用」と特定しているが,外用貼
付剤を適宜外袋に封入保存することは,実願平5-75095号(実開平7-407
44号)のCD-ROM(甲4)の【0013】にも記載されるように,ごく普通に
行われていることであり,引用発明において前記用途特定をすることは,単なる用途
の限定にすぎない。
(総合的判断)
周知技術または慣用技術を適用したことによる本願発明の作用効果や,相違点を総
合的に判断して検討しても,引用発明,前記周知技術,及び前記自明の事項からみて,
当業者の予測を超える顕著な開封の容易性が得られたとはいえない。
(まとめ)
したがって,本願発明は,引用発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであ
るから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(4)先願明細書発明
「切取り予定部が設けられた二枚の積層体からなるシート状構成材料の間に密封
された内容物収納部を設けたハップ剤に用いる包装体において,切取り予定部には,
外面側からシート状構成材自体を貫通しない複数の切れ目を多行に配列してある程
度の上下幅を有した帯状として形成されているものであり,シート状構成材料の幅
方向に亘って設けられており,該幅方向の一行,一行においては切れ目が同方向に
傾斜した状態で並んでおり,上下に並設する切れ目相互では互いに傾斜方向が異な
るようにして配列された複数の切れ目が設けられ,シート状構成材料の一方の切取
り予定部は直線状とされ,他方のシート状構成材料の切取り予定部は,シート構成
材料の中央部で前記切取り予定部と重ならない曲がり部分を有していて,その両側
に位置して前記切取り予定部に重なるようにした直線部分が前記曲がり部分に連続
している,ハップ剤に用いる包装体」
(5)先願明細書発明との一致点及び相違点
ア一致点
「想定した開封ラインに沿って,変形ミシン目状の切目線を包装袋の表面側複合
包装材および裏面側複合包装材の両面に形成した外用貼付剤用の密封包装袋におい
て,表面側または裏面側の複合包装材のいずれか一方に曲がり部分を有する変形ミ
シン目状の切目線を形成し,他面側の複合包装材に概略直線状の変形ミシン目状の
切目線を形成した外用貼付剤用の包袋袋」である点
イ相違点
曲がり部分を有する変形ミシン目状の切目線について,本願発明では,「波形」
とされているのに対して,先願明細書発明では,「シート構成材料の中央部で曲が
り部分を有していて,直線部分が前記曲がり部分に連続している」と特定されてい
る点。
(6)先願明細書発明との相違点についての審決の判断
上記相違点に関して検討すると,摘記a)には,シート状構成材料の開口部側端部
が互いに密着しているのを容易に引き離すことができるようにすることを課題とし,
取り扱い容易な包装体を提供するため,摘記d)から曲がり部分を形成して直線部分
と重ならないようにしたものであることが理解でき,さらに,曲がり部分として,円
弧状,凹部,凸部の場合が示されており,曲がり部分の位置も中央に限定されるもの
ではないことが示されている。
本願発明の「波形」に関して,特許請求の範囲に特定がなく,明細書全体をみても
定義がない。したがって,波形の波の数や長さに一切特定がないのであるから,本願
明細書【0030】【0033】【0035】の記載から解釈した「波形」の技術的
意義と摘記a)の先願明細書発明の切取り予定部の形状の目的を考慮すると,先願明
細書発明の,「中央部で曲がり部分を有していて,直線部分が前記曲がり部分に連続
している」ものは,本願発明の「波形」の一種であるといえる。
したがって,上記相違点は実質的相違点とはいえない。
本願発明は,先願明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願発明の発明
者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも,また,本件出願時
に,その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので,本願発
明は,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(引用発明との相違点の判断の誤り)
(1)相違点aの判断誤り
審決は,本願発明の「波形」と,引用発明の「円弧状」を,「実質的な相違点と
はいえない」と認定した。
しかし,「波形」と「円弧状」とは,明確に異なる形状のものである。これまで
の特許庁の審査手続において,「円弧状」について,これが「半波長の波」または
「波の一部」であるとは認定せず,当業者は「波形状」と「円弧状」とは別形状で
あると認識している(甲14~16)。にもかかわらず,審決が,「引用発明の円
弧状についても,半波長の波または波の一部といえる」と認定したことは,誤りで
ある。
波の形状とは,「波形曲線が,三角波,矩形波,台形波,鋸波,正弦波から選択
される」ものであるが(甲17,18),引用発明の「円弧状」は,一方の端部か
ら他方の端部までの「全幅に亘って円弧状に形成した」ものであることから(甲1
【0009】),その部分をもって「半波長の波または波の一部」と認定すること
はできない。
審決は,本願発明の「波形」に関して,「特許請求の範囲に特定がなく,明細書
全体をみても定義がない。したがって,波形の波の数や長さに一切特定がないので
あるから,引用発明の円弧状についても,半波長の波または波の一部といえる」と
認定した。
しかし,本願発明の「波形状」の解釈に当たって,波形の波の数や長さの特定が
記載されていなければならないのか,従来の特許庁の審査の慣例とも齟齬する。
以上のとおり,審決が相違点aは実質的な相違点とはいえないと認定したことは,
本願発明の「波形」と,引用発明の「円弧状」の相違の判断の誤りがある。
審決は,「仮に,相違点があるとしても,『波形』という用語の明細書全体から
の技術的意義の上記検討から明らかなように,当業者であれば,直線と重ならない
ための曲線形状として,波形を選択することは容易に想到し得る」と判断した。
しかし,本願発明は,包装袋を開封後の開口部の引き開きが容易になるように,
表面側および裏面側の複合包装材の開封ラインの両者が,完全に重なり合うことが
ない構成として,一方波形状とし,他方を概略直線状としたものであって,審決の
判断は,結果をみた後付けの認定である。
本願発明は,特許請求の範囲の記載から,その技術的範囲は明確に理解できるも
のであり,被告が主張する「特許権が独占的な権利であって,第三者に影響を与え
るもので,特許法70条から発明の技術的範囲を特許請求の範囲の記載に基づいて
定めるもの」とは無関係である。
以上のとおり,審決には,相違点aにおける,本願発明の「波形」と,引用発明
の「円弧状」の相違の判断の誤り,本願発明の奏する効果を正確に理解しない見落
としがある。
(2)相違点bの判断誤り
審決は,「引用発明の『破線状の溝』は,…,引き裂き誘導線としての線状溝が
設けられており,本願発明の想定した開封ラインに沿って形成した『切目線』に対
応している。」として,相違点bを認定し,「引用発明の切目線として,逸れなく
容易に開封できるようにした周知の変形ミシン目状を採用することは,当業者であ
れば,容易になし得る」ものであると判断した。しかし,引用発明においては,「線
状溝」と記載されるものである以上,「連続した線状を有する窪みのある溝」でな
ければならず,これを本願発明にいう「切目線」とすることはできない。
例え,変形ミシン目状の切目線が,甲3において周知であったとしても,「線状
溝」と,「切目線」とは,溝としてある程度の溝幅をもち,窪み(凹み)を有する
か否かで全くの別物であり,その奏する効果も必然的に異なってくることから,引
用発明の線状溝に代え,切目線に置き換えること,さらにその形態として,変形ミ
シン目状を採用することが容易であるとは認定できない。特に,本願発明のように,
形態が変形ミシン目状となっている場合に,その変形ミシン目形状の切目線に,溝
(窪み,凹み)を想定することは,あり得ない。
「切目線」という用語が,被告の提出した乙11~14のとおりの解釈がなされ
ていたとしても,そこには「線状溝」が含まれるとする解釈はされていない。当業
者が「切目線」を通常用いる場合には,当該切目線を,乙11~14のとおりの解
釈をするものであって,その切目線における「溝深さ」,「溝幅」をどの程度のも
のにしようとなどとする検討はない。被告の認定は,通常の技術用語の解釈から逸
脱したものである。
被告は,「本願明細書全体からみても「切目線」という用語自体が,連続した態
様及び切目線に「溝の底部」が存在した態様を排除することを明記しているわけで
もない」と主張するが,もともと切目線に「溝の底部」が存在することなど一切考
慮していない本願発明に対して,「溝の底部」が存在した態様を排除することの明
記を要求することは,誤りである。
以上のとおり,審決には,相違点bにおける,本願発明の「変形ミシン目状の切
目線」と,引用発明の「引き裂き誘導線としての線状溝」の相違の判断の誤りがあ
る。
(3)相違点cの判断誤り
審決は,本願発明と引用発明との相違点cについて,「外用貼付剤を適宜外袋に
封入保存することは,実願平5-75095号(実開平7-40744号)のCD
-ROM(甲4)の【0013】にも記載されるように,ごく普通に行われている
ことであり,引用発明において前記用途特定をすることは,単なる用途の限定に過
ぎない」と認定した。
しかし,外用貼付剤用の包装袋である本願発明は,複数枚の貼付剤を,密封包装
袋内に収納(封入)するものであり,その包装袋に使用される複合材料としては,
その表面が印刷可能な各種の紙や,各種プラスチックフィルム等が用いられ,その
内側には,防湿性とガスバリア性となるアルミ箔を備え最内側には熱接着性を有す
るポリオレフィン樹脂を積層させた積層複合包装材料が用いられている(甲6)。
引用発明の包装袋にあっては,その包装袋を構成するフィルム材が如何なるもので
あるか記載されておらず,引用発明における包装袋が,外用貼付剤を充填するに好
適な防湿性,ガスバリア性を有しているものであるか否かは判明しない。そのよう
な点が記載されていない引用発明の包装袋を,外用貼付剤の包装袋として採用する
ことは,あり得ない。
まして,外用貼付剤は,その多くは,人体に貼付する医薬品であり,品質の経時
的変化,有効成分の経時的な減少などは,極力回避しなければならず,そのために,
包装袋には防湿性,ガスバリア性が要求されているのである。
それらの点を考慮することなく,外用貼付剤を適宜外袋に封入保存することは,
ごく普通に行われていることであり,引用発明において前記用途特定をすることは
単なる用途の限定に過ぎないとの審決の判断は,誤りである。
(4)小括
審決には,相違点a~相違点cについての上記認定の誤りがあり,その誤りに基
づいて,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができ
たものであると判断した違法がある。
2取消事由2(先願明細書発明との相違点の判断の誤り)
「波形」とは,円弧状などの形状とは全く異なる形状であり,特に審決がいう「中
央部で曲がり部分を有していて,直線部分が前記曲がり部分に連続している」もの
を「波形」の一種であるとする技術常識はないから,先願明細書には「波形」が記
載されているものと判断することはできない。
本願発明と先願明細書発明を対比した場合,先願明細書には,本願発明にいう「波
形」が記載されていないものであるから,先願明細書に具体的に記載される【図1】
あるいは【図3】に示される曲がり部(15)を有する切り取り予定部(5,6)
の形状が,本願発明にいう「波形」と実質的に同一であるか否かが問題となる。
審決は,本願発明の「波形」に関して,特許請求の範囲に特定がなく,明細書全
体をみても定義がなく,したがって,波形の波の数や長さに一切特定がないとして,
先願明細書には,曲がり部分として,円弧状,凹部,凸部の場合が示されており,
曲がり部分の位置も中央に限定されるものではないことが示されていることから,
「先願明細書発明の,『中央部で曲がり部分を有していて,直線部分が前記曲がり
部分に連続している』ものは,本願発明の『波形』の一種である」と認定した。
しかし,先願明細書には,審決が認定する,曲がり部分として,円弧状,凹部,
凸部形状を取りうることが記載されていても,その高さについては,記載されてい
ない。
曲がり部の位置が中央部でなく,端部側に寄った位置において曲がり部を配置し
てもよいことが記載されてはいるが,その場合には変形円弧状となるが,本願発明
の波形の一種であるとすることはできない。
本願発明にあっては,想定した開封ラインに沿って,変形ミシン目状の切目線を
包装袋の表面側複合包装材および裏面側複合包装材の両面に形成した外用貼付剤用
の密封包装袋であって,表面側または裏面側の複合包装材のいずれか一方に波形の
変形ミシン目状の切目線を形成して,他面側の複合包装材には概略直線状の変形ミ
シン目状の切目線を形成したことにより,開封ラインの全幅において,表面側およ
び裏面側の複合包装材に形成した変形ミシン目状の切目線は,包装袋の開封の結果,
互いに一致して対向することなく形成されることから,開封ラインの如何なる箇所
においても,容易に開封することが可能となる効果を発揮するが,先願明細書発明
においては曲がり部のある中央部での開封が容易となるものでしかない。
そうすると,本願発明における表面側および裏面側の複合包装材に形成した変形
ミシン目状の切目線,すなわち,表面側または裏面側の複合包装材のいずれか一方
に波形の変形ミシン目状の切目線を形成して,他面側の複合包装材には概略直線状
の変形ミシン目状の切目線を形成したことにより得られる効果は,先願明細書発明
では得ることができない効果であり,特許庁の特許・実用新案審査基準にいう,「相
違点はあるがそれが課題解決のための具体化手段における微差である場合(実質同
一)」とすることはできない。
そうすると,審決は本願発明と先願明細書発明についてその同一性の判断を誤り,
その誤りにより本願発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができ
ないと判断した違法がある。
第4被告の反論
1取消事由1(引用発明との相違点の判断の誤り)に対して
(1)相違点aについて
ア原告は,甲14~16の特許公報において,「波形状」と「円弧状」と
が異なる技術概念である旨の主張をしているが,甲14~16の記載は,本願発明
および引用発明における用語の解釈に影響を与えるものではないし,甲14~16
からは,波形状には,数や形状に種々の概念が存在し,「波形状」と「円弧状」の
技術概念の範囲が明確に分かれているとはいえない。「波形状」や「円弧状」は,
凸部や凹部形状として用いられている表現であり,円弧を用いた波形状が図示され
たり,波の凸部をアール状とするというように記載されているのであるから,原告
の「円弧」が「半波長の波または波の一部」であるという考え方はでないとする主
張には理由がない。
原告は,甲17の波形曲線の形状や甲18の波形の基本波形の例示を根拠に,円
弧状が「半波長又は波の一部」であるという考えはでない旨主張しているが,甲1
7や甲18の刊行物の波形の例示に「円弧」の明記がないからといって,本願発明
と引用発明の対比判断において,本願発明の「波形」に引用発明の「円弧状」が含
まれることを否定するものではなく,「波形(なみがた)」とは,「波のような形」
(乙2)であって,本願明細書全体からみて,甲18に示すような正弦波などの数
式で記述できるような特定の形状を意味するものでないことは明らかである。
また,原告は「円弧」が「円周の一部分」であるなどと主張するが,数学的にそ
のような定義が可能であっても,引用刊行物の「円弧状」について,「状」とは接
尾語で「~のような形,~に似たようす」(乙8)を意味するものであり,曲率半
径で定義するような特定の形状をいうものではなく,その他の凸状の曲線を含みう
るものである。
半波長のものも波形ということは通常のことである。
以上のとおり,甲14~18,当業者の技術常識等を検討しても,「引用発明の
円弧状について半波長の波又は波の一部」と認定できないとする理由はなく,本願
明細書及び引用刊行物において,上記認定を前提とした審決の判断に誤りはない。
イ原告は,本願発明の「波形状」の解釈にあたって,波形の波の数や長さ
の特定は必要ないとして,相違点aに係る審決の認定判断の誤りを主張しているが,
審決は,本願発明に関して,「波形状」に関する波形の波の数や長さの特定がない
事実を指摘し,引用刊行物の「円弧状の曲線」の定義を限定していないことも考慮
した上で,「波形」や「円弧状」は,凸部や凹部形状として用いられている表現で
あり,包装袋の口開きを容易にする機能からみても,両者は実質的に相違する形状
を意味するものでないと認定したものである。
また,甲14~16には,本願明細書においてはなされていない,凹凸部の形状
に関して説明が存在しており,「波形状」は通常広い概念の表現であることが理解
できるものといえる。
ウ原告は,審決の判断を結果をみた後付けの認定であると主張しているが,
本願発明と引用発明の対比・判断のために,本願明細書や引用刊行物の内容を検討
することは当然のことで,「波形状」と「円弧状」が,技術的意義に差はなく,曲
線形状として当業者にとって周知形状であることは明らかであるから,審決で,引
用発明において,「当業者であれば,直線と重ならないための曲線形状として,波
形を選択することは,容易に想到し得る」と判断したことに誤りはない。
また,原告は,本願発明の奏する効果を正確に理解しない,見落としがあるなど
とも主張しているが,その形状の違いによる本願発明の効果を具体的に示している
ものではなく,審決の誤りを実質的に指摘するものではない。
(2)相違点bについて
ア原告は,引用刊行物において,「線状溝」という用語が使用され,本願
発明において「切目線」という用語が使用されていることを取り上げ,「連続した
線状を有する窪みのある溝」を切目線とすることはできないことは明白と述べてい
るが,「切目」とは,「切れ目」広辞苑(乙11)「切れてできたあと。切れた所。」,
「切り目」広辞苑(乙12)「切った所。切ったこぐち。切断面」,「切り目・切
目」大辞林(乙13)「物の表面に切ってつけた傷。切り口」,「切(り)目」大
辞泉(乙14)「切ったあと。切り口」のことであり,「切目線」と「線状溝」と
は,「切目となる線」として一致する。
また,引用刊行物には,【0019】に「連続線状のみならず,破線状をなすも
のを含む」と記載されているから,「連続した線状を有する」ものであることを前
提とした原告の主張は失当である。
また,本願発明においても,「切目線」という用語は,特許請求の範囲において,
「変形ミシン目状」という以外には特定がなく,本願明細書全体からみても,連続
した態様及び切目線に「溝の底部」が存在した態様を排除することを明記している
わけでもない。
仮に,「溝」と「切目」との間に形態としての相違が存在したとしても,審決は,
引用発明の破線状の「線状溝」と本願発明の変形ミシン目状の「切目線」とを相違
点として実質的に検討しているのであるから,進歩性の判断に影響するものではな
い。
イ原告は,「線状溝」と,「切目線」とは,溝としてある程度の溝幅をも
ち,窪み(凹み)を有するか否かで別物であると主張しているが,引用刊行物にお
いて,「線状溝」とは,溝の幅や,深さ自体を限定するものではなく,破線状を含
めた概念である一方,本願発明の「切目線」も「凹み」を除外する根拠はなく,別
物ということはできない。
よって,変形ミシン目状の切目線が周知であり,開封時に逸れなく容易に開封で
きるのであれば,引用発明において,変形ミシン目状の態様を採用することは当業
者であれば容易になし得るものである。
(3)相違点cについて
ア原告は,引用発明の包装袋にあっては構成するフィルム材が如何なるも
のであるか記載されていない旨主張しているが,引用刊行物には,積層フィルムで
あることや,内層の合成樹脂フィルムと外層の熱接着補強剤を積層させることなど
が従来技術として記載され(【0002】),ヒートシールによって相互融着させ
て製袋することも記載されているから(【0009】),原告の主張には根拠がな
い。
また,引用刊行物に記載された易開封性包装袋は,袋の開封後におけるその口開
きを容易ならしめるものであって,その用途は何ら限定されるものではない。
そして,主として医療に用いる貼付剤が,適宜の外袋に封入すると保存,使用に
便利であること,及び,アルミの中間層やシーラント層によって,密封性やガスバ
リア性を保有することは周知事項であり,これら周知事項を前提にすれば,引用発
明においてヒートシールして密封する以上,密封性やガスバリア性を一定程度備え
ていることは当然であり,引用発明の密封包装袋を外用貼付剤に用いる程度のこと
は,当業者であれば容易に想到できる。
イ防湿性,ガスバリア性に関して,原告は,特許請求の範囲で具体的に特
定していない事項について主張しているが,「外用貼付剤用の包装袋」という特定
だけで,必要とされる防湿性,ガスバリア性は,上記のとおり当業者であれば当然
認識できる事項であり,引用発明において,周知の用途限定をすることは,当業者
であれば容易に想到しうることである。
(4)以上のとおり,相違点の判断に関する原告主張はいずれも理由がなく,取
消事由1には理由がない。
2取消事由2(先願明細書発明との相違点の判断の誤り)に対して
本願発明では「波形」に関する波形の波の数や長さの特定がなく,先願明細書は,
曲がり部分の形状を限定しておらず,円弧状,凹部,凸部の場合が示され,位置も
限定されるものではないとしているのであるから,「中央部で曲がり部分を有して
いて,直線部分が前記曲がり部分に連続している」ものを「波形」から排除して解
釈する理由はない。
また,本願明細書【0030】【0033】【0035】と先願明細書の【00
03】からみた曲線形状の技術的意義に差がないことからみて,先願明細書発明の
「中央部で曲がり部分を有していて,直線部分が前記曲がり部分に連続している」
ものを本願発明の「波形」の一種であるとして,実質的相違点とはいえないとした
審決の判断に誤りはない。
本願発明の波形の定義は明確でない以上,高さについての記載が必要であるとは
いえず,凹部,凸部,変形円弧状が波形の一種であるといえない理由もない。
原告は,本願発明にあっては,開封ラインの如何なる箇所においても,容易に開
封することが可能となる効果を発揮する旨主張しているが,本願発明に関して,「波
形」に関する波の数や長さの特定がないだけでなく,開封ラインの全範囲に形成さ
れていることも特定がないから,上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかないも
のである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明との相違点の判断の誤り)について
(1)本願発明
本願明細書(甲6)の記載によれば,本願発明は,外用貼付剤用の包装袋に係り,
詳細には,密封包装袋において,開封助成の変形ミシン目状の切目線を,想定した
開封ラインに沿って形成すると共に,その開封時における切目線の引き裂きによっ
て形成された開封部が,引き開き容易な開口状態となる外用貼付剤用の包装袋に関
するものであり(【0001】),その概要は次のとおりである。
すなわち,従来,病院,薬局等の医療機関で処方される外用貼付剤は,複数枚の
貼付剤を,密封包装袋内に収納した状態で患者等に手渡されることが多く,このよ
うな密封包装袋は,適宜複数層の積層構造をなす複合包装材を,袋体となるよう重
ね合わせ,その4方の袋側縁部をヒートシールしたものであり,開封サイドの上部
に開封助成のため,変形ミシン目状の切目線を想定した開封ラインに沿って複数列
に形成すると共に,その開封ライン下部に,互いに嵌合する凹状と凸状とによる再
封用チャックを備えたものが多用されており(【0002】),このような外用貼
付剤用の包装袋に使用されている複合包装材としては,その表面が印刷可能な各種
の紙や,各種のプラスチックフィルム等が用いられ,その内層には防湿性とガスバ
リア性となるアルミ箔を備え,最内層には熱接着性を有するポリオレフィン樹脂を
積層させた積層複合包装材が用いられる(【0003】)。そして,この種の外用
貼付剤用の包装袋における開封操作は,指の力の弱い高年齢者,女性等が,鋏や刃
物を使用せずに,容易に開封し,封入されている外用貼付剤を取り出すことができ
るよう,上述したように開封助成のため,変形ミシン目状の切目線を,想定した開
封ラインに沿って複数列に形成してあり,その切目線は,包装袋の密閉性とガスバ
リア性を確保するため,複合包装材の積層構造を構成する各種の紙や,セロファン,
各種のプラスチックフィルム等である基材層に形成されている(【0004】)。
この切目線は,包装袋の袋側縁部に沿って概略平行な直線状のものであり,開封時
の引き裂きは,想定した直線状の開封ラインに沿って行われ,その結果,引き裂か
れて形成された開封部の開口部では,包装袋の表裏側の複合包装材が,いまだ密着
した状態となっているため(【0005】),包装袋内より封入された外用貼付剤
を取り出すためには,開口部をさらに引き開かねばならないが,表裏側の複合包装
材密着状態であるため,指先の不自由な高年齢者にとっては,その操作がなかなか
困難な状態であった(【0006】)。そこで本願発明は,外用貼付剤の包装袋の
開封に際し,開封後の開口部が容易に引き開きできる状態になるようにした,外用
貼付剤用の包装袋を提供することを目的とするものであって(【0007】),そ
の構成を採用することにより,表面側および裏面側の複合包装材に形成する変形ミ
シン目状の切目線を,互いに完全な同一形状とすることなく形成されることとなり
(【0012】),そのため,想定した開封ラインに沿って引き裂き開封された後
の開口部は,切り裂き部分で密着状態を保っていたとしても,表面部の複合包装材
と裏面部の複合包装材が完全に重なり合うことがなく,表面側の複合包装材あるい
は裏面側の複合包装材における切り裂き部分が,他方の複合包装材の切り裂き部分
とずれた状態で開封するので(【0013】),開封後の開口部の引き開きに際し
て容易なものとなり,指先の不自由な高年齢者のみならず,その開封,開口操作が
簡単に行なえる利点を有するものとなる(【0014】)。
本願発明の「切目線」は,多数の切目が,開封時における一つの切目端からの破
れ方向の逸れを次の切目で補正できるように,断続状に形成されており,かつその
ような切目線を若干の間隔をもって複数列,好ましくは,3~4列形成するのがよ
く(【0018】),かかる変形ミシン目状の切目線としては,これまで外用貼付
剤の包装袋に形成されている,種々の形状の切れ目線が挙げられる。例えば,実用
新案登録第2566444号公報(甲3)に記載されるような,開封ライン方向に
向かって二又状に拡開した略Y字形状をなす切目線,互い違いの方向に傾斜した切
目を交互に形成した切目線,略ハ字形をなすように傾斜した2つの対をなす切目を
形成した切目線,略円弧状をなす切目線,略くの字状に屈曲した切目を向かい合わ
せるように2列1組で断続状に形成した切目線等,種々の変形ミシン目状の切目線
を挙げることができ,その中でも,略ハ字形をなすように傾斜した2つの対をなす
切目を形成した切目線が特に好ましく(【0019】),このような切目線の包装
袋に対する形成は,従来から実施されている所望の切目線形状を有する切目加工機
により行なうことができる(【0020】)。
(2)引用発明
引用刊行物(甲1)の記載によれば,引用発明は概略以下のとおりである。
すなわち,引用発明は,合成樹脂層を含む包装袋用積層フィルムのその合成樹脂
層に,連続線状もしくは破線状の線状溝を形成してなる易開封性包装袋用フィルム
および易開封性包装袋に関し,とくに,袋の開封後におけるその口開きを容易なら
しめるものに関し,従来,ミシン目加工が,袋の表面側部分および裏面側部分のそ
れぞれに対し,相対的に同一の箇所に施されていて,表裏のそれぞれの面部分で,
ミシン目加工部分がその全長にわたって相互に完全に重なり合って位置することか
ら,袋を,そのミシン目に従って破り裂いて開封した場合に,表面側部分の裂き口
と,裏面側部分の裂き口とがともに同一の面内に整列して位置することになるため
(【0003】),袋の開封後に,それを裂き口から口開きして内容物を取出すに
当って,いずれか一方の裂き口に対する指掛かりがなくて,それぞれの裂き口を,
表面側および裏面側のそれぞれの方向に引き離すことが困難である不都合があった
ので(【0004】),袋の開封後におけるそれの口開きを極めて容易ならしめる,
易開封性包装袋用フィルムおよび易開封性包装袋を提供することを目的とするもの
である(【0005】)。そのために,少なくとも一層の合成樹脂層を具える包装
用積層フィルムを折返して形成した表面側部分および裏面側部分のそれぞれを相互
にヒートシールしてなり,表面側部分および裏面側部分のそれぞれの,少なくとも
一層の合成樹脂層に線状溝部分を形成してなる易開封性包装袋であって,表面側部
分に形成した線状溝部分と,裏面側部分に形成した線状溝部分とを,少なくとも,
袋の幅方向の中央部分で,相互に重なり合わせることなく位置させてなる易開封性
包装袋,との構成を採用したものであり(【請求項2】),その構成により,引き
裂き誘導線としての線状溝の,表面側部分に位置する線状溝部分と,裏面側部分に
位置する線状溝部分とが,少なくとも,袋の幅方向の中央部分では,相互に重なり
合うことなく延在するので,袋の開封に際し,それらのそれぞれの溝部分を辿って
進行するそれぞれの裂け口は,これも袋の幅方向の中央部分にて相互に異なった位
置に延在して,それぞれの裂け口の,袋の底部分からの距離が相互に異なったもの
となるので(【0009】),袋の開封後におけるそれの口開きに当っては,袋の
底部からの距離が大きい側の裂け口に指を掛けて,それを表面側もしくは裏面側へ
引張ることにより,その口開きを極めて容易に,かつ迅速に行うことができる(【0
010】)。
引用刊行物の実施態様の記載に基づけば,線状溝は,表裏面側の一側のものを直
線上とするとともに,他側のものを上方に向けて凸状となる円弧状のものであり
(【0016】),また,連続線状をなすものの他,破線状をなすものであっても
よく,また,連続線状をなす線状溝であって,その溝に,深部と浅部もしくは,広
幅部と狭幅部とを交互に設けたものであってもよい(【0012】),とされる。
(3)相違点aの判断について
ア審決は,相違点aを実質的な相違点ではないと判断した。
しかし,「波」とは,「水面の高低運動。波浪。」や「波浪のように動いて凹凸
・起伏を生ずるもの。また,その形。」を意味し,物理的な意味で使用される場合
には「波動。」とも同じとされている(乙2)。そうすると,「波」とは,高低,
凹凸,起伏などを生じる運動又はその形を指すものと解される。
引用発明においては,「波」についての記載はなく,その「円弧状」という用語
も「波」の存在を前提としたものであるとは認められない。
そうすると,審決の,「円弧状」が「波」の一部等であるとの判断をそのまま是
認することはできない。
イ審決は,相違点aについて,「仮に,相違点であるとしても,『波形』
という用語の明細書全体からの技術的意義の上記検討から明らかなように,当業者
であれば,直線と重ならないための曲線形状として,波形を選択することは容易に
想到し得る。」と判断しているので,この点について検討する。
引用刊行物の実施例の記載に基づけば,引用発明の線状溝は,表裏面側の一側の
ものを直線状とするとともに,他側のものを上方に向けて凸状となる円弧状のもの
であり,また,連続線状をなすものの他,破線状をなすものであってもよく,また,
連続線状をなす線状溝であって,その溝に,深部と浅部もしくは,広幅部と狭幅部
とを交互に設けたものであってもよい,とされるものである。
引用刊行物では「円弧状」を採用することによる格別の技術的意義について説明
されておらず,引用刊行物に記載された引用発明の解決すべき課題,構成及び作用
からすると,「線状溝」の形状としては,実施例として説明されたものに限られる
とする理由はない。のみならず,引用刊行物の図面には,表裏面側の他側のものを,
半分は下方に向けての凸状,残る半分は上方に向けての凸状となる円弧状のものや,
直線状と「円弧状」の線状溝の組合せや,一直線上にない2つの直線状の線状溝を
短い接続部で組み合わせたものが実施例として記載されている。かかる引用刊行物
の記載に鑑みれば,引用発明の要旨である「表面側部分に形成した線状部分と,裏
面側部分に形成した線状溝部分とを相互に重なり合わせることなく位置させ」ると
いう構成を具体化できる線状溝の形状であれば,特段の事情がない限り,さらに他
のありふれた形状を採用することを排除するものではないと解される。
そして,円弧状はもとより,凹形,凸形,凹凸形,山形,椀形,皿形,波形(そ
の波の形も甲18によれば,厳密な意味でも,正弦波,のこぎり波,矩形波,三角
波等様々な形状が含まれる。)等の形状は,日常普通にみられるありふれた形状で
あり,かかる形状の例は枚挙にいとまはなく,また,それらの形を数学的に厳密に
定義し,また区別することができるものでもない。
したがって,「表面側部分に形成した線状部分と,裏面側部分に形成した線状溝
部分とを相互に重なり合わせることなく位置させ」ることのできる形状として,「波
形」を採ることに格段の困難性があったとはいえない。
また,かかる形状が,数学式によって表わされる厳密な形状でなく,それを変形
したり,近似又は類似する形状であったとしても,前記判断を左右するものではな
い。
しかも,かかる構成により奏する効果についても,格別顕著なものはない。
したがって,審決が,引用発明における直線と重ならないための曲線形状として
波形を選択することは容易に想到し得ると判断したことに誤りはない。
(4)相違点bの判断について
本願明細書では,「切目線」について,変形ミシン目状の構造をとることができ
ること,断続状に形成されること,若干の間隔をもって複数列形成することができ
ること,などが述べられているものの,その微視的な構造についての具体的な説明
はなく,外用貼付剤用の包装袋の開封助成の目的のために設けられるものであって,
包装袋の袋側縁部に沿って概略平行な直線状のものであり,開封時の引き裂きは,
想定した直線状の開封ラインに沿って行われるというものであることが記載されて
いるだけである。
また,本願明細書には,従来より,外用貼付剤用の包装袋に使用されている複合
包装材としては,その表面が印刷可能な各種の紙や,各種のプラスチックフィルム
等が用いられ,その内層には防湿性とガスバリア性となるアルミ箔を備え,最内層
には熱接着性を有するポリオレフィン樹脂を積層させた積層複合包装材が用いら
れ,変形ミシン目状の切目線は,包装袋の密閉性とガスバリア性を確保するため,
複合包装材の積層構造を構成する各種の紙や,セロファン,各種のプラスチックフ
ィルム等である基材層に形成されていると記載されている。
さらに,この「切目線」は,従来から知られていること,変形ミシン目状のもの
として,これまで外用貼付剤の包装袋に形成されている種々の形状の切れ目線が使
用出来ること,その形成は従来から実施されている所望の切目線形状を有する切目
加工機により行うことができることも記載されている。
「切目」とは,広辞苑第四版では,「切れ目」は「切れてできたあと。切れた所。」
(乙11),「切り目」は「切った所。切ったこぐち。切断面」(乙12),大辞
林第三版では,「切り目・切目」は「物の表面に切ってつけた傷。切り口」(乙1
3),大辞泉増補・新装版では「切(り)目」は「切ったあと。切り口」(乙14)
とされており,「切目線」とは,そのような切れ目又は切れたところであって線状
のものと理解される。
かかる「切目線」のような構造であれば,微視的には切れたところに隙間が空く
こととなり,また,本願発明の「切目線」は,包装体の表面側に位置する複合包装
材の基材層に形成されていて,その裏側の面まで到達していないから,複合包装材
の厚み方向のいずれかの箇所において閉じていると解され,その構造は,表面側が
空き,底がある隙間であって,実質的に溝の構造を排除するものではない。
そうすると,本願発明の「切目線」は,上記の切れ目又は切れたところであって
線状のものであり,包装袋の開封助成の目的のために設けられるものであって,包
装袋の袋側縁部に沿って概略平行な直線状のものであり,開封時の引き裂きは,想
定した直線状の開封ラインに沿って行われるものと理解でき,従来知られている様
々な「切目線」を含み,所望の切目線形状を有する切目加工機により形成されるも
のと理解され,また,前記「切目線」に該当するのであれば,様々な態様が想定さ
れるのであり,「切目線」として,例えば「溝」と評価されるような特定の構造の
ものが排除されるものとは解されない。
他方,引用刊行物に記載された「線状溝」は,合成樹脂層を含む包装袋用積層フ
ィルムの合成樹脂層に,連続線状もしくは破線状の線状溝を形成してなる易開封性
包装袋用フィルムおよび易開封性包装袋の引き裂き誘導線として形成され,連続線
状をなすものの他,破線状をなすものであってもよく,また,連続線状をなす線状
溝であって,その溝に,深部と浅部もしくは,広幅部と狭幅部とを交互に設けたも
のであってもよいとされるものである(【0007】【0012】)。
そうすると,引用刊行物に記載された「線状溝」もまた,易開封性包装袋の引き
裂き誘導線,すなわち,包装袋の開封助成のための直線状のものであり,また,溝
であるから,包装体の表面側から見た時の態様は,切れた部分で,線状のものとい
え,「切目線」であるということを妨げるものではない。
したがって,本願発明の「切目線」と引用発明の「線状溝」との間に実質的な構
造,技術的意義の差異はなく,引用発明の「線状溝」を本願発明の「切目線」に相
当するとした審決に誤りはない。
(5)相違点cの判断について
引用刊行物には,積層フィルムであることや,内層の合成樹脂フィルムと外層の
熱接着補強剤を積層させることなどが従来技術として記載されており(【0001】
【0002】),引用発明はそれを前提とした発明であると解される上,ヒートシ
ールによって相互融着させて製袋することも記載されている(【0009】)。
そして,引用刊行物に記載された易開封性包装袋は,合成樹脂層を含む包装袋用
積層フィルムのその合成樹脂層に,連続線状もしくは破線状の線状溝を形成してな
る易開封性包装袋用フィルムおよび易開封性包装袋に関し,とくに,袋の開封後に
おけるその口開きを容易ならしめるものであって(【0001】),その目的も,
袋の開封後におけるそれの口開きを極めて容易ならしめる,易開封性包装袋用フィ
ルムおよび易開封性包装袋を提供することを目的とするものである(【0005】)。
そして,積層フィルムやヒートシールは,その構造に照らし,包装袋の内容物と
包装体の外部の環境成分との間で不都合な両者の接触を遮断すること,すなわち空
気中の水分であれば防湿性の確保,大気中の酸素等であればガスバリア性を備えさ
せるという目的の下に行われていることは技術常識から明らかであり,そのような
性質を求められる用途であれば,引用発明の「易開封用包装袋」は,広く利用でき
る性質のものと解すべきであり,特段利用できないとする事情がない限り,外用貼
付剤が排除される理由もない。
他方,「サ-ジカルドレッシング,カテ-テル固定シ-ト,傷口被覆シ-ト,薬
剤経皮投与シ-トその他の皮膚表面に貼付して使用する貼付材」などの「主として
医療に用いる貼付剤」(実願平5-75095号(実開平7-40744号)のC
D-ROM(甲4)【0001】【0002】)が,「適宜の外袋(図示略)に封
入すると,保存,使用に便利である。」(甲4【0013】)とされているように,
主として医療に用いる貼付剤を適宜の外袋に封入すると保存,使用に便利であるこ
と,及び,医薬品の包装に際して(実用新案登録第2566444号公報(甲3)
【0001】【0068】),複合包装材からなる包装袋において包装状態でのガ
スバリアー性や密封性を損なうことがないようにすること(甲3【0001】【0
067】)は周知であると認められ,また,そのことは,医薬品の一般的性質に照
らしても,予測可能なものであると認められる。
そうすると,引用発明を,密封性及びガスバリアー性を備えた包装袋に封入する
ような必要のある医薬品に属する外用貼付剤の包装体として用いることは,元来想
定されている用途といえ,それを妨げる事情はない。
原告は,人体に貼付する医薬品であることから,品質の経時的変化,有効成分の
経時的な減少などについて特有の性能が要求されている旨主張するが,当業者にと
って明らかな外用貼付剤用として使用した時に当然求められる事項であるから,当
業者が必要に応じて適宜定めれば足りるものであり,特段の事情ともいえない。
したがって,引用発明を「外用貼付剤用」とすることは当業者が容易に想到する
ことができたことであるとの審決の判断に誤りはない。
2小括
以上によれば,取消事由1については理由がなく,取消事由2について検討する
までもなく,本願発明は特許を受けることができない。
第6結論
以上によれば,原告の請求には理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
池下朗
裁判官
新谷貴昭

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