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平成29年12月20日判決言渡
平成25年(行ウ)第78号司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告らに対し,各1万円を支払え。
第2事案の概要
1本件は,平成16年法律第163号(以下「平成16年改正法」という。)
による改正(以下「平成16年改正」という。)により,平成16年改正前の裁判
所法(以下「平成16年改正前裁判所法」という。)67条2項により定められて
いた,司法修習生が「その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける」制度(以
下,「給費制」といい,国庫から支給される金員を総称して「給費」という。)が
廃止されたことについて,平成23年11月に司法修習生を命じられ,平成24年
12月に司法修習生の修習(以下「司法修習」という。)を終えた原告らが,被告
に対し,主位的に,(1)平成16年改正は,原告らの司法修習における給費の支給
を受ける権利(以下「給費を受ける権利」という。)を保障した憲法の規定に違反
し,又は平等原則に違反するものであるから違憲無効であるなどと主張して,平成
16年改正前裁判所法67条2項の給費支払請求権に基づき,原告らそれぞれにつ
き,給与237万4080円のうち5000円の各支払を求めるとともに(実質的
当事者訴訟),(2)平成16年改正という立法行為及び平成16年改正後に給費制
を復活させなかった立法不作為が国家賠償法上違法であると主張して,同法1条1
項に基づき,原告らそれぞれにつき,損害賠償金337万4080円のうち500
0円の各支払を求め((1)と(2)は単純併合),予備的に,(3)司法修習生がその修
習に従事することは憲法29条3項の「公共のために用ひる」ことに該当するなど
と主張して,同項の損失補償請求権に基づき,原告らそれぞれにつき,平成16年
改正前に支給されていた給与相当額237万4080円のうち1万円の各支払を求
めた(実質的当事者訴訟)事案である。
2関係法令の定め
関係法令の定めは,別紙2「関係法令の定め」に記載したとおりである(同別紙
で定める略称等は,以下においても用いることとする。)。
3前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実等。以下,書証番号は特記しない限り全ての枝番号を含
む。)
(1)当事者
原告らは,平成23年11月27日,最高裁判所(以下「最高裁」という。)か
ら司法修習生を命じられ,同日からその修習を開始し,平成24年12月にその修
習を終えた者(後記(2)イのとおり新65期司法修習生であった者)である。(争
いのない事実)
(2)司法修習制度の概要等(争いのない事実,弁論の全趣旨)
ア概要
裁判所法は,裁判官,検察官,弁護士(以下,これらを総称して「法曹」とい
う。)のいずれになるかを問わず,最高裁に司法修習生として採用された全ての者
に修習を行うという司法修習制度を定め(以下,司法修習制度について,特に裁判
官,検察官及び弁護士の修習が分離されずに統一して行われる制度であることを指
す場合には,「統一司法修習制度」という。),法曹資格は,原則として,司法試
験の合格後に司法修習を経なければ取得できないものとされ,司法修習は法曹三者
になる者全員に対して制度として課されている。
司法修習生の修習目的は,「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と
実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」こ
とにあり(修習規則4条),司法修習生は,その修習期間中,司法研修所長並びに
実務修習において配属された各裁判所,検察庁及び弁護士会(以下「配属庁会」と
いう。)の長の監督の下,その修習に専念すべき義務(修習規則2条。以下「修習
専念義務」という。)を負い,最高裁の許可なく兼業や兼職をすることが禁止され,
違反した場合には司法修習生を罷免されることがあり(平成29年改正前裁判所法
68条,裁判所法68条),その場合には法曹資格が取得できないこととされてい
る。
イ司法修習生の呼称等
司法修習生は,司法試験に合格後,最高裁から司法修習生として採用されるが,
採用の年度により期で区別して呼称されている。司法修習の期が60期から65期
までの間は,平成14年法律第138号による改正前の司法試験法に基づく司法試
験(以下,平成14年法律第138号附則7条1項に定める試験を含め「旧司法試
験」という。)と同改正後の司法試験法に基づく司法試験(以下「新司法試験」と
いう。)とが併存していたため,旧司法試験合格者として司法修習生となった者は,
現行型司法修習を行い,新司法試験合格者として司法修習生となった者は,新司法
修習を行っていた(以下,前者の司法修習生を「現行」を付し,後者の司法修習生
を「新」を付し,さらに,それぞれの期の番号を付して呼称する。)。
ウ新65期司法修習生の修習内容等
司法修習生の修習内容は,時期等によって異なるものの,新65期司法修習生に
ついては,まず,全国各地の配属庁会における約8か月間の修習(裁判所において
約4か月間,検察庁及び弁護士会において各約2か月間。以下「分野別実務修習」
という。)が行われた後,司法修習生が自ら修習内容を選択して行う修習(以下
「選択型修習」という。)及び埼玉県和光市所在の司法研修所における修習(以下
「集合修習」という。)が行われるという内容のもので,修習期間は,合計約1年
間であった。
なお,新65期司法修習生は,配属庁会における分野別実務修習及び選択型修習
において,平日はおおむね午前9時から午後5時まで各配属先で時間的場所的拘束
を受けて修習をしていたところ,分野別実務修習の配属地は,必ずしも司法修習生
各人の配属希望地とは限らず,配属地に赴任するために居住地の移転を余儀なくさ
れることもあった。また,集合修習は,司法研修所で行われるため,司法修習生の
中には,配属地からの転居を余儀なくされた者や,司法研修所の寮への入寮抽選に
外れたことにより住居を自ら探すことを余儀なくされた者もいる。
(3)司法修習生に対する経済的支援に関する制度
ア平成16年改正前の制度(給費制)
平成16年改正前裁判所法67条2項は,司法修習生は,その修習期間中,国庫
から給与を受ける旨規定しており(給費制),平成16年改正前裁判所法の下にお
いては,司法修習生は,公務員ではないが,一般職の国家公務員の例に準じて,一
定額の給与のほか,扶養手当,調整手当,住居手当,通勤手当,期末手当及び勤勉
手当の各種手当の支給を受け,裁判所共済組合への加入も認められていた。なお,
給費制により,平成22年11月から平成23年12月までに司法修習を行った新
64期司法修習生に支給されていた給与額は,月額20万4200円であり,同年
7月から平成24年12月までに司法修習を行った現行65期司法修習生に支給さ
れていた給与額は,同年3月31日までは同額であったが,同年4月1日以降は,
月額19万4460円であった。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
イ給費制の廃止と貸与制の導入等
平成16年改正法により,給費制が廃止されるとともに,最高裁が司法修習生に
対し,その修習期間中に修習資金を貸与する制度(以下「貸与制」という。)が創
設された(平成29年改正前裁判所法67条の2)。貸与制の概要は別紙3「貸与
制の概要について」のとおりであり,平成16年改正法の施行日は,当初,平成2
2年11月1日とされていたが(平成16年改正法附則1項),平成22年改正法
による裁判所法の改正(以下「平成22年改正」という。)により,①貸与制につ
いては,平成23年10月31日まで適用せず,その間は,従前どおり,司法修習
生は,国庫から給与を受ける,②平成23年10月31日までに採用され,同日後
も引き続き修習をする司法修習生の給与については,なお従前の例によるなどとさ
れたため,同日までに採用された司法修習生(新64期司法修習生及び現行65期
司法修習生を含む。)については,給費を受けることができたが,同年11月1日
以降に採用された司法修習生(新65期司法修習生を含む。)については,給費を
受けることができなくなった。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
ウ給付金制の導入
その後,平成29年改正法による裁判所法の改正により,司法修習生に対する経
済的支援については,貸与制に加えて,司法修習生に修習給付金を支給する制度
(以下「給付金制」という。)が創設され,平成29年11月1日以降に採用され
る司法修習生については,修習給付金が支給されることとなったが(裁判所法67
条の2),同日前に採用された司法修習生には,修習給付金は支給されない。なお,
給付金制の下においても,貸与制は継続された(同法67条の3)。
給付金制においては,司法修習生に,その修習のため通常必要な期間として最高
裁が定める期間,修習給付金を支給するものとされ(同法67条の2第1項),修
習給付金の種類は,基本給付金,住居給付金及び移転給付金とされ(同条2項),
基本給付金の額は,司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費
用であって,その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれ
ている状況を勘案して最高裁が定める額とされている(同条3項)。
4争点
本件の主な争点は,下記のとおりである。
(1)平成16年改正前裁判所法67条2項に基づく請求の成否
ア平成16年改正は,憲法上保障された給費制ないし給費を受ける権利を侵害
し,違憲であるか否か(争点1-1)
イ平成16年改正は,憲法14条1項に違反し,違憲であるか否か(争点1-
2)
(2)国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求の成否(争点2)
(3)憲法29条3項に基づく損失補償請求の成否(争点3)
5争点に関する当事者の主張
(1)争点1-1(平成16年改正は,憲法上保障された給費制ないし給費を受け
る権利を侵害し,違憲であるか否か)
ア原告らの主張
(ア)給費制の憲法上の位置付け(憲法上の要請として保障された給費制)
a歴史的経緯
統一司法修習及び給費制は,戦前の大日本帝国憲法下における司法権の行政権及
び立法権に対する劣後構造並びに法曹三者内における弁護士の劣後構造により人権
侵害等が生じたという反省を踏まえ,基本的人権の擁護を基本原理とする日本国憲
法制定に際し,三権分立の確立,司法権の独立・拡充強化,法曹三者の地位の確立
と同時に,「憲法附属法典」である平成16年改正前裁判所法により制定され,国
の人権尊重義務の具体化としての法曹養成義務に基づき実施されてきた。そして,
統一司法修習においては,裁判官,検察官,弁護士のいずれになるかを問わず,司
法修習生に対して国家公務員と同様に給与を支払うとされたものであり,司法修習
を義務付けられる者に給与を支払うという給費制は,当然視されてきた。
b司法修習生の身分及び取扱い等
司法修習生については,給費制の下,公務員に準ずる取扱いがされ,修習専念義
務を負い,その具体化として,兼業禁止(修習規則2条),公務員の守秘義務と同
内容の守秘義務(修習規則3条),分野別実務修習の配属地の指定に伴う居住移転
義務(修習規則5条2項)等を負うことに加えて,公務員と同様の政治活動の禁止
や外国旅行に当たって承認を得なければならない等の取扱いがされ,これらに違反
した場合,司法修習生を罷免され(修習規則18条),修習を終了できずに法曹と
なることができない身分とされていた。このような司法修習生の取扱い及び修習専
念義務は,司法権を担う法曹に準じた司法修習生の身分及び地位に由来し,統一司
法修習は,憲法上要請される国民のための法曹を養成する義務研修課程であり,給
費制は,司法修習において,修習の目的を達成する上で不可欠であり,修習専念義
務及び修習に専念することの反面の給付として司法修習生の身分及び地位と一体の
ものとして説明されており,その修習期間中,何ら経済的,生活的な不安なくその
修習に専念し,法曹としての人格的基盤を築くために必要不可欠なものとして位置
付けられていたものである。
c法曹三者に対する報酬保障等
法曹三者は,いずれも三権分立の一翼たる司法権を担う存在として,憲法上特殊
な公共的性格を与えられており,裁判官について憲法79条6項後段,80条2項
後段,検察官について検察庁法21条の定めがあるほか,弁護士については,憲法
上の規定(34条,37条3項等)を具体化するため,弁護人の報酬を国が支弁す
る国選弁護制度(刑事訴訟法30条以下)が定められていることなどからすると,
法曹三者の公的職務については,憲法上の報酬保障が認められるといえる。そして,
司法修習生は,法曹になる者であって広義の法曹の一部をなしており,司法制度を
成立させるために必要不可欠であること,法曹でなければ携わることのできない法
曹実務の核心部分に触れることなどからすると,法曹三者に準じた公的な身分及び
地位を有しているといえ,法曹三者に対する憲法上の報酬保障の趣旨は司法修習生
にも及ぶというべきである。
d小括
以上からすると,統一司法修習制度は,法曹三者を養成するという国の憲法上の
義務の具体化であり,給費制は,司法修習生の身分及び地位の見地,修習専念義務
その他公務員に準じた身分の取扱い及び修習に専念する上での生活的経済的補償,
公的な司法修習への従事に対する対価補償としての見地から,憲法上導かれるもの
であり,「憲法附属法典」である平成16年改正前裁判所法によって具体化された
ものである。
(イ)給費を受ける権利の保障
給費を受ける権利は,下記aないしeのとおり,憲法13条,22条1項,25
条1項,27条1項及び2項,79条6項後段,80条2項後段等により,保障さ
れているところ,平成16年改正は,原告らの給費を受ける権利を侵害するもので
あって,違憲である。
a司法権の本質,司法修習生の身分及び地位等に基づく給費を受ける権利
司法修習生は,前記(ア)のとおり,国民のための司法を担うべく,法曹実務の中
で修習に専念するという法曹に準じた身分及び地位にある者であり,公務員に準じ
た権利の制約を受けている。このため,司法修習生には,修習に専念するという制
約等に対する対価補償として,憲法79条6項後段,80条2項後段等の保障が及
び,給費を受ける権利が憲法上保障されている。
b憲法13条に基づく保障
(a)修習に取り組むことは,司法修習生個人としての人格的価値のみならず,司
法権を担う法曹となるために修習に取り組むという公的価値をも含む人格権として
保障されるところ,法曹になるために不可避的に義務付けられ,種々の制約を伴う
修習に専念するためには,経済的,生活的な不安なく精神的にも充実して修習に取
り組めることが必要不可欠である。
そうすると,司法修習生には,憲法13条が保障する幸福追求権の一態様として,
無給ないし事実上の借金強制を受けることなく,経済的,生活的に安定した状況で
安心してその修習に取り組む権利が保障されなければならない。
したがって,司法修習に取り組む権利の中核として,憲法13条により給費を受
ける権利が保障されている。
(b)また,憲法13条の幸福追求権は,その一態様として公の利益のために特別
犠牲を強制されない権利を保障しているところ,全体の利益の下で人権に対する特
別の犠牲を課される場面においては,同条により特別犠牲に対して損失補償を求め
る権利が導き出される。
そして,司法修習生に修習専念義務を課して権利を制約することは,国民の権利
擁護のための司法権実現という公的目的の下で法曹となる者に対し,国が課した特
別の犠牲であると評価できる。
したがって,司法修習生には,憲法13条により,その修習に専念するための補
償を求める権利として,給費を受ける権利が保障されている。
c憲法22条1項に基づく保障
法曹になるという職業選択は,国の民主的存続と発展にとって不可欠で重要な職
責を担うことを選択するものであって,それを選択する自由は,極めて高い人格的
価値を有し,法曹になる職業選択の自由は,実質的には精神的自由に係る重要な権
利として保障されなければならない。
そして,司法修習生は,その修習期間中,修習専念義務及び兼業禁止により自由
な経済活動が制限されるとともに,実務修習地の指定及び司法研修所における修習
に伴う居住移転の制約を受ける。修習専念義務,兼業禁止,居住移転の制約等の司
法修習の本質から導かれる制約によって,司法修習生の経済活動及び居住移転の自
由が制約されるとしても,法曹になろうとする者に対しては,経済的事情により法
曹になる職業選択を断念することなどがないよう,十分にその修習に専念できる経
済的保障を求める権利が保障されなければならないというべきである。
したがって,法曹になる職業選択の自由の内容として,憲法22条1項により,
給費を受ける権利が保障されている。
なお,貸与制は,単なる借金であって,原告らが司法修習を辞退するか否かとい
う選択を迫られたり,奨学金に加えて更なる借金をするというリスクを負わせたり
していることなどからすると,給費制の代替措置としての合理性は全くない。
d憲法25条1項に基づく保障
司法修習生は,兼業等の禁止の制約により自ら経済的に自立した生計の維持がで
きない一方,修習に専念するために必要な経済的負担を強いられているところ,給
費制の下においては,給費の支給を受けることで,経済的不安なく修習に十分に専
念することができていた。
しかしながら,給費制の廃止後は,司法修習中及びそれ以降も続く生活的経済的
困難が生じたものであって,給費制の歴史的経緯及び従来の給費の支給が果たして
きた生活保障的役割等を踏まえると,平成16年改正前裁判所法67条2項が,司
法修習生がその修習に専念するための「最低限度の生活」を営む権利(憲法25条
1項)を具体化したものであることは明らかである。
したがって,平成16年改正前裁判所法67条2項は,生存権を具体化したもの
であって,憲法25条1項により,給費を受ける権利が保障されている。
なお,貸与制は,上記cのとおり単なる借金であって,多額の債務を抱えた司法
修習生が食費を削減したり,勉強会等への参加を控えたりするなど,その修習を十
分に行えていない実態が明らかであって,生活保障等に係る代替措置として全く合
理性を有していない。
e憲法27条1項及び2項に基づく保障
(a)司法修習生が憲法27条1項の「勤労」をする者であること
労基法9条の「労働者」に該当すれば,憲法27条1項にいう「勤労」をする者
に該当すると解されるところ,「労働者」については,①事業又は事務所に使用さ
れる者であること(使用従属性),②賃金を支払われる者であることという2つの
要件で判断され,実務上,①の使用従属性の要件が重要とされている。
受けること,
新64期司法修習生及び現行65期司法修習生に対して支払われていた給与につい
ては,報酬の労務対価性があること,㋕上記司法修習生に支払われていた給与につ
義務により兼業禁止等の加重された義務を負っていることなどからすると,司法修
習生が「使用される」との要件を満たすことは明らかである。
また,労基法9条にいう「賃金を支払われる者」とは,賃金が現に支払われてい
る者を指すのではなく,「賃金が支払われるべき者」を指すところ,司法修習生は,
使用従属性の下,司法修習を労務として提供しており,同要件も満たすものである。
したがって,司法修習生は,憲法27条1項の「勤労」をする者に該当し,原告
らには,同項に基づく賃金支払請求権としての給費を受ける権利が保障されている。
また,同条2項は「賃金…その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める」
と規定し,賃金に関する規定は法律をもって定めることとしているところ,平成1
6年改正前裁判所法67条2項は,上記賃金支払請求権を実現する規定であったも
のである。
(b)これに対し,被告は,労基法9条の「労働者」に該当するためには,「労務
の提供をする者」であることが必要であるとの前提で,「労働者」には該当しない
旨主張するが,「労務の提供」とは,債務の本旨に従った履行の提供であるところ,
司法修習生の債務の本旨は,「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と
実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるよう
に努めること」(修習規則4条参照)であるから,国の指揮命令に従って修習する
こと自体が,その債務の本旨に従った履行であり,「労務の提供」である。
また,被告は,司法修習生が国の事務に従事する者ではないことを理由に,「労
務の提供」がないと主張するが,国の事務に従事する者であるか否か又は法令上の
職務命令に従う義務があるか否かと「労務の提供」があるか否かは別問題であるし,
そもそも司法修習生は法令上の義務に基づき職務を行っており,最高裁の定め,指
示に従い,司法修習に関する職務を遂行する義務を負う存在にほかならない。
さらに,被告は,司法修習は,臨床教育課程にすぎないことを理由に司法修習生
が「労務の提供」をする者ではないと主張するが,外形上,指導する者と指導に従
う者という関係が存在する場合に,これが教育上の指導なのか,あるいは労働者性
を基礎付ける指揮監督関係なのかを区別する基準は,指示又は指導に従うことが本
質的義務であるか否かという点にあり,司法修習生は,修習専念義務という通常の
労働者に比して強度の拘束を受けながら,実務修習,集合修習に従事する義務を負
っているのであるから,その性質上,司法修習が教育ではなく,労働であることは
明らかである。民間企業の職員についても,公務員についても,オン・ザ・ジョ
ブ・トレーニング(以下「OJT」という。)においては,「労務の提供」が認め
られており,司法修習は,法曹三者のOJTとして位置付けられることからすると,
司法修習に教育的側面があることは,「労務の提供」と矛盾するものではない。
加えて,被告は,平成16年改正前裁判所法により支払われていた給与は配慮に
すぎない旨主張するが,平成16年改正前裁判所法の「給与」という文言上,「職
務に対する対価」であることは明らかであるし,司法修習生に対する給与が職務の
対価かどうかの問題は,司法修習生が国家公務員であるか否かの問題から論理必然
的に帰結されるものではなく,司法修習生が国家公務員に準じる地位ないし身分に
ある点からも十分に説明することができ,さらに,給与が支給される対象としての
職務は,権限に基づいて遂行される具体的な業務である必要がない。また,被告が
上記主張の根拠として挙げる最高裁昭和38年(オ)第5号同42年4月28日第
二小法廷判決・民集21巻3号759頁(以下「昭和42年判決」という。)は,
司法修習生が国家公務員等退職手当法にいう「国家公務員」又はこれに準ずる者に
当たるか否かが争われたにすぎず,先例としての拘束性はない。
(ウ)給費制の廃止と立法裁量について
a被告は,法曹養成制度については法律事項として立法府の政策的な判断に委
ねられているところ,給費制の廃止は,司法制度改革における財政上の理由等を根
拠とするものであって,合理的である旨主張する。
bしかしながら,前記(ア)及び(イ)のとおり,給費制は裁判所法によって具体化
された憲法上の制度であり,給費を受ける権利は憲法上保障されていることからす
ると,仮に被告に立法裁量があるとしても,給費制の存廃に係る立法裁量の範囲は
極めて限定されており,その廃止は原則として違憲の疑いを免れ得ず,例外的に合
理性を有することについて,被告が立証する必要がある。
c本件についてみると,司法制度改革審議会(審議会),司法制度改革推進本
部法曹養成検討会(以下「法曹養成検討会」ともいう。)の審議経過からすると,
給費制の廃止の根拠は財政難とされているが,憲法上要請された制度である給費制
を廃止する正当な理由とはならない上,平成16年改正法の立法当初においても看
過し難い弊害が具体的に指摘され,給費制の廃止を根拠付ける立法事実は全く存在
していなかったものであって,給費制の廃止に合理性がないことは明らかであり,
合理性を有することが立証されているとはいえない。このことは,①平成16年改
正後も,給費制の廃止の弊害は更に顕著に指摘されたため,平成22年11月に予
定されていた平成16年改正法の施行(給費制の廃止)が1年延期され,平成16
年改正法の施行後,原告らに現実の被害が生じたこと,②パブリックコメントにお
いて,給費制復活の意見が大多数であったこと,③司法修習における兼業禁止の緩
和その他の措置が段階的に実施されたこと,④給付金制を導入することなどを内容
とする平成29年改正法が衆参両議院の全会一致で可決されたこと及びその審議経
過等からも明らかである。
イ被告の主張
(ア)給費制の憲法上の位置付け(給費制が制度的に保障されていないこと)
憲法は,法曹養成に関して,いかなる制度を採用するかについては何ら定めてお
らず,ましてや給費制を要請するものではない。法曹養成に関して,我が国におい
ていかなる制度を採用するか,採用された法曹養成制度の具体的内容をどのような
ものにするかといった事項は,憲法の規律するところではなく,法律事項として立
法府の政策的な判断に委ねられている。
また,憲法は,法曹三者のうち検察官及び弁護士の報酬については何ら定めてい
ないから,原告らが主張する法曹三者の報酬保障という概念は,憲法上の根拠を欠
くものであるし,憲法79条6項後段及び80条2項後段は,司法権の独立の確保
のために裁判官の報酬を保障した規定であるから,その趣旨が司法修習生に及ぶと
もいえない。
したがって,給費制及び給費を受ける権利が憲法上保障されているとはいえない。
(イ)給費を受ける権利が保障されていないこと
下記aないしeのとおり,憲法13条,22条1項,25条1項,27条1項及
び2項,79条6項後段,80条2項後段等を根拠として,給費を受ける権利が保
障されているということはできず,給費制の廃止は,給費を受ける権利を侵害しな
い。
a司法権の本質,司法修習生の身分及び地位等を根拠とするもの
上記(ア)のとおり,憲法79条6項後段及び80条2項後段は,司法権の独立の
確保のために裁判官の報酬を保障した規定であるから,これらの規定を根拠に,給
費を受ける権利が保障されているとはいえない。
b憲法13条
修習専念義務は,司法修習制度の目的(修習規則4条)から導かれるものであり,
司法修習が臨床教育課程として実際の法律実務活動の中で行われるものであり,実
際の法曹と同様に中立公正な立場を維持する必要性があることなどから課せられる
ものであって,司法修習制度の本質から求められるものである。
したがって,司法修習生が修習専念義務を課されることにより権利の制約を受け
るとしても,それは,司法修習生が自らの意思で司法修習生となることを選択した
ことに伴う内在的制約である。
また,前記(ア)のとおり,法曹養成制度の具体的内容に関する事項は立法府の政
策的な判断に委ねられており,原告らの主張は,立法政策の当否を論ずるものにす
ぎない。
なお,憲法13条から,司法修習に専念するための補償を求める権利として,給
費を受ける権利が保障されているとはいえない。
c憲法22条1項
現行の法曹養成制度において,司法修習は,法曹に必要な能力を養成するために
実際の法律実務活動の中で行われる臨床教育課程であり,実務教育の主要部分を担
うという重要な位置付けを与えられているものであって,司法修習は,法曹になる
という職業選択に資するものであるから,司法修習の存在そのものが職業選択の自
由を制約し,これを侵害するものであるということはできない。
また,上記bのとおり,修習専念義務は,司法修習制度の本質から求められるも
のであり,自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約で
あって,給費制はその対価・補償などといえるものではなく,これを廃止すること
が憲法22条1項に違反するということはできない。
さらに,司法修習が法曹に必要な能力を養成するために実際の法律実務活動の中
で行われる臨床教育課程であることからすると,実務修習や司法研修所で集合修習
を行うことは必要かつ有用なことであって,実務修習地の指定は,司法修習制度の
目的と合理的関連性を有するものであり,これにより居住,移転の自由に制約があ
るとしても,それは,自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内
在的制約であり,職業選択の自由を侵害するものではない。
なお,貸与制は,司法修習期間中の生活の基盤を確保するために十分合理的な制
度となっているから,給費制の廃止が職業選択の自由を制限するものではない。
したがって,平成16年改正が,憲法22条1項に違反するとはいえない。
d憲法25条1項
平成16年改正前裁判所法67条2項に基づき司法修習生に支給されていた「給
与」は,司法修習生をして修習に専念させるための配慮として支給されていたもの
にすぎず,同項は,司法修習生の生存権の保障を具体化したなどといえるものでは
ない上,生存権の保障とは全く関係がない。司法修習生が修習専念義務により生活
の糧を得ることが制限されるとしても,それは,司法修習生が自ら司法修習生とな
ることを選択した結果であって,上記制限及びそれに伴う生活,経済状況を強いら
れるものではないから,そもそも生存権の保障を及ぼすべき場面には当たらない。
なお,上記cのとおり,貸与制が導入されていることからしても,給費制を廃止
することが生存権を侵害するということはできない。
したがって,平成16年改正が,憲法25条1項に違反するとはいえない。
e憲法27条1項及び2項
憲法27条の「勤労」は,使用者に対する労務の提供を不可欠の要素とするもの
であって,原告らが主張する使用従属性の要件は,上記使用者に対する労務の提供
が認められる事実関係の下で検討されるべきものである。そして,①司法修習生の
修習は,法曹に必要な能力を養成するために,実際の法律実務活動の中で行われる
臨床教育課程であり,②司法修習生は,裁判官,検察官又は弁護士の職務その他国
の事務に関する職務を遂行する権限も義務もなく,司法修習生がこれらの職務を遂
行することは何ら予定されていない上,③具体的な修習内容に照らしても,司法修
習生は,裁判官,検察官又は弁護士の事務その他国の事務に従事するものではない。
なお,昭和42年判決によれば,平成16年改正前裁判所法67条2項に基づき
司法修習生に支給されていた「給与」は,司法修習生をして修習に専念させるため
の配慮として支給されていたものにすぎないと解される。
したがって,司法修習生の修習は,使用者(国)に対する労務の提供に当たらな
いから,司法修習生に対する給費制の廃止は,憲法27条1項及び2項に違反する
ものではない。
(2)争点1-2(平成16年改正は,憲法14条1項に違反し,違憲であるか否
か)
ア原告らの主張
給費制を廃止することは,下記のとおり,原告ら新65期司法修習生と,①新6
4期司法修習生,②現行65期司法修習生,③裁判所書記官研修生との間で不合理
な差別的取扱いであり,原告らの平等権を侵害するといえ,憲法14条1項に違反
するものである。
(ア)新64期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間の差別的取扱い
新64期司法修習生と原告ら新65期司法修習生については,修習のカリキュラ
ムの内容,修習生活及び修習専念義務の態様は,ほぼ同様であり,両者の差異は,
基本的に合格した司法試験の年が1年異なるだけである。
それにもかかわらず,両者は,給費の支給の有無という差異,すなわち,公務員
に準じた給与及び各種手当が支給されるか,給付される支給が一切ないかの差異が
生じ,それにより,原告らの生活実態や司法修習の実態は新64期司法修習生のそ
れと全く異なるものとなってしまったものである。
このような司法修習生の経済的保障という重要な地位及び身分に関する差異は,
およそ許容される限度を超えるものであって,合理性はなく,不合理な差別である
ことは明らかである。
(イ)現行65期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間の差別的取扱い
現行65期司法修習生と原告ら新65期司法修習生とは,前期修習(司法修習生
として採用された後,分野別実務修習を行う前に司法研修所において行う修習を指
す。以下同じ。)の有無,実務修習期間の長短など,修習のカリキュラムの内容に
おいて若干の差異はあるものの,これらの差異は些細なものにすぎず,修習の内容
については本質的に同一のものといえるほか,身分上の地位の取扱いや,修習専念
義務に基づく権利の制約等は全く同一である。両者は,共通する時期に修習を行っ
ており,原告ら新65期司法修習生は,現行65期司法修習生の後期修習(分野別
実務修習を終えた後に司法研修所において行う修習を指す。以下同じ。)と同時期
に同じ内容で集合修習を行っていた。
それにもかかわらず,現行65期司法修習生は,給費の支給を受けることができ,
経済的な不安がなく,精神的にも修習に専念することができた一方で,原告ら新6
5期司法修習生は,給費の支給を受けることができなかったものである。
このような司法修習生の経済的保障という重要な地位及び身分に関する差異は,
およそ許容される限度を超えるものであって,合理性はなく,不合理な差別である
ことは明らかである。
(ウ)裁判所書記官研修生と原告ら新65期司法修習生との間の差別的取扱い
司法修習生も裁判所書記官研修生も,司法権の担い手を養成するための国家によ
る研修として,最高裁の機関において,一定期間の義務研修後にその資格を付与さ
れるという点において同一である。そして,その研修実態も,最高裁により配属地
が決定され,司法研修所又は裁判所職員総合研修所に出勤できる範囲内において居
住生活し,法律実務に関与しながら実施されるものであって,基本的に同一のもの
といえる。また,司法修習生と裁判所書記官研修生は,ともに公務員に準じる身分
及び地位にある者として,修習専念義務又は兼業禁止等の公務員と同様の制約を受
けるほか,公的な身分及び地位にある者として,裁判所法及び最高裁判所規則によ
る規律を受けるという点においても同様である。
しかしながら,裁判所書記官研修生は,研修期間中,給与及び各種手当等の支給
を受けることができるなど,十分に研修に従事することができるが,原告ら新65
期司法修習生は,給与その他各種手当を受けることができず,現在及び将来の経済
的不安に襲われながら,司法修習を行わざるを得なかったものである。
したがって,実体的,身分的には司法修習生と同一と評価できる裁判所書記官研
修生には給与及び各種手当に加えて社会保障等まであるのに対し,司法修習生には
一切給付される金員がないことは,その取扱いの差異の程度が余りにも大きいとい
わざるを得ず,許容される限度を超えた不合理な差別的取扱いであることは明らか
である。
イ被告の主張
(ア)新64期司法修習生及び現行65期司法修習生と新65期司法修習生との間
の区別について
a法曹養成の方法については,国の政策的な判断に委ねられており,司法修習
生をその修習に専念させるためにどのような方策を講じるかといった事柄について
は,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況,国の財政事情,他の政策等を
踏まえて検討される必要があり,国の政策的判断に委ねられるべきものであること
からすると,新64期司法修習生及び現行65期司法修習生と新65期司法修習生
との間の区別に合理的な根拠があるかどうかについては,国に広い裁量があること
を前提に判断すべきである。
bそして,平成16年改正により給費制から貸与制への移行が行われたのは,
法曹養成検討会等における長期間にわたる種々の議論等を踏まえた上で決定された
方針にのっとり,限りある財政資金をより効率的に活用し,司法制度改革全体につ
いて国民の理解が得られる合理的な国民負担(財政負担)を図る必要があることな
どを踏まえ,司法修習生の「給与」を国民が負担することについて国民の理解を得
られるか否かといった観点などによるものであり,合理的な根拠を有していること
は明らかであり,貸与制については,司法修習期間中の生活の基盤を確保するのに
十分合理的なものとなっている。
また,特に,現行65期司法修習生と新65期司法修習生との間の区別について
みると,両者は給費制から貸与制への移行という異なる条件の下に採用されており,
両者を同列に論じることはできない上,給費制から貸与制への移行が行われたのは,
上記理由のほか,現行65期司法修習生については修習の期間を1年4か月とする
一方,法科大学院の実務的教育を経た新65期司法修習生については修習の期間を
1年にするなど,法曹養成期間全体の長期化,法科大学院での実務教育及び法曹資
格取得後の継続教育との役割分担等を考慮するという上記司法制度改革全体の制度
設計に基づくものであるから,このような経緯等を背景とする両者の取扱いの区別
に合理性が認められることは明らかである。
c以上のとおり,平成16年改正による給費制から貸与制への移行は,合理的
な政策判断というべきであり,新64期司法修習生及び現行65期司法修習生と新
65期司法修習生との間の区別は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区
別といえるものであるから,憲法14条1項に違反しない。
(イ)裁判所書記官研修生と新65期司法修習生との間の区別について
a裁判所書記官研修生は,国家公務員である裁判所の職員であり,司法修習生
とは身分及び地位が全く異なるものである。すなわち,国家公務員の研修は,国家
公務員が国家公務員としての職責を適切に果たすことができるよう,現在就いてい
る官職又は将来就くことが見込まれる官職において求められる職務遂行能力を身に
付けるべく,日頃から職務内外で行われる知識及び技能の習得の一環として行われ
るものであって,国の職務命令に基づくものであるのに対し,司法修習は臨床教育
課程であるということにとどまり,司法修習生については,「司法修習生」という
官職そのものや,将来就くことが見込まれる官職自体を観念できないから,司法修
習生を命じ,司法修習に参加させていることをもって,現在就いている官職又は将
来就くことが見込まれる官職の職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させるもの
と評価することはできない。
bしたがって,裁判所書記官研修生と司法修習生は,身分及び地位が異なり,
裁判所書記官養成課程における研修及び実務修習と司法修習も性格が異なるもので
あるから,裁判所書記官研修生と新65期司法修習生との間に待遇の差異があるこ
とは憲法14条1項に違反するものではない。
(3)争点2(国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求の成否)
ア原告らの主張
(ア)違法性及び過失
a判断指標
給費制の廃止に係る立法行為(平成16年改正)及び給費制の廃止後に給費制を
復活させなかった立法不作為は,立法権及びその背後にある行政権による司法権に
対する侵害の実質を有するものであるから,立法行為又は立法不作為が違憲と評価
される場合においては,原則として国家賠償法1条1項における違法性及び過失が
認められ,例外的に違法性及び過失の評価を阻却する事情が認められるか否かにつ
いて判断すべきである。
そして,このような違法性を阻却する事情は被告から一切主張されていないから,
本件における立法行為及び立法不作為は,同項上,違法及び過失の評価を免れない。
b仮に,被告が主張する判断枠組みに従って判断したとしても,下記(a)及び
(b)のとおり,給費制の廃止に係る立法行為及び給費制の廃止後に給費制を復活さ
せなかった立法不作為については,国家賠償法上の違法性及び過失が認められる。
(a)給費制を廃止した立法行為について
前記(1)ア及び(2)アのとおり,給費制を廃止した立法行為は,憲法上明確に保障
されている司法修習生への賃金,報酬をなくす立法行為である。かかる立法につい
ては,法曹養成検討会において,当初,委員から全く給費制を廃止すべきとの意見
がない状態で,突然,官僚により組織される事務局が,給費制を廃止して貸与制に
移行することを求める内容の資料を提出したことに端を発したもので,同検討会に
おいて給費制を廃止するとされた理由は関係機関との調整や予算の都合といった官
僚側の都合,裕福な子女に給費を支給する理由がないという俗論,国民の理解が得
られないという何ら証拠のない抽象論であり,国会において疑義を唱える質問に対
しても官僚が同様の説明を行い,給費制が廃止されたものである。
したがって,給費制を廃止した立法行為(内閣総理大臣及び法務大臣の法律案提
出行為等並びに国会議員の改正行為(立法行為))は,立法の内容が国民に憲法上
保障されている権利を違法に侵害することが明白であるといえ,国家賠償法上の違
法性があり,かつ,被告に過失が認められることは明らかである。
(b)給費制の廃止後に給費制を復活させなかった立法不作為について
給費制を復活させなかった立法不作為は,憲法上一義的な立法による保障を要す
る賃金ないし報酬のない無給状態を放置したという不作為であり,立法不作為が原
告らに憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白であった。また,原
告らが給費を受けるには,当該法律による定めが必要である上,平成16年改正以
降,法曹の経済的状況は悪化し,法曹志望者が激減していることは明白であり,司
法修習生になることを辞退した者もいたほか,新65期司法修習生について様々な
弊害が生じていた。さらに,平成22年改正の際,被告は,法曹志望者が厳しい経
済状況に置かれ,経済的理由から法曹となることを断念しないよう,法曹養成制度
に対する財政支援の在り方について見直しを行うことが緊要な課題となっているこ
とを十分に認識していたことなどからすると,被告は,平成16年改正以降,平成
24年12月までの約8年間以上もの長期にわたり,給費制復活のための所要の立
法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であることを十分に認識してい
たものである。
したがって,給費制を復活させなかった立法不作為は,国民に憲法上保障されて
いる権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であ
り,それが明白であるにもかかわらず,正当な理由なく長期にわたってこれを怠っ
たものであり,国家賠償法上の違法性があり,かつ,被告に過失が認められること
は明らかである。
(イ)損害の発生及び額
原告らは,給費制の廃止及びその後の立法不作為により給費相当額を得られない
という損害を被ったものであり,その損害額は,少なくとも237万4080円
(平成23年12月分から平成24年11月分まで)を下らない。また,給費制の
廃止により原告らは多大な精神的苦痛を受けたものであり,慰謝料としては100
万円を下らない。
イ被告の主張
(ア)国会議員の立法行為又は立法不作為は,立法の内容又は立法不作為が国民に
憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民
に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執るこ
とが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく
長期にわたってこれを怠る場合などに,例外的に,国家賠償法1条1項の規定の適
用上,違法の評価を受けるというべきである。
前記(1)イ及び(2)イのとおり,平成16年改正により給費制を廃止して貸与制と
したことは憲法に違反しないから,これに係る内閣総理大臣及び法務大臣の法律案
提出行為等並びに国会議員の改正行為(立法行為)ないし給費制を復活させなかっ
たという立法不作為は,国家賠償法上違法の評価を受けるものではない。
(イ)損害の発生及び額については争う。
(4)争点3(憲法29条3項に基づく損失補償請求の成否)
ア原告らの主張
(ア)憲法29条3項により補償される財産権とは,単に人が取得した財産を処分
する自由のみならず,人が財産を取得形成することに係る権利も含まれると解すべ
きである。
(イ)財産取得形成に対する適法行為に基づく損失補償の原因となる権利の制約行
為には,①当然に財産的負担が伴うような身体的自由の制限,②業者に対して労役
を課す「役務」の徴収,③一般国民に対して労役を課す「労力」の徴収の人的収用
が含まれる。
被告は,新65期司法修習生に対し,修習専念義務や兼業禁止等を課して司法修
習に従事させており,これにより新65期司法修習生は,主として労務や経済活動
により財産を取得することができなくなるという損失を被った。このことから,原
告らは,①当然に財産的負担が伴うような身体的自由の制限を受けたといえる。ま
た,新65期司法修習生は,司法試験に合格し,そのほとんどが法曹となるのであ
るから,専門性を有しており,「業者」に準じた者といえる。司法修習中は,兼業
を禁止されて財産獲得の機会を逸するから,原告らは,②業者に対して労役を課す
「役務」の徴収を受けたといえる。さらに,司法修習は,法曹実務そのものを行わ
せるものであり,修習専念義務等により,他で労務を提供して財産を得る機会を失
わせるものであるから,③一般国民に対して労役を課す「労力」の徴収を受けたと
いえる。
以上のとおり,原告らに対して,修習専念義務等を課して司法修習に従事させる
ことは,憲法29条3項による損失補償の対象になることは明らかである。
(ウ)憲法29条3項にいう「公共のために」とは,収用全体の目的が広く社会公
共の利益のためであればよいと解されているところ,司法修習は,国民の基本的人
権を実質的に保障すべく憲法上の要請として実施されているものである以上,広く
社会公共の利益のために行われているものであり,「公共のために」に該当する。
また,同項にいう「用ひる」とは,公益目的のために財産を収用する場合だけに限
らず,広く財産権を制限する場合も含むと解され,自由に財産を獲得,形成,処分
することへの制約についても「用ひる」に当たると解すべきである。
そして,新65期司法修習生は,居住・移転の自由が制約され,司法修習中,場
所的・時間的拘束を受け,かつ,自活するための営業活動や勤労に従事することも
制限されているが,これらの制限は平成16年改正法及び最高裁判所規則によって
強制的に行われるものであり,これらに反すれば司法修習生を罷免されるから,制
限に違反した場合の不利益の度合いを考慮すれば極めて強度の制限といえる。した
がって,原告らが司法修習に従事し,修習専念義務や兼業禁止が課されることが
「用ひる」に該当する。
(エ)憲法29条3項によって補償を要するのは,特定の者に対してその財産権に
内在する社会的・自然的制約を超えて,「特別の犠牲」を課する場合とされ,「特
別の犠牲」に該当するか否かは,①侵害行為の対象が広く一般人か特定の個人ない
し集団か(形式的基準),②侵害行為が内在的制約として受忍すべき限度内か,そ
れを超えて財産権の実質ないし本質的内容を侵すほどの強度なものか(実質的基準)
に基づいて判断されるものである。
そして,司法修習生は,兼業禁止等の制約を受け,労務や経済活動により財産を
獲得することができなくなるという犠牲を強いられるところ,侵害行為の対象は,
司法修習生として採用された者のみであって,特定の集団に限定されている。また,
アンケートによれば,司法修習生の場所的拘束及び兼業禁止に伴う経済的負担につ
いては,修習期間の約1年間で平均して232万5600円になり,配属地の指定
に伴う経済的負担については,修習開始の際の転居費用や集合修習のための転居費
用など平均して45万7500円となり,司法修習を行うためには約278万31
00円の費用が必要であるところ,修習専念義務等が課されることによって,上記
費用を自己の収入で賄うことは不可能であるし,司法修習生に採用されるまでの法
科大学院の費用等による債務を負っている者が多数いることも踏まえれば,上記侵
害行為は,新65期司法修習生に多大なる経済的負担を強いるものであり,法曹資
格取得のための内在的制約として受忍すべき限度内とはいえず,財産権の実質ない
し本質的内容を侵すほど強度な侵害であるといえる。
したがって,原告らは,憲法29条3項等に基づき,その正当な補償として少な
くとも給費制下において支給されていたのと同等額の金員を請求する権利を有して
おり,その額は,237万4080円を下らない。
イ被告の主張
修習期間中の司法修習生に修習専念義務を課することが,私有財産を「公共のた
めに用ひる」(憲法29条3項)場合に当たるとすることは,そもそも規定の文言
上,無理があるといわざるを得ない。その上,司法修習生への採用は,司法修習生
の意思に基づくものにほかならず,憲法29条3項が予定する私人の意に反して公
権力が行使される場面は存在しない。そして,修習専念義務は,修習が法曹に必須
の課程として国家によって運営されており,修習の内容も法曹に必要な能力を養成
するために高度に専門的であることや,修習が臨床教育課程として実際の法律実務
活動の中で行われるものであることから,実際の法曹と同様に中立公平な立場を維
持したり,利益相反活動を避けたりする必要があることから認められるものである。
このような修習専念義務は司法修習の本質に由来するものであるから,司法修習生
が修習専念義務を課されることにより権利の制約を受けるとしても,それは,司法
修習制度から導かれる内在的制約であって,これが憲法29条3項により補償を要
する「特別の犠牲」に該当しないことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認め
られる。
(1)法曹養成制度と給費制の変遷
ア大日本帝国憲法下における法曹養成制度(甲A1,3ないし8,弁論の全趣
旨)
大日本帝国憲法下では,当初,判事及び検事については,裁判所構成法(明治2
3年法律第6号)と判事検事登用試験規則に基づき,同試験に合格した者が,司法
官試補として,3年間(その後1年6か月間に短縮された。),裁判所及び検事局
で実務修習を受け,第二回試験に合格した後に判事及び検事に登用されていた。な
お,司法官試補は,1年以上の修習を経た後は,判事又は予審判事等の事務を取り
扱うことが可能であった(裁判所構成法60条1項,2項)。
これに対し,弁護士については,判事及び検事と区別され,弁護士法と弁護士試
験規則に基づき,弁護士試験合格者が,修習を経ずに直ちに弁護士として登録され
ていた。大正12年以後は,判事及び検事と弁護士との間の試験上の区別はなくな
り,全て高等試験令による高等試験の司法科試験に合格しなければならないとされ
たが,弁護士として登録するための修習は依然として不要とされた。
昭和8年になると,弁護士にも弁護士試補の制度が設けられ,昭和11年から弁
護士会において修習を要することとなったが,弁護士試補と司法官試補との修習は
別に行われ,司法官試補は弁護士会における修習を行わず,弁護士試補は裁判所及
び検事局における修習を行わなかった。また,司法官試補は,相当額の給与を支給
されていたが,弁護士試補には,給与が支給されず,兼職及び営業が制限されてい
たため,弁護士試補の中には経済的に苦しくなる者もいた。
大日本帝国憲法下,日本の裁判所は,司法省の監督下にあるとされており,司法
権が行政権から独立していなかった。また,司法大臣は弁護士に対する監督権を有
し,検事や裁判所の請求によって弁護士の懲戒がされる制度であったため,国民の
人権擁護が困難な状況であった。
イ現行憲法と裁判所法の制定(甲A9ないし11,争いのない事実)
現行憲法下,我が国では,人権の抑圧を阻止できなかった戦前の司法制度の反省
を踏まえ,基本的人権擁護の実現のため,三権分立が確立され,戦後の司法制度改
革における司法制度改正審議会や臨時司法制度改正準備協議会,臨時法制調査会・
司法法制審議会等の議論の中では,裁判所と検事局との分離,行政裁判所の廃止,
司法権の独立などの司法制度そのものの議論に加えて,裁判所法を新設するに当た
って,裁判官,検察官と弁護士を区別しないで国がその養成に当たること,裁判官
や検察官を弁護士から登用すること,裁判官や検察官となる者も弁護士の実務修習
をさせることなど,法曹養成に関する議論もされた。
臨時司法制度改正準備協議会における法曹養成に関する議論において,司法官試
補と弁護士試補の区別をなくして統一して修習させるとの意見が出てからは,統一
司法修習制度に対する特段の異論もなく,司法修習生に給与を支給することに対し
ても,特段の異論がなかった。かかる議論の途中では,司法修習生を2級官吏とみ
なして,裁判所,検察庁及び弁護士の事務を取り扱うことができる旨の案も出たが,
最終的には司法修習生の法的地位については明記されなかった。
裁判所法(制定当時のもの)は,昭和22年4月16日に可決され,同年5月3
日に施行された。
平成16年改正前裁判所法67条2項本文においては,「司法修習生は,その修
習期間中,国庫から一定額の給与を受ける。」と規定されており,昭和22年制定
当時から,司法修習生には,その修習期間中,国庫から一定額の給与が支給されて
いた(給費制)。
ウ平成16年改正の経緯
(ア)審議会における検討
a司法制度改革審議会(審議会)は,司法制度改革審議会設置法(平成11年
法律第68号)に基づき,21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を
明らかにし,国民がより利用しやすい司法制度の実現,国民の司法制度への関与,
法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必
要な基本的施策について調査審議することを目的として(同法2条1項),平成1
1年7月,内閣に設置された(同法1条)。(乙4,5)
b審議会における議論
(a)審議会は,平成12年11月,それまでの審議結果を整理し,各課題ごとに
検討の基本的方向性についての考え方を取りまとめた中間報告を公表した。中間報
告には,司法修習に関する箇所に,給費制についての記載はなかった。(乙6)
(b)その後,中間報告について各界各層から様々な意見が寄せられ,審議会にお
いては,それらをも踏まえた上,更に議論を重ねるなどし,平成13年6月12日
には,司法制度改革審議会意見書(乙7。以下「審議会意見書」という。)が取り
まとめられた。審議会意見書では,給費制の在り方について,「修習生に対する給
与の支給(給費制)については,将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきでは
ないかとの指摘もあり,新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考
慮しつつ,その在り方を検討すべきである。」とされた。(乙7)
(イ)司法制度改革推進計画における検討
a司法制度改革推進本部の設置
平成13年11月,司法制度改革推進法が制定された(同年12月1日施行)。
同法は,国の規制の撤廃又は緩和の一層の進展その他の内外の社会経済情勢の変化
に伴い,司法の果たすべき役割がより重要になることに鑑み,審議会の意見の趣旨
にのっとって行われる司法制度の改革と基盤の整備について,その基本的な理念及
び方針,国の責務その他の基本となる事項を定めるとともに,司法制度改革推進本
部(以下「推進本部」ともいう。)を設置すること等により,これを総合的かつ集
中的に推進することを目的とするものであって(同法1条),同法8条に基づき,
同日,内閣に,推進本部が設置された。(乙8,弁論の全趣旨)
b司法制度改革推進計画の策定
平成14年3月19日,閣議決定として,司法制度改革推進計画(以下「推進計
画」という。)が策定された。推進計画は,審議会の意見の趣旨にのっとって行わ
れる司法制度の改革と基盤の整備に関し政府が講ずべき措置について,その全体像
を示すとともに,推進本部の設置期限(同年11月30日)までの間に行うことを
予定するものにつき,措置内容,実施時期,法律案の立案等を担当する府省等を明
らかにするものであるところ,給費制の在り方については,「司法修習生の給費制
の在り方につき検討を行う。」とされた。(乙9)
(ウ)司法制度改革推進本部(法曹養成検討会)における検討
a推進本部における司法修習や給費制,貸与制の検討は,推進本部の下に置か
れた法曹養成検討会において行われた。法曹養成検討会は,委員11名の構成で,
平成14年1月11日から平成16年9月1日までの約2年8か月間にわたり,全
24回行われ,給費制及び貸与制については,第7回検討会(平成14年5月10
日)以降の検討会で議論されたが,給費制から貸与制への移行について憲法違反で
ある又はその疑いがあるなどの指摘がされたことはなかった。(乙10ないし22)
b第23回検討会(平成16年6月15日)では,給費制に代えて貸与制を導
入する内容の「意見の整理(案)」が示され,少数意見の記載を求める委員から意
見が述べられた後,貸与制の導入時期,返還免除,返還猶予について検討・議論が
され,最後に,弁護士である委員1名による少数意見も付記した意見の整理につい
て委員らによる確認がされ,第24回検討会(同年9月1日)では,上記の意見の
整理に沿って事務局が検討した貸与制の具体的な制度内容が説明され,これについ
ての委員らによる意見交換がされた後,立案作業を進めることが確認された。(乙
21,22)
(エ)国会における検討
a法律案の提出
法曹養成検討会の検討結果を受けて,給費制を定める平成16年改正前裁判所法
67条2項の規定を改めて給費制を廃止し,貸与制を定める「67条の2」を設け
て貸与制を新設することなどを内容とする「裁判所法の一部を改正する法律案」が
国会に提出され,平成16年第161回国会において審議が行われた。(乙23な
いし26)
b衆議院法務委員会における議論等
衆議院法務委員会では,平成16年11月24日及び同月26日に上記法律案の
質疑が行われた。同月24日の同委員会冒頭における上記法律案の趣旨の説明では,
法務大臣から,「新たな法曹養成制度の整備は,多様かつ広範な国民の要請にこた
えることができる多数のすぐれた法曹の養成を図ることを目的とするものであり,
司法修習生の修習についても,司法修習生の増加に実効的に対応することができる
制度とすることが求められております。この法律案は,このような状況にかんがみ,
新たな法曹養成制度の整備の一環として,司法修習生に対し給与を支給する制度に
かえて,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与す
る制度を導入することを目的とするものであります。」との説明がされた。
また,同委員会での質疑では,給費制から貸与制への移行の趣旨について,法務
大臣から,法曹の質,量共に充実させるため,司法修習生の大幅な増加が求められ
ており,また,司法制度改革を実現していくに当たっては国民の負担を伴うことに
ついてその理解を得ていく必要がある状況に鑑みると,今後も更に国民の負担を増
やして給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難であり,司法修
習生が修習に専念できる環境を確保しながら,給費制を貸与制に切り替える必要が
あるとの答弁がされた。
さらに,推進本部事務局長からは,司法制度改革に係る財政負担,すなわち国民
の負担について国民の理解を得る必要があり,その点から,努力できるものは努力
して合理化する姿勢が大事であること,給費制が創設された当初(当時の司法修習
生は200名台であった。)に比較して司法修習生が大幅に増加していること,公
務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは異例の制度であるこ
と,給費制に対して様々な批判があったことなどの状況を総合的に勘案し,給費制
を維持することについて国民の理解を得ることは困難であり,貸与制に移行するこ
とにしたものであり,単に財政事情が厳しいからというだけではなく,司法制度改
革を実現するために財政資金をより効率的に投入する趣旨で貸与制に移行するもの
であるとの答弁がされた。
質疑の終了後,委員から,上記法律案の施行期日を平成18年11月1日から平
成22年11月1日とするという修正案が提出され,その趣旨について,「十分な
周知期間を確保するとともに,第1期の法科大学院生に対し,給費制のもとでの修
習を受ける機会を確保するとの観点から,施行期日をおくらせることとし,平成2
2年ころには司法試験の合格者数の年間3千人達成を目指すとされていることにも
かんがみ,施行期日を平成22年11月1日とすべきであります。」との説明が提
出者からされた後,上記法律案(上記修正案による修正部分を除く。)及び上記修
正案(以下「修正後の法律案」という。)は,同委員会において,全会一致で可決
された。また,その後,委員から附帯決議案が提出され,全会一致で可決された。
修正後の法律案は,平成16年11月30日に衆議院本会議で賛成多数により可
決された。(乙23ないし25)
c参議院法務委員会における議論等
平成16年12月1日,参議院法務委員会において質疑が行われた。同委員会の
質疑では,法務大臣及び内閣官房内閣審議官(元推進本部事務局長)から,上記b
と同趣旨の答弁がされ,質疑終局後に採決が行われ,修正後の法律案は賛成多数で
可決された。また,その後,同委員会において,委員から附帯決議案が提出され,
賛成多数で可決された。
なお,上記委員会における質疑においては,上記内閣審議官から,「給費制は,
その法曹の職務の重要性にかんがみまして,司法修習生が生活の基盤を確保して修
習に専念することができるようにして,その修習の実効性を確保するための一つの
方策として採用されたものと理解をしております。」との説明もされた。(乙26)
d法律案の成立,公布
以上の経過を経て,平成16年12月3日,修正後の法律案(平成16年改正法)
は,参議院本会議において賛成多数で可決・成立し,同月10日,公布された。
(乙27)
エ平成22年改正の経緯
(ア)法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける検討
平成22年に,新たな法曹養成制度の問題点・論点を検証し,これに対する改善
方策の選択肢を整理するべく,法務省及び文部科学省は,両省の副大臣が主宰する
「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」(以下「ワーキングチーム」とい
う。)を設置し,同年3月1日から同年6月25日までの間,全11回にわたり,
給費制及び貸与制を含む法曹養成制度等について検討を行った。その後,同年7月
6日付けで「法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける検討結果(取り
まとめ)」(以下「ワーキングチーム取りまとめ」という。)が公表された。
ワーキングチーム取りまとめでは,司法修習生の経済的負担について,「法科大
学院入学から司法修習生になるまでに多額の経済的負担が必要となることに加えて,
平成22年11月から司法修習生に対する給費制が廃止されて修習資金の貸与制が
実施されると,優れた資質を備えた多様な人材が経済的な事情から法曹を志すこと
を断念せざるを得なくなる事態が拡大することが避けられないという問題があると
の意見があった。この立場からは,改善策として,平成22年11月以降も司法修
習生に対する給費制を維持するべきではないかとの意見や,貸与制を導入するとし
ても返済免除制度を拡大すべきではないかとの意見があった。これらの意見に対し
ては,貸与制の導入は,新たな法曹養成制度の整備に当たり,法曹人口の拡大を実
現する必要があることや,限りある財政資金をより効率的に使用して,司法制度全
体に関して合理的な国民負担を図る必要があることから,司法制度改革審議会以来
の様々な議論を経て導入されたものであり,給費制を存続するためには国民的理解
が必要ではないかとの意見や,貸与制の具体的な内容を見ても,無利子である上,
修習終了後5年間の据置期間を設けて,10年間の分割返済としており,返済猶
予・返済免除の制度も設けられていることから,返済の負担が過大とはいえないの
ではないかとの意見があった。」とされた。(乙28)
(イ)平成22年改正
平成22年11月24日の衆議院法務委員会において,平成22年改正法の内容
ように裁判所法を改正することを内容とする起草案につき,その趣旨について,
「本年11月1日に施行された改正裁判所法により,司法修習生に対し給与を支給
する制度にかえて修習資金を国が貸与する制度が導入されたところであります。し
かしながら,昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ,それら
の者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう,法曹養成制度に
対する財政支援のあり方について見直しを行うことが緊要な課題となっております。
本起草案は,このような状況にかんがみ,平成23年10月31日までの間,暫定
的に,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与する
制度を停止し,司法修習生に対し給与を支給する制度とするものであります。」と
説明された後,委員会提出法律案とすることが可決された。(乙29)
上記法律案は,その後,平成22年11月25日の衆議院本会議で賛成多数によ
り可決され,同日の参議院法務委員会で質疑が行われ賛成多数で可決された後,同
月26日の参議院本会議において賛成多数で可決・成立し,同年12月3日に公
布・施行された。(乙30ないし32)
オ平成22年改正後の経緯
(ア)法曹の養成に関するフォーラムの設置・検討
平成23年5月13日,内閣官房長官,総務大臣,法務大臣,財務大臣,文部科
学大臣,経済産業大臣の申合せにより,法曹の養成に関する制度の在り方について
検討を行うため,「法曹の養成に関するフォーラム」(以下「フォーラム」とい
う。)が設置された。フォーラムは,同月25日の第1回から,平成24年5月1
0日の第14回まで,開催された。給費制及び貸与制については,第1回から平成
23年8月31日の第5回まで検討が行われ,同日には,「法曹の養成に関するフ
ォーラム第一次取りまとめ」(以下「フォーラム第一次取りまとめ」という。)が
公表された。
フォーラム第一次取りまとめにおいては,①司法修習は,新しい法曹養成プロセ
スにおいて必須の課程であり,司法修習生が修習に専念できるようにするため,修
習期間中の生活の基盤を確保する必要があり,司法修習生に経済的支援を行う必要
があるとされたが,②経済的支援の基本的な在り方については,貸与制を基本とし
た上で,個々の修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置(十分な資力を有しな
い者に対する負担軽減措置)を講ずることなどが指摘された。
なお,フォーラムにおいて事務局により行われた調査により,①弁護士6年目
(貸与制の下で修習資金の返還が開始される時点)の平成22年分所得額は,平均
値が1073万円,中央値が957万円であり,弁護士6年目から15年目まで
(貸与制の下で修習資金の返還を行う期間)の平成22年分所得額分布は,600
万円以上が79パーセントを占める一方,200万円未満が5.5パーセント,2
00万円以上400万円未満が6.7パーセントであること,②法科大学院・大学
在学中の奨学金等については,利用率は48.3パーセント,法科大学院の奨学金
等の返還を開始する時点での利用者の合計平均額は347万円,毎月の合計返還額
は2万1000円であることなどの結果が得られた。(乙33,34)
(イ)貸与制の開始
その後,平成22年改正により貸与制を適用しない期限とされた平成23年10
月31日までの間に,給費制又は貸与制に関する裁判所法の改正は行われず,同年
11月から修習を開始した新65期司法修習生から,貸与制が開始されることとな
った。なお,貸与制の下において,貸与を申請した司法修習生は全て貸与が認めら
れている。(前記前提事実(3)イ,弁論の全趣旨)
カ平成24年改正法による裁判所法の改正
平成23年11月,前記オ(ア)のフォーラム第一次取りまとめの結果を踏まえ,
内閣から,貸与制について,修習資金を返還することが経済的に困難である場合に
おける返還猶予措置を講ずるための裁判所法の一部を改正する法律案が国会に提出
された。上記法律案等については,同月9日,閉会中審査をすることになり,継続
審議とされ,平成24年7月27日,上記法律案に,法曹養成制度の検討において,
司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹養成における司法修習
の位置付けを踏まえつつ,給費制に戻すことを排除せずに検討することを目的とし
た新たな検討組織の設置等を内容とすることを追加した民主党修正案が可決された
(以下「平成24年改正」という。)。(乙36ないし38)
キ平成24年改正後の経緯
(ア)法曹養成制度検討会議における検討
平成24年8月21日閣議決定により,内閣官房長官を議長とする法曹養成制度
関係閣僚会議が設置され,同閣僚会議の下に,上記カの民主党修正案に基づいて設
置された法曹の養成に関する制度の在り方について検討を行う新たな検討組織であ
る法曹養成制度検討会議が設置された。同検討会議では,平成25年6月26日付
けの最終取りまとめにおいて,「具体的な支援の在り方については,給費制とすべ
きとの意見もあったが,貸与制を導入した趣旨,貸与制の内容,これまでの政府に
おける検討経過に照らし,貸与制を維持すべきである。」とした上で,「経済的な
事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにするため,措置を
講じる必要がある。」として,①分野別実務修習開始に当たり現居住地から実務修
習地への転居を要する者への移転料の支給,②集合修習期間中の入寮,③修習専念
義務に関する運用を緩和して教育活動によって収入を得ることを認めることの3点
の措置を実施すべきであるとし,「法曹養成制度改革の推進について」(同年7月
16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)においても,上記内容が盛り込まれた。
(甲A94ないし98,100,101,117)
(イ)司法修習生に対する経済的支援の必要性の議論状況
平成25年9月17日閣議決定により,内閣官房長官を議長とする法曹養成制度
改革推進会議が設置され,「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27
年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)において,「司法修習生の実態,司
法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理
的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討
するものとする。」とされ,同会議の下に設置された法曹養成制度改革顧問会議に
おいても,司法修習生に対する「経済的支援の必要性」について賛同的な意見が多
く出された。
各政党においても,自由民主党の政務調査会と司法制度調査会による平成25年
6月18日付け「法曹養成制度についての中間提言」(甲A112),公明党法曹
養成に関するプロジェクトチームによる同月11日付け「法曹養成に関する提言」
(甲A113),平成26年4月9日付け「法曹養成に関する緊急提案」(甲A1
14)や民主党の同年11月12日付け「法曹養成制度改革に関する緊急提言」
(甲A115)など,給費制の復活ないし司法修習のための資金的手当の制度の必
要性に言及する意見が出されて議論され,国会においても,度々貸与制の見直しの
必要性についての言及や,給費制の復活の必要性を指摘する質問等がされ,司法修
習生に対する経済的支援の必要性が議論されていた。
日本弁護士会連合会や全国各地の単位弁護士会も給費制の復活を目指す運動を行
った。(甲A112ないし115,118,119,124ないし138)
ク平成29年改正
(ア)内閣は,このような動きを踏まえて,平成28年6月2日,「司法修習生に
対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化」を推進することをその内容に
含む「経済財政運営と改革の基本方針2016」を閣議決定し,その後法務省は,
最高裁及び日弁連と共に対応を検討した結果,同年12月19日,平成29年度以
降に採用予定の司法修習生に対する新たな経済的支援策となる給付制度を新設する
ことを発表した。(甲A155,158)
(イ)内閣は,平成29年2月3日,貸与制を維持しつつ,平成29年以降に修習
を開始する司法修習生に修習給付金を支給する新制度の創設を盛り込んだ裁判所法
の一部を改正する法律案を国会に提出した。同法律案は,司法修習生に対して修習
期間中,基本給付金,住居給付金及び移転給付金等の修習給付金を支給すること,
基本給付金の額は,修習期間中の生活を維持するために必要な費用で,その修習に
専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最
高裁が定める額とされていること,司法修習生の申請により,無利息で,司法修習
生がその修習に専念することを確保するために修習給付金の支給を受けてもなお修
習に必要な資金を貸与することなどを内容とするものであった。
同法律案については,衆議院法務委員会において審議され,法務大臣から,法曹
人材確保の充実強化の推進等を図るためのものであるとの趣旨説明がされた後,同
年3月31日,全会一致で可決され,同年4月4日,衆議院本会議において全会一
致で可決され,同月18日,参議院法務委員会において全会一致で可決され,同月
19日,参議院本会議において全会一致で可決され,同月26日,平成29年改正
法が公布され,同年11月1日から施行されることになったが,同施行前に採用さ
れた司法修習生については,なお従前の例によることとされた。なお,衆議院法務
委員会における質疑において,政府参考人から,給費制から貸与制への移行の理由
について,「まず,司法修習生の増加に実効的に対応する必要があったこと,それ
から二番目に,司法制度改革の諸施策を進める上で,限りある財政資金をより効率
的に活用し,司法制度全体に関して国民の理解が得られる合理的な財政負担を図る
必要があったこと,最後でございますが,公務員ではなく,公務にも従事しない者
に国が給与を支給する,そういう制度であったわけですけれども,それは現行法上
異例の制度であること,こういうことを考慮すれば,給費制を維持することについ
て国民の理解を得ることは困難であったことによります。」との説明がされた上,
給付金制の導入の理由について,「修習給付金制度を新設するとともに,現行の貸
与制については貸与額を見直した上で,これと併存することとしております。これ
は,平成27年6月の法曹養成制度改革推進会議決定におきまして,司法修習生に
対する経済的支援のあり方について検討するとされましたほか,与党の先生方のお
力によりまして,昨年6月の骨太の方針におきましても,法曹人材確保の充実強化
を推進することがうたわれたものと承知しております。これを受けまして,法曹人
材確保の充実強化の推進等を図るため,本制度を新設することといたしました。」
との説明がされた。(甲A159ないし168)
(2)司法修習について
ア司法修習の目的等(甲A21,22,26,乙1,26,39,41)
司法修習の目的は,「司法修習生の修習については,高い識見と円満な常識を養
い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい
品位と能力を備える」(修習規則4条)ことにある。
そして,司法修習生の修習専念義務は,司法修習が,法曹に必須の課程として国
家によって運営されており,修習の内容も法曹に必要な能力を養成するために高度
に専門的であることや,臨床教育課程として,実際の法律実務活動の中で行われる
ものであることから,司法修習生について,実際の法曹と同様に中立公正な立場を
維持したり,利益相反活動を避けたりする必要があるためであり,司法修習制度の
本質から求められるものとされている。
イ司法修習の内容の大要(甲A143ないし145,B1ないし18,乙41,
原告ら本人,弁論の全趣旨)
(ア)実務修習地における分野別実務修習
配属庁会,配属部等によって若干異なるが,司法修習生の修習内容は以下のとお
りであった。
a民事裁判修習及び刑事裁判修習
(a)司法修習生は,民事裁判修習及び刑事裁判修習においては,おおむね午前9
時に登庁して登庁簿に押印し,午後5時に退庁することとされ,遅刻をすると配属
庁の総務課職員に注意をされることもあった。もっとも,記録検討等の時間を確保
するために,午前9時前に登庁し,午後5時以降に退庁する者もいた。
(b)司法修習生は,配属された部の裁判官の指導の下に,事件記録を検討して,
口頭弁論,和解,公判等の期日を傍聴し,裁判官の訴訟指揮や証拠調べなどを見聞
することにより,裁判所の訴訟運営と心証形成の過程を知り,起案についても指導
を受けていた。また,事件記録の検討や期日の傍聴を踏まえて,裁判官から質問を
受けたり,裁判官と議論をすることもあり,刑事裁判修習では,裁判員裁判制度開
始以降,司法修習生が,裁判員裁判の評議に立ち会うこともあった。
また,司法修習生は,家庭裁判所での修習も行っており,調停委員と共に調停期
日に同席したり,少年審判に立ち会うなどしていた。
なお,司法修習生は,配属部での修習以外に,全体講義や午後5時以降の任意参
加の研究会,破産再生部での講義,債権者集会の見学や保全部での審尋立会いなど
専門部での修習も行っていた。
b検察修習
(a)司法修習生は,検察修習においては,おおむね午前9時に登庁して登庁簿に
押印し,おおむね午後5時に退庁することとされ,遅刻をすると配属庁の総務課職
員に注意をされることもあった。
(b)検察修習の捜査修習においては,司法修習生は,指導担当検察官の指導と監
督の下,実際の事件を割り振られ,被疑者及び参考人の取調べ並びに警察官への補
充捜査の指示等を行った。司法修習生は,取調べにおいて,自ら聴取事項を考え,
自ら発問し,供述録取書等を作成したが,作成名義は,指導担当検察官のものであ
った。取調べの修習では,供述者の都合がつかないため,平日の夜間や土曜日,日
曜日等に取調べを行う場合もあった。そして,司法修習生は,捜査を踏まえて指導
担当検察官と協議の上,終局処分の検討,決定をし,次席検事及び検事正の内部決
裁を受けた。かかる決裁では,次席検事等から追加の捜査等について指示がされる
場合もあった。
(c)また,検察修習の公判修習においては,司法修習生は,公判提出証拠の整理
及び冒頭陳述,論告求刑の起案等を行い,刑事訴訟手続も修習した。
(d)なお,司法修習生は,司法解剖への立会いや捜査現場での修習として令状に
よる捜索差押えの立会いをすることもあった。
c弁護修習
(a)司法修習生は,弁護修習においては,指導担当の弁護士事務所に配属され,
その事務所の勤務形態に合わせて出勤,退勤をした。おおむね出勤が午前9時から
午前9時30分までの間であり,退勤が午後5時から午後5時30分までの間であ
った。
(b)司法修習生は,指導担当弁護士の指導により,法律相談,書面作成,法廷へ
の出頭,接見等,弁護士の業務に常に帯同していた。
司法修習生は,依頼者との打合せに参加して具体的事情を聴取して訴状等の多様
な書面の起案をしたり,被疑者,被告人との接見なども弁護士と同席して行ったり,
口頭弁論あるいは公判等の期日に同席して証人尋問や弁論の要領を見聞したりした
ほか,法律相談,交渉,契約締結など訴訟外活動についても弁護士としての実務を
修習した。
(c)なお,司法修習生は,指導担当弁護士が午後5時以降もその所属する委員会
等の団体活動に出席する場合などには同行して見学をしたり,指導担当弁護士が加
入する法律家団体等のイベントがあれば,土曜日,日曜日等であっても参加するこ
となどがあった。
(イ)実務修習地における選択型修習
選択型修習は,新司法試験合格者の修習において行われているもので,配属庁会
等において,司法修習生の主体的な選択により,分野別実務修習の成果の深化と補
完を図り,又は各自が関心を持つ法曹の活動領域における知識・技法の修得を図る
ものであった。配属庁会等からそれぞれ修習プログラムが提供され,司法修習生は
自らの興味と関心に応じたプログラムを選んで修習し,選択した修習プログラムに
おける修習先での修習がないときは,原則として分野別実務修習の弁護修習におい
て修習した弁護士事務所において修習を行うこととされた。具体的な修習内容とし
ては,模擬裁判,労働,医療,交通事故,民事介入暴力,知的財産,行政,倒産・
執行,刑事弁護といった先端的,専門的内容から,法テラス関係,刑事施設等の施
設見学といったものなどがあった。また,司法修習生が独自に学びたい分野にアプ
ローチをし,司法研修所の許可が得られた場合には修習として認められる「自己開
拓プログラム」もカリキュラムとして認められていた。
(ウ)司法研修所における修習
a集合修習は,新司法試験合格者の修習において行われているもので,分野別
実務修習の体験を補完して,体系的,汎用的な実務教育を行って,法律実務のスタ
ンダードを身に付けるものであり,各科目とも,修習の総仕上げと実務家として活
動するための準備にふさわしい高度な内容を修習するものであった。
b前期修習及び後期修習
前期修習及び後期修習は,旧司法試験合格者の修習において行われていたもので
あり,民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の5科目に分かれて,講
義,問題研究のほか,実際に存在した事件記録を修正・編集した資料(修習記録)
を用いた起案等の文書作成,その講評及び討論,模擬裁判や交互尋問における実技
指導等が行われていた。前期修習は,実務修習開始前に行われ,実務修習の準備教
育としての意味合いがあり,後期修習は,実務修習終了後に行われ,修習の総仕上
げとしての性質をもち,前期修習よりも高度の講義等が実施された。
(エ)司法研修所の寮
司法研修所には,司法修習生用の寮が附属していたが,寮の部屋数の関係から抽
選に漏れて入寮できない司法修習生もいた。
ウ新64期司法修習生,現行65期司法修習生及び新65期司法修習生が行っ
た司法修習(甲A143ないし145,B1ないし18,乙41,原告ら本人,弁
論の全趣旨)
(ア)新64期司法修習生
新64期司法修習生は,平成22年11月から平成23年12月までの約1年間,
その修習を行ったところ,まず,配属庁会において,分野別実務修習を民事裁判修
習,刑事裁判修習,検察修習及び弁護修習の各2か月間行い,分野別実務修習終了
後,選択型修習及び司法研修所における集合修習を各2か月間行い,その後,裁判,
検察,弁護の実務についての筆記試験である考試を受け,これに合格することで,
その修習を終えた。
(イ)現行65期司法修習生
現行65期司法修習生は,平成23年7月から平成24年12月までその修習を
行ったところ,司法研修所での前期修習を2か月間行った後,配属庁会において分
野別実務修習を各3か月間実施し,司法研修所での後期修習を行い,上記(ア)と同
様に考試に合格することで,その修習を終えた。
なお,現行65期司法修習生は,法科大学院の修了を前提としないことから,新
65期司法修習生の修習と異なり,前期修習があり分野別実務修習が1か月間長く
なっていた。現行65期司法修習生の修習期間は新65期司法修習生の修習期間と
1年間重なっているところ,修習の内容自体にも重複する部分が多く存在していた。
例えば,現行65期司法修習生の実務修習中,全体講義や研究講義では,新65期
司法修習生と同じ部屋で同じ内容の講義を聴くこともあったり,後期修習は,新6
5期司法修習生の一部の集合修習と同時期に実施され,基本的に同じ講義を受け,
同じ起案に取り組んだり,同じ考試を受けた。
(ウ)新65期司法修習生
新65期司法修習生は,平成23年11月から平成24年12月までの約1年間,
その修習を行ったところ,その内容は,新64期司法修習生とほぼ同様である。
もっとも,給費を受けられず,かつ,修習専念義務によって兼業等が禁止された
ことにより,分野別実務修習における配属地の指定によって転居を余儀なくされた
場合の転居費や埼玉県和光市所在の司法研修所の寮に入寮できなかった場合の住居
費用,集合修習をした後に選択型修習があることによって,集合修習の期間中二重
に住居を確保する必要が生じた際の費用,就職活動のための交通費等,その他日々
の生活にかかる費用,学生時代の奨学金の返済等を,貸与された修習資金,貯蓄又
は親族からの借入れ等により賄う必要が生じた。新65期司法修習生の中には,修
習資金の貸与が借金であることを考え,申込みを断念する者がいたほか,法律学に
関する書籍の購入をためらったり,交通費を節約したり,修習時間外の学習の機会
があるにもかかわらず費用がかかることから参加しなかったりした者も多くいたほ
か,大学及び法科大学院に通学した際の奨学金と併せて借入額が総額1000万円
以上になった者や,疾病を抱えながら十分な治療を受けられないまま修習をした者
などもいた。
2争点1-1(平成16年改正は,憲法上保障された給費制ないし給費を受け
る権利を侵害し,違憲であるか否か)について
(1)給費制が憲法上保障されているかについて
ア憲法は,三権分立(第3章ないし第6章)を定め,司法権については,第6
章において,司法権は最高裁及び下級裁判所に属し(76条1項),最高裁は一切
の法令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であるこ
と(81条)などを定めている。そして,同章において,裁判官の身分保障(78
条),最高裁の構成(79条),下級裁判所の裁判官の任期,定年,報酬(80条)
を定めるなど,裁判官に関する規定があるほか,検察官は最高裁判所規則に従うべ
きことを定めていること(77条2項),第3章(国民の権利及び義務)において,
弁護人依頼権(34条,37条3項等)などを定め,弁護士に関する規定もあるこ
となどからすると,憲法は,裁判官,検察官及び弁護士を司法の担い手として位置
付けていると解される。そして,憲法は,司法権,立法権,行政権の三権を分立さ
せることにより,三権相互に権力を抑制し,均衡させて,基本的人権の尊重等を実
現しようとしているところ,法曹のいずれか一つの職務遂行が不十分であっても,
司法の機能は不完全となることを免れないと考えられることからすると,憲法は,
明文で定めた三権分立の趣旨を実効的なものとするべく,司法が実効的に機能する
よう,国に対し,司法の担い手である法曹の養成を要請しているものと解される。
もっとも,憲法には,給費制はもとより,司法修習の方法や在り方,更には法曹
養成の方法や在り方などの法曹養成制度に関する規定は何ら設けられていない。そ
して,法曹養成制度の在り方は,一義的に定まるものではなく,法曹養成制度の具
体的内容については,諸外国においても様々であって(証拠(乙17)により認め
られる。),国及び国民の置かれた歴史的背景,経済的・社会的条件,一般的な国
民生活の状況,国の財政事情,他の政策等,様々な事情を総合的に考慮して決定す
べき事柄であり,そのような政策的判断については,法律事項として,立法府によ
る合理的な判断に委ねられているものというべきである。
したがって,憲法が,特定の内容の法曹養成制度を設けることを要請し,又は特
定の内容の制度を保障しているものと解することはできない。
イこれに対し,原告は,①統一司法修習制度及び給費制は,戦前の反省を踏ま
えて司法権の実質化を実現するために創設されたもので,憲法上の国による法曹養
成義務の具体的実現として位置付けられること,②給費制は,司法修習生が負う修
習専念義務等による制約の反面の給付として司法修習生の身分及び地位と一体のも
のとして説明されること,③法曹三者の公的職務については,憲法上の報酬保障が
認められ,その趣旨は司法修習生に及ぶことから,給費制は,憲法上保障された制
度であり,「憲法附属法典」である裁判所法により具体化されたものであるなどと
主張する。
しかしながら,上記①の点については,前記認定事実(1)によれば,憲法は,戦
前の反省を踏まえ,三権分立等を導入したものであって,司法権の実質化を実現す
るために法曹の養成を要請しているものと解されるが,その具体的内容は立法府の
裁量に委ねられているものであって,給費制が憲法上保障されていると解すること
ができないことは,上記アで説示したとおりである。
上記②の点については,修習専念義務を課すことによって司法修習生の諸権利が
制約されることにはなるものの,前記認定事実(2)アによれば,修習専念義務は,
高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察
官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるという司法修習制度の目的(修習規
則4条)から導かれるものであり,司法修習が司法制度を担う法曹に必須の課程と
して国家によって運営されるものであること,修習の内容も法曹に必要な能力を養
成するために高度に専門的であること,修習が実際の法律実務活動の中で行われる
ものであり,実際の法曹と同様に中立公正な立場を維持したり,利益相反活動を避
けたりする必要があることなどから課されるものであると認められ,司法修習制度
の本質から求められるものである。このように修習専念義務は,給費制に基づく給
与と何ら対価関係に立つものではなく,給費制は,修習専念義務の存在を前提に司
法修習生がその修習に専念し,その実を上げることができるように立法府が昭和2
2年の裁判所法の制定当時における諸般の事情等を踏まえて配慮した,立法政策上
設けた制度にとどまるものと解される。
そうすると,司法修習生が修習専念義務を負うことは,司法修習をすることによ
る内在的制約というべきであって,上記制約があるからといって,給費制が制度と
して保障されているということはできない。
上記③の点については,法曹三者のうち,憲法に報酬に関する規定があるのは,
裁判官に関して憲法79条6項後段及び80条2項後段に定めがあるのみである。
そして,これらの規定の趣旨は,司法権の独立の確保のために裁判官の報酬を保障
するという点にあるから,上記規定をもって,法曹三者の公的職務について,憲法
上の報酬保障があるということはできず,原告らの主張は,その前提を欠くもので
ある。
なお,証拠(甲A12,13)によれば,昭和22年当時の裁判所法案の審議の
際,委員から,裁判所法について「憲法附属法典の一つ」である旨の発言があった
ことは認められるが,上記審議の際の司法大臣の趣旨説明の内容等に照らせば,上
記発言の趣旨は,憲法が旧憲法の司法に関する規定を改めたことから,これに従っ
て裁判制度の改正のために裁判所法を制定するという意味であると解され,裁判所
法が「憲法附属法典」であるとして,憲法規範と同様の性質を有するということも
できない。
(2)給費を受ける権利の保障及び侵害の有無について
ア司法権の本質,司法修習生の身分及び地位等に基づく給費を受ける権利につ
いて
原告らは,司法修習生は,国民のための司法を担うべく,法曹実務の中で修習に
専念するという法曹に準じた身分及び地位にある者であり,公務員に準じた権利の
制約を受けているため,修習専念義務による制約等に対する対価補償として,憲法
79条6項後段,80条2項後段等により,給費を受ける権利が憲法上保障されて
いる旨主張する。
しかしながら,上記(1)イで説示したとおり,憲法79条6項後段,80条2項
後段等により,給費を受ける権利が憲法上保障されているということはできない。
そして,原告らの主張は,修習専念義務を負うことなど,特定の法曹養成制度を前
提とするものであるところ,前記(1)アで説示したとおり,憲法上,特定の内容の
法曹養成制度が保障されていないことからすれば,給費を受ける権利も憲法上保障
されているということはできない。
したがって,司法権の本質,司法修習生の身分及び地位等に基づく給費を受ける
権利が憲法上保障されているということはできない。
イ憲法13条に基づく保障について
(ア)原告らは,司法修習生は修習専念義務等を負うことから,司法修習生には,
憲法13条が保障する幸福追求権の一態様として,無給ないし事実上の借金強制を
受けることなく,経済的,生活的に安定した状況で安心して修習に取り組む権利が
保障されければならない旨主張する。
しかしながら,前記(1)アで説示したとおり,法曹養成制度の具体的内容につい
ては,法律事項として,立法府による合理的な判断に委ねられていると解されるこ
とに照らすと,憲法13条が,人格権として,司法修習をする際に給費を受ける権
利を保障していると解することはできない。
(イ)また,原告らは,憲法13条により特別犠牲に対して損失補償を求める権利
が導き出されるところ,司法修習生に修習専念義務を課して権利を制約することは,
国が課した特別の犠牲である旨主張する。
しかしながら,憲法13条の文言に照らして,同条が特別犠牲に対して損失補償
を求める権利を保障していると解することは困難である上,前記(1)イで説示した
ところに照らすと,司法修習生が修習専念義務を課されることにより権利の制約を
受けるとしても,それは,司法修習生が自らの意思で司法修習生となることを選択
したことに伴う内在的制約というべきである。
(ウ)以上によれば,憲法13条により,給費を受ける権利が保障されているとい
うことはできない。
ウ憲法22条1項に基づく保障について
原告らは,司法修習生は,その修習期間中,修習専念義務及び兼業禁止により自
由な経済活動が制限されるとともに,実務修習地の指定及び司法研修所における修
習に伴う居住移転の制約を受けるところ,職業選択の自由を保障するためには,法
曹になろうとする者に対しては,経済的事情により法曹になる職業選択を断念する
ことなどがないよう,十分に司法修習に専念できる経済的保障を求める権利が保障
されなければならない旨主張する。
しかしながら,現行の法曹養成制度において,司法修習は,法曹に必要な能力を
養成するために実際の法律実務活動の中で行われるものであって,実務教育の主要
部分を担うものであるから,司法修習制度自体は,職業選択の自由を侵害するもの
ではない。また,修習専念義務や兼業禁止は,司法修習制度の本質から求められる
ものであり,自らの意思で司法修習生となることを選択したことに伴う内在的制約
であることは前記(1)イで説示したとおりである。さらに,実務修習地の指定及び
司法研修所における修習に伴う居住地の移転が生じることについても,分野別実務
修習において司法修習生が全国各地で活動する実務法曹の実態に触れることは必要
かつ有用なことであることからすると,自らの意思で司法修習生となることを選択
したことに伴う内在的制約というべきであり,憲法22条1項が,自ら選択した職
業になるために必要かつ有用な課程について,給費を受領しながら行うことができ
ることまで保障したものであるとは解されない。加えて,前記前提事実(3)イ及び
前記認定事実(2)オ(イ)によれば,給費制の代わりに導入された貸与制の内容につい
ても,資力要件や利息がないなど,国の他の修学資金の貸与制度よりも要件が緩和
されており,現に貸与制の開始から現在に至るまで,貸与を申請した司法修習生は
全て貸与を受けることができている。
以上から,給費制の廃止は職業選択の自由を侵害するものではなく,憲法22条
1項に違反しない。
エ憲法25条1項に基づく保障について
原告らは,平成16年改正前裁判所法67条2項は,生存権を具体化したもので
あって,憲法25条1項により,給費を受ける権利が保障されている旨主張する。
しかしながら,前記(1)イで説示したとおり,平成16年改正前裁判所法67条
2項に基づいて司法修習生に支給されていた給与は,立法政策上支給されていたに
とどまるものであって,同項は,司法修習生の生存権の保障を具体化したものでは
ない。生存権の保障のためには,別途,生活保護法等の法律が定められている上,
前記前提事実のとおり,新64期司法修習生に支給されていた給与額が,20万4
200円であることに照らしてみても,同項が生存権の保障を具体化したものとい
うことはできない。
したがって,憲法25条1項により,給費を受ける権利が保障されているという
ことはできない。
オ憲法27条1項及び2項に基づく保障について
(ア)原告らは,司法修習生は,憲法27条1項の「勤労」をする者に該当し,同
条に基づく賃金支払請求権としての給費を受ける権利が保障されている旨主張する。
しかしながら,「勤労」をする者といえるためには,使用者の指揮監督下におい
て労務の提供をする者であること,労務に対する対価を支払われる者であることを
要すると解されるところ,司法修習は,原告らが自ら選択した法曹という職業にな
るために受ける必須の臨床教育課程であって,原告らが何らかの公務を提供するも
のではないから,司法修習生に「労務の提供」はなく,司法修習生が憲法27条1
項の「勤労」をする者であるとはいえず,給費を受ける権利が保障されているとい
うことはできない。
(イ)これに対し,原告らは,憲法27条1項の「勤労」をする者とは,労基法9
条にいう「労働者」と同義であるところ,①事業又は事務所に使用される者である
こと,②賃金を支払われる者であることを満たせば「労働者」に該当するとし,司
法修習生は,①使用従属性が認められ,②賃金を支払われる者にも当たり,司法修
習生が修習に従事することをもって,「労務の提供」すなわち債務の本旨に従った
履行があると主張する。
aしかしながら,①の使用従属性を判断する前提として,当事者の一方が他方
に何らかの役務を提供し,他方から何らかの給付を受けていることが必要であると
ころ,司法修習生の場合には,そもそも司法修習生が国に対して何らかの役務の提
供など債務の本旨に従った履行を提供しているとはいえない。このことは,司法修
習は,自ら選択した法曹という職業になるために受ける必須の臨床教育課程にすぎ
ず,業務上の指揮監督を受けているのではないと認められること,司法修習生は,
国への一定の勤務を行い得る身分関係になく,使用されるという立場にないだけで
なく,いまだ法曹としての資格を有さず,裁判官,検察官ないし弁護士としての職
務を行う権限等を一切有しておらず,修習中の作業も専ら教育目的のためであり,
事実上司法修習生による作業の結果を法曹が利用することがあったとしても,司法
修習生が法曹の職務を行っているといえないことからも明らかである。
原告らは,各種OJTなど実際に給与を受領しながらする研修制度の存在から,
司法修習に教育的側面があることは「労務の提供」が認められることと矛盾しない
と主張するが,司法修習生は,その修習終了後に公務員たる裁判官,検察官だけで
はなく,公務員ではない弁護士にもなることができるという点で,将来の進路が不
確定で,研修の実施主体である国の職務にその修習終了後も就くことが予定されて
いるわけではないという特殊な地位にあり,既に国又は企業等に雇用されてから研
修を受ける者と同視することはできず,「労務の提供」があると認めることができ
ないことは,上記で説示したとおりである。
なお,原告らは,「労務の提供」は債務の本旨に従った履行であり,司法修習生
については,国の指揮命令に従って修習すること自体がその債務の本旨に従った履
行であるなどと主張するが,修習をすることは司法修習生の債務ではないから,上
記主張を採用することはできない。
b②の賃金についてみると,前記(1)で説示したとおり,平成16年改正前裁
判所法に基づき支給されていた給与は,司法修習に従事することの対価ではなく,
立法政策上,司法修習に専念させるために支給していたものにすぎない。
(ウ)したがって,原告らが「勤労」をする者に当たり,賃金支払請求権として給
費を受ける権利を有しているとする原告らの上記主張は採用できない。
カ以上のとおり,給費制ないし給費を受ける権利が憲法上保障されていると解
することはできないから,平成16年改正が違憲であるとはいえない。
(3)立法裁量について
原告らは,給費制は裁判所法によって具体化された憲法上の制度であり,給費を
受ける権利は憲法上保障されていることからすると,仮に被告に立法裁量があると
しても,給費制の存廃に係る立法裁量の範囲は極めて限定されており,その廃止は
原則として違憲の疑いを免れ得ず,例外的に合理性を有することについて,被告が
立証する必要がある旨主張する。
しかしながら,前記(1)及び(2)で説示したとおり,給費制は憲法上の制度ではな
く,給費を受ける権利は憲法上保障されていないから,原告らの主張はその前提を
欠き,理由がない。
なお,平成29年11月以降に司法修習生となる者については,給付金制が導入
されたが(前記前提事実(3)ウ),前記認定事実(1)キ,クによれば,給付金制は,
近年,法曹志望者が大幅に減少している中,法曹人材確保の充実・強化の推進等を
図るため,新たに修習給付金制度を創設すると共に,貸与制については貸与額等を
見直した上でこれと併存することとしたものであり,当時の社会情勢を踏まえて導
入されたものであると認められ,従前の給費制を復活させるものではないから,給
付金制の導入は,上記判断を左右するものではない。
3争点1-2(平成16年改正は,憲法14条1項に違反し,違憲であるか否
か)について
(1)新64期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間の区別について
ア原告らは,新64期司法修習生と原告ら新65期司法修習生については,修
習のカリキュラムの内容,修習生活及び修習専念義務の態様は,ほぼ同様であり,
両者の差異は,基本的に合格した司法試験の年が1年異なるだけであるにもかかわ
らず,両者に,給費の支給の有無という差異を設けることは,不合理な差別であり,
憲法14条1項に反する旨主張する。
イしかしながら,憲法14条1項は,法の下の平等を定めた規定であるが,国
民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由のない差別を禁止す
る趣旨であり,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別は同項に違反する
ものではない(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判
決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月
4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。
そして,前記2(1)アで説示したとおり,法曹養成の方法に関し,いかなる制度
を採用するか,当該制度の具体的内容をどのようなものにするかといった事柄につ
いては,国の政策的な判断に委ねられており,国及び国民の置かれた歴史的背景,
経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況,国の財政事情,他の政策等,様々
な事情を総合的に考慮して決定すべきであることに照らすと,新64期司法修習生
と原告ら新65期司法修習生との間の区別に,事柄の性質に即応した合理的な根拠
があるかどうかについては,国に広い裁量があることを前提に判断すべきでもので
ある。
ウそこで,上記見地から検討すると,前記2(1)及び前記認定事実(1)ウによれ
ば,従前の給費制は,法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性に鑑み,
修習に専念させる等の見地から,司法修習生に対して特に一定額の「給与」を支給
することとしたもので,その修習に専念することができるようその基盤を確保し,
その修習の実効性の確保を図る一つの方策として採用されていたものである。そし
て,平成16年改正により給費制から貸与制への移行が行われたのは,法曹以外の
者をも含めた法曹養成検討会等における長期間にわたる種々の議論や慎重な検討を
踏まえた上で決定された方針にのっとり,法曹の質・量の充実,法曹人口の増加等
も含め,新たな財政負担を伴う司法制度改革を推進する中で,限りある財政資金を
より効率的に活用し,司法制度改革全体について国民の理解が得られる合理的な国
民負担(財政負担)を図る必要があること,給費制創設当初と比較して司法修習生
が大幅に増加しており,新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生の増加に
実効的に対応できる制度とする必要があること,公務に従事しない者に国が「給与」
を支給するのは異例の制度であることなどを踏まえ,司法修習生の「給与」を国民
が負担することについて国民の理解を得られるか否かといった観点などによるもの
であるといえる。
また,前記前提事実(3)イ及び前記認定事実(2)オ(イ)によれば,給費制の代わり
に導入された貸与制の内容についても,資力要件や利息がないなど,国の他の修学
資金の貸与制度よりも要件が緩和されており,現に貸与制の開始から現在に至るま
で,貸与を申請した司法修習生は全て貸与を受けることができている。さらに,貸
与額や返還方法,返還の猶予・免除の制度を設けていることなどに照らしても,修
習期間中の生活の基盤を確保するのに不合理なものということはできない。
エ以上からすると,平成16年改正による給費制から貸与制への移行は,合理
的な政策判断というべきであって,前記認定事実(2)イのとおり,原告ら新65期
司法修習生は,ほぼ同じ修習をしながら,新64期司法修習生と比較して様々な苦
労をしたことは認められるものの,そのことを考慮しても,新64期司法修習生と
原告ら新65期司法修習生との間の区別については,平成16年改正法が施行され
たことに伴って必然的に生じるやむを得ないものというほかない。
したがって,上記区別は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別とい
えるものであるから,憲法14条1項に違反しない。
(2)現行65期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間の区別について
ア原告らは,現行65期司法修習生と原告ら新65期司法修習生は,修習の内
容については本質的に同一のものといえるほか,身分上の地位の取扱いや,修習専
念義務に基づく権利の制約等は全く同一であり,両者は,共通する時期に修習を行
っており,前記認定事実(2)イのとおり,原告ら新65期司法修習生は,現行65
期司法修習生の後期修習と同時期に同じ内容で集合修習を行っていたにもかかわら
ず,両者に,給費の支給の有無という差異を設けることは,不合理な差別であり,
憲法14条1項に反する旨主張する。
イしかしながら,前記(1)で説示したとおり,平成16年改正による給費制か
ら貸与制への移行は,合理的な政策判断というべきであり,現行65期司法修習生
の修習の開始時期が,原告ら新65期司法修習生と異なるという点においては,現
行65期司法修習生も新64期司法修習生と同様であることからすると,現行65
期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間の区別についても,平成16年改
正法が施行されたことに伴って必然的に生じるやむを得ないものということができ
る。また,上記に加えて,両者の区別については,現行65期司法修習生について
は修習の期間を1年4か月とする一方,法科大学院の実務的教育を経た新65期司
法修習生については修習の期間を1年にするなど,法曹養成期間全体の長期化,法
科大学院での実務教育及び法曹資格取得後の継続教育との役割分担等を考慮すると
いう司法制度改革全体の制度設計に基づくものであって,このような区別をするこ
とも,また合理的な政策判断というべきである。前記認定事実(2)イのとおり,原
告ら新65期司法修習生は,同時期に似たような修習をしていながら,現行65期
司法修習生と比較して,様々な点において苦労をしたことは認められるものの,そ
のことは上記(1)における判断と同様に,上記判断を左右するものではない。
ウしたがって,現行65期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間の区
別については,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別といえるものであ
るから,憲法14条1項に違反しない。
(3)裁判所書記官研修生と原告ら新65期司法修習生との間の区別について
原告らは,司法修習生も裁判所書記官研修生も,司法権の担い手を養成するため
の国家による研修として,最高裁の機関において,一定期間の義務研修後にその資
格を付与されるという点において同一であるにもかかわらず,裁判所書記官研修生
には給与及び各種手当に加えて社会保障等まであるのに対し,司法修習生には一切
給付される金員がないことは,不合理な差別的取扱いである旨主張する。
しかしながら,証拠(甲A146ないし148)及び弁論の全趣旨によれば,裁
判所書記官研修生は,裁判所職員として採用され,一定期間勤務した上で,裁判所
職員総合研修所の入所試験に合格した後,裁判所書記官になるために研修を受ける
者であり,現に裁判所職員としての身分を有し,将来,裁判所書記官として裁判所
における職務に就くことが予定されている者であることが認められる。これに対し,
司法修習生は,国家公務員としての身分を有さず,その修習終了後も法曹三者のい
ずれになるかが未定であるという地位にあり,将来,修習の実施主体である国の事
務に就くことが予定されているわけではないという点で両者には明確な差異があり,
給与の有無もかかる差異に基づくものであるといえるから,両者の差異に合理的理
由があることは明らかである。
したがって,裁判所書記官研修生と原告ら新65期司法修習生との間の区別につ
いては,憲法14条1項に違反しているということはできない。
(4)以上によれば,平成16年改正は,憲法上保障された給費制ないし給費を受
ける権利を侵害するものではなく,憲法14条1項に違反するものでもないから,
違憲無効ということはできず,原告らの平成16年改正前裁判所法67条2項に基
づく請求は理由がない。
4争点2(国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求の成否)について
(1)国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,
その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,
国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と規定するところ,同項にいう
違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背すること
をいう(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判
決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,同第83号,
同年(行ヒ)第76号,同第77号平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻
7号2087頁参照)。
国会議員の立法行為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会
議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背し
たかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区
別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反する
ものであるとしても,そのことを理由に直ちに国会議員の立法行為又は立法不作為
が違法の評価を受けるものではない。国会議員の立法行為又は立法不作為は,立法
の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するもので
あることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保する
ために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかか
わらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などに,例外的に,
国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるというべきである(前掲
最高裁平成17年9月14日大法廷判決,最高裁平成17年(オ)第22号,同
(受)第29号平成18年7月13日第一小法廷判決・裁判集民事220号713
頁参照)。
(2)これを本件についてみると,前記2及び3で説示したとおり,そもそも平成
16年改正により給費制を廃止して貸与制を導入したことは憲法に違反しないから,
これに係る内閣総理大臣及び法務大臣の法律案提出行為,国会議員の改正行為(立
法行為)並びに給費制を復活させなかったという立法不作為が,国家賠償法上違法
であるということはできない。
したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告らの国家賠償請求は
理由がない。
5争点3(憲法29条3項に基づく損失補償請求の成否)について
(1)原告らは,憲法29条3項による補償の対象には,①私人の自由な財産の獲
得形成を侵害するような場合,②公用収用だけでなく,個人の自由の制限あるいは
人の労力又は役務の徴収を目的とする人的収用も含まれるとした上で,司法修習は,
「特別の犠牲」にも当たるとして,憲法29条3項等に基づく損失補償請求権を有
する旨主張する。
(2)しかしながら,憲法29条3項の損失補償は,本来適法な公権力の行使によ
って生じた損失を個人の負担とせず,平等原則によって国民の一般的な負担に転嫁
させることを目的とする制度であり,私人の意に反して強制的に私有財産を公共の
ために用いることが前提となっていると解される。そして,司法修習生は,司法試
験に合格した者の中で法曹となろうとする者が最高裁によって採用されてなるので
あるから,司法修習生となることは当該個人の意思に基づくものであり,同項が予
定する場合には当たらない。
また,前記2(1)イで説示したとおり,修習専念義務等は,司法修習制度の本質
から導かれるものであって,司法修習生が修習専念義務等を課されることにより権
利の制約を受けるとしても,それは,司法修習制度から導かれる内在的制約であっ
て,同項により補償を要する「特別の犠牲」には該当しないというべきである。
(3)したがって,司法修習生が司法修習に従事することは「公共のために用ひる
こと」には当たらず,司法修習生に「特別の犠牲」が生じるということもできない
から,その余の点について検討するまでもなく,原告らの損失補償請求は理由がな
い。
第4結論
よって,原告らの請求は,いずれも理由がないからこれらをいずれも棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,
主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官市原義孝
裁判官平田晃史
裁判官山口貴央
※別紙1は当事者目録につき添付省略
(別紙2)
関係法令の定め
第1平成16年法律第163号による改正前の裁判所法(平成16年改正前裁判
所法)
114条
裁判官の研究及び修養並びに司法修習生の修習に関する事務を取り扱わせる
ため,最高裁判所に司法研修所を置く。
266条1項
司法修習生は,司法試験に合格した者の中から,最高裁判所がこれを命ずる。
367条
1項司法修習生は,少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは,
司法修習生の修習を終える。
2項司法修習生は,その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける。ただ
し,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部
分については,この限りでない。
3項第一項の修習及び試験に関する事項は,最高裁判所がこれを定める。
第2平成24年法律第54号(以下「平成24年改正法」という。)による改正
前の裁判所法(以下「平成24年改正前裁判所法」という。)
167条2項
司法修習生は,その修習期間中,最高裁判所の定めるところにより,その修
習に専念しなければならない。
267条の2
1項最高裁判所は,司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判
所が定める期間,司法修習生に対し,その申請により,無利息で,修習資
金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金をいう。
以下この条において同じ。)を貸与するものとする。
2項修習資金の額及び返還の期限は,最高裁判所の定めるところによる。
3項最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が災害,傷病その他やむを得
ない理由により修習資金を返還することが困難となつたときは,その返還
の期限を猶予することができる。この場合においては,国の債権の管理等
に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)第二十六条の規定は,適用
しない。
4項最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは身体
の障害により修習資金を返還することができなくなつたときは,その修習
資金の全部又は一部の返還を免除することができる。
5項前各項に定めるもののほか,修習資金の貸与及び返還に関し必要な事項
は,最高裁判所がこれを定める。
3附則4項
第六十七条の二の規定は,平成二十三年十月三十一日までの間は,適用しな
い。この場合において,第六十七条第二項中「最高裁判所の定めるところによ
り,その修習に専念しなければならない」とあるのは「国庫から一定額の給与
を受ける。ただし,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間
を超える部分については,この限りでない」と,同条第三項中「前項に定める
もののほか,第一項」とあるのは「第一項」とする。
第3平成29年法律第23号(以下「平成29年改正法」という。)による改正
前の裁判所法(以下「平成29年改正前裁判所法」という。)
167条の2第3項
最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が災害,傷病その他やむを得ない
理由により修習資金を返還することが困難となつたとき,又は修習資金の貸与
を受けた者について修習資金を返還することが経済的に困難である事由として
最高裁判所の定める事由があるときは,その返還の期限を猶予することができ
る。この場合においては,国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律
第百十四号)第二十六条の規定は,適用しない。
268条
最高裁判所は,司法修習生の行状がその品位を辱めるものと認めるときその
他司法修習生について最高裁判所の定める事由があると認めるときは,その司
法修習生を罷免することができる。
第4裁判所法(平成29年改正法による改正後のもの)
167条の2
1項司法修習生には,その修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定
める期間,修習給付金を支給する。
2項修習給付金の種類は,基本給付金,住居給付金及び移転給付金とする。
3項基本給付金の額は,司法修習生がその修習期間中の生活を維持するため
に必要な費用であつて,その修習に専念しなければならないことその他の
司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。
4項住居給付金は,司法修習生が自ら居住するため住宅(貸間を含む。以下
この項において同じ。)を借り受け,家賃(使用料を含む。以下この項に
おいて同じ。)を支払つている場合(配偶者が当該住宅を所有する場合そ
の他の最高裁判所が定める場合を除く。)に支給することとし,その額は,
家賃として通常必要な費用の範囲内において最高裁判所が定める額とする。
5項移転給付金は,司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転するこ
とが必要と認められる場合にその移転について支給することとし,その額
は,路程に応じて最高裁判所が定める額とする。
6項前各項に定めるもののほか,修習給付金の支給に関し必要な事項は,最
高裁判所がこれを定める。
267条の3
1項最高裁判所は,司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判
所が定める期間,司法修習生に対し,その申請により,無利息で,修習専
念資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であ
つて,修習給付金の支給を受けてもなお必要なものをいう。以下この条に
おいて同じ。)を貸与するものとする。
2項修習専念資金の額及び返還の期限は,最高裁判所の定めるところによる。
3項最高裁判所は,修習専念資金の貸与を受けた者が災害,傷病その他やむ
を得ない理由により修習専念資金を返還することが困難となつたとき,又
は修習専念資金の貸与を受けた者について修習専念資金を返還することが
経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるときは,そ
の返還の期限を猶予することができる。この場合においては,国の債権の
管理等に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)第二十六条の規定は,
適用しない。
4項最高裁判所は,修習専念資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは
身体の障害により修習専念資金を返還することができなくなつたときは,
その修習専念資金の全部又は一部の返還を免除することができる。
5項前各項に定めるもののほか,修習専念資金の貸与及び返還に関し必要な
事項は,最高裁判所がこれを定める。
368条
1項最高裁判所は,司法修習生に成績不良,心身の故障その他のその修習を
継続することが困難である事由として最高裁判所の定める事由があると認
めるときは,最高裁判所の定めるところにより,その司法修習生を罷免す
ることができる。
2項最高裁判所は,司法修習生に品位を辱める行状その他の司法修習生たる
に適しない非行に当たる事由として最高裁判所の定める事由があると認め
るときは,最高裁判所の定めるところにより,その司法修習生を罷免し,
その修習の停止を命じ,又は戒告することができる。
第5平成16年法律第163号(平成16年改正法)
1附則1項
この法律は,平成二十二年十一月一日から施行する。
2附則2項
この法律の施行前に採用され,この法律の施行後も引き続き修習をする司法
修習生の給与については,なお従前の例による。
第6平成22年法律第64号(以下「平成22年改正法」という。)附則
1附則1項
この法律は,公布の日(注・平成22年12月3日)から施行する。
2附則2項
この法律による改正後の裁判所法(以下「新裁判所法」という。)附則第四
項の規定は,平成二十二年十一月一日からこの法律の施行の日の前日までに採
用された司法修習生についても,適用する。
3附則3項
新裁判所法附則第四項に規定する日までに採用され,同日後も引き続き修習
をする司法修習生の給与については,同日後においても,なお従前の例による。
4附則4項
新裁判所法附則第四項後段の規定により読み替えて適用する裁判所法第六十
七条第二項の規定による給与については,裁判所法の一部を改正する法律(平
成十六年法律第百六十三号)附則第三項による改正前の裁判官の報酬等に関す
る法律(昭和二十三年法律第七十五号)第十四条ただし書に規定する給与の例
による。
第7平成14年法律第138号
附則7条1項
司法試験委員会は,平成十八年から平成二十三年までの間においては,新司
法試験を行うほか,従前の司法試験(平成二十三年においては,平成二十二年
の第二次試験の筆記試験に合格した者に対する口述試験に限る。)を行うもの
とする。この場合において,第二条の規定による改正前の司法試験法(以下
「旧法」という。)第二条から第六条の二まで及び附則第二項の規定(これら
の規定に基づく法務省令の規定を含む。)は,第二条の規定の施行後も,なお
その効力を有する。
第8労働基準法(以下「労基法」という。)
9条
この法律で「労働者」とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下
「事業」という。)に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。
第9司法制度改革審議会設置法(平成11年6月9日法律第68号。同法附則3
項による廃止前のもの)
11条
内閣に,司法制度改革審議会(以下「審議会」という。)を置く。
22条1項
審議会は,二十一世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らか
にし,国民がより利用しやすい司法制度の実現,国民の司法制度への関与,法
曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し
必要な基本的施策について調査審議する。
3附則3項
この法律は,附則第一項の政令で定める日から起算して二年を経過した日
(注・平成13年7月27日)にその効力を失う。
第10平成29年最高裁判所規則第4号による改正前の司法修習生に関する規則
(昭和23年最高裁判所規則第15号。以下「修習規則」という。)
11条
司法研修所長は,修習の全期間を通じて,修習に関しては,司法修習生を統
轄する。
22条
司法修習生は,最高裁判所の許可を受けなければ,公務員となり,又は他の
職業に就き,若しくは財産上の利益を目的とする業務を行うことができない。
33条
司法修習生は,修習にあたつて知つた秘密を漏らしてはならない。
44条
司法修習生の修習については,高い識見と円満な常識を養い,法律に関する
理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を
備えるように努めなければならない。
55条
1項司法修習生は,修習期間のうち,少なくとも十箇月は実務を修習しなけ
ればならない。
2項前項の実務修習の修習期間のうち,少なくとも,四箇月は裁判所で,二
箇月は検察庁で,二箇月は弁護士会で修習しなければならない。
3項第一項の実務修習の時期及び場所は,司法研修所長が,これを定める。
68条
最高裁判所は,実務修習の間,司法修習生に対する監督を高等裁判所長官,
地方裁判所長,検事長,検事正又は弁護士会長に委託する。
717条
司法修習生で次の各号のいずれかに該当する者は,これを罷免する。
1号禁錮以上の刑に処せられた者
2号成年被後見人又は被保佐人
3号破産者で復権を得ない者
818条
最高裁判所は,司法修習生に左の事由があると認めるときは,これを罷免す
ることができる。
1号品位を辱める行状,修習の態度の著しい不良その他の理由により修習を
継続することが不相当であるとき。
2号病気,成績不良その他の理由により修習を継続することが困難であると
き。
3号本人から願出があつたとき。
第11司法修習生の給与に関する規則(最高裁判所規則平成21年第10号によ
る廃止前のもの)
11条
司法修習生の給与月額は,20万4200円とする。
23条
司法修習生には,第一条に規定する給与のほか,一般職の国家公務員の例に
準じて,扶養手当,地域手当,住居手当,通勤手当,期末手当及び勤勉手当を
支給する。
以上
(別紙3)
貸与制の概要について
資力要件なし
利息なし
※返還期限を経過したときは年14.5%の延滞利息が付される。
貸与額23万円(基本額)
(月額)扶養家族あり/住居の賃借25万5000円
扶養家族あり+住居の賃借28万0000円
基本額未満の額の貸与希望18万0000円
保証人自然人2人又は指定金融機関の連帯保証
返還方法修習期間終了後5年間据置き,その後10年間以内の分割返還
※繰上返還することも可能
返還の猶予災害,傷病その他やむを得ない理由により返還することが困難とな
ったとき
返還の免除貸与を受けた者の死亡又は精神若しくは身体の障害により返還する
ことができなくなったとき

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