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裁判例


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主文
1原判決中,平成25年4月1日から同年8月31日までの皆勤手当に係る損
害賠償請求に関する部分を取り消す。
2本件控訴及び控訴人の当審における追加請求に基づき,被控訴人は,控訴人
に対し,32万円及びうち5万円に対する平成25年10月29日から,うち5
27万円に対する平成27年12月4日から各支払済みまでそれぞれ年5分
の割合による金員を支払え。
3第2項の部分に係る訴訟の総費用は,被控訴人の負担とする。
4この判決の第2項は仮に執行することができる。
事実及び理由10
第1当事者の求めた裁判
主文第1,2項と同旨(主文第2項につき,控訴人は,当審において,平成
25年9月1日から同27年11月30日までの皆勤手当に係る損害賠償とし
て,27万円及び遅延損害金の請求を追加した。)
第2事案の概要等(以下,略語は特記しない限り原判決の例による。)15
1事案の要旨
本件は,一般貨物自動車運送事業等を営む被控訴人との間で,期間の定め
のある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して被控訴人にお
いてトラック運転手(配車ドライバー)として勤務した控訴人が,被控訴人
と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結して20
いる労働者(正社員)と控訴人との間で,無事故手当,作業手当,給食手当,
住宅手当,皆勤手当,通勤手当,家族手当,賞与,定期昇給及び退職金(以
下「本件賃金等」という。)に相違があることは労働契約法20条(労働契
約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号。平成25年4月1日
施行)2条による改正後のもの。以下同じ。)に違反しているなどと主張し25
て,被控訴人に対し,
ア労働契約に基づき,控訴人が被控訴人に対し,本件賃金等に関し,正社
員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求め,
主位的に,被控訴人が控訴人の手取賃金として最低でも月額30万円
を支払う旨約したにもかかわらず,平成23年11月10日から同25
年9月10日まで,これを下回る手取賃金額しか支払わなかったとして,5
労働契約に基づき,上記30万円との差額68万2578円の未払賃金
及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,
予備的に,仮に上記約定が認められないとしても,手取賃金として最
低でも月額30万円が支払われるものと期待させるなどした被控訴人の
行為が不法行為を構成し,これにより,控訴人が上記の差額分相当の10
損害を被ったと主張して,不法行為に基づき,同額の損害賠償及びこれ
に対する遅延損害金の支払を求め,
ウ主位的に,控訴人が本件賃金等に関し正社員と同一の権利を有するこ
とを前提に,労働契約に基づき,平成21年10月1日から同25年8
月31日までの間に正社員に支給された無事故手当,作業手当,給食手15
当,住宅手当,皆勤手当及び通勤手当(以下「本件諸手当」という。)
と,同期間に控訴人に支給された本件諸手当との差額及びこれに対する
遅延損害金の支払を求め,
予備的に,不法行為に基づき,同額の損害賠償及びこれに対する遅延
損害金の支払を求めた20
事案である。なお,控訴人は,平成27年4月15日午後5時,大津地方裁
判所彦根支部による破産手続開始決定を受け,A(控訴人破産管財人)が破
産管財人に選任された。
請求について,本件諸手当のうち通勤手当に関す25
る労働条件の相違は強行法規である労働契約法20条に反して無効であり,
かかる労働条件の定めをした被控訴人の行為は不法行為を構成するとして,
労働契約法の一部を改正する法律が施行された平成25年4月1日から同年
8月31日までの差額分合計1万円を損害と認め,同額の損害賠償及びこれ
に対する遅延損害金を控訴人破産管財人に支払うよう命じる判決をした(上
記不法行為に基づく損害賠償請求権はこれに対する遅延損害金を含め破産財5
団を構成するところ,上記損害賠償請求権等に係る訴訟手続を受継した控訴
人破産管財人にこれを支払うよう命じたものである。なお,控訴人破産管財
人は,平成27年6月4日,受継対象債権を破産財団から放棄し,控訴人が
上記受継の対象となった損害賠償請求権に係る訴訟手続を当然に受継し
た。)。10
控訴人及び被控訴人は,原判決中それぞれ自己の敗訴部分を不服として控
控訴人は,当審(差戻前控訴審)において,主位的に労働契約に基づき,
日から同27年11月10日までの手取賃金月額30万円との差額合計1015
1万5498円及びこれに対する遅延損害金,同ウの各請求につき平成25
年9月1日から同27年11月30日までの本件諸手当未払分合計148万
5000円及びこれに対する遅延損害金の支払請求を追加した。
も棄却すべきものとした上,本件諸手当のうち原判決が損害と認めた通勤手20
当相当額のほか,無事故手当,作業手当,給食手当の支給に関する部分は労
働契約法20条に違反して無効であるから,同条が施行された平成25年4
月1日以降も上記各手当を支給しない取扱いをした被控訴人の対応(ただし,
通勤手当については同年12月31日まで)は控訴人に対する不法行為を構
成し,上記各手当の不支給額相当の損害を被ったとして,控訴人の控訴及び25
当審追加請求に基づき,平成25年4月1日から同27年11月30日まで
の期間(以下「本件期間」という。)の上記各手当不支給額相当の77万円
及びこれに対する遅延損害金の支払を命じ,本件諸手当のうち住宅手当及び
皆勤手当の不支給については労働契約法20条違反とは認めず,同不支給額
相当の損害賠償請求を棄却した。
これに対し,被控訴人は上告兼上告受理申立てをし,控訴人は附帯上告兼5
附帯上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,被控訴人の上告及び控訴人の
附帯上告を棄却し,上記各受理申立てに係る事件を上告審として受理した
上,被控訴人の上告を棄却するとともに,正社員に対し上記皆勤手当を支給
する一方で,被控訴人と有期労働契約締結している労働者(契約社員)に対
してこれを支給しないという労働条件の相違は不合理であると評価するこ10
とができるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる
と判断し,控訴人の附帯上告に基づき,差戻前控訴審判決中,控訴人の平成
25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し,
控訴人が皆勤手当の支給要件を満たしているか否か等について更に審理を
尽くさせるため同部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻し,その余の附15
帯上告を棄却する旨の判決をした(平成28年第2099号,第2100
号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号88頁)。
よって,差戻後控訴審である当審の審判の対象は,控訴人の上記の各請
求のうち,ウの予備的請求であるの請求(不法行為に基づく本件期間の皆
勤手当に係る損害賠償請求)の当否のみということになる。20
2前提事実(争いがないか,下記各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定でき
る事実)
被控訴人(昭和46年2月1日設立)は,一般貨物自動車運送事業等を
目的とし,東京証券取引所市場第一部へ株式を上場する株式会社であり,平
成25年3月31日現在の従業員数は4597人(うち「社員」662人,25
「臨時雇用者」3935人)であった。
控訴人は,平成20年10月6日頃,被控訴人との間で,以下の内容の有
期労働契約を締結し,乗務員(トラック運転手,配車ドライバー)として
被控訴人の配送業務に従事している。上記労働契約は,その後順次更新さ
れている(以下,更新の前後を問わず,控訴人と被控訴人との間の労働契
約を「本件労働契約」という。)。(乙11)5
期間平成20年10月6日から平成21年3月31日まで(た
だし,更新する場合があり得る。)
勤務場所被控訴人彦根支店
業務内容乗務員
勤務時間午前5時から午後2時まで(うち休憩時間60分)10
賃金時給1150円,通勤手当3000円(ただし,時給はそ
26年1月以降,正社員と同様の基準により5000円が
支給されるようになった。〔乙12の2,弁論の全趣旨〕)
昇給・賞与原則として昇給及び賞与の支給はしない。ただし,会社15
の業績及び勤務成績を考慮して,昇給し又は賞与を支給す
ることがある。
正社員に適用される就業規則(以下「本件正社員就業規則」という。)
は,従業員が5年以上勤務した後に退職するときは退職金を支給する旨定め
ている(第27条)。また正社員に適用され,就業規則の性質を有する給与20
規程(以下「本件正社員給与規程」という。)は,基本給は年齢給,勤続給
及び職能給で構成すること(第11条,第12条),会社の業績に応じて賞
与を支給すること(第35条),等級手当,役職手当,皆勤手当等13種類
の各種手当を支給すること(第22条~第34条)等を定めている。そし
て,上記各手当のうち皆勤手当については,乗務員が全営業日を出勤したと25
きに限り,月額1万円を支給する,ただし,所属する事務所により支給しな
いことがある(第33条)旨の本件正社員給与規程の定めがある。(乙1,
13)
契約社員等に適用される「嘱託,臨時従業員およびパートタイマーの就業
規則」(以下「本件契約社員就業規則」という。)は,基本給は時間給として
職務内容等により個人ごとに定めること(第29条),賞与及び退職金は,5
いずれも原則として支給しないこと(第38条本文,第39条),通勤手
当,時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務手当を支給すること(第30
条~第33条)等を定めている。しかし,本件契約社員就業規則には,皆勤
手当をはじめ,本件正社員給与規程に定める各種手当の多くについての定め
はない。(甲1の3)10
上記のとおり,契約社員である控訴人については,正社員と比較すると,
それぞれ異なる就業規則が適用されることにより,賃金の内容が相違して
いる。そして,控訴人の勤務している彦根支店においては,本件期間中正
社員である乗務員に対して月額1万円の皆勤手当が支給されていたが,契
約社員である乗務員の控訴人には支給されなかった。15
3争点及び争点に関する当事者の主張
本件労働契約に基づく控訴人の労働条件である皆勤手当の不支給の不合
理性
(控訴人の主張)
有期労働契約である本件労働契約と,被控訴人の正社員である乗務員と被20
控訴人との無期労働契約との間においては,①労働時間について相違はな
く,②配車担当者の指示に基づいて配送業務を行うという点で業務内容も同
一で,かつ配送業務の地域も異ならず,③配送業務を行う者の間に配転の有
無や責任についての相違もない。それにもかかわらず,皆勤に対してインセ
ンティブを付与することで皆勤を奨励する趣旨の皆勤手当を,正社員である25
乗務員にのみ支給するという労働条件の相違は,業務内容及び業務に伴う責
任の程度(以下,併せて「職務の内容」という。)や職務の内容及び配置の
変更の範囲等の事情を考慮しても不合理と認められるものであるというべき
であり,かかる不合理な相違のある本件労働契約上の労働条件は,労働契約
法20条によって無効であり,控訴人に対し皆勤手当を不支給とした被控訴
人の行為は控訴人に対する不法行為を構成する。5
(被控訴人の主張)
正社員である乗務員にのみ皆勤手当を支給するという労働条件の相違は,
皆勤手当の趣旨や職務の内容のほか,契約社員である控訴人にも皆勤を奨励
する趣旨で賃上げがなされたこと等の事情を考慮すると,不合理と認められ
るものであるとはいえない。10
すなわち,①正社員である乗務員は,控訴人を含む契約社員である乗務員
と異なり,他の乗務員の模範となることが求められ,皆勤手当には,乗務員
の皆勤を奨励する趣旨のほかに,他の乗務員の模範となるべき正社員である
乗務員に対し,当日欠勤をすれば皆勤手当を不支給にするというペナルティ
としての側面があるのに対し,契約社員は当日欠勤をしても賃金減額に直結15
することはないこと,②正社員である乗務員は,新人教育を担当し,必要に
応じて他の事業所へ応援に赴くことも求められ,班長ともなれば班長会議に
出席し,決定事項の伝達及び徹底等の業務が課せられること(業務内容の相
違),③正社員である乗務員は,目標管理制度の下に品質の高い業務遂行が求
められ,班長ともなれば,その部下の業務分担や目標を定め,進捗を管理し20
たり班員(部下)の休日(シフト)を調整したりする必要などがあるのに対
し,契約社員には目標管理制度は採られていないなど,正社員である乗務員
に求められる責任は,契約社員のそれより重いこと(業務に伴う責任の相違),
④被控訴人は,契約社員である乗務員について,時間給の増減のため評価表
記載の各項目の達成度を評価し,その合計点数に応じて増加すべき金額を設25
定しているが,評価点の20点満点中,皆勤を奨励する趣旨で,皆勤手当と
同様の観点による評価項目に4点を割り当てており,控訴人もこの評価表で,
皆勤が評価されて時間給が増額されてきたのであり(これに対し,被控訴人
の彦根支店における正社員である乗務員については,本件正社員給与規程に
より年齢給,勤続給が増額することがあるものの,当日欠勤・遅刻がないか
らといって直ちに職能給を昇給していない。),控訴人に対し皆勤の事実を考5
慮して昇給が行われたことが明らかであること,以上の事情からすると,皆
勤手当を,正社員である乗務員にのみ支給するという労働条件の相違は,不
合理と認められるものとはいえない。
したがって,本件労働契約上の皆勤手当に関する労働条件は,労働契約法
20条に違反しておらず,控訴人に対し皆勤手当を不支給とした被控訴人の10
行為は控訴人に対する不法行為を構成しない。
被控訴人の故意又は過失の有無
(控訴人の主張)
被控訴人には,労働契約法20条に違反して皆勤手当を控訴人に支給しな
かったことについて,故意又は過失がある。15
(被控訴人の主張)
被控訴人には,控訴人への皆勤手当不支給について,労働契約法20条に
違反しているとの認識はなかった。また,労働契約法20条については,多
様な解釈がみられただけでなく,規定の内容が明確ではなく,具体的事情に
よって結論が左右され得るものであり,裁判所による判断の集積もなく,本20
件の皆勤手当について,上告審判決で初めて労働契約法20条にいう不合理
と認められるものと判断されたのであるから,被控訴人には,同条の施行後
直ちに控訴人に対して皆勤手当を支給すべき注意義務があったとはいえない。
したがって,被控訴人には,皆勤手当を控訴人に支給しなかったことにつ
いて,故意又は過失がなかった。25
控訴人の損害額
(控訴人の主張)
控訴人は,本件期間中皆勤していることから,同期間について,皆勤手当の
支給要件を満たしており,皆勤手当が支給されなかったことによる控訴人の
損害額は,皆勤手当相当額である1か月1万円の32か月分である合計32
万円である。5
被控訴人は,本件期間のうち,4日間(平成26年10月19日,同27年
3月17日,同年5月17日,同年6月29日)について,控訴人が当日欠
勤(出勤日当日になって被控訴人に欠勤を申し出て欠勤すること)している
ことから4か月分について支給要件を満たさない旨主張するが,控訴人は,
上記4日間について,本件契約社員就業規則に基づく年次有給休暇を取得し10
ている。年次有給休暇の取得が事後的であっても,正社員である乗務員には
同様の場合に皆勤手当が支給されていることから,上記4か月分についても
支給要件を満たすというべきである。
(被控訴人の主張)
控訴人は,本件期間のうち,4日間(平成26年10月19日,同27年315
月17日,同年5月17日,同年6月29日)について当日欠勤しており,
4か月分については支給要件を満たさない。当日欠勤があると,その乗務員
が担当する配送ルートを他の乗務員に割り当てるなどの配車の変更を余儀
なくされるから,皆勤手当の支給要件を満たさないのは当然であり,当日欠
勤について被控訴人が事後的に年次有給休暇を認める場合であっても,無給20
になるのを避けるための被控訴人の配慮の結果にすぎず,被控訴人が,皆勤
手当の支給要件である「全営業日を出勤した」ものと認めているわけではな
い。
また,被控訴人は,控訴人の時間給の増減を評価するに際し,皆勤手当と
同趣旨の評価項目を20点満点中4点相当としていることから,控訴人の職25
務能力給のうち20%は皆勤手当と同趣旨の評価が加味されているというべ
きである。具体的には,平成25年4月1日を始期とする本件労働契約にお
ける職務能力給360円の20%に相当する72円に,1か月の所定労働時
間168時間を乗じると,次の計算式のとおり1万2096円となるのに対
し,正社員である乗務員に支給される皆勤手当が月額1万円であるから,控
訴人に皆勤手当相当額の損害が生じたとはいえない。5
72円×168(時間)=1万2096円
第3当裁判所の判断
当裁判所は,正社員である乗務員に支給される皆勤手当を契約社員である乗務
員の控訴人に支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう「不
合理と認められるもの」に該当し,控訴人についてその支給要件を満たすから,10
被控訴人に対し,不法行為に基づき,平成25年4月1日から同27年11月3
0日までの間の皆勤手当相当額の損害賠償を求める控訴人の請求は理由がある
ものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1認定事実
前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認15
めることができる。
業務の内容等
被控訴人の彦根支店における乗務員(トラック運転手)の主な業務は,正
社員,契約社員を問わず,配車担当者の指示に基づいて配送業務(荷物の積
み込み,運転による配送,配送先での荷下ろしなど)を行うものである。も20
っとも,正社員は,上記業務のほかに,新人教育を担当し,必要に応じて他
の事業所へ応援に赴き,班長であれば班長会議に出席し,決定事項の伝達及
び徹底やその部下の業務分担や目標を定めるなどの業務も併せて課せられ
ることがあるし,目標管理シートの作成を義務づけられるなど,契約社員に
は課せられない業務を課せられることがある。(甲58,乙5,12の1・2,25
原審証人B,同C)
契約社員と正社員との処遇等における差異
正社員については,公正に評価された職務遂行能力に見合う等級・役職へ
の格付けを通じて,従業員の適正な処遇と配置を行うとともに,教育訓練の
実施による能力の開発と人材の育成,活用に資することを目的として,等級・
役職制度が設けられているが,契約社員についてはこのような制度が設けら5
れていない。(乙9,12の2,原審証人C)
また,本件正社員就業規則上,被控訴人は,業務上必要がある場合は,従
業員の就業場所の変更を命ずることができると定めており(第12条1項),
正社員については出向を含む全国規模の広域移動の可能性があるが,本件契
約社員就業規則には配転又は出向に関する定めがなく,契約社員については10
就業場所の変更や出向が予定されていない。(甲1の3,乙1,12の2,
原審証人C)
契約社員の雇用契約期間及びその更新
本件契約社員就業規則は,臨時従業員及びパートの雇用契約期間は6か月
以内,嘱託の雇用契約期間は1年であること(第5条1項),雇用契約を延15
長する必要がある場合は,①契約期間満了時の業務量,②従事している業務
の進捗状況,③有期契約従業員の能力,業務成績,勤務態度,④会社の経営
状況を判断基準として個別に契約を更新すること(同条2項)をそれぞれ定
めている。(甲1の3)
契約社員の賃金及び昇給20
本件契約社員就業規則は,契約社員の賃金(給与)を,①基本給,②通勤
手当,③時間外勤務手当,④休日勤務手当,⑤深夜勤務手当とすること(第
28条),基本給は,時間給として職務内容等により個人ごとに定めること
(第29条),契約社員には,昇給を原則として行わないが,会社の業績と
本人の勤務成績を考慮の上昇給することがあること(第37条)をそれぞれ25
定めている。なお,同就業規則には,契約社員に対し皆勤手当を支給する旨
の定めはない。(甲1の3)
契約社員の時間給増減のための評価制度
被控訴人においては,契約社員の時間給増減の評価のために評価表を作成
し,各項目の達成度を評価する制度を設けている(同制度の開始年度は明ら
かでない。)。評価期間は1年間(4月1日~翌年3月31日)で,評価項目5
を,①仕事の正確性,仕事の速さなどの成績,②遅刻,体調管理などの勤務
態度,③車両事故,商品破損などの事故に分けて合計20点満点で評価する。
そのうち,皆勤手当と同様の観点による評価項目であると被控訴人が主張す
るのは,②の「遅刻」及び「体調管理」であり,この評価項目には20点満
点中4点が割り当てられている。なお,同評価項目にいう「遅刻」の具体的10
内容は「遅刻はないか」であり,評価期間中に遅刻が0回で2点,1回で1
点,3回で0点,3回以上は回数ごとにマイナス1点ずつ減点され,「体調
管理」の具体的内容は「体調不良(伝染病は除く)による当日欠勤はないか」
であり,評価期間中に当日欠勤が0回で2点,1回で1点,2回で0点,3
回以上で回数ごとにマイナス1点ずつ減点されることとされている。(乙215
5の1~3)
時間給の支給基準としては,前期時給単価を基準にし,評価点20点で1
5円増額,同18点以上で10円増額,同16点以上で5円増額,同10点
以上で維持,10点以下で「(契約)継続の可否も審議」である(以上の評価
表作成基準及びそれに基づく支給基準を併せて「本件運用基準」という。)。20
(乙25の1)
控訴人の時給額(金額が記載されたカッコ内は職務能力給の時給額)及
び評価点数
ア平成20年10月6日~同21年3月31日1150円(乙11)
イ平成24年4月1日~同25年3月31日1160円(360円)25
(甲3の1)
ウ平成25年4月1日~同26年3月31日1160円(360円)
(甲3の2,乙24の1)。評価点数は19点(乙25の1)。
エ平成26年4月1日~同27年3月31日1174円(374円)
(乙24の2・3)。評価点数は19点(乙25の2)。
オ平成27年4月1日~同28年3月31日1188円(388円)5
(乙24の4・5)
カ平成28年4月1日~同29年3月31日1200円(乙24の6)
キ平成29年4月1日~同30年3月31日1212円(412円)
(乙24の7・8)。評価点数は20点(乙25の3)。
ク平成30年4月1日~同30年9月30日1226円(426円)(乙10
24の9)
2争点⑴(本件労働契約に基づく控訴人の労働条件である皆勤手当の不支給
の不合理性)について
不合理性の判断基準
労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で,期間の15
定めがあることにより労働条件に相違があり得ることを前提に,業務の内容
及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容),当該職務の内容及び配置の変
更の範囲その他の事情を考慮して,その相違が不合理と認められるものであ
ってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれ
た処遇を求める規定であると解される。また,同条にいう「不合理と認めら20
れるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不
合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当
である。
そして,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働
条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,25
両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣
旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。なお,ある賃金項目の
有無及び内容が,他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合も
あり得るところ,そのような事情も,有期契約労働者と無期契約労働者との
個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否
かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される(最高裁平成25
8年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集第72巻2号
202頁参照。以下,この判決を「長澤運輸最高裁判決」という。)。
被控訴人においては,正社員に適用される本件正社員就業規則及び本件正
社員給与規程と,契約社員に適用される本件契約社員就業規則とがあり,契
約社員と正社員とで皆勤手当の支給の有無につき相違のあることが,上記の10
とおり契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則等が適用されることに
より生じるものであるから,当該相違は,労働契約法20条にいう「期間の
定めがあることにより」生じたものであるということができる。そこで,皆
勤手当の趣旨を踏まえて,契約社員と正社員との間で皆勤手当の支給の有無
につき相違のあることが,同条の定める考慮要素に照らし,「不合理と認めら15
れるもの」であるか否かを検討する。
ア皆勤手当の趣旨
皆勤手当は,正社員のうち乗務員のみに対し,全営業日を出勤したとき
に限り支給され皆勤手当は,被控訴
人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤する乗務員を一定数確保す20
る必要があることから,乗務員に皆勤を奨励する趣旨で支給されるもので
あると解するのが相当である(被控訴人の取締役執行役員である原審証人
Cは,運送業では荷主との契約を遵守することが非常に重要であり,乗務
員の突然の休暇取得が最も困る事態であることから,予定どおり皆勤した
乗務員に対し皆勤手当を支給することとした旨上記と同様の趣旨の証言25
をしている。)。
イ考慮要素からする不合理性の有無
職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲
前記1⑴の認定事実によると,被控訴人の彦根支店における乗務員(ト
ラック運転手)の主な業務は,配車担当者の指示に基づいて配送業務を
行うものであり,同業務及び同業務に伴う責任の程度において,契約社5
員と正社員との間で異なるところはない。したがって,皆勤手当の趣旨
である運送業務を円滑に進めるため実際に出勤する乗務員を一定数確保
する必要性について,契約社員と正社員との間で差異が生じるものでは
ない。
前記1の認定事実によると,契約社員と正社員との間で,能力の開10
発と人材の育成,活用に資することを目的とする等級・役職制度の有無
や,配転及び出向の可能性などの点で相違があるものの,これらの相違
は,上記皆勤手当の趣旨とは合理的な関連性がないといえる。
その他の事情(他の賃金項目の有無及び内容との関連)
ところで,前記1の認定事実によれば,本件契約社員就業規則上15
は,契約社員である乗務員には皆勤手当の支給がなく,昇給も原則とし
て行わないこととされているが,一方で,被控訴人は,契約社員の時間
給増減の評価のために,評価表作成基準及びそれに基づく支給基準(本
件運用基準)を作成し,各項目の達成度を評価する制度を設けている。
及び内容が,他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合」
という事情,すなわち,契約社員である乗務員への皆勤手当不支給に対
する合理的な代償措置と評価できるのであれば,かかる代償措置を踏ま
えて皆勤手当不支給が決定されているということができるから(長澤運
輸最高裁判決参照),契約社員である乗務員に皆勤手当が支給されないこ25
とが,「不合理と認められるもの」と評価するについての評価障害事実に
なるということができる。
しかしながら,前記1の認定事実によると,①契約社員である乗
務員は,被控訴人の業務量や経営状況等を考慮して雇用契約が更新され
るか否かが決せられるものであるから,次期の雇用契約の更新が必ずし
も法的に保障されていないこと,②本件契約社員就業規則上,契約社員5
である乗務員の昇給は原則として行わないとされており,例外的に会社
の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされている
のみである上(第37条),本件運用基準による昇給が本件契約社員就業
規則に規定されていないから,被控訴人において,契約社員である乗務
員の昇給を行わないとの上記原則を変更したと評価することはできな10
いことからすると,本件正社員給与規程で定められた正社員である乗務
員の皆勤手当に対比すると,本件運用基準による契約社員である乗務員
の時間給の増額が,皆勤の事実が認められるだけで必ずなされることが
保障されているものではないことが明らかである。
また,本件運用基準において,被控訴人が皆勤手当と同様の観点によ15
る評価項目と主張するのは,「遅刻」の有無及び「体調管理」の適否であ
るが,「遅刻」とは文字どおり遅刻の有無であり,「体調管理」とは伝染
病を除く体調不良による当日欠勤の有無であって,支給(昇給)要件に
おいて,皆勤手当支給の要件である「全営業日を出勤」とは必ずしも一
致しない上,本件運用基準は評価期間である1年間を通しての評価をす20
る基準であり,しかも評価表の満点20点中,「遅刻」の有無及び「体調
管理」の適否に合計4点が割り当てられているだけであり,評価点16
点以上ではじめて時給が増額されることとなるにすぎないから,皆勤手
当が皆勤の事実のみによって当然に支給されるのに対して,契約社員の
場合,1か月ごとの皆勤の事実が必ず昇給に結びつくものではない(例25
えば,前半の半年間が皆勤でも,後半の半年間に遅刻や当日欠勤があれ
ば,1年間全体として評価されない場合があり得るし,1年間を通して
皆勤していても他の評価が低く,合計点が16点に達しなければ上記皆
勤の事実は全く評価に反映されないことになる。)。
加えて,前記1の認定事実によると,1年間を通して遅刻や体調不
良による当日欠勤がなく,その結果,「遅刻」及び「体調管理」の評価項5
目で合計4点となり,本件運用基準での評価が昇給に結びついたとして
も,昇給額は最大でも時給15円にとどまるから,1日あたり8時間,
1か月あたり168時間とすると,上記昇給に結びついた部分は,以下
の計算式のとおり,月額504円,年額6048円程度であると認めら
れる。前記1の認定事実によると,控訴人の本件期間中の時給額の増10
額による賃金の増額は,上記の額にさえ達していない(これに対し,後
記のとおり,控訴人に皆勤手当が支給されれば,月額1万円,年間12
万円である。)。
(月額)15円×168(時間)×4点/20点=504円
(年額)504円×12(か月)=6048円15
以上のとおりであるから,本件運用基準による時給の増額は,そもそ
も皆勤の評価が直ちに賃金に反映するのか不確実な制度であるという
だけでなく,控訴人のように再雇用がなされ,他の評価項目も年間を通
して高評価であり,皆勤の事実が事実上昇給に反映されていると見得る
余地がある場合であっても,皆勤手当(月額1万円,年額12万円)と20
比べると,わずかの金額(最大でも月額504円,年額6048円程度)
にすぎないのであるから,契約社員である乗務員について,皆勤を奨励
する趣旨で翌年の時給の増額がなされ得る部分があることをもって,皆
勤手当を不支給とする合理的な代償措置と位置づけることはできない。
なお,雇用が継続されることにより次年度以降も昇給の効果が継続する25
ことになり得るが,上記のとおり,雇用継続に法的な保障がないことか
らすると,このことをもって上記判断を左右しない。
したがって,本件運用基準による時給の増額は,契約社員である控訴
人に皆勤手当が不支給とされることが「不合理と認められるもの」と評
価するについて,評価障害事実にはならないというべきである。
被控訴人の主張について5
これに対し,被控訴人は,①皆勤手当の趣旨には,乗務員の皆勤を奨励す
る趣旨だけでなく,他の乗務員の模範となるべき正社員である乗務員に対
し,当日欠勤があれば皆勤手当を不支給とするペナルティとしての側面があ
ること,②正社員である乗務員は,新人教育を担当し,必要に応じて他の事
業所への応援も行い,班長ともなれば班長会議に出席するなど種々の業務が10
あるほか,目標管理制度の下に品質の高い業務遂行が求められるなど,契約
社員である乗務員とは職務の内容が相違することを挙げ,契約社員である控
訴人に皆勤手当を支給しないことが不合理と認められるものとはいえない
旨を主張する。
しかし,①皆勤手当は,実際に出勤する乗務員を確保する必要性から,皆15
勤を奨励する趣旨で支給されるのであるから,その反面として,皆勤しなけ
れば皆勤手当の不支給という事実上のペナルティの趣旨を含むのは当然の
ことである。したがって,皆勤手当不支給がペナルティの趣旨を有するから
といって,正社員に支給される皆勤手当を契約社員に支給しないことが不合
理と認められるとの前記認定判断を左右するものではない。②正社員である20
乗務員と契約社員である乗務員との間には,新人教育担当の有無,班長業務
の有無,目標管理制度の有無など職務の相違点がある(前記1⑴の認定事
社員と契約社員との間で職務の内容に異なるところがないし,被控訴人が運
送業務を円滑に進めるには実際に出勤する乗務員を一定数確保する必要性25
が高く,乗務員に皆勤を奨励するという皆勤手当の趣旨と関連するのはあく
まで配送業務であって,そのほかに正社員が課せられる職務の内容は皆勤手
当の趣旨と合理的な関連性があるとはいえない。被控訴人の上記主張はいず
れも採用することができない。
以上のとおりであるから,皆勤手当の趣旨を踏まえると,契約社員と正社
員との皆勤手当の支給における相違は,労働契約法20条に定める考慮要素5
(職務の内容,職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の事情)に照らし,
不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
したがって,労働契約法20条に違反する皆勤手当の不支給は,均衡待遇
を要求する控訴人の法的な利益を侵害するものとして不法行為になり得る
ものである。10
3争点(被控訴人の故意又は過失の有無)について
前記2のとおり,本件期間において,被控訴人が控訴人に対する皆勤手当
を不支給としたことは,労働契約法20条に違反し,控訴人に対する不法行
為となり得るところ,①労働契約法20条は,規定の内容や趣旨からして,
強行法規として私法上の効力を有し,有期労働契約のうち同条に違反する労15
働条件の相違を設ける部分は無効となると解されること,②同条に違反する
場合には,有期労働契約のうち上記のとおり労働条件の相違を設ける部分が
無効になるだけでなく,不法行為となり得ることが,同条施行時(平成25
年4月1日)よりも前に,厚生労働省労働基準局長の平成24年8月10日
付け基発0810第2号「労働契約法の施行について」と題する通達や多数20
の文献によって指摘されていたこと(甲13,49,50,52の1,乙2,
20),③被控訴人は,東京証券取引所市場第一部に株式を上場する株式会社
であり,平成25年3月31日現在の従業員数は4597人(うち社員66
2人,臨時雇用者3935人)という規模の大きな会社であったから(前提
管理能力を有していたと推認されること,④被控訴人においては,正社員と
において,度々組合員である契約社員(パート労働者)の待遇改善を要求さ
れ,平成24年7月17日には,格差是正の件(手当支給)として,団体交
渉の内容となっていたこと(甲5の1・2,26,乙6,控訴人本人(原審))
を指摘することができる。5
以上の各事情によると,被控訴人は,労働契約法20条の施行時までには,
同条の趣旨に合致するように,契約社員である乗務員の控訴人の労働条件で
ある諸手当について,正社員である乗務員の労働条件と均衡のとれた処遇と
するように取り組むべき注意義務があったというべきである。しかるに,被
控訴人が労働契約法20条の施行時までに何らかの形で上記取組みをしたこ10
とを認めるに足りる証拠はないから,被控訴人は,控訴人に対して皆勤手当
を支給しないという違法な取扱いをしたことについて過失があったというべ
きである。
これに対し,被控訴人は,労働契約法20条について多様な解釈がみられ
ただけでなく,規定の内容が明確ではなく,具体的事情によって結論が左右15
され得るものであり,裁判所による判断の集積もなかったなどの点から,皆
勤手当不支給について被控訴人に過失がなかった旨主張する。
しかし,前記⑴の事情に照らすと,被控訴人が指摘する事情を考慮しても,
被控訴人には過失があったというべきである。被控訴人の上記主張を採用す
ることはできない。20
そうすると,被控訴人は,控訴人に対し,上記不法行為により控訴人が被
った損害を賠償すべき義務がある。
4争点(控訴人の損害額)について
証拠(乙27)及び弁論の全趣旨によると,控訴人には,本件期間中,年
次有給休暇を取得した日を含めて,欠勤扱いになった日はなく,皆勤手当の25
支給要件である「乗務員が全営業日を出勤したとき」に該当するか又はそれ
と同視できる事情がある。したがって,控訴人は,本件期間の皆勤手当相当
額32万円(1万円×32(か月))の損害を被ったことが認められる。
被控訴人は,①控訴人が本件期間のうち,4日間(平成26年11月22
日,同27年3月17日,同年5月17日,同年6月29日)について,当
日欠勤をしており,事後的に年次有給休暇が認められる場合であっても,45
か月分については支給要件を満たさないこと,②平成25年4月1日を始
期とする本件労働契約における職務能力給360円の20%(72円)に,
皆勤手当と同趣旨の評価が加味されているから,1か月の所定労働時間で
計算すると,控訴人に皆勤手当相当額の損害が生じたとはいえない旨主張
する。10
まず①の主張について検討すると,確かに,被控訴人の主張する4日間に
ついて,控訴人は当日欠勤をしており,年次有給休暇届を後日提出している
ところ(乙26の2~5,27),このような場合に,被控訴人が有給休暇
の取扱いと皆勤手当の取扱いを区別することは,皆勤手当の趣旨に照らし
一般論としてあり得ないわけではない。しかし,年次有給休暇を取得した場15
合に,賃金の減額その他不利益な取扱いをすること(このような不利益な取
扱いには,本件において年次有給休暇取得を理由に皆勤手当を支給しない
取扱いをすることも含まれる。)は,労働基準法附則136条(努力義務を
定めたものと解される。)からすると,できるだけ避けるべきものであると
ころ(最高裁平成5年6月25日第二小法廷判決・民集47巻6号458520
頁参照),年次有給休暇の取得の場合に,事前の届出と事後の届出の場合で,
皆勤手当の支給を区別することは,本件正社員給与規程上明記されていな
い上(乙13),正社員である乗務員については,事後的な届出による年次
有給休暇の場合であっても,皆勤手当が支給されていることが認められ(甲
66の1~4,67,弁論の全趣旨),これを支給しない取扱いをしている25
と認めるに足りる証拠はない。したがって,本件正社員給与規程は,正社員
である乗務員について,年次有給休暇の取得に関し,事後の届出であっても,
皆勤手当の支給要件を充たすものとして取り扱われていると解される。契
約社員である乗務員に皆勤手当を支給しないことが不合理であると認めら
れることは前記説示のとおりであるから,契約社員である乗務員について
もこの点について別異に解する根拠はなく,控訴人は,年次有給休暇を取得5
した上記4日の属する4か月分についても,皆勤手当の支給要件を満たす
というべきである。
次に②の主張について検討するに,前記2のとおり,契約社員について,
本件運用基準の下で,皆勤を奨励する趣旨も含めて翌年の時給の増額がなさ
れることがあるとしても,このことをもって,皆勤手当を不支給とする合理10
的な代償措置と位置づけることはできないから,上記増額分を損害から控除
することはできない(そもそも,控訴人が採用された平成20年10月6日
から平成25年4月1日までの4年余りの間に時給が増額した分はわずか
10円にすぎないから,上記時給増加分に皆勤が評価された部分が含まれる
としても,被控訴人の主張するように職務能力給360円の20%とするの15
はおよそあり得ないというべきである。)。
被控訴人の上記各主張はいずれも採用することはできない。
第4結論
以上のとおりであるから,平成25年4月1日から平成27年11月30日
までの皆勤手当に係る損害賠償を求める控訴人の請求(当審における追加請求20
を含む。)は理由があるから認容すべきところ,これと異なる原判決は不当であ
って,本件控訴は理由があるから,原判決中,平成25年4月1日から同年8月
31日までの皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を取り消し,同部分に
係る控訴人の請求及び当審における追加請求を認容することとして(なお,遅
延損害金の起算日は,平成25年4月1日から同年8月31日までの分につい25
ては訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな同年10月29日であ
り,同年9月1日から平成27年11月30日までの分については同年12月
2日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな同月4
日である。),主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第14民事部5
裁判長裁判官田中俊次
裁判官竹内浩史
裁判官浅見宣義15

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