弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
 原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和四二年一月一〇日付でなした昭和三九
年二月分から昭和四一年一〇月分までの物品税の更正処分ならびに無申告加算税お
よび過少申告加算税の賦課決定処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とす
る。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。
 原告訴訟代理人は、その請求原因として
一 原告は乳製品の製造、販売を業とする会社であり、昭和三五年五月ごろから
「ミルクコーヒー原液」なる物品を製造しているが、右「ミルクコーヒー原液」は
不課税物品と信じ、従来物品税の申告をしていなかつた。
二 ところが被告は、原告が昭和三九年二月より昭和四一年一〇月までの問に製造
移出した右「ミルクコーヒー原液」につき、昭和三十九年二月分から昭和四一年三
月分までは物品税法(昭和三七年三月三一日法律第四八号)第一条別表第二種第四
類第四一号ロ(昭和四一年法律第三四号による改正前)、昭和四一年四月分から昭
和四一年一〇月分までは物品税法第一条別表第二種第一七号2に掲げる「コーヒー
シロツプ」に該当するものとして、別表1記載のとおりの物品税の更正処分ならび
に無申告加算税および過少申告加算税の賦課決定処分(以下本件課税処分とい
う。)を行つた。
三 しかし、本件課税処分は左記の理由によつて違法であるから取り消されるべき
ものである。
(一) 本件「ミルクコーヒー原液」の原料の配合割合およびその原価構成は別表
Ⅱのとおりであつて、その主成分は脱脂乳であつて、コーヒーと甘味料を主原料と
しないし、その性状、用途からも乳製品であるから「し好飲料」たる「コーヒーシ
ロツプ」でないことは勿論、その他の「し好飲料」でもない。
 なお、仮りに「ミルクコーヒー原液」が「し好飲料」であるとしても、右のよう
に、その主成分は脱脂乳であり、かつねり状のものであるから、物品税法第一条別
表第二種第一七号品目3に該当し、同法施行令第一条第六条別表第一第二種の物品
第一七号品目3によれば乳固型分の重量または無脂乳固型分の重量の全重量に対す
る割合が一〇〇分の一四以上または一〇〇分の一〇以上のものは非課税物品とされ
ているところ、本件「ミルクコーヒー原液」の乳固型分の重量比は一〇〇分の八〇
以上であるので非課税物品である。
(二) 仮りに本件「ミルクコーヒー原液」が課税物品であるとしても本件課税処
分の対象となつた昭和三九年二月より昭和四一年一〇月までの問に適用施行されて
いた物品税法基本通達別表第二種戊類四五(10)は、コーヒーシロツプおよび紅
茶シロツプを定義して「コーヒーシロツプおよび紅茶シロツプとはコーヒー又は紅
茶を原料として、これに甘味料を加えたものでき釈して飲用するのに適する濃度お
よび甘味を有する飲料をいう。」と定めていた。これはコーヒーを原料として、こ
れに甘味料を加え、き釈して飲用に供するもので、いわゆるインスタントコーヒー
の一種であつて、本件のような牛乳を主成分とした乳製品のようなものを予想して
いない。ところが昭和四一年一一月、前記基本通達中のコーヒーシロツプに関する
定義を「コーヒーを原料として、これに甘味料およびその他の物品を加えたもの
で、き釈して飲用するに適する濃度および甘味を有する飲料をいう。」と改めた。
これは従前の通達では本件「ミルクコーヒー原液」については課税できないため、
急拠改正し、右のように「その他の物品」という文言を挿入して右課税を可能なら
しめようとしたものである。そもそも、この基本通達なるものは、物品税法で定め
られた抽象的納税義務を具体的に明確化し、現実には基本通達によつて課税される
かの観を呈し、その内容・機能からみれば、物品税法と一体をなすものであるか
ら、前記通達の改正前に製造移出した本件「ミルクコーヒー原液」について、右改
正後の通達に基づいて課税することは許されないので、本件課税処分はこの点から
も違法たるを免れない。
四 よつて、原告は被告に対し本件課税処分の取り消しを求める。
と述べた。
 被告指定代理人は、答弁として
 請求原因第一項の事実のうち原告が「ミルクコーヒー原液」を製造したのは、昭
和三五年五月ごろであるとの点および原告が「ミルクコーヒー原液」が不課税物品
と信じていたとの点は不知、その余は認める。同第二項の事実は認める。同第三項
(一)の事実のうち「ミルクコーヒー原液」の配合割合、その原価構成は不知、そ
の余は争う。同第三項(二)の事実は、基本通達改正の点は認めるが、その余は争
う。基本通達を改正したのは、従来から法律の解釈上当然とされていたことを、よ
り妥当な表現に改めたに過ぎない。と答え、主張として次のとおり述べた。
 本件課税処分には原告主張のような取消事由は何ら存在しない。すなわち、本件
「ミルクコーヒー原液」は物品税課税物品たる「コーヒーシロツプ」である。
 物品税法第一条によれば、同条別表第二種第一七号品目2(昭和四一年法律第三
四号による改正前の物品税法第一条別表第二種第四種第四一号品目は、以下につい
てはこの括弧部分は省略する。)に掲げる「コーヒーシロツプ」は、物品税の課税
物品とされている。右「コーヒーシロツプ」については、物品税法上何等の定義規
定も存しないので、同法の目的に照らしそのしやし性、し好性、便益性等ならびに
一般消費者の生活および産業経済におよぼす影響等や社会通念を考慮して合理的に
解釈するほかないが、右見地から、「コーヒーシロツプ」とは、「コーヒーを原料
として、これに甘味料およびその他の物品を加えたもので、き釈して飲用するのに
適する濃度および甘味を有する飲料をいう。」と定義すべきものである(昭和四一
年一一月二四日付国税庁長官通達「物品税法基本通達」別表第一第二種の物品、一
七飲料類および飲料用のし好品・一七)。右定義は物品税の課税物品とされていな
い市乳等と異なり、コーヒーシロツプが一般的に滋養および保健飲料としてより
も、むしろし好飲料として飲用に供されている現状からみて、課税対象とされてい
ることに適合する。
 ところで被告の調査の結果によれば、右「ミルクコーヒー原液」の原料配合、性
状等は
1 コーヒー豆を原料としてこれに少量のチコリー(コーヒー増量材で物品税法第
一条別表第二種第一七号品目5の課税物品たる飲料用のし好品)を加えて浸出した
コーヒーエキスにブドウ糖、砂糖、サツカリンの甘味料とカラメル(着色材)、サ
イクラミン酸ナトリウム、ガム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムを加え、
さらに脱脂乳を加えて濃縮し製造したものであること
2 九ないし一〇倍にき釈して飲用に供するものであること
3 その性状が常温において、その収容容器を傾斜した場合、自然に流出する程度
の粘度のもので液状であること
が認められ、かつ本件「ミルクコーヒー原液」は、コーヒー特有の香り、甘味、色
彩を保有しており、社会通念上も、し好飲料たる「コーヒーシロツプ」と認められ
るので、物品税法上の「コーヒーシロツプ」に該当するものというべきである。
 なお、原告は「ミルクコーヒー原液」は主成分が脱脂乳であつて、主原料がコー
ヒーと甘味料でないから「コーヒーシロツプ」にもまた「し好飲料」にも該当しな
い旨主張しているが、物品税法上も社会通念上も「コーヒーシロツプ」がコーヒー
と甘味料を主原料とするものであると限定する理由は何ら存在しないし、また原告
は本件「ミルクコーヒー原液」がたとえし好飲料であるとしても、物品税法第一条
別表第二種第一七号品目3の「ねり状のもの」に該当すると主張するが、右「ねり
状」とは、「その性状が常温において、その収容容器を傾斜させても、自然に流出
しない程度の粘度を有するもの」をいうと解すべきところ、本件「ミルクコーヒー
原液」が右の程度の粘度を有しないものであることは明らかであるから、原告の右
主張はいずれも理由がない。
証拠(省略)
       理   由
一 原告は乳製品の製造、販売を業とする会社で、遅くとも昭和三九年二月から
「ミルクコーヒー原液」なる物品を製造してきたが、従来物品税の申告をしなかつ
たところ、被告が右「ミルクコーヒー原液」が物品税法第一条別表第二種第一七号
品目2に掲げる「コーヒーシロツプ」に該当するものとして、本件課税処分を行つ
たことは当事者間に争いがない。
二 そこで、本件課税処分について原告主張の取消事由が存在するか否かについて
検討する。
(一) 「ミルクコーヒー原液」が物品税法第一条別表第二種第一七号品目2の
「コーヒーシロツプ」に該当するか否かについて右「コーヒーシロツプ」の意義に
ついては、物品税法上何ら定義づけはなされていないので、同法条の立法趣旨に照
らしてこれを合理的に解釈するほかはないが、物品税法が「コーヒーシロツプ」を
課税物品としたのは、コーヒーが強度にし好性に富むものであるので、このような
コーヒーの特性が生かされたシロツプ(濃度の高い糖液)を課税の対象にしようと
するものと解されるから、そのシロツプにおけるコーヒーの含有量が少量であつて
も、また、コーヒーの他に他の物が含有されていても、そのシロツプ自体において
コーヒーの特性が生かされている以上は、「コーヒーシロツプ」と解してさまたげ
ないものというべきである。
 しかして一般に乳製品は滋養および保健食品として不課税物品とされているとこ
ろであるが、コーヒーの他に乳製品を多量に含有するシロツプが不課税物品とされ
る乳製品に該当するか、課税物品とされる「コーヒーシロツプ」に該当するかは、
それが主として滋養および保健食品たる性格を有するか、し好飲料たる性格を有す
るかにより決定すべきものと解される。
 そこで本件「ミルクコーヒー原液」がコーヒーの特性の生かされたし好飲料であ
るか否かについて検討するに、証人Aの証言により真正に成立したものと認められ
る甲第一号証、成立に争のない乙第一、二号証、証人B、同C、同A、同Dの各証
言および鑑定の結果によれば、本件「ミルクコーヒー原液」は、コーヒー豆を焙煎
粉粋したものを浸出器にかけてコーヒーの浸出液をとり、これに水の他ブドウ糖、
脱脂乳、サツカリンナトリウム、チコリ等を加えて濃縮して製造したものであり、
その主たる成分の割合は、糖分が最も多く、次いで水分、乳固型分の順になつてお
り、本件「ミルクコーヒー原液」はその濃厚な甘味とともにその色、香、味におい
てコーヒーの特性を保有しており、通常の状態においては、常温において収容され
た容器を傾けた場合、自然に流出する程度の粘度を有するものであつて、九ないし
一〇倍にき釈して飲用に供するものであつて、滋養および保健食品としての性格よ
りもしやし的用途に用いられるし好飲料たる性格をより強度に有していることが認
められ、右認定に反する証拠はない。
 してみれば「ミルクコーヒー原液」は物品税法上前記所定の課税物品たる「コー
ヒーシロツプ」に該当するものというべきである。
 なお原告は、「ミルクコーヒー原液」が、「し好飲料」だとしても、液状の「コ
ーヒーシロツプ」ではなく、同別表第二種第一七号品目3の物品の「ねり状のも
の」に該当し、かつこれにつき定められた非課税物品に該当すると抗争するけれど
も、本件「ミルクコーヒー原液」が、通常の状態においては、常温において収容さ
れた容器を傾けた場合、自然に流出する程度の粘度を有するものであつて、九ない
し一〇倍にき釈して飲用に供するものであることは前示認定のとおりであつて、こ
のことを、物品税法第一条別表第二種第一七号品目3にいう「ねり状のもの」と
は、同条が右文言を溶解して飲料に供するものの形態の一として「固形、粉末のも
の」と並らべて掲げていることに鑑み、相当粘度の高いものを予想していると解さ
れることと比較検討するとき、前記程度の粘度を有するにすぎない本件「ミルクコ
ーヒー原液」を、前記品目3にいう「ねり状のもの」に該当するとは到底いえない
し、結局前示認定のように液状の「コーヒーシロツプ」に該当すると認めるのを相
当と解する。
(二) さらに、原告は、当初の物品税法基本通達においては「コーヒーシロツプ
とはコーヒーを原料としてこれに甘味料を加えたもので云々」と規定し、牛乳を主
成分とした乳製品である本件「ミルクコーヒー原液」のごときものを予想していな
かつたところ、「ミルクコーヒー原液」が出現するに及び、これに対する課税を可
能ならしめるため昭和四一年一一月右基本通達における「コーヒーシロツプ」の定
義を「コーヒーを原料としてこれに甘味料その他の物品を加えたもので云々」とい
うふうに改正したものであるから、かりに「ミルクコーヒー原液」が「コーヒーシ
ロツプ」に該当するとしても、右基本通達の法規に準ずる性格に鑑み、右基本通達
改正後に製造移出された「ミルクコーヒー原液」についてのみ課税すべきであつ
て、それ以前に製造移出されたものについてまで課税したことは違法であると主張
し、原告主張のような基本通達の改正があつたことは当事者間に争いのないところ
であり、本件「ミルクコーヒー原液」の出現が右基本通達改正の契機となつたこと
は証人Cの証言により認められるが、右基本通達は物品税法の解釈基準となるにと
どまり、何ら法規たる性質を有するものではないから、物品税法の解釈により本件
「ミルクコーヒー原液」が「コーヒーシロツプ」に該当すると解される以上、前記
のような事実があつたからといつて原告主張の前記課税処分が違法となるものでは
ないので、この点に関する原告の主張は理由がない。
三 してみれば、被告がなした本件各課税処分は適正であつて、原告の本訴訟請求
は理由がないのでこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を
適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 美山和義 松尾政行 来本笑子)
(別表Ⅰ、Ⅱ省略)

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