弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する原判示第三の(ニ)に関する部分を除きその
余を破棄する。
     被告人Bを懲役一五年に、Aを懲役三年に各処する。
     原審における未決勾留日数中被告人Bに対しては一二〇日を被告人Aに
対しては六〇日を右各懲役刑に算入する。
     押収にかかる日本刀一振(昭和三四年押第五九号)はこれを没収する。
         理    由
 検察官並びに弁護人原田好郎の各控訴の趣意は記録編綴の各作成名義控訴趣意書
記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 検察官の論旨について
 所論は原審の被告人Bに対する量刑は軽きに失し不当であるというのである。よ
つて記録並びに当審証拠調べの結果を検討するに、同被告人の本件犯行(原判示第
一の)は被害者Cが好意的に被告人等のため荷物運搬の手伝をしてやつていた際原
判決認定のとおりのやりとりの後敢行されたものであるところ、その際同被告人が
右Cに対し「C坊すまんじやつたのお」と言つた言葉は故意に同人の感情を刺戟
し、殺人のきつかけを作ろうとしたものと解すべき相当の根拠がないでもないので
あるが、仮りにそうでないとしてもその無礼をとがめられた上左顳・部を一回手拳
殴られた位のことで、たやすく殺人を決意し車中から逃がれようとしてい無防備無
抵抗な右Cに対し、至近距離から第一弾を発射し、同人の左側胸部に命中させて胸
腹部貫通右上腕盲貫銃創を負わせ、必死に逃亡しようとする同人を尚執拗に追跡し
原判示D歯科医院玄関前に逃げ込んだ同人に対し更に至近距離から第二弾第三弾を
続いて発射し、同人の左顳・部背部にそれぞれ命中させて頭部貫通銃創背部貫通銃
創を負わしめ、右第二弾による頭部貫通銃創により右Cをその場に即死せしめてい
るのであつて(当審鑑定人E作成の鑑定書参照)その卑劣、非人情にして残忍なる
犯行の手口に対しては、記録にあらわれた同被告人と右C間の従来の対立関係を考
慮に入れても尚いささかも同情の余地を見出し得ないのである。かような本件犯行
の動機、態様、被害法益の重大性、此の種事犯の社会治安に及ぼす影響(此の種事
実については検察官所論のごとく報復的殺傷事件の続発する懸念のあることも考慮
に入れなければならない)等諸般の情状を彼此考量するに原審の量刑は軽きに失す
るものというべく原判決中同被告人に関する部分は此の点において破棄を免かれな
い。論旨は理由がある。
 弁護人原田好郎の論旨第一点について
 所論は原判示第一の事実につき事実の誤認を主張し、被告人Aは被告人Bの原判
示三発の銃撃により既に死亡していた被害者Cの死体に日本刀を以て損傷を加えた
に過ぎないのであるから、同被告人の所為は殺人罪に該当しないというのである。
よつて記録並びに当審証拠調べの結果を検討するに、当審鑑定人E、同Fの各作成
にかかる鑑定書の各記載によれば被告人AがCに対し原判示傷害を加えたときに
は、Cは被告人Bによつて加えられた原判示銃撃により既に死に一歩を踏み入れて
おつたもの即ち純医学的には既に死亡していたものと認めるのが相当である。右認
定に反する医師G作成の鑑定書、同H作成の鑑定書、証人Hの原審公判廷における
供述、当審公判準備における証人Gの供述ば前記各証拠に照しとうてい措信しがた
いところである。してみると原審が被害者Cの死亡が被告人Bの与えた銃創と、被
告人Aの与えた刺創とに因るものであると認定したのは事実の誤認であるというの
外なく、右誤認は同被告人の判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決中同
被告人に関する部分は爾余の点につき判断を俟つまでもなく此の点において破棄を
免がれない。論旨は理由がある。(尤も論旨は被告人AはCの死体に対し損傷を加
えたに過ぎないから、その所為は死体損壊罪に該当すると主張するのである。なる
ほど同被告人がCに対し原判示傷害を加えたときには同人は既に死<要旨>亡してい
たものであることは前認定のとおりであるが、原判決挙示の証拠によれば、被告人
Aは原判示I組事務所玄関に荷物を運び入れていた際屋外で拳銃音がしたの
で、被告人BがCを銃撃したものと直感し、玄関外に出てみたところ、被告人Bが
Cを追いかけており、次いで両名が同事務所東北方約三〇米のところに所在するD
歯科医院邸内に飛び込んだ途端二発の銃声が聞えたが、被告人Bの銃撃が急所を外
れている場合を慮り、同被告人に加勢してCにいわゆる止めを刺そうと企て、即座
に右玄関付近にあつた日本刀を携えて右医院に急行し、被告人Bの銃撃により同医
院玄関前に倒れていたCに対し同人がまだ生命を保つているものと信じ殺意を以て
その左右腹部、前胸部その他を日本刀で突き刺したものであることが認められる。
そして原審鑑定人Hの鑑定書によれば「Cの直接の死因は頭部貫通銃創による脳挫
創であるが、通常同種創傷の受傷者は意識が消失しても文字どおり即死するもので
なく、真死に至るまでには少くとも数分ないし十数分を要し、時によつてはそれよ
り稍長い時間を要することがあり、Cの身体に存する刺、切創は死後のものとは認
め難く生前の頻死時近くに発生したものと推測される」旨の記載があり、一方当審
鑑定人Eの鑑定書によれば「Cの死因はD歯科医院前で加えられた第二弾による頭
部貫通銃創であり、その後受傷した刺、切創には単なる細胞の生的反応は認められ
るとしても、いわゆる生活反応が認め難いから、これら創傷の加えられたときには
同人は死に一歩踏み入れていたもの即ち医学的には既に死亡していたものと認め
る」旨の記載があり、当裁判所が後者の鑑定を採用したものであることは前に記述
したとおりである。
 このように、Cの生死については専門家の間においても見解が岐れる程医学的に
も生死の限界が微妙な案件であるから、単に被告人Aが加害当時被害者の生存を信
じていたという丈けでなく、一般人も亦当時その死亡を知り得なかつたであろうこ
と、従つて又被告人Aの前記のような加害行為によりCが死亡するであろうとの危
険を感ずるであろうことはいづれも極めて当然というべく、かかる場合において被
告人Aの加害行為の寸前にCが死亡していたとしても、それは意外の障害により予
期の結果を生ぜしめ得なかつたに止り、行為の性質上結果発生の危険がないとは云
えないから、同被告人の所為は殺人の不能犯と解すべきでなく、その未遂罪を以て
論ずるのが相当である。この点に関する論旨には賛同し難い。)
 よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三八一条第三八二条を適用し原判決を破棄
し同法第四〇〇条但書により当裁判所において直ちに判決する。
 当裁判所の認定した罪となるべき事実及びその証拠の標目は原判示罪となるべき
事実中冒頭並びに第一の事実を
 被告人両名はいづれも山口県防府市のいわゆるI組の輩下であるが
 第一 被告人両名はかねてより同組に属する一派の首領C(当時二八年)に対し
不快の念を懐いていたが昭和三三年一二月二四日午後八時過頃同市a町所在の右C
方に同組の会長Jの荷物約八箇をとりに行き、Cに同人の広告宣伝車で同町所在の
I組事務所前まで送つて貰つた際被告人BがCに対し「C坊すまんじやつたのお」
と言つたところ同人から「ちんぴらが何をたれやがるか、甲斐性があるならかかつ
てこい」と言われて左顳・部を一回手拳で殴られたのに憤激して被告人Bは吐嗟に
Cを殺害しようと決意し、右事務所玄関上り口に置いであつた拳銃を持ち出し、同
日午後八時三〇分頃右事務所前道路上において右広告宣伝車から降りて逃げ出そう
とする同人目がけて一発発射し、同人の左側胸部に命中させ、同人に対し胸腹部貫
通右上腕盲貫銃創を負わしめ、尚必死に逃亡する同人を追跡して同所から約三〇米
離れた同町所在のD歯科医院前に逃げ込んだ同人に対し更に第二弾第三弾を続いて
発射し、同人の左顳・部、背部にそれぞれ命中させ、同人に対し頭部貫通銃創、背
部貫通銃創を負わしめ、同人をして間もなく同所において死亡せしめ殺害の目的を
遂げたが被告人Aは右拳銃の発射音を前記事務所玄関において聞くや即座に被告人
Bを応援加勢する丸め右玄関の下駄箱裏に置いであつた刃渡り約六〇糎の日本刀一
振(昭和三四年押第五九号)を携えて前記医院前に到り、殺意を以て同所に上向き
に倒れていたCの左右腹部、右前腕部、前胸部を右日本刀を以て突き刺し、同人に
対し背面に達する上腹部刺創二箇、前胸部切創、右前腕部刺創各一箇を負わしめた
が、右Cが被告人Bによつて加えられた前記銃創により、その寸前死亡していたた
め殺害の目的を逐げなかつた
 と改め、その証拠として新たに
 一、 鑑定人E作成の鑑定書
 を附加し、原判示第三ノ(二)の事実並びに之を認定するにつき引用している各
証拠を削除する外原判決の当該摘示と同一であるからここにこれを引用する。
 法律に照すに被告Bの所為中第一の点は刑法第一九九条に、第二の点は銃砲刀剣
類等所持取締法第三条第一項第三一条に各該当するので、所定刑中いづれも有期懲
役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文第一
〇条により重い殺人罪の刑に同法第四七条但書の制限に従い加重をした刑期範囲内
で同被告人を懲役一五年に処し同法第二一条に則り原審未決勾留日数中一二〇日を
右本刑に算入すべきものとする。
 被告人Aの所為中第一の点は刑法第一九九条第二〇三条に、第三の(一)の点は
銃砲刀剣類等所打持締法第三条第一項第三一条に、第四の(一)、(二)の点はい
づれも道路交通法附則第一四条道路交通取締法第七条第一項、第二項第二号、第九
条第一項、第二八条第一号に、第五の点は刑法第二六一条に各該当するところ、右
はいづれも原判示確定裁判を受けた罪と同法第四五条後段の併合罪であるから同法
第五〇条により未だ裁判を経ない右各罪につき処断することとし、いづれも所定刑
中有期懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条
第一〇条により重い殺人未遂罪の刑に同法第一四条第四七条本文並びに但書に従い
加重した刑期範囲内において同被告人を懲役三年に処し、原審における未決勾留日
数の一部刑期算入につき刑法第二一条、没収につき同法第一九条第一項第二号第二
項本文、原審並びに当審における訴訟費用の負担免除につき刑事訴訟法第一八一条
第一項但書を夫々適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 村木友市 判事 渡辺雄 判事 幸田輝治)

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