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裁判例


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平成30年4月18日判決言渡
平成29年(行コ)第218号一時金申請却下処分取消請求控訴事件(原審・大
阪地方裁判所平成27年(行ウ)第311号)
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が平成27年3月24日付けで控訴人に対してした中国残留邦人
等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した中国残留邦人等及び特定配偶者の自
立の支援に関する法律13条3項に基づく一時金の支給申請却下処分を取り消
す。
第2事案の概要
1本件の事案の要旨は,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」柱
書きのとおりであるから,これを引用する。
原審は,控訴人の請求を棄却する旨の判決をしたところ,控訴人が,これを
不服として,前記第1の判決を求めて控訴した。
2関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次の3
で当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」
中の「第2事案の概要」1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用
する。ただし,原判決5頁20行目の「朝鮮人男性」を「朝鮮族の中国人男性」
と改める。
3当審における当事者の補充主張
⑴控訴人の主張
ア控訴人は,中国残留邦人等に該当する。
控訴人のように母親が日本人の非嫡出子である場合は出生時に日本国籍
を取得しており,母親とともに本邦に帰国する可能性は決して低くはない
から,母子ともに本邦へ帰国する権利を有し,国はそれを保護する義務を
負っていた。控訴人の母親であるP1は本邦に帰国しており,控訴人が帰
国できなかったのは,P1が控訴人を養育できず,仕方なく中国人の養父
母に預けざるを得なかったからであり,このような混乱がなければ,控訴
人もP1とともに本邦に帰国していた可能性が高い。
法や規則は,「準ずる者」を中国残留邦人等に含めており,控訴人のよ
うに,母親が日本人で,非嫡出子として出生し,日本国籍を取得した者を
明確に中国残留邦人等から排除しているわけではない。
中国人養父母に預けられて孤児となり,中国では日本人の子として攻撃,
差別され,実親を捜し求めてこの上ない苦労をした控訴人のような者こそ,
法が意図する救済を最も必要としていることは明らかであり,法13条に
いう中国残留邦人等に準ずる者として,一時金の支給対象となると考える
べきである。
イ仮に,法や規則が控訴人を支援の対象にすることはできないという場合,
同じ日本国籍を有し,本邦に帰国する権利を有し,国がそれを保護する義
務を負う者の間で,両親が日本人の場合は保護が与えられ,母親だけが日
本人の場合は保護が与えられないことになり,帰国の権利の点で重大な差
別的取り扱いが生じることになるが,このような立法は法の下の平等を定
めた憲法14条に反するものである。
(2)被控訴人の主張
ア法13条1項の「(同日後に生まれた者であって同日以前に生まれた永
住帰国した中国残留邦人等に準ずる事情にあるものとして厚生労働省令で
定める者を含む。)」という部分は,みなし被保険者期間の特例措置の対
象となる永住帰国した中国残留邦人等について,その出生時期の要件に関
しての例外を定めたものであり,中国残留邦人等に該当しない者をみなし
被保険者期間の特例措置の対象とする旨を定めたものではない。
一時金の支給を受けることができる法13条3項の「特定中国残留邦人
等」は,同条2項において,「前項に規定する永住帰国した中国残留邦人
等(六十歳以上の者に限る。)であって昭和三十六年四月一日以後に初め
て永住帰国したもの」と定義されており,同条1項は,「永住帰国した中
国残留法人等」について,「明治四十四年四月二日以後に生まれた者であ
って,永住帰国した日から引き続き一年以上本邦に住所を有するものに限
る。」と規定している。このように,法13条3項は,法2条1項の「中
国残留法人等」に当たらない者を支給対象者に含める趣旨の規定でないこ
とが明らかである。
イ憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性
質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱を禁
止する趣旨のものであると解すべきことは,最高裁判所の判例とするとこ
ろである。
第二次世界大戦に起因して生じた混乱等により本邦に引き揚げることが
できず,引き続き本邦以外の地域に居住することを余儀なくされた者の帰
国を実現し,帰国後の自立を支援するにあたっては,講ずべき施策の内容
は一義的に定まるものではなく多様な選択が可能であり,また,施策の内
容によっては,外国政府の協力を得るために外交交渉等を必要とする事態
も考えられるのであるから,支援対象者や支援内容を法律においてどのよ
うに定めるかの判断は,その時々の国際情勢や国内情勢下における各種課
題,財政状況等を踏まえた総合的な政策判断として行われるべきものであ
り,立法府の広範な裁量に委ねられているというべきである。
親子関係を有する父母のいずれかが日本国民でないか又は本邦に本籍を
有していない場合,そのような父又は母は,本邦に引き揚げることなく現
地にとどまる可能性が少なくなく,その親とともに子も現地にとどまる可
能性が少なくないといえることから,そのような子は,ソ連軍侵攻による
混乱等がなければ本邦に引き揚げ,又は両親引き揚げ後の本邦で出生する
可能性が高かったとは必ずしもいえない。
そうすると,子と親子関係を有する父母のいずれかが日本国民ではない
か又は本邦に本籍を有しない場合については,父母のいずれもが日本国民
であり,かつ,本邦に本籍を有する場合と比べて,法による支援の対象と
する必要性が小さいといえるから,第二次世界大戦に起因して生じた混乱
等により本邦に引き揚げることができず,引き続き本邦以外の地域に居住
することを余儀なくされた者の円滑な帰国を促進し,同人らの帰国後の自
立を支援するという法の立法目的(法1条)に照らして,前者を支援の対
象としないことが不合理であるとはいえず,立法府に与えられた広範な裁
量権を考慮すれば,このような区別的取扱は合理的根拠を有するものであ
り,憲法14条1項に違反するものではないというべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がなく,これを棄却すべきであると判
断する。その理由は,次の2で当審における控訴人の補充主張について必要な
判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」
1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決15
頁4行目の「朝鮮人」を「朝鮮族の中国人」と改める。
2当審における控訴人の補充主張について
⑴控訴人は,前記第2,3(1)アのとおり,第二次世界大戦終結時の混乱が
なければ,P1とともに本邦に帰国していた可能性が高く,中国残留邦人等
に準ずる者として一時金の支給対象とすべきである旨主張する。
しかしながら,控訴人の父親が朝鮮族の中国人であったことも併せて考え
ると,当時敗戦国となった本邦に帰国した可能性が高いということはできず,
前記第3,1で原判決を補正の上引用して説示したとおり,控訴人が中国残
留邦人等に準ずる者として,一時金の支給対象とはならないから,控訴人の
上記主張は採用できない。
⑵また,控訴人は,前記第2,3(1)イのとおり,両親が日本人の場合は保
護が与えられ,母親だけが日本人の場合は保護が与えられないことになるよ
うな立法は憲法14条1項に反する旨主張する。
しかしながら,前記第3,1において原判決を補正の上引用して説示した
とおり,法が目的とする第二次世界大戦に起因して生じた混乱等により本邦
に引き揚げることができず,引き続き本邦以外の地域に居住することを余儀
なくされた者の帰国の実現と帰国後の自立支援(法1条)を行うためにいか
なる制度を設けるかは,つとに立法政策の問題であり,立法府の裁量に委ね
られているというべきところ,両親が日本人の場合と父母のいずれかが日本
人の場合を比較すると,本邦への引き揚げの可能性又は両親が引き揚げた後
に本邦で出生する可能性の程度に違いがあり,父母のいずれかが日本国民で
ないか又は本邦に本籍を有していない場合,そのような父又は母は,本邦に
引き揚げることなく現地にとどまる可能性が少なくなく,その親とともに子
も現地にとどまる可能性が少なくないということができ,そのような子は,
ソ連軍侵攻による混乱等がなければ本邦に引き揚げ,又は両親引き揚げ後の
本邦で出生する可能性が高かったとは必ずしもいえないと考えられる。そう
すると,法2条1項及び規則1条において,その両親が日本国民として本邦
に本籍を有していた者であることを要するとしていることは,事柄の性質に
応じた合理的な根拠に基づくものであるといえ,不合理な差別がされている
とはいえないし,他に法及び規則の上記規定が憲法14条1項に違反すると
解すべき事情も見当たらないから,控訴人の上記主張も失当である。
3以上によると,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却するこ
ととして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第10民事部
裁判長裁判官河合裕行
裁判官濱谷由紀
裁判官植田智彦

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