弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一〇月に処する。
     本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     第一審における訴訟費用中第一審相被告人Bの国選弁護人に支給した部
分を除き証人Cに支給した部分は相被告人Dとの連帯負担とし、その余は全部被告
人Aの負担とする。
     被告人Dの本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高橋銀治の上告趣右第一点について。
 公職選挙法二五二条の処遇は決して法律に定める手続によらないで科せられるも
のではないから、同条の規定は憲法三一条に違反するとの主張は、その前提を欠く
こととなり、論旨は採用できない。(昭和二九年(あ)第二二八一号同三〇年七月
二二日第二小法廷判決、昭和三〇年(あ)第一六九九号同年一一月二二日第三小法
廷判決参照)
 同第二点及び第三点について。
 所論は事実誤認、単なる法令違反及び量刑不当の主張であつて、適法な上告理由
に当らない。
 同第五点について。
 所論は、本件は判決後に刑の変更があつたものであるから、破棄して新法による
べきてある、というのであつて、適法な上告理由とならない。(本件の場合、第一
審判決後においても行為時法によるべきものであることは、昭和三七年五月一〇日
法律一一二号公職選挙法等の一部を改正する法律附則三条に照らして、明らかであ
る。)
 職権をもつて調査するに、公職選挙法二二一条三項にいう「公職の候補者」には、
未だ正式に立候補の届出のない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含し
ないものと解すべきところ(昭和三四年(あ)第一一九〇号同三五年二月二三日第
三小法廷判決・集一四巻二号一七〇頁参照)、被告人Aについてこれを見れば、原
判決の支持した第一審判決は、判示第二の一の(1)において、立候補の正式届出
前における選挙人に対する金員供与の事実を認定しながら、この所為に対し、同条
三項一項一号を適用し、これにつき併合罪の加重をなし処断している。従つて右第
一審判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右誤りを看過した原判決も違法
であるに帰する。即ち、刑訴四一一条一号にいう判決に影響を及ぼすべき法令の違
反があつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるから被告
人Aについては、同四一三条但書、四一四条、四〇四条により更に判決する。
 第一審の確定した事実につき法令を適用すると、被告人Aの判示第一の所為中、
戸別訪問の点は公職選挙法一三八条一項、二三九条三号に、事前運動の点は同一二
九条二三九条一号に、判示第二の一の(1)の所為中金銭供与の点は同二二一条一
項一号刑法六〇条に、事前運動の点は公職選挙法一二九条二三九条一号刑法六〇条
に、同(2)の点は公職選挙法二二一条一項三号三項刑法六〇条に夫々該当するが、
右戸別訪問と事前運動及び金銭供与と事前運動とは、いずれも一所為数法の関係に
あるので、刑法五四条一項前段一〇条により各重い前者の罪の刑に従い処断するこ
ととし、判示第一の罪については禁錮刑を第二の罪については各懲役刑を選択し、
以上は同四五条前段の併合罪であるから、同四七条本文一〇条九条により、結局最
も重い判示第二の一(2)の罪の刑に法定の加重をなした刑期の範囲内で同被告人
を懲役一〇月に処し、情状刑の執行を猶予するのが相当であると認め、同二五条一
項に則り本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑訴一八一条
一項本文一八二条を適用して主文掲記のとおり被告人にこれを負担させることとす
る。
 被告人Dについては、記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認めら
れないから、同四一四条三九六条により本件上告を棄却することとする。
 よつて、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 井本台吉出席
  昭和三七年九月一四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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