弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人松川昌蔵、同山田欽治の上告趣意第一点について。
 論旨は「本件は頗る疑問の案件」で被告人の筆跡である証九号の一第一五号、第
一六号と証第一号供出手帳の第三段第四段の筆跡が同一であることの確証がなけれ
ば判示犯罪の成立を認め得ない旨主張し、その事由を第一上告趣意書記載第一点(
甲)乃至(申)及び第二上書趣意書記載のとおり縷述するのである。しかし、原審
の認定した判示犯行事実は、その挙示する証拠を綜合するとこれを肯認するに難く
ないのである。所論被告人の供述で原審が事実認定の資料としたのは被告人に対す
る強制処分における判事の訊問調書及び予審第一回の訊問調書中の各供述記載だけ
であつて警察署及び検事局における被告人の自白は事実認定の資料とされてはいな
い。そしてまた右証拠として引用された被告人の供述が強制によるものであること
を窺い得る証跡は記録上存在しないのであるから、論旨第一点(甲)及び(戍)の
所論は採るを得ない。また仮りに第一点(乙)所論のように被告人が一農夫兼炭焼
業者であり、印刻に実験なく、何等の予習もせずスケツチもなかつたとしても、必
ずしも判示の偽造をすることが不可能とはいい得ないからこの一事だけでは原判決
挙示の証拠を綜合して判示事実を認定することを妨げるものではない。次に鑑定人
Aの鑑定は同鑑定書(記録三五五丁以下参照)の記載によれば証第一号証の供出手
帳記載の文字と証第九号の一同第一五号、同第一六号記載の文字とにつきその筆勢
形態その使用インクの色彩等を対比考察した結果証第一号の第一段及び第二段の記
載文字と同第三段及び第四段記載の文字とは同一筆跡でなく右第三段及び第四段記
載の文字と証第九号の一同第一五号、第一六号記載の文字とは同一筆跡であると断
定しているのである。そして右鑑定では同一筆跡であると認めた各号証中に唯単に
同一筆跡の文字が発見されたと説明しただけで、その記載文字の一々につき如何な
る点において同一筆跡と認められたかを明らかにしていないことは所論のとおりで
あるが、右鑑定はその理由説明に徴し必ずしも実験則に背反したと認むべきかどな
く従つてこれを到底採用し得ない内容のものとはいい得ないのである。しかも原審
は右鑑定の結果のみで判示犯行を認定したものではなく、その挙示する他の証拠と
相俟つて綜合認定しているのでありその事実認定が当裁判所も亦肯認し得るもので
あることは前説示のとおりであるから、原審が該鑑定を以て足れりとし、所論弁護
人の再鑑定の申請を却下したからとてこれを目して違法ということはできない。第
一上告趣意書第一点末段及び第二上告趣意書記載の所論は畢竟事実審の裁量に属す
る証拠調の限度の裁定若しくは証拠の取捨判断を非難するに帰着し上告適法の理由
とならない。その他証人Bの供述の真実でないこと及び不在証明等に関する所論(
第一点(丙)(丁)(庚)(申)及び第二上告趣意書末段記載の所論)は、結局原
審が認定していない事実またわ原審の採用しなかつたと認められる証拠にもとずき
原判旨に副わない事実を想定しこれを前提として原審の事実認定を非難するに帰し
上告適法の理由とならない。されば論旨はすべて採用に値しない。
 同第二点について。
 原審は前説示のとおり昭和二一年一月三〇日被告人がその居村で判示犯行をなし
たことを証拠により適法に認定しているのである。従つて被告人が同日気仙沼町に
居り居村に居なかつたとの主張及び証拠は原審の採用しなかつたものであることは
自ら明白である。そして証拠の取捨判断は事実審たる原審の裁量に委ねられている
ところであるから、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由なきものであ
る。
 同第三点について。
 所論証人Cに対する予審訊問調書中の同人の供述記載を事実認定の資料としてい
ることは所論のとおりである。しかし、右証人の供述は、被告人がBから判示第一
の犯行により買受けた米の一部をCに売却したとの点において、原審が同じく事実
認定の資料としている被告人に対する予審第一回訊問調書中の同人の供述記載と表
裏相応ずるので、原審は右証人の供述を本件犯行を認むべき間接証拠として援用し
たものと認められる。原判決には何等の違法もない。所論は被告人がBから買取つ
た米は三等米で「ササクレ」があるとの原審の認定していない事実を前提として証
人Cがその買受けた米に「ササクレ」があつたと供述しない限り同人の供述は本件
犯行を認定する資料となし得ない旨主張するのであるが畢竟事実審の裁量に属する
証拠の取捨判断を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。
 弁護人庄子勇の上告趣意第一、二点及び被告本人の上告趣意第三点について。
 原審第二回公判調書の記載(記録九七〇丁裏面)によると同公判において裁判長
は押収品全部を示してその都度被告人に対し意見弁解の有無を尋ねかつ利益な証拠
があれば提出することができる旨を告げ、それに対し被告人及び弁護人山田欽治同
松川昌蔵の両名はいずれも無い旨答えたことが認められる。されば所論証第三号の
インクは当時実在し右公判に提出されて適法に証拠調が行われ被告人及び弁護人に
おいても何等異議のなかつたものと見るの外なく、原審が右インクを事実認定の資
料としたからとて原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。また証第二号
の朱肉について論旨は捜査官憲により作為を加えられた旨云々するのであるが原審
は証第一九号の朱肉は事実認定の資料としたが所論第二号証の朱肉は証拠として引
用してはいない。それ故この点に関する所論は原判決には何等の関係なく上告理由
となすに足りない。
 同弁護人上告趣意第三点について。
 所論の朱肉(証第二号)は原審が証拠として事実認定の資料に供していないこと
は前段説示したとおりである。また証第三号のインクは原判決において証拠として
引用されていることは所論のとおりであるが右はDが任意提出したるにより司法警
察官警部代理巡査部長Eにおいてこれを領置したものであることが記録上明らかで
ある。(記録第一四丁及び一五丁参照)。されば原判決には所論のような違法があ
るとはいえない。論旨は理由なきものである。
 同第四点及び被告人本人の上告趣意第一点について。
 原審が被告人に対する強制処分における判事の訊問調書及び予審第一回訊問調書
中の同人の各供述を(記録第九七丁九八丁及び同第二四四丁乃至第二五四丁参照)
証拠として引用していることは所論のとおりである。しかし右被告人の供述が強制
による自白であることを認むべき証跡が記録上存在しないことは、弁護人松川昌蔵
同山田欽治の上告趣意第一点に対して説明したとおりであるから、本論旨も採るを
得ない。
 弁護人庄子勇の上告趣意第五点及び被告本人の上告趣意第二点について。
 所論証人Bに対する原審受命判事の訊問調書中の同人の供述記載を原審が証拠と
して引用していることは所論のとおりであるが、右供述が判事の誘導訊問の結果で
あることを肯定すべき証左はない。また右証人の供述は偽証であると主張するけれ
ども所論は原審の採用しなかつたと認められる証拠にもとずき、該証言の真実に反
する所以を縷述するものであり畢竟事実審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難す
るに帰着し、採用に値しない。
 同弁護人上告趣意第六点について。
 所論鑑定資料とせられた証第九号及び第一六号はD方において同Fが任意提出し
たので検事那賀島三郎において領置したものであることが記録上明らかである(記
録第一四一丁Fの提出書及び同第一四二丁検事那賀島三郎の領置書参照)。されば
右証第九号等が「基本人権を蹂躪して蒐集されたもの」であることを前提とする所
論は採るを得ない。
 また、所論Aの鑑定がその内容において実験則に背反するものでないことは弁護
人松川昌蔵同山田欽治の上告趣意第一点に対する説明において判示したとおりであ
る。それ故論旨は理由なきものである。
 同第七点について。
 記録によれば原審において検事は第一審判決摘示の犯罪事実(判示第一の食糧管
理法違反の罪及び同第二の公文書偽造及び偽造公文書行使教唆の罪)についてのみ
審判を求めているのであり所論の公私文書変造の事実については審判を求めてはい
ない(記録第七二五丁表第九六九丁裏参照)。従つて原審が右請求にかかる公訴事
実のみにつき審判したの正当であるばかりでなく、所論は被告人に対し更に多くの
罪を犯したものとして処罰さるべきことを求めるものであり被告人のため不利益な
主張に帰着する。論旨は採るを得ない。
 同第八点について。
 所論Bに対する原審受命判事の訊問には被告人及び弁護人山田欽治同松川昌蔵立
会の下に行われたものであり(記録八七一丁表参照)、しかも右訊問調書について
は原審第二回公判で裁判長において、その要旨を告げ被告人に対しこれが意見弁解
の有無を尋ね利益な証拠を提出し得る旨を告げたところ、被告人及び弁護人はいず
れも無い旨答えているのであり(記録九七〇丁表以下参照)しかも被告人側から右
証人を公判で訊問することを請求した形跡は存在しない。されば原審が右証人訊問
調書中の供述記載を事実認定の資料としたからとてこれを違法ということはできな
い。論旨は採るを得ない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 福尾彌太郎関与
  昭和二七年一二月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
 裁判官沢田竹治郎は退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛