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平成23年4月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第11566号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月17日
判決
東京都新宿区<以下略>
原告日本リージャス株式会社
同訴訟代理人弁護士高松薫
同泉潤子
同金子典正
同訴訟復代理人弁護士角田邦洋
東京都新宿区<以下略>
被告サーブコープジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士武藤佳昭
同井上朗
同小松正道
同長橋宏明
主文
1被告は,原告の顧客又は原告の潜在的顧客に対し,次の告知及び流布をし
てはならない。
(1)「Regusは自社の革新を追求する努力を怠り,弊社クライアント
を継続的,また頻繁に悪質な方法で誘致してきました」との内容の告知及
び流布
(2)「Regusは,昨今の経済低迷期に200を超える拠点を閉鎖,会
社更生法を申請したため,10,000以上ものクライアントがオフィス
退去や住所利用停止を余儀なくされました」との内容の告知及び流布
2被告は,別紙目録1記載の通知文書のうち,前項の内容の記載を抹消せよ。
3被告は,原告に対し,349万5608円及びうち230万円に対する平
成21年5月1日から,うち119万5608円に対する平成22年10月
14日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とす
る。
6この判決は,1項ないし3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告の顧客又は原告の潜在的顧客に対し,次の告知及び流布をして
はならない。
(1)主文第1項(1)と同じ。
(2)「しかしながら実際Regus入居後に全ての追加料金を加算すると,
サービスの質は弊社より大きく劣るにも拘らず,合計金額は割高となるのが
現実です」との内容の告知
(3)主文第1項(2)と同じ
2被告は,別紙目録1記載の通知文書を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3084万3608円及びうち1200万円に対する
平成21年5月1日から,うち1884万3608円に対する平成22年10
月14日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告の営業上の信用を回復する措置として,読売新聞朝刊全国版の
社会面広告欄及び被告が管理する被告ホームページに,別紙目録2記載の謝罪
広告を同目録記載の条件で,それぞれ1回掲載せよ。
5仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,貸事務所及び貸会議室の提供等を業とする原告が,競争関係にある
被告に対し,被告が,平成21年2月20日ころから3月6日までの間,原告
の顧客に対し,上記第1,請求,1項(1)∼(3)の内容を記載した別紙目録1記
載の通知を送付した行為が,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知
(不正競争防止法2条1項14号)に該当すると主張して,当該事実の告知,
流布の差止(同法3条1項),及び,上記通知文書の廃棄(同条2項)を求め
るとともに,損害賠償請求(同法4条)として,3084万3608円(①信
用毀損による損害1000万円,②人件費119万5608円,③逸失利益1
764万8000円,④弁護士費用200万円)及びうち①,④の合計120
0万円に対する訴状送達日の翌日である平成21年5月1日から,うち②,③
の合計1884万3608円に対する訴え変更の申立書の送達日の翌日である
平成22年10月14日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払,並びに,信用回復の措置(同法14条)として,別紙目録
2記載の謝罪広告の掲載を求める事案である。
2前提となる事実(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載する(た
だし,書証は枝番を含む。))
(1)当事者
ア原告は,東京都新宿区に本店を有する,貸事務所及び貸会議室の経営等
を業とする株式会社である。
イ被告は,東京都新宿区に本店を有する,備品付事務所の賃貸及び秘書業
務処理の請負等を業とする株式会社である。
ウ原告と被告は,いずれも,いわゆるレンタルオフィス業,すなわち,秘
書業務処理等のサービス付き貸事務所の提供を業とし,営業活動上,提供
する役務及び顧客を共通にしており,競争関係にある(弁論の全趣旨)。
(2)経緯(甲3,乙3∼5,7,48)
ア被告は,平成21年1月初旬,被告の顧客に対し,東京都港区所在の被
告の虎ノ門JTビルのオフィスを同年2月に閉鎖する旨の通知をした(乙
48)。
イ原告は,平成21年1月22日,東京都港区所在の被告の城山オフィス
に入居している顧客に対し,次のとおり,19通のダイレクトメール(以
下「原告DM」という。)を送付した(甲3,乙5)。
(ア)原告DMの封筒は,いずれも異なる形式・色・サイズのものであり,
表書きには,差出人(原告)を特定するための情報は,記載されていな
い。
(イ)原告DMには,「リージャスオフィスに移転をしませんか?」,
「経済状況が日々変わり,不動産物件の価格が下がる中,オフィス検索
をする際に様々な選択肢があるかと思います」,「現在借りているオフ
ィスの賃貸借契約書をお持ち頂ければ同じ価格,もしくは更にお安くオ
フィスをご提供いたします」,「今日の経済状況に関わらず今後ともど
のセンターも閉める予定はございませんので安心してご入居頂けます」
等の記載がある。
ウ原告担当者(A)は,被告の顧客であるBに対し,「S社にご入居後に
リージャスに移転されたお客様よりは,入居後様々な説明の無いコストが
かかり基本賃料以外に20−30万円程かかっていたとお話を聞いており
ます。」とのメール(乙7)を送信したことがあった。
エ(ア)被告(エリア責任者は,Cである。)は,原告(エリア責任者は,
Dである。)に対し,平成21年1月29日付け電子メール(乙3)に
より,原告DMについて抗議するとともに,二度と被告の顧客に直接接
触しない旨,書面で約束しない限り,被告も原告の顧客に対して接触す
る用意がある旨を通知した(乙3)。
(イ)原告は,原告DMは,東京都港区内の全域に対して送付している旨,
弁解したが,被告は,原告の弁解が虚偽であり,原告DMは,城山オフ
ィスの被告の顧客を標的にして送付されたものと判断した(乙4)。
(3)被告による通知の送付(甲1)
ア被告は,原告の顧客29社に対し,平成21年2月20日ころから同年
3月6日までの間,以下の内容を含む別紙目録1記載の通知(以下「本件
通知」という。甲1)を送付した。
(ア)「Regusは自社の革新を追求する努力を怠り,弊社クライアン
トを継続的,また頻繁に悪質な方法で誘致してきました」(以下「指摘
事項①」という。)
(イ)「しかしながら実際Regus入居後に全ての追加料金を加算する
と,サービスの質は弊社より大きく劣るにも拘らず,合計金額は割高と
なるのが現実です」(以下「指摘事項②」という。)
(ウ)「Regusは,昨今の経済低迷期に200を超える拠点を閉鎖,
会社更生法を申請したため,10,000以上ものクライアントがオフ
ィス退去や住所利用停止を余儀なくされました」(以下「指摘事項③」
という。)
イ本件通知では,上記の記載に続いて,次のとおりの記載がされ,差出人
として「Cサーブコープジャパン株式会社ゼネラルマネージャー」との
記載がある。
(ア)国内(東京,大阪,名古屋の18拠点)にて,より快適なオフィス
を,より魅力的な価格にてご提供致します。
(イ)現在の賃貸借契約書をお持ちください。賃貸料金を半分に致します。
(ウ)サブコープへのご移転後は,以下のサービスをご利用下さい。
●賃貸料金50%オフ(Regusとの契約書をお持ち下さい。初期
6ケ月間は半額に,その後6ケ月間は賃料値上げ率を20%以内に抑
えます。)
●¥100,000クレジットバック会社案内など印刷費用などに
ご活用下さい。
●最高級オフィス設備世界最高水準のオフィス内装と輸入家具
●高速インターネット回線4−10Mbの専用無制限インターネッ
ト回線(Regusnetが提供する2Mb共有型制限回線とが大き
く異なります。)
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のお電話からDial*1で簡単アクセスできます。
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(エ)この特別割引は6ケ月間有効です。ご利用規約が適応されます。
(4)その後の経緯(甲5)
ア原告は,被告に対し,平成21年3月10日到達の書面(甲5)により,
本件通知の送付行為を停止することを求めたが,回答はなかった。
イ原告は,当裁判所に対し,平成21年4月8日,本件訴訟を提起した。
(5)関連する事実(乙10∼12,15)
アリージャス米国法人等の米国連邦倒産法第11章(チャプターイレブ
ン)の申立て
RegusBusinessCentreCorp.(米国法
人),RegusPLC(英国法人)及びRegusBusines
sCentreB.V.(蘭国法人)は,平成15年1月14日,米
国連邦破産裁判所に対し,米国連邦倒産法第11章(チャプターイレブ
ン)の申立てをしたことがあった(乙15)。
イリージャス利用者のブログ
(ア)リージャスの英国の利用者は,平成20年9月18日付けブログに
おいて,「私の職場のインターネットは回線が10Mbitで,0.5
Mbitの接続速度を保証という話でしたが,いまや0.5Mbitが
「上限」に抑制されてしまいました」,「リージャス…の10Mbit
回線,月々のコストはなんと3,000ポンド超です!」(乙10)と
記載している。
(イ)リージャスの米国の利用者は,平成20年12月18日付けブログ
において,「リージャスはがめつい会社だ−見えない料金がたくさんあ
る」,「ファックス受信に1ページ当たり1ドル…電話代などなどで月
に従業員1人当たり数百ドルにもなる」(乙11)と記載している。
(ウ)リージャスの複数の利用者は,「バーチャル事業継続費用800ド
ルも請求されました」(tom.hundley),「1000ドルの
事業継続料金が私に請求されている…ことを教えてくれました。」(S
Kim),「別の請求書がとどきました。『事業継続』料金の名目で,
郵便料金と消耗品の請求書が送られてきたのです。」(不運な顧客),
「最後の請求書が届いたら,支払いに同意したことのない料金が記載さ
れていた。…『事業継続』料金なるものだった。」(失望したクライア
ント)等と記載している(乙12)。ただし,他方,「金を払わずに手
に入るものなどありません。…リージャスHQは詐欺ではありません。
無料ではないだけです!権利があると主張する人々には驚かされます。
ただ乗りさせてもらえると思っているなら,自分でオフィスを手に入れ
て,自分で雑事をこなしなさい!(本物の弁護士)」との投稿も存在す
る。
(6)原告の顧客の対応(甲23∼30)
アシンガポール・エクスチェンジ・リミテッド
(ア)原告は,シンガポール・エクスチェンジ・リミテッド(以下「シン
ガポール・エクスチェンジ社」という。)との間で,平成19年10月
2日付けで,オフィス番号15について,賃料を月額60万8000円,
期間を同年11月15日から平成20年11月30日までとするビジネ
スセンターサービス契約を締結した(甲23)。同契約は,平成20年
8月29日付けで1年間更新され,契約期間は平成21年11月30日
までとなった(甲24)。
(イ)シンガポール・エクスチェンジ社は,平成21年8月27日,原告
に対し,上記契約を更新しない旨を通知した(甲25)。
イトラベルズー株式会社
(ア)原告は,トラベルズー株式会社(以下「トラベルズー社」とい
う。)との間で,平成19年7月20日付けで,(a)オフィス番号1
00について,賃料を月額52万7514円,期間を同年9月1日から
平成21年8月31日まで,(b)オフィス番号99について,賃料を
月額52万7514円,期間を平成19年10月1日から平成21年9
月30日まで,(c)オフィス番号103について,賃料を月額47万
6832円,期間を平成19年12月1日から平成21年11月30日
までとするビジネスセンターグローバル契約を締結した(甲26∼2
8)。
(イ)原告は,トラベルズー社との間で,平成19年7月23日付けで,
オフィス番号98及び101について,賃料を月額39万0278円
(番号98について月額18万8615円,番号101について月額2
0万1663円),期間を同年11月1日から平成21年10月31日
とするビジネスセンターグローバル契約(甲29)を締結した。
(ウ)原告は,トラベルズー社との間で,(ア),(イ)の契約を1つの契約
に集約するとともに,オフィスを変更することとし,平成20年3月6
日付けで,オフィス番号91∼93について,賃料を月額合計280万
円,期間を同年5月1日から平成22年4月30日までとするビジネス
センターグローバル契約(甲30)を締結した。
(エ)トラベルズー社は,原告との間で,平成21年2月27日,原告と
の上記契約を同年6月30日限りで中途解約することとし,別途,米国
カリフォルニア州所在のリージャスグループの拠点のオフィスを賃借す
ることにより賃料残債務の清算を行うこととした(甲31)。
3争点
(1)不正競争行為の成否(不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告
知,流布に当たるか)
(1)−1指摘事項①について
(1)−2指摘事項②について
(1)−3指摘事項③について
(2)違法性阻却事由の有無
(3)差止請求の可否
(4)故意・過失の有無
(5)損害
(6)信用回復の措置
4争点に関する当事者の主張
(1)不正競争行為の成否
(1)−1指摘事項①について
(原告)
ア指摘事項①の「弊社クライアント」を,「悪質な方法で誘致してきまし
た」との記載は,いずれも虚偽の事実である。多くの裁判例は,価値判断
の要素を含む表現であっても,事実に関する表明であると認定し,事実の
意義を広く解している。
イ「虚偽性」(不正競争防止法2条1項14号)の判断に当たっては,そ
の事実の告知を受けた受け手が,真実に反する誤解をするかどうかによっ
て決すべきであり,具体的には,受け手がどのような者であって,どの程
度の予備知識を有していたか,当該陳述ないし掲載がどのような状況で行
われたか等の点を踏まえつつ,当該受け手の普通の注意と聴き方ないし読
み方を基準として判断されるべきであるところ(東京高裁平成14年6月
26日判決,判例時報1792号115頁),指摘事項①の文言は,これ
に接した顧客において,「原告が,社会通念上相当とされる範囲を逸脱し
た,不正な顧客奪取行為を反復継続して実施している」との真実と反する
誤解を与えるから,「虚偽の事実」に該当する。
ウ指摘事項①の「自社の革新を追求する努力を怠り」は虚偽である。
(ア)レンタルオフィスの契約期間は,短期間となる傾向があり,業界内
においては,新規顧客の獲得・既存顧客の確保に向けた熾烈な競争が繰
り返されており,自社の顧客サービス向上を行わない企業は存在しない。
原告は,サービス内容及び価格に対する営業努力によって顧客を誘引する
「通常の営業活動」を実施しており,原告のホームページ(甲2)では,
顧客に対し,価格(敷金・礼金共益費不要),サービス内容(ICカー
ドで24時間アクセス可能)等を提示することによる営業活動を継続的に
行っていることが,原告の広告(甲3)では,既存の顧客に対し,時期に
応じて,価格やサービス内容に関する特別プロモーションを実施している
ことが示されている。
(イ)原告は,平成20年から,顧客が海外出張先でも即時にオフィスを利
用できるよう,原告を含むリージャスグループのメンバーシップに加入・
登録することにより,世界75か国,450都市,1000か所にあるビ
ジネスセンターのどこでも,プライベートオフィス,ビジネスラウンジ,
ビジネスカフェを自由に利用できるとする新規サービス「ビジネスワール
ド」を導入しており,会員数は,リージャスグループで合計20万人を超
えている。また,原告は,平成17年から,キャンパス型レンタルオフィ
スという机単位のレンタルにも対応するサービスを導入するなど,随時,
サービス内容を見直し,顧客満足度を高める努力を行っている。したがっ
て,原告は,自社の顧客サービスを向上させている。
エ指摘事項①の「(被告の)顧客を継続的,また頻繁に悪質な方法で誘致
してきました。」は虚偽である。
(ア)原告の行っている営業活動は,通常の営業活動であり,本件通知が,
平成21年2月24日付けで作成されていることからすると,被告が
「継続的,また頻繁に」の根拠とする,同年「1月以降行ってきた様々
な」営業活動をもって「継続的」とはいえない。
(イ)原告DMは,潜在的顧客に対する営業活動として,通常の範囲を超
えるものではない。
①原告DMは,原告が同時期に他の東京都港区内のビジネスオフィス
(甲6の1,2,甲7。泉ガーデン,赤坂ツィンタワー等)に送付し
た原告の一般的なDMの一部にすぎない。
②原告DMの形式は,表書きを付加しないことを含め,一見していか
にもDMであると分かるような形式を敢えて取らないことは,顧客の
開封率を高めるために原告が有益と考えた形式であり,一般的に行わ
れていることである(甲8)。封筒の形式が多種多様であることは,
1通しか受け取らない顧客には認識されることはない。
③原告DMの内容は,潜在的顧客に対し,一般的に原告のレンタルオ
フィスの選択肢を提示したにすぎない。また,今日の経済不況の中で
原告が拠点を閉鎖する予定がないことを示すことも,原告との契約を
誘因するための通常の営業活動であって,ことさら被告の顧客に対し
て,被告の経営状況が芳しくないことを指摘したものというのは,事
実に反するだけでなく過剰反応である。他のレンタルオフィス業者と
契約している顧客に対し,自社への契約切替を誘導する行為は,自由
競争社会においては当然である。
(ウ)ルフトハンザに対する接触については,同社シンガポール法人に対
し,日本の原告担当者の名前を伝えたのは,同社のE氏であり,これを
受けて,同社シンガポール法人の担当者が,原告に電話会議を申し込ん
だものである(甲9)。E氏が,メール(乙6)において,原告の条件
提示を被告との契約内容の交渉材料としていることからすると,同メー
ルの「本当に困っています」とは,被告から有利な条件を引き出すため
の枕詞の意味しかない。
(エ)原告担当者(A)の被告の顧客Bに対するメール(乙7)は,原告
担当者が単に顧客から伝え聞いた情報を伝達したにすぎない。
(オ)プレイボーイ社に対する勧誘については,平成13年以降,原告が
同社に直接連絡したことはない(甲10)。同社担当者F氏のメール
(乙8)には,「担当者Fは大変な迷惑を被り,不愉快な思いをした」
との被告の主張を根拠付ける記載がない。
(被告)
ア原告の主張する事実は否認し,法的主張は争う。
イ原告は,指摘事項①に関して,客観的事実が何であるか指摘しなければ
ならないところ,具体的な主張立証をしていない。また,被告による本件
通知行為は,前提として行われた原告による悪質な顧客奪取行為に対する
防衛行為として行われたものである。
ウ主観的見解,批評又は抽象的推論のような単なる価値判断を告知しても
「事実」には該当しないところ,指摘事項①は,「追求する努力を怠り」,
「悪質」という証拠等による証明になじまない価値判断や評価を要素とす
る記述を含むから,「虚偽の事実」に該当しない。
エ仮に,指摘事項①が「事実」に該当するとしても,次のとおり,真実で
あり,仮に厳密には完全に客観的な真実と符合していなかったとしても,
読み手である原告の顧客が,リージャスの社会的信用の低下に通ずるよう
な誤解に陥るようなものとは認められないから,「他人の営業上の信用を
害する虚偽」の事実の告知に該当しない。
(ア)城山オフィスの入居者に対する原告DMの送付
原告は,平成21年1月22日,被告の城山オフィスの顧客に対し,
少なくとも19通の原告DMを送付した。その送付目的,内容,外観及
び送付方法に照らせば,当該顧客奪取行為は,「悪質」と評価される。
①送付目的と内容
a原告DMは,平成21年1月初旬,被告が虎ノ門JTビルの拠点
を閉鎖する旨を通知した直後の同月22日に一斉に送付されたこと,
原告DMが,東京都港区の城山オフィス及び虎ノ門JTビルオフィ
ス以外の4か所の被告の拠点のいずれにも届いておらず,同区のす
べてのビジネスオフィスに出した旨の原告の主張が虚偽であること
からすると,原告DMは,被告の顧客を標的にした疑いが強い。
b原告のDMには,「リージャスオフィスに移転をしませんか?」,
「現在借りているオフィスの賃貸借契約書をお持ち頂ければ同じ価
格,もしくは更にお安くオフィスをご提供致します。」,「本プロ
モーションは,2009年2月28日までに成約/入金が確認され
た契約のみ有効とさせていただきます。」との表現があり,明らか
に,数か月単位での,短期の賃貸借契約を基本とする他のレンタル
オフィス業者の顧客に対して向けられたメッセージである。
c原告DMには,「経済状況が日々変わり,不動産物件の価格が日々
さがる中,オフィス検索をする際に様々な選択肢があると思いま
す。」,「今日の経済状況に関わらず今後ともどのセンターも閉める
予定はございませんので安心してご入居頂けます」等と,ことさらに
今日の不況がレンタルオフィス業界に及ぼす影響に触れた表現がある
こと,被告が虎ノ門JTビルの拠点を閉鎖することは周知の事実にな
っていたこと,上記送付時期等を併せてみれば,暗に被告の経営状況
が芳しくないことを指摘し,被告の顧客を奪取する意図によるもので
ある。
②外観と送付方法
a原告DMが封入されていた封筒は,いずれも異なる形式,異なる
色,異なるサイズのものが使用されており,差出人が原告であるこ
とを特定するための情報が表書に一切ない。こうした文書は,ビジ
ネスマナーをわきまえない無礼なものである。
b原告DMの送付先リスト(甲7)には,被告の城山オフィスの顧
客のうち18社が含まれておらず,リスト通り送付したか疑わしい。
仮に,送付したとしても,城山オフィスビルへの原告DMは,消印
が1月27日,28日であり,それ以外のビルへの原告DMは,消
印が1月30日であり,同じサイズの普通の白い封筒であるなど,
原告DMと同じ内容の通知を同じタイミングで送付したとは推認で
きない(甲6)。城山オフィス以外のビルでは,同じ階に3,4通
しか送付されておらず,城山オフィスへの送付は,悪質な勧誘行為
である。
c社団法人日本ダイレクト・メール協会のHP上の記事(甲8)で
は,一般的な郵便物と差別化を図るために創意工夫することが推奨
されているにすぎない。同協会倫理綱領には「会員は,ダイレクト
・メールを実施するにあたって,発信人の住所,氏名を明らかにし,
受信人に不審の念を与えないものとする(5条)。」と規定してお
り(乙42),原告DMの送付方法は推奨されていない。
d郵便事業株式会社では,迷惑な郵便物の受取拒否の制度があるが,
利用する際には,対象郵便物が未開封であることを要するため,差
出人を確かめるために開封した時点で同手続を利用することができ
なくなり,また,開封せずに持参した場合でも,約3か月保管され
ることになり,迅速に受取拒否の意思を差出人に伝えることができ
ない。
③被告の属する国際オフィスビジネス協会の代表理事は,平成22年
9月1日,リージャスが,競合他社の拠点に居住する顧客に対して無
記名の封筒でDMを送りつける等の方法により顧客奪取を図っている
ことについて,遺憾な販売促進の方法であるという認識を示すと共に,
リージャスの上記行為に対する非難に同意するとの非難声明を行って
おり(乙64),原告の手法は,業界団体の代表理事の認識を前提と
しても,許容される範疇を逸脱している。
(イ)虎ノ門JTビルの元入居者に対する執拗な接触
原告は,虎ノ門JTビルに入居し,別の拠点に移転のため交渉中であ
った被告の顧客ルフトハンザ・システムズ株式会社に対し,日本の担当
者のみならず,シンガポール法人にまで接触を図るという顧客の都合を
顧みない不相当な方法で勧誘した。
(ウ)被告の顧客Bに対する電子メールでの中傷的表現を伴う勧誘
原告担当者(A)は,被告の顧客Bに対する電子メール(乙7)によ
り「S社にご入居後にリージャスに移転されたお客様よりは,入居後様
々な説明の無いコストがかかり基本賃料以外に20−30万円ほどかか
っていたとお話を聞いております。」等と,被告を明示的に名指しして
事実無根の悪評判を伝達しており,信用毀損行為に該当しうる悪質な顧
客奪取行為である。
(エ)被告の顧客プレイボーイ社に対する勧誘
原告は,被告の拠点である表参道のパラシオタワーの内線番号を入手
した上,平成21年2月上旬ころ,同オフィスに入居する被告の顧客プ
レイボーイ社に対し,直通電話に電話をかけ,被告の料金システムを批
判した上,自社であればより安い料金でオフィスを提供できると圧力を
かけるなど,顧客の都合を顧みない悪質な勧誘をしたため,プレイボー
イ社の担当者F氏は大変な迷惑を被り,不快な思いをした(乙8,9)。
(オ)悪質な顧客誘致の継続頻繁性及び技術的革新に対する怠惰
原告は,悪質極まりない顧客奪取行為を度々行ってきており,顧客奪
取行為はその性質上,被告に知られないように行われるものであるから,
実際に原告が試みた行為は,ほかにも存在する可能性が濃厚である。し
たがって,原告が悪質な顧客誘致を「継続的」,「頻繁に」行っている
ことは明らかであり,さらに,原告のサービスの質の悪さや,上記の競
争業者を陥れるような方法に依拠する態度自体「自社の革新を追求する
努力を怠」っていることの証明である。
オ本件の経緯と実態
(ア)すなわち,被告による本件通知の送付行為は,原告と被告の長年に
わたる世界的な競争関係を前提に繰り広げられた顧客獲得競争の流れの
中で,原告が行った被告の顧客に対する悪質な勧誘行為に対する対抗措
置として行われたものである。すなわち,被告は,城山オフィスの被告
の顧客に対する原告DMについて抗議した際,原告から虚偽の弁解をさ
れたため,以後同様の悪質な顧客奪取行為を行わない旨誓約しない限り,
被告側からも原告の顧客に対し接触を行わざるを得ない旨警告したが
(乙3),何らの反応もなかったことから,本件通知を送付するに至っ
たものである。そして,原告の悪質な顧客奪取行為は,本件訴訟係属中
も,その実質的子会社を通じて実施されている。
(イ)本件通知は,リージャスからの世界規模の悪質な勧誘行為を背景と
して,原告の日本国外の拠点を含めたリージャスグループ全体について
述べたものである。すなわち,本件通知には,「Regus」,「20
0を超える拠点」,「10,000以上ものクライアント」,「サーブ
コープ」との表現があり,「Regus」が,原告の日本国外法人を含
むリージャスグループ全体を指すことは明らかである。また,原告は,
グループ会社として共通のロゴを使用し(甲2,3,13),原告のH
Pには,トップページに「リージャスのビジネスワールド」と記載され,
グループ全体を統括するHPの日本部門として位置付けられている(乙
39)。原告の「ビジネスワールドメンバーシップ」サービスにおいて
も,世界的ブランド「リージャス」グループによる世界規模でのサービ
ス体制が宣伝されており,原告は,常に世界的に活動するリージャスグ
ループの一員としての立場を表明しているから,それらを日ごろ目にす
る顧客らは,当然,原告をリージャスグループとして一括りに考え,リ
ージャスグループ全体との取引関係を想定しているはずである。したが
って,本件通知上のリージャスは,原告を含むリージャスグループ全体
を意味すると解すべきであり,指摘事項①∼③の虚偽性の判断に当たっ
ても,世界規模の視点で判断されなければならない。
(1)−2指摘事項②について
(原告)
アサービスの質及び価格についての比較は,「事実」に該当するところ,
指摘事項②は,原告と被告のいかなるオフィスを比較しているのか不明確
であること,サービスの質が被告より「大きく劣る」とすることの客観的
根拠が不明であること,そもそも利用料条件は,経済状況,競業者の条件
等により左右されること等からすると,「合計金額は割高となる」と一般
的に結論付けることは「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」に該当
する。裁判例においても,「評価基準」が示されていない点をもって「虚
偽の事実」であると認めており,信用毀損の告知の事案において,常に
「評価基準」が示されるとも限らない。
イ受け手が真実と反すると誤解をし得る内容の言明であれば,「虚偽の事
実」と認めることができるところ,指摘事項②は,これに接した顧客にお
いて,「契約した貸事務所の料金システムが詐欺的なものであり,貸事務
所及びサービスの質が低い。」等の不安感をいたずらに醸成するのに十分
であるから,真実と反する誤解を与えるものであり,「虚偽の事実」に該
当する。
ウ指摘事項②の「全ての追加料金を加算すると,サービスの質は」被告
「より大きく劣るにも拘わらず,合計金額は割高となるのが現実です。」
は虚偽である。
(ア)被告の主張は,原告の単なる一時的な会議室利用者についての検討
であり,継続的なオフィス利用者についてではない。
(イ)通信速度については,原告の会議室での共用インターネット回線の
通信速度は,被告が覆面調査を行った際は10Mbであり(乙13),
平成20年9月以降は,会議室利用者もオフィス利用者も20Mbであ
り(甲11),被告のインターネット回線速度(4∼10Mb)を上回
る性能を備えている。原告担当者が,被告従業員に説明したのは,特定
の顧客による大量のデータ送受信によって回線麻痺が発生することを防
止する観点から,各顧客単位での共用回線の利用可能帯域を最大でも2
Mbに限定していることを説明したにすぎず,専用回線を持たない顧客
からクレームを受けたことはない。オフィス全体の1日の間での回線使
用容量は,ピーク時でも3Mbに達する程度にすぎず,過去数か月の利
用実績でも2Mb強しか使用されていないから(甲15),全体として
20Mbの共用回線を有し,各顧客単位での最大2Mbの制限をしてい
る原告のインターネットの通信速度が,顧客に対し何ら不都合を生じさ
せるものではない(なお,インターネット回線の「専用帯域」を保証す
る場合には,原告がソフトバンクから1年間専用回線を購入しなければ
ならないから,一時的利用顧客のために専用帯域の使用を保証すること
は,コスト面から見合わない。)。
原告は,各ビジネスセンター内に世界的な規模で使用される専用ビデ
オ会議システムを有しており,ビデオ会議の開催について顧客が不都合
を感じることもない。
(ウ)ITサポートについては,赤坂に日本人エンジニアが1人いるが,
他の会社のITエンジニアからもサポートを提供できる態勢にある。
(エ)文書の印刷については,被告の主張は,1時間単位で会議室を借り
る利用を前提としており,そもそも「各自のデスク」を想定できない。
被告が比較するプリントサービスは,継続的なオフィス利用者を対象と
しており,比較の対象として誤っている。
(オ)「専用の電話機」(乙13)については,一時的利用顧客が,外部
から直接電話を受け,あるいは架電できる専用の電話回線を割り当てら
れないことを示すにすぎず,実際は,一時的に会議室を利用するときで
あっても,顧客には通常の電話番号が割り当てられ,会議室内の電話機
に転送されるので,不便はない。
(カ)追加費用は,追加サービスを発注した顧客に対して課せられるもの
であり,追加費用が発生する場合があることをもって,原告の利用料金
が被告それと比して高額であるとの結論とはならない(被告のサービス
利用に当たっても様々な追加費用は発生する。)。被告の追加料金は,
原告のそれと比して(甲16),高いものも安いものもあり,一律に原
告の利用料金の合計金額が「割高」とはいえない。原告DM(甲3)に
おいても,東京のオフィスについて,「現在借りているオフィス」より
も同等ないし安い価格でオフィスを提供するとしており,当該書面を見
て,原告へ切り替えた顧客がいたとすれば,被告と同等ないしより割安
な条件を提示されることになる。
(キ)被告の主張する利用者のブログは海外のものであり,「原告」の利
用料金及びサービスの質について述べたものではないし,作成名義人す
ら不明なブログにおける批評であり,証拠としての信用性,価値は著し
く低いものである。「苦情掲示板」(乙12)のサイトも,平成21年
7月21日に「Regus」との単語の検索でヒットし,表示された件
数78件のうち,その85%である67件は,本件通知を発送した平成
21年2月25日ころ以降に投稿されており,73件はすべて平成21
年になってから投稿されている(甲17)。さらに,SERVCORPLIMITED
のEマーケティング担当者は,「RegusVSServcor
p」という名称の,比較投稿記事を掲載するサイト(甲18)を開設し
ていた。したがって,本件通知の送付と連動するような不自然な投稿件
数の増加に,サーブコープの営業方法を合わせかんがみると,苦情掲示
板に,被告自らが原告に関する批判記事を投稿している可能性すら否定
できない。
(ク)被告の覆面調査結果報告書(乙13)は,被告従業員又は関係者が,
自己の身分を隠匿して,通常の顧客を装って訪問し,原告の許諾なく,
原告担当者との会話をビデオテープに隠し撮りしたものであり,原告担
当者の人格権を侵害する不法な行為であり,不法な手段で収集された証
拠に証拠能力を認めることはできない。
(被告)
ア原告の主張する事実は否認し,法的主張は争う。
イ原告は,指摘事項②に関して,後記の要素1ないし3に関する客観的事
実が何なのかを指摘しなければならないところ,具体的な主張立証をして
いない。
ウ主観的見解,批評又は抽象的推論のような単なる価値判断を告知しても
「事実」には該当しないところ,指摘事項②は,「サービスの質が劣る」,
「割高」という証拠等による証明になじまない価値判断や評価を要素とす
る記述を含み,しかも,サービスの質や料金の割高さを比較するための具
体的な評価基準が示されていないから,具体性を伴わない一方競争業者に
よる意見にすぎず,「虚偽の事実」に該当しない。
価値判断の要素を含む表現であっても,事実に関する表明であると広く
捉えるのが一般的であるとする原告の主張は理由がない。
エ仮に,指摘事項②が「事実」に該当するとしても,真実であり,仮に厳
密には完全に客観的な真実と符合していなかったとしても,読み手である
原告の顧客が,リージャスの社会的信用の低下に通ずるような誤解に陥る
ようなものとは認められないから,「他人の営業上の信用を害する虚偽」
の事実の告知に該当しない。
(ア)要素1「原告のオフィスの利用に追加料金が発生すること」
①原告のオフィスを利用したことのある複数の顧客が,インターネッ
ト上のブログにおいてが,原告のサービスの利用に当たって,様々な
追加料金が発生すると不満を述べている。例えば,英国のある利用者
は,10メガバイトのインターネット通信回線の利用のために,月額
3000ポンドもの料金を徴収された事実を述べ,米国のある利用者
は,ファックスや電話の利用にあたり説明の無い追加料金が課された
と述べ,別の複数の利用者らは,十分な説明のないまま,「事業継続
費用」名目で,多額の費用を追加徴収された等と訴えている(乙10
∼12)。
②被告が,原告の新宿パークタワーのオフィスを顧客として利用した
際の原告担当者の説明では,一時的にオフィスを利用する顧客(以下
「一時的利用顧客」という。)に対しては,通信速度の遅い共用イン
ターネット回線しか与えられず,通信速度の速い顧客専用回線の利用
には,高い料金を払って継続的に利用する契約をしなければならない
こと,通信データの容量を増加させるためには,専用1メガバイトご
とに月額10万円の追加料金がかかるとのことであった。その他,グ
ローバルIPの取得,インターネット回線の追加,電話転送先の追加,
留守番電話確認サービスの利用のため,追加料金が徴収されるのであ
る(乙13)。
(イ)要素2「原告のオフィスのサービスは,被告のオフィスに比べて大
きく劣ること」
①通信速度について,被告が,原告の新宿パークタワーにあるオフ
ィスを顧客として利用した際の体験によると,一時的利用顧客は,他
の顧客と共用のインターネット回線しか与えられず,他の顧客が容量
の大きい電子ファイルを送受信する際などに,重大な悪影響を受ける。
また,回線の通信データ容量は2Mbに限られており,通信速度が遅
いため,ビデオ会議(相互に映像を交信し合う方法により離れた場所
にいるものとの間で記載する会議)を行うことができない。
他方,被告のオフィスでは,ITサポートスタッフが24時間体制
でメンテナンスを行い,通信環境を整備しているため,一時使用でも,
実質的に専用帯域に等しい不便のない回線を利用することができる。
なお,インターネット回線の通信速度は,原告のオフィスは,ダウ
ンロード速度が1968kbps,アップロード速度が1949kb
psである(乙22)。被告のオフィスは,ダウンロード速度が24
344kbps,アップロード速度が23350kbpsであり(乙
23),調査会社により,日本で第6位の速度と評価されている。
また,通信ケーブルの規格は,原告のオフィスは,旧式のカテゴリー
5(Cat5)が使用されているのに対し,被告のオフィスでは,高
速通信に対応したCat5eの改訂版であるカテゴリー6(Cat
6)が全てのオフィスに備えられている。Cat6は,Cat5やC
at5eより格段に伝送帯域幅が広く,伝送可能通信速度も速いから,
より高速データ通信ネットワークの企画に対応することが可能である。
特に高速通信ネットワークに対応するには,少なくともCat5e以
上の性能が推奨されており,原告の規格では,接続距離が長くなると
不具合を生じる可能性がある。このようにして,被告オフィスでは,
ビデオ会議等重要なサービスをストレスなく利用できるように努めて
いる。
②ITサポートについて,インターネットに関して技術的な助言を行
える技術者は,原告のオフィスでは,赤坂のオフィスにしか配置され
ておらず,同所以外の顧客は,何らかの技術的トラブルが発生した場
合に適時に適切な技術的サポートを受けられない。
他方,被告のオフィスでは,全てのオフィスにIT管理者が常駐す
るほか,技術者認定資格(CiscoCertificated
NetworkAssociate)を有する者を含め,国内に高
度の専門知識・技術を有する合計8名のサポートスタッフが配置され
ている。顧客は,IT管理者に常時質問可能であるし,各部屋に備え
付けの電話から※1を押すだけで,原則として1時間以内に応対を受
けられ,かつ,必要があれば,現場に直接サポートスタッフを呼び寄
せ,直接技術的サポートの提供を受けることができる(乙13,2
7)。
③文書の印刷方法は,原告のオフィスの一時的利用顧客は,文書デー
タを印刷する際,各部屋に設置されたプリンターを利用することがで
きず,携帯用の記憶媒体にデータを保存した上,スタッフに代わりに
プリンターを操作してもらうため,不便を被るだけでなく,ビジネス
上極めて重要な情報管理上の問題がある。
他方,被告のオフィスでは,顧客は,各自のデスクから自ら直接プ
リンターを操作し,自由に文書を印刷することができるため,便利で
あり,情報流出の危険もない。
④原告のオフィスでは,一時的利用顧客は,専用の電話機を与えられ
ず,会議室の電話を利用する際も,暗証番号を逐一入力しなければ,
外線に電話をかけられない。受信する際も,直接電話を受けられず,
煩わしいし,転送ミスによるトラブルのおそれがある。
他方,被告のオフィスでは,自己のデスクに必ず1台の電話機が備
えられている。
⑤以上のとおり,原告のオフィスのサービスの質は,被告のオフィス
に比べて大きく劣ることは明らかである。
(ウ)要素3「当該追加料金とサービスの質とを併せてみた場合に,原告
のオフィスの利用にかかる費用の合計金額は被告のオフィスを利用した
場合に比べて『割高』であること」
①原告と被告のオフィスを比較すると,インターネット回線の通信速
度,ITサポートサービス,通信ケーブルの規格,文書の印刷方法等,
顧客にとって重要な複数の点において,原告のサービスが被告のサー
ビスに劣っていることは明らかであるが,原告は,次のとおり,各種
費用において,被告のオフィスよりも高額の費用を顧客に請求してい
る。
②インターネットサービス費用
原告のオフィスでは,事務所を常設する長期利用顧客でも,専用回
線を使用するには1メガバイトごとに月10万円の費用がかかり(乙
13),原告の英国法人の料金基準によると,顧客が10Mbpsの
専用回線を利用するには月2900ポンド(約46万円)かかる(乙
32)。他方,被告のオフィスでは,20Mbpsを超える回線の利
用にかかる費用は,利用者1人当たり月2万2500円であり(乙2
7),一般的な10人で1オフィスを利用する形態でも(乙33),
ひと月の料金は,原告の英国法人の料金基準の半額以下で済む(各人
が個別にPCを持ち込んでいる場合の計算であり,実際にはより低額
で済む。)。
③会議室の予約料金
原告のオフィスでは,会議室の貸出にも,1時間1万8500円又
は1日7万4000円の費用がかかるが,被告のオフィスでは,同等
以上の面積収容力を有し,内装の豪華な会議室を,1時間1万155
0円又は1日6万9300円で提供している。
④給茶サービス及び設備のセットアップにかかる費用
原告のオフィスでは,コーヒー,紅茶等の給茶サービスの利用に,
利用者1人当たり月6000円の費用がかかり,電話等の設備のセッ
トアップ費用として,利用者1人当たり月8000円の費用がかかる
が(乙36),被告のオフィスでは,無料で給茶サービスを提供し,
設備のセットアップにかかる費用も存在しない。
⑤敷金,最短契約期間等
原告のオフィスでは,賃貸借契約の締結の際に,2か月分賃料相当
額の敷金ないし保証金を徴収されるが,被告のオフィスでは,1か月
分の敷金で足りる。なお,原告のオフィスでは,3か月未満の期間の
契約は想定されておらず,短期契約を望む顧客も長期契約と同じ賃料
等金銭的負担を被るのに対し(乙36),被告のオフィスでは,1か
月単位での契約が可能であり(乙33),顧客は,要望に即した最低
限度の支出でオフィスを利用することができる。
(エ)なお,指摘事項②は,原告及び被告の事業におけるサービスの質が
同一であることを前提にしていないため,「性能,品質が同一であるの
に価額だけ安いかのごとき印象を与える」(名古屋地判昭和46年1月
26日)ことはない。本質的にも,指摘事項②は,何らの基準もなく,
単に「割高」と表現するのみであるから,本件通知を見た原告の顧客が,
原告及び被告の事業におけるサービスの質や料金を具体的に比較検討す
る手段は与えられておらず,上記誤解が生じる危険性はない。
(オ)乙13については,(ア)会話に参加した一方当事者による録音で
あって,会話内容は知られており,秘匿性が低いこと,(イ)被告は,
顧客として料金を支払った上で原告オフィスを利用しており,また,
見聞に際し,他人に危害を加えたり,自由意思を抑圧するなどの手段
を取ったりしたことはなかったこと,(ウ)録音内容は,原告が顧客一
般に提供するサービスの内容等に関する質疑応答の様子にすぎず,原
告は会話内容の秘匿を期待していないこと,(エ)本件訴訟の主要な争
点に関する極めて重要な証拠であることからすると,著しく反社会的
な手段を用いて,人格権侵害を伴う方法によって採集されたとはいえ
ず,証拠能力を否定されない。
(1)−3指摘事項③について
(原告)
ア指摘事項③の「昨今の経済低迷期に」,「200を超える拠点を閉鎖」,
「会社更生法を申請」,「10,000以上ものクライアントがオフィス
退去や住所利用停止を余儀なくされました。」との記載は,いずれも虚偽
の事実である。
イ受け手が真実と反する誤解をしうる内容の言明であれば,「虚偽の事
実」と認めることができるところ,指摘事項③は,次のとおり,これに接
した原告の顧客において「原告が最近200を超える拠点を閉鎖し,会社
更生法を申請し,原告の顧客が契約期間中に貸事務所から退去させられ
た。」との真実に反する誤解を与えるものであるから,「虚偽の事実」に
該当する。
(ア)本件通知の受け手は,日本に所在する原告の顧客であるから,「R
egus」は,原告を指すと理解するのが通常であり,原告は,日本国
外法人を有していない。受け手の顧客に外資系企業が多いというだけで,
チャプターイレブンを申請した「RegusBusinessCe
ntreCorp」と理解するというのは不自然である。外資系企業
である原告の顧客が,倒産法の予備知識を有するとの前提もなく,外資
系企業がすべて米国系でもない。本件通知の受け手が「英文を併せ読
む」ことが前提となる根拠も不明であり,受け手の35%は,日本文の
みしか送付されていないから,英文が一次的と認めることはできない。
(イ)「昨今の経済低迷期」とは,日本に所在する原告の顧客からすれば,
平成20年9月15日に生じた「リーマンショック」に端を発した現在
進行中の経済低迷を想定するのが通常である。米国法人がチャプターイ
レブンを申請した平成15年を想定することはあり得ない。なお,「昨
今」とは,「昨日今日」,「この頃」を意味する。
(ウ)原告は,「会社更生法の申請」をしたことはない。「会社更生法」
と記載されているのに,あえて「米国連邦倒産法第11章(チャプター
イレブン)」と理解することは,通常考えにくい。
(エ)「200を超える拠点の閉鎖」,「10,000以上ものクライア
ントがオフィス退去や住所利用停止を余儀なくされ」も,原告は,これ
まで経済的危機に瀕した事実はなく,順調に拠点(事務所)を増やして
いるから,事実に反する。
リージャスグループと解したとしても,英国の事業の売却に伴い,会
計処理上,譲受人に移転したワークステーションについて,平成18年,
当該英国の事業の買戻しを行ったことにより拠点が増加している(甲1
9)。リージャスグループと解したとしても,同グループは,会計処理
上,平成15年度年次報告書にワークステーション数や売上高などの連
結の手法が変更された旨の記載をしたにすぎず,1万を超えるクライア
ントが,突如オフィスを失い路頭に迷う事態は生じていない。リージャ
スグループ全体としては,平成14年12月31日に英国の事業持分の
58%の売却により,ワークステーションが3万箇所以上減少した事実
はあるが,チャプターイレブンの申立てが理由ではない。持分売却後も,
運営を継続していたので,10,000以上の顧客がオフィス退去や住
所利用停止となった事実はない(乙15)。原告は,平成10年9月の
会社設立後,当初2つであった事業所を順調に増やし,現在は事業所は
17となっている。なお,リージャスグループ全体として,ワークステ
ーション数が3万か所以上減少した事実は,単に,平成14年12月3
1日に英国の事業持分の58%を売却したことに基づくものにすぎない
から(乙15),被告のように「リージャスグループは」と解したとし
ても,「(チャプターイレブンの)申立に伴い」ワークステーション数
を3万か所以上減少させた事実の記載は一切ない。上記は,英国の事業
持分を他社に移転しただけであるから,英国にて運営していた事業所を
閉鎖したわけではなく,それらは持分売却後であっても,引き続きリー
ジャス・ビジネスセンターとして運営を継続していたのであり,1万以
上のクライアントがオフィス退去や住所利用停止となった事実はない。
(被告)
ア原告の主張する事実は否認し,法的主張は争う。
イ指摘事項③は,真実であり,仮に厳密には完全に客観的な真実と符合し
ていなかったとしても,読み手である原告の顧客が,リージャスの社会的
信用の低下に通ずるような誤解に陥るようなものとは認められないから,
「他人の営業上の信用を害する虚偽」の事実の告知に該当しない。
ウチャプターイレブンの申立て
原告が所属するリージャスグループの米国法人(RegusBusi
nessCentreCorp.),英国法人(RegusPL
C)及び蘭国法人(RegusBusinessCentreB.
V.)が平成15年に米国連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)の
申立てをした事実は,客観的な裏付けがあるところ(乙15,16),指
摘事項③は,これらを中心としたリージャスグループ全体に関して述べて
いるものであり,したがって,「会社更生法」とは,日本法の会社更生法
(平成14年法律第154号)ではなく,チャプターイレブンを意味する
と解すべきである。
(ア)本件通知は,第一次的には英文により作成され,「Chapter
11」との記載があり(乙14),本件通知(甲1)は,これを日本
文に訳したものである。被告は,本件通知を送付先である29社のうち
65%以上の19社に対しては,日本文と共に英文を送っているから,
英文を併せ読んだ顧客にとっては,日本文の「会社更生法」が,米国連
邦倒産法第11章における倒産処理手続を指していることは了解可能で
ある。
(イ)チャプターイレブンは,一般に「会社更生法」ないし「会社更生手
続」と訳されている(乙17)。また,チャプターイレブンの手続は,
日本のDIP型会社更生手続に類似するところ,当該手続は,あくまで
も会社更生法の制度的枠組の中で運用されている。
(ウ)顧客の認識からしても,指摘事項③には「Regus」,「200
を超える拠点」,「10,000以上ものクライアント」等と原告を表
現し,それと比較して,「サーブコープ」,「上場企業」等と被告を表
現しているから(サーブコープはオーストラリア証券取引所ASXの上場
企業である。),「Regus」が,原告の日本国外法人を含むリージ
ャスグループ全体を指すことは明らかであり,そうである以上,「会社
更生法」がチャプターイレブンを指すことは明らかである。原告は,世
界規模の事業展開,宣伝活動を行うリージャスグループの一員であり,
顧客であれば,当然原告とリージャスグループとを強く関連付けて認識
しているはずである。本件通知上も,日本国内に限定して表現する際に
は,「国内(東京,大阪,名古屋の18拠点)にて…」と記載し,リー
ジャスについては「Regus」と英語表記をしている。リージャスグ
ループが,「Regus」という英語表記のロゴを統一的なグループの
象徴にしてHPやパンフレットに掲載していることからすると,原告に
限られると考える方が不自然である。「CEO」という外国における会
社代表者の肩書きとともに「G」,「H」という外国人の名前が記載さ
れており,読み手は,本件通知上の記載が基本的に海外をも視野に入れ
たものであるとの理解をするはずである。さらに,原告は,ホームペー
ジ上の平成20年11月26日の記事において,「リージャスグループ
は現在,世界70カ国,400都市で1,000箇所のセンターを展開
しており,そのうち110センターがアジア太平洋地区を拠点としてい
ます。」との記載があるから(乙47),原告の顧客は,本件通知に記
載された「200を超える拠点」,「10,000以上のクライアン
ト」との表記が,日本法人たる原告のみならず,世界規模でのリージャ
スグループを指していると考えて当然である。
エ「200を超える拠点」,「10,000以上のクライアント」
(ア)リージャスグループは,平成15年1月14日のチャプターイレブ
ンの申立てに伴い,平成14年に8万7494箇所保有していたワーク
ステーション数を,平成15年までに3万箇所以上減少させ,5万56
18箇所まで削減させた(乙15)。ワークステーションとは,顧客1
人が利用する執務スペースであり,借り受けるオフィススペースの最小
単位を指すところ,顧客が1つのオフィスを設ける場合,通常,おおむ
ね3か所のワークステーションを借りることになる。他方,業界経験上,
1拠点の平均床面積を1400㎡,1つのオフィス当たりの利用スペー
スを28㎡とすると,1拠点あたり50個のオフィスが存在する(14
00÷28)計算になるから,1拠点中に含まれるワークステーション
の数は150か所と推計できる(50×3)。そして,原告は,3万か
所のワークステーションを閉鎖したのであるから,拠点数に換算すると,
200か所(3万÷150)となり,,オフィス数に換算すると,1万
個(3万÷3)のオフィス,すなわち,1万人のクライアントが追い出
されたことになる。これらは,原告自身が年次報告書で認めた事実に基
づくものである(乙15)。
(イ)数字の整合性は,「虚偽」性との関係では重要ではなく,読み手で
ある原告の顧客の通常の意識としては,より大局的に,法的倒産手続の
申立てを行うほどにリージャスグループの経済状況が逼迫しているとい
う点に着目するはずであり,原告の信用毀損に通じるような誤解が生じ
るか否かも,その点について判断されなければならない。そして,平成
14年から15年にかけて,原告が深刻な経済危機に瀕していたことは
疑いようのな事実であるから,これに照らすと,原告の顧客の関心事で
あるリージャスグループの経済事情について,本件通知になんら虚偽は
存在していない。英国事業の売却についても,リージャスグループの中
核事業地域であった英国において半数以上の事業を手放したこと自体,
同グループが経済的危機にあったことを示す証左であり,顧客に客観的
事実に反する誤解は生じない。
(2)違法性阻却事由の有無
(被告)
本件は,被告は,原告から受けた悪質な顧客奪取行為から自社の営業の自
由を防御するために,本件通知を送付したから,正当な防衛行為として違
法性が阻却されるべきである。
(原告)
ア原告と被告は,本件通知の送付行為当時,競業他社として単なるライバ
ル関係にあったにすぎず,訴訟を通じた苛烈な争訟状態にあったわけでは
ない。被告の主張は前提を誤っている。
イ原告による顧客誘引行為は,書面に記載された文言,その他の態様のい
ずれにおいても違法性な点はないから,被告の行為は,被告自身が主張す
る「被告が一方的に原告の信用を毀損する行為に出た」ことに他ならない。
(3)差止請求の可否
(原告)
ア法律上,現実の営業上の利益の侵害のおそれが要求されないことは勿論,
訴訟の帰趨を見定めるために警告を差し控えているにすぎない場合には,
信用毀損行為を再開するおそれがあるので,差止めの必要性は失われてい
ない。
イ本件において,被告は,原告の正当な営業活動をもって「顧客奪取行
為」と称し,「原告が当該顧客奪取行為を行わない限り,被告が再び本件
通知を原告の顧客らに対し送付する理由はない」と主張するから,原告が
正当な営業活動を継続する限りにおいて,告知行為が再開されるおそれが
あることは明白である。
(被告)
ア本件では「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知がないから,
「不正競争」は存在しない。
イ仮に本件通知行為が「不正競争」に該当するとしても,現存していない
以上,「事実審の口頭弁論終結時」を基準とした営業上の利益の侵害は存
在しない。
ウ「侵害されるおそれ」(3条)は,侵害行為着手を可能とする客観的状
況の有無,侵害者の主観的意図等を総合勘案し,弁論の全趣旨から判断し
て,「将来利益を侵害される確定的関係ないし利益侵害の発生について相
当の可能性」があることを必要とすると解されているところ(東京高裁昭
和38年5月29日判決),被告は,平成21年2月20日ころから同年
3月6日に本件通知を送付した以外の期間に,同様の行為を行っておらず,
また,原告が顧客奪取行為を行わない限り,被告が再び本件通知を原告の
顧客らに対し送付する理由もないから,本件では,将来利益を侵害される
確定的関係ないし利益侵害の発生について相当の可能性は認められず,営
業上の利益の侵害のおそれは存在しない。
(4)故意・過失の有無
(原告)
ア本件通知の内容は,あえて受け手に真実に反する誤解を与える内容が記
載されており,被告において,当該行為がいわゆる「営業誹謗行為」に該
当するものであろうことを認識しながら,あえてこれをなす心理状態にあ
ったといえるから,被告に故意が認められる。
イ仮に故意がないとしても,指摘事項①∼③は,いずれも客観的根拠を欠
くものであるから,被告の行為は,いわゆる営業誹謗行為であって,典型
的な違法行為であるから,被告には,相当な理由がない限り,上記行為を
なすにつき過失があったと推認するのが相当であり,被告に「相当な理
由」がは認められない本件では,少なくとも過失があったと認められる。
(被告)
ア被告は,指摘事項①∼③を真実と理解していたから,被告には,本件通
知記載の事実が「虚偽の事実」であったとの認識はない。
イ被告は,十分な根拠の下,指摘事項①∼③が真実であると認識し,かつ,
真実に反して原告の信用を害することはないと認識していたから,かかる
認識に一切不注意はない。
(ア)指摘事項①については,原告により被告の顧客に対する継続的な勧
誘行為が行われ,それに対して抗議したにもかかわらず,黙殺されたの
であるから,このような各勧誘行為を悪質なものと認識したことについ
て,何らの不注意はない。
(イ)指摘事項②については,原告のサービスには,明らかに被告に劣る
点が存在し,被告は,確たる証拠をもってこの点を認識しているから,
被告が,自身のサービスが原告のそれと比較して優越していると認識し
たことに何らの不注意はない。
(ウ)指摘事項③については,原告の日本国外法人がチャプターイレブン
の倒産手続の申請をしたこと及びそれに伴い,多くの拠点を閉鎖したこ
とは否定できない事実であるから,これをもって真実と理解したことに
何らの不注意はない。「会社更生法」がチャプターイレブンの一般的な
訳として通用している以上,被告が,「会社更生法」との表現を用いた
ことについても,何らの不注意はない。
(5)損害
(原告)
原告は,被告による不正競争行為により,次のとおり,合計3084万3
608円の損害を被った。
ア人件費合計119万5608円
(ア)特別対策チームに係る人件費
原告は,被告による本件通知の送付行為を即時に中止させ,送付先である
既存顧客への説明等の対応のため,原告に特別対策チームを立ち上げ,次
の実施項目を実施した。各所要時間に,各人の時間当たりの報酬額を乗じ
ると,合計45万5208円となる。
①I
被告による不正競争行為の概要把握,各部門への調査指示,弁護士
との折衝,被告への内容証明郵便の送付指示,訴訟提起準備作業等で,
40時間を要した。
②D
各セールスマネージャーからの聞き取り調査,既存顧客への説明,
契約更新時の値引き対応に関する決裁等で16時間を要した。
③J
各種資料作成,社内通知文書の作成,経費支出状況の把握等で20
時間を要した。
(イ)エリアセールスマネージャー等に係る人件費
原告は,ゼネラルマネージャー及び日本各地のエリアマネージャー合
計15名に,本件通知の送付がどのような範囲でどの程度行われたか調
査し報告させた。上記調査報告に要した時間(最低16時間)に,上記
15名の人件費(1時間当たり合計4万6275円)を乗じると,合計
74万0400円となる。
(ウ)特別対策チーム及びエリアセールスマネージャー等による本件通知
の送付の実体把握,被告への内容証明郵便の送付を含む善後策の協議,
本件通知の記載内容が真実でないことを説明するための既存顧客との面
会,電話,Eメールの作成は,本件通知の送付に対する当然に必要な作
業であるから,これにかかる原告の人件費は,被告の不正競争行為と相
当因果関係のある損害である。
イ逸失利益
(ア)既存の契約の中途解約又は不更新
①原告とシンガポール・エクスチェンジ社は,ビジネスセンターサー
ビス契約期間中,良好な関係を継続し,同社は,契約を再更新する意
向を,原告担当者に対して内々に示していたが,本件通知の送付から
わずか6か月後の平成21年8月27日,契約不更新のメールを原告
に一方的に送付し,契約期間満了後,被告とレンタル・オフィス契約
を締結した。上記不更新がなければ,少なくとも1年間は更新されて
いたから,原告は,当該契約の不更新により,月額賃料60万800
0円の12か月分である729万6000円の損害を被った。
②原告とトラベルズー社は,平成20年3月6日付けで,契約期間を
平成20年5月1日から平成22年4月30日までとするビジネスセ
ンターグローバル契約を締結していた。ところが,トラベルズー社は,
本件通知の送付からわずか4か月後の平成21年6月30日,契約期
間を10か月残したまま,原告との契約を一方的に中途解約し,被告
とレンタル・オフィス契約を締結した。トラベルズー社は,契約の解
約により,原告に対し,契約上は,残存期間分の賃料を支払うことに
なっていたが,同社と原告は,上記賃料相当額について,新たなビジ
ネスセンターを賃貸借することにより,その賃料と相殺することを合
意した。したがって,トラベルズー社の中途解約がなければ,上記契
約は,少なくとも残存期間10か月は継続していたから,原告は,賃
料280万円の10か月分である2800万円の損害を被った。
(イ)原告は,契約期間中,シンガポール・エクスチェンジ社及びトラベ
ルズー社とは良好な関係を継続しており,原告の営業も順調であったが,
上記のとおり,本件通知の送付から半年の間に,契約の不更新及び中途
解約が生じたものであるから,これらが本件通知の送付に基づき発生し
た事態であることは合理的に推認し得る。しかも,①本件広告が,原告
の既存顧客に対して直接送付されたものであること,②レンタルオフィ
ス事業では,原告と被告は二大業者として激しく競業しているところ,
原告の信用が毀損されれば被告に顧客が流れると考えられること,③本
件通知は,顧客が重視する賃料条件に関する虚偽の事実のみならず,
「会社更生法を申請」との虚偽の事実を述べ,原告の信用そのものを毀
損する内容であること,④本件通知の表現方法は苛烈であり,被告のゼ
ネラルマネージャーが先頭に立って行ったものであること,⑤レンタル
オフィスは,顧客の場所的な基盤となるから,相手方の選択にあたって
は,レンタルオフィス業者の信用は決定的な要素であること等からする
と,本件通知が原告の顧客に与えた影響は極めて大きく,原告の損害の
発生が,本件通知の送付に基づくことは明らかであり,その割合は,少
なくとも5割を下回ることはない。
(ウ)したがって,被告による不正競争行為がなければ原告が得られたで
あろう逸失利益の額は,少なくとも,上記(ア)①,②の合計額3529
万6000円の50%相当額である1764万8000円である。
ウ信用毀損による無形損害
(ア)上記ア,イのとおり,原告には,人件費の支出及び逸失利益が生じ
ている。また,原告の某マネージャーが,原告の経営状況について書面
で証明するよう顧客から求められたり,全事業所のスタッフが,不審郵
便物のチェックを強いられており,信用回復のための人件費は,今後も
増加し続けることが想定される。
(イ)本件通知の送付後,契約解除,賃料引下げ交渉に至る顧客の数が,
極端な増加傾向を示しており,かつ,交渉時の顧客の言動に著しい変化
があり,特に,原告の経営状況を不安視する声が後を絶たない。原告は,
現時点でも,既存の顧客から,事務所利用料の減額の要求がされており,
今後も,既存顧客に対する説明,対応に追われ,あるいは,新規顧客獲
得の機会を逸する等の潜在的な危険にさらされ続けている。特に,近い
将来,契約更新を迎える既存顧客は多数に上り,契約更新拒絶ないし更
新時の減額要求が多発することは明らかであり,損失が増大する危険性
は高い。したがって,本件通知の送付行為は,原告の営業上の信用を失
わせ,既存顧客との契約継続及び潜在的顧客との新規契約締結を極めて
困難とし,今後の原告の業務遂行に著しい支障を与えるものである。
(ウ)したがって,上記一切の事情を斟酌すれば,原告が被った信用毀損
に基づく無形損害の額は,少なくとも1000万円に相当する。
エ弁護士費用200万円
オ原告の訴え変更の申立ては,その提出が平成22年10月28日となっ
たのは,裁判所の訴訟指揮の下,和解協議が長期間にわたり継続していた
からであるから,時機に後れた提出ではない。また,追加主張した逸失利
益に関する契約の不更新又は更新拒絶は,平成21年6月30日又は同年
8月27日に発生しており,損害額の厳密な主張立証を行うにはある程度
の時間がかかるのが当然であるから,上記時機に提出したことに故意,重
過失はない。そして,追加主張の概略は,原告の準備書面(2),甲20に
記載されてるから,原告による主張追加による訴訟完結の遅延も認められ
ない。したがって,上記は,時機に後れた攻撃防御方法には該当せず,禁
反言の原則ないし訴訟追行上の信義則に反することもない。
(被告)
ア原告の主張する事実は,いずれも否認する。
イ人件費・逸失利益
(ア)人件費及び逸失利益については,損害の発生,損害額及び因果関係
の立証がない。
①「特別対策チームに係る人件費」については,各人が当該業務を実
施したこと,所要時間,算定基礎となる各人の報酬額の立証がない。
②「エリアセールスマネージャー等に係る人件費」については,各人
が当該業務を実施したこと,所要時間,1時間当たりの給与額の立証
がない。各拠点のエリアセールスマネージャーが,本件のために特別
な業務を実施したとは考えられない。
③逸失利益については,レンタルオフィス業においては,顧客は,短
期間の契約関係を想定しており,契約を更新せず,又は中途解約して
他の拠点に移転するケースも存在するから,原告の顧客が契約終了又
は中途解約したとしても,顧客の都合による可能性が高く,本件通知
行為によるものではない。仮に,顧客の都合ではなかったとしても,
顧客が,被告による本件通知とは無関係に原告の悪質な勧誘行為を知
ったり,劣悪なサービスに見切りをつけた可能性も少なくない。原告
は,契約終了又は中途解約の後も,他の顧客に貸すことが可能である
から,原告に損害は生じていないし,新たな顧客から得ているはずの
利益を無視しており,契約終了又は中途解約による売上への影響を明
らかにしていない。
シンガポール・エクスチェンジ社が,契約を再更新する意向を原告
担当者に内々に示していたことの立証がない上,同社は,平成20年
初旬から被告拠点への移転を検討していたから,上記意向を示す理由
もない。原告と同社間の契約関係は2年間程度であり,長期の信頼関
係が築けていたものではない。同社が行った更新拒絶も,契約内容に
従ったものであり,本件通知の6か月後に行われている。同社は,原
告のサービスに不満を感じ,慎重な検討の下,被告のサービスを評価
して,転居を決意したものである。
トラベルズー社と原告間の契約関係は2年足らずであり,長期の信
頼関係が築けていたものではない。契約の中途解約に伴う合意書は,
平成21年2月27日付けで締結されているが,違約金免除の交渉を
したのであれば,締結までに時間がかかったはずであり,本件通知が
届いた同月25日以降の時期と近接し過ぎている。同社は,被告に対
しても中途解約を予定した条項を設けるよう申し出ており,原告との
契約の中途解約もまた,同社の都合によるものである。同社は,リー
ジャスの他の拠点を新たに借りているから,実質的に原告に何らの損
害も生じていない。
(イ)(時機に後れた攻撃防御方法等)上記財産的損害の主張は,平成2
2年10月8日付け「訴えの変更の申立書」において初めて追加された
主張であるところ,これは,平成21年9月30日付け弁論準備手続期
日における「①損害論の主張立証は,平成21年9月25日付け原告準
備書面(2)までに行った限りで尽くしており,今後追加することはない,
②原告による1000万円の損害の主張は,すべて精神的損害としての
慰謝料を請求するものであり,人件費や逸失利益の主張も,独立した財
産的損害として主張するものではない。③上記準備書面2頁の『人件費
の支出,得べかりし利益の喪失等』の『等』については,特に具体的な
損害項目を想定したものではない。」との原告の言明を反古にするもの
であり,「訴えの変更申立書」で主張された事実関係や,追加提出され
た証拠も,いずれも上記平成21年9月30日時点で存在していた事情
及び証拠であり,これを後になって提出することに,何らの合理性もな
く,重大な過失に当たる。したがって,原告による財産的損害の主張の
追加は,時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)として,
却下を免れない。
また,主張立証を補充しないと明言しながら,1年以上後に,当時主
張又は提出し得た事実関係及び証拠を主張提出する行為は,禁反言の原
則ないし訴訟追行上の信義則に反するから,却下されるべきである。
ウ無形損害
(ア)原告が,無形損害を算定する際に考慮すべき事情として主張する
「一切の事情」は,不明確であり,主張されている抽象的断片的事実で
すら,客観的証拠に基づく立証がない。将来生じ得る損害を予め賠償請
求する趣旨としても,その必要性(民訴法135条)の主張立証がない。
(イ)慰謝料には,証明の程度に至らず,認定されない部分を,裁判所の
裁量により増額することでカバーし,被害者の実質的救済を図ろうとす
る補完的機能があると解されており,不正競争防止法2条1項14号の
信用毀損事例においても,証明不十分により,逸失利益の認定ができな
いものについては無形損害の認定において斟酌するとして,同様の補完
的機能を有するものと位置づけられている。そして,慰謝料等の補完的
機能は,民事訴訟の諸原則(弁論主義の不意打ち防止機能,証明責任の
法理)と抵触するため,例外的・救済的に認められなければならないと
ころ,原告は,そのために必要な①財産的損害についての一定の主張立
証,②金銭評価を可能とする基礎事実の主張立証,③信用毀損と損害と
の因果関係の主張立証を行っておらず,抽象的に個々の損害項目を示す
のみであり,「一切の事情」の具体的中身については何ら客観的な主張
立証をしていない。原告の請求は,安易に慰謝料等の補完的機能を濫用
するものであり,許されない。また,原告は,慰謝料の金額を判断する
際の資料として,相当の資料を挙示することもしていない。侵害態様が
弱く,財産的損害に係る立証が軽薄な本件において,高額な無形損害が
認容される余地もない。
エ弁護士費用については,本件は,専門性の高い知的財産法特有の論点が
存在せず,また,原告は,損害論の立証をほとんど行っていないから,本
件事案の性質や原告の訴訟追行の態様に照らすと,原告の主張する弁護士
費用200万円は,事案に比して高額である。
(6)信用回復の措置
(原告)
本件通知の送付行為は,極めて違法性が高いものであり,損害賠償のみで
は,その営業上の信用は回復されないから,広く一般に対する信用回復措
置が必要である。また,今後の原告の損害発生を回避するため,被告の謝
罪文掲載が不可欠である。
ア本件通知の内容は,契約の相手方の信用性及び契約期間中のオフィス使
用の継続の可否という,顧客にとって決定的な情報について,「会社更生
法を申請」,「クライアントがオフィス退去や住所利用停止を余儀なくさ
れ」と激烈な表現において虚偽の事実を摘示するものであり,原告の営業
の根幹に打撃を与えるものである。
イ本件通知は,原告の既存の顧客40社程度に対し,長期間にわたって送
付されており,周到に準備した上で,計画的に送付されたものである。
ウ本件通知は,紙媒体によるものであり,信頼性が高い。また,紙媒体の
通知は,複写等により,原告の既存顧客ないし潜在的顧客間で交渉材料と
して,転々流通する可能性は高い。したがって,現に本件通知を受領した
者のみでなく,その可能性のある第三者に対しても,広く本件通知の内容
を是正する措置が必要である。
(被告)
ア侵害者に意思の強制を伴う行為をさせる信用回復措置命令は,実務では,
やむを得ない事情が存する場合に,補充的に運用されているのが実態であ
る。また,営業上の外部的評価の低下が現に存在していることが必要であ
り,単にそのおそれがあるのみでは足りないとされている。
イ本件では,被告は,原告の悪質な顧客奪取行為から自社の営業の自由を
防衛するために本件通知を送付したものであり,短期間に,原告の1つの
拠点に居住する29社に対しほぼ一斉に本件通知を送付した他には,一切
同様の行為をしていない。また,本件通知の内容も,日本国外法人の経営
危機により既に危機に瀕していた原告の経営状況,サービスの質等につい
て,事実を伝達したのみであるから,原告の主張する甚大な被害が惹起さ
れたと考える余地は無い。電子メールや口頭による方法も,伝達の容易さ
に特段の相違はなく,紙媒体を利用したことをもって原告の営業に生ずる
影響が大きいこともない。
したがって,本件では,信用回復措置命令を発令する必要性は存在せず,
その補充性からすれば,仮に損害賠償請求が認容される場合には,より一
層,その必要性は存在しない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)不正競争行為の成否,(1)−1指摘事項①について
(1)不正競争防止法2条1項14号は,競争関係にある他人の営業上の信用
を害する「虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」を不正競争と定めてい
る。この点について,被告は,指摘事項①は,「追求する努力を怠り」,
「悪質」という証拠等による証明になじまない価値判断や評価を要素とする
記述を含むから,「事実」(不正競争防止法2条1項14号)に該当しない
と主張する。しかしながら,指摘事項①において,「自社の革新を追求する
努力を怠り」とは,「営業行為における改善行為を行わないこと」を,「悪
質」とは,「社会的に相当な範囲を超えること」をそれぞれ意味すると解さ
れるから,指摘事項①は,「原告が,自らは営業行為における改善行為を行
わず,被告の顧客に対し,継続的,頻繁に,社会的に相当な範囲を超える営
業行為を行ってきた」ことを意味するものと解され,結局,指摘事項①は,
かかる原告による営業行為のあり方を表現したものであり,証拠等による証
明になじまない価値判断や評価ではなく,「事実」に該当すると認めるのが
相当である。
(2)そこで,次に,指摘事項①が「虚偽の事実」に該当するか否かについて
検討する。前提となる事実に加え,証拠(甲2,3,6,7,9,13,1
4,乙3,5∼7,48,ただし,枝番を含む。)及び弁論の全趣旨による
と,次の各事実を認めることができる。
ア(ア)原告の平成21年3月25日時点でのホームページ(甲2)には,
「最大限の自由をもたらすオフィス・ソリューション」,「レンタル
オフィス・サービスオフィス」等の項目において,「リージャスのレン
タルオフィス・サービスオフィスは,通常の賃貸オフィス,賃貸事務所
とは違い,煩雑な契約手続き,高額な契約料,設備投資費が不要です。
また,事業規模に応じてオフィスサイズを柔軟に伸縮可能です。」,
「●敷金・礼金共益費不要」,「●契約翌日入居可1ケ月から契約
可」,「●一枚の契約書だけの手続き」,「●すべての経費を同一請求
書へ計上」,「●ICカードで24時間アクセス可能」,「●成長規模
に応じて伸縮可能なオフィススペース」,「●バイリンガルスタッフの
事務サービス」,「●東京,横浜,大阪,名古屋,福岡ハイグレードビ
ルでイメージアップ」,「リージャスのレンタルオフィス・サービスオ
フィスは,初期投資,設備投資のみならず,事務サービスを活用するこ
とで,人件費の削減も可能になります。貴重な資金を,本来のビジネス
に有効活用し,事業を軌道に乗せ,成長に応じて,必要な分だけ,柔軟
にスペースを拡張ができます。」,「また,セキュリテイー完備のプラ
イベート環境で働きながら,様々な業界の人々の集まる公共のラウンジ
での刺激に満ちた交流の機会もあります。」等と記載されている。
(イ)原告は,平成20年から,リージャスグループの一員として,「ビ
ジネスワールドメンバーシップ」サービスを導入しており,メンバーの
種類に応じて,世界75か国,450都市,1000箇所にある原告の
ビジネスセンターのプライベートオフィス,シェアオフィス,ビジネス
ラウンジ,ビジネスカフェを利用したり,会議室やテレビ会議室を割引
料金で利用したり,コンシェルジュ,秘書代行,テクニカルサポート等
の庶務業務のサポートを受けることができたり,インターネット1回線
と飲料が無料である等のサービスを受けることが可能となっている(甲
13)。
(ウ)原告は,平成17年から,レンタルオフィスの種類として,常駐型,
支店型,ブース型等レンタルオフィスの他,机単位での賃貸が可能なキ
ャンパス型レンタルオフィスのサービスを導入している(甲14)。
イ(ア)原告は,平成21年1月28日ころ,東京都港区虎ノ門の城山トラ
ストタワー27階所在のオフィスに入居する被告の顧客19社に対し,
次のとおり,同月22日付けの原告DMを送付した(甲3,乙5)。な
お,原告は,同じころ,上記被告の顧客の他,同タワー所在の他のオフ
ィス,東京都港区芝公園泉ガーデン所在のオフィス,東京都港区赤坂の
赤坂ツィンタワー本館所在のオフィス等の東京都港区所在のビルに入居
する複数の会社等に対し,原告DMを送付していた(甲6,7)。
①被告の顧客に送付された原告DMの封筒は,形式,色,サイズ等に
おいて,外観の異なる複数の種類のものを使用しており,差出人を特
定するための情報は,封筒の外観上は記載されていない。
②被告の顧客やその他のオフィスの会社等に送付された原告DMには,
「リージャスオフィスへ移転をしませんか?」との表題の下,「経済
状況が日々変わり,不動産物件の価格が下がる中,オフィス検索をす
る際に様々な選択肢があるかと思います。」,「この度オフィス移転
の選択肢の一つとして是非リージャスオフィスを検討頂きたく,東京
都内11箇所(全国18箇所)の特別プロモーションをご紹介致しま
す。」,「●最高10万円相当のサービスをプレゼントオフィス文
具や名刺などの印刷,引っ越し費用等に使用頂けます。」,「●オフ
ィス,電話機,インターネット回線のセットアップ費用が無料」,
「●最初の一ヶ月は事務/秘書代行サービスが無料リージャススタ
ッフがお客様代わりに移転のお知らせ等の作業を致します。」,「●
ビジネスワールドプラチナプラスメンバーシップカードが無料リ
ージャス全1000箇所のプライベートオフィスを無制限でご利用頂
けます。」,「●現在借りているオフィスの賃貸契約書をお持ち頂け
れば同じ価格,もしくは更にお安くオフィスをご提供いたします(東
京オフィスに限る)。」,「リージャスは日本のみにとどまらず,全
世界で拡張を続けております。今日の経済状況に関わらず今後ともど
のセンターも閉める予定はございませんので安心してご入居頂けま
す。」,「詳細のお問い合わせはこちらまで:日本リージャス株式会
社…」等の記載がある。
(イ)被告のエリア責任者であるCは,被告が,平成21年1月初旬に被
告の顧客に対し,東京都港区虎ノ門所在の虎ノ門JTビルの被告のオフ
ィスを同年2月に閉鎖する旨の通知をしていたことから,原告DMによ
り,被告の顧客に対する勧誘行為が行われたと受け止めた(乙48)。
Cは,原告のエリア責任者であるDに対し,同月29日付け電子メール
(乙3)を送信して原告DMについて抗議し,「貴社ではダイレクトメ
ールで私どもの得意先にアプローチしようとなさっていますが,私ども
はそのやり方に抗議します」,「いかなる方法であれ,貴社が二度と私
どもの得意先に直接アプローチしないというお約束をリージャスから書
面でいただかないかぎり,私どもには日本におけるリージャスの全得意
先にアプローチする用意があります。」等と通知した。
原告は,上記抗議を受けた後,被告に対し,原告DMは,東京都港区
の全域に送付した旨,弁解したが,被告は,被告が同区内に保有する日
比谷,品川,汐留,青山等の他の複数の拠点のいずれにおいても,原告
DMを受領していないことや,城山オフィスの他のテナントにおいても,
原告DMを受領していないことから,原告の弁解は虚偽であり,原告D
Mは,城山オフィスの被告の顧客を標的にして送付されたものとの認識
を持った(乙3)。
ウ原告の営業マネージャーであるAは,被告の顧客であるBに対し,電子
メール(乙7)によりオフィスの見積もりを送付した際,「S社にご入居
後にリージャスに移転されたお客様よりは,入居後様々な説明の無いコス
トがかかり基本賃料以外に20−30万円程かかっていたとお話を聞いて
おります。」との内容を記載したことがあった。
エ(ア)被告の顧客であるルフトハンザ・システムズ株式会社の日本・韓国
担当者Eは,シンガポール所在の担当者Kに対し,平成21年2月2日,
原告の担当者を紹介したことから,上記Kが,原告担当者に対し,同月
3日,原告の提案するオフィスに関して,同月4日の電話会議を申し込
んだことがあった(甲9)。
(イ)他方,上記Eは,被告に対し,同月5日付け電子メールにより(乙
6),原告DMの写しを示した上で,「某社が直接」シンガポールに
「セールスをかけてしまったため,本当に困っています。」,「大変申
し訳ないですが,なんとかもう少し契約を検討いただけないでしょうか。
例えば2年ですとか(某社は2年でOK)。何か備品の優遇とか。」等
と記載した。
(ウ)ルフトハンザ・システムズ株式会社は,その後も原告との間におい
ても交渉を続けたが,上記Kは,同月18日付け電子メール(甲9)に
より,他社のオフィススペースを選ぶことにした旨を通知した。
(2)以上の認定事実によると,原告は,従前から,ホームページ等で多様な
レンタルオフィスを提案してきたものであり,近年においても,新たなサー
ビスを導入してきたこと,原告は,被告の顧客に対し,原告DMを送付した
ことがあるが,被告の顧客のみでなく,東京都港区内のビジネスオフィスに
対しても送付していること,内容面においては,被告に言及する部分はなく,
レンタルオフィス業者である原告の立場からの提案を行っているものである
こと,形式面においては,ダイレクトメールとしておおむね通常の形式によ
るものであり,差出人の情報が記載されていない点は,適切とはいえないも
のの,違法とまでいうことはできず,封筒の形式,色,サイズが異なってい
ることは,不適切ともいえないこと等,原告DMは,おおむね通常の広告行
為であると認めることができること,原告は,その他,被告の顧客であるB
に電子メールを送付したり,シンガポール所在のルフトハンザ・システムズ
株式会社に対する営業行為を行っているが,いずれも,レンタルオフィス契
約を検討中の潜在的顧客との交渉の過程におけるやりとりであり,社会的に
相当な範囲を超える営業活動とまでいうことはできないこと等からすると,
原告は,おおむね社会通念上相当とされる範囲の営業行為をしてきたという
べきであり,指摘事項①の「原告が,自らは営業行為における改善行為を行
わず,被告の顧客に対し,継続的,頻繁に,社会的に相当な範囲を超える営
業行為を行ってきた」ことについては,「他人の営業上の信用を害する虚偽
の事実」に該当すると認めるのが相当である。
(3)被告は,原告は,被告の顧客に対して継続的,頻繁に,執拗な営業行為
をしてきており,指摘事項①は真実である旨を主張するが,被告の主張する
原告DMや,原告による被告の顧客との交渉内容等を前提としても,原告が,
被告の顧客に対して社会通念上相当な範囲を逸脱した営業行為を行ったこと
を認めることは困難であり,被告の主張を採用することはできない。
被告は,原告が,被告の東京都港区青山の拠点の顧客であるプレイボーイ
社の担当者Fに対し,執拗な勧誘行為をした旨主張し,平成21年2月,原
告担当者が,同人に対し,オフィスの直通電話に直接連絡をして営業行為を
行い,その際,しきりに被告よりも料金が低額であることを強硬に主張した
こと等から,Fが不快な思いをしたとの内容の証拠(乙8,9,46)を提
出するが,同証拠においても,Fに連絡した原告担当者の氏名は明らかでは
なく,原告担当者が同人に連絡したこと自体明らかとは言えない上,Fが不
快な思いをしたというのは,被告のCがL宛てのメールで述べているにすぎ
ないこと等からすると,被告の上記主張を推認するには足りず,その他,同
事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,被告の上記主張を採用する
ことはできない。
被告は,本件通知を送付するに至った経緯や,背景事情としての原告と被
告間における世界的な競争関係をるる主張し,これに沿う証拠(乙39,4
0)を提出するが,上記認定のとおり,原告DMに関する原告と被告間の交
渉の経緯からしても,原告による原告DMの送付行為が,社会的に相当な範
囲を超えた営業行為であったと認めることはできず,また,原告と被告がそ
れぞれ属する企業グループが,世界的な競争関係にあるとしても,そのこと
によって,本件通知の指摘事項①が,受け手である原告の顧客において,真
実と異なる誤解に陥ることがない等ということもできないから,被告の上記
主張を採用することはできない。
2争点(1)不正競争行為の成否,争点(1)−2指摘事項②について
(1)被告は,指摘事項②は,「サービスの質が劣る」,「割高」という証拠
等による証明になじまない価値判断や評価を要素とする記述を含むから,具
体性を伴わない一方競争業者による意見にすぎず,「事実」(不正競争防止
法2条1項14号)に該当しないと主張する。
しかしながら,原告及び被告が提供するレンタルオフィス事業におけるサ
ービス内容は,賃貸オフィスの面積,賃貸借契約の期間,IT設備及びサポ
ート体制,その他のサービスの内容,利用料金等の具体的な条件の組合せに
より規定されるものであり,各社のサービスの質や条件の比較も可能と考え
られることからすると,指摘事項②における「『サービスの質』が被告より
『大きく劣る』」とか,「割高」とは,「レンタルオフィス業において,原
告及び被告がそれぞれ提供するサービス,料金等を対比すると,原告は,サ
ービスの質に対して料金が高額である。」とのある程度具体性をもった内容
を告知しているものと解されるから,指摘事項②は,かかる原告における料
金やサービス等のあり方を表現したものというべきである。したがって,指
摘事項②は,証拠等による証明になじまない価値判断や評価ではなく,「事
実」に該当すると認めるのが相当である。
(2)そこで,次に指摘事項②が「虚偽の事実」に該当するか否かについて検
討する。前提となる事実に加え,証拠(甲11,12,15,乙10∼13,
22∼31,33,34,36,37,ただし,枝番を含む。)及び弁論の
全趣旨によると,次の各事実を認めることができる。
アインターネット回線の通信速度については,被告が測定した平成21年
8月20日時点において,原告の新宿のオフィスが使用するサーバーの通
信速度は,ダウンロード速度が1968kbps,アップロード速度が1
949kbpsであるのに対し,被告の城山のオフィスが使用するサーバ
ーの通信速度は,ダウンロード速度が24344kbps,アップロード
速度が23350kbpsであり,被告のアップロード速度は,日本で第
6位に位置づけられている。なお,原告の新宿のオフィスにおける,イン
ターネット回線帯域は,平成20年9月に10Mbpsから20Mbps
に増速され,平成21年4月14日時点における回線帯域は,IN(ダウ
ンロード)が20Mbps,OUT(アップロード)が100Mbpsと
なっている(甲11,乙22∼24)。
イ通信ケーブルの規格には,①カテゴリー5(Cat5),②カテゴリー
5e(Cat5e),③カテゴリー6(Cat6)等があり,それぞれ活
用可能な周波数帯域が,①,②100MHz,③250MHz,最大速度
が①100Mbps,②,③1Gbpsであり,③カテゴリー6は,①カ
テゴリー5又は②カテゴリー5eと比較して,伝送帯域と通信速度等の伝
送性能が改善され,エラーの発生率も低下して安定した通信が可能となる
ところ,原告のオフィスでは,①カテゴリー5の通信ケーブルが使用され
ているのに対し,被告のオフィスでは,③カテゴリー6の通信ケーブルが
使用されている(乙27∼31)。
ウITサポートについては,原告のオフィスでは,赤坂のオフィスに技術
者がおり,他のオフィスにはオペレーションスタッフが勤務するのみであ
るが,赤坂のオフィス又は他の会社の技術者から,電話を通じて,ITサ
ポートを提供している。他方,被告のオフィスでは,インターネット接続
に関する技術者認定資格であるCCNAを有する者が複数名おり,被告の
顧客は,電話から「※1」を押すだけで,平日の営業時間内には1時間以
内に,営業時間外には約6時間以内に,専門的知識を備えたスタッフによ
るITサポートを受けることができる(乙13,25∼27)。
エ文書の印刷については,原告のオフィスでは,常設のオフィスを有さな
い一時的利用顧客は,文書データを各自で直接印刷できず,受付スタッフ
に印刷を代行させる必要があるのに対し,被告のオフィスでは,各自のデ
スクから直接,プリンターに出力して,自由に文書を印刷することができ
る(乙13,27)。
オ電話機については,原告のオフィスでは,常設のオフィスを有さない一
時的利用顧客は,専用の電話機を与えられないため,外部から直接電話を
受けることができず,外線に電話する際も,暗証番号を入力する必要があ
るが,被告のオフィスでは,デスクに1台の電話機が備えられている(乙
13,27)。
カ原告の新宿のオフィスでは,一時的利用顧客は,特定の顧客による大量
データの送受信によって回線が麻痺することを防止する観点から,顧客単
位で2Mbpsの共用回線の利用可能帯域が設定されており,通信速度の
速い専用回線を利用する場合には,継続的に利用するための契約を締結し
なければならず,通信データの容量を増加させるためには,専用1単位容
量ごとに月額10万円の追加料金を要する。原告としては,専用回線を持
たない顧客からクレームを受けたことはないこと,オフィス全体の回線使
用容量は,ピーク時でも3Mbps程度であり,利用実績でも2Mbps
強であるから,全体として20Mbpsの共用回線を有し,各顧客単位で
の最大2Mbpsの制限をしても,顧客に不都合を生じさせるものではな
いこと,顧客に「専用帯域」を保証する場合には,原告が1年間専用回線
を購入しなければならないから,一時的利用顧客のために専用帯域の使用
を保証することは,コスト面から見合わないこと等の見解を有している
(甲15,乙13)。
キ被告のオフィスでは,電話1回線につき月額2万5000円(5回線目
より月額1万5000円,11回線目より月額1万円)を,インターネッ
ト回線は1回線につき月額2万2500円(5回線目より月額1万200
0円,11回線目より月額1万円)を,WiFiは1回線につき月額2万
2500円の各利用料金を要する(甲12)。
ク原告の新宿のオフィスでは,10名相当の面積22平方メートルの役員
会議室の利用料金が,1時間当たり1万8500円,1日当たり7万40
00円であり,原告の他の拠点における同等の面積の役員会議室の利用料
金についてもおおむね同様であるのに対し,被告の城山のオフィスでは,
12名相当の役員会議室の利用料金が,1時間当たり1万1550円,1
日当たり6万9300円である(乙27,34)。
ケその他の費用については,原告のオフィスでは,利用開始に当たり,利
用者1人当たり8000円のセットアップ料金を要するが,被告のオフィ
スでは,IP電話の回線接続設定やインターネットの接続初期設定等,設
備のセットアップにかかる費用は存在していない(乙27,36,37)。
コ原告のオフィスでは,賃貸借契約締結時に,賃料2か月分の保証金を要
し,契約期間も,3か月未満の契約は想定されていないが,被告のオフィ
スでは,賃料1か月分の保証金で足り,1か月単位での賃貸借契約も可能
である(乙33,36)。
サリージャスの利用者のブログ等では,インターネットの回線速度や追加
料金等について,苦情を述べるものが複数存在しているが(乙10∼1
2),いずれも利用者側からの事実関係や感想を述べるものであり,客観
的に内容を検証する記事とはいえない。
(2)以上の認定事実によると,原告と被告のいずれのサービスにおいても追
加料金が発生する場合があること,インターネット回線の通信速度や,一時
的利用顧客に対する容量制限等の原告のサービスについては,原告の顧客か
ら苦情が寄せられたことを認めるに足る証拠がないことがそれぞれ認められ
るが,他方において,原告のサービスのうち,上記のインターネット回線の
通信速度や一時的利用顧客に対するインターネット回線の容量設定の他,通
信ケーブルの規格,ITサポートの体制,一時的利用顧客に対する文書の印
刷方法の制限,会議室の利用料金,契約時の保証金やセットアップ料金,契
約期間等については,被告のサービスと比較して,必ずしもより良質のもの
とはいえないこと,原告の利用料金についても,被告の料金と比較して,よ
り顧客に有利なものが設定されていると認めるに足りる証拠がないこと等か
らすると,原告の提供する条件が,被告の提供する条件と対比して,同等又
はより良質のサービスについて,同等又はより低額の利用料金が設定されて
いることを推認することはできないというべきである。
したがって,指摘事項②の「被告との対比において,原告は,サービスの
質に対して料金が高額である。」ことが「虚偽の事実」に該当すると認める
には足りず,その他,上記事実を認めるに足りる証拠はない。
(3)なお,原告は,被告の覆面調査報告書(乙13)について,原告担当者
の許諾なく会話を録音したものであり,原告担当者の人格権を侵害する行為
であるから,証拠能力がない旨を主張する。そして,確かに,当該報告書
(乙13)の収集方法には,必ずしも適切とは言い難い点が認められるとこ
ろであるが,原告担当者の自由意思を抑圧する等の手段を取る等したことは
ないこと,当該報告書(乙13)は,原告担当者が,被告従業員の質疑に応
じて,原告のオフィスにおけるサービスについて述べたことを内容としてお
り,顧客に対する一般的な説明として,内容面における秘匿性が高度のもの
とは考えられないこと等からすると,証拠の収集において,著しく反社会的
と認めることはできず,証拠能力を否定されないというべきである。
3争点(1)不正競争行為の成否,争点(1)−3指摘事項③について
(1)指摘事項③は,「Regusは,昨今の経済低迷期に200を超える拠
点を閉鎖,会社更生法を申請したため,10,000以上ものクライアント
がオフィス退去や住所利用停止を余儀なくされ」たことを内容とするところ,
これが「虚偽の事実」に該当するか否かにについて検討する。前提となる事
実に加え,証拠(甲1,19,乙14,15,19,ただし,枝番を含
む。)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実を認めることができる。
ア原告は,日本法人である。
イ本件通知の送付を受けた者は,外資系の会社が多いが,いずれも,日本
の拠点のオフィスを賃借する原告の顧客である。
ウ本件通知は,英文(乙14)を和訳したものであるが,本件通知が送付
された原告の顧客29社のうち,34.5%相当の10社には,和文(甲
1)の通知のみが送付され,65.5%相当の19社には,和文(甲1)
と英文(乙14)の通知が送付された(乙19)。
エ(ア)原告は,会社更生法の申請をしたことはなく,200を超える拠点
を閉鎖したり,1万以上の顧客がオフィス退去や住所利用停止となった
こともない。
(イ)リージャスグループにおける英国法人は,米国における賃貸借契約
の大部分の賃借人としての米国法人,米国の賃貸借契約の保証人として
の蘭国法人とともに,平成15年1月14日,米国連邦破産裁判所に対
し,米国連邦倒産法11章(チャプターイレブン)の適用の申請をした
ことがあった(乙15)。
(ウ)リージャスグループは,平成14年12月,英国の事業の58%を,
アルケミー・パートナーズに対して売却したが,当該企業支配権の売却
により,英国の事業体の地位は,完全所有連結子会社から,会計上の持
分法に基づき会計報告がされる関連会社に変更され,ワークステーショ
ン数は,平成14年の合計8万7494から,平成15年の合計5万5
618に減少した(乙15)。なお,リージャスグループは,平成18
年には,上記英国事業の買い戻しを行ったことから,ワークステーショ
ン数が英国において合計1万8498増加し,総数において10万72
57となった(甲19)。
(2)以上の認定事実によると,指摘事項③は,平成21年2,3月に本件通
知の送付を受けた原告の顧客において,「日本法人である原告が,近時の経
済環境の悪化に伴い,200を超える拠点を閉鎖し,会社更生法を申請した
ことから,1万以上もの顧客がオフィス退去や住所利用停止を余儀なくされ
た」との真実に反する誤解を与えるものであるから,「他人の営業上の信用
を害する虚偽の事実」に該当すると認めるのが相当である。
(3)被告は,指摘事項③の「Regus」は,リージャスグループ全体につ
いて述べたものであり,「会社更生法の申請」とは,その米国法人,英国法
人,蘭国法人が平成15年に米国連邦倒産法のチャプターイレブンの申立て
をしたことを意味するから「虚偽の事実」ではない旨を主張する。また,そ
の理由として,本件通知の送付先は,外資系企業が多く,本件通知も,一次
的には英文で作成され,送付先の65%には,英文と日本文の双方が送付さ
れたこと,チャプターイレブンが一般には「会社更生法」と翻訳されること,
原告はリージャスグループの一員として,事業展開や宣伝活動をしているこ
と等を主張する。
しかしながら,本件通知は,その送付先が,日本法人である原告との間に
おいて,日本の所在するオフィスについて賃貸借契約を締結した者であるこ
とや,本件通知の内容及び趣旨が,被告の営業活動として,レンタルオフィ
スに関してより有利なサービスや条件を提示した上で,被告との契約を誘引
する内容となっていること等からすると,受け手の立場においては,本件通
知の「Regus」との文言は,「リージャスグループ」ではなく,直接の
契約の相手方である「原告」を意味すると解するのが自然である。また,本
件通知の日本文(甲1)がすべての送付先に送付されているのに対し,英文
(乙14)は,一部の送付先にしか送付されていないことからすると,本件
通知においては,日本文のものが一次的なものであり,本件通知の「会社更
生法」との文言も,日本法における会社更生法と解するのが相当というべき
である。したがって,被告の上記主張は,これと前提を異にするものであり,
採用することはできない。
被告は,指摘事項③の「200を超える拠点」,「10,000以上のク
ライアント」は,リージャスグループについて記載したものであり,平成1
4年から15年にかけて,法的倒産手続の申立てを行ったり,同グループの
中核事業地域であった英国において,半数以上の事業を手放すほどにリージ
ャスグループの経済状況が逼迫していたことは事実であるから,顧客に客観
的事実に反する誤解は生じないと主張するが,本件通知における「Regu
s」とは,日本法人としての「原告」を意味すると解するのが相当であるか
ら,上記と同様,被告の主張は採用することができない。
4争点(2)違法性阻却事由の有無について
被告は,本件通知は,被告が,原告から受けた悪質な顧客奪取行為から自社
の営業の自由を防御するために送付したものであるから,正当な防衛行為とし
て違法性が阻却されると主張する。
しかしながら,上記第3,1のとおり,被告が原告による悪質な顧客奪取行
為として主張する原告による原告DMの送付行為等については,いずれも社会
的相当な範囲を超える営業行為と認めることはできないから,被告の上記主張
は,その前提を欠くというべきである。したがって,被告の上記主張を採用す
ることはできない。
5争点(3)差止請求の可否について
被告は,本件通知を送付した後,「営業上の信用を害する虚偽の事実」であ
る指摘事項①及び指摘事項③の内容について,これを改めて告知又は流布する
ことは行っていないものの,「原告が当該顧客奪取行為を行わない限り,被告
が再び本件通知を原告の顧客らに対し送付する理由はない」旨を主張する。
そして,被告は,従前,第3,1のとおり,通常の営業行為として,何ら社
会的相当な範囲を超えるものではない原告による被告の顧客に対する原告DM
の送付等の営業行為について,これが顧客奪取行為に該当すると認識してきた
ものであるから,被告においては,今後行われる原告による同様の営業行為に
ついても,顧客奪取行為であると認識し,改めて指摘事項①及び指摘事項③を,
告知し,又は流布するおそれがあると認めるのが相当である。
したがって,被告は,指摘事項①及び指摘事項③の不正競争行為によって,
原告の営業上の利益を害しただけでなく,今後とも,「営業上の利益を侵害す
るおそれがある」(不正競争防止法3条)というべきであるから,原告の差止
請求については,原告の顧客及び今後原告の顧客となる可能性のある相手先,
すなわち,原告の潜在的顧客に対し,指摘事項①及び指摘事項③の内容を告知
及び流布することについて差止を求める範囲において理由があるといえる。ま
た,原告の廃棄請求については,差止実現のための具体的態様としては,本件
通知文書の記載のうち,指摘事項①及び指摘事項③の内容の記載を抹消するこ
とをもって必要にして十分といえるから,上記の抹消を求める範囲において理
由があるというべきである。
6争点(4)故意過失の有無について
第3,1,同3のとおり,指摘事項①及び指摘事項③は,他人の営業上の信
用を害する虚偽の事実に該当するところ,被告において,指摘事項①である
「原告が,自らは営業行為における改善行為を行わず,被告の顧客に対し,継
続的,頻繁に,社会的に相当な範囲を超える営業行為を行ってきた」こと,及
び,指摘事項③である「日本法人である原告が,近時の経済環境の悪化に伴い,
200を超える拠点を閉鎖し,会社更生法を申請したことから,10,000
以上もの顧客がオフィス退去や住所利用停止を余儀なくされた」ことについて,
いずれもこれを客観的な根拠に基づいて真実であると認識していたということ
はできず,被告がこれらの内容を真実と認識したことに相当の理由があったと
認めることはできないから,被告には,本件通知により,他人の営業上の信用
を害する虚偽の事実である指摘事項①及び指摘事項③の内容を告知することに
ついて,過失があったと認めるのが相当である。
7争点(5)損害について
(1)被告は,不正競争行為により原告に生じた損害を賠償する義務を負うと
ころ,証拠(甲20,22)及び弁論の全趣旨によると,原告の損害に関し
て,次の各事実を認めることができる。
ア人件費
(ア)原告は,被告による本件通知の送付行為に対し,①I(コマーシャ
ル・ディレクター・北アジア地域担当),②D(エリア・ディレクタ
ー),③J(アカウンタント・経理担当者)による特別対策チームを立
ち上げた。特別対策チームは,被告による本件通知の送付行為の規模,
期間,影響等の情報収集及び被告による行為を中止させるための解決策
の模索をしたが,具体的には,①Iにおいて,本件通知に関する概要把
握,各部門への調査指示,弁護士との折衝,被告への内容証明郵便の送
付指示,訴訟提起のための準備作業等を担当して,本来業務以外に最低
40時間を費やし,②Dにおいて,各セールスマネージャーからの聴き
取り調査,既存顧客への説明,契約更新時の値引き対応に関する決裁等
を担当して,本来業務以外に最低約16時間を費やし,③Jにおいて,
各種資料作成,社内通知文書の作成,経費支出状況の把握等を担当して,
本来業務以外に最低約20時間を費やした。そして,上記作業について,
各人の時給を基準に算定して,少なくとも45万5208円の人件費を
要した。
(イ)原告の特別対策チームは,原告のゼネラルマネージャーと日本各地
のエリア・セールス・マネージャの合計15名に対し,本件通知の送付
状況の確認,本件通知に伴う顧客からの電話対応の状況等に関する調査
結果を報告するよう求めたことから,各マネージャーは一連の作業を担
当し,合計16時間を費やした。そして,上記作業について,各人の時
給を基準に算定して,少なくとも合計74万0400円の人件費を要し
た。
(ウ)合計119万5608円
イ無形損害
本件通知は,指摘事項①において,原告の営業行為のあり方について,
指摘事項③において,原告の経営状況,経済的状況について,いずれも受
け手に対し真実と反する誤解を与える内容となっており,原告の信用を害
する内容となっているものであるところ,証拠(甲20,22)及び弁論
の全趣旨によると,原告は,本件通知の送付後,東京のある拠点の既存の
顧客から,原告の経営状態に対する不安を厳しく指摘され,経営状況が健
全であることの証明を書面で回答するよう求められたり,本件通知のよう
なダイレクトメールが再度送付されるおそれから,常に不審郵便物の調査
を強いられ,関係のない顧客にも不愉快な思いをさせることもあること,
原告の既存顧客からは,本件通知における経営状況に対する信用不安を交
渉の材料として,賃料の引き下げを求められる等していること等がそれぞ
れ認められるから,これらの各事情に鑑みると,本件通知の送付行為によ
り原告が被った信用毀損による無形損害は200万円と認めるのが相当で
ある。
ウ弁護士費用30万円
本件事案の内容,本件訴訟の経緯等に鑑みると,本件訴訟の遂行に要し
た弁護士費用は30万円と認めるのが相当である。
エ損害額の合計349万5608円
(2)被告は,原告の主張する人件費の主張立証は,具体性,客観性に乏しい
等と主張するが,原告の提出する証拠(甲20,22)は,いずれもエリア
を統括する責任者による陳述書であり,具体的な業務内容や時給を把握して
いるものと認められることからすると,これらの陳述書の信用性が低いとは
いえず,被告の上記主張を採用することはできない。
原告は,被告による本件通知の送付により,シンガポール・エクスチェン
ジ社及びトラベルズー社による契約の不更新及び中途解約が発生したとして,
逸失利益を損害として主張するが,原告及び被告が業とするレンタルオフィ
ス事業においては,短期間の賃貸借契約を締結するため,契約の不更新や中
途解約が生じることもないわけではないとの内容の証拠(乙48)や,シン
ガポール・エクスチェンジ社は,平成20年初旬から,被告のオフィスに移
転することを計画していたこと,トラベルズー社は,本件通知が送付された
後,間もない平成21年2月27日には,原告との間で,米国におけるリー
ジャスグループの新たな拠点を賃借する内容を含む合意書(甲31)を締結
していること(乙65)等からすると,上記2社において,被告の本件通知
を主要な理由として,契約の不更新又は中途解約をしたということはできず,
その他,これを認めるに足りる証拠はない。
(3)被告は,人件費及び逸失利益の財産的損害に関する主張は,平成22年
10月15日の第15回弁論準備手続期日において陳述された同月8日付け
「訴え変更の申立書」において初めて追加された主張であり,平成21年9
月30日の第3回弁論準備手続期日における原告の言動にも反するものであ
るから,時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条1項)又は禁反言
の原則ないし訴訟追行上の信義則に反するから,却下されるべきであると主
張する。
しかしながら,平成21年9月30日の第3回弁論準備手続期日において,
原告は,「損害論についての主張立証もほぼ完了した。」と述べるに止まる
こと(同弁論準備手続期日調書参照),本件においては,平成21年12月
9日の本件第5回弁論準備手続期日以後,平成22年9月10日の第14回
弁論準備手続期日に至るまでの間は,和解協議を行っていたものであり,和
解協議が打ち切られた後の平成22年10月15日の第15回弁論準備手続
期日において,上記主張の追加が行われ,同年12月6日の第16回弁論準
備手続期日,平成23年1月17日の第17回弁論準備手続期日を経た後,
同日の第2回口頭弁論期日で弁論終結に至ったこと,上記の追加された主張
の事実関係は,平成21年9月30日の第3回弁論準備手続期日において陳
述された原告準備書面(2)において,既に無形損害の事情としておおむね記
載されていたものであり,一部の証拠(甲20,22)は,同年11月4日
の第4回弁論準備手続期日までに提出されていたこと,逸失利益の主張につ
いては,内容が確定するのに一定の期間を要したとの原告の反論も合理的で
あること等からすると,上記追加の主張が「時機に後れて提出した」ものと
いうことはできず,上記主張の追加により「訴訟の完結を遅延させることと
なる」と認めることもできないというべきである。
したがって,上記本件訴訟の経緯や,原告の追加主張の内容等からすると,
原告による上記主張の追加が時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157
条1項)に該当するとはいえず,また,禁反言の原則ないし訴訟追行上の信
義則に反するということもできないから,被告の上記主張を採用することは
できない。
8争点(6)信用回復の措置について
本件においては,本件通知の送付行為が,平成21年2月20日ころから同
年3月6日までの限定された期間に,原告の顧客29社に対して行われており,
その後,新たに被告による本件通知の送付行為がされていないこと等からする
と,損害賠償の他に,信頼回復のための措置を講じる必要性を認めることはで
きないというべきである。
第4結論
以上により,原告の請求は,指摘事項①及び指摘事項③の内容の告知及び流
布の差止,本件通知のうち,上記内容の記載の抹消,損害賠償として349万
5608円及びうち230万円に対する訴状送達日の翌日である平成21年5
月1日から,うち119万5608円に対する当該請求を追加した訴え変更の
申立書の送達日の翌日である平成22年10月14日から,各支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから,
その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,これを棄却する
こととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官菊池絵理
裁判官坂本三郎は,転官につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官大須賀滋

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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