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平成23年(う)第1654号ストーカー行為等の規制等に関する法
律違反,邸宅侵入被告事件
平成24年1月18日東京高等裁判所第3刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,法令適用の誤りないし事実誤認の主張及び量刑不当の主
張である。
第1法令適用の誤りないし事実誤認の主張について
1原判決の要旨
原判決は,ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制
法」又は「本法」という。)2条1項1号の「見張り」とは相手方の行動を監
視する行為をいい,また,同号の「押し掛ける」とは相手方の意思に反して住
居等を訪問する行為をいうと解されるとした上で,①被告人が,平成22年1
2月19日午前2時18分頃から同22分頃までの間(原判示別表番号1),
平成23年1月29日午後10時39分頃から同40分頃までの間(同2)及
び同年2月5日午後11時29分頃から同30分頃までの間(同3),被害者
の居住する集合住宅の敷地内の駐車場(以下「本件駐車場」という。)付近に
おいて被害者が使用する自動車の存否を確認した行為(以下,被告人のこれら
の各行為を「原判示①の各行為」ということがある。)は,いずれも同号の
「見張り」をする行為(以下,単に「見張り」ということがある。)に,また,
②被告人が,同月19日午前7時27分頃に上記集合住宅の被害者方玄関付近
の通路において同玄関付近の様子をうかがった行為(同4),同月20日午前
零時23分頃から同24分頃までの間,本件駐車場において上記自動車の存否
を確認し,上記通路において被害者方玄関付近の様子をうかがった行為(同
5),及び,同年3月18日午後11時11分頃から同20分頃までの間,上
記通路において被害者方玄関付近の様子をうかがった行為(同6)(以下,被
告人のこれらの各行為を「原判示②の各行為」といい,これらの各行為と原判
示①の各行為を総称して「原判示の各行為」ということがある。)は,いずれ
も同号の「見張り」をする行為及び「押し掛ける」行為(以下,後者を単に
「押し掛け」ということがある。)に該当し,被告人は,被害者の身体の安全,
住居等の平穏が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるよ
うな方法(同条2項)によりこれらの行為を反復して行ったもので,被告人の
行為は同条2項のストーカー行為に当たるとした。
2控訴趣意の要旨
論旨は,要するに,①本法2条1項1号の「見張り」をする行為とは,「対
象の動静をある程度継続した時間,監視,注視すること」をいうと解すべきで
あって,原判決が「見張り」を「監視」というより抽象度の高い表現に置き換
えているのは相当でなく,被告人は,被害者の使用する自動車の存否又は被害
者の居住継続の有無をごく短時間のうちに確認したにすぎず,被害者の具体的
な動静を,一定時間継続して,監視,注視することはしていないから,原判示
の各行為は「見張り」には該当せず,②同号の「押し掛ける」行為とは,「相
手方が予期,承諾していないのに,人の家に行き突然面会を求め,あるいは威
力を用いて相手方に自己の存在を知らしめる行為」をいうと解すべきであり,
深夜ないし早朝の時間帯を選ぶなどして被害者に被告人がその場に滞在してい
ることを知られることのないように行動していた被告人の原判示②の各行為は,
「押し掛け」に該当せず,③被告人は,上記のとおり被害者に被告人がその場
に滞在していることを知られることのないように行動しており,同条2項に規
定する方法により行われた場合に該当しないから,原判決には,判決に影響を
及ぼすことが明らかな法令適用の誤りないし事実の誤認があるというのである。
3当裁判所の判断
被告人が,原判示の各行為を行ったことは,客観的証拠から明らかであ
り,争いがない。
「見張り」行為について
本法は,個人の身体,自由及び名誉に対する危害の発生を防止し,あわせて
国民の生活の安全と平穏に資することを目的とするものであり(1条),その
ために,本法所定のつきまとい等をして,その相手方に身体の安全,住居等の
平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせ
ることを禁止していること(3条)に照らすと,本法所定の「見張り」の意義
についても,このような本法の目的や規制の趣旨に即して解釈されるべきであ
る。一般に,「見張り」とは,主に視覚等の感覚器官によって対象の動静を観
察する行為をいうということができ,したがって,本法所定の「見張り」にも,
その性質上ある程度の継続的性質が伴うというべきであり,本法に関する警察
庁生活安全局長通達「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運
用上の留意事項について(通達)」(平成21年3月30日,丙生企発第31
号)も,「『見張り』とは,一定時間継続的に動静を見守ることをいう。」と
して(同通達第2の1ア),「見張り」が継続的性質を有するものであるこ
とを明らかにしているところである。しかしながら,この継続性は,一般的な
「見張り」の概念に内在する性質であって,それに付加して必要とされる要件
ではない。そして,観察にどの程度の時間を要するかは,観察する目的によっ
て異なり,たとえば,相手方の使用する自動車の有無や被害者の居室の照明等
により相手方が在宅しているかどうかを確認するような場合には,ごく短時間
の観察で目的が達せられることも十分あり得るところであり,そのような行為
を観察時間が短いことのみを理由に「見張り」に当たらないとして本法の規制
の対象から除外すべき理由はない。また,相手方の動静を観察することは,必
ずしも1回に相当程度の時間継続して観察しなくとも,ごく短時間の観察を繰
り返すことによっても可能であるから,そのように繰り返して観察する場合に
は,たとえその一環として行われる個々の観察行為自体は短時間であっても,
個々の観察行為それぞれが継続的性質を有する「見張り」に当たるということ
ができる。
所論は,個々の観察行為それ自体が相当程度の時間継続する必要があるとす
る趣旨のようであるが,そうであれば,賛成できない。
原判決は,本法上の「見張り」とは「相手方の行動を監視することをいう」
としているところ,一般に,「監視」には,機器を使用して秘密裏に行われる
ものも含まれると解され,本法2条が,「見張り」については,つきまとい行
為,待ち伏せ行為,進路に立ちふさがる行為及び住居等への押し掛け行為と併
せて,住居等の付近において行うものを規制対象とし(同条1項1号),同項
2号の「監視」については,そのような場所的限定を付していないことをも併
せ考えると,「見張り」と「監視」を同義であるかのようにいう原判決の解釈
は,適切であるとはいい難いが,原判示の各行為は,いずれも,被害者が在
宅しているか否か,転居しているか否か等その動静を観察するものであって,
被害者の住居の付近で行われるこのような行為が,被害者に対し,その住居等
の平穏が害され,行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるようなもので
あることは明らかであることから,原判示の各行為がいずれも本法上の「見張
り」に該当するとした原判決は正当である。
「押し掛ける」行為について
次に,本法2条1項1号の「押し掛ける」行為について検討すると,前記本
法の目的や規制の趣旨に照らすと,「押し掛け」とは,「住居等の平穏が害さ
れるような態様で行われる訪問であって社会通念上容認されないもの」(前記
通達第2の1ア)をいい,より具体的には,相手方が拒絶し,又は拒絶する
ことが予想されるのに,相手方の住居等に行く行為をいうものと解されるとこ
ろ,被告人が立ち入ったのは被害者の居住する集合住宅の3階の同女方付近通
路であり,同所が被害者の住居そのものではないにしても,被害者の「通常所
在する場所」(本法2条1項1号)に当たることは明らかであるから,被害者
の意に反して上記場所に立ち入った被告人の行為が「押し掛ける」行為に該当
することは明らかである。以上と同旨と認められる原判決は,正当である。
所論は,「押し掛け」等本法2条1項1号所定の行為は,いずれも相手方に
直接的な迷惑を及ぼす行為であって,当然に相手方がこれを知ることが含意さ
れているとし,これを前提とすると,前記のとおり,「押し掛ける」行為とは,
「相手方が予期,承諾していないのに,人の家に行き突然面会を求め,あるい
は面会を求めなくても威力を用いて相手方に自己の存在を知らしめる行為」を
いうと解すべきであり,相手方に自己の存在を知らせないような被告人の行為
は,「押し掛け」に該当しないと主張する。
しかしながら,「押し掛ける」行為を現に面会を求め,又は威力を用いてす
る場合に限定すべき理由はなく,また,所論は,行為の時点で相手方に自己の
存在を知らせる態様のものであることが必要であるとの趣旨のようであるが,
「押し掛ける」行為については,住居等に相手方が現に存在する必要があると
は解されないから,当該行為の時点で相手方がこれを知ることが含意されてい
るとはいえず,所論は採用できない。
本法2条2項の要件について
被告人が,夜間ないし深夜に,被害者の住居の付近で見張りをしたり,出入
口等に「居住者及び関係者以外立入禁止」の表示がされた前記集合住宅に立ち
入って被害者方玄関付近まで押し掛けたりする行為が,被害者に対し,住居等
の平穏が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるようなも
のであることは明らかであり(なお,被告人は,平成22年4月17日に,被
害者に対するつきまとい等をしてはならない旨の本法4条1項の警告を受けた
にもかかわらず,本件つきまとい等の行為を行ったもので,かかる被告人の行
為が被害者に上記不安を覚えさせるようなものであることは十分に認識してい
たと認められる。),これを認めた原判決の判断は正当である。
所論は,被告人は,被害者に被告人がその場に滞在していることを知られる
ことのないように行動していたから,本法2条2項に規定する方法により行わ
れた場合に該当しないと主張するが,同条1項1号ないし4号の行為は,直接
相手方に向けられるとは限らないものであっても,当該行為が相手方の日常の
生活圏で行われるものであることから,相手方においてこれを認識する機会が
十分にあるとともに,そのため相手方に上記不安を覚えさせることになると考
えられるものであって,前記本法の目的及び趣旨に鑑みれば,同項所定の方法
に当たるかどうかは,当該行為の時点で相手方がそれを認識していたかどうか
を問わず,相手方が当該行為を認識した場合に相手方に上記不安を覚えさせる
ようなものかどうかという観点から判断すべきものと解される(前記通達第2
の2(2)参照)。所論は採用できない。
以上のとおり,原判決には,所論指摘のような,判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな法令適用の誤りや事実の誤認があるとはいえず,論旨は理由がな
い。
第2量刑不当の主張について
論旨は,要するに,被告人を懲役10月に処し,その刑の執行を猶予した原
判決の量刑は,罰金刑を選択しなかった点において重すぎて不当であるという
のである。
そこで検討すると,本件は,前記ストーカー規制法違反の罪及び原判示別表
番号4ないし6の行為の際の邸宅侵入罪から成る事案であるところ,被告人は,
被害者と同じ会社に勤務していた平成16年頃,被害者と知り合い,一旦は結
婚を前提として同棲したものの,やがて被害者から同棲を解消された後,平成
19年1月,被害者から一切の接触を断られ,交際そのものを解消されるに至
ったが,被害者に対する恋愛感情を断ち難く,翻意を求めて繰り返し電子メー
ルを送ったり,被害者方付近をうろついたりしたことから,被害者が警察に相
談した結果,平成22年4月,本法による警告を受けたにもかかわらず,本件
犯行に至ったものであって,犯行に至る経緯に特に酌むべきものはない。本件
ストーカー行為は長期にわたる執拗なもので,被害者のその間の不安や捜査の
結果本件犯行の全貌を知った際の衝撃も大きかったものと推察される。所論は,
被告人は被害者に自分がその場に滞在していることを知られないようにしてい
たとして,被告人の行為は著しく非難可能性が低いと主張するが,被害者は,
被告人が上記警告を受けた後も被害者につきまとっているのではないかと不安
に感じて警察に相談しており,また,被害者が捜査結果により被告人のつきま
とい等を知った後にも本件ストーカー行為は継続して行われているのであるか
ら,被害者は不安を感じていなかったとか,被害者の不安は小さかったなどと
いうことはできない。
そうすると,被告人の刑事責任を軽くみることはできず,被告人が事実を認
め,二度と被害者の住居等に行かないと約束するなど反省の態度を示している
こと,前科,前歴のないこと,禁錮以上の刑を受けると宅地建物取引主任者の
登録を抹消されることになることなどの事情を被告人のために十分考慮しても,
本件が,罰金刑を選択するのが相当な事案とはいえず,原判決の量刑が刑期の
点を含め重すぎて不当であるとはいえない。
論旨は理由がない。
よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のと
おり判決する。
(裁判長裁判官金谷暁裁判官土屋靖之裁判官伊東顕)

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