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主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,9万5000円及びこれに対する平成9年12
月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審を通じてこれを15分し,その14を控訴人の,その
余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,147万8000円及びこれに対する平成9
年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要
 事案の概要は,原判決「事実および理由」中の「第二 事案の概要」に記載の
とおりであるから,これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因1項について
原判決書6頁4行目から同頁18行目に記載のとおりであるから,これを引
用する(ただし,原判決書6頁5行目の「乙第9号証」を「乙第10号証」に改め
る。)。
2 請求原因2項について
(1) 控訴人は,被控訴人が平成7年10月18日の自動車保険契約の更改手続
の際に,故意に車両保険条項を抹消し,車両保険の付されていないシルバーコース
の保険契約で更改を行った旨主張する。
 しかし,控訴人はシルバーコースの保険契約での更改を申し込んだこと自
体は自認している。したがって,乙5号証のシルバーコース欄のチェックが控訴人
自身によってされていなかったとしても,シルバーコースの保険契約への更改を被
控訴人が控訴人の意思に反して行ったと認めることはできないし,本件全証拠を精
査しても,被控訴人が故意に車両保険条項を抹消したことを認めるに足りる証拠も
ない。
(2) 控訴人は,被控訴人が平成7年10月18日の自動車保険契約の更改の際
に,前年度保険と同一の内容である車両保険が付保されている保険への更改を案内
すべきであり,シルバーコースの保険契約に車両保険が付保されていないのであれ
ば,その旨説明すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったため損害を被っ
た旨主張するので検討する。
① 保険募集の取締に関する法律16条1項1号は,保険契約者の利益の保
護と保険事業の健全な発展に資するため,損害保険代理店等が保険契約の締結又は
募集に関して,保険契約者等に対して保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げ
ない行為を禁止し,損害保険代理店等に重要事項の告知義務を課している。本件保
険契約においては,車両保険が付されているか否かは,これが付されていなければ
保険契約者にとっては保険料が安くなるという利益もあるが,保険金が支払われる
場合が少なくなるという不利益もあるから,契約条項のうちの重要な事項に該当す
る。したがって,損害保険代理店である被控訴人は,募集にあたり,車両保険が付
されているか否かを保険契約者に告知しなければならない義務がある。そして,本
件のように,保険期間が1年間で1年ごとに契約を更改する場合には,保険契約者
は,従前の保険の内容を引き続いて維持しようとすることが多く,保険内容の異な
る保険契約に更改する場合には,前年同条件の保険と比較することによって保険種
類の決定をするものと考えられるから,損害保険代理店が従前の保険と内容の異な
る保険を募集する場合には,従前の保険内容との異同点を明示した上で,契約内容
の重要事項を告知する義務があるものというべきである。
 本件において被控訴人が平成7年10月の更改の際に募集したシルバー
プランの保険には,前年までの保険に付されていた車両保険が付されていないので
あるから,被控訴人は,シルバープランの保険には車両保険が付されていないこと
を明示した上で,契約条項を告知する義務があったというべきである。
② そこで,本件において,平成7年10月の更改の際に,被控訴人に上記
告知義務違反があったか否かについて検討する。
 請求原因2項(一)(二),(三)のうち控訴人の認識を除く部分,(五)のう
ち「ほしいままに」を除く部分,(七)①②は当事者間に争いがない。
 上記争いのない事実と証拠(甲1ないし25,乙1ないし8)及び弁論
の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
ア 控訴人は,A産業株式会社に勤務中の平成4年10月30日,被控訴
人の取次によってB海上火災保険株式会社が保険者である団体扱いの自動車保険契
約に加入した。同保険契約は1年ごとに更新された。上記団体扱いの保険契約にお
いて,保険料は控訴人の勤務する会社が控訴人の給与から毎月月額を控除する形で
集金され,保険会社に支払われていた。
イ 控訴人が加入した上記団体扱いの自動車保険契約には車両保険が付さ
れていなかった。控訴人は,平成6年1月ころに控訴人の子のCが交通事故を起こし
たため,同年1月27日,上記保険に車両保険を付け加えた。
ウ 上記自動車保険契約は,平成6年10月30日に更新された(満期は
平成7年10月30日)。その際も車両保険が付されていた。
エ 控訴人は,平成7年4月15日,A産業株式会社を定年退職した。そ
して,団体扱いの自動車保険の保険料残額(5月分から10月分まで)を一括で支
払い,同保険は平成7年10月30日の満期まで継続された。
オ 被控訴人は,平成7年10月ころ,上記自動車保険について平成7年
10月30日の更改時期が近づいたので,控訴人に対し,契約の更改を案内するた
め,「自動車保険の満期更改についてお願い」と題する書面,自動車保険更改申込
書(お客様控え・保険会社用),返信用封筒を送付した。
カ 上記送付書類のうち,自動車保険更改申込書(お客様控え・保険会社
用)には機械打ちで控訴人が現に加入し,満期を迎えることとなる契約の内容が以
下のとおりのものであることが記載されている。
保険の種類      2PAP
車両保険金額     80万円
車両保険料      7,930円
対人賠償保険金額   無制限
対人賠償保険料    10,450円
合計保険料      18,380円
一般分割年額保険料 220,560円
 また,同書面には更改する保険契約の内容について,以下のとおり,
前年同条件プラン,ゴールドコース,シルバーコースの記載がある。
a 前年同条件プラン
車両保険料      6,370円
対人保険料      114,720円
合計保険料      121,090円
b ゴールドコース
保険の種類     2PAP
車両保険金額    (記載なし)
車両保険料     (記載なし)
対人賠償保険金額   無制限
対人賠償保険料   128,540円
合計保険料     128,540円
c シルバーコース
保険の種類     2PAP
車両保険金額    (記載なし)
車両保険料     (記載なし)
対人賠償保険金額   無制限
対人賠償保険料   124,520円
合計保険料     124,520円
キ 同時に送付された「自動車保険の満期更改についてお願い」と題する
書面には,前記更改を勧める3種類の保険について次のとおり保険料の合計額が手
書きで記載されている。それ以外にこれらの3種類の保険の内容や相違点について
は何も記載されていない。
ゴールドコースの場合    \128,540
シルバーコースの場合    \124,520
前年同条件の場合      \121,090
ク これらの書面の記載のうち,自動車保険更改申込書の前年同条件プラ
ンの保険料の車両保険の欄の記載や「自動車保険の満期更改についてお願い」と題
する書面の前年同条件の場合の保険料の記載には誤りがあった。すなわち,自動車
保険更改申込書の前年同条件プランの保険料の車両保険の欄には本来年間保険料で
ある7万6440円と記載すべきであったにもかかわらず,1か月分である637
0円と記載され,合計保険料についても,19万1160円と記載すべきところ,
12万1090円と記載されていた。同様に「自動車保険の満期更改についてお願
い」と題する書面には保険料しか記載されていないにもかかわらず,前年同条件の
場合の保険料合計額を12万1090円と誤って記載されていた。
ケ 控訴人は,上記の被控訴人の更改案内に従って,自動車保険更改申込
書に押印してシルバーコースでの保険更改を申し込むと共に,平成7年10月18
日保険料12万4520円を支払った。被控訴人は,控訴人の申し込みに従って,
同日,控訴人の自動車保険についてシルバーコースでの保険契約をした。
コ 翌年,控訴人は,平成8年10月30日から平成9年10月30日ま
での期間の更改において,前年度同条件での更改を申し込むとともに,保険料11
万3200円を支払ったので,被控訴人は平成8年10月15日,控訴人の自動車
保険について前年度と同一のシルバーコースでの保険で更改をした。
サ 平成9年9月18日,控訴人の子のCが,上記自動車保険の対象である
自動車を運転中に物損事故を起こした。
 控訴人は,同年9月19日に同事故のことを知り,同月24日ころ,
被控訴人に対し,事故を起こしたことを連絡したところ,被控訴人の担当者から上
記自動車保険には車両保険は付されていない旨言われた。
シ 被控訴人は,平成9年10月3日ころ,控訴人に対し,平成9年10
月30日から平成10年10月30日までの期間の自動車保険の更改の案内を送付
したが,控訴人は,同年10月10日ころ,被控訴人に対し,自動車保険は更改し
ない旨通知した。
ス 控訴人は,平成9年12月13日,被控訴人に対し,車両保険が除外
されているのは平成6年にCが起こした交通事故の関係で被控訴人が故意に車両保険
を除外したのではないかなどと記載した内容証明郵便(甲10)を送付した。
③ 以上の認定事実によると,自動車保険更改申込書のシルバーコースやゴ
ールドコースの車両保険の欄は空欄になっているので,これらのコースには車両保
険が付されていないことは同書面の記載を良く見れば分かる。しかし,他方,自動
車保険更改申込書の前年同条件プランの保険料の車両保険の欄の記載や「自動車保
険の満期更改についてお願い」と題する書面の前年同条件の場合の保険料の記載に
は前記のとおりの誤りがある。保険契約者が保険契約の内容を変更する場合,前年
度の保険契約の保険料との比較が重要であると考えられるから,この保険料の誤記
の結果,保険契約者が前年度よりも保険料が高額になるシルバーコースやゴールド
コースには前年度の保険に付されていた車両保険が付されていないという不利益な
部分があることを認識することは難しいといえる。実際,控訴人は,後記のとおり
誤解してしまったのである。本件証拠を精査しても,被控訴人がこの誤記を訂正し
たり,上記の書面を送付した以外にシルバーコースやゴールドコースに車両保険が
付されていないことを控訴人に説明した形跡はない。したがって,上記自動車保険
更改申込書のシルバーコースやゴールドコースの車両保険の欄が空欄になっている
ことだけでは,被控訴人が,保険内容の重要な事項であり,前年度の保険内容との
重大な相違点である車両保険がシルバーコースやゴールドコースの保険には付され
ていないことについて,保険契約者である控訴人が誤りなく認識,理解できる程度
に告知したものということはできず,被控訴人は告知義務に違反したものというべ
きである。
④ 前記認定のとおり,平成7年10月更改前の本件自動車保険は団体扱い
であったから,控訴人が個人で本件自動車保険を更改するのは今回が初めてであっ
たこと,それ以前の保険料は団体扱いであったため会社が控訴人の給与から控除す
る方法で毎月集金していたから,控訴人自身が従前の保険料の年額を明確に認識し
ていなかった可能性があること,控訴人は,平成6年に子が物損事故を起こしたた
め車両保険を付け加え,その後も平成7年10月の更改まで前年と同内容の車両保
険を付した自動車保険に更改していて,平成7年10月の更改時に車両保険を不要
とする事情は窺われないこと,平成9年9月に息子が自動車事故を起こした際,た
だちに被控訴人に事故を報告していたところ,被控訴人から車両保険がついていな
いと言われて同年10月の更改を断っていること,同年12月に被控訴人に対し,
車両保険が付いていないことに抗議する旨の書面を送付していることなどの事実に
照らすと,控訴人は,平成7年10月に自動車保険を更改する際に,シルバーコー
スにも車両保険が付いているものと誤信したため契約を締結したものであり,その
翌年の平成8年の更改の際にも,同様に車両保険が付いているものと誤信したまま
契約を更改したものであって,車両保険付きでないことを知っていればこれらの契
約はしなかったと認めるのが相当である。
⑤ そうすると,控訴人は,前記被控訴人の告知義務違反の結果,保険料と
して支払った平成7年度分12万4520円及び平成8年度分11万3200円の
合計23万7720円の損害を被ったというべきである。もっとも,控訴人は,本
件の保険期間中,保険契約者として保険契約上の利益を受ける地位にあったという
ことはできるが,控訴人が保険の内容を知ったのに解約しなかったというものでは
ないし,具体的に保険金給付を受けたというわけではないから,前記のように利益
を受け得るという抽象的な地位にあったというだけでは,前記損害の認定を覆すに
足りない。
⑥ しかし,前記認定によると,平成7年の更改の際に被控訴人が送付した
自動車保険更改申込書のシルバーコースの車両保険金額,車両保険料の欄はいずれ
も空欄になっていて,この点に注意すれば同コースに車両保険が付されていないこ
とは理解できなくはない。同書面の現行保険の年間保険料が22万0560円と記
載されていたから,これと比較すれば前記の誤記されていた前年同条件の保険料が
不自然に低額である。保険契約締結後に保険証券が交付されているが,保険証券の
記載上車両保険が付されていないものであることが明らかである(甲7)。これら
の事実によると,控訴人が普通の注意を払えば,シルバープランの保険には車両保
険が付されていないことに気づくか,あるいはこの点を直接被控訴人に問い合わせ
ることができたものということができ,車両保険がついているものと誤信したこと
については,控訴人側にも相当大きな過失があるというべきである。その過失の程
度は,6割程度と認めるのが相当である。そうすると,過失相殺後,控訴人は,9
万5000円及びこれに対する不法行為の後である平成9年12月13日から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金について損害賠償請求権を有す
ることになる。
 なお,控訴人は,平成9年9月の事故による車両の修理代金33万円も
損害である旨主張するが,弁論の全趣旨によると,控訴人は事故後修理をしないで
自動車を使用していたところ,その後の事故により全損となり廃車したことが認め
られること,修理代金が33万円であることを認めるに足りる客観的な証拠は何も
ないことからすると,修理代金33万円については本件の損害として認めることは
できない。
3 請求原因3項について
原判決書11頁24行目から同12頁1行目までに記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
4 よって,控訴人の本件請求は,9万5000円及びこれに対する平成9年1
2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
める限度で理由があるから,認容すべきであり,その余の請求は理由がないから,
棄却すべきである。これと異なる原判決は相当でないから,これを上記のとおり変
更することとし,訴訟費用の負担について民訴法67条,61条,64条を適用し
て,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官  加   藤    英   継
裁判官  小  見  山      進
裁判官  大   竹    優   子

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