弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
(第一五号事件)
原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人に対し平成三年三月二五日付で控訴人を第二学年に進級させないことと
した処分を取り消す。
(第一六号事件)
原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人に対し平成四年三月二三日付で控訴人を第二学年に進級させないことと
した処分を取り消す。
被控訴人が控訴人に対し平成四年三月二七日付でした退学命令処分を取り消す。
(訴訟費用)
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
○事実
第一当事者の求める裁判
一控訴の趣旨
主文同旨
二控訴の趣旨に対する答弁
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は、被控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
一請求原因
1当事者
控訴人は、平成二年四月一〇日、A工業高等専門学校(以下「A高専」という)に入、。

し、電気工学科に在籍していた者であり、被控訴人は、A高専の校長である。
2処分
(一)被控訴人は、平成三年三月二五日、控訴人に対し、控訴人を第二学年に進級させ
ないとの処分(以下「本件第一次進級拒否処分」という)をした。、。
(二)被控訴人は、平成四年三月二三日、控訴人に対し、控訴人を第二学年に進級させ
ないとの処分(以下「本件第二次進級拒否処分」という)をした。、。
(三)被控訴人は、平成四年三月二七日、控訴人に対し、同月三一日をもってA高専か
ら退学を命ずるとの処分(以下「本件退学命令処分」という)をした。、。
3本件各処分の違法性
(一)A高専では、学生の進級認定は、進級認定会議の審議を経て、校長がこれを決定
することになっており、この認定基準の一つとして、進級できるのは当該学年において修
得すべき科目に不認定のないこととされ、校長は、連続して二回原級に留め置かれた学生
に対しては、退学を命ずることができるとされている。
そして、A高専では、学業成績は各科目とも一〇〇点満点により評価し、五五点未満の当
該科目は不認定とされ、また保健体育科目は、全学年において必修科目とされている。
(二)控訴人の成績通知表によると、控訴人の最初の第一学年の保健体育科目の成績は
四二点であり、本件第一次進級拒否処分により履修した第二回目の第一学年の保健体育科
目の成績は四八点であり、いずれも体育科目は不認定とされた。
右最初の第一学年の保健体育科目の配点の三五パーセントに当たる部分を剣道が占めてい
るが、右保健体育科目の成績は、控訴人が剣道実技への参加を拒んだと判断されて、剣道
実技の準備運動に参加したことを除いて、剣道の成績評価を零点とされたためであり、第
二回目の第一学年の保健体育科目は、前期が剣道と水泳、後期は球技等であって、右前期
の配点割合は、剣道が七、水泳が三で、剣道の準備運動への配点は右剣道の配点の一四分
の一であったところ、控訴人がやはり剣道実技への参加を拒んだと判断されて、右前期の
成績を二六点、後期の成績を七〇点と評価され、平均四八点とされたものである。
(三)控訴人は「エホバの証人」であるキリスト教信者であって、聖書の中の教えを、

に、あらゆる格闘技は、防御用といわれるものであっても攻撃に用いられることがあり、
武力に頼ることは最善の方法ではない、聖書は自衛手段を全て禁止してはいないが、自衛
手段を行使するより、事前に十分注意を払って危険な事態に遭遇しないよう配慮すること
の方が適切であるとの信条を持ち、これは控訴人の信仰の根幹部分をなすものであって、
控訴人は、この信教上の理由から、格闘技に当たると考える剣道実技に参加することを拒
否したものである。
(四)控訴人は、このように剣道実技への参加を拒否したが、その準備運動は行い、そ
の後は、武道場で正座して他の学生の剣道実技を見学していたほか、担当教授に対し、再
三、不参加の理由を説明し、終始、剣道実技への参加に代わる措置(以下「代替措置」、

いう)の履修を申し出あるいはレポートの提出を願い出たが、全く聞き入れられず、自。

的にこれを作成して提出しようとしたが、これも受領を拒否された。
(五)本件各処分は、憲法二〇条、二六条、一四条の各保障規定及び教育基本法三条一
項に反する違法なものである。
すなわち、A高専は、公立の五年制の工業高等専門学校であって、文部省の告示による学
習指導要領はないが、第三学年までは、高等学校指導要領によって運営されており、右指
導要領によれば、体育履修の目的は「各種の運動を合理的に実践し、運動技能を高める、

ともに、それらの経験を通して、公正、協力、責任などの態度を育て、強健な心身の発達
を促し、生涯を通じて継続的に運動を実践できる能力と態度を育てる」ものであるから、
体育学校とは異なるA高専において、
控訴人に剣道実技への参加を強いる必然性ないし高度の必要性はなかった。そして、A高
専では、身体上の理由で体育実技のできない学生に対し、見学等の代替措置を認めて評点
しているが、控訴人が、前述のように、代替授業の実施を求め、レポートの提出を申し出
たのに対し、被控訴人はこれを一顧だにしなかった。控訴人は、A高専が剣道を保健体育
、、科目に採用したことを批判しているわけではなく控訴人の剣道実技への不参加によって
、。、A高専の教育秩序を混乱させるものとは考えられないし現に混乱させてはいない他方
A高専において、控訴人が進級し、卒業を果たすためには、剣道実技を履修しなければな
らず、これは控訴人の前記信仰の根幹部分に抵触するため、これを受け入れることができ
ないのであるから、控訴人に剣道実技の履修を義務づけることは、控訴人に棄教を迫るこ
とであって、憲法で保障された信教の自由を侵し、平等原則に反するものである。
また、控訴人は、学生として、憲法二六条、教育基本法三条に基づき、A高専において教
、、、、育を受ける権利を有するからA高専は控訴人の学習権を保障するため控訴人に対し
信教の自由を含む精神的自由を十分に尊重し、公正で平等な教育上の評価を行って、各学
年における学習をさせなければならないところ、自己の信条に反するため、剣道の実技を
行えないが、他の学習の機会を求め続ける控訴人に対し、代替授業の履修を一切認めず、
欠課扱いをして保健体育科目を欠点と評価し、被控訴人が、控訴人を二度にわたって原級
に留め置いたばかりか、控訴人に対し、本件退学命令処分をしたことは、控訴人がA高専
において教育を受ける権利、学習権を侵すものであるから、信条による教育上の不当な差
別を禁じ、教育の機会均等などを謳った教育基本法三条に反する違法なものである。
(六)本件各処分については、
前述のように、進級認定及び退学の処分は、進級認定会議等の審議を経て、校長である被
控訴人の権限とされているが、右各処分をする際の被控訴人の教育裁量の目的は、学校内
規等の機械的な適用を正して、学生の精神的自由や学習権を最大限保障するためのもので
ある。ところが、被控訴人は、控訴人が剣道実技に参加しなかったという事実だけをもっ
て、二回の本件各進級拒否処分を行い、
平成三年度の成績が単位取得不認定となった保健体育の点数を加えても平均点が九〇点一
順位一番)である控訴人が「学力劣等で成業の見込みのない者」に当たらないことは明ら
かであるにもかかわらず、二回の進級不認定者は退学させるという内規を機械的に適用し
て、控訴人に対し、本件退学命令処分をしたものであって、被控訴人は、その教育的裁量
を大きく逸脱して、本件各処分をしたものである。
4よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件各処分の取消しを求める。
二被控訴人の本案前の主張
1本件各進級拒否処分と司法審査
、、、高等専門学校は深く専門の学芸を教授し職業に必要な能力を育成することを目的とし
授業科目の単位の認定は、担当教授の評価を基礎として、最終的には校長が行うことにな
っていて、このような単位の認定は、学生が当該授業科目を履修し、履修効果が相当程度
に達したことを確認する教育上の措置であって、当然に、一般市民法秩序と直接の関係を
有するものではない。さらに、右単位の認定は、高度の教育的、専門的判断を伴うもので
あるから、被控訴人が行った本件各進級拒否処分は、司法審査の対象となりえない。
2本件各進級拒否処分の行政処分性
被控訴人は、控訴人に対し、第一回目の進級ができないことを口頭で告知してはいるが、
控訴人が第一回目に進級できなかったのは、体育の単位が認定されなかったことに伴う教
育上の措置であって、被控訴人の行政処分は存在しない。また、被控訴人は、平成四年三
月二三日、進級認定会議を経て、控訴人を第二学年に進級させない決定(判定)をしてい
るが、A高専の学業成績評価及び進級並びに卒業の認定に関する規程(以下「進級等規、
程」
という)一五条では、休学による場合のほか、連続して二回原級にとどまることはでき。

いと規定されているから、被控訴人の右進級させない決定は、控訴人に対する本件退学命
令処分の前提としての意味しかなく、この決定によって、控訴人の権利義務を直接形成し
又はその範囲を確定するものではない。したがって、本件第二次進級拒否処分は行政処分
とはいえない。
三請求原因に対する認否
1請求原因1(当事者)の事実は認める。
2同2(処分(一(二)の事実は否認し、同(三)の事実は認める。))、
3同3(本件各処分の違法性(一)の事実は認める。)
同(二)の事実のうち、
体育科目のうち剣道種目への配点が一〇〇点中の三五点であったこと、控訴人の最初の第
一学年の体育科目の成績が四二点であり、第二回目の第一学年の体育科目の成績が四八点
であっていずれも体育科目は不認定とされたこと控訴人が剣道実技の前の準備運動一、、(
〇分間)は行ったが、剣道実技の受講を拒んだことは認める。
同(三)の事実は知らない。
同(四)の事実のうち、控訴人の剣道実技の受講拒否に対して、代替措置及びレポート提
出を認めなかったことは認める。
同(三)の事実は争う。
四本件各処分の適法性
1教育課程の編成、単位の認定及び進級
(一)文部省は、かねて「高等専門学校教育課程の標準(以下「高専教課標準」と」、

う)を示していたが、文部省大学局長通達「高等専門学校設置基準及び学校教育法施行。

則の一部を改正する省令について(昭和五一年七月二七日文大技第二五五号)では、高」

専門学校の教育課程の編成については、各学校の自主性を尊重し、その創意、工夫を十分
に活かすこととされ、同時に、教育課程の編成や授業科目の内容を検討する際には、右高
専教課標準を参考とすることが適当であろうとされている。
右高専教課標準によれば、体育科目の目標は(1)自己の体力に応じて自主的に各種の、

動練習を適切に行う能力と態度を養い、体力の向上を図るとともに、健全な精神を養う、
(2)各種運動についての科学的な理解に基づき合理的な練習方法によって運動技能を高
めるとともに、生活における体育の意義についての理解を深め、社会的生活を健全かつ豊
かにする能力と態度を養う(3)運動における競争や共同の経験を通じて公正な態度を、

い、自己の最善を尽くし、相互に協力する精神を養い社会生活における望ましい行動のし
かたを身につけさせることとされ、科目内容として、徒手体操、器械運動、陸上競技、格
技(柔道、剣道、弓道、すもう、レスリング、球技、水泳、スキー・スケート、体育理)

が挙げられている。
(二)A高専を所管する神戸市教育委員会は「A工業高等専門学校学則(昭和三八、」

教育委員会規則一〇号)を制定し、その第四章教育課程等において、保健体育は必修科目
とされ、単位数を各学年毎に二単位としている。
(三)進級等規程によれば、学業成績は一〇〇点法により評価し、五五点未満は不認定
とする、
当該学年において修得すべき科目に不認定のある者は進級の認定がされない、休学による
場合のほか、連続して二回原級にとどまることはできないと規定されており、同校の「退
学に関する内規(以下「退学内規」という)では、連続二回原級に留め置かれた者を」、。
退
学処分の対象者とすると規定されている。
2剣道の授業
(一)保健体育の授業科目の編成は、前記のとおり、各学年の単位を二単位とするほか
は、A高専の自主性に委ねられているところ、A高専は体育の授業の一種目として剣道を
採用したが、剣道は、前述のように高等学校でも必修となっている格技の種目であり、健
全なスポーツとして大多数の一般国民に広く受け入れられているものである。
(二)剣道の授業は、道場の広さと担当の教員の数から、第一学年の前記に履修するク
ラスと後期に履修するクラスに分けて実施され、授業は五〇分を一単位とし、必要単位は
二単位であるから一〇〇分の授業を行い、授業の初めの一〇分間は準備体操を行った。な
お前期、後期を通じた体育の授業内容は、大別すると、剣道、水泳、球技その他である。
3剣道授業の実施の入学前における周知
A高専は、昭和六二年ごろから、同校を受験する生徒の在学する中学校の校長、進学担当
教員、生徒・保護者に対し、A高専では平成二年度から体育科目として剣道の授業を行う
ことを機会あるごとに説明し「平成二年度学生募集入学願書類」の入学案内の教育課程、

注に「武道館の新設に伴い、格技を体育授業にとり入れる」と記載し、控訴人など平成二
年度の合格者に合格発表時に渡した「入学のしおり」の指定教材器具一覧表には「剣道面
下」が記載されており、控訴人は、合格者招集日に、保護者と登校して、剣道面下を購入
している。また、右合格者招集日には、控訴人にも「学生便覧」が配付され、それには、
A高専の前記学則や進級等規程が登載されている。さらに、控訴人とその保護者は、入学
に際して、在学中は高等専門学校教育の本旨を体し学則その他の諸規則を守ることを誓約
している。
このように、控訴人は、A高専において剣道の授業があることを承知して受験し、入学を
許可され、同人の自由意思で、義務教育ではないA高専に入学した者であるから、控訴人
は、A高専の成績評価方法に基づいて評価、進級が行われることに異議をいえない在学関
係が設定されているものである。
4成績評価と控訴人の履修状況
(一)進級等規程では、成績の評価は学習成績と試験成績を総合して学期末に行う、学
習成績は学習態度、出席状況等を総合して評価する、学年成績の評価は各学期末の成績を
総合して行うとされている。保健体育科目の配点一〇〇点のうち、剣道の配点は三五点で
あった。体育の授業は四人の教員が担当し、その学習成績評価は、担当教員に任されてい
るが、平均点を七〇点前後となるよう統一を図っている。学習成績評価は、実施された全
ての種目に一定の点数をとる必要がなく、受講態度も考慮に入れて、全種目の合計点が合
格点である五五点以上あればよい総合評価方式を採用している。
したがって、剣道の種目を受講しなくても、他の種目で努力すれば、合格点をとることが
可能であり、因みに、平成二年度の一年生の体育の成績をもとに、これらの学生が剣道を
受講しなかった場合を想定しても、合格点をとった者は二四三名中五九名(約二五パーセ
ント)あり、剣道を受講しなければ、体育の点数をあげるため、他の種目においてさらに
努力すると考えられるから、右合格点取得学生は増えると推定できる。現に、平成三年度
の一年生で剣道の受講を拒否した一五人のうち一〇人(約六七バーセント)は、体育科目
に合格している。
(二)控訴人は準備運動には参加するが、担当教員の説得にもかかわらず、頑なに剣道
実技の受講をせず、許可なく道場内で実技の見学をした。そこで、一時限目は出席扱い、
二時限目は欠席扱いとし、準備運動はそれ自体独立の意味をもたず、単独に評価すべきも
のではないが、控訴人に有利に考慮して五点(学年単位では二・五点)と評価した。
5控訴人への説得と救済措置の実施等及び退学処分の手続
(一)被控訴人は、平成二年度において、控訴人の保護者など剣道の受講を拒否してい
る学生の保護者に対し、教務主事、学生主事、体育担当教員をして、四回、体育授業とし
ての剣道の意義及びこのままではこれらの学生が留年必至の状況にあることを説明し、特
、、別救済措置として剣道の補講を行うので参加するよう説得をし受講拒否学生に対しても
授業への参加及び補講への参加を説得し、さらに、進級認定会議で控訴人の体育科目の単
位が認定されなかったときも、補講をすることを決定し、合計六回の補講の機会を与えた
が、控訴人は、これに全く参加しなかった。
(二)平成三年度においても、
A高専の前記関係者とクラス担任は、平成二年度と同様に、控訴人など剣道の受講を拒否
する学生とその保護者に対し、剣道の授業に参加するよう説得をし、同年度の第一次進級
会議の結果、控訴人など単位不認定者に対し剣道の補講に参加するよう説得をしたが、控
訴人は剣道の授業及び補講にも参加しなかった。
(三)そこで、平成四年三月二三日に開かれた平成三年度の第二次進級会議において控
訴人の体育の総合評価の点数が四八点であったため、被控訴人は、控訴人の第二学年への
進級について不認定の決定をした。同日、A高専の表彰懲戒委員会が開かれて、控訴人の
退学処分が相当であるとの決議がされ、これが被控訴人に答申され、被控訴人は、同月二
七日、控訴人に対し、退学命令書を手渡して、本件退学命令処分をした。
6剣道の授業と信教の自由
体育としての剣道の授業は、学生の身体面の育成及び社会的態度の育成から見て、優れた
教育効果をもったスポーツであり、それゆえに、前記高専教課標準や学習指導要領によっ
て、体育科目の内容として相当なものとして剣道が挙げられているのであって、控訴人が
剣道をどのように評価、認識するかは自由であるが、控訴人の剣道に対する評価は、一般
社会に通用するものとはいえない。
控訴人がA高専において教育を受けるためには、控訴人は、そのルールを守るべきである
から、剣道の受講を拒否してその学業成績を得られないことによる責任は控訴人が負担す
べきものである。被控訴人は、控訴人の信教の自由に干渉したことはなく、むしろ、進級
できるよう誠意ある説得も試みたのである。
かえって、被控訴人が、控訴人の信教上の理由をもって、剣道の授業について、控訴人を
特別に取り扱うことは、公教育を行っている被控訴人が信条によって学生を差別扱いする
ことになり、憲法一四条、教育基本法九条二項に反し、また、エホバの証人という特定の
宗教の信者にだけ剣道実技の受講を免除することは、右宗教に対する援助、助長、促進に
当たり、やはり憲法二〇条に反する。さらに、剣道の受講の免除を認めるとすると、被控
訴人は、受講拒否の理由について判断しなければならなくなるが、それは公教育の宗教的
中立性を損なうものでもある。
7本件各処分と教育を受ける権利の侵害
A高専は、神戸市の設置する学校であるが、義務教育を実施するものではなく、控訴人な
どA高専の学生は、
授業を受けず、進級をせず、退学をする自由を有する一方、A高専は、学習到達度が不十
分と評価した者に対し、単位を認定せず、進級を認めず、学校教育法施行規則三条三項の
、、、各号に該当する学生に対し退学処分をする権限を有しているのであるから本件処分は
控訴人の教育を受ける権利を侵害するものではない。
8代替措置
控訴人が剣道の受講を拒否するのに対し代替措置を講じることは、信教上の理由で控訴人
を特別に取り扱うことになり、これは憲法の平等原則や宗教教育の禁止の精神に反する。
また、この代替措置をとるとしても、そのためには、控訴人の授業拒否の理由が宗教上の
ものであるか否かを判断することは不可能である。
代替措置をとることになると、その措置について指導、監督を担当する教員を配置しなけ
ればならないが、A高専の予算、教員数の関係から、そのようなことは不可能であったか
ら、代替措置を講じることは困難であったものであり、また、体育の授業は、体を動かす
ことによって教育効果をあげる授業であるから、病気でもないのに、レポートの提出をも
って体育実技に代えることはできない。
控訴人のように、個人的理由によって受講を拒否し、教員の指導、説得に従わない学生に
対し、その授業に代わる措置をとり、単位を認定すると、学生から他の場合にも代替措置
の要求を生む結果となり、また学生全体に対する学校の規律が維持できなくなり、集団教
育はその効果をあげることが不可能となる。
、()9以上のとおりであるから被控訴人が控訴人を進級させないとした本件各決定判定
が、仮に行政処分に当たるとしても、本件各進級拒否処分及び退学命令処分は、適法なも
のであり、また、被控訴人において、その裁量権を逸脱、濫用したものではない。
五本件各処分の適法性の主張に対する反論
1入学前における剣道授業の実施の周知
高等専門学校教育は、高等学校と同様、制度的には義務教育ではない。しかし、高校進学
率が九五パーセントを超えている現状からは、国民一般の意識では、義務教育と同視され
。、、、ているそして高等専門学校及び高等学校では体育の種目として格技を採用しており
控訴人がA高専に入学した当時、信教上の理由から格技の授業を拒否できることが公に認
められている高校や高専は、控訴人の通学及び受験可能な範囲にはなかったから、控訴人
が後期中等教育を受けようとする限り、
その信仰を棄てなければならないのであるから、控訴人が自由意思でA高専に入学したこ
とを理由に、格技の授業を拒否できないという被控訴人の論理は、控訴人の信教の自由に
対する重大な差別を容認するものである。
さらに、A高専は、入学前に、格技が必修になったことを伝えただけで、格技を受講しな
。、かった場合の学校の対応や不利益の程度について控訴人に知らせてはいなかったそして
これまでA高専に在学したエホバの証人の学生のうち進級拒否や退学処分を受けた者がい
なかったから、控訴人が体育の一種目である格技を行わないことが原因で本件各処分を受
けることを予想できなかったのは当然である。
したがって、義務教育でないこと、控訴人が自由意思でA高専に入学したことをもって、
本件各処分が適法であるとはいえない。
2剣道を受講しなかったことと本件各処分との因果関係
体育の配点一〇〇点のうち剣道の配点は三五点であり、控訴人が行った準備体操には二・
五点が採点されているから、控訴人が単位の認定を受けるためには、他の体育種目でとり
うる最高の点数は六七・五点のうち五五点以上(約八一・五パーセントの点数以上)をと
らなければならない。これでは普通の運動能力以上の能力を持った学生でなければ、剣道
実技を受講しないで、体育の単位の認定を受けることは不可能であるから、控訴人が剣道
実技の受講を拒否したことと本件各処分との間には因果関係がある。
3履修拒否の理由の判断と公教育の中立性
信仰上の理由で授業を受けるのを拒否している場合、その学生の主張に合理的な理由があ
るか否かの判断においては、その宗教の意義、教義及び当該授業との関連性を一応審査す
ることで足り、学生の信仰の内面に立ち入ることなく、一般的、概括的な調査で、学生の
主張の真偽及び当否を十分に判断することができるものであるから、被控訴人が右の程度
において拒否理由の真偽及び当否の判断をすることは、公教育の中立性に抵触するもので
はない。
現実に、控訴人は、担当教員等に対し、剣道実技を行うことがエホバの証人の教義と相容
、、、れないことを詳細にかつ具体的に繰り返し説明していたからそれによって被控訴人は
控訴人が宗教上の理由で剣道実技ができないことを十分認識できていた。
第三証拠(省略)
○理由
第一本件各進級拒否処分と司法審査
A高専は、深く専門の学芸を教授し、
職業に必要な能力を育成する(学校教育法七〇条の二、一般市民の利用に供される公の)

育施設であって、一般市民法秩序と直接関わりのない同校の内部的な問題については、法
令に格別の規程がない場合であっても、右施設の設置目的に沿って、これを自律的に処理
する権能を有するものであるから、右のような内部的な問題に関する係争は、司法審査の
対象とはならないというべきである。しかし、係争事項が単に学校の内部問題にとどまる
のではなく、それが学生の権利又は法律上の利益に直接かつ重要な関係を有する場合は、
右係争事項については、司法審査の対象となると解すべきである。
そして、本件は、A高専の学生である控訴人が、被控訴人のした本件各進級拒否処分及び
退学命令処分の取消しを求めているものであるが、まず、高等専門学校では、大学のよう
にいわゆる単位制によらず、学年制を採用しており、高等専門学校設置基準(以下「設、

」。)、、、基準という一三条一四条が定める授業科目授業総時数を学年に配当して編成し
学生は各学年の課程の終了認定を経て、上級学年に進級できるものである(設置基準一五
条及び施行規則七二条の五で準用する設置基準二七条。したがって、学生が当該学年に)

いて履修すべきものとされた授業科目について修得したことの認定が受けられないと、同
学年の課程の終了認定を受けられず、進級できないこととなり、配当された授業科目の修
得認定は、上級学年への進級の前提となっているのであるから、単に、当該授業科目を履
修し、履修効果が相当程度に達したことを確認する教育上の措置にとどまらないものであ
る。それゆえに、授業科目の修得不認定すなわち進級させない決定は、学生に対し、上級
学年における授業を受ける機会を延期させる効果を有するものである。さらに、A高専の
退学に関する内規によれば、休学による場合のほかは、連続して二回進級できなかった学
生は、退学処分の対象者とすると定められている(争いがない)から、連続した二学年度
における授業科目の修得不認定は退学処分の前提要件を構成するものでもある。
これらの事実に基づけば、A高専を含も高等専門学校における、学生に対する退学処分は
もとより、進級させない処分も、ともに学生が一般市民として、公の教育施設である高等
専門学校において授業を受け、これを利用する権利を侵すものであるから、
本件各処分は司法審査の対象となるというべきである。
第二本件各進級拒否処分の行政処分性
高等専門学校において学生を進級させない処分が単なる教育的措置ではなく、学生が高等
専門学校という教育施設を利用する権利に制限を加えるものであることは、右第一におい
て判断したとおりであるから、本件各進級拒否処分は行政事件訴訟法三条にいう行政処分
に当たる。
また、被控訴人は、被控訴人が控訴人に対し行った第二回目の進級させない決定(判定)
は、控訴人に対する本件退学命令処分の前提としての意味しかなく、この決定によって、
控訴人の権利義務を直接形成し又はその範囲を確定するものではないと主張するが、被控
訴人が控訴人に対し行った第二回目の進級させない決定(判定)は、控訴人の前記権利を
制限するものであり、このような拘束力の形成を前提として、本件退学命令処分が行われ
たのであって、その各処分の目的や効果を異にするから、右第二回目の進級拒否処分も、
独立の行政処分であると解せられる。
第三各当事者及び本件各処分
控訴人が、平成二年四月一〇日、A高専に入学した学生であり、被控訴人が同校の学校長
、、、、。であること被控訴人が校長として本件各処分をしたことは当事者間に争いがない
控訴人は、小学校のころから電気に関することに興味があり、電気に関する知識及び技術
を修得したいと希望して、A高専に入学し、同校の電気工学科の第一学年に在籍していた
学生である(控訴人(原審))
第四本件各処分に至る経過
一控訴人の信仰
「エホバの証人」は、聖書全体が霊感を受けて記された神の言葉であると信じ、自分たち
のすべての信条の規準として聖書に固く従うという信仰を持つ者であるが、控訴人の両親
、「」、、は控訴人が幼少のころからエホバの証人であり控訴人も小学校に入学する前から
、、、集会に出席したり両親から聖書に基づいた教育や生活訓練を受け小学校五年生のとき
控訴人の両親は控訴人の年令を考えて躊躇したが、控訴人の強い希望によって、控訴人も
「エホバの証人」となった(甲六、控訴人(原審、以下、甲、乙号各証及び供述は、い)

れも原審の一三号事件の甲、乙号証及び供述を指し、原審の二一号事件のものは、それを
特記する。)
二A高専における進級認定及び退学に関する定め高等専門学校において学年制がとられ
ていることは、前記第一で述べたとおりであって、
A高専の進級等規程によれば、学生が上級学年への進級の認定を受けるためには、当該学
年において修得しなければならない科目の全部について不認定のないことが必要であり、
、、右科目の学業成績が一〇〇点法で評価して五五点未満であればその科目は不認定となる
学業成績は、科目担当教員が学習態度(学習態度、出席状況等を総合したもの)と試験成
績を総合して、学期末に評価する、学年成績は、原則として、各学期末の成績を総合して
行うと定められており、学期は前期と後期に分けられている(争いのない事実、甲三、乙
一七。、)
また、A高専の進級等規程では、休学による場合のほか、学生は、連続して二回同じ学年
にとどまることはできず、学則及び退学内規では、校長は、該当する学生に対し、退学を
命ずることができることとされている(争いのない事実、甲三(二一号事件、乙五。))
したがって、A高専の学生が、必修科目の一科目でもその学業成績が五五点未満であれば
進級はできず、これが連続して二回続けば、校長は、この学生に対し、退学を命ずること
ができることとなっているものである。
三A高専における保健体育科目及び剣道種目の授業
1高等専門学校の授業科目は一般科目と専門科目に分けられ、この科目については、前
述のような設置基準が定められていて、一般科目である保健体育科目は、全学年において
必修科目となっており、五年間で一〇単位、各学年に二単位づつ配当され、一単位の体育
科目の授業は、五〇分間を一時間の授業時間として、年間三〇授業時間行われるから、二
単位の授業は、年間六〇授業時間行われることになり、A高専では、具体的には連続して
二時間(一〇〇分)の授業時間を年間を通じて行うものであった。
体育科目の授業において、どのような種目を採用するかについては、高専教課標準におい
て、そこに掲げた体育授業の目標に沿うものとして、各種の運動種目と体育理論を示して
いたが、法的な拘束力はなく、その後は、この標準も各高等専門学校の教育内容に創意、
、、、工夫を生かせるよう弾力的なものとされ各高等専門学校は右標準をも参考にしながら
体育種目を選択、採用し、当該種目をどの学年のどの学期に実施するかを決めることがで
きることとなっている(以上、乙一、二、一七、被控訴人。)
2控訴人がA高専に在学当時、高専教課標準には、
体育種目の格技として柔道など四種目のほか剣道が例示されており、A高専では、平成二
年四月に、武道場の整備のできていなかった旧校舎から武道場の整備された新校舎に移転
する予定であったことから、遅くとも昭和六二年ごろには、丁度、控訴人が入学した平成
二年度以降、第一学年の体育の種目として他の種目のほかに、格技として剣道を採用し、
第一学年の六クラスを三クラスずつ二つに分け、それぞれ前期又は後期に剣道の授業を履
修させる計画を立てていた。
その授業は、主として、剣道の心構え、剣道と日常生活との関連、技の成り立ち、用具の
、、。安全な取扱などを逐次説明したあと準備体操をした後剣道の実技を行うものであった
剣道の授業の配点は、前期又は後期の体育科目の配点一〇〇点のうち七〇点が当てられた
から、第一学年の体育科目の点数一〇〇点のうち、三五点が配点された。そして、A高専
では、各クラスの学生の取得する点数の平均点が約七〇点となるよう採点されている(以
上、甲一二、乙一七、被控訴人、控訴人(原審。))
3なお、前記高専教課標準では、保健の授業について、その学習目標を掲げ、その内容
として、人体の生理、人体の病理、精神衛生、労働と健康・安全、公衆衛生が挙げられ、
その留意事項が示されているところ、A高専では、独立して保健の授業は行われていない
が(被控訴人、それはともかく、被控訴人は、各体育種目の授業の中で、それが講じら)

ていると供述する(控訴人の供述の一部(原審)にもある。しかし、その授業が右標準)

示すような保健の授業目的、内容や留意点と具体的にどのように関連しているかを認めう
るだけのものはなく、さらに、体育の授業の際に行われる保健の受講に対する評価が、保
健体育科目の評価にどのように含まれているかを認めうる証拠はない。
四平成二年度における控訴人の剣道実技の参加拒否とA高専の対応
1前認定のように、A高専では、平成二年度から体育授業の種目として剣道を行うこと
は既定のことであったから、被控訴人は、平威元年秋以降の中学校に対する入試説明会そ
の他の機会に、A高専では平成二年度から剣道の授業を行うことを説明し、受験者に対し
て交付する学生募集・入学願書類にも同じことを記載していた(ただし、教育課程の説明
欄外末尾の注記中に、なお書で、格技を体育授業に取り入れたというもの。これは、被)

訴人が、
かねてから、他の高等学校において、信仰上の理由で生徒が格技を拒否している事実を知
っていたところ、A高専において予告なく剣道の授業を実施すると、入学してくる学生の
うちで、同様に信仰上の理由で格技に参加しない学生に不満が起こることを予想し、これ
の混乱を未然に防ぐことも、右中学校に対する説明や願書類に記載した理由の一つであっ
た(乙三、被控訴人。)
2控訴人は、エホバの証人として、甫認定のように、聖書が説くところに固く従うとい
う信仰を持ち、中学時代から、聖書中の「できるなら、あなたがたに関する限りすべての
人に対して平和を求めなさい「彼らはその剣をすきの刃に、その槍を刈り込みばさみ。」、

打ち変えなければならなくなる。国民は国民に向かって剣を上げず、彼らはもはや戦を学
ばない」という教えに基づき、格技には参加せず、見学とレポートの提出をもってこれ。

代える措置を受けていた。そこで、A高専に入学した控訴人は、剣道は、現在はスポーツ
性を取り入れてはいるが、なお武闘性を否定できないと信じ、このような剣道の実技に参
加することは自己の宗教的信条と根本的に相容れないとの信念のもとに、入学直後でまだ
剣道の授業が開始される前の平成二年四月下旬ごろ、他のエホバの証人である学生三名と
ともに、体育教官室に行き、四名の体育担当教員に対し、宗教上の理由で剣道実技に参加
できないことを説明し、他のレポート提出等の代替措置を認めていただきたいと申し入れ
たが、右教官らは「学校のいうことを聞かないのなら出ていってしまえ「学校のいう、」、

とを聞いて剣道をするか学校を替わるか、二、三日中に決めて来い」などと言って、これ
を即座に拒否した。さらに、控訴人は、実際に剣道の授業が行われるまでに、体育担当の
教員に同趣旨の申し入れを繰り返したが、教員からは、剣道実技をしないのであれば欠席
扱いにすると言われた(控訴人(原審、当審))
3そして、被控訴人は、控訴人らが剣道実技への参加ができないとの申し出をしている
ことを知って、同年四月下旬ごろ、体育担当の教員と協議して、これらの学生に対し、剣
道実技に代わる代替措置をとらないことを決めた(被控訴人。)
4控訴人のクラスでは、平成二年度の前期の体育種目は、剣道と水泳であって、まず剣
道から履修することとなっていた(水泳は季節的な問題もある。)
そこで、剣道の授業は、
平成二年四月末ごろから始められた。実際の授業は、授業開始のチャイムが鳴る前に、学
生は教室で服装を着替えて、チャイムが鳴るころには、武道場に集合し、まずサーキット
トレーニングをする。この間に担当教員が来て、学生のサーキットトレーニングが終わっ
たところで、学生を集め、保健、体育又は剣道に関する講義をした後、学生に準備体操を
させ、そのあと、剣道実技を指導するというのが通常の内容であった。右講義と準備体操
に費やされる時間は、剣道の授業時間である一〇〇分のうちの約三〇分程度であった(以
上、被控訴人(二一号事件、控訴人(原審)控訴人は、右前期の剣道の授業では、服))

を替え、サーキットトレーニングをし、講義を聞き、準備体操までは行ったが、前記信仰
上の理由から、剣道実技には終始参加しなかった。そして、他の学生が剣道実技を行って
いる間、最初の時間に担当教員から指示を受けたとおり、道場の隅で正座をして(なお、
教員は、正座をして、足が疲れたら足を崩してもよいと言っている、レポートを作成す)

ために、予め用意してきていた用紙に剣道実技の授業の内容を記録していて、その記録内
容は、竹刀の構造、使用方法とその危険性、防具の付け方、実技における構え、技、竹刀
の打ち方、足の運びといったように詳細な観察によるものであった。そして、控訴人は、
右授業の後、右記録に基づき、レポートを作成して、次の授業が行われるより前の日に、
体育担当の教員にそれを提出しようとしたが、その受領を拒否された一甲一六の1ないし
5、控訴人(原審))
5右剣道の授業を担当した教員は、控訴人の剣道実技への参加はないものとして欠席扱
いとした。A高専では、それまで実験の授業と同様に、体育科目のうちの一種目でも合格
点に達しない場合は、体育科目の履修があったものとは認めていなかったが、これでは、
控訴人のように格技に参加しない場合は、体育科目については不認定となる可能性がある
、、、ため被控訴人と体育担当教員は右前期の剣道の授業が全部終了した後の平成二年九月
協議して、体育科目のうちの一種目が仮に合格点がとれなくても、他の種目の得点と総合
して合格点が取得できればよいこととする方針に変更した。したがって、平成二年一〇月
末における控訴人の前期の保健体育の成績評価は留保された(甲一七、乙八、一七、被控
訴人。)
その他、体育担当教員又は被控訴人は、
控訴人ら剣道実技へ参加しない学生に対し、代替措置はとらないことを告げて、参加する
よう説得を試みたことがあり、被控訴人も含めて、控訴人らのような学生の保護者に対し
ても、少なくとも三回は、同様の説得を試み、剣道実技に参加しなければ留年することは
必至であり、代替措置はとらないこと、あるいは留年してもなお参加しないのであれば留
年させること自体も問題であるという学校側の方針を説明した。これに対し、右保護者か
らは、合計四回、代替措置をとってほしいとの陳情があったが、学校の回答は、代替措置
はとらないということであった。その間、被控訴人と体育担当教員等関係者は協議して、
剣道実技への不参加者に対する特別救済措置として、剣道実技の補講を行うこととし、二
回にわたって、これへの参加を当該学生又はその保護者に勧めたが、控訴人は、これに全
く参加しなかった(甲一三の1ないし8、乙八、一七、被控訴人、控訴人(原審))
6このようにして、体育担当教員は、控訴人の剣道実技の履修については、これを欠席
扱いとし、控訴人が行った準備体操に対しては、剣道種目を一〇〇点満点として五点(学
年成績としては二・五点)と評価し、第一学年に控訴人が受けた他の体育種目の評価と総
合して四二点と評価した。これをもとに、平成三年三月一四日、被控訴人、教務主事、学
生主事、学科主任、学年主任、学級担当、教科担当の教員で構成する第一次進級認定会議
が開かれ、会議において、控訴人ほか五名の学生について、体育の成績が認定できないこ
ととされ、同時に、これらの学生に対し、剣道実技の補講を行うことを決め、その後これ
を実施したが、控訴人ほか四名はこれに参加しなかった。そこで、同月二三日に開かれた
第二次進級認定会議において、進級等規程により、控訴人ほか四名の学生について進級を
させないこととし、これを受けて、被控訴人は、進級等規程に基づき、同月二五日、控訴
人及びその保護者に対し、口頭で、控訴人を原級留置(進級させない)とすることを告知
した(本件第一次進級拒否処分、甲七の1、一七、乙八、一七、被控訴人、争いのない事
実。)
7なお、控訴人の体育の成績が四二点であったことは、右に認定したとおりであるが、
その欠課時数は六授業時間であり、右体育の成績を加えた平均点は八二・六点で、四〇名
のクラス中四番の成績順位であり、
右体育と点数で評価されていない工学実験(ただし、評価は優である)以外の点数の平均
は約八五・七であり、授業態度も真撃なものであった(甲七の1、被控訴人(原審。))
五平成三年度における控訴人の剣道実技の参加拒否とA高専の対応
1平成三年度においても、第一学年の体育科目の授業は、平成二年度と同じく、控訴人
は、前期の最初において、剣道種目の授業を受けなければならなかったが、控訴人が、前
記信仰上の理由から、剣道種目の授業において、剣道実技には参加せず、それ以外の準備
体操などは行い、実技の行われている間は、道場でこれを見学して記録していたこと、体
育担当の教員及び被控訴人らA高専側の方針は、控訴人ら剣道実技の受講を拒否する学生
、、も剣道実技の授業を受けなければならずこれに代わる代替措置はとらないというもので
従前と変わりのなかったことは、前認定の平成二年度の状況と全く同じであった(乙八、
一七、被控訴人、控訴人(原審。))
2平成三年度においても、四月に剣道実技への不参加を表明している控訴人ら学生とそ
の保護者に対して説得が行われ、一一月にも右学生に対し説得が行われたが、控訴人は、
剣道実技をすることを拒否した(乙八、一七、被控訴人、控訴人(原審。))
そして、体育担当教員は、平成二年度と同様の評価方法によって、控訴人の剣道種目の評
価と平成三年度の第一学年において控訴人が受けた他の体育種目の評価とを総合して四八
点と評価した。この評価をもとに、平成四年三月一三日、A高専の第一次進級認定会議が
開かれ、控訴人ほか四名について、体育の成績を不認定とするとともに、これらの学生に
対し、剣道実技の補講を行うことを決め、その後これを実施することを予定したが、控訴
人ほか四名はこれに参加しなかった。そこで、同月二三日に開かれた第二次進級認定会議
において、進級等規程により、控訴人ほか四名の学生について進級不認定とされた(本件
第二次進級拒否処分。)
次いで、同日、A高専の表彰懲戒委員会(乙一九(二一号事件)が開催され、控訴人ほ)

一名について退学の措置をとることが相当であると決定し、両名に対し、自主退学の意思
があるか否かを確認し、被控訴人は、同月二七日、自主退学をしなかった控訴人に対し、
同月三一日をもって退学を命ずる本件退学命令処分を告知した(以上、乙八、一七、被控
訴人。)
被控訴人の本件退学命令処分は、控訴人が二回連続して原級に留め置かれたこと(退学内
規、すなわち「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者(学則三一条(2)に)」)

当するとの判断をもとに行われたものである(甲一、乙五、被控訴人。)
3なお、右認定のように、控訴人の体育の成績は四八点であったが、平成三年度の控訴
人の成績は、この点数を含めて平均点が九〇・二点であり、右体育と点数をもって評価さ
れていない工学実験(ただし、評価はAである)を除く全科目の平均点は約九三・五であ
り(甲五〇、控訴人の授業態度が不良であったと認めうる証拠はない。)
第五控訴人の剣道実技授業への不参加と本件各処分との因果関係
被控訴人は、A高専では少なくとも、平成二年度、平成三年度において、保健体育科目に
ついては、学年で履修すべき体育種目を全体として総合評価するのであるから、控訴人の
ように、剣道種目について合格点がとれない場合でも、他の種目について努力すれば、保
健体育科目において修得認定を受けることができると主張し、確かに抽象的にはその可能
性を否定することはできない。
しかし、前第四の認定事実によれば、平成二年度及び平成三年度における控訴人の剣道種
目の点数は三五点の配点中二・五点であるから、控訴人が保健体育科目で修得認定を受け
る(五五点以上を取得する)ためには、残る配点が合計六五点である他の各体育種目にお
いて五二・五点すなわち右他の各体育種目の点数をいずれも一〇〇点満点とすると各約八
〇点をとらなければならないこととなる。さらに、A高専では、保健体育科目の点数は平
均値を約七〇点辺りになるよう採点しており、実際にも、平成二年度の控訴人のクラス四
、、、〇名の保健体育科目の点数はほぼそのような分布を示しており八五点以上の者はなく
八〇点ないし八四点の者が四名(一割、七五点ないし七九点及び七〇点ないし七四点の)

が各九名、六五点ないし六九点の者が六名、六〇点ないし六四点の者が一〇名であって、
控訴人ほか一名以外には、六〇点未満の者はいなくて(甲一二、八〇点未満の者が九割)

占めているのである。
そして、被控訴人も、剣道実技の授業に参加しない学生は、A高専が体育課目についての
修得認定について前記総合評価制を採用しているから認定される可能性はあるが、実際に
認定を受けることは難しいと予想できていた(被控訴人。)
これらの事実によれば、剣道以外の体育種目の受講に特に不熱心であったと認めうる証拠
のない控訴人がさらに努力をするとしても、平成二、三年の両年度において、右のような
、、剣道種目の評点を受けながら保健体育科目の合格点である五五点以上を獲得することは
実際には、殆ど不可能であったということができ、既に認定したように控訴人が剣道実技
に参加しなかったため、剣道種目について右のような評点を受けたのであるから、控訴人
が受けた右剣道種目の学習評価を前提とする限り、控訴人の剣道実技への不参加と平成二
年度、平成三年度の保健体育科目の不認定及び本件各処分との間には因果関係があるとい
わなければならない。
確かに、平成三年度において、控訴人と同様に剣道実技の受講を拒んだ学生一五名のうち
一〇名が、体育課目の修得認定を受けてはいるが(被控訴人、控訴人が他の体育種目の)

講において不真面目であったと認めうる証拠のない本件においては、右認定事実のみで、
右因果関係があるとの判断を左右するに足りるものとはいえない。
第六本件各処分の違法性
一問題点の整理
本件各処分が適法であるか否かを判断するに当たって、本件において当事者間で争点とな
っている問題点を整理してみる。
控訴人は、A高専が体育科目の一種として剣道を採用したこと自体が違法であるとは主張
しておらず、また、生徒あるいは学生の競技会等では剣道はスポーツ競技として行われて
いることは周知のところであり、前述のように、高専教課標準においても体育の種目とし
て掲げられていること、剣道には、身体的な体育効果も期待できること(乙七)からする
と、少なくとも学校の授業として行われる剣道は、控訴人が考えるほど武闘性の強いもの
、。ではなく柔道などと同様にスポーツの一種として授業が行われているというべきである
、、、、次に弁論の過程において控訴人は剣道の授業の準備体操をしているにもかかわらず
これに対し二・五点という低い評価が与えられ、保健体育科目を不認定とされていること
を合理的でないと主張しているかに窺えるところもあるが、学習の修得度の評価について
は、その評価の基本となる客観的な事実の把握に大きな誤りがなく、その評価が明らかに
著しく公平を欠いていない以上、その評価は、それが教育専門的・技術的なものであり、
定量的なものでない性質上、原則として、
評価をする教員の裁量に委ねられているものであり、本件においても、剣道の授業はスポ
ーツとして行われるのであるから、剣道の授業において剣道実技を行うことの意義は大き
く、控訴人はこの剣道実技に参加しなかったものであるから、右評点が著しく不合理、不
公平であるということはできない。
むしろ、控訴人が本件各処分が違法であると主張するところは、要するに、A高専の教育
においても信仰の自由は保障されるべきであるから、控訴人が信仰上の理由から剣道実技
への参加を拒否したのに対し、A高専は右剣道実技に代わる何らかの代替措置をとるべき
であるところ、その措置を講じないまま、被控訴人が本件各処分を行ったことが違法であ
るというものである。そして、A高専が控訴人に対し右代替措置をとらなかったことは前
認定のとおりである。
この控訴人の主張に対し、被控訴人は、剣道実技はスポーツであり、控訴人がこの授業を
拒否することは自由であるが、それによる不利益は控訴人が受けるべきで、A高専として
は代替措置をとる必要がなく、信仰上の理由で剣道実技の授業を拒否する控訴人に対し代
替措置をとることは、教育基本法のいう平等取扱や宗教教育禁止の原則(政教分離原則)
に反することとなり、また教員の指導、説得に従わない控訴人の授業不参加を認めること
になるが、それでは学生全体の規律が維持できない、A高専では現実に代替措置をとるだ
けの予算及び人的余裕がなく、不可能であったなどと主張しているものである。
、、、このようにみてくると本件において本件各処分が適法であったか否かに関する争点は
A高専において、控訴人に対し、代替措置をとるべきであったかどうかに収斂されるので
ある。
そこで、以下、これについて検討する。
二代替措置を講ずることの必要性の有無
1前認定のように、控訴人は、A高専に在学していたのであるから、その在学関係にあ
ることから、控訴人は、A高専において必修とされた授業科目を受講する義務があり、学
校の秩序を乱す行動をしてはならないものであるが、他方、控訴人は「エホバの証人」、

あって、その信仰上の理由から、剣道実技の授業を受けることができなかったというもの
である。
そして、前記第四認定の事実によれば、控訴人が剣道実技への参加を拒否する右理由は、
真撃なものであり、控訴人にとって、
内心の信仰の核心的部分と密接に関連するものであるということができる。
2ところで、憲法が保障する信教の自由は、それが内心の信仰にとどまる限りは、これ
を制約することは許されないが、信仰が外部に対し積極的又は消極的な形で表される場合
に、それによって他の権利や利益を害するときは、常にその自由が保障されるというもの
ではない。そして、このような場合には、信教の自由を制約することによって得られる公
共的利益とそれによって失われる信仰者の利益について、それぞれの利益を法的に認めた
目的、重要性、各利益が制限される程度等により、その軽重を比較考量して、信教の自由
を制限することが適法であるか否かを決すべきである。
したがって、本件においては、A高専が控訴人に対し剣道実技に代わる代替措置をとらな
かったことによって保持しうる公共的な利益と控訴人が剣道実技の受講を拒否したことに
よって受けなければならなかった不利益、すなわち本件各処分との軽重を比較考量するこ
ととなる。
3高等専門学校については文部省告示の学習指導要領はなく、その第三学年までについ
ては高等学校指導要領が参考にされており(乙二、弁論の全趣旨、この高等学校指導要)

における体育科目の履修の目標は、各種の運動を合理的に実践し、運動技能を高めるとと
、、、、、、もにその経験を通して公正協力責任などの態度を育て強健な心身の発達を促し
()。生涯を通じて継続的に運動を実践できる能力と態度を育てることとされている甲一〇
そして、前認定の事実によれば、体育科目は必修科目ではあるが、学生が履修すべき種目
は、右目標に沿って、それぞれの高等専門学校の実情に応じて、各校が選択採用できるも
のであって、高専教課標準では、格技については剣道以外に四種目が掲げられ、さらに、
右高等学校指導要領では、それまで主として男子生徒には武道(柔道と剣道)を履修させ
ることとされていたが、平成元年三月一五日の文部省告示第一二六号の高等学校指導要領
では、各学校は、武道かダンスのいずれかを採用できることとされ、武道は必ず履修しな
ければならないものではなくなった(甲九、一〇。)
そうすると、A高専において体育科目として剣道種目を採用したことに不合理なところは
なく、深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成する高等専門学校であっても、
高等学校の生徒と同年令の高等専門学校の学生にとって、体育科目の履修の重要性は否定
できないが、その目的から見て、剣道実技の修得がなにものにも代え難い必要不可欠なも
のであって、剣道実技をせず、代替措置では体育の教育効果をあげることができないとま
でいうことはできない。
4確かに、A高専における教育は、義務教育ではなく、学生がその自由意思によって入
学してくるものではあるが、神戸市が前記設置目的に従って設置した公の教育施設であっ
て、広く授業その他施設の利用について門戸を開放しているのであるから、A高専は、入
学を認められた学生に対して、右設置目的に沿って可能な限り、予定されている授業を受
けるなど施設利用について十分な機会を与えるための教育的配慮をする義務があり、これ
が教育基本法一条、二条及び右設置目的の趣旨にかなうものであると解せられるから、義
務教育でないからといって、右教育的配慮をする必要がないということはできない。
また、A高専は平成二年度の入学について、同年度から体育科目の一種として剣道種目を
()、、採用したことを関係中学校や生徒の保護者に説明しており前認定控訴人の保護者は
入学に際して剣道の面下(面の下の頭に被る布)を購入しているが(控訴人(原審)右)

述べたところから、このようにA高専が剣道種目の実施について関係外部に周知させ、控
訴人が面下を購入したからといって、右教育的配慮を不要とする事情とはいえず、控訴人
が予め剣道実技の受講を承諾していたものともいえない。
なお、剣道の面下は、A高専が学生に対し、入学前に、指定日時に販売場所である同校の
体育館で購入するよう指定した教材教具の一つで(乙四、控訴人の保護者は、他の教材)

(())具とセットになって袋に入れて販売されていた面下を購入したものである控訴人原審
5A高専が、控訴人に対し、剣道実技に代わる代替措置をとらなければならないとした
場合に、その措置の内容及び実施方法については、前記体育科目履修の目的が実現できる
範囲内で、右教育的配慮として、A高専の裁量において採用決定することができるもので
あるが、控訴人に対しこの代替措置をとった場合に、控訴人が剣道実技を受講する場合に
比較して、担当教員等の負担が多少増加することはあっても、それ以外に、被控訴人が主
張するように、
A高専における教育秩序が維持できないとか学校全体の運営に看過できない重大な支障を
生ずるおそれがあったと認めうる証拠はない。
なお、ある高等専門学校においては、控訴人のような学生に対し、レポートの提出又は他
の運動をさせる代替措置を採用している学校もある(被控訴人。)
むしろ、被控訴人は、控訴人が入学してくる以前に、信仰上の理由で、格技の授業を拒否
する学生が入学してくることを予想しており(被控訴人、A高専においてこれが現実化)

ると、即座に、体育教員は、控訴人に対し、剣道実技の拒否は認めないことを明確に表明
し、被控訴人も同様の方針を明らかにし、また、控訴人及びその保護者からの代替措置を
、、、とってほしいとの申し出に対しても終始これを拒否して控訴人やその保護者に対して
剣道実技を受講するようあるいはさせるよう説得し、剣道実技の補講以外の措置をとらな
かった(前認定)のであるから、控訴人について、右教育的配慮としての代替措置をとる
必要性があるか否かについて、それを決定する権限を有する被控訴人が、十分にその検討
を尽くしてはいなかった可能性が高いといわざるを得ない。被控訴人は、救済措置として
剣道実技の補講を実施又は予定したと主張するが、補講とはいえ、それは剣道実技である
から、宗教上の信条に基づいて剣道実技の授業への参加を拒んでいる控訴人にとっては、
代替措置というに値しないものである。
6控訴人は、信仰上の理由で剣道の授業を拒否し、消極的な形で控訴人の信仰を外部に
対し行動に示しているのであるが、控訴人にとって、この拒否行為は控訴人の信仰の核心
的部分と密接不可分とされているものである(前認定。そして右拒否は、A高専の教育)

針と相容れず、控訴人は本件各処分を受けたわけで、本件各進級拒否処分は、控訴人が第
一学年で学んだ各科目及び体育科目の剣道実技以外の種目の学習を無に帰せしめて、再学
習を余儀なくさせる効果を持つものであり、被控訴人の考えでは、本件各処分について裁
、(、量の余地はなく連続二回の進級不認定は退学処分につながるというのである被控訴人
前認定。してみると、剣道実技の受講を拒否することによって、A高専において教育を)

けようとする控訴人が被る不利益は極めて大きく、本件退学命令処分は、控訴人をA高専
から排除し、右教育を受ける機会を全く剥奪する処分にほかならないから、
これによって控訴人が被る不利益が余りにも甚大なものであることは明白である。
7そうすると、右3ないし6の認定事実及び判断を総合し、前2で述べたように、A高
専の教育施設としての公共的な利益と控訴人が失う利益とを比較考量すると、本件の場合
には、被控訴人は、信仰上の理由で剣道実技の授業に参加しない控訴人に対し、代替措置
をとることについて法的、実際的障害がない限り、その教育的配慮に基づき、剣道実技の
授業に代わる代替措置をとるべきであったといわなければならない。
三代替措置をとることについての法的、実際的障害の有無
1憲法二〇条三項の定め(政教分離)を受けて、教育基本法九条二項は、公立学校が特
定の宗教のための宗教教育をし、宗教活動をすることを禁じており、被控訴人が控訴人に
、、対し右代替措置をとることは宗教上の理由による控訴人の剣道実技の授業への不参加を
結果として、承認することを前提とするものである。
しかし、前述のように、代替措置をとる目的はあくまでも、可能なかぎり控訴人がA高専
において信教の自由を侵されない状況の下で教育を受ける機会を保障しようというもので
あって、その措置も、控訴人の受講拒否に対して、他の学生に比して有利な学習条件を設
けることが求められているのではなく、被控訴人が前記体育科目の教育目標、教育効果や
、。他の学生との公平等を考慮しつつ教育的配慮として行う裁量に委ねられているのである
したがって、この裁量が適切に行使されれば、代替措置によって控訴人に対し特に有利な
地位を付与することにはならず、身体上の理由等で体育実技に参加できない学生に対し代
替措置を講じる場合と実質的に径庭のないものであって、右代替措置が宗教的色彩を帯び
るものでないことはもとより、被控訴人が代替措置を採用、実施したからといって、控訴
人が信奉する宗教(エホバの証人)を援助、助長又は促進する効果あるいは他の宗教の信
仰者や無宗教者に対する圧迫や干渉の効果を生じる可能性はないというべきである。
さらに、被控訴人は、控訴人に対し剣道実技の受講拒否を認めるとすると、その拒否理由
を判断しなければならないが、これは公教育の宗教的中立性に反するとも主張する。しか
し、被控訴人が行うべき拒否理由についての判断は、教育者としての十分な経験を有する
教員であれば、
控訴人がいうところの理由が単なる怠学のための口実であるか否か、控訴人の説明する宗
教上の信条と剣道実技の受講拒否との関連性についてそれなりの合理的根拠が認められる
か否かといった程度の調査をもって必要にして十分であり、それ以上に当該宗教の教義、
内容に立ち入った審査を必要とするものではなく、また、すべきものでもないのであるか
ら、右程度の調査をすることが公教育の宗教的中立性に反するとはいえない。
そして、A高専の体育担当教員及び被控訴人は、控訴人の拒否理由について調査するまで
もなく、エホバの証人である学生が格技の授業をその信仰上の理由から強く拒否すること
を事前又は事後に十分に知っていたものである(前第四認定の事実、被控訴人。)
したがって、被控訴人において、宗教上の理由による控訴人の剣道実技の授業への不参加
に対し、代替措置をとることが、右憲法及び教育基本法の規定あるいはその趣旨に反し又
は憲法一四条(公平原則)に反するものであるとはいえないから、被控訴人が右代替措置
をとることには、法的な障害があったとはいえない。
2被控訴人は、A高専の予算、教員数から、控訴人に対し代替措置をとることができな
かったと主張するが、これまでもしばしば述べたように、被控訴人が控訴人に対しどのよ
うな内容の代替措置を採用するかは、その裁量によるものであって、当裁判所において、
特定の代替措置を前提としてそれが障害となるものであったか否かを判断することはでき
ないから、被控訴人がいかなる代替措置を前提として右主張をしているのか必ずしも明ら
かでない本件においては、仮に右主張の事実が認められたとしても、これをもって、被控
訴人が代替措置を講じることに実際上の障害があったということはできない。
被控訴人は、剣道実技が体を動かして学習する授業であるから、代替措置もそのような学
(、)、習内容のものでなければならないという考えを持っているが被控訴人弁論の全趣旨
、、、仮にそうであるとしても予算や教員数の制限を考慮しつつできる範囲で柔軟に対応し
次善の方策を講じることが全く不可能であったとは考えられない。被控訴人が、教育的配
慮の一環として、右のような学習以外の代替措置について慎重な考慮をしたと認めうる証
拠はなく、却って、既に認定したように、被控訴人は、平成三年度、三年度において、
剣道実技の受講拒否を認めないとの方針を頑なに維持し、代替措置の可否についてはそも
そも頭から検討の埒外に置いていたものである。
そうすると、被控訴人が控訴人に対し剣道実技に代わる代替措置を講じるについて、実際
上の障害があり、これを実施できなかったという被控訴人の主張は、採用することができ
ない。
第七まとめ
以上の認定及び判断によれば、本件においては、被控訴人は、信仰上の理由で剣道実技の
授業に参加できないという控訴人に対し、その教育的裁量を適切に行使して、右授業に代
わる代替措置をとる必要があり、この代替措置をとることにおいて、法的にも実際上も障
害があったとはいえないところ、被控訴人は、代替措置を全く講じないまま、評価された
控訴人の体育科目の不認定を基に、控訴人に対し、本件各進級拒否処分をし、連続二度に
わたって進級できないことを理由に、控訴人が学業劣等で成業の見込みがない学生に該当
すると判断して、控訴人に対し、本件退学命令処分をしたのであるから、被控訴人は、本
件各処分をするに当たって、その処分理由及び処分の必要性の判定において行使されるべ
き裁量権を著しく逸脱して本件処分をしたものであり、したがって、本件各処分は違法で
あるというべきである。
第八結論
叙上のとおりであって、控訴人の本件請求は理由があり、これを認容すべきであるから、
これと異なる原判決は正当ではなく、本件控訴は理由がある。
、、、、よって原判決を取り消して控訴人の請求を認容し訴訟費用の負担につき行訴法七条
民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官島田禮介大石貢二岩谷憲一)
平成三年(行ウ)第一三号
原審判決の主文、事実及び理由
一原告らの請求をいずれも棄却する。
二訴訟費用は原告らの負担とする。
○事実及び理由
第一請求の趣旨
被告が原告らに対し平成三年三月二五日付けでした進級拒否処分をいずれも取り消す。
第二事案の概要
被告は、信教上の理由により体育における剣道実技の履修を拒絶した原告らについて、体
育の単位を認定せず、原告らに対して第二学年への進級を拒否する旨の処分をした。そこ
で、原告らは、被告が、信教上の信条に反するために参加できない原告らに剣道実技の履
修を強制し、それを履修しなかった原告らに代替措置も採らずに欠課扱いをして体育の単
位を認定せず、原告らを原級に留置する処分までするのは、
信教の自由を侵害するものであり、信条による不当な差別を禁じて教育の機会均等をうた
った教育基本法三条、九条一項、憲法一四条に違反し、ひいては原告らがA工業高等専門
学校(以下「A高専」という)の学生として教育を受ける権利や学習権を侵害するもの。

違憲違法であると主張して、右各処分の取消しを求めた。
一前提事実(処分の存在及びそれに至る経緯等)
1当事者及び処分の存在等(当事者間に争いがない)。
(一)原告らは、いずれも平或二年四月一〇日にA高専に入学し、後記の処分当時、原
告Bは電気工学科に、同Cは応用化学科に、同Dは機械工学科に、同Eは電子工学科の各
第一学年に、それぞれ在籍しでいた者であり、被告は、同校の校長である。
(二)被告は、平成三年三月二五日、原告らに対し、A高専の第二学年に進級させない
措置(以下「本件処分」という)をした。。
2処分に至る経緯等
(一)A高専においては、進級の認定を受けるためには当該学年において修得しなけれ
ばならないとされている科目の全部について不認定のないことが必要である(学業成績評
(「」。))。価及び進級並びに卒業の認定に関する規程以下進級等認定規程という一二条
そして、科目が不認定とされるのは、科目担当教員が、生徒の学習成績(学習態度及び出
庸状況等の総合評価)と試験成績とを総合して一〇〇点法で評価した学業成績(進級等認
定規程五条一が五五点未満の場合である(進級等認定規程八条。そして、不認定が一科)

でもあるため進級を認定されない者は、原級留置とされ、その学年の授業科目全部を再履
修することとなる(進級等認定規程一四条。)
なお、休学による場合のほか、連続して二回原級にとどまることはできず(進級等認定規
程一五条、校長は、連続二園原級に留め置かれた者に退学を命じることができる(退学)

関する内規、A工業高等専門学校学則(以下「学則」という)三一条(当事者間に争。)。

がない。なお、甲第一ないし第三号証)
(二)A高専において、保健体育(以下、単に「体育」という)は、全学年において。

修科目とされ、各学年につき二単位ずつ割り当てられている。
、。、同校では平成二年度から第一学年の体育の課程の種目の中に剣道を取り入れた剣道は
同年度において、クラスにより、
第一学年の前期又は後期のいずれかに実施されたが、剣道には、いずれのクラスにおいて
も、各期のうち七〇点が配分され、したがって、その配点の割合は、第一学年の体育全体
の三五パーセントを占めていた(甲第一号証、乙第八号証、第一七号証、被告本人尋問。

結果)
(三)原告らは、いずれも「エホバの証人」と呼ばれるキリスト教信者であり、聖書中
の「できるなら、あなたがたに関する限りすべての人に対して平和を求めなさい「彼。」

はその剣をすきの刃に、その槍を刈り込みばさみに打ち変えなければならなくなる。国民
は国民に向かって剣を上げず、彼らはもはや戦いを学ばない」などの教えに基づき、絶。

、。、、的平和主義の考えを持ち格技に参加すべきではないと確信していたそこで原告らは
剣道を実技種目とする体育の授業時間について、当初の準備運動には参加したものの、そ
の後の剣道の実技については、武道場の隅で自主的に見学するだけで、参加しなかった。
学校側では、原告ら及びその保護者に対し、剣道の実技を受講するよう説得したが、原告
。(、、らはこれを受け入れるに至らなかった甲第四ないし第六号証第五号証の一ないし六
乙第八号証、第一七号証、原告B及び被告各本人尋問の結果)
(四)原告らは、前述のように剣道の実技に参加しなかったことなどから、平成二年度
の剣道を含めた第一学年における体育全体の成績について五五点未満(原告Bは四二点、
同Cは五二点、同Dは五〇点、同Eは四四点)と評価され、いずれも体育の単位が認定さ
れなかった。
そこで、学校側は、進級認定会議を経て、原告らを含む六名の体育不認定者に対する救済
措置として剣道の補講を実施したが、原告らがこれを受講しなかったため、被告は、平成
三年三月二五日、前記規程に基づき、原告らを第二学年に進級させない旨の措置をした。
(甲第七号証の一ないし三、五、第八号証の一、第五三号証、乙第八号証、第一七号証、
被告本人尋問の結果)
二争点
本件の主な争点は(1)本件処分は司法審査の対象になるかどうか(2)本件処分は、、

政処分かどうか(3)本件処分が違法かどうかであるが(3)の前提として(1)剣、、、

、()、を必修としたことの可否2被告が原告らの体育の単位を認定しなかったことの可否
(3)被告が原告らに対し代替措置を採らなかったことの可否、が問題になる。
第三争点に対する判断
一1被告は、高等専門学校の校長が学生を従前の学年に留置するかどうか及びその前提
、、となる単位を認定するかどうかは一般市民法秩序と直接関係のない教育上の措置であり
かつ、高度の教育的、専門的評価に関する措置であって、司法審査の対象とはならず、本
件訴えは不適法であると主張する。
2しかし、本件処分は、原告らをA高専の第一学年に留め置くもので、それ自体は学校
の内部処分であっても、それにより、原告らは、第一学年の授業科目全部を再履修するこ
とになるだけでなく、第二学年における教育を相応しい時期に受けることができなくなる
などの不利益を受けるのであり、このような不利益は、単に学校内部の問題にとどまるも
のではないから、一般市民法秩序と直接の関係を有するということができる。また、その
処分の前提となる単位の認定をするかどうかの点についても、後記のとおり、一科目でも
単位不認定のあることが、そのまま本件処分に直接結びつくものである以上同様である。
3したがって、本件処分は、一般市民法秩序と関係のない教育上の措置として自律的に
処理すべき事項とはいえず、司法審査の対象とならないという被告の右主張は採用できな
い。
二本件処分は行政処分かどうかについて
1被告は、本件処分(但し、被告は、原級留置処分と称している)は行政処分に当た。

ないと主張する。
2しかし、この措置によって、原告らは前述のような不利益を受けることになり、原告
らはA高専において本来予定されていた時期に第二学年の教育を受ける権利を制約された
のであるから、本件処分は行政処分であると解するのが相当である。
三本件処分が違法かどうかについて
1原告ら及び被告は、本件処分について、それぞれ次のように主張する。
(一)原告ら
(1)憲法二〇条一項は、信教の自由を保障している。A高専の学生も又信教の自由を
含む基本的人権を享有するものであり、これらの人権は、教育の場においても尊重されな
ければならない(教育基本法一条。)
(2)憲法が保障する信教の自由には、内面的な信教の自由だけでなく、信仰告白の自
由、宗教儀式の自由、宗教結社の自由、宣伝布教の自由等が含まれる。このような内容を
、、有する信教の自由を保障することは公権力によってこれらの自由を制限されることなく
それらを理由にいかなる不利益をも課してはならないことを意味している。
信仰の自由が内心にとどまっている場合にはその保障は絶対的であるが、そのような場合
だけでなく、信仰に基づいて国法上義務づけられた行為その他の行為を行うことを拒否し
た場合にも、その法的義務が実質的にみて重大な公共の利益に仕えるものであったり、あ
るいは、それによって他人の人権を制限する結果をもたらすものでない限り、これに対し
てなんらかの不利益を課すことは、信教の自由の侵害として許されない。
(3)国家行為と信教的信条や信仰告白とが抵触衝突する場合、当該国家行為の違憲審
査基準として(1)国家行為の高度の必要性(信教の自由を侵害してでも強行されなけれ
ばならないほどの必要性、それが実質的な公共的利益を実現するため必要不可欠なものか
否か(2)代替性の有無(仮に国家行為が高度の必要性に基づくものであっても、そ。)、

が同じ目的を達成するために代替性のない唯一の手段か否か(3)国家行為による侵。)、

の性質及び程度、侵害される宗教上の利益の重要性の程度の比較衡量(4)その他当該、

教的行為自体が他の国民の権利を侵害するものか否か、の各要件が審査検討されるべきで
ある。
(4)本件について右の各要件を検討すると、次のとおりである。
(1)体育履修の目的は「各種の運動を合理的に実践し、運動技能を高めるとともに、
それらの経験を通して、公正、協力、責任などの態度を育て、強健な心身の発達を促し、
生涯を通じて継続的に運動を実践できる能力と態度を育てる(学習指導要領)ことで。」

るが、このような目的から、剣道実技強要の必然性は導き出せない。現に、A高専におい
ても平成二年度までは剣道がカリキュラムに組まれていなかったのである。A高専は、工
業専門学校として工業等の技術を重んじているのであって、警察学校でも体育学校でもな
い。また、参考とすべき高等学校学習指導要領においては、従来必修とされていた格技が
選択制に変更されることになったことからみても剣道実技の履修の必要性は認められな
い。
したがって、原告らの信教の自由を制約する国家行為の高度の必要性は認められない。
(2)原告らは、被告に対し、再三再四剣道実技拒否の理由を説明するとともに、剣道
、。、、実技に代わる代替授業の実施を求めてきたが被告は一顧だにしなかった因みに東京
大阪、
奈良など全国の多くの高専、高等学校では代替措置により、進級、卒業を認めている。ま
た、原告らは剣道実技には参加しなかったものの、級友の行う剣道実技を見学していたの
であるから、身体上の障害を理由として実技に参加できず見学していた人に準じて評価す
べきである。このような場合、見学の実績があれば、後日当該見学者にレポートの提出を
求め、少なくとも科目認定に差し支えのない何らかの評価を与えるのが通例である。原告
らの一部の者は、剣道実技見学の後自主的にレポートを作成し提出しようとしたが、その
受領さえも被告に拒否され、そのため、他の者はレポートを提出しなかった。
したがって(2)の代替性も存する。
(3)本件処分は当該学年の全授業科目の再履修を要求するものであり、体育以外、比
較的優秀な成績で単位取得した科目まで再履修を課せられる無駄と余分な教育費の支出、
時間の空費という著しい不利益、更に来春同一の理由で再度体育科目が欠点とされる蓋然
性(原告らの剣道実習拒否の理由が、信教上の確信に基づく以上、再度第一学年の課程を
履修したとしても、再び留年する可能性は極めて大きい)も高く、そうすると連続して。

回原級にとどまることばできないとの定めにより退学を余儀なくされるという不利益を受
けることが考えられる。
被告は、留年を前提として、六五点のうち五五点以上獲得するよう努力すればよいという
が、それは配点のうち八五パーセント(平成二年度の電気工学科の第一学年学業成績によ
れば、八五点以上獲得した学生はいない)以上獲得しなければならないことになり、自。

、。の信教を貫徹できるのはずば抜けた運動能力の持ち主だけということになり背理である
また、武道を強要されることは、原告らの宗教信条に反し、著しい良心の呵責を受けるこ
とになる。剣道を行わないという信念は「エホバの証人」の教え(聖書の原則)の基本、

理から派生したものであり、信仰の重要な内容を形成している。剣道実技不受講は、原告
らの信仰生活全体から帰結されるものであり、それを認めないことは、原告らの信教の自
由を全面的に否認することに等しい。したがって、剣道履修の義務づけは、宗教的禁止事
項を行わせて、原告らに戒律を侵させることを要求することになる。本件で、剣道の実技
を原告らに義務づけることは、原告らに対して極めて重大な自由の抑圧をもたらすことに
なる。原告らは、
進級するために信仰に反して剣道実技を受講するか、それとも、信教の自由を実践して剣
道実技を拒み、進級拒否という不利益を甘受するか、厳しい選択を迫られてしまうのであ
る、よって、原告らの信教の自由は根本的に侵害されているといわなければならない。
以上のことに加えて、本件でのA高専の措置は、道場で座って見学していた原告らを、剣
道実技に参加していなかったもの(欠席)として扱い、もって体育の単位を認定せずに信
教の自由を拒否したものである。したがって、被告の本件処分は原告らの信仰を高度に侵
害したものである。
したがって(3)については、原告らの受けた不利益は大きいということができる。、
(4)原告らが剣道実技を拒んだとしても、クラスとして剣道の授業を行うことができ
なくなったとか、他の学生が正当な理由なく実技を拒否して収拾ができなくなったという
事実は少しもない。また、他の学生が身体上の理由以外の理由で、体育の授業を受けられ
ないということを教師に申し出た例はなく、原告らが宗教上の理由から剣道実技を行わな
いことについて、他の学生たちが原告らのことを悪く言ったり、うらやましがったりして
いない。平成四年度に、剣道実技を行わなかったエホバの証人の学生が数名進級したが、
それでも他の学生達の間に混乱や教育上の弊害が生じていない。このように、弊害が存在
しないことは、信教上の理由で格技のできない学生・生徒に対して救済策を実施している
他の高等学校・高等専門学校においてもいえることである。
()、、、5以上のとおりA高専において剣道の履修を強制する高度の必要性はなくまた
剣道でなくても同じ目的を達或することは可能であり、本件処分によって侵害される宗教
上の利益は重大であり、原告らが剣道実技の履修を拒んだことが他の国民の権利を何ら侵
害するものでないのであるから、いずれにしても、本件処分は違憲というべきである。
(6)一般論として、教育機関において、ある科目につき単位を認定するかどうかは、
担当者の極めて専門的かつ教育的な価値判断に属する行為であることから、専門的、教育
的な領域において裁量権が認められるが、その裁量権の行使に逸脱又は濫用があると認め
られるときには、右単位の不認定が違法とされる。裁量権の制約の最大のものは憲法の規
定であり、行政行為一般の違憲審査は、本来、法律による行政の原理の下で、
司法審査の方法ないし限界である行政裁量論に優先してなされるべきであって、違憲審査
を行政裁量の下位に従属させてはならない。
A高専において、平成二年四月から体育科目の中に剣道が取り入れられたが、かねてより
エホバの証人の学生らが本校に多数人学して来ることに懸念を抱いていた被告は、右剣道
を体育科目に採り入れることにより、エホバの証人の学生たる原告らをA高専から排除し
、、ようと企図しあるいは排除することになってもその方が望ましいものであると認識して
予想通り原告らが剣道実技の履修を拒むや、表面上は繰り返し説得活動を継続していたと
しても、原告らが聖書の教えを遵守する以上翻意は望もべくもないということを知悉しつ
つ、原告らのひたもきな代替措置を求める声に対し、他校で広く行われている代替授業が
眼中になく、これを安易に拒み、原告らが体育科目について欠点しか獲得できない状況を
作出し、その結果剣道実技未了という不作為に比して、余りにも均衡を欠く留年処分をし
たものであって、これは被告に与えられた裁量権の著しい逸脱濫用といわざるを得ない。
(二)被告
(1)A高専における剣道の授業は、学校教育法、同法施行規則に従い、高等専門学校
設置基準、高等学校学習指導要領を参考にして、体育の授業のなかの一種目として取り入
れたものである。このように、高等学校においても必修である格技の種目として選択する
ことができ、健全なスポーツとして大多数の一般国民に広く受け入れられている剣道を体
育の授業の中の一種目として行うことを決定したA高専の措置には何ら裁量権の逸脱も濫
用もない。
(2)原告らは信教上の理由から格技を拒否しているという。
しかし、剣道は、体育の内容として、敏捷性、巧ち性の育成、瞬発力の育成、持久力の育
成、正しい姿勢の育成などの身体的な側面及び気力の育成、集中力と決断力の育成、礼儀
の育成、自主的精神の育成などの社会的態度発達の側面における優れた体育効果を持ち、
また、格技と分類されてはいるが、竹刀を使って行うスポーツであり、こんにち剣道を日
本刀を使用するための武技などと考えている者はいない。こんにもの戦闘における個人装
備の武器は銃であるし、個人間の格闘のためであれば、柔道やレスリングなど徒手のより
有用な武技がある。
このような剣道を原告らがその信教に基づいてどう評価するかは、
原告らの自由であるが、そのような評価は一般には通用しないものであり、前記高等学校
学習指導要領等にも体育の内容として相当なものとして剣道が挙げられており、このこと
、。は剣道が体育の内容として相当であることを公に認知しているものということができる
公教育を行っている被告に対し、原告らの特定の信教を押しつけ、公教育のあり方を曲げ
ることは許されることではない。
()、、3剣道の授業は宗教的には無色の行為であるからそれを行うことが憲法二〇条二
三項の宗教上の行為に参加を強制したり宗教教育、宗教的活動を行うことにはならないこ
とはいうまでもない。
また、原告らがその信教上剣道をどう評価するかは自由である。原告らはその信教上の理
由によって剣道の授業を受けなかったために、体育の授業の総合評価において所定の点数
に達せず、進級できなかったまでである。被告は、原告らが進級できるよう誠意をもって
再三説得を試みたが、原告らの信教上の自由に干渉したことはない。
原告らに対する措置をもって信教の自由を保障した憲法二〇条に違反するとすることは全
く理由がない。
(4)逆に、原告らを信教上の理由によって、授業につき特別扱いすることは、公教育
を行っている被告が学生の信条によって差別扱いすることになり、憲法一四条、教育基本
法九条二項に違反することになる。
(5)原告らの信教の自由に関する考え方は、基本的に信教の自由がどのような場面に
おいても全く制約を受けないとの誤った前提に立つものである。確かに、信教の自由も、
内心にとどまっている限りは、何の制約も受けないものである。しかし、信教の自由も、
外部に表出され、何らかの行動を伴うようになると、他人の人権や諸種の義務等との緊張

衝突関係を生じ、それによってある程度の制約を受けることは、当然に予定されているこ
とであり、その制約は基本的人権に内在する制約である。このことは、日本国憲法一二条
に「・・・・・・叉、国民はこれ(この憲法が国民に保障する自由及び権利)を濫用して
はならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」と規定さ。
れ、
同一三条に「・・・・・・生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共
の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」と規定され。

いることからも明らかである。
本件の場合においても、
原告らがどのような宗教を信仰するかは、全くの自由であり、被告も、原告らに対しエホ
バの証人の信者であることを止めるように強制しているわけでもなく、剣道の授業の受講
を強制したこともない。ただ、学校で勉学を継続し、単位を取得し、進級していくために
は、そのルールを守るべきであり、そのルールに反して剣道の授業の受講を拒否すれば、
それによって発生する効果、すなわち、受講を拒否した部分について学業成績の評価が〇
点になるという不利益は、当然自らがその責任において負担する筋合いのものである。要
するに、原告らの主張は、信教の自由を根拠にすれば何をしても許されるという、到底受
け入れられない極めて偏った議論である。
(6)A高専は、地方公共団体の設置する学校であって、そこでは公教育が行われてお
り、また、高等専門学校は、深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること
を目的としており、義務教育ではない。
なお、学校教育はその性質上、定額の予算をもって、定数の教職員により、現行法制下で
予め編成された教育課程によって、集団的教育を行っているものであることを考慮する必
要がある。
A高専は義務教育を実施するものではないから、学生は授業を受けない自由、進級しない
自由、退学の自由を有している。他方、被告は、学生に対し、授業を受けないために、授
業科目の履修について到達度が不十分と評価した者の単位を認定しない措置、進級を認定
しない措置、学校教育法施行規則一三条三項各号に該当する学生に対し退学処分をする権
限を有している。
原告らが信教上の理由により特定授業の受講を拒否することは自由であるが、その結果、
現行法制下で単位不認定、進級不認定の結果を招来するのも、まことにやむを得ない結果
である。教育を受ける機会は与えられたが、原告らがそれを拒否したのであり、その責め
は原告らが負うべきものである。
(7)原告らは代替措置を構ずべきことを主張するが、被告としては次の理由からこれ
に応じるわけにはいかない。
(1)原告らを信教上の理由で特別に扱うことは、公立学校において信教上の理由で学
生を差別扱いすることになり、逆に平等取扱いの原則や宗教教育の禁止の精神に反する結
果となる。
(2)代替措置を講ずることは、予算、教員数の関係から困難であるとともに、個人的
理由により代替措置をすることを認めるときは、学生から、
他の場合にも代替措置を認めよという要求を生も結果となる。
また、体育は、体を動かすことによって教育効果を上げる授業であるから、病気でないの
にレポートをもってこれに代えることはできない。
(3)明白かつ現実に教員の指導、説得に従わない学生に対し、他の学生同様単位を認
定するときは、学生全体に対する規律の維持ができなくなる。
教育は、一定の規律の下でその効果を上げ得るのであり、集団教育の中で規律が無視され
ると、教育はその効果を上げることができなくなる。
(8)原告らは、宗教上の寛容をいうが、現在の法制下、公立学校たるA高専で原告ら
に対し、既に詳述した理由から単位を認定できないことは、まことにやむを得ない措置で
ある。
逆に、原告らは、公立学校の集団教育の場で、指導拒否の悪例を他の学生に公示し、A高
専の秩序と教育効果に悪影響を与えていることを省みない。
被告は、これに対し辛抱強く再三誠意をもって説得し、補講まで用意するとともに、原告
らの規律違反に対して何らの懲戒処分を行っていない。このことは、被告の寛容の態度の
表れというべきである。
2ところで、学年制を採っているA高専において、学生の進級は、学生が当該学年にお
いて習得すべき事項を習得したと認定された場合に認められるものである。このような或
績の評価に関連する判断は、高度に技術的な教育的判断であるから、その判断は、直接教
育に携わっているものの教育的、技術的な裁量に任されているものと解するのが相当であ
る。
したがって、校長がする進級拒否処分は、進級の要件の有無の判断が全く事実上の根拠に
基づかないと認められる場合であるか、あるいは教育的な見地からみて社会観念上著しく
妥当を欠き判断権者に任された裁量の範囲を超えるものと認められる場合を除き、判断権
者の裁量に任されているものと解することが相当である。そして、原告らが主張する諸要
素は、この処分について校長に裁量権の逸脱又は濫用があるかどうかの判断の諸要素の一
部として考慮するのが相当である。
3剣道を必修と定めたことについて
(一)原告らは、信教上の信念によって格技の実習に参加することができないと確信し
ている原告らに対して被告が格技の実習への参加を強制したため、原告らの信教の自由が
侵害されたと主張する。
憲法二〇条に規定されている信教の自由は、基本的な人権として、
内心にとどまる限りその保障は絶対的なものといわなければならない。
しかしながら、本件のようにそれに基づいて法的義務や社会生活上の業務の履行を拒絶す
るなどそれが外形的行為となって社会生活と関連を有する場合には、宗教に対し中立的な
一般的法義務による必要最小限の制約を免れることができないこともまたいうまでもな
い。
ところで、A高専が原告らに対して剣道実技の履修を求めたのは、同校においては、体育
は必修とされていて、その体育において一年時に履修すべき種目のひとつとして剣道が選
択されていたからである。そこで、A高専では、どのような根拠に基づいて、学生に対し
剣道実技を必修として課しているのかについて検討する。
(二)証拠によれば、A高専における授業科目及び単位数について、次の各事実が認め
られる。
(1)高等専門学校においては、高等専門学校を所轄する文部大臣(学校教育法七〇条
、)、(「」の一〇六四条はその教育課程の大綱として高等専門学校設置基準以下設置基準
という)を定めているほかは、高等学校における学習指導要領に相当するものは存在せ。
ず、
これを各高等専門学校で具体的に展開していく際の参考とするため、昭和四三年三月に行
(「」。)政指導という形で示された高等専門学校教育課程の標準以下教育課程の標準という
及び昭和五一年七月二七日に出された「高等専門学校の設置基準及び学校教育法施行規則
の一部を改正する省令はついて」という文部省大学局長通達(以下、併せて「通達等」と
いう)があるにすぎない。。
設置基準において授業科目として列挙されている体育の種目中に柔道、剣道等の格技も掲
げられているが、そのいずれを採用し、それに対してどの程度の点数を割り当てるべきか
を定めた規程は、右設置基準はもちろん、教育課程の標準や大学局長通達の中にも存在し
ない(乙第一、第二号証、第八号証、第一七号証、被告本人尋問の結果)。
(2)A高専においては、かねてから剣道の実施を検討していたが、舞子台の校舎には
武道場が整備されていなかったため、昭和六〇年ころから武道場を整備する計画があった
ものの、平成元年度までは剣道の授業は行われていなかった。A高専は、平成二年度に従
前の舞子台から学園都市の新校舎に移転することになったが、新校舎では武道場が整備さ
れ剣道の授業が可能になるので、
同年度から体育の一種目として剣道実技を実施することにした(乙第一七号証、被告本。

尋問の結果)
(3)A高専では、武道場の実施計画に着手した昭和六二年度以降、入試説明会におい
て、新校舎移転後は格技を実施することを明らかにし、被告が阪神間の各中学校を学校紹
介等のために訪問した際にもそのことを説明してきた。また、平成二年度からは同校の学
、。(、生募集人学願書類にも同年度から剣道の授業を実施することを掲載した乙第三号証
第一七号証)
(三)以上の事実によれば、第一に、高等専門学校において一般科目として体育を必修
とすることは、設置基準に基づくものであり、本件高専において、体育を必修としたこと
も設置基準に合致するものと認められ、この点について、特に違法不当な点を窺うことは
できない。
()、、四次にその体育の種目のひとつとして剣道を選択したことが違法か否かをみるに
必修科目である体育の授業の教育内容をどのようにするかについて、教師に完全な自由を
認めることができないのはいうまでもないが、他方、教育的な見地からの専門的価値判断
が必要な行為でもあるから、一定の範囲内で教師側の裁量が認められることも否定できな
い。
また、前記認定事実によれば、高等専門学校において、体育の種目として何を採用すべき
か、その採用した種目に対しどの程度の点数を割り当てるかについては、各高等専門学校
の自主的判断に委ねられているものと解することができる。
(五)これに対し、学校教育法四三条、同法施行規則に基づいて文部大臣が告示した現
行の昭和五三年の高等学校学習指導要領(以下「現行要領」という)においては、格技。
は、
主として男子に各学年で一つを選んで指導するものと規定し、現行の高等学校学習指導要
領の特例によりそれによってもよいとされる平成元年の高等学校学習指導要領以下新、(「
要領」という)には、種目の選択の際には武道かダンスのどちらかを含もようにするこ。

が規定され、また、現行要領と新要領のいずれにも格技(武道)の種目のひとつとして剣
道が規定されている(甲第九ないし第一一号証)。
(六)このように、高等専門学校と高等学校との間において、履修すべき教育課程の内
容等につき文部大臣の指針に差が見受けられるのは、普通教育を行う高等学校に対し、設
置された歴史も新しく、かつ、
科学技術の絶えまない進展を常に取り入れていかなければならない高等専門学校の教育課
程については、具体的かつ詳細な指導要領を不変のものとして定めるよりも、その大綱を
示し、その中で各学校毎に時代に即応した適切な指導を行うことができるようにし、もっ
て、高等専門学校教育の充実を図ろうとしたものであると考えられる。このように、文部
省の指針に差が見受けられるとしても、体育等の一般科目については、高等学校と高等専
門学校との間で、後期中等教育における普通教育を行うという点では共通のものと考えら
れるから、その内容面において、高等学校の学習指導要領に定められているところを、高
等専門学校において参考とすることも決して誤りではない。
(七)前述のとおり、高等学校においても格技(武道)を選択することができると定め
られているうえ、剣道は、それ自体宗教と全く関係のない性格を有し、健全なスポーツと
して大多数の一般国民の広い支持を得ているのは公知の事実であるから、その剣道を、文
部大臣から示された教育課程の標準を参考にして必修種目としたA高専の措置自体には、
何ら裁量権の逸脱を認めることはできない。
なお、原告らは、現行要領では格技は必修となっていたが、新要領では必修科目でない取
、。、扱いができるようになったのでこの改正には十分留意すべきであると主張するしかし
そもそも、高等学校学習指導要領は高等専門学校においても参考とすることが誤りでない
というにすぎないのであるから、高等専門学校において高等学校学習指導要領の変更内容
をそのまま取り入れなかったからといってその措置が直ちに違法になるものではない。
(八)また、前記認定事実によれば、A高専においては、従来は剣道の授業は行われて
おらず、平成二年度から新たに採用されたものではあるが、これは、A高専においては、
剣道導入の意思はあったものの剣道の道場がなくそれを行うことができなかったところ、
武道場のある新校舎に移転して剣道の授業が可能になったためであるから、このことをも
って「エホバの証人」を嫌悪して特に剣道を必修としたということはできず、他にエホ、

の証人を嫌悪したと認められるような特段の事情も窺うことができないから、A高専にお
いて必修科目の体育の種目として剣道を選択したことに裁量権の逸脱又は濫用があったと
いうことはできない。
4体育の単位を不認定としたことについて
()、、、一本件においては前述のとおり原告らの体育の単位が認定されなかったことが
本件処分に至った重要な要件になっている。
そして、原告らは、その信じる「エホバの証人」の教義に従って、格技をスポーツとして
許容することはできず、たとえ学校の体育の種目としてでも参加すべきでないと考え、剣
道の授業の際に準備体操にだけ参加し、その後の剣道実技には参加せず、武道場の隅で自
主的に見学していたところ、結果として第一学年の体育の単位の認定を受けられなかった
ものである。
ところで、高等専門学校の教育課程において、ある科目について単位を認定するかどうか
は、教科担当者の極めて専門的かつ教育的な価値判断に属する行為であって、その見地か
ら担当者に相当に広い裁量権が認められていると解されるが、その裁量権の行使に逸脱又
は濫用があると認められるときには、右単位の不認定が違法とされることはいうまでもな
い。
そこで、体育の単位不認定に関して、格技の実習に参加しなかった理由が宗教上の信条に
基づく場合にも、特別の扱いをせずに通常の不参加と同様の扱いをすることが、裁量権の
逸脱又は濫用に当たるといえるかどうかが問題となる。
(二)証拠によれば、A高専における体育の成績の評価方法及び原告らの体育の成績等
について、次の各事実が認められる。
(1)A高専においては、体育の授業は、四人の体育担当教員によって分担して実施さ
れている。そして、その学業成績の評価は、その体育担当教員に委ねられているが、平均
点が七〇点前後になるようにして教員間の統一を図っている。
(乙第八号証、第一七号証、被告本人尋問の結果)
(2)同校においては、体育の学習成績の評価方法として、実施した全ての種目におい
て合格点を取らなければ体育の単位が認定されないという評価方法を採らず、平素の受講
態度も考慮に入れなうえで、全種目の合計点が合格点に達していれば体育の単位が認走さ
れる「総合評価方式」を採用している。
したがって、同校においては、剣道を受講しなくても、他の種目で努力をすれば、合格点
を取ることが可能であった。
(甲第五三号証、乙第八号証、第一七号証、被告本人尋問の結果)
3原告らは授業時間当初の準備運動には参加したもののその後は教員による剣()、、「
道はスポーツの一種である。
」、、。、という説得にもかかわらず剣道の実技に参加せず自主的に道場内で見学したなお
体育担当教員の説得の中には、剣道実技を履修しなければ単位を認定できないという趣旨
の強い口調のものもあった。
そこで、体育担当教員は、一時限目は出席の扱いにして、そこで行った準備運動について
五点の評価を与え、二時限目は欠席として扱った(甲第五三号証、乙第一七号証、原告。

及び被告各本人尋問の結果)
(4)A高専における平成三年度の一年生のうち、剣道の受講を拒否した学生は一五人
いたが、そのうち一〇人が体育で合格点を取得した(乙第一七号証、被告本人尋問の結。
果)
(三)以上の事実を総合すれば、原告らは、自己の信教上の信条を貫くためには剣道の
実習に参加することができないという立場に置かれており、その剣道実技を受講しなけれ
ば体育の単位の認定が難しくなるということになるから、A高専が原告らに対して剣道実
技の履修を求めることは、格技を禁ずる教義仁反する行動を求めるのと事実上同様の結果
となり、そのため、原告らの信教の自由が一定の制約を受けたことは否定することができ
ない。
また、原告らは、実習にこそ参加していないが、準備体操までは一緒に行い、その後も、
自主的にではあるが剣道の実技を見学していたところ、剣道実技に参加しなかったものと
判断され、体育全体の点数が不足し、体育の単位が不認定となり、その結果、進級さえも
できず、さらには退学処分を受ける可能性もあるという重大な結果が発生しているという
ことができる。
(四)しかし、前述のとおり、剣道の履修義務自体は何ら宗教的意味を持たず、信教の
自由を制約するためのものでもないうえ、A高専における体育科目の担当者は、体育の成
績を評価するに当たり、剣道の実技への参加を拒否したという理由だけで直ちに体育の単
位を不認定としたわけではなく、剣道実技への参加を拒否したため、剣道については、準
備体操についてだけ五点(第一学年全体でみると二・五点)と評価し、現実に参加してい
ない剣道実技について評価しなかったために、その一年間における授業や試験に基づく体
育の点数の合計が五五点に達せず、総合評価の結果、体育の単位が認定されなかったとい
うにすぎない。このように、体育担当者は、現実に参加しなかった剣道実技について評価
しなかったというにすぎず、このことについて、
剣道実技の受講拒杏に対してことさら不利益を課したものと評価することはできない。
また、被告が必修種目として原告らに履修を求めたのは、その由来はともかく、現在にお
いては健全なスポーツとして大多数の一般国民の広い支持を得ている剣道であるから、兵
役又は苦役に従事することを求めたような場合と比べ、その信教の自由に対する制約の性
質は全く異なるものであるとともに、その制約の程度は極めて低いといわざるを得ない。
さらに、A高専においては単位認定の方法として総合評価方式を採っているため、原告ら
がA高専において第一学年で予定されているその他の種目(その割り当てられた点数の合
計は六五点である)について約八割の点数を獲得すれば単位の認定を受けることができ。

のであり、このことはかならずしも容易なことではないものの決して不可能なことではな
く、現に平成三年度において、第一学年の剣道実技の受講を拒絶した一五人のうち三分の
二に当たる一〇人が体育の単位を得た(この一五人のうちには、平成二年度に剣道実技の
受講を拒絶して体育の単位が不認定となり第一学年に原級留置となった学生が原告らを含
め五人いたが、そのうち二入が剣道実技の受講を拒否したにもかかわらず体育の単位を認
定されている)ことが認められるから、この被告の措置が原告らの信教の寝由に与えた。

約の程度はそれほど高いわけではないということができる。
(五)原告らは、A高専において体育に当てられていた授業時間は全部で六〇時間であ
り、そのうち剣道の講義が行われた時間は平底三年度で一〇時間、同二年度で六時間であ
り、そのうち剣道に関する講義及び準備運動には原告らも参加していたのであるから、こ
の被告の措置(処分)は不利益措置として余りにバランスを欠くと主張する。しかし、あ
る年に剣道の授業が現実に何時間行われるかは授業が行われる曜日と祝祭日との関係や学
校行事との関係で異なってくるものであり、現実の授業時間と配点割合が異なっているか
らといってその間にバランスを欠くということはできず、また、独立して意味を持たない
準備運動や剣道の講義について時間数に相当する評価をしないからといってバランスを欠
くということはできない。
原告らは、宗教というものはそれを奉じる者にとっては、自己の拠って立つ基盤、生存そ
のものに匹敵する重要性を有するものであり、
その宗教的信条に反する行為を行わせられることはその信仰者にとっては堪え難い苦痛
で、
過去の歴史をみても、宗教的信条に反する行為をするよりは死を甘んじて受けてきた人々
がいるのであり、そして、このように何かをしてはならないという宗教的信条は同様の宗
教的信条を同程度に有する者でなければ理解しがたいものであるから、そうでない他の
人々が感じる尺度で「当該行為は普通に行われているのだから、宗教的信条からあくま、

もできないというのはおかしい」といってしまうことは、宗教上の少数派は多数派の考え
るところや社会通念ないし社会常識なるものに従わなければならないことになり、憲法が
保障したはずの信教の自由は日本においては享受できないことになってしまい許されない
と主張する。
しかし、本件では、原告らの内心の自由である信仰心が問題とされているのではなく、学
校という一つの社会において、原告らの宗教的信条に基づく行為と、他者の行為との調整
が問題とされているところ、宗教的信条に基づく行為の自由も、社会生活上、その権利に
内在する制約を免れないのであるから、原告らの主張は理由がない。
(六)(1)逆に、剣道の実技に参加していないにもかかわらず、信教の自由を理由と
して、参加したのと同様の評価をし、又は、剣道がなかったものとして六五点を基準とし
て評価したとすれば、宗教上の理由に基づいて有利な取扱いをすることになり、信教の自
由の一内容としての他の生徒の消極的な信教の自由と緊張関係を生じるだけでなく、公教
育に要求されている宗教的中立性を損ない、ひいては、政教分離原則に抵触することにも
なりかねない。教育基本法九条一項に定める宗教に関する寛容等も、あくまで、この宗教
的中立性を前提とするものであり、宗教に教育上の理由に対して絶対優先する地位を認め
るものでない。
(2)原告らは、剣道の点数について、剣道実技を行った他の学生たちの剣道の平均点
と同じ点を与えよとか、剣道実技を行った学生たちのうちの最低の人の点と同じ点を剣道
の点数として与えよと主張しているのではなく、剣道実技を欠席扱いにして〇点にするこ
とは避けて代替措置などして、少なくとも単位認定可能な最低点を与えることはできるは
ずだと主張しているにすぎず、
このような措置が剣道をすることで苦しんだわけではない他の宗教ないし無宗教の他学生
と比較して有利になるわけではないと主張する。
しかし、通常なら行われない特別の取扱いをして単位を認定するのであるから、このこと
自体有利な取扱いであることは否定できない。
(3)また、原告らは、政教分離原則は、いわゆる制度的保障の規定であって、間接的
に信教の自由の保障を確保しようとするものであり、国家は宗教的に中立であることが要
求されるが、国家と宗教との完全な分離は実際上不可能に近く、かえって社会生活の各方
面に不合理な事態を生じるから分離といっても国家が宗教とのかかわりあいを持つことを
全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果
に鑑み、そのかかわり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を
超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものと解すべきであるから、憲法二
〇条三項にいう宗教的活動とは、その目的が、当該行為の行われる場所、当該行為に対す
る一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮して社会通念に従って客観的に判断し
て宗教的意義を持つと評価でき、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干
渉になるような行為に限られると解すべきところ、信教上の理由に基づいて剣道実技への
、、参加を拒否した原告らの体育の点数について剣道実技に参加していないにもかかわらず
参加したのと同様の評価をし、又は、剣道がなかったものとして六五点を基準としで評価
することは、その目的は、原告らの信教上の自由を擁護しつつ、しかもA高専における体
育の設置目的に適うものであって、的を得た措置というべきで、その効果は原告らの信教
を援助、助長、促進し又は他の学校に圧迫、干渉を加えるものとは認められないから、政
教分離原則に反しないと主張する。
確かに、原告らの体育の単位を認定すること自体が宗教的意義を持つわけではなく、A高
専が原告らの体育の単位の認定に際して剣道実技を履修したのに準じて評価したとして
も、
それが直ちに政教分離原則に反することになるわけではないことは原告らが主張するとお
りである。しかし、原告らがその信じる宗教の根幹部分の実践として剣道実技の履修を拒
否しているにもかかわらずそれを履修したのに準じて評価するとすれば、
その宗教の実践に助力しているという評価もあながち不自然ということはできず、政教分
離原則と緊張関係にあることを否定することはできない。仮に、受講していない剣道実技
に対して履修したのに準じて評価することが政教分離原則に反しないと評価されたとして
も、だからといって、逆に、そのような政教分離原則と緊張関係にある行為をすべきこと
が義務付けられるということはできず、緊張関係を回避するためにそのような行為をしな
かったことについて裁量権の逸脱又は濫用があったということもできない。
(4)原告らは、本件は、宗教上の良心と世俗的義務との衝突という点で良心的兵役拒
否と国家の懲兵制度との関係に類似し、国家の存立に関わる基本的な義務である国防のた
めの兵役義務を宗教上の理由から免除した場合にも政教分離に反するとされていないくら
いであるから、必要性の乏しい格技の履修について宗教上の良心から履修できない原告ら
に特別の配慮をしたとしても政教分離原則に反することはないと主張する。
しかし、兵役義務と高等専門学校における剣道の履修義務とを同様にみることか相当でな
いのは前に述べたとおりである。また、良心的兵役拒否の場合は兵役義務の履行を強制し
ないということにつきるのに対し、本件の場合は、剣道履修の履行を免れただけでなく、
それにもかかわらず剣道実技を履行したのに準じて評価をするようにということまで求め
ているのであるから、なおさら比較するのに相当な事例ということはできない。
(七)また、必修科目である剣道実技を履修しなかったにもかかわらず、剣道実技につ
いて点数を与えることになると、学校側において、履修拒絶が宗教上の理由に基づくもの
かどうか判断しなくてはならなくなるが、そうすると、必然的に公教育機関である高等専
門学校が宗教の内容に深くかかわることになり、この点でも、公教育の宗教的中立性に抵
触するおそれがある。
なお、原告らは、宗教を個人の究極的関心事にかかわる心情及び体験と定義して、宗教か
どうかの判断を高等専門学校が行うことは排除すべきであると主張するが、そうすると、
宗教の定義よりも、より個人の内面に深く立ち入って、その心情が妥協を許さないものか
どうかの判断を学校側にさせることになるから、このような見解は採用することはできな
い。
(八)以上のように、原告らの受けた信教の自由に対する制約は、
必要やむを得ないものであったと認められるから、被告がした原告らの体育の単位不認定
の措置には、裁量権の逸脱を認めることはできない。
5代替措置等について
(一)原告らは、A高専では、教務内規において、学習成績は「学習態度、出席状況等
を総合して評価するもの」とし「科目担当教員は、必要に応じてレポート・・・・・・、

の成績を試験成績に加えることができる」とし、教育的配慮を生かした柔軟な対応を採。

ことができるようになっていたのに、信教上の理由で剣道実技を履修することができない
原告らの剣道の履修及び体育の単位認定に際し、体育担当教員がこれを活用しない態度を
一貫して示したことは違法であると主張する。
(二)証拠によれば、格技に対する代替措置等について、次の各事実が認められる。
(1)原告ら及びその保護者は再三にわたり格技以外の代替種目の履修又はレポートの
提出等の代替措置の実施をA高専に申し入れたが、同校では剣道実技の補講は実施したも
のの、原告らが参加できるような代替措置は採らず、原告らが自主的に提出した剣道のレ
ポートも受領しなかった(甲第一六号証の一ないし五、乙第八号証、第一七号証、原告。

人尋問の結果)
(2)A高専では、病気その他の身体上の理由によって体育実技に参加できない場合に
は、見学やレポート提出などによって体育の単位を認定してきた経緯があった(被告本。

尋問の結果)
(3)全国の高等学校や高等専門学校の中には、宗教上の理由等に基づいて格技に参加
しなかった者について見学、レポート、ランニング又はサーキットトレーニング等の代替
措置を実施して体育の単位を認定したところが少なからず存在するが、それらの学校にお
いて、参加しなかった格技や代替措置についてどのような評価をして単位を認定されたか
は必ずしも明らかではない(甲第八号証の七、第一四、第一五号証、第二七号証、第四。

号証、乙第一〇号証)
(三)しかしながら、そのような代替措置をとることも、前述のように、剣道に参加し
ていないにもかかわらず参加したのに準じて扱うのと同様に、信教の自由を理由とする有
利な扱いであり、さらに、代替措置の実施、安全確保等に人員や予算の確保が必要となる
ことなどから、これらの代替措置をとらない限り違法であるということはできない。
前記認定事実によれば、
A高専においては身体上の理由によって体育実技に不参加の学生には見学等によって単位
を認定しており、信教上の理由による不参加の場合も同様の扱いをすべきでなかったかが
問題となるが、身体上の理由によってそもそも体育実技に参加したくても参加することが
できない場合とそうでない場合とで異なった取扱いをするのは、合理的理由に基づくもの
ということができる。
また、格技の代替措置を実施し体育の単位を認定した他校については、その代替措置に対
してどのような評価をしたのか必ずしも明らかでないので、他校の措置をもって直ちに参
考にすることはできない。
このように、被告が、原告らに対して、代替措置を採らなかったことが、違法であるとい
うことはできない。
6本件処分の違法性について
(一)そこで、本件処分に裁量権の逸脱又は濫用があったかどうかについて検討する。
証拠(乙第一七号証、被告本人尋問の結果)によれば、本件処分について、前記認定事実
のほか、次の各事実が認められる。
(1)A高専における平成二年度の学年成績評価の結果、原告らを含む六名の剣道受講
拒否者が体育の授業科目の単位が認定されなかった(原告らの体育の総合評価の評点が合
格点未満であった)ので、平成三年三月一四日に開催された第一次進級認定会議におい。
て、
剣道受講拒否者に対し剣道の補講を実施することを決定した。
(2)剣道の授業の補講は、平成三年三月一八日及び一九日に実施され、剣道実技の履
修を拒否した六名のうち一名が参加したが、原告らを含む残りの五名は参加しなかった。
(3)平成三年三月二三日、第二次進級認定会議が開催され、補講を受けた一名は進級
したが、補講を受けず体育の単位が認定されなかった原告らを含も五名の進級は認定され
、。ないことになりこの結果を受けた被告が原告らの第二学年への進級の不認定を決定した
(二)前述のとお幻、A高専においては、被告の裁量権の行使の際の基準を定めた内規
があり、被告が進級の認定をするためには、一科目でも不認定の科目があってはならない
とされている。この内規自身に特段違法な点も認められないところ、被告は、右内規に定
める手続に従い、二度にわたって進級認定会議を開催し、原告らの体育の単位を認定する
について慎重な手続をとったうえ、原告らの体育の単位が認定されず、
その単位不認定とする体育担当教員の判定が相当であると確認したうえで、本件進級拒否
、、処分をしたのであるからこの被告の処分に裁量権の逸脱又は濫用を認めることはできず
本件進級拒否処分にも何ら違法な点はない。
(三)原告らは、A高専において「進級及び卒業の認定は進級、卒業認定会議の審議、

経て校長がこれを決定する「学校は、教育上必要があると認めるときは、学生に対し。」、

戒を加えることができる」と規定し、進級拒否及び退学処分について校長の権限として。

るのは、進級、卒業の認定あるいは退学処分が学校内規等により機械的に処理されるのを
避け、具体的な事案に即して、学生の学習権を侵害しないよう、校長以下の教員の慎重な
検討に委ねて、その最終的な責任・権限を校長に求める趣旨のものであるのに、被告は、
学則ないし規定という学校側の管理必要上一方的に定められたにすぎないものを原告らに
対して漫然と機械的に適用し、明らかにその裁量権を逸脱したものである旨主張する。
しかし、被告は、これらの規定を漫然と適用したのではなく、これらの問題を慎重に検討
するために、二回にもわたる進級認定会議を開催して教員の意見を集約し、十分に審議し
たうえで、本件処分に至ったものであるから、漫然と処分をしたという原告らの主張は理
由がない。また、剣道拒杏及びそれに対して優遇措置をとった場合に他の学生間に広がる
不公平感や動揺なども決して軽微なものということはできず、本件処分が要考慮事項を考
慮しなかったということもできない。
(四)さらに、A高専は義務教育を行う学校ではないところ、原告らは自らの自由意思
で入学したのであるから、その入学したA高専の存立及び活動等を保護するための内部規
律によって、原告らの権利も一定の制約を受けるのはやむを得ないということができる。
また、前記認定事実によると、被告は入学の説明等に際して、原告らを含も受験希望者ら
に対じ平成二年度から剣道が必修になることを周知させる措置をとっており、原告らはそ
れを承知のうえ入学したのであるから、なおさら体育の単位不認定に関する原告らの信教
の自由に対する不利益の程度は低いということができる。
原告らは、高専、高等学校における教育は法律上の義務教育ではないものの進学率が九五
パーセントを超える国民レベルの普通教育になっているから、
原告らに高専に入学しない自由の行使を求めるのは不当であり、また、原告らが入学前に
A高専の剣道について知っていたことがらというのは、体育の科目に剣道が採り入れられ
たことだけであり、信教上の理由であっても剣道実技拒否が許されず、他の種目や見学、
レポート提出等の代替措置が認められず、実技をしないなら剣道の評価はほぼ〇点になっ
てしまうというおよそ宗教的不寛容かつ教育的無配慮に直面するなどとは考えてもいなか
ったのであるから、剣道実技が採り入れられたのを知っていたから制約の程度が低いとい
うことはできないと主張する。しかし、右に述べたとおり、A高専において剣道が必修に
なることを周知させる措置を採っており、かつ、単位の認定につき学校側に幅広い裁量が
認められる以上、入学後における学校側の配慮にどのような期待を持っていたかというこ
とは直接意味を有するものではないから、原告の主張は採用することはできない。
(五)以上を総合すると、必修科目である体育の種目として剣道を採用したこと、その
評価の割合を定めたこと等は、指導要領の大綱を示し、その中で各学校毎に時代に即応し
た適切な指導を行うことができるようにし、もって、高等専門学校教育の充実を図ろうと
した趣旨にそうものであって、その趣旨を貫徹するため原告らの信教の自由が受けた前記
不利益と比べて著しい不均衡があるということはできない。
(六)以上のとおりであって、原告に対しレポートその他の代替措置を講ずることなく
行った一連の被告の措置ないし行為が、原告らの信教の自由をある程度制約したことは否
定できないものの、信教の自由全体、特に公教育の宗教的中立の要請から見ると、決して
許容できない措置であったということまではいえない。
7平等原則違反について
前述のとおり、被告は、原告らの信条によって特別扱いをしなかったのであり、そのよう
な特別扱いをしなかったことに合理性がないわけではないから、本件処分が平等原則に反
するということはできない。
8教育を受ける権利について
原告らは、原告らが学生として憲法二六条や教育基本法三条に基づく教育を受ける権利、
さらには、信教の自由を含む精神的自由の人権を十分尊重されたうえ、公正、平等な教育
上の評価を受け、進級し、各学年の教育を受けることができるという内容を持った学習権
が認められているが、
被告が代替種目の履修も認めずにした本件処分によってその学習権が侵害されたと主張す
る。
確かに、憲法二六条が子供の学習権を規定しているのは原告らの主張するとおりであり、
また、教育はその権利の充足を図りうる立場にある者の責務と解される。
しかし、そのことから、教育内容を誰がどのように決定するかが当然に導き出されるわけ
ではなく、高等専門学校における教育内容は、前述のとおり、国の定める大綱に従って教
師が裁量的に決定すべきものである。
そして、A高専においては、裁量権の逸脱及び濫用もなく、教育内容が適正に決定され運
用されているのであるから、そのために、不利益が生じたとしても、学習権が侵害された
ということはできない。
9また、被告がエホバの証人の多数の入学を懸念していたと認め又は推認するに足りる
証拠はなく、他にも本件処分が違法であることを窺わせるに足りる証拠はない。
第四結論
よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につ
き行政事件訴訟法七条、民訴法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決す
る。
平成四年(行ウ)第二一号
原審判決の主文、事実及び理由
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○事実及び理由
第一請求の趣旨
一被告が原告に対し平成四年三月二三日付けでした進級拒否処分を取り消す。
二被告が原告に対し平成四年三月二七日付けでした退学命令処分を取り消す。
第二事案の概要
被告は、信教上の理由により保健体育(以下、単に「体育」という)における剣道実技。

履修を拒絶した原告について体育の単位を認定せず、原告に対して二年連続して第二学年
への進級を拒否し退学を命じた。そこで、原告は、被告が、信教上の信条に反するために
参加できない原告に剣道実技の履修を強制し、それを履修しなかった原告に代替措置も採
らずに欠課扱いして体育の単位を認定せず、原級に留置したうえ退学命令処分までしたの
は、信教の自由を侵害するものであり、信条による不当な差別を禁じて教育の機会均等を
うたった教育基本法三条、憲法一四条に違反し、ひいては原告がA工業高等専門学校(以
下「A高専」という)の学生として教育を受ける権利や学習権を侵害するもので違憲違。

であると主張して、
右各処分の取消しを求めた。
一前提事実(処分の存在及びそれに至る経緯等)
1当事者及び処分の存在等(当事者間に争いがない)。
(一)原告は、平成二年四月一〇日、A高専に入学し、後記の処分当時、同校電気工学
科の第一学年に在学していた者であり、被告は、同校の校長である。
(二)被告は、平成四年三月二三日、原告に対し、同月三一日をもってA高専の第二学
年に進級させない旨の決定(以下「本件進級拒否処分」という)をし、同月二七日、原。

、(「」に対し同月三一日をもってA高専から退学を命ずる旨の処分以下本件退学命令処分
といい、本件進級拒否処分と併せて「本件処分」という)をした。。
2処分に至る経緯等
(一)A高専において、進級の認定は、進級認定会議の審議を経て校長がすることにな
っているが、進級の認定を受けるためには当該学年において修得しなければならないとさ
れている科目の全部について不認定のないことが必要である(学業成績評価及び進級並び
に卒業の認定に関する規程(以下「進級等認定規程」という)一二条。科目が不認定。)

されるのは、科目担当教員が生徒の学習成績(学習態度及び出席状況等の総合評価)と試
験成績とを総合して一〇〇点法で評価した学業成績(進級等認定規程五条)が五五点未満
の場合である(進級等認定規程八条。そして、不認定が一科目でもあるため進級を認定)

れない者は、原級留置とされ、その学年の授業科目全部を再履修することとなる(進級等
認定規程一四条。)
また、休学による場合のほか、連続して二回原級にとどまることはできず(進級等認定規
程一五条、校長は、連続二回原級に留め置かれた者に退学を命じることができる(退学)

関する内規、A工業高等専門学校学則(以下「学則」という)三一条(当事者間に争。)。

がない。なお、甲第二、第三号証)
(二)A高専において、体育は、全学年における必修科目とされ、各学年につき二単位
ずつ割り当てられている8
、。、同校では平成二年度から第一学年の体育の課程の種目の中に剣道を取り入れた剣道は
同年度において、クラスにより、第一学年の前期又は後期のいずれかに実施されたが、剣
道には、いずれのクラスにおいても、各期のうち七〇点が配分され、したがって、その配
、。(、、点の割合は第一学年の体育全体の三五パーセントを占めていた甲第一号証乙第八
第一七、
第二三号証)
(三)原告は、聖書の教えだけを信条とする「エホバの証人」であるキリスト教信者で
あり、聖書中の「できるなら、あなたがたに関する限りすべての人に対して平和を求めな
さい「彼らはその剣をすきの刃に、その槍を刈り込みばさみに打ち変えなければなら。」

くなる。国民は国民に向かって剣を上げず、彼らはもはや戦いを学ばない」などの教え。

基づき、絶対的平和主義の考えを持ち、格技に参加すべきではないと確信していた。そこ
で、原告は、剣道を実技種目とする体育の授業時間において、当初の準備運動には参加し
たものの、その後の剣道の実技については、武道場の隅で自主的に見学するだけで、参加
しなかった。
学校側では、原告及びその保護者に対し、剣道の実技を受講するよう説得したが、原告は
これを受け入れるに至らなかった(甲第五、第六号証、乙第八、第一七号証)。
(四)原告は、剣道の実技に参加しなかったことなどから、平成二年度の剣道を含めた
第一学年における体育全体の成績について五五点未満(四二点)と評価され、体育の単位
が認定されなかった。
そこで、学校側は、進級認定会議を経て、体育不認定者に対する救済措置として剣道の補
講を実施したが、原告がこれを受講しなかったため、被告は、平成三年三月二五日、進級
等認定規程に基づき、原告を第二学年に進級させない旨の措置をした(甲第五号証、乙。

一七、第二三、第二四号証、被告本人尋問の結果)
(三)原告は、平成三年度においても、前記聖書の教えに従い剣道の実技に参加せず、
補講も受講しなかったので、同年度における剣道を含めた第一学年の体育について五五点
未満(四八点)と評価され、前年度に続いて体育の単位が認定されなかった。そこで、被
告は、平成四年三月二三日、前年度の進級拒否処分と同様の理由で、本件進級拒否処分を
し、さらに、同月二七日、進級等認定規程及び学則等に従って本件退学処分をした(乙。

二三、第二四号証、被告本人尋問の結果)
二争点
本件の主な争点は(1)本件進級拒否処分が行政処分かどうか(2)本件処分が違法、、

どうかであるが(2)の前提として(1)剣道を必修としたことの可否(2)被告が、、、

告の体育の単位を認定しなかったことの可否(3)被告が原告に対し代替措置を採らな、

ったことの可否、が問題になる。
第三争点に対する判断
一本件進級拒否処分が行政処分かどうかについて
1原告は、本件進級拒否処分が行政処分に当たると主張し、これに対して、被告は、本
件進級拒否処分(但し、被告は、原級留置処分と称している)は行政処分に当たらない。

主張し、その理由として、A高専では連続して二回原級にとどまることはできないが、原
告は平成二年度も進級拒否処分を受けているからもはや原級にとどまることはできず、そ
のことは退学の理由となるから被告の平成四年三月二三日村けの判定は退学処分の前提と
しての意味しかなく、直接原告の権利義務を形成したり範囲を確定するものではないこと
などを挙げている。
2確かに、前記前提事実によれば、A高専においては、二回連続して原級にとどまるこ
とはできず、連続二回の原級留置が退学理由となると定めた規程があるところ、原告は平
成二年度にも進級拒否処分を受けている。したがって、平成三年度においても原告の進級
が認められないことになると、原告はもはや第一学年にとどまっていることもできなくな
り、そのことが校長のする退学処分の要件となることは被告が主張するとおりである。
3しかし、右の規程はあくまで二年連続して原級にとどまっていることができないとい
うことを規定しているだけで、処分として二回連続の原級留置をすることまでも禁ずる趣
旨と解することはできないし、連続二回の原級留置処分が退学処分の要件となるとの規定
の文言に照らすと、連続して二回原級に留置する処分をすることも予定されていると解す
ることも十分に可能であるから、右規程を根拠として、本件進級拒否処分の存在を否定す
ることはできない。また、被告が原告主張の日に進級認定会議の審議を経て原告を第二学
年に進級させない旨の決定(判定)をしたことは当事者間に争いがなく、この決定によっ
て、原告は、A高専の第二学年に進級することができなくなり、その結果、前年度も進級
拒否処分を受けているため、もはや第一学年にもとどまることができないという不利益を
受けることになった。
4したがって、原告を第二学年に進級させない旨の決定は、本件退学処分の前提となる
要件でもあるが、他方、それ自体によって原告の第二及び第一学年で教育を受けることが
できる権利を直接失わせるという効果を有するものであることも否定することはできない
から、
本件進級拒否処分が行政処分ではないという被告の主張は採用できず、この決定自体も退
学処分とは別個の行政処分であると解するのが相当である。
二本件処分が違法かどうかについて
1原告及び被告は、本件処分について、それぞれ次のように主張する。
(一)原告
(1)憲法二〇条一項は、信教の自由を保障している。A高専の学生も又信教の自由を
含も基本的人権を有するものであり、これら人権は、人格の完成を目指し平和的な国家及
び社会の形成者として、個人の価値を尊ぶ国民を育成することを目的とする教育の場にお
いてはことさら尊重されなければならない(教育基本法一条。)
人権という考え方は多数者の意思によって左右されない一定の自由を留保するという内容
を含み、人権の観念そのものが少数者の権利保障を意味するから、信教の自由について保
護されなければならないのは少数者の信仰、異端の信仰である。少数者の信仰は多数者に
とって理解し難い場合も多いが、憲法の下では一人ひとりがかけがえのない存在であり一
人ひとりが尊重されるべきである以上、その人の人格そのものが尊重されなければならな
いのは当然である。国家も、個人の尊厳とその一環としての信仰の自由を尊重し、これら
に対して謙抑的姿勢で臨まなければならない。このような内容を有する信教の自由を保障
することは、公権力によってこれらの自由を制限されることなく、また、それらを理由に
いかなる不利益も課してはならないことを意味している。
(2)憲法が保障する信教の自由には、内面的な信教の自由だけでなく、信仰告白の自
由、宗教儀式の自由、宗教結社の自由、宣伝布教の自由等が含まれる。
信仰の自由が内心にとどまっている場合にはその保障は絶対的であるが、そのような場合
だけでなく、信仰に基づいて国法上義務づけられた行為その他の行為を行うことを拒舌し
た場合にも、その法的義務が実質的にみて重大な公共の利益に仕えるものであったり、あ
るいは、それによって他人の人権を制限する結果をもたらすものでない限り、これに対し
て何らかの不利益を課すことは、信教の自由の侵害として許されない。
原告が奉じるエホバの証人の信仰の中には絶対的平和主義の考え方があり、いかなる場合
にも戦うことを拒否するとの信念があるから、その発現をある場所、ある時に限定するこ
とは信仰そのものを否認することになる。
この信念は永遠の救済に関わるものであり、内心においてだけでなく生活の全ての中に貫
徹されなければならないものである。とりわけ、本件で問題になっている原告の行為は積
極的外部表現行為なのではなく、宗教的信条に反する特定の行為をしないという消極的な
ものにすぎず、その保障は内面的な信教の自由と同様でなければならない。
(3)国家行為と信教的信条や信仰告白とが抵触衝突する場合、当該国家行為の違憲審
査基準として(1)国家行為の高度の必要性(信教の自由を侵害してでも強行されなけ、

ばならないほどの必要性、それが実質的な公共の利益を実現するため必要不可欠なものか
否か(2)代替性の有無(仮に国家行為が高度の必要性に基づくものであっても、そ。)、

が同じ目的を達成するために代替性のない唯一の手段か否か(3)国家行為による侵。)、

の性質及び程度、侵害される宗教上の利益の重要性の程度の比較衡量(4)その他当該、

教的行為自体が他の国民の権利を侵害するものか否か、の各要件が審査検討されるべきで
ある。
(4)本件について右の各要件を検討すると、次のとおりである。
(1)体育履修の目的は「各種の運動を合理的に実践し、運動技能を高めるとともに、
それらの経験を通して、公正、協力、責任などの態度を育て、強健な心身の発達を促し、
生涯を通じて継続的に運動を実践できる能力と態度を育てる」ことであるが、このよう。

目的から、剣道実技強要の必然性は導き出せない。現に、A高専においても平成二年度ま
では剣道がカリキュラムに組まれていなかったのである。A高専は工業専門学校として工
業等の技術を重んじているのであって、警察学校でも体育学校でもない。また、参考とす
べき高等学校学習指導要領においては、従来必修とされていた格技が選択制に変更された
ことからみても剣道実技の履修必要性は認められない。
したがって、原告の信教の自由を制約する国家行為の高度の必要性は認められない。
(2)原告は、被告に対し、再三再四剣道実技拒否の理由を説明するとともに、剣道実
技に代わる代替授業の実施を求めてきたが、被告は一顧だにしなかった。因みに、東京、
大阪、奈良など全国の多くの高専、高等学校では代替措置により、進級、卒業を認めてい
る。また、原告は剣道実技には参加しなかったものの、級友の行う剣道実技を見学してい
たのであるから、
身体上の障害を理由として実技に参加できず見学していた人に準じて評価すべきである。
このような場合、見学の実績があれば、後日当該見学者にレポートの提出を求め、少なく
とも科目認定に差し支えのない何らかの評価を与えるのが通例である。原告は、剣道実技
見学の後自主的にレポートを作成し提出しようとしたが、その受領さえも被告に拒否され
ている。したがって(2)の代替性も存する。、
(3)本件の場合、制約されるのは「エホバの証人」の信者である原告の信仰の根幹部
分である。剣道実技拒否は、原告の信仰生活から帰結されるものであり、それを認めない
ことは原告の信教の自由を全面的に否認することである。原告のいかなる時も武器を持た
ず格技を行わないという信念は信仰生活全てを貫くものであり、信仰の重要な内容を形づ
くっており、発現形態の一つにすぎないものではない。剣道実技履修の義務付けは、原告
に戒律を犯させ、宗教的禁止事項を破らせるものである。原告に剣道実技履修を義務付け
ることは棄教を迫ることである。したがって(3)については、原告の受けた不利益は、

きいということができる。
(4)原告の剣道実技拒否によって何ら他人の権利を侵害することは考えられない。
(5)以上のとおり、A高専において剣道の履修を強制する高度の必要性はなく、また
剣道でなくても同じ目的を達成することは可能であり、本件処分によって侵害される宗教
上の利益は重大であり、原告が剣道実技の履修を拒んだことが他の国民の権利を何ら侵害
するものでないのであるから、いずれにしても、本件処分は違憲というべきである。
(二)被告
(1)A高専における剣道の授業は、学校教育法、同法施行規則に従い、高等専門学校
設置基準、高等学校学習指導要領を参考にして、体育の授業のなかの一種目として取り入
れられたものである。このように、高等学校においても必修である格技の種目として選択
することができ、健全なスポーツとして大多数の一般国民に広く受け入れられている剣道
を体育の授業の中の一種目として行うことを決定したA高専の措置には何ら裁量権の逸脱
も濫用もない。
(3)原告は信教上の理由から格技を拒否しているという。
しかし、剣道は、体育の内容として、敏捷性、巧ち性の育成、瞬発力の育成、持久力の育
成、正しい姿勢の育成などの身体的な側面及び気力の育成、
集中力と決断力の育成、礼儀の育成、自主的精神の育成などの社会的態度発達の側面にお
ける優れた体育効果を持ち、また、格技と分類されてはいるが、竹刀を使って行うスポー
ツであり、こんにち剣道を日本刀を使用するための武技などと考えている者はいない。こ
んにちの戦闘における個人装備の武器は銃であるし、個人間の格闘のためであれば、柔道
やレスリングなど徒手のより有用な武技がある。
このような剣道を原告がその信教に基づいてどう評価するかは、原告の自由であるが、そ
のような評価は一般には通用しないものであり、前記高等学校学習指導要領等にも体育の
内容として相当なものとして剣道が挙げられており、このことは、剣道が体育の内容とし
て相当であることを公に認知しているものということができる。
公教育を行っている被告に対し、原告の特定の信教を押しつけ、公教育のあり方を曲げる
ことは許されることではない。
()、、3剣道の授業は宗教的には無色の行為であるからそれを行うことが憲法二〇条二
三項の宗教上の行為に参加を強制したり宗教教育、宗教的活動を行うことにはならないこ
とはいうまでもない。
また、原告がその信教上剣道をどう評価するかは自由である。原告はその信教上の理由に
よって剣道の授業を受けなかったために、体育の授業の総合評価において所定の点数に達
せず、進級できなかったまでである。被告は、原告が進級できるよう誠意をもって再三説
得を試みたが、原告の信教上の自由に干渉したことはない。
原告に対する措置をもって信教の自由を保障した憲法二〇条に違反するとすることは全く
理由がない。
(4)逆に、原告を信教上の理由によって、授業につき特別扱いすることは、公教育を
行っている被告が学生の信条によって差別扱いすることになり、憲法一四条、教育基本法
九条二項に違反することになる。
(5)原告の信教の自由に関する考え方は、基本的に信教の自由がどのような場面にお
いても全く制約を受けないとの誤った前提に立つものである。確かに、信教の自由も、内
心にとどまっている限りは、何の制約も受けないものである。しかし、信教の自由も、外
部に表出され、何らかの行動を伴うようになると、他人の人権や諸種の義務等との緊張・
衝突関係を生じ、それによってある程度の制約を受けることは、当然に予定されているこ
とであり、その制約は基本的人権に内在する制約である。
このことは、日本国憲法一二条に「・・・・・・又、国民はこれ(この憲法が国民に保障
する自由及び権利)を濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利
用する責任を負う」と規定され、同一三条に「・・・・・・生命、自由及び幸福追求に。

する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の
尊重を必要とする」と規定されていることからも明らかである。。
本件の場合においても、原告がどのような宗教を信仰するかは全く自由であり、被告も、
原告に対しエホバの証人の信者であることを止めるように強制しているわけでもなく、剣
道の授業の受講を強制したこともない。ただ、学校で勉学を継続し、単位を取得し、進級
していくためには、そのルールを守るべきであり、そのルールに反して剣道の授業の受講
を拒否すれば、それによって発生する効果、すなわち、受講を拒否した部分について学業
成績の評価が〇点になるという不利益は、当然自らがその責任において負担する筋合いの
ものである。要するに、原告の主張は、信教の自由を根拠にすれば何をしても許されると
いう、到底受け入れられない極めて偏った議論である。原告は、原告の行為が積極的行為
ではなく消極的行為であるから保護されるとの主張をしているが、最も重要なのは、積極

消極ではなく、内心にとどまっているか、外部に表現され他人の人権や諸種の義務等との
緊張・衝突関係を生じるか否かである。
(6)原告が主張するように、宗教に基づく剣道受講の免除を認めることになると、被
告が、剣道受講拒否の理由が宗教に基づくものか否かを判断しなければならないことにな
り、公教育の宗教的中立性を損なうことになる。
(7)A高専は、地方公共団体の設置する学校であって、そこでは公教育が行われてお
り、また、高等専門学校は、深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること
を目的としており、義務教育ではない。
なお、学校教育はその性質上、定額の予算をもって、定数の教職員により、現行法制下で
予め編成された教育課程によって、集団的教育を行っているものであることをも考慮する
必要がある。
A高専は義務教育を実施するものではないから、学生は授業を受けない自由、進級しない
自由、退学の自由を有している。他方、被告は、学生に対し、授業を受けないために、
授業科目の履修について到達度が不十分と評価した者の単位を認定しない措置、進級を認
定しない措置、学校教育法施行規則一三条三項各号に該当する学生に対し退学処分をする
各権限を有している。
原告が信教上の理由により特定授業の受講を拒否することは自由であるが、その結果、現
行法制下で単位不認走進級不認定の結果を招来するのも、まことにやむを得ない結果であ
る。教育を受ける機会は与えられたが、原告がそれを拒否したのであり、その責めは原告
が負うべきものである。
(8)原告は代替措置を講ずべきことを主張するが、被告としては、次の理由からこれ
に応じるわけにはいかない。
(1)原告を信教上の理由で特別に扱うことは、公立学校において信教上の理由で学生
を差別扱いすることになり、逆に平等取扱いの原則や宗教教育の禁止の精神に反する結果
となる。
(2)代替措置を講ずることは、予算、教員数の関係から困難であるとともに、個人的
理由により代替措置をすることを認めるときは、学生から、他の場合にも代替措置を認め
よという要求を生む結果となる。
また、体育は、体を動かすことによって教育効果をあげる授業であるから、病気でないの
にレポートをもってこれに代えることはできない。
(3)明白かつ現実に教員の指導、説得に従わない学生に対し、他の学生同様単位を認
定するときは、学生全体に対する規律の維持ができなくなる。
教育は、一定の規律の下でその効果を上げ得るのであり、集団教育の中で規律が無視され
ると、教育はその効果を上げることができなくなる。
(9)原告は、宗教上の寛容をいうが、現在の法制下、公立学校たるA高専で原告に対
、、。し既に詳述した理由から単位を認定できないことはまことにやむを得ない措置である
逆に、原告は、公立学校の集団教育の場で、指導拒否の悪例を他の学生に公示し、A高専
の秩序と教育効果に悪影響を与えていることを省みない。この点に関し、原告はA高専の
、、秩序を現に混乱させていないと主張しているが現にA高専の秩序が混乱していないのは
被告が適切厳正に対処しているからであって、原告の主張するように、剣道の授業を拒否
した者も受講したものとみなすようなことになると、学生は、受けたい授業だけを受けれ
ばよいことになり、秩序が乱れることは明々白々である。
被告は、これに対し辛抱強く再三誠意をもって説得し、
補講まで用意するとともに、原告の規律違反に対して何らの懲戒処分を行っていない。こ
のことは、被告の寛容の態度の表れというべきである。
2ところで、学年制を採っているA高専において、学生の進級は、学生が当該学年にお
いて習得すべき事項を習得したと認定された場合に認められるものである。このような成
績の評価に関連する判断は、高度に技術的な教育的考慮を要するものであるから、その判
断は、直接教育に携わっているものの教育的、技術的な裁量に任されているものと解する
のが相当である。
また、学校教育法一一条本文は「校長及び教員は、教育上必要があると認めるとき、
は・・・・・・学生・・・・・・に懲戒を加えることができる」と規定し、同法施行、。

則一三条二項は「懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長・・・・・・がこれ、

行う、と規定し、学生を学校から退学させる権限は校長にあるものとしている。高等。」

門学校の学生に対する懲戒処分は教育施設としての高等専門学校の内部規律を維持し教育
目的を達成するために認められる自律作用であるが、その行為が懲戒に値するものである
かどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについては、当該行為の軽
重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人
及び他の学生に及ぼす訓戒的効果等の諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判
断は、学内の事情に精通し直接教育の衝に当たるものの裁量に任ずのでなければ、適切な
結果を期することができないから、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当
である。ただ、同法施行規則一三条一項及び三項は「校長及び教員が児童等に懲戒を加、

るに当たっては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければなら」な
いとし、さらに、退学は、当該学生を校外に追放する最終的な処分で、その学生の将来に
与える影響も深刻であることから「・・・・・・・・・次の各号の一に該当する児童等、

対して行うことができる。一性行不良で改善の見込がないと認められる者、二学力劣
等等で成業の見込がないと認められる者、三正当の理由がなくて出席できない者、
四学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者(同法施行規則一」

)、。条三項と規定されていることから校長の裁量権もこの限りで制約を受けると解される
したがって、校長がする進級拒否処分及び退学命令処分は、進級の要件の有無又は退学事
由の存否の判断が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、あるいは教
育的な見地からみて社会観念上著しく妥当を欠き判断権者にrされた裁量の範囲を超える
ものと認められる場合を除き、判断権者の裁量に任されているものと解することが相当で
ある。そして、原告が主張する諸要素は、この処分について校長に裁量権の逸脱又は濫用
があるかどうかの判断の諸要素の一部として考慮するのが相当である。
3剣道を必修と定めたことについて
(一)原告は、信教上の信念によって格技の実習に参加することができないと確信して
いる原告に対して被告が格技の実習への参加を強制したため、原告の信教の自由が侵害さ
れたと主張する。
憲法二〇条に規定されている信教の自由は、基本的な人権として、内心にとどまる限りそ
の保障は絶対的なものといわなければならない。
しかしながら、本件のようにそれに基づいて法的義務や社会生活上の義務の履行を拒絶す
るなどそれが外形的行為となって社会生活と関連を有する場合には、宗教に対し中立的な
一般的法義務による必要最小限の制約を免れることができないこともまたいうまでもな
い。
ところで、A高専が原告に対して剣道実技の履修を求めたのは、同校においては、体育が
必修とされていて、その体育において一年時に履修すべき種目のひとつとして剣道が選択
されていたからである。そこで、A高専では、どのような根拠に基づいて、学生に対し剣
道実技を必修として課しているのかについて検討する。
(二)証拠によれば、A高専における授業科目及び単位数について、次の各事実が認め
られる。
(1)高等専門学校においては、高等専門学校を所轄する文部大臣(学校教育法七〇条
、)、(「」の一〇六四条はその教育課程の大綱として高等専門学校設置基準以下設置基準
という)を定めているほかは、高等学校における学習指導要領に相当するものは存在せ。
ず、
これを各高等専門学校で具体的に展開していく際の参考とするため、昭和四三年三月に行
(「」。)政指導という形で示された高等専門学校教育課程の標準以下教育課程の標準という
及び昭和五一年七月二七日に出された「高等専門学校の設置基準及び学校教育法施行規則
の一部を改正する省令について」という文部省大学局長通達(以下、
併せて「通達等」という)があるにすぎない。。
設置基準において授業科目として列挙されている体育の種目中に柔道、剣道等の格技も掲
げられているが、そのいずれを採用し、それに対してどの程度の点数を割り当てるべきか
を定めた規程は、右設置基準はもちろん、教育課程の標準や大学局長通達の中にも存在し
ない(乙第一、第二、第一七号証、被告本人尋問の結果)。
(2)A高専においては、かねてから剣道の実施を検討していたが、舞子台の校舎には
武道場が整備されていなかったため、昭和六〇年ころから武道場を整備する計画があった
ものの、平成元年度までは剣道の授業は行われていなかった。A高専は、平成二年度に従
前の舞子台から学園都市の新校舎に移転することになったが、新校舎では武道場が整備さ
れ剣道の授業が可能になるので、同年度から、体育の一種目として剣道実技を実施するこ
とにした(乙第一七、第二三号証)。
(3)A高専では、武道場の実施計画に着手した昭和六二年度以降、入試説明会におい
て、新校舎移転後は格技を実施することを明らかにし、被告が阪神間の各中学校を学校紹
介等のために訪問した際にもそのことを説明してきた。また、平成二年度からは同校の学
生募集入学願書書類にも、同年度から剣道の授業を実施することを掲載した(乙第三、。

一七、第二三号証)
(三)以上の事実によれば、第一に、高等専門学校において一般科目として体育を必修
とすることは、設置基準に基づくものであり、A高専において、体育を必修としたことも
設置基準に合致するものと認められ、この点について、特に違法不当な点を窺うことはで
きない。
()、、四次にその体育の種目のひとつとして剣道を選択したことが違法か否かをみるに
必修科目である体育の授業の教育内容をどのようにするかについて、教師に完全な自由を
認めることができないのはいうまでもないが、他方、教育的な見地からの専門的価値判断
が必要な行為でもあるから、一定の範囲内で教師側の裁量が認められることも否定できな
い。
また、前記認定事実によれば、高等専門学校において、体育の種目として何を採用すべき
か、その採用した種目に対しどの程度の点数を割り当てるかについては、各高等専門学校
の自主的判断に委ねられているものと解することができる。
(五)これに対し、学校教育法四三条、
同法施行規則に基づいて文部大臣が告示した現行の昭和五三年の高等学校学習指導要領
(以下「現行要領」という)においては、格技は、主として男子に各学年で一つを選ん。

指導するものと規定し、現行の高等学校学習指導要領の特例により、それによってもよい
とされる平成元年の高等学校学習指導要領(以下「新要領」という)には、種目の選択。

際には武道かダンスのどちらかを含むようにすることが規定され、また、現行要領と新要
領のいずれにも格技(武道)の種目のひとつとして剣道が規定されている。
(六)このように、高等専門学校と高等学校との間において、履修すべき教育課程の内
容等につき文部大臣の指針に差が見受けられるのは、普通教育を行う高等学校に対し、設
置された歴史も新しく、かつ、科学技術の絶えまない進展を常に取り入れていかなければ
ならない高等専門学校の教育課程については、具体的かつ詳細な指導要領を不変のものと
して定めるよりも、その大綱を示し、その中で各学校毎に時代に即応した適切な指導を行
うことができるようにし、もって、高等専門学校教育の充実を図ろうとしたものであると
考えられる。このように、文部省の指針に差が見受けられるとしても、体育等の一般科目
については、高等学校と高等専門学校との間で、後期中等教育における普通教育を行うと
いう点では共通のものと考えられるから、その内容面において、高等学校の学習指導要領
、。に定められているところを高等専門学校において参考とすることも決して誤りではない
(七)前述のとおり、高等学校においても格技(武道)を選択することができると定め
られているうえ、剣道は、それ自体宗教と全く関係のない性格を有し、健全なスポーツと
して大多数の一般国民の広い支持を得ているのは公知の事実であるから、その剣道を、文
部大臣から示された教育課程の標準を参考にして必修種目としたA高専の措置自体には、
何ら裁量権の逸脱を認めることはできない。
なお、原告は、現行要領では格技は必脩となっていたが、新要領では必修科目でない取扱
いができるようになったので、この改正には十分留意すべきであると主張する。しかし、
そもそも、高等学校学習指導要領は高等専門学校においても参考とすることが誤りでない
というにすぎないのであるから、
高等専門学校において高等学校学習指導要領の変更内容をそのまま取り入れなかったから
といってその措置が直ちに違法になるものではない。
(八)また、前記認定事実によれば、A高専においては、従来は剣道の授業は行われて
おらず、平成二年度から新たに採用されたものではあるが、これは、A高専においては、
剣道導入の意思はあったものの剣道の道場がなくそれを行うことができなかったところ、
武道場のある新校舎に移転して剣道の授業が可能になったためであるから、このことをも
って「エホバの証人」を嫌悪して特に剣道を必修としたということはできず、他にエホ、

の証人を嫌悪したと認められるような特段の事情も窺うことができないから、A高専にお
いて必修科目の体育の種目として剣道を選択したことに裁量権の逸脱又は濫用があったと
いうことはできない。
4体育の単位を不認定としたことについて
(一)本件においては、前述のとおり、原告の体育の単位が認定されなかったことが、
本件処分に至った重要な要件になっている。
そして、原告は、その信じる「エホバの証人」の教義に従って、格技をスポーツとして許
容することはできず、たとえ学校の体育の種目としてでも参加すべきでないと考え、剣道
の授業の際に準備体操にだけ参加し、その後の剣道実技には参加せず、武道場の隅で自主
的に見学していたところ、結果として第一学年の体育の単位の認定を受けられなかったも
のである。
ところで、高等専門学校の教育課程において、ある科目について単位を認定するかどうか
は、教科担当者の極めて専門的かつ教育的な価値判断に属する行為であって、その見地か
ら担当者に相当に広い裁量権が認められていると解されるが、その裁量権の行使に逸脱又
は濫用があると認められるときには、右単位の不認定が違法とされることはいうまでもな
い。
そこで、体育の単位不認定に関して、格技の実習に参加しなかった理由が宗教上の信条に
基づく場合にも、特別の扱いをせずに通常の不参加と同様の扱いをすることが、裁量権の
逸脱又は濫用に当たるといえるかどうかが問題となる。
(二)証拠によれば、A高専における体育の成績の評価方法及び原告の体育の成績等に
ついて、次の各事実が認められる。
(1)A高専において、体育の授業は、四人の体育担当教員によって分担して実施され
ている。そして、その学業成績の評価は、
その体育担当教員に委ねられているが、平均点が七〇点前後になるようにして教員間の統
一を図っている(乙第八号証)。
(2)同校においては、体育の学習成績の評価方法として、実施した全ての種目におい
て合格点を取らなければ体育の単位が認定されないという評価方法を採らず、平素の受講
態度も考慮に入れたうえで、全種目の合計点が合格点に達していれば体育の単位が認定さ
れる「総合評価方式」を採用している。
したがって、同校においては、剣道を受講しなくても、他の種目で努力をすれば、合格点
を取ることが可能であった(乙第二三号証)。
(3)原告は、授業時間当初の約一〇分間の準備運動には参加したものの、その後は教
員による「剣道はスポーツの一種である」という説得にもかかわらず、剣道の実技に参。

せず、自主的に道場内で見学した。なお、体育担当教員の説得の中には、剣道実技を履修
しなければ単位を認定できないという趣旨の強い口調のものもあった。
そこで、体育担当教員は、一時限目は出席の扱いにして、そこで行った準備運動について
五点の評価を与え、二時限目は欠席として扱った(甲第五一号証、乙第一七号証、原告。

人尋問の結果)
(4)A高専における平成三年度の一年生のうち、剣道の受講を拒否した学生は一五人
いたが、そのうち一〇人が体育で合格点を取得した(乙第一七号証、被告本人尋問の結。
果)
(三)以上の事実を総合すれば、原告は、自己の信教上の信条を貫くためには剣道の実
習に参加することができないという立場に置かれており、その剣道実技を受講しなければ
体育の単位の認定が難しくなるということになるから、A高専が原告に対して剣道実技の
履修を求めることは、格技を禁ずる教義に反する行動を求めるのと事実上同様の結果とな
り、そのため、原告の信教の自由が一定の制約を受けたことは否定することができない。
また、原告は、実習にこそ参加していないが、準備体操までは一緒に行い、その後も、自
主的にではあるが剣道の実技を見学していたところ、剣道実技に参加しなかったものと判
断され、体育全体の点数が不足し、体育の単位が不認定となり、その結果、進級さえもで
きず、さらには退学処分を受けるという重大な結果が発生しているということができる。
(四)しかし、前述のとおり、剣道の履修義務自体は何ら宗教的意味を持たず、
信教の自由を制約するためのものでもないうえ、A高専における体育科目の担当者は、体
育の成績を評価するに当たり、剣道の実技への参加を拒否したという理由だけで直ちに体
育の単位を不認定としたわけではなく、剣道実技への参加を拒否したため、剣道について
は、準備体操についてだけ五点(第一学年全体でみると二・五点)と評価し、現実に参加
していない剣道実技について評価しなかったために、その一年間における授業や試験に基
づく体育の点数の合計が五五点に達せず、総合評価の結果、体育の単位が認定されなかっ
たというにすぎない。このように、体育担当者は、現実に参加しなかった剣道実技につい
て評価しなかったというにすぎず、このことについて、剣道実技の受講拒否に対してこと
さら不利益を課したものと評価することはできない。
また、被告が必修種目として原告に履修を求めたのは、その由来はともかく、現在におい
ては健全なスポーツとして大多数の一般国民の広い支持を得ている剣道であるから、兵役
又は苦役に従事することを求めた場合と比べ、その信教の自由に対する制約の性質は全く
異なるものであるとともに、その制約の程度は極めて低いといわざるを得ない。さらに、
A高専においては単位認定の方法として総合評価方式を採っているため、原告がA高専に
おいて第一学年で予定されているその他の種目(その割り当てられた点数の合計は六五点
。)、であるについて約八割の点数を獲得すれば単位の認定を受けることができたのであり
このことはかならずしも容易なことではないものの決して不可能なことではなく、現に平
成三年度において、第一学年の剣道実技の受講を拒絶した一五人のうち三分の二に当たる
一〇人が体育の単位を得た(この一五人のうちには、平成二年度に剣道実技の受講を拒絶
して体育の単位が不認定となり第一学年に原級留置となった学生が原告を含め五人いた
が、
。)そのうち三人が剣道実技の受講を拒舌したにもかかわらず体育の単位を認定されている
ことが認められるから、この被告の措置が原告の信教の自由に与えた制約の程度はそれほ
ど高いわけではないということができる。
()、、五原告はA高専において体育に当てられていた授業時間は全部で六〇時間であり
そのうち剣道の講義が行われた時間は平成三年度で一〇時間、同二年度で六時間であり、
そのうち剣道に関する講義及び準備運動には原告も参加していたのであるから、この被告
の措置は不利益処置として余りにバランスを欠くと主張する。
しかし、ある年に剣道の授業が現実に何時聞行われるかは授業が行われる曜日と祝祭日と
の関係や学校行事との関係で異なってくるものであり、現実の授業時間と配点割合が異な
っているからといってその間にバランスを欠くということはできず、また、独立して意味
を持たない準備運動や剣道の講義について時間数に相当する評価をしないからといってバ
ランスを欠くということはできない。
(六)(1)逆に、剣道の実技に参加していないにもかかわらず、信教の自由を理由と
して、参加したのに準じて評価し、原告に対して合格最低点を与えたとすれば、宗教上の
理由に基づいて有利な取扱いをすることになり、信教の自由の一内容としての他の生徒の
消極的な信教の自由と緊張関係を生じるだけでなく、公教育に要求されている宗教的中立
性を損ない、ひいては、政教分離原則に抵触することにもなりかねない。教育基本法九条
一項に定める宗教に関する寛容等も、あくまで、この宗教的中立性を前提とするものであ
り、宗教に教育上の理由に対して絶対優先する地位を認めるものでない。
(2)原告は、政教分離原則は、国民の「良識」や「寛容」にのみ頼らないで国家と宗
教を敢えて分離し、そのことによって宗教に関する完全な自由を確立しようとするもので
あり、多数者に対する不信を根底に持ち、少数者の儒教の自由の保障を重要視する原則で
あるから、我が国の政教分離制がその規範構造及び歴史状況からして厳格な解釈が必要で
あるとしても、それが少数者の信教の自由と衝突する場合には、政教分離原則を緩やかに
解釈すべきであると主張する。
しかし、宗教と政治が密着した場合に他の宗教を信じる者の信教の自由を制約されるおそ
、、れがあるのは政治と密着する宗教が多数派であっても少数派であっても同様であるから
少数派の場合に政教分離原則を緩く解釈するというのは相当ではない。
(3)原告は、政教分離原則は憲法上の重大な原則であるから厳格に解釈されるべきで
あるが、宗教にかかわる国家行為が同じく憲法上保障されている重大な価値又は人権を実
、。現するものである場合にはその調整の原理として緩やかに解するべきであると主張する
しかし、本件は、
単に政教分離原則と原告の信教の自由との調整の問題以前に、原告の信教の自由と高等専
門学校における教育及び学校長が有する裁量権との調整が問題となる事案であり、右の点
については既に述べたところから明らかなように、原告の信教の自由が結果として制約を
受けるものであったとしても、学校長の裁量に何ら違法な点はないのであるから、政教分
離原則を緩やかに解釈しなければならない理由はない。
(4)また、原告は、A高専が原告の体育の単位を認定することは、宗教的意義を持つ
わけではなく、エホバの証人に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉になるわけではな
いから、政教分離原則に反しないと主張する。
確かに、原告の体育の単位を認定すること自体が宗教的意義を持つわけではなく、A高専
が原告の体育の単位の認定に際して剣道実技を履修したのに準じて評価したとしても、そ
れが直ちに政教分離原則に反することになるわけではないことは原告が主張するとおりで
ある。しかし、原告がその信じる宗教の根幹部分の実践として剣道実技の履修を拒否して
いるにもかかわらずそれを履修したのに準じて評価するとすれば、その宗教の実践に助力
しているという評価もあながち不自然ということはできず、政教分離原則と緊張関係にあ
ることも否定することはできない。仮に、受講していない剣道実技に対して履修したのに
準じて評価することが政教分離原則に反しないと評価されたとしても、だからといって、
逆に、そのような政教分離原則と緊張関係にある行為をすべきことが義務付けられるとい
うことはできず、緊張関係を回避するためにそのような行為をしなかったことについて裁
量権の逸脱又は濫用があったということもできない。
(5)原告は、本件は、宗教上の良心と世俗的義務との衝突という点で良心的兵役拒否
と国家の徴兵制度との関係に類似し、国家の存立に関わる基本的な義務である国防のため
の兵役義務を宗教上の理由から免除した場合にも政教分離に反するとされていないくらい
であるから、必要性の乏しい格技の履修について宗教上の良心から履修できない原告に特
別の配慮をしたとしても政教分離原則に反することはないと主張する。
しかし、兵役義務と高等専門学校における剣道の履修義務とを同様にみることが相当でな
いのは前に述べたとおりである。また、
良心的兵役拒否の場合は兵役義務の履行を強制しないということにつきるのに対し、本件
の場合は、剣道履修の履行を免れただけでなく、それにもかかわらず剣道実技を履行した
のに準じて評価をするようにということまで求めているのであるから、なおさら比較する
のに相当な事例ということはできない。
(七)また、必修科目である剣道実技を履修しなかったにもかかわらず、剣道実技につ
いて点数を与えることになると、学校側において、履修拒絶が宗教上の理由に基づくもの
かどうか判断しなくてはならなくなるが、そうすると、必然的に公教育機関である高等専
門学校が宗教の内容に深くかかわることになり、この点でも、公教育の宗教的中立性に抵
触するおそれがある。
なお、原告は、宗教を個人の究極的関心事にかかわる心情及び体験と定義して、宗教かど
うかの判断を高等専門学校が行うことは排除すべきであると主張するが、そうすると、宗
教の定義よりも、より個人の内面に深く立ち人って、その心情が妥協を許さないものかど
、。うかの判断を学校側にさせることになるからこのような見解は採用することはできない
(八)以上のとおりであって、原告の受けた信教の自由に対する制約は、必要やむを得
ないものであると認められるから、被告がした原告の体育の単位不認定の措置には、裁量
権の逸脱を認めることはできない。
5代替措置等について
(一)原告は、A高専では、教務内規において、学習成績は「学習態度、出席状況等を
総合して評価するもの」とし「科目担当教員は、必要に応じてレポート・・・・・・等、

成績を試験成績に加えることができる」とし、教育的配慮を生かした柔軟な対応を採る。

とができるようになっていたのに、信教上の理由で剣道実技を履修することができない原
告の剣道の履修及び体育の単位認定に際し、体育担当教員がこれを活用しない態度を一貫
して示したことは違法であると主張する。
(二)証拠によれば、格技に対する代替措置等について、次の各事実が認められる。
(1)原告及びその保護者は再三にわたり格技以外の代替種目の履修又はレポートの提
出等の代替措置の実施をA高専に申し入れたが、同校では剣道実技の補講は実施したもの
の、原告が参加できるような代替措置を採らず、原告が自主的に提出した剣道のレポート
も受領しなかった(甲第九号証の一ないし五、第五一号証、。
原告本人尋問の結果)
(2)A高専では、病気その他の身体上の理由によって体育実技に参加できない場合に
は、見学やレポート提出などによって体育の単位を認定してきた経緯があった(乙第二。

号証、被告本人尋問の結果)
(3)全国の高等学校や高等専門学校の中には、宗教上の理由等に基づいて格技に参加
しなかった者について見学、レポート、ランニング又はサーキットトレーニング等の代替
措置を実施して体育の単位を認定したところが少なからず存在するが、それらの学校にお
いて、参加しなかった格技や代替措置についてどのような評価をして単位を認定されたか
は必ずしも明らかではない(甲第一三、第一七、第三五号証、乙第一〇、第一八号証)。
(三)しかしながら、そのような代替措置をとることも、前述のように、剣道に参加し
ていないにもかかわらず参加したのに準じて扱うのと同様に、信教の自由を理由とする有
利な扱いであり、さらに、代替措置の実施、安全確保等に人員や予算の確保が必要となる
ことなどから、これらの代替措置をとらない限り違法であるということはできない。
前記認定事実によれば、A高専においては身体上の理由によって体育実技に不参加の学生
には見学等によって単位を認定しており、信教上の理由による不参加の場合も同様の扱い
をすべきでなかったかが問題となるが、身体上の理由によってそもそも体育実技に参加し
たくとも参加することができない場合とそうでない場合とで異なった取扱いをするのは、
合理的理由に基づくものということができる。
また、格技の代替措置を実施し体育の単位を認定した他校については、その代替措置に対
してどのような評価をしたのか必ずしも明らかでないので、他校の措置をもって直ちに参
考にすることはできない。
6本件処分の違法性について
(一)そこで、本件処分に裁量権の逸脱又は濫用があったかどうかについて検討する。
証拠(乙第一七号証、被告本人尋問の結果)によれば、本件処分について、前記認定事実
のほか、次の各事実が認められる。
(1)A高専における平成二年度の学年成績評価の結果、原告を含む六名の剣道受講拒
否者が体育の授業科目の単位が認定されなかった(原告の体育の総合評価の評点が四二点
であった)ので、平成三年三月一四日に開催された第一次進級認定会議において、。
剣道受講拒否者に対し剣道の補講を実施することを決定した。
(2)剣道の授業の補講は、平成三年三月一八日及び一九日に実施され、剣道実技の履
修を拒否した六名のうち一名が参加したが、原告を含む残りの五名は参加しなかった。
(3)平成三年三月二三日、第二次進級認定会議が開催され、補講を受けた一名は進級
したが、補講を受けず体育の単位が認定されなかった原告を含も五名の進級は認定されな
、、、。いことになりこの結果を受けて被告は原告の第二学年への進級の不認定を決定した
(4)平成三年度においても、剣道実技の履修拒否者一五名のうち原告を含も五名の者
の体育の単位が認定されなかった(原告の体育の総合評価の評点は四八点であった)の。
で、
平成四年三月一三日、第一次進級認定会議を開催し、補講を実施することを決定し、同日
体育担当教員が、右五名の者に対し、同月一四日から一七日に実施する補講に参加するよ
う説得した。
(5)平成四年三月二三日、第二次進級認定会議が開催されたが、原告が補講を受講せ
ず体育の総合評価の評点が第一次進級認定会議の際と同様の四八点であったので、原告の
第二学年への進級が認定されず、これを受けて、被告は、原告の第二学年への進級の不認
定を決定した。
(6)平成四年三月二三日、表彰懲戒委員会が開催され、原告に対する退学処分が相当
であるとの決議がされ、その旨が被告に答申された結果、本件退学命令処分がされた。
(二)前述のとおり、A高専においては、被告の裁量権の行使の際の基準を定めた内規
があり、被告が進級の認定をするためには、一科目でも不認定の科目があってはならない
とされている。この内規自身に特段違法な点も認められないところ、被告は、右内規に定
める手続に従い、いずれの年度においても二度にわたって進級認定会議を開催し、原告の
体育の単位を認定するについて慎重な手続きをとったうえ、原告の体育の単位が認定され
ず、その単位不認定とする体育担当教員の判定が相当であると確認したうえで、本件進級
拒否処分をしたのであるから、この被告の処分に裁量権の逸脱又は濫用を認めることはで
きず、本件進級拒否処分にも何ら違法な点はない。
また、退学処分についても、前記認定のとおり、進級等認定規程一五条は休学の場合以外
は連続二回原級にとどまることはできないとし、学則三一条は、連続二回原級に留め置か
れた者は、
退学処分の対象となるとして、被告の裁量権の行使に枠を設けているのである。そして、
原告が平成二年度の進級拒否処分に続き平成三年度も本件進級拒否処分を受け、原告がA
高専に在籍することができなくなったため、A高専における内部規律を定めた進級等認定
規程一五条、学則三一条に従い、表彰懲戒委員会の答申という慎重な手続を経て、本件退
学命令処分に及んだのであるから、この被告の懲戒権の行使に、裁量権の逸脱又は濫用が
あるということはできない。
(三)原告は、A高専において「進級及び卒業の認定は進級、卒業認定会議の審議を、

て校長がこれを決定する「学校は、教育上必要があると認めるときは、学生に対し懲。」、

を加えることができる」と規定し、進級拒否及び退学処分について校長の権限としてい。

のは、進級、卒業の認定あるいは退学処分が学校内規等により機械的に処理されるのを避
け、具体的な事案に即して、学生の学習権を侵害しないよう1校長以下の教員の慎重な検
討に委ねて、その最終的な責任・権限を校長に求める趣旨のものであるのに、被告は、学
則ないし規定という学校側の管理の必要上一方的に定められたにすぎないものを原告に対
して漫然と機械的に適用し、とりわけ、原級留置の回数を一回限りとし二回に及んだ場合
は「学力劣等で成業の見込みのないもの」とみなして直ちに退学処分に及ぶという異例に
厳しくそれ自体妥当性に疑問がある規定や内規を、信教上の理由による剣道実技拒否によ
って体育の単位が認定されなかっただけで他の教科については学級で一番の好成績の原告
に対して適用し「学力劣等で成業の見込みのない者」とみなして退学に処するのは常識、

反し、その教育的裁量を大いに逸脱しているし、また、懲戒権者である校長に裁量権があ
るように法律が規定しているのは、学生の当該行為の軽重のはか、本人の性格及び平素の
行状、右行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人及び他の学生に及ぼす効果、学生
の右行為を不問に付した場合の影響等の諸般の事情を考慮する必要があるためであるが、
被告は本件退学処分をするに当たって、これらの考慮すべき事項を考慮せず、教育上の必
要もない(学校教育法一一条)のに、原告を退学処分に付したのであるから明らかにその
裁量権を逸脱したものである旨主張する。
しかし、被告は、これらの規定を漫然と適用したのではなく、
これらの問題を慎重に検討するために、進級については、二回にもわたる進級認定会議を
開催して教員の意見を集約し、退学については、さらに表彰懲戒委員会において、十分に
審議したうえで、本件処分に至ったものであるから、漫然と処分をしたという原告の主張
は理由がない。また、いくら他の教科の成績が抜群であっても一科目でも単位を落とした
場合に学力劣等と評価することは別段不合理なものではなく、剣道拒否及びそれに対して
優遇措置をとった場合に他の学生間に広がる不公平感や動揺なども決して、軽微なものと
いうことはできず、本件処分が要考慮事項を考慮しなかったということもできない。
(四)さらに、A高専は義務教育を行う学校ではないところ、原告は自らの自由意思で
入学したのであるから、その入学したA高専の存立及び活動等を保護するための内部規律
、。、によって原告の権利も一定の制約を受けるのはやむを得ないということができるまた
前記認定事実によると、被告は入学の説明等に際して、原告を含も受験希望者らに対し平
成二年度から剣道が必修になることを周知させる措置をとっており、原告はそれを承知の
うえ入学したのであるから、なおさら体育の単位不認定に関する原告の信教の自由に対す
る不利益の程度は低いということができる。
原告は、高専、高等学校における教育は法律上の義務教育ではないものの進学率が九五パ
ーセントを超える国民レベルの普通教育機関になっているから、原告に高専に入学しない
自由の行使を求めるのは不当であり、また、原告が入学前にA高専の剣道について知って
いたことがらというのは、体育の科目に剣道が採り入れられたことだけであり、信教上の
理由であっても剣道実技拒否が許されず、他の種目や見学、レポート提出等の代替措置が
認められず、実技をしないなら剣道の評価はほぼ〇点になってしまうというおよそ宗教的
不寛容かつ教育的無配慮に直面するなどとは考えてもいなかったのであるから、剣道実技
が採り入れられたのを知っていたから制約の程度が低いということはできないと主張す
る。
しかし、右に述べたとおり、A高専において剣道が必修になることを周知させる措置を採
っており、かつ、単位の認定につき学校側に幅広い裁量が認められる以上、入学後におけ
る学校側の配慮にどのような期待を持っていたかということは直接意味を有するものでは
ないから、
原告の主張は採用することはできない。
(五)以上を総合すると、必修科目である体育の種目として剣道を採用したこと、その
評価の割合を定めたこと等は、指導要領の大綱を示し、その中で各学校毎に時代に即応し
た適切な指導を行うことができるようにし、もって、高等専門学校教育の充実を図ろうと
した趣旨にそうものであって、原告の信教の自由が受けた前記不利益と比べて著しい不均
衡があるということはできない。
(六)以上のとおりであって、原告に対しレポートその他の代替措置を講ずることなく
行った一連の被告の措置ないし行為が、原告の信教の自由をある程度制約したことは否定
できないが、信教の自由全体、特に公教育の宗教的中立の要請から見ると、決して許容で
きない措置であったとまではいえない。
7平等原則違反について
原告は、本件処分が信条による不当な差別であると主張するが、前述のとおり、被告は、
原告の信条によって特別扱いをしなかったのであり、そのような特別扱いをしなかったこ
とに合理性がないわけではないから、原告のこの主張は採用することができない。
8教育を受ける権利について
原告は、原告が学生と」で憲法二六条や教育基本法三条に基づく教育を受ける権利、さら
には、信教の自由を含む精神的自由の人権を十分尊重されたうえ、公正、平等な教育上の
評価を受け、進級し、各学年の教育を受けることができるという内容を持った学習権が認
められているが、被告が代替種目の履修も認めずにした本件処分によってその学習権が侵
害されたと主張する。
確かに、憲法二六条が子供の学習権を規定しているのは原告の主張するとおりであり、ま
た、教育はその権利の充足を図りうる立場にある者の責務と解される。しかし、そのこと
から、教育内容を誰がどのように決定するかが当然に導き出されるわけではなく、高等専
門学校におけ
る教育内容は、前述のとおり、国の定める大綱に従って教師が裁量的に決定すべきもので
ある。
そして、A高専においては、裁量権の逸脱及び濫用もなく、教育内容が適正に決定され運
用されているのであるから、そのために、不利益が生じたとしても、学習権が侵害された
ということはできない。
9そして、他に本件処分が違法であることを窺わせるに足りる証拠はない。
第四結論
よって、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決
する。

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