弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人らに対する原判決をいずれも破棄する。
     被告人Aを懲役一年に
     同Bを懲役一年六月に
     各処する。
     被告人両名につき、この裁判確定の日からいずれも二年間右刑の執行を
猶予する。
     被告人Aから金二〇〇万円を追徴し、同Bから押収してある腕時計一個
(当裁判所昭和五二年押第五八号の二一)を没収し、金三二三万八、六〇〇円を追
徴する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人Aの弁護人松枝述良作成の控訴趣意書ならびに大阪
高等検察庁検察官検事杉島貞次郎が提出した京都地方検察庁検察官検事甲田宗彦作
成の控訴趣意書各記載のとおりであるから、これらを引用する。
 弁護人の論旨は、原判決は、被告人Aに対し押収してある入会保証金預託証書一
通(当裁判所昭和五二年押第五八号の二〇)を没収したうえ、さらに同被告人から
右証書収受時の譲渡価格より右証書の額面金額を控除した金一三二万円を追徴して
いるが、本件で収賄の対象となつているものは、いわゆるゴルフの会員権であり、
この会員権は、株式と同様、時の相場によつて価格が変動し、証券会社に類似した
仲介業者により取引がなされているもので、その譲渡には入会保証金預託証書の交
付が必要とされ、同証書には裏面に譲渡人、譲受人欄が設けられていて、同証書か
会員権の売買取引の手段として用いられることを予定していることからみると、こ
の証書は有価証券の性質を帯有しているものというべく、このことは、同証書が会
員権を表彰していることを示すものであり、一般取引においても、証書の譲渡をも
つて会員権の移転があつたものと観念されているのであるから、本件収賄による利
益の剥奪としては、右証書を没収することで足りるものというべきである、なんと
なれば、入会保証金預託証書を没収された以上、国家がこれに基づき保証金払戻請
求権を行使すれば、被告人Aは、これによつて会員たる地位をすべて失うべき立場
に立たされているのであつて、かかる被告人からさらに原判決のように収賄時の会
員権の価格と右証書の額面金額との差額金を追徴することは違法であり、原判決に
は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
 検察官の論旨は、原判決は、被告人両名から押収してある入会保証金預託証書各
一通(当裁判所昭和五二年押第五八号の二〇及び二三)を没収したうえ、さらに右
各証書の収賄時における譲受価格より各証書の額面金額を控除した差額金を追徴し
ているが、これらの証書は没収の対象になり得ないものであつて、被告人らに対し
ては右各証書の収賄時における譲受価格全額を追徴すべきである、すなわち、右の
入会保証金預託証書は、これの譲渡、預託保証金の返還請求権の行使にその交付、
呈示が必要とされ、裏面に裏書類似の欄を設け一見指図証券のような外観を有し、
事実上市場で転々流通しているが、これを譲渡するについては、Cカントリークラ
ブの承認が必要とされ、又これを譲受けて新たに会員資格を取得するためには、同
クラブの理事会の決定ならびに名義書替手数料の支払が必要とされており、さらに
同クラブの会則により会員資格の剥奪、会員としての権利行使の一時停止、除名等
をなしうる場合が定められていて、有価証券として欠くべからざる権利と証券との
密接な結合が排除されており、このことからみて右証書は単なる証拠証券に過ぎな
いものというべきであつて、原判決がこれを預託保証金返還請求権を化体している
ものとして没収の対象とし、他方追徴すべき会員権の価格から右証書の額面金額を
差引いてその残余金額のみを追徴したことは、入会保証金預託証書の理解を誤り、
ひいては刑法一九七条ノ五の解釈適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及
ぼすこと明らかである、というのである。
 そこで各所論にかんがみ記録及び原審証拠ならびに被告人A関係について取り調
べられた当審証拠を検討して次のとおり判断する。
 被告人らに対する各原判決は、被告人Aについてはその判示収賄事実につき、被
告人Bについてはその判示第一の収賄事実につき、いずれもその収受した賄賂はゴ
ルフクラブの会員たる地位(会員権)であるが、その一部である入会保証金返還請
求権は入会保証金預託証書に化体されているので、同証書自体を刑法一九七条ノ五
前段により没収すべく、その余の会員たる地位はその性質上没収することができな
いので、同条後段によりその価格を追徴すべきであるとして、被告人Aからは人会
保証金預託証書一通(当裁判所昭和五二年押第五八号の二〇)を没収するととも
に、収賄時における会員権の譲渡価格二〇〇万円から右預託証書の額面金額六八万
円を控除した残額金一三二万円を追徴し、被告人Bからは入会保証金預託証書一通
(同押号二三)を没収するとともに、収賄時における会員権の譲渡価格二三〇万円
から右預託証書の額面金額五六万円を控除した残額金一七四万円を追徴した。
 <要旨>ところで、右各原判示事実において被告人らが収受した賄賂たるいわゆる
ゴルフクラブの会員権の性質についてみると、それはいわゆる預託金会員組
織としてのCカントリークラブの個人正会員たる地位であつて、これは、会員が株
式会社D及びCカントリークラブ宛入会を申込み、会社取締役会の承認を得たう
え、会社に対し入会保証金の預託を済ませることによつて成立する会社に対する債
権契約上の地位であり、この関係を明らかにするために会社は会員に対し、入会保
証金の受領と同時にこれを証する入会保証金預託証書を交付し、その氏名を会員名
簿に登録するものとされ、その会員権の内容は、会員において会社が所有管理し、
株式会社Eが運営している大津市a町所在のゴルフ場施設を優先的に利用しうる権
利及び年会費納入等の義務を有するほか、入会の際預託した保証金を三年の据置期
間経過後は退会とともに返還請求することができ、また、同カントリークラブの承
認を得て会員権を他に譲渡することもできるというのであつて、会員権が譲渡され
たときは譲受人は右の内容をもつ債権契約上の地位を承継することとなるのであ
る。
 そして、会員権の譲渡は通常売買によつて行われるが、この場合株式相場に類似
した価格の変動がみられることや、これを譲渡するについては、相手方に入会保証
金預託証書を交付することが必要とされていることから、同証書の裏面には、譲渡
人譲受人の氏名押印欄が設けられており、このような点だけをみると、右証書は一
見会員権と一体となつた流通証券であるかのような感じを受けないでもないが、他
方右証書の譲渡については、その証書自体に「本証は当クラブの承認なくして譲渡
又は質入れは出来ません。」との譲渡制限文言が記載されているばかりでなく、右
証書の授受は通常会員権の譲渡に伴うものに過ぎないのであつて、同証書自体は一
般に会員権と別個独立の取引対象とされるわけのものではなく、しかも、会員権を
取得するためには、単にこの証書を人手しただけでは足りず、会社取締役会の承認
を必要とするうえ、会社に対し名義書替料を支払つてその氏名の登録を受けること
が要件とされているなど権利の譲渡、取得の両面について証書それ自体を離れた種
々の手続が要求されており、これらの点を総合すると、右証書は会員権に対応して
発行され、その移転に伴つて転々授受されるものではあるが、その性質は、会員権
の所在を示す一資料としての証拠証書の域を出ないものというべく、証券それ自体
が権利を表彰化体し高度の流通性を持つ手形や小切手あるいは株式などの有価証券
とは本質的に異なるものとみなければならない。
 そうだとすれば、刑法一九七条ノ五によつて被告人らが本件ゴルフクラブの会員
権を収受したことにより得た利益を剥奪するためには、その収賄の対象となつた会
員権が前記のように会員の会社に対する債権契約上の地位であつて、それ自体を没
収することはできないので、これを収受した時点におけるその価格の全額、すなわ
ち被告人Aについては会員権買取価格一七〇万円及び名義書替料三〇万円合計二〇
〇万円、被告人Bについては会員権買取価格二〇〇万円及び名義書替料三〇万円合
計二三〇万円に相当する各金員を被告人らからそれぞれ追徴すべきものであり、本
件各入会保証金預託証書が右会員権の一部としての入会保証金返還請求権を化体し
ているものとして被告人らからこれを没収するとともに、会員権の収賄時における
価格相当額から右各証書の額面金額を控除し、その差額金だけを被告人らから追徴
するにとどめた原判決は、被告人らが収受した賄賂の性質を誤解し、そのため刑法
一九七条ノ五の規定の適用を誤つたものというべく、これが判決に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから、破棄を免れず、検察官の論旨は理由がある。他方、本件各
入会保証金預託証書が会員権のすべてを化体しているとして同証書の没収のみにと
どめるべく追徴は許されないと主張する前記弁護人の論旨は理由がない。
 そこで刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により被告人らに対する原判決をいず
れも破棄し、同法四〇〇条但書に従いさらに判決することとし、各原判決の認定し
た事実に被告人Aについては刑法一九七条一項前段、二五条一項、一九七条ノ五後
段を、被告人Bについては同法一九七条一項前段、四五条前段、四七条本文、一〇
条(原判示第一の罪の刑に併合加重)、二五条一項、一九七条ノ五前段、同後段を
適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河村澄夫 裁判官 村田晃 裁判官 長崎裕次)

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