弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人馬淵分也の上告趣意第一点及び第二点について。
 本件は、第一審判決に対して控訴をしないで、直ちに上告をした所謂飛躍上告事
件であるが、論旨第一点は、原判決は、被告人の自白を唯一の証拠として判示事実
を認定したものであるから、憲法第三八条、刑訴応急措置法第一〇条第三項に違反
するものであるというのであり、同第二点は、原審において被告人の唯一の証拠申
出を却下したのは、憲法第三七条に違反するものであり、且同第三八条第三項違反
ともなるというのであつて、結局原審の訴訟手続違背を非難することに帰着するの
であるが、所謂飛躍上告のできる場合は、判決により定りたる被告事件に事実につ
き法令を適用せず、又は不当に法令を適用したことを理由とする場合と、判決あり
たる後、刑の廃止若し<は変更又は大赦ありたることを理由とする場合とに限られ
ていることは、刑事訴訟法第四一六条により明らかである。
 しかるに本論旨は右何れの場合にも当らないものであることは、論旨自体により
明白であるから、適法の飛躍上告の理由とならない。
 第三点及び第四点について。
 所論の如く裁判所は、法令に対する憲法審査権を有し、若しある法令の全部又は
一部か、憲法に適しないと認めるときはこれを無効として其適用を拒否することが
できると共に、有罪の言渡をなすにはその理由において、必ず法令の適用を示すべ
き義務あるものであるから、当事者においてある法令か憲法に適合しない旨を主張
した場合に、裁判所が有罪判決の理由中に其法令の適用を挙示したときは、其法令
は憲法に適用するものであるとの判断を示したものに外ならないと見るを相当とす
る。従つて原審における所論の主張に対し、特に憲法に適合する旨の判断を積極的
に表明しなかつたとしても、所論の如く判断を示さない違法があるとは言い得ない。
論旨は理由がない。
 なお上告論旨第三点に、原審裁判所に提出した弁論要旨参照とあるのは原審の記
録に編綴されているのであつて上告趣意書として当裁判所に提出されたものではな
く、適法な上告趣意書の内容をなすものではないから、別に此点についての説示を
しない。そして食糧管理法は、憲法第二五条に違反するものでないことは、当裁判
所判例の示すところである(昭和二三年(れ)第二〇五号事件同二三年九月二九日
大法廷判決参照)。
 上告趣意第一点及び第二点についての理由に関し、裁判官真野毅の少数意見は、
次のとおりである。
 本件は、いわゆる飛躍上告事件である。刑訴第四一六条第一号によれば、「判決
により定りたる被告事件の事実に付、法令を適用せず、又は不当に法令を適用した
ることを理由とするとき」においては、区裁判所又は地方裁判所においてした第一
審の判決に対し控訴をしないで上告をすることができる。それは、第一審裁判所が
認定した事実そのものについては別段異議はないが、ただその事実に対して適用す
べき法令を適用しなかつたとか、又は適用すべからざる法令を不当に適用したとか
についてのみ異議があることがある。かかる場合には、単に法令の適用の当否だけ
を争うのであるから、控訴審の一段階を飛び越えて直ちに法律審である上告裁判所
え上告してその法律判断を受け得ることの方が、当事者の便宜から言つても、訴訟
経済の上から言つても、好ましく適当であると言わなければならなぬ。これが、前
記法条で飛躍上告の認められている立法趣旨である。されば、この飛躍上告の上告
理由は、本質上法令適用の当否の点だけに限定せらるべきであつて、事実関係は確
定不動のものとして争うことを許されないのである。所論は、前記法条に「被告事
件の事実に付不当に法令を適用したること」とある中には、「被告事件の事実認定
につき不当に法令を適用したること」をも含むものと解したもののごとくである。
成程法文を形において卒然として読めば、さように読み違い易い点がないこともな
い。他にも時々同じ様な事例が起る。しかし、これはその立法趣旨を理解しないこ
とに基くものであつて、その誤りであることはまさに前述のとおりである。だから、
論旨のように、事実認定又はその前提たる証拠の取捨若しくは証人申請の却下に対
する非難攻撃を加えることは、何れも飛躍上告適法の理由とはならない。(多数説
は、単に論旨が、刑訴第四一六条に掲げる何れの場合にも当らない、というだけの
理由を述べているに過ぎない。これは、間違つてはいないが、あまりにも漠然とし
た一般的、抽象的な判示の仕方であつて、焦点がピツタリ論旨に合つていない感が
する。判決は、特殊的、具体的な上告趣意を対象とする判断であるから、当然の帰
結として十分特殊性、具体性をそなえた的確な判示をすることが、正しく、厳しい
判決態度―これは従来あまり論ぜられていないが非常に根本的な重大な問題である
―であらねばならぬ、とわたくしは平素から確信している。たまたまこの機会に少
数意見に託して所懐の一端を述べたまでのことである。)
 よつて刑事訴訟法第四四六条により、主文の通り判決する。
 以上は理由に関する少数意見を除き、裁判官全員一致の意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与。
  昭和二三年一二月一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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