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裁判例


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主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1平成22年7月11日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選
挙区における選挙を無効とする。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,東京都選挙区の選挙人である原告らにおいて,平成18年法律第5
2号によって改正された公職選挙法(昭和25年法律第100号)14条,別
表第三及び同法附則による選挙区及び議員定数の規定(以下「本件定数配分規
定」という。)に基づいて,平成22年7月11日に実施された第22回参議
院議員通常選挙における参議院(選挙区選出)議員選挙(以下「本件選挙」と
いう。)について,本件定数配分規定が,人口分布に比例した配分をしておら
ず,憲法が規定する代表民主制,その基礎となる公正な代表を選出する契機で
ある選挙権の平等の保障に反し,憲法14条,44条等に違反して無効である
から,本件定数配分規定に基づき実施された本件選挙は無効であると主張し,
公職選挙法204条に基づき,東京都選挙区における本件選挙の無効確認を求
める事案である。
2前提事実(末尾に証拠が掲記されていない事実は争いがない事実である。)
(1)原告らは,平成22年7月11日に実施された本件選挙の東京都選挙区の
選挙人である。
(2)本件選挙は,平成18年法律第52号(平成18年6月1日成立,同月7
日公布)によって改正された公職選挙法の本件定数配分規定による選挙区及
び議員定数の定めに従って実施された。
(3)平成17年国勢調査人口を基に,選挙区の人口の多い順に47都道府県を
並べ替えると,別紙1のとおりとなる。東京都選挙区は,選挙区人口が47
選挙区中最大であり,法定議員定数は10人である。
また,本件選挙の選挙当日における議員1人当たりの有権者数について,
その多い順に都道府県を並べると,別紙2のとおりとなる。
(4)参議院の議員定数について,最高裁判所平成16年1月14日大法廷判決
(民集58巻1号56頁,以下「平成16年判決」という。)においては,
「今後も続くであろう人口の大都市集中化により,最大較差が拡大していく
のは避けられない傾向にあることを思えば,立法府としては,投票価値の平
等の重要性にかんがみ,制度の枠組み自体の改正をも視野に入れた抜本的な
検討をしておく必要がある。」との追加補足意見が述べられていたところ,
最高裁判所平成18年10月4日大法廷判決(民集60巻8号2696頁,
以下「平成18年判決」という。)において,「投票価値の平等の重要性を
考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く中で,これま
での制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の
較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそう」と付
言し,最高裁判所平成21年9月30日大法廷判決(民集63巻7号152
0頁,以下「平成21年判決」という。)の多数意見においては,「本件改
正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は,投票価値の平等
という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,選挙区間におけ
る選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわ
ざるを得ない。ただ,…専門委員会の報告書に表れた意見にもあるとおり,
現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置
によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行
おうとすれば現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定
できない。このような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏まえ
た高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に
相応の時間を要することは認めざるを得ないが,国民の意思を適正に反映す
る選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請である
ことにかんがみると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を
十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれる。」と付言するに至
った。
(5)参議院は,平成18年法律第52号による公職選挙法改正(以下「本件改
正」という。)の後,平成19年7月29日に施行された参議院通常選挙後
である同年11月30日,参議院議長の諮問機関として参議院改革協議会を
設置し,同協議会は,同年12月から平成21年11月までに7回の協議を
行った。同協議会には,平成20年6月9日,選挙制度に係る専門委員会(以
下「本件委員会」という。)が設けられ,本件委員会は,平成22年5月1
4日,6回の協議を重ねたとして参議院改革協議会に対し報告書(以下「本
件報告書」という。)を提出し,これを受けた参議院改革協議会は,同月2
1日,参議院議長に対する報告を行った(甲40,乙3)。
3争点及び争点に関する当事者の主張
(原告らの主張)
(1)選挙権の平等の憲法上の保障と人口比例配分原則
憲法は,代表民主制を採用し,公務員の選定罷免権を国民固有の権利とし
(憲法15条1項),普通選挙(同条3項),平等選挙(憲法14条1項,
44条ただし書)を保障している。そして,普通選挙制度,平等選挙制度の
発展の歴史的経過からすると,選挙権の憲法的保障は,国民の人種,信条,
性別,社会的身分,門地,その他具体的能力,資質及び居住地域の差異にか
かわらず,形式的に1人に1票の保障を要請し,かつ,その選挙権の内容に
おいても等価性(1票の等価性)の保障を要求するものである。このような
1人1票かつ1票等価に基づく選挙権の憲法的保障の要請は,国会が選挙区
制を有する選挙制度を採用する場合には,各選挙区から選出される代表者(議
員)の数を人口分布に比例させるよう国会の立法権限を覊束する。
(2)議員定数の不平等の判断基準(較差論に対する批判)
議員定数の不平等の判断基準として,一般には,各選挙区における議員1
人当たりの人口数ないし有権者数の最大と最小の数値を比較して,その倍率
で表される「較差」が何倍以下であれば不平等とはいえず,合憲であるとの
考え方が用いられている。原告らは,不平等であるか否かの判定基準として,
このような較差を使っていないし,少なくともそれを強調するものではない。
このような較差は,議員1人当たりの人数が最少の選挙区と最大の選挙区の
2つの選挙区を比較する方法であり,その手法には,その他の選挙区につい
ていかなる不平等その他の問題が生じていても,それを無視することになる
からである。
最大較差を比較するという手法から生じる問題の例を挙げると,別紙1は,
選挙区人口と「必要人数」(全国人口を参議院選挙区選出議員総数146で
除した数を基準人数とし,この基準人数に法定議員数を乗じた人数)との差
を過不足人数として表し,選挙区人口(現実のもの)と必要人数(あるべき
もの)との乖離の程度を明らかにしたものであるところ,この過不足人数の
数値が正であるときは,選挙区人口が必要人数を上回っており,当該選挙区
においては,法定された数の議員によっては代表されていない人口集団が存
在すること(以下「代表の欠缺」という。)を意味し,反対に,過不足人数
の数値が負であるときは,当該選挙区において法定された数の議員により過
剰に代表されている人口集団が存在すること(以下「過剰代表」という。)
を意味するが,最大較差を比較するという手法からは,これらの代表の欠缺,
代表の過剰の問題を無視することになり,人口の多い選挙区の配分議員定数
が人口の少ない選挙区の配分議員定数よりも少ないいわゆる逆転現象を無視
することにもなってしまうからである。
また,そもそもにおいて,公職選挙法の定数配分規定に引き継がれた昭和
22年制定の参議院議員選挙法は,議員定数の配分方法として,最大剰余法
を採用していたのであり,このような定数配分方法こそが,投票価値の平等
を確保し,憲法14条1項に適合するものであって,本件改正において採用
された定数配分方法は同項に違反するものである。
そこで,原告らは,最大剰余法の配分基準である基準人数を用い,その過
不足人数,過不足議員数により憲法違反であるか否かを判断すべきであるこ
とを主張する。具体的には,法定配分が不平等であるか否かを検討する基準
として,まず,選挙区を人口順に並べて人口の多い選挙区の配分議員定数が
多く,人口の少ない選挙区の配分議員定数が少なくなっていることを検討し,
その結果,人口の多い選挙区に人口の少ない選挙区よりも多くの議員が配分
されていれば,最低限の人口比例配分がされているといえるが,ここにもし
逆転現象があれば,それは人口比例配分原則に違反する配分であるから,こ
のような配分は違憲である。そして,逆転現象がない場合には,さらに前記
のような代表の欠缺や過剰代表が生じていないかを検討し,そのような現象
があれば,議員定数の配分規定を違憲とすべきである。
(3)東京都選挙区等における違憲状況
本件定数配分規定の不平等の有無について,上記(2)において主張した基準
により検討すると,別紙1から明らかなように,本件定数配分規定は,人口
分布に比例した議員定数の配分をしていないことが明らかであり,原告らが
選挙人となった東京都選挙区を見ると,その法定議員定数は10人であり,
基準人数は87万5123人であるから,これに東京都選挙区の法定議員定
数10人を乗じた875万1232人が本来この10人によって代表される
べき人口(必要人数)である。しかるに,現実には,東京都の選挙区人口は
1257万6601人であり,これらが前記10人によって代表され,選挙
区人口と必要人数の差である382万5369人分については,これを適正
に代表する者が存在しない状態(代表の欠缺)が生じている。この代表する
者を持たない人口382万5369人に対し,これを代表する適正な数の議
員定数を配分しようとすれば,さらに4.3712人の定数を追加配分する
必要がある。また,選挙区人口が47選挙区中2番目に多い大阪府選挙区を
見ると,その法定議員定数は6人であり,基準人数は87万5123人であ
るから,これに大阪府選挙区の法定議員定数6人を乗じた525万0739
人が本来この6人によって代表されるべき人口(必要人数)である。しかる
に,現実には,大阪府の選挙区人口は881万7166人であり,これらが
前記6人によって代表され,選挙区人口と必要人数の差である356万64
27人分については,これを適正に代表する者が存在しない状態(代表の欠
缺)が生じている。この代表する者を持たない人口356万6427人に対
し,これを代表する適正な数の議員定数を配分しようとすれば,さらに4.
0753人の定数を追加配分する必要がある。さらに,選挙区人口が47選
挙区中3番目に多い神奈川県選挙区を見ると,その法定議員定数は6人であ
り,基準人数は87万5123人であるから,これに神奈川県選挙区の法定
議員定数6人を乗じた525万0739人が本来この6人によって代表され
るべき人口(必要人数)である。しかるに,現実には,神奈川県の選挙区人
口は879万1597人であり,これらが前記6人によって代表され,選挙
区人口と必要人数の差である354万0858人分については,これを適正
に代表する者が存在しない状態(代表の欠缺)が生じている。この代表する
者を持たない人口354万0858人に対し,これを代表する適正な数の議
員定数を配分しようとすれば,さらに4.0461人の定数を追加配分する
必要がある。
このような状態は,憲法が規定する代議制民主主義(憲法前文,1条,4
3条1項)及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平
等の保障(15条1項,14条1項,44条ただし書)に反する議員定数の
配分となっており,違憲である。
(4)参議院における法改正の動き
参議院における本件委員会の協議経緯を見ると,選挙制度改革に対する実
質的な協議は,平成21年判決の言渡しから5か月を経過した平成22年2
月になってからであると思われ,最高裁判所が平成16年判決により選挙制
度の枠組み自体の改正の必要性を示唆し,平成18年判決ではそれがより明
確に述べられたにもかかわらず,参議院の動きは鈍く,本件改正も,平成1
9年の選挙に向けての当面の是正策としていわゆる4増4減を定めたにすぎ
ず,抜本的解決ではない。これでは,選挙の度に改革に着手していたが,そ
の完成にはなお時間が必要であるとの言い訳を繰り返し,改革のポーズを取
っているにすぎないとの批判を受けて当然である。そして,本件報告書にお
いても,本件選挙についても定数較差の是正は早々に見送られ,本件選挙後,
改めて専門委員会を立ち上げ,改正案の検討に着手するとしており,これも
従前の経過からすれば,本件選挙について提起されるであろうことが予想さ
れた本件訴訟において,違憲判決を免れるためだけの改革のポーズを示した
ものと評価せざるを得ない。現在までの立法府の取組みは,無為の裡に漫然
と現在の状況が維持されたままと評価せざるを得ず,国会の義務に適った裁
量権の行使がされていないものとして違憲判断がされるべきである。
なお,参議院においても,最高裁判所と同様,定数較差の是正のみが課題
であると捉えられている感があるが,原告らが求めているのは,人口に比例
した議席の配分であり,単なる較差の是正にとどまるものではない。東京都
選挙区等のような顕著な代表の欠缺状態が解消されないのは,選挙区選挙が
3年ごとに行われるべきことを理由に,各都道府県に最低2人の定数を配分
していることによるのであり,それは,逆に言えば,都道府県を単位とする
選挙区割による定数配分自体に既に限界が生じていることを示すものであっ
て,国会においては,従前のような選挙区間での場当たり的な増減ではなく,
抜本的な改正をすべきである。
(5)結語
以上のとおり,本件定数配分規定は,参議院議員の定数を各選挙区の人口
に比例して配分しておらず,合理的な根拠なしに選挙区いかんにより選挙権
の価値に不平等を生じさせており,このような状態は,憲法前文,13条,
14条1項,15条1項,44条ただし書,47条に違反し,憲法98条1
項,99条により無効な立法である。
よって,違憲無効な議員定数の配分を定めている本件定数配分規定に基づ
いて実施された本件選挙は無効である。
(被告の主張)
(1)参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の合憲性審査基準
憲法は,選挙権の内容の平等として,議員の選出における各選挙人の投票
の有する影響力の平等(投票価値の平等)を要求しているが,同時に,どの
ような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるこ
とになるのかについての決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投
票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるもの
ではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政
策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を
是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲
歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
そして,参議院議員の選挙制度は,全都道府県の区域を通じて選出される
比例代表選出議員と,都道府県を選挙区の単位として選挙区における議員定
数の最小限を2人として偶数の議員数を配分する選挙区選出議員とに区分す
る仕組みを採用しているが,これは,二院制を採用し,参議院議員は3年ご
とにその半数を改選する旨を定めた憲法42条及び46条の趣旨に基づくの
であり,平成21年判決も,「参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二
院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独自の要素を持たせようとし
たこと,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実
体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法4
6条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしてい
ること等に照らし,相応の合理性を有するものであり,国会の有する裁量権
の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない」とする。
その上で,平成21年判決は,「社会的,経済的変化の激しい時代にあっ
て不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組み
に反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要する
ものであって,その決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているもので
ある。しかしながら,人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,
かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講
じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議
員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。」と
判示し,このような判断枠組みは,最高裁判所昭和58年4月27日大法廷
判決(民集37巻3号345頁,以下「昭和58年判決」という。)以降の
参議院(地方選出ないし選挙区選出)議員選挙に関する累次の大法廷判決の
趣旨とするところであり,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は
認められないと宣明している。
(2)本件選挙における最大較差の状況とその合憲性
公職選挙法の本件改正により,選挙区選出議員の参議院議員の定数は4選
挙区で4増4減され,平成17年国勢調査による選挙区間の議員1人当たり
の人口の最大較差は,1対4.84,本件選挙が実施された平成22年7月
11日時点における選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差
は1対5.004(以下,概数である5.00と表記する。これを含めて最
大較差に関する数値はすべて概数である。)であった。
そして,この1対5.00という最大較差は,かねて参議院(選挙区選出)
議員の議員定数配分規定について最高裁判所が違憲状態にないと判断した最
大較差(昭和58年判決による1対5.26,昭和61年3月27日第1小
法廷判決(裁判集民事147号431頁)による1対5.37,昭和62年
9月24日第1小法廷判決(裁判集民事151号711頁)による1対5.
56,昭和63年10月21日第2小法廷判決(裁判集民事155号65頁)
による1対5.85)や,憲法に違反するに至っていたものとすることがで
きないと判断した最大較差(平成16年判決による1対5.06,平成18
年判決による1対5.13)を下回るものである。
また,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替
える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えるこ
とは困難であるとされ,平成21年判決も,「現行の選挙制度の仕組みを維
持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の
大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば現行の選挙制度
の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直し
を行うについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要
であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認
めざるを得ない」と判示しており,現行の選挙制度の仕組みの下で,選挙区
間における議員1人当たりの選挙人数の較差の是正を図ることは容易でな
く,選挙制度の仕組み自体を見直すこともまた容易でない。
なお,本件選挙当時においても,いわゆる逆転現象は生じていない。
このように見ると,本件選挙当時において,本件定数配分規定につき,投
票価値の平等に照らして到底看過することができないと認められる程度の著
しい不平等状態が生じていたとは認められない。
(3)著しい不平等状態が相当期間継続していたとはいえないこと
仮に,本件定数配分規定について著しい不平等状態を生じさせるに至って
いたという見方があり得るとしても,そのことから直ちに,本件定数配分規
定が憲法に違反することになるものではなく,それが相当期間継続している
にもかかわらず,これを是正する何らの措置も講じないことが,複雑かつ高
度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係
るものであることを考慮した上で,その許される限界を超えると判断される
場合に,初めて本件定数配分規定が憲法に違反することになると解すべきで
ある。
選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が上述した数値程
度でも違憲状態にあるとした最高裁判所の判決はこれまでに存在しないこ
と,参議院議員の定数の配分を衆議院議員のそれよりも長期にわたって固定
することも合理的な立法政策であること,最大較差が到底看過することがで
きないと認められる程度に達したかどうかの判定は,国会の裁量的権限の限
界に関わる困難な問題であり,かつ,現行の選挙制度の仕組み自体の見直し
を含めどのような形で改正するかについても種々の政策的又は技術的な考慮
要素を背景とした議論を経る必要があること,実際にも,本件改正後も,前
提事実(5)のとおり,国会は現行の選挙制度の見直しを含めて投票価値の較差
をより縮小するための検討を継続しているところ,選挙制度の見直しを行う
については,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,
事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要するものであるが,本
件改正(平成18年6月1日成立,同月7日公布)から本件選挙までの期間
は4年余りにとどまり,違憲状態である「著しい不平等状態」とは区別され
た「大きな不平等が存する状態」があるとした平成21年判決の言渡しから
も約10か月の期間しかなかったことなどからすると,本件定数配分規定に
つき,著しい不平等状態が許されない程度に継続し,それが国会の裁量的権
限の許される限界を超えると判断されるような場合には当たらないことは明
らかである。
なお,本件委員会の検討過程では,本件選挙に先立っての定数是正を行う
か否かについても議論されたが,現行の選挙制度を前提として選挙区の定数
を増減する従来の改革方法では,定数較差是正の効果は限定的であり,定数
較差是正の議論は,参議院の選挙制度の見直しと併せて行うべきで,それに
は時間がかかること,本件改正による4増4減の公職選挙法改正は,平成1
9年の選挙及び本件選挙で完了すること,本件選挙について,定数較差是正
を行うこととすると,法改正から選挙実施までの周知期間が短いことなどを
踏まえて,本件選挙について,定数較差是正は見送り,平成25年通常選挙
に向け選挙制度の見直しを行うこととなっている。
第3当裁判所の判断
1参議院及びその選挙制度並びに議員定数配分規定の合憲性審査基準
憲法は,国会を衆議院及び参議院の両議院により構成するものとし(憲法4
2条),両議院の権限については,内閣不信任決議の権限(憲法69条)に加
え,法律案の再議決,予算の先議権,条約の承認,内閣総理大臣の指名に関す
る優越といった一定範囲での差異を設けるとともに(憲法59条2項,60条,
61条,67条2項),両議院の議員の任期につき,衆議院議員の任期を4年
とし(憲法45条),解散の制度(憲法69条,7条3号)を設けるのに対し,
参議院議員の任期を6年とし,3年ごとに議員の半数を改選する(憲法46条)
だけでなく,解散の制度も存在しないといった差異を設けている。憲法が,こ
のような差異を設けている趣旨は,衆議院と参議院とがそれぞれ特色ある機能
を発揮することによって,国会を国民の利害や意見を公正かつ効果的に代表す
ることのできる機関としようとすることにある(平成21年判決参照)。
しかし,衆議院及び参議院の両院は,いずれも全国民を代表する選挙された
議員で構成され(憲法43条1項),両議院の権限も,上記のとおり一定の事
項については衆議院の優越が認められているとはいえ,参議院もなお主権者で
ある国民の権利義務に多大な影響を与え得る地位を有しているのであり,衆議
院議員を選挙により選出することと参議院議員を選挙により選出することとの
間に,その重要さにおいて質的に大きな差異があるものとは考えがたい。そし
て,両議院の選挙については,憲法は,国民主権の原理に基づき,両議院の議
員選挙において投票することによって国の政治に参加することができる権利を
国民に対しその固有の権利として保障しており,その趣旨を確たるものとする
ため,国民に対し投票する機会を平等に保障し(憲法15条1項,3項。最高
裁判所平成17年9月14日大法廷判決(民集59巻7号2087頁参照)),
そこでは,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の
投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等をも要求していると解さ
れる(憲法14条1項。昭和58年判決等参照)。
とはいえ,憲法は,議員の定数,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の
選挙に関する事項は法律で定めることとし(憲法43条2項,47条),どの
ような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させること
になるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等
は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議
院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理
由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具
体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである
限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることにな
っても,憲法に違反するとはいえない(平成21年判決参照)。すなわち,一
般に,憲法の平等原則に違反するかどうかは,その不平等が合理的根拠,理由
を有するものかどうかによって判定すべきであると考えられているが,投票価
値の平等についても,基本的には同様の考え方が妥当すると考えられるところ,
投票価値の較差については,その限度を2倍とする見解が有力であり,原告ら
もそのように主張するところであるが,2倍に達しない較差であっても,これ
を合理化できる理由が存在しないならば違憲となり得る反面,例えば二院制の
在り方等からする十分な理由があれば,2倍を超える較差が合理的裁量の範囲
内とされることもあり得ると考えられるから,投票価値の較差の限度を2倍と
する数値は理論的に絶対的な基準となるとまではいえない。
そうすると,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の
変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問
題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,
基本的に国会の裁量にゆだねられているものであるとはいえ,人口の変動の結
果,上記の参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策
的目的ないし理由との関連において見るとしても,投票価値の著しい不平等状
態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する
措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,
当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である
(平成21年判決を含む昭和58年判決以降の参議院(地方選出ないし選挙区
選出)議員選挙に関する累次の最高裁判所大法廷判決参照)。そして,投票価
値の著しい不平等状態が生じているかについては,議員定数配分規定の全体を
不可分一体のものとしてその効力の有無が判断されてきており,そのような形
で判断する以上,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差だけでなく,
いわゆる逆転現象の存否等の状況も判断要素に加味することが相当である。
なお,以上の考察によれば,最大剰余法による定数配分を行われていない限
り,本件定数配分規定が違憲になるとする原告らの主張は,採用することがで
きない。
2参議院議員の選挙制度の仕組みとその変遷
前提事実,証拠(甲3ないし6,31の(1)ないし(5),34,40,乙3)
及び弁論の全趣旨によれば,参議院議員の選挙制度の仕組みとその変遷につい
て次のとおりに認められる。
(1)参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙につ
いて,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人
とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出され
るものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区にお
ける議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出され
るものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数と
してその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,
各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。
昭和25年に制定された公職選挙法における参議院の議員定数配分規定
は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配
分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖縄県
選挙区の議員定数2人が付加された外は,平成6年法律第47号による議員
定数配分規定の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記定数配分
規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の
改正により,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入
され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都
道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区
分されることになったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出さ
れるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の
全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が
変更されたものにすぎない。
(2)選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法
制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,すべて概数である。)
であったが,その後,次第に拡大した。平成6年改正は,平成4年7月26
日施行の参議院議員通常選挙当時には1対6.59にまで拡大していた選挙
区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われ
たものであり,前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加える
ことなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り
増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消するこ
ととして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(1
52人)を増減しないまま,7選挙区で議員定数を8増8減した。
上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における
議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小
し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。
その後,上記改正後の議員定数配分規定の下において平成7年7月23日
に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの
選挙人数の最大較差は,1対4.97であった。
(3)平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改
正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿
式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減され
て242人とされた。定数削減に当たっては,改正前の選挙区選出議員と比
例代表選出議員の定数比をできる限り維持する方針の下に,選挙区選出議員
の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減し
て96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年
10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆
転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又
は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少な
い3選挙区の定数を2人ずつ削減した。
上記改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果によ
る人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対
4.79であって,上記改正前と変わらなかった。
(4)平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月29
日に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成13年選挙」という。)当
時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対
5.06であった。平成16年判決は,その結論において,平成13年選挙
当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはで
きない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然
と現在の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する
裁判官4名による補足意見が付された。
平成16年判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,
「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,
平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙(以下「平成16年選挙」
という。)までの間に定数較差を是正することは困難であったため,同年6
月1日,同選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。これを受けて,平成
16年選挙後の同年12月1日,参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専
門委員会が設けられ,同委員会において,現行の選挙制度の仕組みを維持し
つつ,①較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのあ
る選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案,②4倍前半まで較
差の是正を図ることを考慮し,その選択肢として14増14減まで含めて検
討する案のほか,③較差を4倍未満とするため現行の選挙制度の仕組み自体
の見直しを検討する案など,各種の是正案が検討され,平成17年10月2
1日付け報告書(甲34。以下「前回報告書」という。)が作成されたが,
平成19年7月29日に施行される参議院議員通常選挙(以下「前回選挙」
という。)に向けての当面の是正策としては,上記の4増4減案が有力な意
見であるとされ,同案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18
年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した。この本件改正の結果,
平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における
議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。また,本件
改正により成立した本件定数配分規定の下で施行された前回選挙当時の選挙
区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,平成16年選挙にお
ける1対5.13を下回る1対4.86であった。
なお,前回報告書に表れた意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持
する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとし
ても,較差を1対4以内に抑えることは困難であるとされている。また,前
回報告書においては,本件選挙に向けての較差是正の後も,参議院の在り方
にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,定数較差の継続的な検証
等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされた。
(5)前回選挙について,平成21年判決は,その結論において,前回選挙当時,
本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない
旨判示したが,同時に,「本件改正の結果によっても残ることとなった上記
のような較差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存
する状態であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図るこ
とが求められる状況にあるといわざるを得ない。ただ,前回報告書に表れた
意見にもあるとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の
定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは
困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直し
が必要となることは否定できない。このような見直しを行うについては,参
議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上
課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが,国
民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平
等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに,投
票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望ま
れる。」旨を付言した。
平成21年判決以降も,参議院は参議院議員の選挙制度の抜本改革につい
て検討を行っており,参議院議長からの諮問を受けて参議院改革協議会の下
に設置された選挙制度に係る本件委員会は,定数是正も含めた参議院の組織
及び運営に関する諸問題について調査検討を行い,平成22年5月14日,
その結果をまとめた本件報告書(甲40,乙3)を参議院改革協議会に提出
し,同月21日には,同協議会から参議院議長に報告された。
本件委員会の検討過程では,本件選挙に先立っての定数是正を行うか否か
についても議論されたが,現行の選挙制度を前提に選挙区の定数を増減する
従来の改革方法では,定数較差是正の効果は限定的であり,定数較差是正の
議論は,参議院の選挙制度の見直しと併せて行うべきであるが,それには時
間がかかること,平成18年改正による4増4減の公職選挙法改正は,前回
選挙及び本件選挙で完了すること,本件選挙について,定数較差是正を行う
こととすると,法改正から選挙実施までの周知期間が短いことなどを踏まえ
て,本件選挙について,定数較差是正は見送り,平成25年通常選挙に向け
選挙制度の見直しを行うこととなった。
(6)本件選挙については,別紙2のとおり,本件選挙当時の選挙区間における
議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対5.00であり,いわゆる逆
転現象が生じた選挙区は存在しなかった。
3本件定数配分規定の合憲性についての判断
(1)現行の公職選挙法が採用する参議院議員の選挙制度の仕組みは,前記1及
び2で説示したところを総合すると,憲法が二院制を採用し参議院の実質的
内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたことを踏まえて,都道府県
が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政
治的まとまりを有する単位としてとらえ得ることから,国民の利害や意見を
公正かつ効果的に代表するための基盤である選挙区として措定するものであ
って,相応の合理性を有するものであり,憲法46条が参議院議員について
は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等を併せ考えると,
これらの要請を反映させた本件定数配分規定についても相応の合理性を有す
るものと認めることができる。
そこで,本件定数配分規定について,投票価値の平等という観点からも合
理性が肯定されるものであるかを検討するに,前記1で説示したとおり,人
口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかな
どの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,そ
の決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているものであるから,人口の
変動の結果,上記の参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができ
る他の政策的目的ないし理由との関連において見て,投票価値の著しい不平
等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是
正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場
合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相
当である。
そして,前記2(4)及び(6)において認定したとおり,参議院では,平成1
6年判決中の指摘を受け,当面の是正措置を講ずる必要があるとともに,そ
の後も定数較差の継続的な検証調査を進めていく必要があると認識し,こう
した認識の下に本件改正を行ったものであり,その結果,平成17年10月
実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの
人口の最大較差は,1対4.84に縮小することとなった。また,前回選挙
は,本件改正の約1年2か月後に本件定数配分規定の下で施行された初めて
の参議院議員通常選挙であり,前回選挙当時の選挙区間における議員1人当
たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であり,引き続き本件定数配分規
定の下で施行された本件選挙においては,選挙当時の選挙区間における議員
1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.00であったところ,この較差
は,本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で施行された平成16年選挙
当時の上記最大較差1対5.13に比べて縮小したものとなっている。また,
本件選挙においては,いわゆる逆転現象も生じていない。
このような最大較差1対5.00の状態をもっては,前記2において見た
国会が国民の負託を受けて公職選挙法の参議院議員の定数配分規定を改正し
てきた経緯や,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じているか
どうかについて最高裁判所が判断を重ねてきた経緯等にかんがみれば,現時
点において,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であるとまではい
えない。
(2)さらに,最大較差1対5.00の状態において投票価値の著しい不平等状
態が生じていると見ても,前回報告書に表れた意見にもあるとおり,現行の
選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置による
だけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうと
すれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定する
ことができず,このような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏
まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検
討に相応の時間を要することを認めざるを得ない。そして,①参議院では,
平成16年判決中の指摘を受けた後,上記のとおりの経緯で本件改正を行い,
その結果,本件選挙時においては,選挙区間における議員1人当たりの選挙
人数の最大較差は1対5.00であり,本件選挙においては,いわゆる逆転
現象も生じていなかったこと,②本件改正後に行われた前回選挙後の平成1
9年11月30日,参議院議長の諮問機関として参議院改革協議会を設置し,
同協議会は,同年12月から平成21年11月までに7回の協議を行い,平
成20年6月9日,その下に本件委員会が設けられ,本件委員会は,平成2
2年5月14日,6回の協議を重ねたとして参議院改革協議会に対し本件報
告書を提出し,これを受けた参議院改革協議会は,同月21日,参議院議長
に対する報告を行ったこと,③本件委員会の検討過程では,本件選挙に先立
っての定数是正を行うか否かについても議論されたが,現行の選挙制度を前
提に選挙区の定数を増減する従来の改革方法では,定数較差是正の効果は限
定的であり,定数較差是正の議論は,参議院の選挙制度の見直しと併せて行
うべきであるが,それには時間がかかること,平成18年改正による4増4
減の公職選挙法改正は,前回選挙及び本件選挙で完了すること,本件選挙に
ついて,定数較差是正を行うこととすると,法改正から選挙実施までの周知
期間が短いことなどを踏まえて,本件選挙について,定数較差是正は見送り,
平成25年通常選挙に向け選挙制度の見直しを行うこととなったことが認め
られる。
以上のような事情を考慮するすれば,本件選挙までの間に本件定数配分規
定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということ
もできない。
(3)しかしながら,本件改正の結果によっても残っている上記のような較差
は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であ
り,平成21年判決によって指摘されているとおり,選挙区間における選挙
人の投票価値の較差の縮小を図るとことが求められる状態にあるといわざる
を得ないところ,かえって,前回選挙から本件選挙の間に最大較差が拡大し
ている。国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投
票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,喫
緊の国民的な課題として,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏ま
えて,適切な検討が行われることが望まれる。
4小括
前記考慮したところによれば,本件選挙までに議員定数の不均衡を是正する
立法措置を講じなかったことをもって,本件定数配分規定が,本件選挙当時,
憲法に違反するに至っていたということはできない。
第4結論
以上によれば,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴
訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項を適
用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官岡久幸治
裁判官三代川俊一郎
裁判官佐々木宗啓

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