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平成九年(ワ)第二四七一一号損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日平成一一年一一月五日
判決
原告ノーザン・テレコム・リミテッド
右代表者【A】
右訴訟代理人弁護士奥 野 泰 久
同内 田 公 志
同西 村 光 治
同土 井 悦 生
右補佐人弁理士【B】
被告日本サムスン株式会社
右代表者代表取締役【C】
右訴訟代理人弁護士大 野 聖 二
同田 中 克 幸
同那 須 健 人
右補佐人弁理士【D】
同【E】
主文
一原告の請求をいずれも棄却する。
二訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一〇二億三七三九万二〇〇〇円及び、うち金一億九〇四
四万円に対する平成二年一月一日から、うち金二億三九二五万円に対する平成三年
一月一日から、うち金三億一七五八万円に対する平成四年一月一日から、うち金四
億六三四二万八〇〇〇円に対する平成五年一月一日から、うち金七億九四八八万円
に対する平成六年一月一日から、うち金一九億七四八二万二〇〇〇円に対する平成
七年一月一日から、うち金三五億八七〇四万円に対する平成八年一月一日から、う
ち金二六億六九九五万二〇〇〇円に対する平成九年一月一日から、各支払済みまで
年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一争いのない事実等
1原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲第1項
記載の発明を「本件発明」という。)を有していた。
特許番号第一二五七一七五号
発明の名称アルミニウムと酸化アルミニウムの気体エッチング方法
優先権主張一九七六年(昭和五一年)八月一六日
出願日昭和五二年八月二日
登録日昭和六〇年三月二九日
存続期間満了日平成九年八月二日
特許請求の範囲第1項
「酸化アルミニウムの表面層を有するアルミニウムの気体エッチング方法におい
て:
気体状三塩化ホウ素の存在中でプラズマエッチングすることによって、該酸化ア
ルミニウムの表面層を除去する最初の工程の後に、気体エッチングでアルミニウム
をエッチングすること
を含むことを特徴とする気体エッチング方法。」
2本件発明の構成要件は、次のとおりに分説できる。
A酸化アルミニウムの表面層を有するアルミニウムの気体エッチング方法に関す
るものであること。
B気体状三塩化ホウ素の存在中でプラズマエッチングすることによって、該酸化
アルミニウムの表面層を除去する最初の工程を含むこと。
C右Bの最初の工程の後に、気体エッチングでアルミニウムをエッチングするこ
とを含むこと。
3被告は、大韓民国法人三星電子株式会社(以下「サムソン」という。)の日本
における子会社であり、サムソンが製造した半導体製品を業として日本に輸入し販
売している。
二本件は、原告が、被告が輸入販売している半導体製品はサムソンが本件発明の
気体エッチング方法を使用して製造したものであるから、被告による右輸入販売は
本件特許権を侵害すると主張し、不法行為による損害賠償又は不当利得の返還(選
択的)として、前記第一(請求)記載の金員の支払を求める事案である。
第三争点及び当事者の主張
  一サムソンが半導体製品の製造工程において行っているアルミニウムのエッ
チング方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうか。
  1原告の主張
(一)サムソンは、半導体製品の製造工程において、別紙第一目録記載のとおりに
特定されるアルミニウムのエッチング方法(以下「原告主張方法」という。)を行
い、半導体製品を製造しているところ、原告主張方法は、本件発明の技術的範囲に
属する。
(二)本件発明の「プラズマエッチング」なる用語にイオンの物理的衝撃によるエ
ッチングを伴うエッチング方法を排除する意味がないことは、その文言上一義的に
明確である。また、本件特許権に係る特許出願(以下「本件特許出願」という。)
の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明に
は、本件発明の「プラズマエッチング」からイオンの衝突を伴う場合が排除される
ことを示す具体的な記載はなく、逆に「高周波電力がイオン衝撃によりフォトレジ
ストに打撃を与えない程十分に低いこと」等、イオンの衝突があることを前提とす
る記載がある。このように、本件発明の「プラズマエッチング」なる用語にイオン
の物理的衝撃によるエッチングを伴う場合のエッチング方法を排除する意味がない
ことは本件明細書の記載により一義的明確に解釈できるから、その解釈に当たり本
件特許出願の出願経過を参酌することは許されない。
(三)原告は、本件特許出願の審査過程において、「プラズマエッチング」の用語
を、イオンの衝突が伴う場合のエッチング方法を排除する趣旨で用いたことはない
から、出願経過を参酌したとしても、本件発明の「プラズマエッチング」からイオ
ンの衝突を伴う場合が排除されると解釈することは誤りである。
(四)本件特許出願について、特願昭五一・四〇九四三号(昭和五一年四月一三日
出願、昭和五二年一〇月一八日に特開昭五二・一二三九三八号公開特許公報により
公開)の最初の明細書に記載された発明(以下「富士通先願」という。)が先願と
しての地位を有しているとしても、富士通先願においては、エッチャントとして抽
象的にハロゲン化合物を指定し、発明の詳細な説明中において、ハロゲン化合物の
例示の末尾に三塩化ホウ素が見られるにすぎず、ハロゲン化合物の中における三塩
化ホウ素固有の作用効果は一切開示されていない。これに対し、本件発明は、従
来、アルミニウムをエッチングするのにプラズマエッチングもスパッタエッチング
も時間がかかり、商業的に可能でないと考えられていたのを、エッチャントとして
三塩化ホウ素を用いて酸化アルミニウムをエッチングすることにより、極めて早い
エッチングを可能にしたものであり、酸化アルミニウムのためのエッチャントとし
て特に三塩化ホウ素が優れた作用効果を有することを明らかにしたものである。
このように、本件発明と富士通先願とは、技術的課題、作用効果及び構成が全く
異なるから、富士通先願に、反応性スパッタエッチング(イオン衝突の物理的衝撃
によるエッチングと化学反応によるエッチングが併存している気体エッチング)に
おいてハロゲン化合物をエッチャントとする技術が開示されているからといって、
本件発明の「プラズマエッチング」がイオン衝突を伴う場合を排除することにはな
らない。
  2被告の主張
(一)サムソンが半導体製品の製造工程において原告主張方法を行っていることは
否認する。
サムソンが半導体製品の製造工程において行っているアルミニウムのエッチング
方法は、別紙第二目録(以下「被告目録」という。)記載のとおりに特定されるエ
ッチング方法(以下「被告主張方法」という。)である。
(二)本件発明の「プラズマエッチング」なる用語は、文言上、化学反応を利用し
たエッチング方法を意味するものと解釈され、イオンの衝突という物理的衝撃を利
用するスパッタエッチング(そのうち、物理的衝撃のみを利用し、化学反応を利用
しない場合を「狭義のスパッタエッチング」という。)とは明確に区別される。ま
た、本件明細書には「高周波電力がイオンの衝撃によりフォトレジストに打撃を与
えない程十分に低いこと」との記載があり、これによると、本件発明の「プラズマ
エッチング」からは、イオンの物理的衝撃を利用したエッチング方法が明確に排除
されているといえる。
このような「プラズマエッチング」の用語の解釈は、特許出願人である原告が、
本件特許出願の審査過程において、狭義のスパッタエッチング及び反応性スパッタ
エッチングとプラズマエッチングとは、イオンの衝突を伴うか否かという基準によ
り明確に区別されると主張していたことからも基礎付けられる。
さらに、本件特許権に関しては、富士通先願が先願としての地位を有していると
ころ、富士通先願には、反応性ガスを使用したスパッタエッチング(反応性スパッ
タエッチング)が開示されており、また、その公開特許公報には、不活性ガス(反
応しにくい気体)を利用した高周波スパッタエッチング(狭義のスパッタエッチン
グ)が従来技術として述べられている。後願である本件特許権が先願である富士通
先願の権利範囲に属する技術や公知技術を含むことはあり得ないから、本件発明の
「プラズマエッチング」には、狭義のスパッタエッチング及び反応性スパッタエッ
チングは含まれないというべきである。
以上のとおり、本件発明の「プラズマエッチング」は、イオンの衝突という物理
的衝撃を利用しない純然たる化学反応を利用したエッチング方法を意味し、狭義の
スパッタエッチング及び反応性スパッタエッチングというイオンの物理的衝撃を利
用するエッチング方法は右の「プラズマエッチング」に含まれないと解釈される。
(三)被告主張方法は、イオンの衝突という物理的衝撃を利用して酸化アルミニウ
ムをエッチングする方法であるから本件発明の技術的範囲に属さない。
(四)また、仮にサムソンが原告主張方法を行っているとしても、原告主張方法に
おける酸化アルミニウムのエッチング方法は、イオンの衝突という物理的衝撃によ
るエッチングと化学反応によるエッチングが併存する反応性スパッタエッチングで
あるから、サムソンが行っているアルミニウムのエッチング方法は、本件発明の
「プラズマエッチング」には当たらず、したがって、本件発明の技術的範囲に属さ
ない。
二本件発明が「物を生産する方法の発明」であるかどうか。
1原告の主張
本件発明は、半導体デバイスないし装置を生産する方法の発明である。
発明が物を生産する方法の発明であるためには、その実質が物を生産する方法の
発明であることが必要であり、かつそれで十分であって、特許請求の範囲に生産物
が記載されていることは必ずしも必要でない。
本件明細書には「本発明は、・・・半導体デバイスの製造の際に・・・エッチン
グする方法に関する」と明記され、本件発明は、もっぱら半導体装置の製造工程に
おいて用いられている。
したがって、本件発明は、物を生産する方法の発明であるから、本件発明を使用
して生産された物を輸入販売する行為は、本件発明の実施に当たる。
2被告の主張
方法の発明には、いわゆる単純方法の発明と物を生産する方法の発明があるが、
特許請求の範囲の記載について、「物を生産する方法の発明」では、「原材料、生
産工程、生産条件(化合物、組成物の製造法の発明のときは、温度、圧力、時間な
ど)、生産物を順を追って記載する。」とされているのに対し、単純方法の発明で
は、「加工、処理、操作の条件及びそれに関連する物を記載する。」とされてい
る。
本件明細書の特許請求の範囲には、プラズマエッチング方法という処理方法とそ
れに関連する物質が記載されているだけであるから、本件発明は、物を生産する方
法の発明ではなく、単純方法の発明である。
単純方法の発明は、その方法を我が国で使用する行為のみが発明の実施に当た
り、外国で本件発明を使用して生産された物を輸入販売する行為は、本件発明の実
施に当たらない。
三原告の損害額(被告の不当利得額)
1原告の主張
(一)被告は、原告主張方法を用いて製造された半導体製品を輸入し、販売してい
るところ、その販売額は次の金額を下回らない。
期間販売額(百万円)
平成元年六、三四八
平成二年七、九七五
平成三年一〇、五八六
平成四年一五、四四七・六
平成五年二六、四九六
平成六年六五、八二七・四
平成七年一一九、五六八
平成八年八八、九九八・四
合計三四一、二四六・四
(二)本件発明の実施料は、右販売額の三パーセントを下回らないから、被告は原
告に対し、少なくとも次の実施料相当額の損害賠償義務がある。
期間実施料相当額(千円)
平成元年一九〇、四四〇
平成二年二三九、二五〇
平成三年三一七、五八〇
平成四年四六三、四二八
平成五年七九四、八八〇
平成六年一、九七四、八二二
平成七年三、五八七、〇四〇
平成八年二、六六九、九五二
合計一〇、二三七、三九二
(三)被告は、原告主張方法を使用して製造された半導体製品の輸入販売により、
右(二)の実施料相当額の利得を法律上の原因なくして得ており、原告は同額の損失
を被った。被告の右利得と原告の右損失の間には因果関係がある。
四消滅時効の成否
1被告の主張
被告は、遅くとも平成五年までに、原告のライセンシーであった三洋電機株式会
社から本件特許権の侵害についての警告を受けており、本訴提起の日である平成九
年一一月一八日より三年以上前の不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消
滅している。
被告は、右時効を援用する。
2原告の主張
原告の主張を争う。
第四当裁判所の判断
一争点一について
1証拠(甲二の一ないし三、甲五、二一、乙四ないし七、九ないし一二)と弁論
の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(一)一般的な技術文献である「絵でわかる半導体とIC」のドライエッチングの
項に、「ドライエッチングには、プラズマエッチング、スパッタエッチング、反応
性イオンエッチングの三種類があります。」との記載に続き、プラズマエッチング
について、「プラズマエッチングは、反応しやすい気体をプラズマでイオンにし
て、エッチングしたい材料と化学反応を起こさせて気体とともに除去する方法で
す。」、スパッタエッチングについて、「スパッタエッチングは、不活性ガス(反
応しにくい気体)をイオンにして試料に衝突させ、その衝撃でエッチング部分を物
理的に削り取る方法です。」、反応性イオンエッチングについて、「反応性イオン
エッチングは、RIE(ReactiveIonEtching)といわれ、プラズマエッチングとス
パッタエッチングの中間の性質をもちます。反応性の気体と、不活性の気体を合わ
せてエッチングに使います。」と記載されている。
(二)一般的な技術文献である「薄膜作製応用ハンドブック」のプラズマエッチン
グの項に、「ドライエッチングといえばプラズマエッチングのことをいうぐらい、
プラズマエッチングは加工ではなじみのある技術となっている。反応はプラズマに
よる分解生成された活性な分子(注:物理化学的な厳密な定義からは離れるが、化
学的に活性であることから、ラジカルと一般にいわれている)による化学的効果と
基板表面に形成されるイオン・シースで加速されたイオンによる物理的効果とその
相乗効果によっている。」と記載されている。
(三)本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
(1)「プラズマエッチングにおいて、エッチング用気体分子は高周波プラズマ中で
分解されて加工物と反応する化学的に活性の基になる。エッチングが生じ、そして
反応生成物が揮発性であるならば、反応は反応物の一つ又はそれぞれ以上が完全に
除去されるまで続く。」(特許公報(甲二の一)3欄一九行ないし二四行)
(2)「プラズマのパラメータの拘束条件は、高周波電力がイオン衝撃によりフォト
レジストに打撃を与えない程十分に低いこと、」(同公報5欄二一行ないし二四
行)
(3)「BCl3を選択したのは次の仮定に基づいている。すなわち、プラズマ中にお
いてBCl3はBCl2とCl基に分離し、BCl2は多分揮発性塩素酸を経由してAl2O3を
除去する強い還元剤であり、Clは揮発性AlCl3を経由してアルミニウムエッチング
のために利用できるという仮定である。」(同公報5欄四四行ないし6欄六行)
(四)本件明細書には本件発明の「プラズマエッチング」の用語を直接定義した記
載はない。
(五)本件特許権の出願経過は次のとおりである。
(1)原告は、昭和五二年八月二日、本件特許出願を行い、本件特許出願は、昭和五
七年九月二七日、出願公告された。特許請求の範囲第1項は、「最初の工程で気体
状三ハロゲン化物の存在中でプラズマエッチングすることを特徴とするアルミニウ
ムと酸化アルミニウムの気体エッチング方法。」というものであった。
(2)これに対して、富士通株式会社は、同年一一月二七日、本件特許出願に係る発
明は昭和五一年四月一三日に同社が出願し、昭和五二年一〇月一八日、特開昭五二
・一二三九三八号公開特許公報により出願公開された富士通先願と実質的に同一で
あるから特許法二九条の二に該当し、同法四九条一号により拒絶されるべきである
として特許異議を申し立てた。
右公開特許公報には、次の記載がある。
①特許請求の範囲
「真空容器内にエッチング用ガスを流通させながら、該容器内に配設された電極に
高周波電圧を印加することにより、被処理物体をスパッタエッチングする処理方法
において、前記エッチング用ガスとしてハロゲン化合物を用いることを特徴とする
スパッタエッチング処理方法。」
②発明の詳細な説明
「本発明は、スパッタエッチング処理方法に関し、特に各種の半導体(例えば
Si、GaAs等)、絶縁物(たとえば、SiO2、Si3N4、Al2O3等)、金属(たとえ
ばAl、Pt、Au等)のエッチング処理方法に関するものである。」
「従来の高周波スパッタエッチングはエッチング速度が遅く、処理に長時間を要す
るという欠点がある。したがって、本発明はこのような従来のスパッタエッチング
処理方法の欠点を除去することを目的としている。かかる目的に沿って、本発明者
等は・・・エッチング用ガスとして、従来一般に用いられているアルゴンのような
不活性ガスに代えて、ハロゲン化合物のガスを用いることにより優れた効果が得ら
れることを見出し、本発明を完成した。」
「本発明方法では、各種のハロゲン化合物が用いられるが、その代表的なものを例
示すれば次の通りである:
A)ないしF)省略
G)SiCl4SiCl2H2BBr3BCl3
ハロゲン化合物が、エッチング用ガスとして不活性ガスより優れた効果を発揮する
のは、不活性ガスでは不活性ガス原子の加速イオンが試料表面原子をスパッタして
単に物理的にその表面を削り取るだけであるのに対し、ハロゲン化合物ではこの物
理作用と同時に化学作用が加わり、一種の化学エッチングも行われるためと考えら
れる。」
(3)原告は、昭和五八年八月一二日付けの手続補正書により、特許請求の範囲第1
項の記載を「最初の工程で気体状三塩化ホウ素の存在中でプラズマエッチングする
ことを特徴とするアルミニウムと菌(酸の誤記)化アルミニウムの気体エッチング
方法。」とした。
(4)特許庁審査官は、本件特許出願に係る明細書の特許請求の範囲第1項に記載さ
れた発明が富士通先願と実質的に同一であるから特許法二九条の二に該当するとし
て、右特許異議の申立は理由があるものと決定し、本件特許出願について拒絶査定
をした。
(5)原告は、昭和五九年八月一三日、右拒絶査定に対する審判を請求し、同年九月
一二日付け手続補正書により、特許請求の範囲第1項の記載を、前記第二の一1の
ようにした。その後、原告は、右審判手続において、同年一〇月三〇日付け(第
1)審判請求理由補充書を提出し、右補正後の本件特許出願に係る発明(本願発
明)と富士通先願とが同一でない理由を、(ⅰ)プラズマエッチング及びスパッタ
エッチング、(ⅱ)酸化アルミニウムと三塩化ホウ素、(ⅲ)酸化アルミニウムの
表面を有するアルミニウムの三点から主張した。(ⅰ)プラズマエッチング及びス
パッタエッチングでは、「プラズマエッチングは、プラズマ中の遊離基(ラジカ
ル)と被加工物を反応せしめ、揮発性の高い成分を生成し、被加工物の一部を除去
するエッチングである。従って、これは、化学的手法である。・・・これに対し
て、スパッタエッチングは、イオンを被加工物に衝突せしめ、被加工物の表面の原
子をスパッタし(はじき出し)、被加工物の一部を除去するエッチングである。こ
れは、化学的反応を共なうことでもあるが、一応物理的手法であると言える。」と
して、それぞれのエッチング方法の違いを指摘し、さらに、「スパッタエッチング
においては、イオンを被加工物に衝突せしめるため、ウエハーを損傷せしめてしま
うという危険性がある。・・・これに対して、プラズマエッチングにおいては、イ
オンの衝撃ということを利用しないので、ウエハーを損傷せしめるということが少
ない。」として、プラズマエッチングでは、イオンの衝撃を利用しないことによる
利点があるとしたうえで、「上記した通り、プラズマエッチングとスパッタエッチ
ングとは、全く別個のエッチングであり、両者は明確に区別される。」と結論づけ
た。そして、これに続けて、「本願発明においては、酸化アルミニウムを気体状三
塩化ホウ素の存在中でプラズマエッチングすることを含む」のに対し、「先願に
は、スパッタエッチング乃至は、反応性スパッタエッチングが開示されている。そ
して、先願には、イオンの衝突を共なわないプラズマエッチングについては全く記
載を示唆もなされていない。したがって、上記の通りの特徴を含む本願発明と先願
発明とが同一であるとは言えない。」と主張した。(ⅱ)酸化アルミニウムと三塩
化ホウ素、(ⅲ)酸化アルミニウムの表面を有するアルミニウムにおいても、右
(ⅰ)のプラズマエッチングとスパッタエッチングとの違いを述べて、本願発明と
富士通先願とが同一でないことを主張する記載が存する。
(6)昭和五九年一二月四日、本件特許出願について登録査定がされた。
2右1(一)、(二)のとおり、ドライエッチングの一種である「プラズマエッチン
グ」なる用語は、一般の技術文献上その意味が一義的に定まるものということはで
きないから、本件発明の「プラズマエッチング」の意味は、文言上一義的に明確で
あるとはいえない。
本件明細書の発明の詳細な説明(甲二の一ないし三)には、右1(四)のとおり、
「プラズマエッチング」に関する直接の定義はないが、本件発明の「プラズマエッ
チング」においては、三塩化ホウ素が高周波プラズマ中で分解されて化学的に活性
な基を生じ、これが酸化アルミニウムと化学反応して揮発性化合物を生じ、これに
よって、酸化アルミニウムがエッチングされ、化学反応によってアルミニウムがエ
ッチングされる旨記載されており(右1(三)(1)、(3))、イオンの衝突による物理
的衝撃によりエッチングが行われるとの記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、イオンの衝撃があるとしても、それ
はフォトレジストに打撃を与えない程十分に低い旨記載されている(右1(三)(2))
ところ、この記載は、イオンの衝撃があるとしても、それは十分低いので、フォト
レジストに損傷を与えない趣旨と解される。弁論の全趣旨によると、フォトレジス
トは酸化アルミニウムよりも軟らかいと認められるから、本件発明の「プラズマエ
ッチング」は、イオンの衝突が起こるとしても、それはその衝突による物理的衝撃
によりエッチングが生じない程度のものであると理解することができる。この点に
ついて、原告は、本件明細書の発明の詳細な説明中の右記載は、フォトレジストに
下地まで露出貫通するような損傷を与えないという趣旨であり、イオンの衝撃が、
フォトレジストに下地まで露出貫通するような損傷を与えないからといって、酸化
アルミニウムにエッチングが生じないということはできないと主張するが、「打撃
を与えない程十分に低い」との文言を、原告が主張するように限定して解すること
は困難であるから、原告の右主張を採用することはできない。
さらに、前記1(五)(5)のとおり、原告は拒絶査定に対する審判手続において、プ
ラズマエッチングは化学反応によるエッチングであり、イオンの衝撃を利用しない
のに対し、スパッタエッチングはイオンの衝突による物理的衝撃によるエッチング
であり、両者は全く別個のエッチングであって明確に区別されると述べ、これを前
提として、本件発明は、酸化アルミニウムを気体状三塩化ホウ素の存在中でプラズ
マエッチングすることを含むことを特徴とするのに対し、富士通先願には、スパッ
タエッチング又は反応性スパッタエッチング(弁論の全趣旨によると、これは、前
記1(一)の文献にいう「反応性イオンエッチング」と同義と認められる。)が開示
されているが、イオンの衝突を伴わないプラズマエッチングについては全く記載も
示唆もないから、本件発明と富士通先願とが同一であるとはいえないなどと説明し
ている。
以上述べたところを総合すると、本件発明の「プラズマエッチング」なる用語
は、右1(一)の文献にいうプラズマエッチングの意味で使用されているものと認め
られ、化学反応によるエッチングにイオンの衝突による物理的衝撃によるエッチン
グが伴うエッチング方法(反応性スパッタエッチング)は本件発明の「プラズマエ
ッチング」には含まれないというべきである。
なお、原告は、本件発明と富士通先願とは、技術的課題、作用効果及び構成が全
く異なるから、富士通先願に、反応性スパッタエッチングにおいてハロゲン化合物
をエッチャントとする技術が開示されているからといって、本件発明の「プラズマ
エッチング」がイオン衝突を伴う場合を排除することにはならないと主張する(前
記第三の1(四))が、右認定のとおり、本件発明の「プラズマエッチング」なる用
語は、反応性スパッタエッチングを含まないと解されるのであって、本件発明が富
士通先願と実質的に同一であるか否かは、右認定を左右しないというべきである。
3原告は、サムソンが半導体製品の製造工程において行っているアルミニウムの
エッチング方法は原告主張方法のとおりであると主張する。
証拠(甲三、六)と弁論の全趣旨を総合すると、サムソンが半導体製品の製造工
程において行っているアルミニウムのエッチング方法は、帯電したイオンの衝突に
よる物理的衝撃によるエッチングを含むもの(化学反応によるエッチングが存する
としても、反応性スパッタエッチングである)と認められるから、サムスンの行っ
ているエッチング方法が本件発明の「プラズマエッチング」に当たるとは認められ
ず、他にサムスンが本件発明の「プラズマエッチング」を行っていたことを認める
に足りる証拠はない。
 二以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するま
でもなく理由がない。
東京地方裁判所民事第四七部
裁判長裁判官森  義 之
裁判官榎 戸 道 也
裁判官杜 下 弘 記

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独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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職種 事務職
時給 当社規定による
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応募方法
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