弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     原審における未決勾留日数中三十日を右本刑に算入する。
     原審及び当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
     被告人の控訴を棄却する。
         理    由
 検察官副検事好田政一の控訴趣意及び弁護人杉之原舜一の控訴趣意は末尾添附の
各書面に記載したとおりで、これに対する判断は次のとおりである。
 第一、 弁護人の控訴趣意一の(一)について。
 <要旨第一>昭和二十五年政令第三二五号占領目的阻害行為処罰令第一条に規定す
る「占領目的に有害な行為」たる「連合国最高指令官の日本国政府に対
する指令の趣旨に反する行為」というのは「連合国最高指令官の日本国政府に対す
る指令に反する行為」というのとは異り、その指令の為された意図或は目的に反す
る行為という意味である。従つて右指令に反する日本国政府の行為不行為が「占領
目的に有害な行為」となるのではなく、前叙の意味における右指令の趣旨に反する
個人の行為不行為が「占領目的に有害な行為」として、処罰の対象となるのであ
る。所論は両者を区別しないことから生ずる誤つた見界であつて、到底採容の限り
でない。
 第二、 同一の(二)及び(三)について。
 原判決は、被告人が「A」合計約百五十部乃至二百部を「はん布して、その発行
行為を為し、」と説示しているけれども、原判決の認定した事実は「はん布」の所
為であつて、「発行行為をなし、」というのは無用の語を附加したに過ぎないこと
は原判文の全趣旨に徴し明らかで、又「A」の内容が占領目的に有害な行為でない
という所論は、全く独自の見舞であるから、この点の論旨も探容出来ない。
 第三、 同二について。
 <要旨第二>昭和二十五年七月十八日附連合国最高司令官の日本国政府宛指令の内
容は、「B及びその後継紙並びに同類紙の発行を無期限に停止する措置
を取るべきこと、」である。
 従つて右指令が発せられた後において、これらの印刷物を発行はん布すること
は、その発行停止の行政的措置が取られたと否とを問わず、右指令の趣旨に反する
ものといわなくてはない。
 従つてかかる行為が昭和二十五年政令第三百二十五号占領目的阻害行為処罰令第
一条にいわゆる「占領目的に有害な行為」として同令第二条により処罰の対象とな
ることは明らかであるから、原判決が法令によらずして被告人を刑罰に処したとの
非難は当らず論旨も理由がない。
 第四、 同二について。
 「B」の発行停止後に発行された「A」が、その形式内容において「B」と趣を
異にすることはむしろ当然で、それ故に「A」が「B」の後継紙でないという所論
は首肯し得ない。論旨も理由がない。
 第五、 同四の(一)について。
 原審各公判調書の記載を閲すると、被告人ははん布した「A」の部数につき、原
審第一回公判期日では「百部位しかはん布していない。」と述べ、第二回公判期日
では「全部で百三十部位で、a町関係の分は約三十部位のものである」「Cから
は、三百三十部位受取つているかも知れないが、配布した部数はもつと少い筈であ
る。はつきりした数は分らない。」と述べており、又原判決引用のCの検祭官に対
する供述調書には「毎回五十部位送附を受けて、うち三十部を被告人に渡してい
た。」旨の供述記載がある。これらの証拠を綜合すると,原判示の部数をはん布し
たことを推認し得られないわけではないから、原判決に所論の事実誤認又は理由不
備の違法はない。論旨も理由がない。
 第六、 同四の(二)について。
 本件につき、判決において罪となるべき事実を示すに当つては後継紙の意義を説
示する必要はなく、又被告人が「A」が「B」の後継紙であることの認識を有して
いたことは、原審第一回公判調書に被告人のその旨の供述記載があるから、この点
についても所論の違法はなく、論旨も理由がない。
 第七、 検察官の控訴趣意について。
 訴訟記録及び原審て取り調べた証拠を精査して按ずると、原判決が情状として説
示するところは、にわかに首肯し難く、被告人の本件犯行の動機、態様、その他諸
般の事情に違犯の性質を綜合して考量すると、原判決が被告人に対し、懲役刑につ
き執行猶予の言渡を為したのは,量刑軽きに過ぎ不当といわざるを得ないので,論
旨は理由があり,原判決は破棄しなければならない。
 叙上のとおりで、被告人の控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条に則
りこれを棄却し、検察官の控訴け理由があるので同法第三百九十七条第三百八十一
条により原判決を破棄し、同法第四百条但し書に従い被告事件について更に判決を
する。
 罪となるべき事実は「その発行行為をなし,」とある部分を除き原判決摘示の事
実と同一で、これを認めた証拠は原判決挙示の証拠と同一であるから、各これを引
用する。
 法律によると、被告人の原判示所為は昭和二十五年政令第三百二十五号占領目的
阻害行為処罰令第一条第二条第一項に該当(罰金刑については尚罰金等臨時措置法
第二条第一項に該当)するので、定められた刑のうち懲役刑を選び、その刑期範囲
内で被告人を懲役一年に処し、未決勾留日数の算入につき刑法第二十一条を、訴訟
費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項を各適用して、主文のとおり判決
する。
 (裁判長判事 藤田和夫 判事 長友文士 判事 東徹)

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