弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件抗告を棄却する。
       抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人石川清隆の抗告理由について
 【要旨】物上保証人所有の不動産を目的とする根抵当権の実行としての競売手続
において,債務者の所在が不明であるため,競売開始決定正本の債務者への送達が
公示送達によりされた場合には,民訴法113条の類推適用により,同法111条
の規定による掲示を始めた日から2週間を経過した時に,債務者に対し民法155
条の通知がされたものとして,被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずる
と解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
 (1) 民訴法113条は,相手方の所在が不明である場合において,相手方に対
する公示送達がされた書類に,その相手方に対し訴訟の目的である請求又は防御の
方法に関する意思表示をする旨の記載があるときに,その意思表示の実体法上の到
達の効力を認め,ほぼ同様の公示機能を有する民法97条ノ2所定の意思表示の手
続を重ねて執ることを要しないこととして,表意者に二重の負担を掛けることを回
避する趣旨の規定である。
 (2) ところで,物上保証人所有の不動産を目的とする競売手続において,債務
者に対し競売開始決定正本が送達された場合には,債務者に対し民法155条の差
押えの通知がされたものとして,同決定正本が債務者に送達された時に当該被担保
債権について消滅時効の中断の効力を生ずるが(最高裁昭和47年(オ)第723
号同50年11月21日第二小法廷判決・民集29巻10号1537頁,最高裁平
成5年(オ)第1788号同8年7月12日第二小法廷判決・民集50巻7号19
01頁参照),このように競売開始決定正本の送達によって実体法上のいわゆる観
念の通知が行われる場合について,訴訟書類の送達によって実体法上の意思表示が
行われる場合と異なった取扱いをすべき実質的な理由はない。
 (3) また,民訴法113条が,公示送達によって相手方に到達したものとみな
される意思表示を訴訟の目的である請求又は防御の方法に関するものと規定してい
るのは,訴訟の追行に必要な意思表示に限りその到達の効力を認める趣旨と解され
るところ,競売開始決定及びその正本の送達は競売手続の進行に必要不可欠なもの
であるから,これによってされる民法155条の通知について民訴法113条を類
推適用することとしても,同条の趣旨に反するものではない。
 (4) そして,債務者の所在が不明である場合に,競売開始決定正本の公示送達
のほかに,別途債務者に対する民法97条ノ2所定の手続による通知を要するとす
ることは,債権者に不相応の負担を掛けるものというべきである。
 したがって,これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,所論
引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 梶谷 玄 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 滝井繁男)

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