弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを
確認する。
2被告の原告に対する平成19年4月16日付け休職処分が無効であ
ることを確認する。
3被告は,原告に対し,22万0350円及びこれに対する平成19
年4月21日から支払済みまで,平成19年5月20日以降本判決確定
に至るまで,毎月20日限り44万0700円及びこれに対する各支払
日の翌日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払
え。
4(1)被告は,原告に対し,平成19年7月21日以降本判決確定に至
るまで,毎年6月15日限り52万4433円,毎年12月15日限
り89万6824円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,原告に対し,平成19年7月21日以降本判決確定に至
るまで,毎年6月15日限り24万6792円,毎年12月15日限
り31万5100円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
5(1)被告は,原告に対し,738万1554円及びこれに対する平成
20年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(2)被告は,原告に対し,516万7087円及びこれに対する本判
決確定日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
6被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成20年1月
16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8訴訟費用はこれを10分し,その2を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
9この判決は,第3項ないし第5項(1)及び第6項に限り,仮に執行す
ることができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項及び第2項と同旨
2(1)被告は,原告に対し,平成19年4月16日以降本判決確定に至るま
で,毎月20日限り44万0700円及びこれに対する各支払日の翌日か
ら支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,原告に対し,平成19年7月21日以降判決確定に至るまで,
毎年3月15日限り8万8140円,毎年6月15日限り65万6643
円,毎年12月15日限り105万1069円及びこれらに対する各支払
日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被告は,原告に対し,平成19年7月21日以降判決確定に至るまで,
毎年6月15日限り24万6792円,毎年12月15日限り31万51
00円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
3(1)被告は,原告に対し,769万9344円及びこれに対する平成20
年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,原告に対し,769万9344円及びこれに対する平成20
年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年1月16
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告が,原告に対し,平成19年4月16日付けで休職処分を
行い,更に同年7月20日付けで解雇処分したことにつき,いずれも合理的
な理由がないから無効である等と主張して,①休職処分についてはその無効
確認及び②解雇処分については原告の被告に対する労働契約上の地位の確
認を求めるとともに,③労働契約及び労働基準法(以下「労基法」という。)
37条に基づき,未払いの賃金((ア)休職処分をされた平成19年4月16
日以降判決確定までの給料並びに(イ)解雇された同年7月20日以降判決
確定までの期末手当及び勤勉手当並びに(ウ)時間外勤務手当,休日勤務手当
及び深夜勤務手当)並びに④これらに係る各支払日から支払済みまで民法所
定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,⑤不法行為に基づき,
慰謝料及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成20年1月16日か
ら支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,さら
に,⑥労基法114条に基づき,前記③(ウ)と同額の付加金及びこれに対す
る同日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を
求めた事案である。
1前提となる事実等(いずれも当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠
により認められる。)
(1)被告は,教育基本法,学校教育法及び私立学校法に従い,学校教育を
行うことを目的とする学校法人であり,A高等学校(全日制課程普通科,
商業科及び電気科),B高等学校(全日制課程普通科)及びC中学校を設
置している。
(2)原告は,昭和63年3月,D大学法学部を卒業し,平成3年4月1日
に被告の設置するC中学校及びB高等学校に寮監職として採用され,平成
6年4月からA高等学校の教諭になり,体育科目のうち剣道と社会科を担
当した後,再度の配転により,平成14年4月1日からC中学校勤務とな
り,主として寮監職(寮生の生活指導)を勤め,剣道の講師をしていた。
(3)被告においては,「学校法人E学園C中学校・B高等学校教職員就業
規則」(平成10年4月1日から,それまでの就業規則を廃止して施行
され,更に,平成14年4月1日から一部を改正して施行された。)が
制定されている(乙1。以下「被告就業規則」という。)。
(4)被告においては,「学校法人E学園C中学校・B高等学校教職員給与
規程」(平成10年4月1日から,それまでの旧給与規程,旧給与細則
及び旧退職金規程を廃止して施行され,平成15年10月1日から一部
を改正して施行された。)が制定されている(乙1。以下「被告給与規
程」という。)。
(5)原告は,平成19年4月5日,岡山弁護士会岡山仲裁センター(以下
「本件仲裁センター」という。)への和解あっせんを申し立てた(甲2)。
(6)被告は,原告に対し,平成19年4月から社会科教諭として勤務する
よう内定していた原告が同職務に就かなかったとして,同月16日,被告
就業規則37条3号「その他特別の事由がある場合」に基づき,原告に対
し,期間を定めずに休職処分をした(以下「本件休職処分」という。)。
(7)被告は,原告の生徒に対する暴力行為や保護者とのトラブル,「喫茶
店F」での料理長としての勤務,休暇中の本件仲裁センターへの和解あっ
せん申立てなどを理由に,原告には職場放棄の疑いがあり,教職員として
の資質に著しく欠けるとして,被告就業規則41条1号に基づき,原告に
対し,平成19年6月15日付けで解雇予告通知をした上で,同年7月2
0日,解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇処分」という。)。
(8)平成19年8月2日,被告は,被告給与規程37条ないし39条に基
づき,原告に対し,退職金名目で1057万7000円を支払っている。
2争点
(1)処分関係
ア本件休職処分の有効性(争点1)
イ本件解雇処分の有効性(争点2)
ウ本件各処分が無効とされた場合に原告が受領すべき月額給料等の額
(争点3)
(2)未払い賃金関係
ア被告主張の変形労働時間制の有効性(争点4)
イ寮監の仮眠時間の労働時間該当性及び手当(争点5)
ウ原告に認められるべき時間外勤務手当等の額(争点6)
(3)付加金(労基法114条)の支払の可否及び額(争点7)
(4)原告に認められるべき慰謝料の額(争点8)
3争点に係る各当事者の主張
(1)争点1「本件休職処分の有効性」について
【被告の主張】
ア教職員が休暇を取る場合,年次有給休暇を受けるか病気休暇を受け
ることになるが,本件において,原告は,正式にこれらの手続をしてい
ない。
イ被告は,原告は寮監として職務を尽くすことは不可能であり,早急
に寮監を辞めさせる必要に迫られていたが,その時点で解雇するのも酷
と考え,原告に対し,平成19年2月23日,C中学校・B高等学校の
G校長から同年4月1日付けで寮監職から教諭職に配置替えをする旨
内示してあったのに,原告は,同年3月31日に電話で,入院するので
出勤できない旨告げるとともに,同年4月3日,H病院I医師作成の「不
眠症,適応障害の疑いで同年3月30日から同年4月20日まで休養加
療を要する。」との診断書(以下「本件診断書1」という。)を郵送し
てきた。
ウ被告は,原告が年次有給休暇を取るつもりであり,同年4月20日
になれば出勤すると考えていたところ,原告は,同月5日,本件仲裁セ
ンターに和解あっせんの申立てをしており,同申立書によれば,原告は
1年程度教諭職に就かない意思であることが判明した。
エ被告は,原告が病気を口実に職務に就かず,あっせんの申立てをした
と判断し,原告の行為は就業規則37条3号に該当するとして同月16
日付けで原告を休職処分とした。
オ職場放棄をしている者に対して給料を支払うことは経営者として避
けるべきであるし,他の教職員にも悪影響を与えるので休職処分とした
ものであり,正当な処分である。
【原告の主張】
ア争う。原告が平成19年4月1日付けで寮監から社会科教諭に内定
していたという事実はない。被告は,当初,原告に対し,辞令を交付
したと説明していたのに,後日,これを撤回して口頭による内示と主
張するなど,この点に関する被告の主張は変遷している。
イ被告就業規則37条3号に被告主張の内容の条項があることは認め
るが,休職処分も裁量権を逸脱することは許されず,同条項に該当す
る客観的合理的な理由があり,社会通念上も相当なものでなければな
らない。
ウ被告は,原告が精神疾患により年次有給休暇を利用して入院中であ
ることを,原告の事前の説明により熟知しながら,これに何ら配慮する
ことなく,また原告に弁明の機会も与えず,一方的に休職処分をしたも
のであるから,本件休職処分は裁量権を逸脱したものとして無効であ
る。
エ原告は,和解あっせんの申立ての前に,校務分掌としての生徒送迎
のバス運転・生徒指導を命じられていたところ,これを承諾しており,
また,高校の特進クラスの担当は,すぐにはできないが中学の担当はで
きると伝えていた。
オ原告が精神的疾患で年次有給休暇を取得したのは真にその必要性が
あったからにほかならず,和解あっせんの申立手続をしたのも労働条件
の改善を求める必要があったからにほかならない。原告の行為は「職場
放棄」と評価されるべきではない。
カ本件休職処分は,原告が年次有給休暇中の平成19年4月5日に本件
仲裁センターに労働条件の改善を求めて和解あっせんの申立てをした
ことを被告が嫌悪して,その報復としてされたものであって,正当化で
きる余地はない。
(2)争点2「本件解雇処分の有効性」について
【被告の主張】
ア原告は,次のような教職員としての資質に欠けることが明らかとい
える事情がある。
①平成9年ころの原告から生徒に対する暴力行為により,保護者か
ら告訴すると言われるなど,生徒及び保護者との間でトラブルを起
こしたこと
原告は,平成9年ころ,A高等学校に勤務していたが,剣道を学
ぶ生徒に対し,度重なる暴力行為をし,生徒の保護者から暴行,傷
害の罪で告訴するとまで言われたことがあり,被告は,当時賞罰委
員会を開いて,原告を謹慎処分にした。その後も原告は保護者の評
判が悪く,平成14年3月末で同高校からC中学校の寮監に配転せ
ざるを得ない状況があるなど,原告は,教諭としては素質に問題が
あったといわざるを得ない。
②平成18年4月ころ,「喫茶店F」において料理長として兼務した
こと
同月ころ,被告に対し,一般市民から原告が「喫茶店F」に料理長
として働いているが,被告がこのようなことを認めているのかと忠告
があり,原告に誓約書及び始末書を提出させている。
③平成18年5月ころに,B高等学校の生徒及び保護者と紛争となっ
たこと
同高校の生徒が原告所有の自動車に落書きをしたことで保護者と
紛争となり,その際,原告は,寮監としてふさわしくない行為をした。
④平成19年3月ころに,C中学校の生徒が原告所有の自動車をけ
って壊したということで,生徒の保護者と損害賠償の問題を起こし
たこと
⑤平成19年3月ころに,生徒がダンベルを持ち帰ったため,保護
者と問題を起こしたこと
⑥原告が,平成19年4月5日,本件仲裁センターへ和解あっせん
の申立てをしたこと
被告は,原告に対し,平成19年2月23日,C中学校及びB高等
学校の校長から同年4月1日付けで寮監職から教諭職に配置替えを
する旨内示してあったのに,原告は,同年3月31日になり,被告
に電話で入院する旨伝えるとともに,同年4月3日に本件診断書1
を郵送してきたが,同診断書には入院が必要とは記載されていなか
ったことから,被告としては,原告が年次有給休暇を取る趣旨であ
ると理解していたところ,原告は,同年4月5日付けで,弁護士を
代理人として本件仲裁センターに和解あっせんの申立てをした。そ
のころには原告との間で法的な紛争はなかったから,被告には原告
がこのような申立てをした理由が理解できなかったことに加え,送
られて来た申立書の内容は全く一方的なものであり,教諭職へ配転
されても,原告は少なくとも1年間は生徒の指導に当たらない旨記
載されていたが,これは教諭としての職務を放棄するものである。
なお,被告は,同あっせん手続において,誠実に対応した。
⑦本件診断書1及び原告が被告に提出した笠岡市内の財団法人Jク
リニック(以下「Jクリニック」という。)K医師作成の平成19年
4月20日付け診断書(以下「本件診断書2」という。)には入院を
要すると記載していないのに,原告が入院したこと
⑧平成19年9月ころに参議院議員L(以下「L議員」という。)と
の不倫関係が判明したこと
本件解雇処分後である同月ころに発行された週刊文春などの記事
により,原告は,L議員と一般社会人としては問題があると思われ
るような関係にあったことが明らかとなった。
イ平成19年5月28日になり,原告から被告に復職願いが提出され,
同月30日には,原告は,岡山市内の道場で剣道の稽古をしていたと
の経過をみると,原告は,身体的には出勤できる状態でありながら職
場放棄をしていた疑いが濃厚であった。
ウ以上のことからすれば,原告が教職員として資質に著しく欠けるこ
とは明らかであって被告就業規則41条1号に該当するので,被告は
原告を解雇する方針を決定し,原告に対し,平成19年6月15日付
けで解雇予告通知をした上,同年7月20日,本件解雇処分を行った。
同年8月2日には,原告に対し,退職金1057万7000円も支払
っている。
エよって,本件解雇処分は,法的に正当なものであり,原告が,被告
から退職金を受領していながら返還の意思表示もなく,本件解雇処分
の不当性を主張するのは公序良俗及び信義誠実の原則に反し,許され
ない。
【原告の主張】
ア被告の主張する解雇事由について
(ア)解雇事由①については否認ないし不知である。ただし,厳しい剣
道指導を求める保護者の要請に応えて平手で生徒の頬を叩いたこと
はあるが傷害を負わせてはいない。告訴すると言った保護者はいわゆ
るクレーマーであるし,これを原因として始末書の作成及び提出を求
められ,平成10年2月ころに剣道部顧問から外され空手部顧問にさ
れたことなどから,既に十分に責任を取り終えているものであり,不
当な蒸し返しである。原告に対する保護者の評判が悪かったことは否
認する。寮監にせざるを得なかったというのは,平成13年12月に,
原告が既に2回の謹慎処分を受けている生徒のカンニングを発見し
て注意したところ,指定暴力団関係団体の構成員である保護者からの
不当な要求に被告が対処せず,原告一人に同団体事務所に行くよう不
当命令を発し,同保護者が何度か学校に怒鳴り込んできたことから,
被告は,同生徒を退学処分としたため,同保護者に対するけじめから,
平成14年4月より,原告を一方的にA高校社会科教諭からC中学校
及びB高等学校の寮監に異動させたものである。
(イ)同②については,原告は料理長ではなく,勤務時間外に同カフェ
で稼働していたものであるが,被告学校には時間外に住職や家庭教師
をしている教諭がいたにもかかわらず,それらを不問に付しているこ
とと均等取扱いの原則に反するものである。また,始末書を提出した
ことは認めるが,誓約書を提出したことは不知である。
(ウ)同③については,否認する。そのころ,卒業生が原告所有の自動
車のアンテナを折ったことがあるが,これについては,被告の指示に
従い,結局,原告が被害者であることを前提とした示談が成立してい
る。
(エ)同④については,原告は被告の了解の下に告訴したのであるが,
その後,被告から「籍がなくなるぞ。」などと脅迫されて再三にわた
り告訴の取り下げを命じられたため,取り下げた。
(オ)同⑤については認めるが,顧問の許可を得ずにダンベルを持ち帰
ってはいけないとの原告の主張に正当性があった上,トラブルという
ほどのものでもない些細なものである。
(カ)同⑥については,被告から被告主張の内示があったこと,原告が
本件仲裁センターに和解あっせんの申立てをしたこと及び原告が電
話で入院する旨連絡したことは認める。しかし,原告が入院するに当
たっては,教頭・現場主任及び寮監長と相談し,その許可を得ていた。
また,当時,原被告間に法的な紛争はなかったとの点は争う。被告
は,原告に対し,年次有給休暇を消化させず,国体の遠征試合などの
正当な理由がある場合でも取らせようとしないほか,学校行事に強制
的に参加させるが代休や代替措置も認めないなど,他の職員と比較し
て過密なスケジュールを強要するなどしていたことから,原告の訴え
を聞いていた寮監長及び寮監主任を通じて熟知していたはずである
から,法律に従った正当な要求があることを予期していたはずであ
る。
さらに,原告は,長期間にわたり授業から離れていたことや被告が
県内でも有数の進学校であったことを併せ考えれば,原告が1年程度
の準備期間が必要であると考えることは当然であって,教諭としての
職務を放棄しようとしたのではない。被告は,同あっせん手続におい
て,誠実な対応をしなかった。
(キ)同⑦については,本件診断書1及び同2には「入院を要する」と
の記載はないが,「休養加療」のためには「入院」が最適の手段であ
る。
(ク)同⑧については,原告がL議員と不倫関係にあったことは認める
が,本件解雇処分の理由ではなく,後付けの理由である。また,これ
は必ずしも原告の教諭として適格性を欠くことを意味しない。一般
に,教諭であったとしても一人の人間であり,夫を有する女性に恋愛
感情を抱くことはあり得ることに加え,原告は,当初,L議員が既婚
者であることを知らず,男女関係になった後で知ったのである。そし
て,L議員との関係は,職場外のことであり,原告が自ら進んで望ん
だものではなく,L議員の再三にわたる懇願の上で,同人との婚姻を
前提とする合意の下にされたものであって,L議員から原告の人脈や
労働力を利用されたとの評価も可能であることから,完全に私生活上
の問題にすぎない。
イ以上のとおりであり,本件解雇処分は,客観的に合理的な理由を欠き,
社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したもの
として無効であるところ(労働契約法16条),本件解雇処分は,本件
休職処分と同様に原告が本件仲裁センターに労働条件の改善を求めて
和解あっせんの申立てをしたことを嫌悪して,その報復としてされたも
のであって正当な理由がなく,罪刑法定主義,平等取扱いの原則,相当
性の原則及び適正手続の保障に反するものであるから,無効というべき
である。
(3)争点3「本件各処分が無効とされた場合に原告が受領すべき月額給料
等の額」について
【原告の主張】
ア原告の給与は,次のとおりである。
(ア)基本給月額
月給制であり,毎月20日限り基本給月額として44万0700円
が支払われる。
(イ)期末手当
毎年3月,6月及び12月の各15日限り,前記基本給月額の1
00分の20,100分の149,100分の238.5の割合に
よる。具体的には,3月が8万8140円,6月が65万6643
円,12月が105万1069円となる。
(ウ)勤勉手当
毎年6月,12月の各15日限り,前記基本給月額の100分の
56,100分の71.5の割合による。具体的には,6月が24
万6792円,12月が31万5100円となる。
イ本件休職処分及び本件解雇処分は,前述のとおり,客観的合理的理
由を欠くもので,正当性が認められないから,無効である。
ウよって,原告は,被告に対し,次の賃金請求権を有している。
(ア)平成19年4月16日以降判決確定に至るまで毎月20日限
り,44万0700円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済み
まで年5分の割合による遅延損害金
(イ)平成19年7月21日以降判決確定に至るまで,毎年3月15
日限り8万8140円,毎年6月15日限り65万6643円,毎年
12月15日限り105万1069円及びこれらに対する各支払日
の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
(ウ)平成19年7月21日以降判決確定に至るまで,毎年6月15
日限り24万6792円,毎年12月15日限り31万5100円及
びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合に
よる遅延損害金
【被告の主張】
ア争う。
イ本件休職処分及び本件解雇処分は,いずれも正当なものであり,有
効であるから,原告主張の賃金請求権は発生していない。
(4)争点4「被告主張の変形労働時間制の有効性」について
【被告の主張】
ア被告の事業場においては,労基法32条の2の規定により,変形労
働時間制を採用しており,寮監の勤務時間を,1か月以内の一定の期
間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内とし,かつ,1
日の労働時間が8時間以内とするよう配慮しているから,原告を1日
につき労基法32条所定の1日8時間を超えて労働させても同規定違
反にはならない。被告は,原告を採用した当初に,このことを告知し
ており,原告はこれを承諾している。
イ被告就業規則8条に特例として「寮監の勤務時間については,変形
労働時間制とし,個別に定める。」旨定めており,この就業規則は労
働基準監督署に届け出ている。被告は,原告に対し,直接,2か月ご
とあるいは二,三週間の変形労働時間制の勤務表を交付していたので,
制度として合法である。なお,被告は,平成18年4月ころに岡山労
働基準監督署に相談し,労基法41条3号の「監視又は断続的労働に
従事する者で使用者が行政官庁の許可を受けたもの」による許可を受
けたい旨申し入れたところ,同監督官は,同号の許可は不要であって,
現在の変形労働時間制を継続して差し支えないとの指導を受けてい
る。ただし,被告は,監督官庁の指導により,被告就業規則8条を,
平成20年4月1日から「変形労働時間制とし,毎年4月1日から2
週間ごとに定め,これを学校長からそれぞれの寮監に対し,書面によ
り指示する。」よう改正した。
ウ変形労働時間制が採用されている結果,午後10時から午前5時ま
での時間帯に勤務したとしても(以下「深夜勤務」という。),通常
の勤務であるから割増手当を支給すべき義務はない。
【原告の主張】
ア労基法32条に規定する1日8時間労働制は強行法規であって,こ
れを超えて例外的に労働者を労働させることを認める同法32条の2
ないし同条の5に定める変形労働時間制の適用については,労働組合
又は労働者の過半数を代表する者との間の協定や就業規則等で書面化
された合意を求めているが,被告ではこのような合意はない。のみな
らず,原告が勤務していたC中学校及びB高等学校には,労基法36
条に基づく労使協定(いわゆる36協定)は締結されていない。
イ1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には,就業規則その他
これに準ずるものにより,変形期間を1か月以内とし,変形期間の定
めをして,変形期間における法定労働時間の総枠の範囲内で各日の労
働時間を特定し,各日の始業時刻及び終業時刻を具体的に定めるとと
もに,これらのことを定めた就業規則や労使協定を労働基準監督署に
届け出ることが必要とされている。また,変形労働時間制を就業規則
で定めるとしても,①対象労働者の範囲,②対象期間,③変形期間,
④変形期間の起算日,⑤変形期間の各労働日の労働時間,⑥変形期間
の各労働日の始業・終業時刻も届け出ることになっているが,被告の
就業規則その他をみても,同①ないし⑥については全く定められてい
ない。
ウしたがって,被告の主張する変形労働時間制の適用は理由がない。
(5)争点5「寮監の仮眠時間の労働時間該当性及び手当」について
【被告の主張】
ア被告においては,寮監に宿直勤務制度は存在しないが,原告は,寮
監として,1か月平均13日の宿泊勤務を行っている。その時間配分は,
次のとおりである。
(ア)平日の月曜日から金曜日まで
①夜勤務時間午後5時30分から翌日午前1時30分まで(8時
間)
②仮眠時間午前1時30分から午前6時30分
③朝勤務時間午前6時30分から午前9時30分
(イ)土曜日
①朝勤務時間午前6時30分から午後12時30分まで
②昼勤務時間午後12時30分から午後5時30分まで
(ウ)日曜日
①朝勤務時間午前11時30分から午後12時30分まで
②昼勤務時間午後12時30分から午後5時30分まで
③夜勤務時間午後5時30分から翌日午前1時30分まで
イこのうち仮眠時間は労働時間ではない。これは,原告以外のすべて
の寮監が了解していることであり,もし,これが労働時間であり,時
間外勤務に該当するとの解釈になれば,被告の寮制度の運営は不可能
であり,学園の経営も苦しくなる。
ウ被告においては,C中学校及びB高等学校に労働組合はないため,
労働条件については教職員代表者と協議して労働条件を決めているが,
深夜勤務1回につき1500円とし,1か月について1万8000円を
一律に支払っていた。原告が寮監をしていた平成18年3月31日まで
は,これとは別に特殊勤務手当として1か月2万円を支払っていたの
で,合計毎月3万8000円の支払があり,原告もこれを承諾して受領
している。したがって,少なくとも同日までについては,仮眠時間に関
する問題は残っていない。
ただし,同年4月1日からは,一般職との均衡上,職員代表者の同意
を得て,これらの手当は廃止された。
エ原告は,寮監になってから平成18年3月31日までは,前記のと
おり,毎月3万8000円を受領してきたから,本訴請求中,少なくと
も平成17年12月から平成18年3月までの間については請求権が
なく,失当である。
【原告の主張】
ア争う。
イ被告は,原告に宿直勤務を命じており,この宿直勤務では電気の消
灯・点灯,傷病者の手当,人員の確認,戸締まりの確認,生徒指導日報
の作成,各部屋の巡回が業務として定められているほか,宿直中には飲
酒,外出,外泊は禁止されていること,宿直中に寮生に病気事故などが
あれば直ちに病院への搬送など適切な対応をすること,宿直中に火災な
どの事故があれば寮生の安全確保に努めることなどが義務づけられて
おり,その実態からすると,仮眠時間も被告の指揮命令下にあるといえ
るから,労働時間であることが明らかである。
ウ宿直は,労基法施行規則23条にいう「断続的業務」に当たり,使
用者が行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けたものについて
は,労働時間・休憩・休日に関する労基法の規定の適用は受けないとさ
れているところ,被告は,所轄労働基準監督署長から同規則23条の許
可を得ていない。
エ労基法37条は,時間外労働に対し,同条所定の割増賃金の支払を
命じているところ,前記固定手当(月額3万8000円)は,労働時間
である仮眠時間に対する割増賃金を上回るものではないから,被告は,
その支払義務を免れない。午後10時から翌日午前5時までの深夜労働
に対する割増賃金についても同様である。
オ被告において,平成18年4月1日から,夜間勤務手当及び特殊勤
務手当が廃止されたことは特に争わない。
(6)争点6「原告に認められるべき時間外勤務手当等の額」について
【原告の主張】
ア平成17年12月1日から平成19年3月31日までの間における
原告の実労働時間は別紙のとおりである(ただし,後記ウの合計10
1日間を除く。)。
イこの別紙に記載された実労働時間には,①時間外勤務,②休日勤務,
③深夜勤務,④時間外勤務が深夜の労働時間帯に及んだ場合,⑤休日
勤務が深夜の労働時間帯に及んだ場合が含まれており,同①ないし⑤
の各労働時間と割増率は次のとおりである。
(ア)①時間外勤務時間合計558時間割増率2割5分以上
②休日勤務時間合計263.5時間割増率3割5分以上
③深夜勤務時間合計902時間割増率2割5分以上
④時間外勤務が深夜の労働時間帯に及んだ場合の時間
合計56.5時間割増率5割以上
⑤休日勤務が深夜の労働時間帯に及んだ場合の時間
合計51時間割増率6割以上
(イ)基礎となる1時間当たりの給与額
「勤務1時間当たりの給与額は,給料の月額に12を乗じ,その額
を1週間当たりの勤務時間に52を乗じたもので除して得た額とす
る。」(被告給与規程30条。甲1の43頁)
44万0700円×12÷(週40時間×52)
=2542円(円未満切り捨て)
(ウ)割増賃金の計算
①時間外割増賃金
2542円×558時間×1.25=177万3045円
②休日勤務割増賃金
2542円×263.5時間×1.35=90万4252円
③深夜勤務割増賃金
2542円×909時間×1.25=288万8347円
④時間外勤務が深夜の労働時間帯に及んだ場合の割増賃金
2542円×56.5時間×1.5=21万5434円
⑤休日勤務が深夜の労働時間帯に及んだ場合の割増賃金
2542円×51時間×1.6=20万7427円
(エ)①ないし⑤の合計598万8505円
ウ別紙に記載のない労働時間(平成18年1月8日から同年3月19
日までの71日間,平成19年1月21日から同年2月19日までの
30日,合計101日間)についての推定計算
(ア)前記イのとおり,原告は,354日間(455日間-101日
間)で合計598万8505円の割増賃金を得ることができたから,
1日当たりの割増賃金は1万6916円となる。
598万8505円÷354日=1万6916円(円未満切り
捨て)
(イ)別紙に記載のない101日間については,同日数に前記1万6
916円を乗じるのが相当であるところ,これは171万0839
円(ただし,正確には170万8516円である。)となる。
(ウ)したがって,全合計額は769万9344円(ただし,正確に
は769万7021円)となる。
598万8505円+171万0839円(170万8516円)
=769万9344円(769万7021円)
【被告の主張】
ア争う。
イ前述のとおり,被告においては変形労働時間制が定められており,
時間外勤務は存在しない。
(7)争点7「付加金(労基法114条)の支払の可否及び額」について
【原告の主張】
ア被告は,36協定も締結せず,変形労働時間制の届出も,断続的な
宿直又は日直勤務許可申請もせず,労基法無視の態度が著しく,同法
37条に違反して時間外,休日,深夜の各割増賃金を支払っていない。
イこのような多くの労基法違反を重ねた被告に対しては,未払い時間
外勤務手当等と同額の付加金を認めるのが相当である。
【被告の主張】
争う。
(8)争点8「原告に認められるべき慰謝料の額」について
【原告の主張】
ア被告による本件休職処分及び本件解雇処分に加えて長期間にわたり
時間外割増賃金等の支払をしないで原告を稼働させてきたことは,い
ずれも不当なものであって,これらは原告に対する不法行為を構成す
る。
イ被告の前記不法行為により,原告は精神的苦痛を被った。これを慰
謝するには,少なくとも500万円が相当である。
【被告の主張】
ア争う。
イ本件休職処分及び本件解雇処分は,いずれも正当なものであるから,
原告には慰謝料請求権は発生していない。
第3当裁判所の判断
1争点1「本件休職処分の有効性」について
(1)前記前提事実等及び各項記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の
各事実が認められる。
ア被告は,平成19年2月23日,当時のC中学校・B高等学校のG
校長を通じて原告に対し,口頭で,同年4月1日付けで,寮監職から
教諭職に配置替えし,B高等学校で社会科教諭として稼働するよう伝
えた(乙11,12,被告代表者)。
イこれに対し,原告は,長期間教職から離れていたこともあり,B高
等学校では教諭として教えたこともなく,同高校は進学校であることか
ら6か月ないし1年程度の準備期間がほしいと応答した(甲66,原告
本人)。
ウ原告は,平成19年3月下旬に,不眠症を理由として,被告に対し,
同月31日から同年4月20日までの間,年次有給休暇を取得する旨届
け出て,就業規則18条の規定による届出として,適法に受理された(争
いがない。)。
エ原告は,同年3月31日に電話で,被告に,入院するので出勤でき
ない旨告げるとともに,同年4月3日,H病院I医師作成の「不眠症,
適応障害の疑いで同年3月30日から同年4月20日まで休養加療を
要する。」との本件診断書1を郵送した(争いがない)。
オ原告は,同年3月31日から同年5月18日までJクリニックに入
院した(甲5の2)。この間,原告は,被告に対し,本件診断書2(甲
13)を提出した。
カ原告は,入院中である平成19年4月5日,本件仲裁センターへの
和解あっせん申立てをした。
キ被告は,本件休職処分をするにつき,原告に対し,何ら弁明や事情
聴取の機会を与えていない。
(2)被告は,原告からの本件休職処分の理由に対する照会に対し,平成1
9年4月23日付けで,原告の代理人を通じ,被告就業規則28条を根
拠として,辞令交付を受けた日から3日以内に赴任する義務があるとし,
原告がこれに応じなかったことから,職場放棄に近い行為があったとし
て,本件休職処分を行った旨回答している(甲6)。しかしながら,被
告が本件休職処分の前提として主張している前記配置替えについて辞令
が交付された事実がないことは,被告が,その後,認めているところで
ある。
したがって,同条違反を根拠として本件休職処分を理由付けることは
できない。
(3)もっとも,被告は,平成22年1月18日付け被告第10準備書面に
おいて主張を変え,辞令交付の事実はなかったとしても,学校教育法6
2条により準用されている同法37条4項の規定に基づく校長の監督権
の行使(職務命令)をしたものであり,辞令は必要ではなく,校長が口
頭で行っても問題はないと主張するのであるが,配置替えは,労働契約
の内容にかかわる重要事項であるから,同項に定められている校長の監
督権から,直ちに口頭による配置替えを根拠付けることは,困難である
というほかはない。
(4)さらに,前記(1)アのG校長からの伝達行為が配置替えの内示であっ
たかどうかについては,原告は,G校長からは打診を受けただけであっ
て,内示というものではないと受け取ったと主張し,その旨の供述をし
ていること(甲66,原告本人)に照らすと,その内容が内示と評価で
きるほど明確なものであったかどうかについては疑問が否定できないと
ころである。
(5)また,被告は,原告が申請した年次有給休暇取得を適正なものとして
受理しているのであるから,その間に原告が入院したことや本件診断書
1を作成した医師の所属する病院(H病院)とは別の病院に入院したこ
とは,特段の義務違反を構成するとは解されない。
(6)以上検討したように,本件休職処分には合理的な理由が見いだしがた
いことに加え,被告代表者が当審における尋問手続において,その理由
についての原告訴訟代理人弁護士からの質問に対し,「入院してわずか
5日ぐらいしかたっていないのに,何でそういう行動を起こしたんかと
いうことですね。入院して治療に専念しとればこういうことになってい
ないんですよ。」(154項)と答えていることからすれば,本件休職
処分は,被告代表者が,原告の平成19年4月5日付けでの本件仲裁セ
ンターへの和解あっせん申立てを嫌悪して行ったものと認定するのが相
当であり,そうすると正当事由を欠くものとして無効というほかはない
というべきである。
(7)よって,本争点にかかる原告の請求は理由がある。
2争点2「本件解雇処分の有効性」について
(1)被告は,解雇事由として,前記第2の3(2)被告の主張に記載の8項
目を主張するので,以下,順次検討する。
なお,前記前提事実等(7)摘示のとおり,本件解雇処分は被告就業規則
41条1号に基づくものであるところ,同条にはいわゆる解雇事由に関す
る包括条項は規定されていないことからすれば,被告の解雇事由は,同号
に基づくものに限定されると解するのが相当である。
(2)解雇事由①「平成9年ころの原告から生徒に対する暴力行為により,
保護者から告訴すると言われるなど,生徒及び保護者との間でトラブルを
起こしたこと」について
ア被告は,平成9年ころ,A高等学校に勤務していた原告が剣道を学
ぶ生徒に対し,度重なる暴力行為をしたことにより,生徒の保護者か
ら暴行,傷害の罪で告訴すると言われたことがあると主張するが,原
告は,この事実を否認しているところ,本件記録中,これを認めるに
足りる確たる証拠はない。
イ仮に,この事実が存在したとしても,被告は,当時賞罰委員会を開
いた上で原告を謹慎処分にしたというのであるから,相応の処分がさ
れたというべきであり,かつ,本件解雇処分から10年も前のことで
あることからすれば,これをもって原告が教職員としての資質に欠け
る事由とすることは相当性を欠くというべきである。
(3)解雇事由②「平成18年4月ころ,『喫茶店F』において料理長とし
て兼務したこと」について
ア被告就業規則33条には,「教職員は,学校の業務以外の業務に携
わってはならない。ただし,理事長の承認を得たときは,この限りで
ない。」と規定されており,原告が,「喫茶店F」に関与することに
つき,理事長の承認を得たとの主張はない。
イしかしながら,本件記録中,原告が同喫茶店の料理長として稼働し
た事実を認めるに足りる確たる証拠はないし,証拠(乙2,3)によ
れば,原告の非番の日に,原告の両親がL議員と共同経営者となって
いた同喫茶店を手伝っていたものと認められるにすぎないから,これ
をもって,いわゆる私生活上の非行に該当するとはいえない。仮に,
これが二重就職と評価されるものとしても,被告の職場秩序に影響せ
ず,かつ被告に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度な
いし態様のものであれば禁止の対象とはいえないと解するのが相当で
あるところ,本件において,原告の関与の程度は明確ではないから,
これを本件解雇処分の理由とすることは相当とはいえない。
ウそして,被告は,原告に誓約書及び始末書を提出させているという
のであるから(ただし,原告は,始末書の提出については認めている
が,誓約書については知らないとしている。),本件についても,既
に相応の処分は済んでいるというべきである。
エしたがって,これをもって原告が教職員としての資質に欠ける事由
とすることも相当性を欠くというべきである。
(4)解雇事由③「平成18年5月ころに,B高等学校の生徒及び保護者と
紛争となったこと」及び解雇事由④「平成19年3月ころに生徒が原告
所有の自動車をけって壊したということで,生徒の保護者と損害賠償の
問題を起こしたこと」について
ア解雇事由③は,原告が,同高校の生徒が原告所有の自動車に落書き
をしたことで保護者と紛争となったものであり,同④についても生徒
の行為が原因となったことが明らかである(甲36,43)。したが
って,これらをもって直ちに原告に非があると評価することは困難で
ある。
イそして,被告は,同③の際,原告が寮監としてふさわしくない行為
をしたというが,この点については原告も争っているところであり,
全証拠によるもその具体的内容は明らかではない。
ウ以上に加え,同④については,平成19年5月3日,当該生徒の保
護者との間で既に示談が成立していること(甲18)からすれば,こ
れらの事由を原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは,
相当性を欠くというべきである。
(5)解雇事由⑤「平成19年3月ころに,生徒がダンベルを持ち帰ったた
め,保護者と問題を起こしたこと」について
ア生徒が学校の備品を私物化することが許されないのは当然であるか
ら,原告が,生徒が無断でダンベルを持ち帰ったことにつき,寮監と
して注意指導することは原則として許容されていると解され,それが
通常想定される程度を著しく逸脱していない限り,問題とされること
はないというべきところ,本件において,原告の指導がその範囲を逸
脱していたことを認めるに足りるものはない(被告は,原告が当該生
徒を泥棒呼ばわりしたとするが,原告はこれを否定しており,本件各
証拠をもってもこれを認めることはできない。)。
イよって,この事実をもって,原告が教職員としての資質に欠ける事
由とすることは,相当性を欠くといわざるを得ない。
(6)解雇事由⑥「原告が,平成19年4月5日,本件仲裁センターへ和解
あっせんの申立てをしたこと」について
ア労働者が,労働条件の改善を求めて各種の法的手続を執ることは,
特段の事由がない限り,違法ないし不当なものということはできず,
これをもって,当該労働者に不利な取扱いをすることは相当とはいえ
ない。
イ被告は,原告が年次有給休暇取得中に本件仲裁センターへの和解あ
っせん申立てをしたことが解雇事由に該当するというのであるが,た
とえ年次有給休暇中であったとしても,同申立てをした行為が違法な
いし不当性を帯びたものとなるとは評価できないというべきである。
ウまた,同申立てにおいて,原告は,「相手方(被告を意味する。)
は,申立人(原告を意味する。)の教員職への配転後,少なくとも1
年間,教材研究その他の職務を担当させるよう配慮されたい。」(甲
2。申立の趣旨第4項)との希望をしているところ,被告は,これを
もって原告が1年間の就業を忌避する意思表示であると解されるとい
うのであるが,1年という期間が相当であるかどうかは検討する余地
があるとしても,この点は,同和解手続において協議すればよいこと
であり,過去においてA高等学校で平成6年4月から平成14年3月
までの8年間社会科教諭として教壇に立った経験があるとしても,5
年間の中断があることを考慮すると,原告が一定の準備期間を希望す
ることは必ずしも不当とはいえないと思われる。
エしたがって,原告が本件仲裁センターへの和解あっせん申立てをし
たことをもって,職場放棄と認定することはできないから,本事由も
教職員としての資質に欠けることを示す事由として相当とはいえない
というべきである。
(7)解雇事由⑦「本件診断書1及び本件診断書2には入院を要すると記載
していないのに,原告が入院したこと」について
ア被告就業規則では,教職員は,年次有給休暇を年間20日取得する
ことができ,次年度に限り繰り越すことができる旨定められている(1
6条1項,3項)。また,被告就業規則には届出手続についての規定
(18条)があるが,被告は,原告からの年次有給休暇取得届出を適
正に受理したのであるから,届出手続には何ら問題はないと思われる。
そして,年次有給休暇制度は,それを争議目的で利用するなどその趣
旨に反する利用をしない限り,自由に使用することができるのである
から(最高裁判所第二小法廷昭和48年3月2日判決・民集27巻2
号191頁),この間,原告が入院したからといって,このこと自体
を問議することはできないというべきである。
イそして,被告就業規則18条2項では,引き続き7日以上年次有給
休暇を取得するときは医師の診断書等の書類を添付する必要がある旨
定められているが,同規定の趣旨は,飽くまで長期休暇を取ることが
妥当か否かを判断するためと解されるから,診断書を作成した医師の
病院に必ず入院する必要はないというべきである。さらに,本件診断
書1及び本件診断書2には,いずれも一定の期間を定めて休養加療を
要するとされていたのであるから(甲13,弁論の全趣旨),原告が
そのために入院の途を選択したとしても合理性があるというべきであ
り,しかも,そのこと自体は被告の業務執行に特段の影響を及ぼすも
のではないから,同診断書のいずれにも入院の記載がないからといっ
て,原告が入院したことが職場放棄の根拠となるものとも思われない。
ウしたがって,この事実も原告が教職員としての資質に欠ける事由と
なるものではないというべきである。
(8)解雇事由⑧「平成19年9月ころにL議員との不倫関係が判明したこ
と」について
ア本件解雇処分は,懲戒解雇ではないから,処分後に判明した事実で
あっても,処分の相当性を判断する根拠事由として勘案することがで
きると解される。
イ証拠(乙2,3)によれば,原告は,相当の期間,L議員と男女関
係にあったことがうかがわれる。原告は,この点につき,L議員とは
結婚を約束していたと主張し,その旨供述するが(甲66),一件記
録中にこれを裏付ける確たる証拠はない。そうすると,一般的には,
生徒の指導に当たる教職員が有夫の女性と親しい関係に入ることは社
会的にも評価できることではないというべきである上,特に多数の発
行部数を持つ週刊誌においてそのような内容を発表されることは,被
告にとっても決して名誉なことではなく,まして原告自身が進んで取
材に応じていることからすれば,このことは原告自身の教職員として
の適格性に大きく影響する事由であると思われる。
ウしかしながら,被告代表者は,当審における尋問において,本件解
雇処分の事由として被告が掲げる8つの事由の中で特に重大なものは
何かとの原告訴訟代理人の質問に対して,平成19年4月5日の本件
仲裁センターへの和解あっせん申立てをしたことである旨明確に答え
ている(同代表者155項~159項)。このことからすれば,本解
雇事由は,社会的には許容されない可能性が高いとしても,本件解雇
処分においてはそれほど重要視されていなかったというべきであるか
ら,これのみをもって原告が教職員としての資質に欠けると結論づけ
るのは相当ではないというべきである。
(9)以上の検討によれば,結局,被告の主張する解雇事由は,いずれも原
告が教職員としての資質に欠けることの根拠たり得ないということにな
る。そして,被告自身,平成17年12月12日,剣道において優れた
技能を持つ原告(甲44~65)を表彰していること(甲67)を勘案
すると,本件解雇処分は,合理的な理由に基づくものとは認められず,
社会的に相当性を欠くものとして無効であるといわざるを得ない。
3争点3「本件各処分が無効とされた場合に原告が受領すべき月額給料等
の額」について
(1)本件休職処分及び本件解雇処分は,いずれも無効であるから,被告は,
原告に対し,平成19年4月16日以降の基本給月額並びに期末手当及び
勤勉手当の支払義務を免れない。
(2)ア原告の基本給月額は,44万0700円である(甲10)。また,
原告は,扶養手当を受給していない。なお,休職期間中は,原則として
給与は支給されない(被告就業規則39条1項)。よって,平成19年
4月20日に原告に支給されるべき月額給料は,22万0350円とな
る。
44万0700円×(30日-15日)/30日=22万035
0円
イ期末手当
証拠(甲1,乙1)によれば,被告の期末手当は,給料及び扶養手当
を基礎として,次のとおりであると認められる。
(ア)6月15日支給100分の119
44万0700円×119/100=52万4433円
(イ)12月15日支給100分の203.5
44万0700円×203.5/100=89万6824円
ウ勤勉手当
証拠(甲1,乙1)によれば,被告の勤勉手当は,給料及び扶養手当
を基礎として,次のとおりであると認められる(円未満切り捨て)。
(ア)6月15日支給100分の56
44万0700円×56/100=24万6792円
(イ)12月15日支給100分の71.5
44万0700円×71.5/100=31万5100円
(3)したがって,被告は,原告に対し,①平成19年4月分の給料として
22万0350円及びこれに対する同月21日から支払済みまで,並び
に同年5月20日以降本判決確定に至るまで,毎月20日限り44万0
700円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで,それぞれ
民事法定利率年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務,②期末
手当として,平成19年7月21日以降本判決確定に至るまで,毎年6
月15日限り52万4433円を,毎年12月15日限り89万682
4円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで,年5分の割
合による遅延損害金を支払うべき義務,及び③勤勉手当として,平成1
9年7月21日以降本判決確定に至るまで,毎年6月15日限り24万
6792円,毎年12月15日限り31万5100円及びこれらに対す
る各支払日の翌日から支払済みまで,年5分の割合による遅延損害金を
支払うべき義務を免れない。
(4)よって,原告の給料並びに期末手当及び勤勉手当に係る請求は,前記
認容の限度で理由がある。
4争点4「被告主張の変形労働時間制の有効性」について
(1)本件で被告が主張している変形労働時間制は,1か月単位のものであ
るところ,労基法32条の2に定める1か月単位の変形労働時間制が適用
されるためには,単位期間内の各週,各日の所定労働時間を就業規則等に
おいて特定されていることが必要であり,そのためには,作成された各書
面の内容,作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らか
にした上で,各週,各日の所定労働時間が特定されているかどうかを判断
する必要がある(最高裁判所平成14年2月28日第一小法廷判決・民集
56巻2号361頁。以下「大星ビル管理事件判決」という。)。そして,
被告は,常時10人以上を雇用する事業場であるから,就業規則において,
変形期間内の毎労働日の労働時間を始業・終業時刻とともに特定しなけれ
ばならない(労基法89条,昭和63年1月1日労働基準局長通達1号)。
しかし,業務の実態上,就業規則による特定が困難な場合には,変形労
働時間制の基本事項(変形の期間,上限,勤務のパターンなど)を就業規
則で定めた上,各人の各日の労働時間を具体的な期間ごとに勤務割当表に
よって特定することも認められるが(昭和63年3月14日労働基準局長
通達150号),就業規則上は変形労働時間制の基本的内容と勤務割りの
作成手続を定めるだけで,使用者が労働時間を任意に決定できるような制
度は違法であって許されないと解される(昭和63年1月1日労働基準局
長通達1号)。
(2)この観点から本件を検討するに,被告においては,被告就業規則8条
に「寮監の勤務時間については変形労働時間制とし,個別に定める。」と
規定されているのみであり(甲1),変形の期間や,上限,勤務のパター
ン及び各日の始業時刻や終業時刻の定めなどは全く規定されていない。ま
た,被告においては,労基法36条に規定されているいわゆる36協定も
締結されていない(当事者間に争いがない。)。
(3)したがって,被告の主張する変形労働時間制は,法の要求する要件を
満たしているとは認められないから,被告の主張する変形労働時間制を有
効と認めることはできない。
(4)なお,被告は,平成18年4月ころに岡山労働基準監督署に相談し,
労基法41条3号による許可を受けたい旨申し入れた際,同監督官から,
同号の許可は不要であって,現在の変形労働時間制を継続して差し支えな
いとの指導を受けた旨主張するが,これを裏付ける証拠はない。また,被
告は,監督官庁の指導により,前記就業規則8条を,平成20年4月1日
から「変形労働時間制とし,毎年4月1日から2週間ごとに定め,これを
学校長からそれぞれの寮監に対し,書面により指示する。」よう改正した
と主張するが,改正後の就業規則も提出していない。また,仮に,同主張
の内容で改正されたとしても,やはり,変形の期間や,上限,勤務のパタ
ーン及び各日の始業時刻や終業時刻の定めなどは規定されていない。よっ
て,被告の同主張は,当裁判所の判断を左右するものではない。
5争点5「寮監の仮眠時間の労働時間該当性及び手当」について
(1)労基法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれ
ている時間をいうが,①所定労働時間外に労働者が使用者の業務の範囲に
属する労務に従事した場合に,それに要した時間が前記意味の労働時間に
該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと
評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり(最高裁判
所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照),
②実作業に従事していない不活動時間が前記意味の労働時間に該当する
か否かは,労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれてい
たものと評価し得るか否かにより客観的に定まるものというべきである
(大星ビル管理事件判決)。
(2)そこで本件について検討するに,①被告は,原告に対し,仮眠時間を
含めた時間帯を宿直勤務として命じていること,②被告作成の「M寮運営
のあらまし」(甲19)にも「宿泊勤務として23:00~09:30,
拘束10時間=実働5時間+仮眠5時間」と記載されていること,③仮眠
時間も仮眠室内で過ごさなければならず,外出や外泊等は許されていない
こと,④飲酒などは禁止されていること,⑤寮内の消灯・点灯,傷病者が
出た場合の手当,生徒数の確認,戸締まりの確認,生徒指導日報の作成,
各部屋の巡回が業務として定められていること(甲66)などからすれば,
仮眠時間も使用者の指揮命令下にあると認めるのが相当というべきであ
る。
(3)被告は,宿泊場所を強制しているが,寮生の事故などが発生したよう
な特別な場合を除くほか,業務はないから,仮眠時間は勤務時間には該当
しないと主張し,同主張に沿う証拠(乙9,12,被告代表者本人)もあ
るが,採用することはできない。
6争点6「原告に認められるべき時間外勤務手当等の額」について
(1)原告の勤務実績が別紙のとおりであることについては,当事者間に争
いがない。ただし,泊まり明けの勤務終了時間である午前9時30分から
タイムカードに打刻された時間までの時間(合計70時間)については,
これが時間外勤務と認められるかどうかにつき争いがあるので検討する
に,これらの時間帯も被告の指揮命令下にあったと認められ,本件各証拠
によるも,原告が,勝手に帰宅時間をずらしたとの被告主張事実を認める
ことはできない。よって,これらについても原告の労働時間から除外する
必要はないというべきである。
(2)前記争点4に対する判断で説示したように,被告の主張する変形労働
時間制は認められず,また前記争点5に対する判断で説示したように,仮
眠時間も労働時間と認められる。そして,被告においては,寮監の宿直勤
務につき,労基法41条3号のいわゆる監視断続業務としての行政官庁の
許可を受けていないから,被告は,当該時間に対しても時間外勤務手当の
支払義務を免れるものではない(東京高等裁判所昭和45年11月27日
判決)。
(3)以上のところからすれば,原告の時間外労働時間等については,次の
とおりであったと認められる。
ア平成17年12月1日から平成19年3月31日まで(ただし,次の
イに記載する期間101日間を除く。)
(ア)時間外勤務時間合計558時間
(イ)休日勤務時間合計263.5時間
(ウ)深夜勤務時間合計902時間
(エ)時間外勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務時間
合計56.5時間
(オ)休日勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務時間
合計51時間
イ平成18年1月8日から同年3月19日の71日間及び平成19年
1月21日から同年2月19日(原告は,同月21日までと主張する
が,別紙から見て誤りである。)までの30日間の合計101日間
(ア)弁論の全趣旨によれば,この101日間においても,原告は,
通常の勤務に服していたと認めるのが相当である(特に,この間,
原告が別の形態による勤務に服していたと認めるに足りる証拠はな
い。)。よって,前記アの時間外勤務時間等を基礎として,それぞれ
の期間日数で案分計算することにより,この101日間における時
間外勤務時間等を算定することとする。
(イ)期間日数
①平成17年12月1日から平成19年3月31日まで486日
②486日-101日=385日
(ウ)各案分時間数(小数点第2位以下切り捨て)
①時間外勤務時間146.3時間
合計558時間÷385日×101日=146.3時間
②休日勤務時間69.1時間
合計263.5時間÷385日×101日=69.1時間
③深夜勤務時間236.6時間
合計902時間÷385日×101日=236.6時間
④時間外勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務時間
14.8時間
合計56.5時間÷385日×101日=14.8時間
⑤休日勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務時間
13.3時間
合計51時間÷385日×101日=13.3時間
ウ被告給与規程28条1項によれば,休日勤務手当及び時間外勤務手当
の算定方法につき,勤務1時間につき,勤務1時間当たりの給与額の1
00分の125(その勤務が法定休日である場合には100分の135
及び深夜勤務である場合は,100分の150)を休日勤務手当及び時
間外勤務手当として支給する旨規定されている。
そして,同規定30条によれば,1時間当たりの給与単価は,給料の
月額に12を乗じ,その額を1週間当たりの勤務時間に52を乗じたも
ので除した額とされ,端数が生じたときは,これを切り上げることとさ
れている。
そうすると,原告の基本給与月額は,44万0700円であるから,
勤務1時間当たりの給与額は,次のとおり,2543円となる。
44万0700円×12÷(40時間×52)=2543円
(4)よって,原告の時間外勤務手当等は,次のとおりとなる(端数切り上
げ。被告給与規程30条2項)
ア平成17年12月1日から平成19年3月31日まで(ただし,次
のイに記載する期間101日間を除く。)
(ア)時間外勤務時間(100分の125)
2543円×125/100×558時間=177万3743円
(イ)休日勤務時間(100分の135)
2543円×135/100×263.5時間=90万4609円
(ウ)深夜勤務時間
2543円×125/100×902時間=286万7233円
(エ)時間外勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務時間
2543円×150/100×56.5時間=21万5520円
(オ)休日勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務時間
2543円×160/100×51時間=20万7509円
(カ)合計596万8614円
イ平成18年1月8日から同年3月19日の71日間及び平成19年
1月21日から同年2月19日までの30日間の合計101日間
(ア)時間外勤務手当
2543円×125/100×146.3時間=46万5052円
(イ)休日勤務手当
2543円×135/100×69.1時間=23万7224円
(ウ)深夜勤務手当
2543円×125/100×236.6時間=75万2093円
(エ)時間外勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務手当
2543円×150/100×14.8時間=5万6455円
(オ)休日勤務が深夜の時間帯に及んだ場合の勤務手当
2543円×160/100×13.3時間=5万4116円
(カ)合計156万4940円
ウよって,原告の本争点に係る請求は,総合計753万3554円の
限度で理由がある。
596万8614円+156万4940円=753万3554円
エしかしながら,被告においては,平成18年3月31日まで,宿直
勤務に対し,月額3万8000円を支給していたから,これを控除す
べきである。よって,結局,738万1554円となる。
3万8000円×4か月(平成17年12月~平成18年3月)
=15万2000円
753万3554円-15万2000円=738万1554円
7争点7「付加金(労基法114条)の支払の可否及び額」について
(1)争点6に対する判断で説示したように,被告は,原告に対し,時間外
勤務手当等として738万1554円の支払義務を負っていると認めら
れる。しかしながら,裁判所が,使用者に対し,付加金の支払を命じる
ことが相当ではないと認められるような特段の事情がある場合には,裁
判所はその支払を命じないこともできると解され,また,その範囲内で
適宜,減額することも許されると解するのが相当である。
(2)そこで,検討するに,原告が本訴で請求している時間外勤務手当等に
おいては,仮眠時間が相当の時間数を占めているところ,これらについ
ては,監視断続業務に該当する宿日直勤務として適正な手続を執ってい
れば,時間外勤務手当などの支払義務を免れる可能性があるものであり,
原告を除く他の寮監は労働時間とは認識していない(乙9)。
(3)これらのことを勘案からすれば,少なくとも仮眠時間に係る時間外勤
務手当等については,被告に対し,付加金の支払を命じることは相当と
は思われない。
(4)以上のことを勘案し,当裁判所は,被告に対し,付加金として,前記
認容額の7割相当額である516万7087円(円未満切り捨て)の支
払を命じることとする。なお,原告は,本請求に係る附帯請求として本
訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金を請求しているが,
付加金は判決が確定して初めて支払義務が発生するものであるから,こ
の点についての原告の請求は失当であって理由がない。
8争点8「原告に認められるべき慰謝料の額」について
(1)これまでに説示したように,本件休職処分及び本件解雇処分は無効で
あるから,これにより,原告は,一定の精神的苦痛を被ったと認められ
る。
しかしながら,原告は,その被った精神的苦痛に対し,金銭的賠償を
求めているところ,これは前項までに認容した被告からの金銭支払によ
り,相当程度回復するものと思われる。
(2)以上のところから,当裁判所は,原告の慰謝料として100万円が相
当と判断する。
9なお,原告が,被告から退職金名目で1057万7000円を受領して
いることは当事者間に争いがないが,被告は,同退職金返還請求権との相
殺や充当などにつき,何ら主張していない。
10まとめ
以上によれば,原告の本訴各請求は,前記認容の限度で理由があるから,
これを認容すべきであるが,その余の部分は理由がないから棄却を免れな
い。
よって,主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第2民事部
裁判官工藤涼二

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