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主文
 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 2被控訴人の本訴請求を棄却する。
 3控訴人の反訴主位的請求を棄却する。
4 控訴人の反訴予備的請求に基づき,被控訴人は,控訴人に対し,金85万
4294円及びこれに対する平成10年7月15日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
 5控訴人のその余の反訴予備的請求を棄却する。
 6 訴訟費用は,第1,2審とも,本訴・反訴を通じこれを2分し,その1を
控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。
 7 この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2)ア 反訴主位的請求
被控訴人は,控訴人に対し,882万4700円及びこれに対する平成
10年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 反訴予備的請求
被控訴人は,控訴人に対し,314万8395円及びこれに対する平成
10年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人の請求を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(5)仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1本件は,控訴人・被控訴人間の店舗建築請負契約について,被控訴人が控訴
人に対し,同契約は合意解除されたとして,出来高から既払分を控除した残額の支
払を請求した本訴事件と,控訴人が被控訴人に対し,主位的に債務不履行を主張し
て損害賠償を,予備的に過払分の不当利得返還を請求した反訴事件である。
2 争いのない事実
(1) 被控訴人は,平成9年12月7日,控訴人との間で,次の約定のもとに3
階建店舗兼居宅(以下「本件建物」という。)の建築請負契約を締結した(以下
「本件請負契約」と,契約に係る工事を「本件工事」という。)。
工事名D新築工事
場  所  京都府宇治市hi番地j,同番地k,同所l番地m
代  金  2166万1500円(消費税103万1500円を含む)
工  期  着手 平成9年11月7日
完成 平成10年3月30日
支払方法  着工時 722万0500円
中間金 722万0500円
引渡時 722万0500円
(2) 控訴人は,E建築設計事務所ことF(以下「F」という。)に対し,本件
工事について設計工事管理を委託していた。
(3) 控訴人は,被控訴人に対し,本件請負契約に基づき,次のとおり代金を支
払った。
 ア 平成9年11月4日   200万円
 イ 平成9年12月11日  522万0500円
 ウ 平成10年1月16日  722万0500円
(4) 被控訴人は,控訴人の妻Gに対し,平成10年1月10日の上棟時,本件
工事完了時には100万円の赤字になる旨告げて,工事代金の増額を要求した。
(5) 被控訴人,G及びFは,平成10年2月13日,本件工事の工事現場にお
いて,本件工事について協議したが,被控訴人とFの間で口論となり,その後被控
訴人がFを引き倒し,Fが負傷した。
(6) 被控訴人は,同日以後,本件工事を中止した。
(7) 控訴人は,平成10年3月11日到達の内容証明郵便により,被控訴人の
債務不履行を理由に本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
 3 争点
(1) 本件工事の見積り経過と仕様変更の合意の有無
ア 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,Fと何度も本件工事について打ち合わせをし,Fに対
し,本件建物について3階総鉄筋コンクリートの打放しとし,代金3350万円と
いう第1見積り(甲14)から,1階のみ鉄筋コンクリート,2階は木造とし,代
金2729万4000円という第2見積り(甲13)及び代金2690万1820
円とする第3見積り(甲15)を経て,代金2267万4560円とする第4見積
り(甲16)を出した。
(イ) 被控訴人は,このように代金額を減額する見積りをする中で,Fか
ら,設計図を無視して,建物のレベル,仕上材など仕様変更をしてもよいから,控
訴人の予算2000万円に合わせてほしいといわれて,最終的に本件請負契約の代
金が合意されたものである。
(ウ) 見積書は,あくまで見積りであるから,相互に齟齬があるからとい
って,後から作られたものといえるものではない。また,被控訴人は,減額してい
く過程で何をどのように減額するかについて,控訴人と直接交渉したことはなく,
控訴人の意を受けたFは,契約金額内に納めてくれればそれでよいとの態度であ
り,変更項目や金額について細かく合意したことはない。
イ 控訴人の主張
(ア) 第1ないし第4見積りの見積書は,当時に作成されたものではな
い。控訴人もFもその存在は知らない。
Fは,3階総鉄筋コンクリートの打放しについて2700万円の見積
りを見せられたことはあるが,これでは控訴人の予算をはるかに超えるので,1階
のみ鉄筋コンクリート造・2階を木造の混構造に変更して2300万円の見積りを
得た。
(イ) 第1ないし第4見積りの見積書は,不自然で,矛盾するものであ
る。控訴人自身も最初の見積書は2700万円であったと証言している上,300
0万円以上では注文しないと聞いていたはずであるのに3350万円の見積りをす
るはずがない。また,第1見積りと第2見積りでは,構造が変更しても変動するは
ずのないシート養生,防水コーキング工事が変動しており,基礎仮枠工事が増えた
りしている。第2見積りと第3見積りでは,合計額が誤っており杜撰なものである
上,地盤改良工事が別途工事とされたり,諸経費が極端に増額となっており,不自
然である。さらに第3見積りと第4見積りとでは,被控訴人が主張するホールダウ
ン金物や筋交いプレートの削除がされているはずであるのに,構造金物の金額は変
更されていない。
 (ウ) 第4見積りから本件請負契約への減額は,「石工事」「内装工事
及」及び「雑工事」の各減額と値引額については24万円が増額となった結果であ
る。
  (2) 本件請負契約の終了原因
 ア 被控訴人の主張
  (ア) 本件工事については,仕様変更の合意があったにもかかわらず,F
は,平成10年2月13日,被控訴人に対し,コンクリート打放しの仕上がり具
合,ホールダウン金物や筋交いプレートがないことについて難詰し,これが原因と
なって被控訴人がFを負傷させた。
  (イ) そのやり取りの中で,Fが被控訴人に対し,「工事がいやだったら
やめてもええで」と言ったので,被控訴人は,現場で作業中の大工に話が聞こえな
いようにするため,Gを屋外に連れだし,控訴人の意向を確かめた。Gは,「もう
結構です。」と述べたため,被控訴人は,Gに対し,工事を中止する及び後日精算
書を送る旨伝えた。
  (ウ) したがって,本件請負契約は,合意解除ないし注文者が損害を賠償
すべき民法641条による解除に該当し,その後の工事中止は債務不履行ではな
い。
 イ 控訴人の主張
  (ア) 本件工事については,代金の増額はできないことを確認したにもか
かわらず,被控訴人は,一方的に仕様を変更したり,増額請求するなどした。そし
て,増額請求に応じないと工事をしないとの態度を示し,Fを介さずGと折衝しよ
うとしたりした。しかも,コンクリート打放しには瑕疵があり,ホールダウン金物
は設計図面で設置が定められていたのに設置されなかったりしたため,平成10年
2月13日の協議となった。
  (イ) 被控訴人が同日の協議で,Fを負傷させた上,Gを屋外へ連れだし
て工事代金の増額を要求し,工事を中断させると1か月は職人が来ないと強迫した
ため,Gは,恐怖感からその場で被控訴人に対し,工事を止めてもらっていいと返
事した。
    Fの工事をやめてもよいとの発言は,被控訴人に対し,本件請負契約
を契約どおり履行するよう要求するものであり,また,被控訴人の要求は,注文者
にとって進退窮まるものであり,背信性が高い行為である。
  (ウ) 結局,Gが工事を止めてもらってよいといったことは,被控訴人の
不履行を原因として本件請負契約を解除したものであり,そうでなくても,被控訴
人は,一方的に本件工事を途中で放棄したものである。
  したがって,本件請負契約は,被控訴人の債務不履行が原因で,控訴
人が解除して終了したものである。
  (3) 本件工事の出来高
 ア 被控訴人の主張
  (ア) 本件工事の出来高は,1846万2580円である。
  (イ) 被控訴人の主張は,原判決添付別表「出来高に関する争点整理表」
の「原告査定額」及び「原告根拠」欄各記載のとおりである。
 イ 控訴人の主張
  (ア) 本件工事の出来高は,1129万2605円である。
  (イ) 控訴人の主張は,以下の点を特に付加するほかは,原判決添付別表
「出来高に関する争点整理表」の「F査定額」及び「F根拠」欄各記載のとおりで
ある。
   ① 仮設工事は日数で算定すべきである。
   ② 造作材の搬入は未完了で,出来高は,21万5140円である。
 ③ 大工手間は,H建設の続行工事との差額からみて,28万9710
円以上ではない。 
 ④ 金属性建具搬入取付費は,設置が完了したのは18か所のうち7か
所にすぎないから,合計で6万3000円である。
 ⑤ 木コン穴ウメ補修は,必要面積77.4平方メートルのうち34.
9平方メートルのみ完了したから,出来高は8万6000円である。
 ⑥ 電気・換気設備の出来高は,引込み幹線工事が一部されたにとどま
り,配線は完了していない上,H建設の続行工事費と比較しても10万円を超える
ものではない。
 ⑦ 給排水衛生工事・ガス設備工事の出来高は,第1次配線しか行われ
ておらず,各機器までの配管・接続工事がされていないから5万円を超えるもので
はない。
  (ウ) 被控訴人の工事の後を引き継いで,本件建物を完成させたH建設の
工事部長による査定も1139万2122円というもので,ほぼ同額の査定をして
いる。
 (4) 損害及び不当利得の額
  ア 控訴人の主張
 (ア) H建設との請負契約代金1253万7000円(乙19),材料不
足や被控訴人の瑕疵工事の補修等追加で発生した費用33万4700円(乙1
4),足場等を設置していた下請業者に別途支払った費用37万3500円(乙1
5,16),被控訴人に対する既払金1444万1000円の合計2768万62
00円と本件請負契約の契約金2166万1500円との差額602万4700円
が,被控訴人の債務不履行により増加した工事費用として損害となる。
 (イ) 控訴人は,被控訴人の背信的な要求を受けた上,本来平成10年3
月30日に本件建物の引渡しを受けるはずであったのに,H建設による完成をみた
のは同年5月であり,新茶の販売時期に間に合わず,相当額の利益を逸した。この
ような事情を考慮すれば,被控訴人の債務不履行による慰謝料は200万円が相当
である。
 (ウ) 弁護士費用は80万円が相当である。
 イ 被控訴人の主張
   すべて争う。
第3 証拠
   証拠は,原審及び当審の証拠関係目録記載のとおりであるから,これを引用
する。
第4 当裁判所の判断
 1 争いのない事実,証拠(甲1ないし4,10,11,12,13ないし1
6,乙4,6,7,8の1及び2,10,11,12〔採用しない部分を除
く。〕,13,17,26,31,原審における証人F〔採用しない部分を除
く。〕及び被控訴人本人〔採用しない部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実を認めることができる。
(1) 控訴人は,平成9年6月ころ,Dの新築を計画し,知人を介してFの紹介
を受け,同年7月ころ,Fに設計・監理を任せることを決めた。
  被控訴人は,「B建築事務所」「B住宅建設」という名称で建築設計業務
と建設工事業を行っているが,平成8年ころ,大津市内での建築工事においてFと
知り合い,Fが設計した建物を予算内に納めて建築したことがあった。
(2) 控訴人は,手持ち資金の限度が2000万円であることから,Fに対し,
予算が2000万円であり,工事代金の増額には応じられないことを告げていた。
Fは,当初,本件建物を3階総鉄筋コンクリートの打放しとして設計し,平成9年
7月,I建設工業株式会社に見積りを依頼したところ,約3000万円との見積り
結果を得た。そこで,Fは,同年8月,被控訴人に対し,予算が2000万円であ
ること,他社の見積りは約3000万円であったが,到底受け入れられないもので
あったことを告げた上,3階総鉄筋コンクリート造として見積りを依頼した。
  なお,建築確認申請は,2階建ての建物としてされたが,実際には,屋根
裏部分(ロフト)がつく3階となる建物となっている。
(3) 被控訴人は,3階総鉄筋コンクリート造りとして代金3350万円の第1
見積り(甲14)をしたが,F及び控訴人には提示しなかった。被控訴人は,その
後,Fから,1階のみ鉄筋コンクリート造・2階及び3階は木造に構造変更すると
の連絡を受け,代金2729万4000円とする第2見積り,代金2690万18
20円とする第3見積りをし,見積書(甲13,15)をFに提示した。
しかし,Fは,被控訴人に対し,控訴人の予算に合わせてほしいと申し入
れたため,被控訴人は,Fとさらに打合せをして,平成9年11月末ころ,代金2
368万5000円とする第4見積り(乙31)を出したが,これでもまだ予算に
合わず,石工事から大理石面積を減少させ,内装工事から電動式ブラインドを取り
やめ,雑工事についても1階の陳列台を変更し,小庇を取りやめて,代金2267
万4560円とする第5見積り(甲16)を出した。これについても,さらに,被
控訴人とFとの間で交渉をし,Fが代金を希望に合わせてくれるなら,建物のレベ
ル,仕上げ材等工事内容を変更してよいと言ったので,被控訴人は,平成9年12
月初め,最終的に本件請負契約の契約金2166万1500円に減額した。
  本件請負契約の契約金が決定される際には,Fは,被控訴人に対し,建築
実施図面は提示していたものの,電気設備,給排水衛生ガス設備,空調換気設備に
ついての設計図面は渡していなかった上,第5見積りからさらに減額する項目や内
容について,被控訴人との間においても控訴人との間においても具体的な合意はさ
れなかったし,仕様書も取り交わされず,工事の基準も決められていなかった。
(4) 被控訴人は,平成9年11月初めころ,控訴人との間で,工事請負仮契約
を締結し,本件建物の敷地にあった旧建物の取壊しを始め,同年12月7日,本件
請負契約を締結した。この際も,控訴人は,被控訴人に対し,契約金額の増額はで
きないことを強く念押したが,被控訴人も工事には細かい変更がつきものなので,
多少の金額の増減がある旨は述べた。
(5) Fは,本件工事現場に,ほぼ毎日数時間程度来て,監理業務をしていたと
ころ,コンクリートの打放しには,ジャンカや不陸といった不具合が生じた。F
は,控訴人から,コンクリートの打放しのできあがりについて不満を聞かされた
が,被控訴人に対しては,補修すべきところは補修すればよいとの意向を示し,で
きあがりが特別ひどいものであるなどとは言っていなかった。被控訴人は,補修は
やむを得ないと思っていたが,補修か所に塗装をするのであれば,別途工事代金が
加算されるべきであると考えていた。
  また,Fは,被控訴人がコンクリートと柱の結合部にアンカーボルトを設
置するのを見ていたが,これをホールダウン金物に取り替えるよう指示をしたこと
はなかった。なお,設計図面にもホールダウン金物の設置位置は示されていない。
(6) 被控訴人は,契約前にFから予算に合うように工事をすればよいと言われ
ていたことから,何とか予算内に納めようとし,2階正面の窓枠,トップライト,
階段の仕上げ,2階のミニキッチンは,設計図と異なる仕様のものとし,また,物
干場の手すりを設置しなかったが,Fも平成10年2月13日までは特に異を唱え
なかった。
  また,サイディングについては,設計図にその幅などの指示はなく,F
は,単に好みとして90センチメートル幅を考えていたが,被控訴人は,単価の安
い幅45センチメートルのものを設置した。
  電気の配電盤についても,店舗スペースに設置する図面となっており,こ
れについてFから異議が出された形跡はない。
(7) 控訴人及びGは,上記(6)の点以外にも,タラップや2階和室のビニール
クロス貼り,ロフト奥の天井部分,出窓天板,光庭上部のガラスなどについて不満
を抱いていた。
  被控訴人は,Gに対し,平成10年1月17日の上棟式前後から,本件工
事をこのまま続ければ,100万円くらいの赤字となるので,この増額を要求する
ようになり,また,Fを通さないで,各種施工につき,仕様の変更に直接応じてほ
しいと要求するようになった。
(8) そこで,控訴人及びGは,Fに対し,工事の内容や被控訴人の態度につい
て不満を述べるようになり,同年2月13日,被控訴人,F及びGが本件工事現場
において協議をすることになった。FとGとの間では,とりあえず,工事を止めて
もらうように考えていた。
  Fは,同日午後,被控訴人に対し,これまで被控訴人との間では補修とい
うことで了承していたコンクリートの打放しの不出来について,かなり激しい口調
で責め立てたり,アンカーボルトの施工中には特に変更を求めなかったにもかかわ
らず,ホールダウン金物が設置されていないことなどを厳しく指摘したため,被控
訴人は,かっとなってFを引き倒し,同人を負傷させた。その後,Gは,被控訴人
に対し,現場の仕事を止めたいのかと問いかけ,Fも,被控訴人に対し,「やめた
かったらやめてもええぞ」と言ったので,被控訴人は,作業中の大工に聞かれない
ようにするためGを屋外に連れ出し,工事代金額の不満を述べつつ,その場で工事
の断続について意思を確かめたところ,Gもこれ以上被控訴人に工事を続けてもら
いたくないとの思いから工事中止を表明した。
(9) 被控訴人は,平成10年2月16日,Fに契約解除の精算をするため,一
時中断した工事を再開しないように申し出た後,出来高を見積り,控訴人及びFに
対し,出来高書(乙6)を送付した。一方,控訴人は,同年3月10日到達の内容
証明郵便により,被控訴人の債務不履行を理由として本件請負契約を解除する旨の
意思表示をした。
 以上の事実を認めることができ,これに反する乙12の一部,原審における
証人Fの供述及び被控訴人本人の供述の各一部は,前掲各証拠に照らして採用でき
ず,また,Fは,本件訴訟に至っては被控訴人と利害対立関係にあり,同人作成の
乙28,29は,自己の不都合を被控訴人に押しつけるものであり,直ちに採用す
ることはできず,他に上記認定を左右するに足りる的確な証拠はない。
 2 争点1について
 (1) 上記1認定の事実によれば,Fは,当初,本件建物を3階総コンクリート
造とする設計をしていたが,見積り額が控訴人の希望をはるかに超えるものとなっ
たため,1階のみコンクリート造りとし,2,3階は木造とする混構造として設計
し直し,被控訴人に見積りを依頼したこと,被控訴人が混構造を前提に見積もった
ところ,2700万円前後となったため,さらにFと被控訴人との間で打合せを
し,平成9年11月末ころ,2368万5000円とする見積りを作成したこと,
この見積り額から石工事,内装工事,雑工事分を減額したが,それでも控訴人の予
算に合わず,Fは,被控訴人に対し,建物のレベル,仕上げ材等を変更してもよい
として値引きを求め,被控訴人も工事を予算に合わせてもよいということで,値引
きに応じ,本件請負契約の契約金2166万1500円が合意されたこと,値引き
分については,具体的にどのような項目をどのように減額するかをFと被控訴人と
の間で決めないまま,工事着工となったことが認められ,したがって,被控訴人に
おいて,ある程度予算に合うように各種仕様を変更できると考えたことも無理から
ぬところであり,これを被控訴人の債務の不履行であると評価することはできない
というべきである。
(2) 控訴人は,被控訴人の数次にわたる見積りが事後に作成されたものである
と主張する。
  なるほど,見積書(甲3,13ないし16,乙31)相互間には,細かく
見れば矛盾と思える点も存在する。しかし,上記1認定の事実によれば,最終的な
見積りが確定するまでには,Fの設計図面もすべてが完成していたわけではなかっ
たこと,各見積りは短期間に何度も作成されていること,見積りは,試算という面
も否定できないことを併せ考えれば,数次の見積りがされなかったということはで
きず,控訴人側も大理石を敷設する面積を減少させるなど予算内に納める努力をし
たし,被控訴人側も控訴人側が希望する予算内に納めるため,最終的に減額に応じ
たものというべきであり,控訴人の上記主張は理由がない。
 3 争点2について
  (1) 上記1認定の事実及び上記2の判断によれば,コンクリートの打放しにジ
ャンカや不陸が生じたこと,Fは,被控訴人に対し,これらについては補修で対応
すればよいと言っていたこと,被控訴人は,補修は認めるものの,その上から塗装
する場合は別途工事代金が必要になると考えていたこと,Fは,被控訴人がホール
ダウン金物を設置せずに,アンカーボルトを設置していたのを知りながら,これに
ついては特に指示を出していないこと,したがって,被控訴人としては,Fもアン
カーボルトで了解したものと考えたこと,被控訴人は,Fから,予算に合うように
工事内容を変更してよいと聞かされ,特に具体的に変更についての合意がなかった
ことから,2階正面の窓枠,トップライト,階段の仕上げ,2階のミニキッチンに
ついて,控訴人の希望や設計図と異なる仕様のものを設置し,また,物干場の手す
りを設置しなかったこと,また,サイディングについては,図面上90センチメー
トル幅との指示もなかったことから,被控訴人は,単価の安い45センチメートル
幅のものを設置したこと,電気の配電盤の設置位置は,図面上店舗スペースになっ
ていること,控訴人及びGは,これら仕様の変更を被控訴人が一方的に進めている
と感じて不満を募らせていったこと,そこで,控訴人及びGは,Fと相談し,平成
10年2月13日,F,G及び被控訴人が協議することとなったこと,しかし,協
議の冒頭からFが一方的に被控訴人を難詰したので,被控訴人がFを引き倒して負
傷させたこと,その後,Fは,被控訴人に対し,工事を止めたければ止めてもよい
と言ったため,被控訴人は,Gに対して意思確認をしたところ,Gは,被控訴人が
工事を止めることに同意したこと,そこで,被控訴人は,大工を引き上げ,以後の
工事を中止したことが認められ,結局,本件請負契約は,控訴人と被控訴人の合意
に基づき,解約されたものというべきである。
  (2) 控訴人は,Fがホールダウン金物の不設置を了承したことがないと主張す
るが,Fは,毎日本件工事現場に来て,本件工事の監理業務を行っていたのであ
り,アンカーボルトの設置を平成10年2月まで知らなかったということはできな
いというべきであるし,仮にこれを知らないとすれば,上記監理業務を怠っていた
といわざるを得ない。
(3) 控訴人は,G及びFは,被控訴人が契約どおりの工事をするよう求めたも
ので,被控訴人が本件請負契約の履行をしない場合に,債務不履行を理由とする解
除をしたものであると主張する。
    しかし,上記認定のとおり,被控訴人に債務不履行と評価すべき行為は認
められず,また,F及びGの合意も,被控訴人が突貫で進める工事をとりあえず止
める方向へもっていこうということを申し合わせたにすぎず,債務不履行解除を明
確に確認したものでないこと,F及びGが被控訴人に対し,平成10年2月14日
以降,作業を再開するよう要求したことはうかがえないことを併せ考えると,控訴
人の上記主張は理由がない。
  (4) 原審における被控訴人本人の供述によれば,Fが,控訴人に対し,コンク
リート打放しについて良い材料を使用したから良いものができあがるというような
説明をし,水や,固さ,時間あるいは季節やその日の状態により一様に仕上がらな
いこともあるなどの不利等を十分に説明していないため,控訴人に不満が生じたこ
とがうかがえる上,被控訴人には,工事を変更してでも予算内に納めるようにとい
いながら,控訴人にはそのような説明をしたことはうかがえないことなどから,控
訴人と被控訴人の間には溝が深まったと考えられる。そして,結局,Fがその溝を
埋めることができず,控訴人と被控訴人は本件請負契約を合意解約したものであ
り,被控訴人が一方的に本件工事を放棄したものとはいえない。
 4 争点3について
  (1) 検甲号各証及び検乙号各証並びに当審における鑑定の結果によれば,出来
高については以下のとおりであると認められる(いずれも消費税を含まず)。
   ア 仮設工事費               41万6714円  
被控訴人は,整理清掃費用,発生素材処分費用は,実費とすべきである
と主張するが,工事中断以後も工事完了まで発生するものであるから,工事中断日
までの工事進捗状況の割合によって算出すべきである。
   イ 土工事費                95万3500円
   ウ 地盤完了工事費             65万7900円
   エ コンクリート・型枠工事費       376万7000円
   オ 鉄筋工事               108万5000円
   カ 防水・コーキング工事費          7万3079円
   キ 石工事                       0円
   ク 木工事         280万7549円
    ① 構造材のうち,構造用金物は,設計図(乙17)にホールダウン金物
との指定がされているが,実際には,アンカーボルトしか敷設されなかったこと,
筋交い金物は,設置されているところもあり,50%の出来高とみるのが相当であ
る。
      被控訴人は,筋交い金物を増やしたというが,これを認めるに足りる
的確な証拠はない。
      その他の構造材の出来高は,100%とみるのが相当である。
    ② 造作材については,工事の進捗状況から見て,2階及びロフト階は6
0%,1階については10%と見るのが相当である。
      控訴人は,本件請負契約の見積金額からH建設の未納分を差し引いた
21万5140円が相当であると主張するが,H建設の算出した未納分は,続行工
事であることから割高になる可能性も否定できないこと,既に施工された分や搬入
された分もあることから,差引で算出するのが相当であるとはいえない。
      また,被控訴人は,工事中断日に,F立ち会いのもと,すべての造作
材を搬入したとするが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
    ③ 床については,フローリング材が搬入されていること,しな合板が貼
られていることから出来高は64%と認められる。また,外壁については,貼上げ
面積130.46平方メートルのうち,8.36平方メートルが未完であり,すか
し目地のコーキングが未完であるから出来高は85%と認められる。
      被控訴人は,いずれも完了しているとするが,上記のとおりである。
    ④ 大工手間については,各階の出来高を面積比で割り出すと,全体とし
て30%と認められる。
控訴人は,本件請負契約の見積金額からH建設の請求金額を差し引い
た差額が大工手間の出来高であると主張するが,上記のとおり,H建設の請求額
は,続行工事であることから割高になっている可能性を否定できず,また,本来予
定していた工事以外の分が含まれている可能性も否定できず,差引算出が相当であ
るとはいえない。
      被控訴人は,出来高が60%であるとするが,被控訴人の主張するサ
ッシュ取り付けは,金属建具の項目で計上されており,また,加工場での木材加工
は,構造材の項目で計上されていると考えられる。
⑤ 外部面格子の出来高は,50%と認められる。
   ケ 屋根工事費               52万4109円
コ 金属製建具工事費116万3430円
     控訴人は,搬入取付費として,設置すべき箇所が18か所あるのに,完
了しているのは7か所であるとし,1台9000円として6万3000円であると
主張する。しかし,搬入取付費の根拠が明らかでなく,上記主張は採用できない。
     被控訴人は,網戸が見積り落ちとなっているとするが,乙17のうちの
建具表からみて網戸の必要箇所は13か所であり,網戸の納入があった物の取付け
がされていないから,取付費用は減額となる。
   サ 左官工事費15万1132円
     控訴人は,木コン穴埋め補修の出来高が8万6000円であると主張す
るが,気泡跡までは補修しないのが一般的であり,ジャンカ部分の補修をすればよ
く,出来高は50%であると認められる。
   シ 吹付塗装工事費                   0円
   ス 木製建具工事費0円
   セ ガラス工事費19万2624円
     被控訴人は,出来高は29万8735円であるとするが,ガラス施工搬
入は,ガラスの未施工部分との按分割合によれば52.2%となるから,被控訴人
主張の出来高には達しない。なお,チオコールは未施工である。
ソ 内装工事費         0円
タ 雑工事費                14万9000円
チ 電気・換気設備工事費          35万0171円
  控訴人は,電話用の本線も建物の中に入っていないことやH建設の実際
の工事費用からみて,出来高は10万円であると主張し,被控訴人は,85万40
00円であるという。H建設の工事費用をそのまま被控訴人の出来高算出に用いる
ことができないのは,上記のとおりであるし,テレビ用受口配線工事及びエアコン
4台については内訳明細書にも記載がない上,値引きによりどのような変更がされ
たのかも不明であり,被控訴人主張の出来高を認めるに足りる的確な証拠もない。
ツ 給排水衛生ガス設備工事費26万8917円
  控訴人は,H建設の見積りや配線,配管が初期の第1次的なものしか行
われていないから5万円を超えるものではないと主張し,被控訴人は,出来高は8
2万6800円であるという。しかし,H建設の見積りをそのまま被控訴人の出来
高算出に用いることができないのは,上記のとおりであるし,値引き分によりどの
ような変更がされたかは不明であるが,値引き分を按分して考慮すれば,上記のと
おりとなる。
テ ボーリング工事費            15万0000円
ト 解体費68万7000円
ナ 諸経費82万5000円
控訴人は,工事の進捗度合いに応じて算出すべきであると主張するが,
工事期間に対する日割り計算として算出したものである。
   ニ 値引き分128万2405円
     アないしナの出来高を当初の見積り額との按分で算出した。
 (2) 上記アないしナを加算し,値引き分を控除して合計すると,被控訴人の出
来高は,消費税別で1293万9720円(税込みで1358万6706円)とな
る。
 5 争点4について
(1) 被控訴人が控訴人から1444万1000円を受け取ったことは当事者間
に争いがないところ,上記4のとおり,被控訴人の工事の出来高は消費税込みで1
358万6706円となるから,85万4294円が過払分であり,被控訴人は,
同額について返還義務を負う。
(2) 本件請負契約は,上記3のとおり,合意解約されたものであるから,足場
等を設置していた下請業者に別途追加で支払った費用やH建設に続行工事を依頼し
たことで結果的に増加した工事代金等や慰謝料,弁護士費用を被控訴人に請求する
ことはできない。
(3) なお,被控訴人の施工したコンクリート打放し工事には,ジャンカ,不陸
等の瑕疵が認められるから,注文主は,瑕疵の修補に代えて直ちに修補に変わる損
害賠償を請求することもできるが,これらが本件請負契約の債務不履行であるとは
いえない。そして,ジャンカ,不陸等の瑕疵修補に要した費用は,乙19及び原審
における証人Fの供述によれば,27万5185円であることが認められるけれど
も,控訴人は,予備的請求について,不当利得返還請求権を主張するのみで,瑕疵
修補に代わる損害賠償を求めていない(控訴人の2000年12月6日付け準備書
面,原審における2000年2月8日付け準備書面)。
(4) 被控訴人が,ホールダウン金物を使用しなかったことは,上記1認定のと
おりであるが,上記3のとおり,これは,被控訴人の債務不履行と評価することは
できず,むしろ,Fの控訴人に対する関係における債務不履行と評価すべきもので
ある。したがって,控訴人は,被控訴人に対し,L型プレートによる補強に要した
費用を請求することはできない。
(5) また,サイディングについて,45センチメートル幅では90センチメー
トル幅のものに比べて,機能的に劣るという証拠はなく,むしろ,Fの好みという
にすぎないものであるから,瑕疵であるとか債務不履行であるとはいえない。
 6 結論
   以上のとおりであって,被控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却すべ
きであり,債務不履行を理由とする控訴人の反訴主位的請求は理由がないが,工事
代金の過払金85万4294円の支払を求める限度で,反訴予備的請求は理由があ
るから,これを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
   よって,これと結論を異にする原判決を上記のとおり変更することとし,主
文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官   見   満   正   治
裁判官   辻   本   利   雄
裁判官   下   村   眞   美

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