弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 平成12年10月29日施行の大分県大野郡大野町の町長選挙における被告の
当選は無効とする。
2 被告は,本判決が確定した時から5年間,大分県大野郡大野町において行われ
る同町長選挙において,候補者となり,又は候補者であることができない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告である検察官が,平成12年10月29日施行された大分県大野郡
大野町の町長選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補して当選し同町長として
在職中である被告に対し,被告と意思を通じて本件選挙の選挙運動(以下「本件選
挙運動」という。)を行った被告の実弟である訴外Aが,公職選挙法(以下「法」
という。)221条1項1号,5号の罪を犯して懲役刑に処せられこれが確定した
として,法251条の2第1項に基づき被告の当選の無効及び立候補の禁止を求め
た事案である。
1 当事者間に争いのない事実
(1) 被告は,平成12年10月29日施行の本件選挙に立候補して当選し,同
月30日,同町選挙管理委員会からその旨告示されて同町の町長に就任し,現在,
同町長として在職中の者である。
(2) Aは被告の実弟である。
(3) Aは,平成13年5月25日大分地方裁判所において,本件選挙に関し,
次のような法221条1項1号及び5号該当の罪となるべき事実(以下「本件選挙
犯罪」という。)により,懲役1年6月(5年間の執行猶予)に処する旨の判決の
言い渡しを受けた。
(刑事判決により法221条1項に該当するとされた罪となるべき事実)
 Aは,被告に当選を得しめる目的をもって,
ア 訴外Bと共謀の上,いまだ被告の立候補の届出のない平成12年8月28日こ
ろ,
① 大分県大野郡α281番地所在の訴外C方において,本件選挙の選挙人である
訴外Dに対し,被告のため投票並びに投票とりまとめ等の選挙運動をすることの報
酬として,紙箱入り瓶ビール12本(時価合計3990円相当)の供与の申込みを
し,
② α1172番地付近路上において,本件選挙の選挙人である訴外Eに対し,前
①と同様の趣旨の下に,紙箱入り瓶ビール12本(時価合計3990円相当)の供
与の申込みをし,
③ α683番地の3所在の訴外F方において,本件選挙の選挙人である同人に対
し,前①と同様の趣旨の下に,紙箱入り瓶ビール12本(時価合計3990円相
当)を供与し,
④ β1847番地所在の訴外G方において,本件選挙の選挙人である同人に対
し,前①と同様の趣旨の下に,紙箱入り瓶ビール12本(時価合計3990円相
当)を供与し,
⑤ γ3342番地所在のH方において,本件選挙の選挙人である同人に対し,前
①と同様の趣旨の下に,紙箱入り瓶ビール12本(時価合計3990円相当)を供
与し,
イ いまだ前記届出のない同年9月18日
① δ234番地の1所在の被告事務所において,本件選挙の選挙人であり,か
つ,被告の選挙運動者であるBに対し,上記ア①と同様の趣旨の下に現金5万円を
供与し,
② 同所において,Bに対し,同人から被告の選挙運動者に供与すべき選挙運動の
報酬の資金として現金20万円を交付し,
ウ いまだ前記届出のない同月29日ころ,上記イ①の被告事務所において,Gに
対し,上記ア①と同様の趣旨の下に,現金5万円の供与の申込みをし,
エ Gと共謀の上,いまだ前記届出のない
① 同月29日ころ,α684番地所在のぶんご大野農業協同組合北部事業所広場
において,Fに対し,上記ア①と同様の趣旨の下に現金5万円を供与し,
② 同日ころ,α1934番地所在の訴外I方において,本件選挙の選挙人であ
り,かつ,被告の選挙運動者であるIに対し,前ア①と同様の趣旨の下に,現金5
万円を供与し,
③ 同月30日ころ,ε939番地所在の訴外J方において,本件選挙の選挙人で
あり,かつ,被告の選挙運動者であるJに対し,前ア①と同様の趣旨の下に,現金
5万円の供与の申込みをした。
(4) Aは,上記判決に対し控訴したが,平成13年9月5日,福岡高等裁判所
は控訴棄却の判決をし,Aの上告に対し,最高裁判所により上告棄却の決定がなさ
れ,同年11月20日上記有罪判決が確定した(以下,上記刑事事件を「本件刑事
事件」という。)。
2 争点
 本件の争点は,Aが被告と意思を通じて本件選挙運動をしたか否かの点にある。
(1) 原告の主張
 被告は,平成12年4月当時大野町議会議員として同町議会議長を務めていた
が,そのころ南部校区の自治会から本件選挙の候補者に推薦されたことなどから本
件選挙に立候補する意欲を抱き,同年6月下旬ころ,Aを含む兄弟3人を自宅に集
め,「兄弟の協力があれば,町長選挙に出馬したいと思っている。」などと言っ
て,平成12年10月29日施行の本件選挙に立候補する意向があることを打ち明
けるとともに本件選挙運動への協力を求めたところ,Aはこれを承諾し,兄弟の一
員として被告を応援して本件選挙運動をすることを決意したものである。そのこと
は,Aが被告の当選を得させるために本件選挙犯罪を行ったほか,後援会の立ち上
げに尽力したり,選挙事務所開きに出席したりしており,後援会事務所開設後は,
ほぼ毎日のように同事務所に常駐し,各校区の後援会の事務局長を招集し,事務局
長会議に出席し,後援会によるローラーと称する戸別訪問等選挙運動の策定に参画
し,みずからもこれに参加したり,告示後は,被告が乗った選挙カーに伴走する車
両に同乗したりする等本件選挙について重要な働きをしていたことによっても裏付
けられるところである。
(2) 被告の主張
 Aが被告と意思を通じて,本件選挙運動を行っていたことは否認する。また,原
告が主張するような兄弟間の話し合いで本件選挙に尽力することをAが承諾したこ
とはない。
 そもそも,Aと被告は,兄弟喧嘩が絶えず,険悪な伸であって,特に平成8年2
月以降,Aが社長であり被告が会長であった株式会社鎧南における被告に対する会
長職としての報酬をAが支払わなくなったことが2人の関係をさらに決定的に悪化
させ兄弟としての付き合いもなかったものである。それ故,被告の本件選挙への立
候補についても,Aは,被告が離婚などにより家族構成も整っていなかったことか
ら賛成しかねるといって激怒したくらいであって,被告は,Aに対し,選挙運動を
することを明示的には勿論黙示的にも依頼できる状況ではなく,Aとしても被告の
ために選挙運動を行う心づもりなどはなかったのであって,被告の選挙運動は,南
部地区の自治会の役員及び被告の地元のζ地区民らが被告を推挙し自主的に後援会
組織を立ち上げて行っていたものである。Aが原告が主張するような本件選挙に関
する協力行為のうち幾分かは行ったことを認めるが,その余の大部分はこれを認め
ることはできない。Aの本件選挙犯罪ほかAがなしたわずかな本件選挙に対する協
力行為は,被告と本件選挙運動をする意思を通じた上でのことではなく,Aが独自
の判断で単独で行ったものであり,被告の知らなかったことである。また,Aが行
った程度の選挙協力では,到底,本件選挙について連座制を適用する根拠とはなり
得ないものである。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 被告とAとが本件選挙運動をするにつき意思を通じていたか否かについて検討
する。
(1) 証拠(甲9,12,43)によれば,Aは,本件刑事事件における警察官
及び検察官の取調に対して,平成12年6月下旬ころ,被告の自宅に呼ばれ,被告
から大野町長選挙に立候補する決意を打ち明けられるとともに選挙運動への協力を
求められたのでこれに協力することを承諾した旨の供述をし,他方,被告も,本件
刑事事件における検察官の取調に対し,Aに本件選挙運動への協力を依頼しその承
諾を得た旨上記Aの供述に合致する供述をしている(以下,捜査段階の供述調書は
警察官に対するものも検察官に対するものも区別せず「供述調書」という。)。と
ころが,被告は,当審において,本件選挙についてAはじめ兄弟達に協力を依頼し
たことはあるが,Aからはこれを断られたから,Aとの間では本件選挙運動に関し
て意思の疎通はなかったと主張し,証人A及び被告本人は当公判廷においても同主
張に沿う供述(以下,証人Aと被告本人の供述を併せて「A及び被告の当審法廷供
述」という。)をしている。
(2) そこで,検討するに,前記争いのない事実及び証拠(甲4,5,8ないし
12,20ないし24,26ないし32,34及び35,42ないし47)並びに
弁論の全趣旨によれば,本件選挙運動の経緯について次の事実が認められる。
ア 平成12年6月(以下,特に示さない限り年度はいずれも平成12年であ
る。)に開催された大野町定例議会の席で前町長が正式に引退声明をしたことか
ら,当時大野町の町議会議長であった被告の出身地区である大野町南部地区の自治
会において,K,Lらが中心となり,被告を町長選挙に立候補させようという動き
が始まり,被告もこれを受けて選挙に立候補する決意をし,先ず,南部地区の後援
会を立ち上げKが後援会長となった。そして,同選挙は全町的な選挙戦であること
から,被告とKらは,南部地区ばかりでなく大野町一帯すなわち北部地区,東部地
区,西部地区,中部地区にもそれぞれ後援会を立ち上げて選挙運動を展開する計画
をたて,被告とKは,それぞれの地区の後援会の立ち上げに着手した。被告が,A
ら初め兄弟たちに町長選挙への立候補を表明して協力を依頼したのは,被告の周囲
でこのような動きが始まっている時期であった。
イ Kは,北部地区には後援会組織の世話をしてくれる人物の心当たりがなかった
ので,Aに相談したところ,Aは心当たりの人物に当たってみると言って,北部地
区の知人であるBに北部地区での後援会立ち上げをして欲しいと依頼したところ,
Bはこれを快く引き受けた。しかし,その後,被告が立候補のために町議会議員の
辞職表明をする時期が近くなったが,北部地区の後援会作りはほとんど進展しない
ままであった。そこで,危機感を覚えたAは,Bと協議して,北部地区で協力が得
られそうな人物を個別訪問して協力を依頼して回ることとし,8月28日に本件ア
②ないし⑤の各選挙犯罪に及んだものである。そして,被告は8月末に本件選挙に
立候補のため町議会議員を辞職した。
 ところで,Aは株式会社鎧南(以下「鎧南」という。)の代表取締役(社長)で
あったが,被告の選挙事務所の設置場所については,KとAが相談して,鎧南が管
理している土地を選定し,事務所の建設業者もAが斡旋して9月初旬頃に選挙事務
所が完成した。
ウ そして,そのころ,ようやく北部地区の後援会が立ち上がることとなり,9月
9日頃,北部地区の後援会の役員を選出する会合がG方で開かれることとなったた
め,AはKにもその旨連絡して出席を依頼し,被告とKは,当日他の地区の後援会
の挨拶回りもあったため,途中から同会合に出席して挨拶をした。
エ 一方Aは,中部地区のη地区に住むMやNに中部地区の後援会の役員に就任す
ることを依頼してその了解を得ていたところ,8月下旬頃,同地区を戸別訪問する
ことを思い立ち,MやNと一緒にη地区の選挙人を個別訪問して回った。
オ 9月12日までには,全ての地区の後援会組織が立ち上がっていたので,被告
やKらは,9月13日の事務所開きの前日である12日に,5地区の各後援会の役
員に選挙事務所に集まって貰い,各後援会のお披露目と役員達の顔合わせをすると
ともに,各後援会を統括する本部事務所の組織や役職を決定した。決定された組織
としては,意思決定機関ないし連絡調整機関として全体集会,事務局長会議,幹事
会などが設けられ,役職としては会長,副会長,本部事務局長などが決められた
が,重要な役職である本部事務局長には鎧南の社員であるOが就任し,以後選挙期
間中同人は選挙事務所の仕事に専従することとなったが,給与はいままでどおり鎧
南から支払われることとなった。その集まりにおいては,Aの妻がお茶の接待など
に従事していたが,鎧南の女子社員もそれに協力していた。そして,9月13日事
務所開きが行なわれ,被告もAも事務所開きに出席した。事務所開き後は,Aは,
会社の業務に支障のない限りできるだけ事務所に顔を出しており,また,Aの妻も
炊き出しなどの手伝いをしていた。
カ ところで,本件選挙運動の主要な方法は,各後援会が各地区の選挙民に「P応
援カード」と表題のあるカードを配り,その後それを回収して被告に対する支持率
の観測や票読みの基礎資料とするとともに,ローラー作戦と称する戸別訪問を行う
ことであった。また,組織的には,本部事務所の事務局長会議が選挙運動全体を統
括する集まりであり,Aは同会議のメンバーではなかったが,同会議を重要視して
ほとんど毎回同会議に出席していたところ,9月16日頃は,応援カードの回収率
も未だ悪かったため,危機感を抱いたAらは,9月18日に各後援会の会長ら役員
を集めた全体会議を招集し,ローラー作戦の日程を綿密に検討するとともに,それ
までの選挙運動を反省し事後の方針を検討するために定期的に事務局長会議を開催
することとした。そして,Aは,この日Bに選挙資金及び報酬として合計25万円
を交付する本件選挙犯罪イ①及び②を敢行し,さらに,9月29日には本件選挙犯
罪ウ及びエ①並びに②を,9月30日にはエ③をそれぞれ敢行した。そして,Aは
10月18日後援会に対して150万円の寄付をした。
キ その後の選挙運動は,10月21日に総決起集会を行い,10月24日に告示
がなされると,被告は立候補を正式に届け出るとともに,出陣式を行って選挙カー
に乗って大野町全体を回り始めた。Aは,鎧南の車両を提供したり,沿道住民等の
反応を観察して爾後の運動の参考にするために,選挙カーを後方から追尾するチェ
ックマンと呼ばれる役割を担ったりして協力し,そして,10月29日に本件選挙
の投票が行われて被告が大野町町長に当選した。
(3) 以上認定の事実を基に検討するに,先ず,Aが敢行した本件選挙犯罪は,
本件選挙における複数の選挙人及び選挙運動者に対する物品の供与あるいは供与の
申込み,現金の供与あるいは供与の申し込みであるが,いずれの事犯も,前記のと
おり,本件選挙運動の一連の流れの中で敢行されているものであり,この一事をも
ってしても,Aは本件選挙運動をするについて被告と意思を通じていたことを強く
推認させるものと言うべきである。
 また,Aは,本件選挙犯罪以外にも,前記認定のとおり,北部後援会の立ち上げ
を始め,中部地区のηの選挙人宅への戸別訪問に従事したり,本件選挙運動全体を
統括する事務局長会議へ出席したり,選挙事務所の設置場所の提供や事務所建設業
者の斡旋をしたり,後援会へ150万円の寄付をしたりしたほか,Aが社長である
鎧南の社員Oを鎧南から給与を支払いながら選挙事務所の重要な役職である本部事
務局長に専従させるとともに鎧南の女子社員にも選挙運動を手伝わせ,鎧南の車両
を選挙カーとして貸し与えたりするなど,自己が社長である鎧南の社員及び物品等
も動員して本件選挙に種々の協力をさせている。そして,告示後の選挙運動につい
ても,前記のとおり,チェックマンとしての役割に従事しているのである。このよ
うなAの働きは本件選挙運動において重要な地位を占めるものであり,Aは運動の
細部にわたっても気を配り協力しているうえ,前記認定の通り,被告とAは,北部
地区後援会の役員を決める会合にも同席し,爾後も事務所開き,総決起集会,出陣
式などに同席しているのである。そのほか,本件選挙事務所には被告関連の連絡先
の電話番号とともにAの電話番号も記載された電話番号表が貼ってあったこと(甲
46),選挙対策本部長名で作成され被告初め本件選挙運動関係者に対して示され
ていたと推認される「選挙日程行程表」にもAの氏名が書かれていたこと(甲4
7)などの事実をあわせ考えると,被告とAとは本件選挙運動について意思を通じ
ていたことを認めることができると言うべきである。
 そうすると,A及び被告の供述調書(甲9,10,43)中の,被告がA初め兄
弟たちに本件選挙運動への協力を求めた際,Aはこれを承諾したとの供述部分はい
ずれも真実であり,これを否定するA及び被告の当審法廷供述はいずれも採用する
ことができないと言わねばならない。
 被告は,兄弟たちの話し合いが行われたのは原告が主張する6月下旬ではなく,
7月1日であり,また,その場に姉のQは出席していなかったと主張して,乙5
(Qの陳述書)ないし乙7を提出している。確かに,前掲供述調書中のAと被告の
供述を対比すると,先ず,被告が兄弟達に対し選挙協力を依頼した時期について
は,Aが「6月下旬」,被告が「9月に入ってから」と大きな齟齬があり,また,
いずれの供述調書もQも出席していたことになっており,前掲Qの陳述書と反する
供述となっている。しかしながら,これらの齟齬をもって,前記認定の本件選挙運
動の経緯と極めてよく整合するところの,被告が選挙協力を依頼しAがこれに応じ
たとの前記各供述調書中の被告及びAの各供述部分の信用性までが左右されるもの
とは解し難い。
(4) ところで,被告は,上記(2)に認定の本件選挙運動の経緯に関する事実
のうち,Aが,①被告の後援会に150万円寄付したこと,②鎧南の従業員である
Oが選挙事務所の本部事務局長となっている間の給与を鎧南で支払ったこと,③北
部地区の後援会を立ち上げたこと,④街頭選挙活動のために鎧南の車を提供したこ
とについてはこれを認めるものの,それ以外の諸点,特に後に述べる各事実につい
てはこれを否定するとともに,上記Aが行ったと認める①ないし④の選挙協力につ
いても,被告とは意思を通じないままに行ったものであると主張し,その理由とし
て,もともと,被告とAとの仲は険悪であり,兄弟の付き合いもなかったので,A
としては,本来被告の選挙に協力などする意思はなかったものの,兄弟でありなが
ら実兄の選挙に協力もしないといった世間の非難を浴びるのを避け世間体を取り繕
うために仕方なく一定の協力はしようと考え,被告とは意思を通じないで一方的に
A独自の判断で本件選挙に協力するという方法を採ったものであると主張し,A及
び被告はいずれも同趣旨の当審法廷供述をし,Aの妻Rの陳述を代理人が録取した
事情聴取書(乙3)にも同旨の記載がある。しかしながら,前記認定の本件選挙運
動におけるAの取った積極的行動とその重要性に照らせば,被告の上記弁解は到底
採用できないといわねばならない。
(5) 次に,被告は,前記(2)に認定したAの選挙活動等のうち次の事実を否
認し,A及び被告は,同否認の趣旨に添った当審法廷供述をしているので検討す
る。
ア 先ず,前記(2)のウに認定の北部地区後援会の役員決めの席に被告が出席し
たことについて,被告は,この会合のことは何も知らされておらず,議員辞職の挨
拶回りの途中でG方に立ち寄ったところ,偶然北部後援会の会合が行われており,
Aと顔を合わせたにすぎず,被告はその場の集まりを近所の者達の飲み会と理解し
て町議時代にお世話になったことの挨拶をしたに過ぎないと弁解する。しかし,上
記北部地区の会合の出席についてはAはKに知らせて出席を依頼しており,そのこ
とはKの供述調書(甲20,21)によっても裏付けられているところであって,
Aが直接被告に連絡はしていないにしても,Kとともに出席した被告が同会合の趣
旨についてKからなにも知らされていなかったとは到底考えられず,また,Gの供
述調書(甲35)に照らしても,被告が北部後援会の役員決めの会と知ったうえで
立ち寄り挨拶をしたことは明らかというべきである。
イ 次に,前記(2)エに認定のMやNらと一緒にη地区の住民を戸別訪問したこ
とについては,被告は,Aが挨拶回りをしたこと自体は否定しないものの,この訪
問は,単に自治会の世話人の件について挨拶回りをしただけであり本件選挙とは全
く無関係であると主張する。しかし,上記挨拶回りが本件選挙運動の一環としてな
されたものであることは,その前後の経緯並びにM及びNの供述調書(甲41,4
2)によって明らかであり,この点についての被告の弁解も採用できない。
ウ 次に,被告は,Aが前記(2)カ,キに認定の事務局会議への出席やチェック
マンをしたりしたことはないと主張し,S及びT作成の各報告書(乙8,9)にも
同旨の記載がある。しかしながら,Aの事務局長会議への出席については,選挙事
務所において事務局長をしていたOの供述証書(甲26,27)及びLの供述調書
(甲22ないし25)によって裏付けられるところであり,チェックマンについて
は,Aが選挙カーの後方を追尾して走ったこと自体はAもこれを認めるところであ
り(当審法廷供述),前記Tの陳述書はこれを採用することはできない。もっと
も,Aは,選挙カーの後ろを追尾したのは,興味本位からでありチェックマンとし
てではないと供述するがあまりに不自然な弁解であって採用の限りではない。
エ また,被告は,そもそも後援会は,政治活動として行われるのであり,選挙で
当選する目的の選挙運動とは明確に区別されなければならないと主張し,Aが立ち
上げた後援会もそのような趣旨のものであるから,後援会を立ち上げたことをもっ
て直ちにAが選挙運動を行ったと認定すべきではないと主張し,乙10(供述者L
からの事情聴取書)にはその趣旨の記載がある。確かに,後援会というものは被告
主張のような側面を有することは否定できないであろうし,被告は本件選挙以前は
町議会議員であったものであるから,日常の政治活動の基盤としての後援会が存在
していてもなんら不自然ではない。しかしながら,選挙戦に突入した場合には,後
援会なるものが選挙運動の強力な母体となることは一般経験則上通常のことと考え
られ,ことに本件においては,被告の地元である南部地区を除くその他の地区の後
援会は本件選挙のために立ち上げられたものであることは明らかであるから,北部
地区後援会の立ち上げをしたAの活動は本件選挙運動としてなされたものと評価す
るに十分である。これらの事実をあわせ考えると,北部地区後援会の発足のために
尽力したAの活動は,本件選挙運動の中で重要な位置を占めるものであって,当初
の兄弟間の合意に基づいて行われたものと認めることができるから,被告とAと
は,連座制適用の要件である「意思を通じて選挙運動をしたもの」と認めるのが相
当である。
(6) ところで,被告は,原告の提出する本件各証拠は,そのほとんどが本件選
挙犯罪における捜査段階での供述調書であり,被告の反対尋問を経ていないもので
あって,その点において証拠価値の低いものであり,そのような書証を証拠として
本件訴訟の事実認定に供するのは不当であると主張する。確かに,原告が提出し,
当裁判所が前記認定に供した証拠は捜査段階における供述調書である。しかしなが
ら,捜査段階における供述調書が,選挙関係行政訴訟において,一般に事実認定に
供することができないほど証拠価値が低い証拠であるというべき根拠は全くなく,
かえって,甲4,5及び弁論の全趣旨によれば,本件において提出されている供述
証拠のほとんどが刑事裁判の証拠として提出され,刑事訴訟の厳格な手続きのもと
でその任意性・信用性が吟味され肯定された書証であると認められるから,格別の
事情がない限り,本件において原告側証拠として提出されている本件刑事事件の供
述調書の信用性が低いと評価することはできないと解すべきところ,被告提出の証
拠やA及び被告の当審法廷供述によっても,本件刑事事件の供述調書の信用性に疑
義を差し挟むべき特段の事情は窺えない。A及び被告は,当審法廷供述において捜
査機関による取調の過酷さを供述し,前記乙10(Lからの事情聴取書)にも同旨
の記載がある。しかしながら,本件に提出されたAの本件刑事事件における供述調
書は,本件選挙運動の具体的な進行状況,後援会及び本部事務局の役員らの動向並
びに事務局内部の状況等極めて具体的かつ詳細なものであって,その記載内容等に
照らしてそれらが捜査官の不当な誘導や押しつけによって作成された虚偽の内容の
ものであると解することはできない。
2 結論
 よって,法251条の2第1項により,被告の当選無効と5年間の立候補禁止を
求める原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
(平成14年4月5日口頭弁論終結)
福岡高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官 湯地紘一郎
裁判官 坂梨喬
裁判官 長久保尚善

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