弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、次記各原告に対しそれぞれ次記各金員とこれに対する昭和五七年六月
二九日から支払済まで年五分の割合による金員とを支払え。
 記
原告aに対し 金五六万一二〇〇円
原告bに対し 金四七万一一五〇円
原告cに対し 金二二万二三〇〇円
原告dに対し 金二〇万〇四〇〇円
原告eに対し 金一三万六八〇〇円
原告fに対し 金一六万四〇〇〇円
原告gに対し 金一四万五〇〇〇円
原告hに対し 金一二万七〇〇〇円
原告iに対し 金一三万八〇〇〇円
原告jに対し 金一九万五〇〇〇円
原告kに対し 金一七万二〇〇〇円
原告lに対し 金一二万九〇〇〇円
原告mに対し 金一三万六〇〇〇円
原告nに対し 金一一万二〇〇〇円
原告oに対し 金四万七一五〇円
原告pに対し 金五万一九五〇円
原告qに対し 金七万一八〇〇円
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
       事   実
一 申立
1 原告ら
 主文同旨の判決と仮執行宣言。
(但し、原告らが、別表就職日欄記載の日から同表退職日欄記載の日まで大和病院
の従業員として就労し退職したことに伴なうrと総評大阪地域合同労組大和病院分
会との昭和五五年五月七日付労働協約に基づく各退職金のうち、r破産宣告後の期
間に対応する分として、原告o、原告p、原告qの三名についてはその全額、その
余の原告一四名については、破産宣告日に退職したとして計算した額より増加した
分の各退職金とそれぞれその遅延損害金(訴状送達の翌日起算、民法所定の年五分
の割合によるもの)との請求である。)
2 被告
(一) 一次的に、原告らの訴をいずれも却下する、との判決。
(二) 二次的に、原告らの請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告らの負担と
する、との判決。
二 主張
1 原告らの請求原因
(一) (雇用関係)
 原告o、原告p、原告qを除くその余の原告一四名は、それぞれ別表就職日欄記
載の日に、当時大和病院という名称で病院を経営していたsことrに雇用され、右
病院の従業員として就労してきた。
 右sことrは、昭和五五年一〇月九日、大阪地方裁判所で破産宣告(同年(フ)
第二一八号事件)を受け、同時に、被告は、その破産管財人に就任した。
 右破産者の右病院の業務は、右破産宣告後も被告の管理の下で継続され、前記原
告一四名も、引き続き右病院の業務に従事した。
 原告o、原告p、原告qは、それぞれ別表就職日欄記載の日に、被告に雇用さ
れ、右病院の従業員として就労してきた。
(二) (退職)
 原告nは、昭和五六年七月二五日、被告に対し退職を申出て、右病院を任意退職
した。
 被告は、同年一〇月一九日、原告n以外の原告一六名に対し、それぞれ、同月二
〇日付で解雇する旨通知し、これにより右原告一六名は、同月二〇日、右病院を退
職した。(なお、被告の右解雇通知は、同月二日の右破産者の債権者集会における
右病院営業廃止決議に基づくものであつた。)
(三) (退職金協定)
前記sことrと原告らの所属する総評大阪地域合同労働組合大和病院分会とは、昭
和五五年五月七日、原告らの退職金は次記の方式により算定される額とする旨の、
労働協約を結んだ。
 記
勤続二年未満の者の退職金は、基礎額の半分の額。
勤続二年以上一〇年未満の者の退職金は、基礎額に勤続年数を乗じた額。
勤続一〇年以上一五年未満の者の退職金は、基礎額に勤続年数を乗じた額の二割
増。
勤続一五年以上の者の退職金は、基礎額に勤続年数を乗じた額の三割増。
但し、右基礎額は、いずれも、退職月の基本給に勤続手当と責任手当を加えたも
の。
(四) (退職金計算)
 原告o、原告p、原告qの三名の前記退職金協定に従つた退職金の額は、前記基
礎額がそれぞれ別表基礎額欄記載の額であるから、これを前提にすると、それぞれ
同表C欄記載の額となる。
 右三名以外の原告一四名の前記就職日から退職日までを勤続期間とした場合、及
び、前記就職日から破産宣告日までを勤続期間とした場合の、各退職金の額は、前
記基礎額がいずれの場合もそれぞれ別表基礎額欄記載の額であるから、これを前提
に前記退職金協定に従って算定すると、それぞれ、別表A欄及びB欄記載の額とな
り、その差額は、それぞれ別表C欄記載の額となる。
(五) よつて、原告らは被告に対し、それぞれ、前記破産宣告後の就労に基づく
ものとして、別表C欄記載の額の退職金とその遅延損害金(訴状送達の翌日起算、
民法所定年五分の割合によるもの)との支払を求める。
2 請求原因に対する被告の認否、主張等
(認否)
請求原因(一)(雇用関係)(二)(退職)の各事実は認める。
同(三)(退職金協定)の事実は認め、趣旨は争う。
同(四)(退職金計算)の基礎数値・計算は争わない。
同(五)は争う。
(主張等)
(一) 破産債権
 本件退職金債権は、存するとしても、全額破産債権であり(東京高等裁判所昭和
四二年(ワ)第二五八六号事件判決高裁民集二二巻三号四九〇頁参照)、原告らは
破産手続によらないでその権利を行使することは許されない。
 本件退職金債権は、賃金の後払いの性格の外、功労報償金の性格も併せもつもの
であるうえ、破産宣告前の雇用関係、退職金協定等に基づくものが退職によつて履
行期が到来して全体が一個の債権として確定するものであつて、特定の時期に対応
する金額を確定することはできないものであるから、これを破産債権の部分と財団
債権の部分に分ける取扱をすることはできず、破産宣告後に退職した場合であつて
も、全額破産債権として取扱うべきである。
 よつて、原告らの訴は訴訟要件を欠き不適法であるから、被告は原告らの訴の全
部の却下を求める。
(二) 退職金協定の趣旨
 本件退職金協定が結ばれたのは、前記破産者が手形の第一回目の不渡を出した後
で第二回目の不渡を出す直前の事実上倒産状態にあつた時期であつた。
 そして、前記破産宣告後に前記大和病院の業務を継続したのは、多くの入院患者
に対する人道的配慮からのものであつて、これにつき原告らの所属する前記労働組
合も協力を表明していた。
 右事情に照らせば、本件退職金協定の解釈・運用については、衡平の見地から
も、当事者の意思解釈としても、「資力や他の債権者との衡平等を勘案して行な
う」という趣旨であつたと解されるのであり、そうであれば、本件退職金協定にい
う「勤続年数」とは、破産宣告までの勤続年数の趣旨であつたと解すべきである。
 よつて、仮に、原告らの訴が却下されないとしても、本件退職金協定による原告
らの退職金は全て右破産宣告前の就労に対するものであつて、破産宣告後の就労に
対する部分は生じる余地がなく、原告らの請求債権は発生していないから、被告は
原告らの請求の全部の棄却を求める。
(三) 特約
 被告は、前記破産宣告後、原告o、原告p、原告q以外の原告一四名との雇用を
継続するにあたり、給与については従前と同額を支払うが破産宣告後の退職金は支
払わないとの条件で雇用を継続し、また、原告o、原告p、原告qの三名を雇用す
るにあたり、退職金は支払わないとの条件で雇用したものである。
 よつて、仮に、原告らの訴が却下されないとしても、破産宣告後の就労に対する
退職金は生ぜず、原告らの請求債権は発生していないから、被告は原告らの請求の
全部の棄却を求める。
3 被告の右主張に対する原告らの反論
(一) 財団債権
 原告らが請求している退職金の部分は、破産宣告後の就労を原因とするもので、
財団債権である。
 そして、被告の主張するように、退職金債権が退職によつて初めて全体が一個の
債権として確定するというのであれば、むしろ、退職金債権は、退職時に発生し、
それまでは単なる期待権に過ぎないということになり、そうだとすれば、破産宣告
後に退職した場合は、全額財団債権という結論にならざるを得ない。
 また、被告引用の裁判例は、破産宣告時に退職したと仮定して計算した退職金の
額と破産宣告後の現実の退職時の退職金の額が同じ場合の事例であつて、本件と事
案を異にするものである。
(二) 退職金協定の趣旨
 本件退職金協定所定の「勤続年数」とは、破産宣告の前後を問わず、前記大和病
院の従業員として雇用された日から退職した日までの間の年数をいう。
 被告の主張するように解すれば、本件退職金協定による退職金は、結局、誰かの
「確定」行為を待つて初めて発生するということにならざるを得ず、協定の意味が
不明となつてしまい、解釈論として成立しない。
(三) 特約
 被告は、破産管財人に選任されると同時に、原告らの所属する前記労働組合と団
体交渉を為し、破産者が右組合との間で従来取交した協定、その他一切の約束はそ
のまま引継ぐ旨確約して原告らの雇用を継続したものであつて、破産宣告後の退職
金を支払わないことを条件に雇用或いは雇用継続したものではない。
 なお、被告は、原告らが勤続年数を破産宣告日までとして本件退職金協定に従つ
て算出した金額を退職金債権として届出たのに対し、その金額については異議をと
どめず、一部を優先債権、残余を破産債権として認めている。
三 証拠(省略)
       理   由
一 争点
 請求原因事実(雇用関係、退職、退職金協定、退職金の計算関係)は当事者間に
争いがなく、破産法四七条所定の財団債権たる退職金部分の有無をめぐつて争われ
る本件の争点は、
1 原告らの請求する退職金の存否に関し、
(一) 前記退職金協定所定の勤続年数は破産宣告前の勤続年数に限る趣旨か否か
の点
(二) 爾後の就労には退職金を支給しない旨の特約が、破産宣告後の雇用継続、
新規雇用の際に為されたか否かの点
2 原告らの請求する退職金の財団債権該当性の点
であるので、以下、右争いのない事実を前提に、右争点に添つて判断する。
二 判断
1 本件退職金の存否について
(一) 特約(争点1(二))について
 成立に争いがない乙第四号証(被告作成の陳述書)によるも、被告主張の特約に
ついて、被告がその旨原告らに申入れをしたことや原告らがこれに同意したことの
明確な記載は存せず、むしろ、明確な合意が存しなかつたことが窮える記載内容と
なつており、右書証によつては右特約の成立を認めることはできず、他に、明示、
黙示を問わず、これを認めるに足る証拠はない。
 従つて、本件証拠上、右特約が存するということはできない。
(二) 本件退職金協定の趣旨(争点1(一))について
 前記争いのない事実及び成立に争いのない甲第一号証(回答書)によれば、前記
退職金協定に従つた退職金計算の基礎となる「勤続年数」について、右協定の文言
上、これを「破産宣告前の勤続年数に限る」という趣旨の限定は付されていないこ
とが認められる。
 この点に関し、被告が主張する事情(前記事実欄二2(二)記載)は、これが存
するとしても、未だ、右限定を付して右協定所定の「勤続年数」を解するのが合理
的な意思解釈であるというに足る事情とはいえないものである。
 従つて、右退職金協定所定の「勤続年数」については、これを「破産宣告前の勤
続、年数に限る」というように限定して解釈することはできない。
(三) 原告らの退職金
 右以上に特段の主張立証のない本件では、前記破産宣告後の原告らと破産財団と
の雇用関係においても、前記退職金協定を含む従前の労働条件が適用されるという
べきであるから、以上の判断及び前記争いのない事実によれば、原告らは、それぞ
れ、別表就職日欄記載の日から同表退職日欄記載の日までの間、前記r或いは破産
財団の従業員として勤続し退職したことによる前記退職金協定に基づく退職金とし
て、同表A欄に記載の額の債権を、破産財団に対して有するというべきである。
2 本件退職金の財団債権該当性(争点2)について
(一) 新規雇用者の退職金
 原告o、原告p、原告qの三名は、前記争いのない事実によれば、いずれも前記
破産宣告後、前記病院業務を継続していた破産財団の従業員として被告に雇用され
て勤務し退職したものであり、右原告三名の前記1(三)で認定した右破産財団に
対する退職金債権は、右雇用契約に従つた就労により生じたものである。
 従つて、右原告三名の右退職金債権は、いずれも、破産者r破産管財人である被
告が破産財団に関して為したる行為により生じたものというべきであるから、破産
法四七条四号に該当する財団債権である。
(二) 継続雇用者の退職金
(1) 継続雇用の事情に関し、前記争いのない事実、前記乙第四号証、弁論の全
趣旨によれば、次の①、②の事実が認められ、これを左右するに足る主張立証はな
い。
① 被告は、rが破産宣告を受けた昭和五五年一〇月九日以降も、所定の手続を経
て、rの営んでいた大和病院の業務を継続し、前記債権者集会での営業廃止決議ま
で約一年間右病院業務を行なつた。
 右病院業務の継続は、右破産宣告当時、右病院には入院患者が四七名いたとこ
ろ、そのほとんどが、生活保護法、結核予防法による保護等の対象者であつて、早
急に転退院することが困難な者であつたという事情によるものであつた。
② 被告は、右破産後の業務継続の際、前記(一)の原告三名を除く原告一四名に
対し、雇用継続することとし、一旦解雇し別の労働条件で再雇用するという通常破
産管財人がとる措置はとらず、また前記退職金協定の破棄等の手続もとらなかつ
た。
 被告の右対応は、従業員の労働条件を切り下げる措置をとれば、右病院業務継続
に不可欠な医師・看護婦・薬剤師・栄養士の有資格者の確保が困難となり、右病院
業務の継続ができなくなる虞れが高いという事情が存したことに照らせば、やむを
えないものであつた。
(2) 右原告一四名の右雇用継続は、右(1)の事情によれば、被告の事情によ
るものというべきであり、その結果、前記争いのない事実のとおり、右原告一四名
は前記破産宣告日以降別表退職日欄記載の日まで約一年間勤務を続けたのであり、
また、前記退職金協定自体は前記争いのない事実のとおり破産宣告前に結ばれたも
のであるが、前記1(三)のとおり破産宣告後の雇用関係にも適用があるというべ
きであるから、右原告一四名の前記1(三)で認定した退職金債権のうち、破産宣
告後の勤務により生じたとみられる部分については、右破産管財人たる被告が破産
財団に関して為したる行為により生じたものというべきであつて、これは、破産法
四七条四号に該当する財団債権となる。
 そして、右原告一四名の前記1(三)で認定した退職金の額は、破産宣告日に退
職したと仮定して前記退職金協定に従つて計算した退職金の額(別表B欄記載の各
金額となることは計算上明らかである)に比べて増加しているのであるから、その
増加分(少なくとも別表C欄記載の各金額であることは計算上明らかである)は、
特段の事情のない限り、右原告一四名の右破産宣告後の勤務により生じたというべ
きである。
(3) なお、右の点に関し、退職金は一般に功労報償金の性格も有し、破産宣告
後の勤務による部分を区分できない全体として一個の債権であるから、その一部を
財団債権とは為しえない旨主張するところ、確かに、前記退職金協定には勤続年数
が増えると退職金全体を割増する方式が採用されている関係上、右原告一四名の退
職金増加分(別表C欄記載の金額)に、破産宣告前の勤務年数が影響するが、この
点は、一般に年功による賃金退職金の増加は是認されており、かつ、それが、前記
(1)の事情で被告が従前の労働条件に従つた雇用継続を選択したことの結果とし
て予期すべきことである以上、右退職金の増加分を、破産宣告後の勤務により生じ
たとする防げとはならず、また、前記1(三)で認定した退職金債権を特に不可分
とすべき事情も見当らない以上、その一部を財団債権とすることに不都合はないと
いえるので、右被告の主張は採用できない。
(4) 右以上に特段の主張立証のない本件では、右原告一四名の前記1(三)で
認定した退職金債権のうち、破産宣告日に退職したと仮定して計算した額より増加
した分(別表C欄記載の金額)は、破産法四七条四号に該当する財団債権というべ
きである。
三 結論
 以上によれば、原告らは被告に対し、それぞれ財団債権である退職金債権として
別表C欄記載の金額の金員とその遅延損害金(少なくとも訴状送達の翌日であるこ
とが一件記録上明らかな昭和五七年六月二九日起算、民法所定の年五分の割合によ
るもの)との支払を求める権利があるということができる。
 よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用
の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条、に従い、主文の
とおり判決する。
(裁判官 千徳輝夫)
別表
<04769-001>

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