弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原決定中抗告人と相手方Aに関する部分を取り消す。
     東京地方裁判所所属執行吏は東京地方裁判所昭和三十二年(ケ)第一〇
四号不動産競売事件について、別紙目録記載の不動産(右決定添付)に対する相手
方Aの占有を解いて競落人Bにこれを現実に引渡をせよ。
     相手方Cに関する部分の本件抗告を棄却する。
     本件不動産引渡命令の申立及び抗告費用はこれを十分し、その九を相手
方A、その一を抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告人は、「原決定を取り消す。相手方等は抗告人に対し別紙目録記載の不動産
の引渡をせよ。」との趣旨の裁判を求め、その理由として、別紙抗告理由書記載の
とおり主張した。
 本件記録によると、次の事実を認めることができる。債権者日興信用金庫は債務
者Dに対して有する金三十九万九千八百八円の債権の弁済を受けるため、別紙目録
記載の家屋に対する抵当権の実行として東京地方裁判所に競売の申立をなし、同裁
判所は同庁昭和三十二年(ケ)第一〇四号建物競売事件として昭和三十二年一月三
十一日競売手続開始決定をなし、同年二月七日競売申立の登記がなされ、また同月
二十七日右決定は債務者(抵当不動産の所有者)Dに送達された。抗告人は右競売
手続において右不動産を競落し、昭和三十三年三月二十五日競落許可決定を受け、
右決定確定後同年四月十二日競落代金の全額を支払つた。ところが右競売手続進行
中債務者Dは本件家屋から任意に退去し、相手方Aは右不動産について差押の効力
の生じた後である昭和三十二年六月頃本件家屋の敷地所有者であるEの承諾を得て
本件家屋に寝泊りするようになり、昭和三十三年三月頃相手方Cと婚姻して爾来右
両名において家屋に居住しこれを使用しているものである。 抵当権の実行による
建物の競売では競落人に対抗できる賃借人を除いて、所有者等は競落代金支払後は
その建物から退去しなければならず、その場合、競落人は右建物の所有者に対して
訴によつて明渡を求める必要はなく、競売法第三二条、民事訴訟法第六八七条によ
つて競売裁判所に債務者に対する引渡命令を求めて引渡を求め得るのである。これ
は、一方においては、競落人に対抗し得る賃貸借を調査して公告させて、他方では
競落人に建物を直ちに引き渡すことによつて、適正な価額によつて競売するため
に、右のような制度が設けられ<要旨>たのである。従つて、建物について競売開始
決定がなされ、その旨の登記手続を経て差押の効力が生じた後、競売手続の
進行中に右建物の占有を初めた第三者は競落人に対抗し得る権原に基いて占有を初
めた者でないから、所有者の占有を承継したものとして所有者と同様に、引渡命令
を求め得るものと解するを相当とする。この第三者は、引渡命令が上記のような趣
旨で認められたものであるから、その建物を占有するに際して債務者の意思に基い
ている場合と、債務者の意思に基いていない場合とで別に解すべき理由はない。本
件では、上記認定のように、相手方Aは本件競売不動産の所有権を取得した抗告人
に対し対抗できる何等正当の権原がないのに、差押の効力発効後本件家屋を占有す
るに至つたものであるから抗告人は右相手方に対し該不動産の引渡命令を求めるこ
とができることは明らかである。しかしながら、前記認定の事実に照して考えてみ
ると、相手方Cは相手方Aの妻として単に従属的関係において本件家屋を占有して
いるにすぎないのであつて、独立の権原又は独立の関係においてこれを占有してい
るものと認められるような特段の事情を窺うに足る資料は存しないから、抗告人の
右相手方に対する本件不動産の引渡命令は失当として排斥を免れない。してみる
と、相手方両名に対する抗告人の本件不動産引渡命令の申請を却下した原決定は、
相手方Aに関する部分は失当であるから、これを取消して右申請を認容すべく、相
手方Cに関する部分の原決定は相当で、本件抗告は理由がないからこれを棄却する
こととし、本件申立及び抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、
第九三条第一項に則り主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 小河八十次)

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