弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原決定を取り消す。
2本件申立てを却下する。
3申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨
主文同旨
第2事案の概要等
1本件は,抗告人から,平成17年4月20日付けで社会福祉法(以下「法」
という)72条1項に基づく法2条3項8号所定の事業(第二種社会福祉事。
)(「」。),,業停止処分以下本件処分というを受けた相手方が抗告人に対し
本件処分の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起し,行訴法25条2項に基
づき,本案事件の判決が確定するまで本件処分の執行の停止を求める事案であ
る。
原審は,相手方の本件申立てを全部認容する原決定をしたので,これに対し
て,抗告人が不服を申し立てた。
2前提となる事実
本件記録によると,以下のとおりの事実を一応認めることができる。
()法2条3項8号は,第二種社会福祉事業として「生計困難者のために,1
無料又は低額な料金で,簡易住宅を貸し付け,又は宿泊所その他の施設を利
用させる事業」を規定しているが,その経営主体については特段の制限は設
けていない。そして,法69条1項においては,第二種社会福祉事業を開始
した者は,事業開始の日から1か月以内に,事業経営地の都道府県知事に法
67条1項各号所定の事項を届け出なければならないと規定している。
()厚生労働省社会・援護局長は,都道府県知事・指定都市市長・中核市市2
長に対し,平成15年7月31日,法2条3項に規定する生計困難者のため
に無料又は低額な料金で宿泊所を利用させる事業を行う施設(以下「無料低
額宿泊所」という)及び運営について,近年,その設置数が急増している。
ものの,一部には居室がプライバシーに配慮されていない等利用者の適切な
,「,処遇が確保されていないもの等がみられるとして無料低額宿泊所の設備
運営等に関する指針(乙4)を定め,地方自治法245条の4第1項所定」
の技術的な助言をした。これを受けた抗告人は「社会福祉法第2条第3項,
第8号に規定する宿泊所事業を行う施設の設備及び運営に係るガイドライ
ン(乙5。以下「旧ガイドライン」という)を定め,平成15年10月」。
1日からこれを適用した。
()抗告人(処分行政庁)は,ホームレスの自立支援を総合的に推進するた3
め,平成17年1月「千葉県ホームレス自立支援計画(乙6)を定める,」
とともに,旧ガイドラインを改訂し,その目的として「このガイドライン等
に違反して,不当に営利を図り,又は利用者の処遇において不当な行為をし
た事業者には,社会福祉法に基づいて事業の制限又は停止を命じる」ことを
明記するなどした上,この改訂後の「社会福祉法第2条第3項第8号に規定
する宿泊所事業を行う施設の設備及び運営に係るガイドライン(乙7)を」
同年4月1日から適用した。
なお,旧ガイドラインは,事業の届出の添付書類について「このガイド,
ラインの設備・運営に関する基準を確保していることを示す書面,地域住民
(,,,)の理解を得るために行った措置の内容方法実施年月日相手方結果等
を記載した書面」の添付を規定していたところ,上記改訂後のガイドライン
においても上記書面は添付書類とされている。
()相手方は,抗告人に対し,平成17年3月30日,同月から千葉県長生4
郡α584番地外所在の軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建の建物(床面積
1・2階各355.48㎡。以下「本件建物」という)において,法2条。
3項8号所定の第二種社会福祉事業を開始したとして,法69条1項に基づ
き,自らをAの代表と称し,次の内容の「第二種社会福祉事業開始届(甲」
1,乙9)による届出をした(以下「本件届出」という。。)
経営者の名称A代表B
主たる事務所の所在地千葉県長生郡α580番地1
事業の種類及び内容生活困窮者の方達へ衣・食・住を提供するため
(「」。)の宿泊所の運営事業以下本件事業という
()抗告人は,相手方に対し,平成17年4月1日,いずれも同月11日を5
提出期限として,法70条に基づき「社会福祉法第70条の規定による報,
告書の提出について」と題する書面(甲6)により原決定別紙5記載の事項
につき報告書の提出を求め,また,行政手続法30条に基づき,弁明の機会
付与通知書(甲6)により次のとおりの内容で弁明の機会を付与する旨の通
知をした。
弁明の件名A代表Bが長生郡βにおいて経営する,法2条3項8号に規
定する第二種社会福祉事業の停止命令について
予定される不利益処分の内容
第二種社会福祉事業の停止命令
不利益処分の根拠となる法令の条項
法72条1項
不利益処分の原因となる事実
原決定別紙6記載のとおり。
()相手方は,平成17年4月11日,法70条所定の書面として原決定別6
紙7記載の「報告書(社法70条(甲8,乙11)を,また,行政手続)」
法29条1項所定の書面として原決定別紙8記載の「弁明書(行政手続法3
0条(甲7,乙10)をそれぞれ提出した。)」
()抗告人は,相手方に対し,平成17年4月20日付けで原決定別紙9の8
とおり処分理由を記載した書面(甲9)により本件処分を通知した。
()相手方は,千葉地方裁判所に対し,平成17年6月2日,抗告人を被告9
として本案事件の訴えを提起し,同月13日,本件申立てをした。
3当事者の主張
当事者の主張は,別紙「即時抗告申立書」及び「意見書」に記載のとおりで
あるほか,原決定「理由」中の「第1本件申立ての趣旨及び理由等」のとお
りであるからこれを引用する。
第3当裁判所の判断
1行訴法25条2項所定の「重大な損害」について
()行訴法25条2項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当1
たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程
度並びに処分の内容及び性質をも勘案して判断すべきものであるが(同法2
5条3項「重大な損害」は,執行停止を求める申立人において主張疎明),
すべき積極要件であると解するのが相当である。
,(),()ア(ア)前提となる事実甲1相手方作成の第二種社会福祉事業開始届2
27(相手方の陳述書,乙8(C作成の「自立支援の方策・理念・目)
的」と題する書面,9(相手方作成の第二種社会福祉事業開始届)に)
よれば,①本件事業は,平成17年1月から,D及びCによって,その
名称をAとして計画され,Cがその代表者と称していこと,②Dは,E
から平成17年1月21日付けで本件建物を賃料月額40万円た,,,(
だし,毎月末日までに翌月分を支払う,権利金300万円(ただし,。)
権利金については期間の満了及び中途解約の場合においても返還されな
いものとする,期間同年2月15日から平成20年2月14日まで。)
の3年間の約定で賃借し(以下「Dの賃貸借契約」という,Eに対。)
し,平成17年1月21日,上記権利金300万円を支払ったこと,③
行政書士である相手方は,D及びCから本件事業に関する書面作成の委
任等の相談を受けていたこと,(エ)相手方は,同月30日,抗告人(処
分行政庁)に対し,自らAの代表と称して本件届出をしたことが一応認
められる。そして,甲1,乙12の①によれば,相手方を借主,Eを貸
主とする,賃料月額40万円,権利金300万円(ただし,権利金につ
いては期間の満了及び中途解約の場合においても返還されないものとす
る,期間同年2月15日から平成20年2月14日までの3年間と。)
する同年3月25日付けの本件建物の賃貸借契約書が存在し(以下,同
契約書による賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という,甲27には,。)
相手方がEと本件賃貸借契約を締結した旨の記載があり,さらに,同月
27日付けのD名義の300万円の領収証(甲40)が存することが認
められる。
(イ)そして,相手方は,本件処分の効力が停止されない限り,相手方に
おいては本件事業の経営によってその利用者から対価を得ることができ
ず,そのため上記賃料を支払うことができず,ひいては本件賃貸借契約
が解消となり,上記権利金300万円を失うので,本件処分により「重
大な損害」が発生する旨主張する。
イ(ア)しかし,乙1,9,24,25を総合すると,(ア)相手方は,同年
3月22日,A代表Cの代理人と称して千葉県庁を訪れ,本件事業につ
いて事前相談をしたところ,同県庁職員から「代表者C氏に一度来て欲
しい」と求められたので「同行致します」旨答えたこと,(イ)その。,。
後も相手方は,同月25日,A代表Cの代理人と称して「A代表C」,
作成名義の同年2月5日付け「自立支援の方策・理念・目的」と題する
書面(乙8)等を持参して千葉県庁を訪れ,本件事業について事前相談
をしたところ,同県庁職員よりC代表から直接説明を受ける必要がある
と求められたが,相手方とEとの間の本件賃貸借契約の成立や相手方が
Aの代表者に就任することは陳述していないこと,(ウ)更に抗告人は,
D及び相手方に対し,同年3月28日,同町当局及びその住民の理解を
得るよう指導を行ったが,相手方は,同月30日,Cを同行しないで千
葉県庁を訪れた上,抗告人(処分行政庁)に対し,自らAの代表と称し
て本件届出をしたこと,(エ)相手方が抗告人に提出した第二種社会福祉
事業開始届に添付された本件施設の利用契約書では,当事者は,相手方
ではなく,Cであることが一応認められる。
(イ)すると,相手方は,少なくとも本件賃貸借契約が成立したと主張す
る同月25日時点ではA代表Cの代理人にすぎなかったと認められ,そ
して,相手方が,同年3月25日付けで,CからAの経営あるいはその
代表者の地位を継承したことを裏付ける的確な疎明資料はない。また,
相手方は「A」は相手方の商号であると主張するけれども,Cも相手,
方も「A代表者」と称しているのであって,このような表示は通常団体
の代表者を意味するものであり,Aが相手方個人の商号であることと整
。,,合性を欠くものというべきであるなお相手方の主張内容によっても
Aの組織は明らかでなく,その実体が財団法人あるいは社団法人と認定
することはできないから,Aの法人格はもとより権利能力なき社団・財
団とも認めることはできない。
,,()(ウ)さらに本件記録によると①Dの賃貸借契約に係る契約書乙8
は,社団法人千葉県宅地建物取引業協会制定の建物賃貸借契約書(事業
用)が用いられるとともに,貸主のE及び借主のDの氏名はともに自署
で実印とみられる印影がある上,F株式会社の仲介による宅地建物取引
主任者Gの記名・押印があること,②これに対し,本件賃貸借契約に係
る契約書(甲1,乙12の①)は,社団法人千葉県宅地建物取引業協会
制定の建物賃貸借契約書(事業用)は用いられていない上,貸主のE及
び借主の相手方とも記名であり,E名下の印影は認印によるものとみら
れるものであって,宅地建物取引主任者の記名・押印もなく,しかも,
従前のDの賃貸借契約に係る権利金300万円が本件賃貸借契約の権利
,,金300万円に充当されることには全く触れていないこと③相手方は
原審において,Dに対する権利金300万円の支払いに係る領収書を疎
明資料として提出していなかったにもかかわらず,抗告審における抗告
人の指摘に基づき,当審において,平成同月27日付け300万円の領
収証(甲40)を提出するに至っているが,相手方は,同領収証を原審
で提出しなかったことにつき合理的説明をしていないことが一応認めら
れる。そこで,以上の事実に照らすと,甲27(相手方の陳述書)中,
相手方とEが本件賃貸借契約を締結した旨の記載部分は俄に採用するこ
とができず,本件賃貸借契約に係る同月25日付け土地・建物賃貸借契
約書(事業用(甲1,乙12の①)及び同月27日付け300万円の)
領収証(甲40)はいずれも真正に作成されたものではないとの疑念を
払拭することができず,他に,相手方が本件賃貸借契約を締結したこと
及び本件賃貸借契約に係る権利金300万円を支払ったことを認めるに
足りる的確な疎明資料はない。
ウしたがって,本件全疎明資料によっても,相手方が同月25日付けでC
からAの経営あるいはその代表者の地位を継承し,同日付けで本件賃貸借
契約が成立したと認めることはできないから,相手方らの上記主張はその
前提を欠いているというべきである。
なお,仮に,相手方がAを経営しあるいはその代表者であり,本件賃貸
借契約を締結しているとしても,損害の回復の困難の程度を考慮し,損害
の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案すると,相手方が主張
する損害は金銭的損害であるから,社会通念上金銭賠償による回復をもっ
て満足することもやむを得ないというべきであり,上記重大な損害に当た
るということはできない。
()ア次に,甲27には,相手方は,無料低額宿泊所として本件建物を使用3
することとし,400万円の費用をかけて本件建物の内装工事をし,更に
約170万円の費用をかけて本件建物の改装工事をし,また,サッシ工事
を25万3365円で行い,資材費用20万円を支払い,及び水道工事を
,,24万円で行いこれらを含めて合計約650万円の費用を負担したので
本件事業が継続できなければこれら出捐につき損害を被る旨の記載があ
り,そして,平成17年1月25日付け400万円の有限会社Hの御見積
書(甲2,同年2月1日付け100万円の同会社の領収証(甲3の①,))
同年3月15日付け300万円の同会社の領収証(甲3の②,同月23)
日付け170万円の同会社の御見積書(甲4,同月25日付け50万円)
の同会社の領収証(甲5,同月26日付け25万3365円のIの領収)
証(甲27の添付1枚目,同月31日付け24万円のJの領収証(甲2)
7の添付2枚目,同月28日付け20万円の株式会社Kの領収証(甲2)
7の添付3枚目)が存する。
イ(ア)しかし,上記()イのとおり,相手方は,同年3月25日には,当2
時のA代表Cの代理人として千葉県庁に事前相談に訪れており,同日時
点ではA代表Cの代理人にすぎず,また,相手方がCからAの経営ある
いはその代表者の地位を継承したというには合理的な疑問があるから,
少なくとも同月25日以前の工事費用は,相手方が出捐したものと認め
ることはできない。なお,上記工事費用のうち,同月30日の170万
,。円についてはその支払いを直接裏付ける領収書などの疎明資料はない
(イ)また,相手方は,同月25日のA代表就任に当たり,DがHに対し
て支払った同年2月1日の100万円及び同年3月15日の300万円
,,,の合計400万円についてはDに対しこれを支払った旨主張するが
これを疎明するに足りる領収書などの客観的資料はない。
ウそして,相手方が同月25日に本件建物のサッシ工事費用25万336
5円,資材費用20万円及び水道工事費用24万円を出捐してこれら工事
を行い,あるいは相手方の上記主張どおりの全部の出捐があるとしても,
損害の回復の困難の程度を考慮し,損害の性質及び程度並びに本件処分の
内容及び性質をも勘案しても,相手方が上記主張する損害は金銭的損害で
あるから,社会通念上金銭賠償による回復をもって満足することもやむを
得ないものというべきであり,上記重大な損害に当たるということはでき
ない。
()ア次に,相手方は,仮に本案判決において本件処分が取り消された場合4
であっても,本件処分の効力が停止されない限り,再び本件建物の賃貸借
契約を締結するなどして本件事業を再開することは困難であるから,本件
処分により「重大な損害」が発生する旨主張する。
イしかし,上記のとおり,相手方がEと本件賃貸借契約を締結し及び実際
に本件建物で本件事業を営む主体であることについては,合理的な疑問が
ある上,たとえ相手方が本件事業を行っているとしても,以下のような事
情が認められる。
(ア)上記前提となる事実と上記()イの認定事実に加え,本件記録によ2
ると,相手方は,同月25日,千葉県庁を訪れ,A代表Cの代理人と称
して「A代表C」作成名義の同年2月5日付け「自立支援の方策・理,
念・目的」と題する書面(乙8)等を持参したが,同県庁職員よりC代
表から直接説明を受ける必要があると求められるとともに,本件事業に
係る居室は個室を設けること,家賃の4万6000円が妥当かどうかに
ついて近傍類似の調査をすること,及び消防計画書を提出することなど
の指導を受けたこと,その後,本件建物について,居室を個室に改装す
る工事がなされたが,相手方は,同年3月30日,抗告人に事前の相談
をすることもなく,いきなり自らAの代表者であるとして本件届出をし
たことが認められ,このように,相手方は,抗告人から本件事業につき
指導を受けていながら,これに従った対応・改善を未了のまま本件事業
を開始したものである。
(イ)次に,本件件記録によると,抗告人は,βに居住する者の生活㋐
保護費が月額10万0450円(41歳から59歳まで)であり(乙1
5,生活保護を受けている単身世帯で日常生活費に要している価額等)
の平均は月額約2万5000円であるのに(乙16,本件届出に係る)
本件無料低額宿泊所の月額寮費4万6000円及び30日間の食費4万
5000円等(乙9)の設定では被保護者の手許に残る金額が極めて低
額となるため,その事業者を指導することとしていたこと,相手方㋑
は,抗告人に対し,同年4月11日(乙10,12の①)及び同月14
日(乙13)において,寮費月額4万円,食費日額1500円及び共益
費雑費日額200円と収支予算書(乙13)に訂正をしているが,実質
的には食費4万5000円のほかに月額4万6000円を徴収する料金
設定は変わっていなかったので,抗告人は,被保護者の手許金額が極め
て低額であることに変わりはないと考え,これをも理由として本件処分
を行ったこと,相手方の事業計画(乙9)においては,本件建物の㋒
利用者を定員の50名まで増員することがあり得るので,本案事件にお
いて相手方の請求を棄却する判決が確定した場合には,将来50名もの
利用者の処遇の問題が発生するおそれがあること,千葉県内の他の㋓
無料低額宿泊所(同年4月20日現在で施設数39,利用者数約200
),,0名においては相手方における上記料金設定が許容されるとすれば
本件事業と同様の料金設定がされてその無料低額宿泊所利用者の生活が
脅かされるおそれがあることが一応認められる。なお,相手方は,抗告
,「,人に対し本件処分前に本件建物の利用者からの徴収額を寮費4万円
食費4万5000円のみとする趣旨である」旨を口頭で説明したと主張
,,,。し甲19の①2128ないし30にはこれに沿う記載部分がある
しかし,これら記載部分は,上記事実に照らして採用することができな
い。
ウしたがって,相手方の主張する損害の性質及び程度,本件事業に関する
上記のような疑問,並びに本件処分の内容及び性質を考慮すると,たとえ
相手方が本件処分の執行停止がなされないため本件事業を再開することが
困難になったとしても,これによる損害は,社会通念上金銭賠償による回
復をもって満足することもやむを得ないものというべきであり,上記重大
な損害に当たるということはできない。
()アまた,相手方は,本件事業再開のために本件事業による収入のない状5
態で,(ア)本件賃貸借契約に係る賃料月額40万円,(イ)利用者の食費週
7万円及び本件事業の従業員L及び同Mの給料月額合計30万円の経済的
負担をし,毎月少なくとも100万円程度の収入が必要であるので,本件
処分により「重大な損害」が発生する旨主張する。
イしかし,上記のとおり,相手方がEと本件賃貸借契約を締結し及び実際
に本件建物で本件事業を営む主体であることについては,合理的な疑問が
ある上,本件記録によると,千葉県長生健康福祉センター生活保護課職員
による調査によれば,本件建物の利用者全員が施設側から食事の提供はさ
れていないと述べていること(乙23,現在の利用者は8名であるが,)
8人の利用者に対する接遇について,2人の従業員でこれを管理する必要
性はないことが一応認められる。しかも,甲1及び乙12の③によれば,
,,相手方とL及び同Mとの雇用契約書は同年3月22日付けであるところ
上記のように当時相手方はCの代理人であったから,これら雇用契約書の
記載は俄に採用できないものというべきである。
ウしたがって,たとえ相手方が本件事業を営んでいるとしても,上記のよ
うな損害の性質及び程度並びに本件処分の内容及び性質をも勘案すると,
相手方が上記主張する損害は,社会通念上金銭賠償による回復をもって満
足することもやむを得ないものというべきであり,上記重大な損害に当た
るということはできない。
()アさらに,相手方は,(ア)本件処分が執行されたときは,同年6月176
日現在で本件建物を無料低額宿泊所として利用している8名の居住者が住
居を失い,もとの路上生活者に戻らざるを得ない危険性があること,(イ)
本件建物の上記8名の居住者は,本件処分のために相手方から食事が提供
されない事態に陥ったので自炊をしているが,その食材については相手方
が無償で負担していることから,本件処分により上記利用者らにも「重大
な損害」が発生する旨主張する。
イしかしながら,本件建物を宿泊所として利用している者らは,上記のよ
うに現在自ら費用を負担して食事を賄っており,そして,本件記録による
と,抗告人は,本件建物の居住者に対し,転居指導を行い,転居先として
アパート又は他の無料低額宿泊所を紹介するなど,生活保護法に基づく転
居指導等をしているので,上記利用者がもとの路上生活者に戻らざるを得
ない危険性はなく,本件処分によって本件建物の上記利用者らに格別の不
利益をもたらすものではないことが一応認められる。
()そして,本件記録を精査し,相手方主張に係るすべての損害の回復の困7
難の程度を考慮するとともに,損害の性質及び程度並びに本件処分の内容及
び性質を勘案しても,他に,本件処分により生ずる重大な損害を避けるため
その執行を停止すべき緊急の必要があることを認めるに足りる疎明はないと
いうべきである。
2以上のとおり,本件申立ては,行訴法25条2項所定の要件を欠いているの
で,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
第4結論
よって,相手方の本件申立てを認容した原決定を取り消し,本件申立てを却
下することとし,申立費用及び抗告費用の負担につき,行訴法7条,民訴法6
7条,61条を適用して,主文のとおり決定する。
平成18年1月19日
東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官大喜多啓光
裁判官園部秀穂
裁判官河野清孝

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