弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由第一点について。
 公職選挙法四七条によれば、投票の記載には、文字と点字のみが認められている
と解すべきことは、所論のとおりであり、また、「○」は、「△」、「□」などと
同様、通常は物の形状をあらわす記号として用いられ、一般には、文字として取扱
われていないことも所論のとおりである。しかし、「○」が通常「マル」と呼ばれ
ることは周知のことであり、また、原審の認定したところによれは、本件において
は、被上告人Bの屋号が<記載内容は末尾1−(1)添付>であり、その通称が「
マルキン」であることは当事者間に争がない。しからば、本件投票用紙に「<記載
内容は末尾1−(1)添付>」、「○キン」、「○金」、「<記載内容は末尾1−
(2)添付>」、「<記載内容は末尾1−(3)添付>」等の記載があつた場合に
おいて、その記載が、これによつて選挙人が自己の投票しようとする候補者の何人
であるかを表示しようとしたものであることが窺われ、且つそれ以外に特別の意図
あることの認められないものである以上は、右記載の「○」は、物の形状をあらわ
す意味で用いられたものではなく、「マル」という語音を表わす趣旨で記載された
ものと解するを相当とし、この場合「○」は、公職選挙法の投票に関する記載につ
いては、本来の文字である「マル」又は「丸」と同一視することができるのである。
そして、かく解したとしても、何ら投票の秘密保持上支障を来たし又は選挙の公正
を害する虞を生ずるものとは認められないばかりでなく、公職選挙法六七条の法意
に適合し、選挙制度本来の趣旨に合する所以といわなければならない。されば、「
○」が文字と認められないことを前提として、本件投票を無効であるとする論旨は
採ることを得ない。尤も、本件においてその効力の争われている投票一七票の中、
「<記載内容は末尾1−(4)添付>」及び「<記載内容は末尾1−(5)添付>」
の記載ある投票は、候補者の何人たるかを表示する為に認められた事項以外の他事
を記載した投票と認められないこともないが、たとえ右のような投票が他事記入と
して無効であるとしても、かかる投票は各一票計二票であつて、これを差引いた残
りの一五票は、これを有効と認むべく、当事者間に争のない被上告人Bの有効投票
一、三二八票に右一五票を加えれは、Bの有効投票は合計一、三四三票となり、当
事者間に争のない次点者訴外Dの有効投票一、三三七票に上廻ることは明らかであ
り、従つて、右一五票を無効であるとの前提の下になされた上告人の本件裁決は、
失当として取消を免れないのであつて、これと結論を同じくする原判決は結局相当
である。
 同第二点について。
 論旨は単なる訴訟法違反の主張であつて「最高裁判所における民事上告事件の審
判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいず
れにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」もの
と認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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