弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
日本国憲法は、国会を衆議院及び参議院の両議院で構成するものとし(四二条)、
各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが、その趣旨は、衆議院と参議
院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによつて、国会が公正かつ効果的に
国民を代表する機関たらしめようとするところにある。そして日本国憲法は、参議
院議員の選挙についても、その制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量
にゆだねているのであるが(四三条二項、四七条)、公職選挙法は、憲法の右の趣
旨に則り、参議院議員については、国民代表としての実質的内容ないし機能に衆議
院議員とは異なる独特の性格をもたせるべく、参議院議員を全都道府県の区域を通
じて選挙される比例代表選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙され
る選挙区選出議員とに区分し、前者については実際上職能代表的な色彩が反映され
るようにし、後者については都道府県を基盤とする地域代表の要素を加味しようと
する趣旨で、参議院議員の選挙制度の仕組みを定めており、また、議員定数につい
ては、その総数二五二人のうち、前者に一〇〇人を、後者に一五二人を配分し、憲
法が参議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、
後者について各選挙区を通じてその選出議員の半数が改選されるように配慮し、四
七の各選挙区に各二人を均等に配分した上、残余の五八人にあつては人口を基準と
する各都道府県の大小に応じて比例する形で二人ないし六人の偶数の議員を付加配
分しているのである。以上の仕組みを考えれば、参議院議員の選挙については、衆
議院議員とは異なる代表性格をもたせるため、人口、選挙人数を基準とするのみで
は十分に代表されない国民各層の種々の利益をも多面的に代表させる仕組みとして
いるのであつて、かかる仕組みは、両院制の下における参議院の性格にかんがみれ
ば、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させるための具体
的方法として合理性を欠くものとはいえない。
参議院議員選挙について以上のような選挙制度の仕組みを採用した場合には、選
挙区選出議員の選挙において各選挙区の議員一人当たりの選挙人数にある程度の較
差が生ずることは当然であり、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の
平等がそれだけ損なわれることになつたとしても、これをもつて直ちに議員定数の
配分の定めが憲法一四条一項等に違反して選挙権の平等を侵害したものとすること
はできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下
では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較
して一定の譲歩、後退を免れないのである。また、社会的、経済的変化の激しい時
代にあつて不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組
みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するも
のであつて、その決定は、右の変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責
務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。したがつて、議員
定数配分規定の制定後人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一
人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどしたとしても、その一事では直ちに憲法
違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下に
おいて投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと
認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間
継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置をも講じないことが、複
雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁量的権限に
係ることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員
定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、当裁判所の判例(最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七
日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁)の趣旨とするところである。
本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、本件議員定数配分
規定につき人口の異動に対応した是正措置が講ぜられなかつたことにより、昭和六
一年七月六日の本件参議院議員選挙の当時においては、選挙区間における議員一人
当たりの選挙人数の較差が最大一対五・八五に拡大していたというのであるが、選
挙区選出議員の議員定数の配分と選挙人数に右のような不均衡が存したとしても、
それだけではいまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとす
るに足りないというべきことは、前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかであり、し
たがつて、本件選挙当時においては、いまだ本件議員定数配分規定が憲法に違反す
るに至つていたものとすることはできない。
以上と同旨の原審の判断は、正当であつて、所論引用の判例に違反するものでも
なく、原判決に所論の違憲、違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
奧野久之の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官奧野久之の反対意見は、次のとおりである。
私は、本件選挙当時において本件議員定数配分規定が憲法に違反するに至つてい
なかつたとした原判決を正当とし、本件上告を棄却すべきものとする多数意見に賛
成することができない。その理由は、次のとおりである。
一代議制民主主義体制をとる憲法の下においては、代議員たる国会議員を選出す
るための投票権が平等に与えられ、かつ、これを自由に行使し得ることが何より
も重要であり、投票価値の平等は憲法一四条一項及び四四条但し書を待つまでも
なく、最も基本的な要請であるといわなければならない。
一方参議院選挙区選出議員の選挙につき、現行のように各都道府県を選挙区とし
た場合には、都道府県のもつ社会経済上の特殊の地位と、憲法四六条による半数改
選制度とにより、完全な投票価値の平等を実現することは、中選挙区単記投票制が
採用されている衆議院議員選挙の場合以上に困難であることはいうまでもない。し
かし、投票価値の平等が憲法上の要請であることからすれば、選挙区間の投票価値
の較差は、いかに非人口的要素を考慮しても、最大一対五程度を限度とすべきであ
る。したがつて、較差がこの程度にとどまるときは一応右要請は充たされているも
のとしてよいが、これを超えるときは、投票価値が過大又は過小となつていること
について特殊な例外とみなければならないといつた特別の事情がない限り、投票価
値の平等は実現されていないものというべく、このような不平等状態が合理的な相
当の期間内に是正されないときは、議員定数配分規定は憲法に反するに至るものと
考えられる。
二本件において原審が適法に確定したところによると、本件選挙当時、選挙区間
における議員一人当たりの選挙人数に最大一対五・八五の較差が生じていたとい
うのであるが、右のような現状が投票価値の平等の要請を充たしているものとは
到底いいがたく、また、このような較差を生じていることにつき何らかの特殊な
事情があることも明らかにされてはいない。
しかも、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差が一対五を超
える状態は、昭和四三年七月七日施行の選挙で一対五・二二となつたのを始めと
して、同四六年六月二七日の選挙当時一対五・〇八、同四九年七月七日の選挙当
時一対五・一一とやや改善されたかに見えた時期もあつたものの、その後は同五
二年七月一〇日の選挙当時一対五・二六、同五五年六月二二日の選挙当時一対
五・三七、同五八年六月二六日の選挙当時一対五・五六、同六一年七月六日の本
件選挙当時一対五・八五と拡大の一途を辿つている。なお、この間、参議院地方
選出議員の議員定数の配分を定めた公職選挙法一四条、同法別表第二の規定につ
いては、沖縄の復帰に伴う関係法令の改廃に関する法律(昭和四六年法律第一三
〇号)により、沖縄県選挙区が設けられ議員定数二人が追加されたのと、同五七
年法律第八一号による公職選挙法の改正により、同五八年施行の選挙から、従前
の地方選出議員が選挙区選出議員となつたのと、二回改正が行われたが、そのう
ち前者は従前の議員定数配分を変更したものではないし、後者も名称の変更にと
どまり、都道府県を単位とする選挙区ごとに、同法別表第二による定数に従い選
出されることは同じであるから、右不平等状態の拡大傾向は右二回の改正の前後
を通じて何ら本質的に変化はないのである。そして、本件選挙に至るまで、最大
較差が初めて一対五を超えた昭和四三年の選挙時からは一八年、同五二年からで
もすでに九年を経過しているのであるから、いかに是正の作業に困難を伴うとし
ても、もはや是正のために許されるべき合理的期間を過ぎていることは明らかで
あろう。
したがつて、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の投票価値の平等
の要求に反し違憲と断ぜられるべきものであつたというほかないが、同規定の違
憲を理由として本件選挙を無効とすることにより生ずる著しい障害を回避すべき
公益上の必要性があると考えられるから、本件については、行政事件訴訟法三一
条一項に示されたいわゆる事情判決の法理を適用し、主文においてその違法であ
ることを宣言するにとどめ、選挙の無効を求める請求はこれを棄却するのが相当
である。
三以上の次第であるから、前述したところと異なる見解の下に本件選挙を適法と
し、上告人の請求を棄却した原判決には、憲法の解釈、適用を誤つた違法があり、
本件上告はその限りにおいて理由があるから、原判決を変更して前記の趣旨の判
決をすべきである。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官香川保一
裁判官牧圭次
裁判官島谷六郎
裁判官藤島昭
裁判官奧野久之

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