弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人後藤久馬一の上告理由第一点について。
 本件事故は、第二種原動機付自転車の運転者Dが、対向車の前照燈に眩惑され、
全く目が見えなくなつたが、このような場合には、二輪車の特性に鑑み、直ちに減
速もしくは停止して視力の回復を待ち、その後に進行すべき注意義務があるのに、
これをしなかつたため、この過失によつて発生した旨の原審の認定判断は、原判決
挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。所論は、原判決の認定した事実
と異なる事実に基づき原判決を非難するものであつて、原判決に所論の違法はない。
論旨は採用できない。
 同第二点について。
 被用者の責任と使用者の責任とは、いわゆる不真正連帯と解すべきであり、不真
正連帯債務の場合には債務は別々に存在するから、その一人の債務について和解等
がされても、現実の弁済がないかぎり、他の債務については影響がないと解するの
が相当である(大判昭和一二年六月三〇日、民集一六巻一二八五頁)。所論はこれ
と異なる見解に立つて原判決を攻撃するものであつて、論旨は採用できない。
 同第三点について。
 不法行為による精神的苦痛に基づく損害の賠償を請求する権利、すなわち、慰藉
料請求権は、被害者の死亡によつて当然に発生し、これを放棄、免除する等特別の
事情の認められないかぎり、被害者の相続人がこれを相続することができると解し
て、被上告人らがその被相続人である亡Eの本件慰藉料請求権を相続したものと認
定した原審の判断は、当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号昭和四二年一一月一
日大法廷判決(民集二一巻九号二二四九頁)の判旨に照らし、正当として首肯する
ことができる。原判決に所論の法令解釈の誤り等はなく、論旨は採用することがで
きない。
 同第四点について。
 上告人は民法七一五条一項担書にいう監督につき相当の注意をなしたものといえ
ず、上告人は使用者としての責任を免れない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の
証拠関係に照らして首肯することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は採
用できない。
 同第五点について。
 不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、
訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、
認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにか
ぎり、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきであることは、当裁判所の
判例とするところであり(最高裁判所昭和四一年(オ)第二八〇号同四四年二月二
七日第一小法廷判決、民集二三巻二号四四一頁)、その弁護士費用たる手数料、報
酬は現実にはまだ支払をしておらず、約束にとどまつているものでもよいと解する
のが相当である(最高裁判所昭和四四年(オ)第四〇三号同四五年二月二六日第一
小法廷判決)。そして、被上告人らが本件訴訟のため弁護士に支払うことを約した
報酬等のうち被上告人らが上告人に賠償請求をなしうべき範囲は、本件訴訟の経緯、
その他諸般の事情を考慮すると、被上告人Bについて一五万円、その他の被上告人
らについて各一〇万円を相当とする旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係
に照らして首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告理由第三点に対する裁判
官田中二郎、同松本正雄の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。
 裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。
 上告代理人後藤久馬一の上告理由第三点について、多数意見は、「慰藉料請求権
は、被害者の死亡によつて当然に発生し、これを放棄、免除する等特別の事情の認
められないかぎり、被害者の相続人がこれを相続することができる」ものとし、同
趣旨の原判決を支持しているが、私は、この見解には賛成することができず、原判
決は、この点について法令の解釈を誤つたものであり、破棄を免れないと考える。
その理由は、当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号昭和四二年一一月一日大法廷
判決における私の反対意見と同一であるから、それを引用する。
 裁判官松本正雄の反対意見は、次のとおりである。
 慰藉料請求権は被害者の一身専属的な権利であり、被害者がこれを請求する意思
を表示したとき、またはこれを行使したばあい、あるいは契約または債務名義によ
り加害者が被害者に慰藉料として一定額の金員の支払をなすべきものとされたばあ
いにおいてのみ、はじめて相続の対象になるものと解すべきであり、原判決は、こ
の点について法令の解釈を誤つたものであり、破棄を免れないと考える。その理由
は、当裁判所昭和四一年(オ)第一四六三号昭和四三年五月二八日第三小法廷判決
(裁判集九一号一二五頁)における私の反対意見と同一であるから、それを引用す
る。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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