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平成14年11月22日宣告 奈良地方裁判所
平成14年(わ)第290号
 被告人Aに対する収賄,被告人Bに対する贈賄各被告事件について,当裁判所
は,検察官本多重夫,被告人Aの弁護人高野嘉雄(主任),古川雅朗(私選),被
告人Bの弁護人佐々木育子(私選・主任)出席のうえ審理し,次のとおり判決す
る。
          主     文
    被告人Aを懲役1年に処する。
    被告人Aに対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予す
る。
    被告人Aから金50万円を追徴する。
    被告人Bを懲役10月に処する。
    被告人Bに対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予す
る。
          理     由
(罪となるべき事実)
 被告人Aは,平成11年4月1日から同14年3月31日までの間,奈良県C土
木事務所工務第2課長として,同土木事務所が同県c郡a村等において発注する土
木工事の計画,設計,施行及び指導監督に関する事務を統括整理するなどの職務を
行っていたもの,被告人Bは,土木工事業及び建築工事業等を営む株式会社B土木
の取締役で同社を実質的に経営していたものであるが,
第1 被告人Aは,平成14年2月25日ころ,奈良県c郡d町大字ef番地所在
の奈良県C土木事務所駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,被告人Bか
ら,株式会社B土木が上記土木事務所から受注した工事の指導監督等につき同社の
ために有利な取計らいを受けてきた上,同郡a村大字bc字de番地所在の同社資
材置き場に面する県道f線の道路施設維持修繕費工事を数か年かけて実施していく
に当たり,同資材置き場の前から優先的に工事を施工していく計画を立て実施する
など,同社のために有利な取計らいを受けたことに対する謝礼及び将来も同社が上
記土木事務所から受注する工事の指導監督等につき同社のために有利な取計らいを
受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,現金50万円の供
与を受け,もって,自己の上記職務に関して賄賂を収受し,
第2 被告人Bは,上記第1記載の日時ころ,上記土木事務所駐車場に駐車中の上
記普通乗用自動車内において,被告人Aに対し,同記載の趣旨のもとに現金50万
円を供与し,もって,同被告人の上記職務に関し賄賂を供与し
たものである。
(法令の適用)
1 被告人Aについて
 被告人の判示第1の所為は刑法197条1項前段に該当するので,その所定刑期
の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁
判の確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,被告人が判示第1の犯行により
収受した賄賂は没収することができないので,同法197条の5後段によりその価
額金50万円を被告人から追徴することとする。
2 被告人Bについて
 被告人の判示第2の所為は刑法198条に該当するところ,所定刑中懲役刑を選
択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役10月に処し,情状により同法25条
1項を適用してこの裁判の確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとす
る。
(量刑の理由)
1 本件犯行全般について
 本件は,県道f線の道路施設維持修繕費工事(以下「本件工事」という。)に関
し,奈良県c郡a村で土木工事業等を営んでいた被告人Bが,本件工事の箇所等を
決定・実施する実質的な最終権限を有する奈良県C土木事務所工務第2課長であっ
た被告人Aに対し,50万円の賄賂を供与し,同被告人がこれを収受したという贈
収賄の事案である。
 被告人Aは,平成11年4月から上記土木事務所の工務第2課長として勤務する
ようになったところ,株式会社B土木(以下「B土木」という。)が5000万円
以上の公共工事を受注できるAランク業者であり,その実質的経営者である被告人
BがC・E建設業協会D支部支部長を務めリーダー的存在であったので,同被告人
と良好な関係を築いていれば今後地元建設業者間のトラブル等の解決に役に立つだ
ろうと考え,他方,同被告人も,権限を持った被告人Aを大切にしておけば将来仕
事の面で便宜を図ってもらえるとの思惑から,同被告人が被告人Bの会社事務所や
工事現場に赴いたり,同被告人が上記土木事務所にいる被告人Aを訪ねたりして雑
談を交わすうち,互いの人柄にひかれた面もあって次第に懇意になり,平成12年
9月ころには,被告人Bにおいて,上記土木事務所を訪れた際に被告人Aが周囲の
者とよく競馬の話をしていたので小遣いに不自由しているかもしれないと思い,同
被告人に対し,日頃のお礼として30万円の現金を交付したため,これを受領した
同被告人も,何かの折には被告人Bに対して有利な計らいをしなければいけないと
いう心理的な負い目を感じるようになり,このような経緯のもとで,
上記土木事務所工務第2課で計画,設計される工事費500万円以下の県道等の維
持修繕工事に関し,慣例として,課長がそれらを実質的に最終決定する権限を有し
ていたことから,平成13年9月ころから同年12月にかけ,本件工事に絡み,B
土木の資材置き場の前から優先的に工事を行う計画を立てるなどして実施し,翌1
4年1月25日の工事竣工検査の日に被告人Bに対し,本件工事の出来映えを強調
しながら,転勤に伴う餞別にかこつけて賄賂の提供を要求し,その結果,判示のと
おり,その1か月後に本件犯行が敢行されたものであって,被告人両名のモラルの
低下には看過し得ないものがあり,両名の犯情はいずれも悪質といわねばならな
い。
2 被告人Aについて
 被告人Aは,昭和47年,奈良県職員に技術吏員として採用された後,長年にわ
たり土木部関係の職務に従事し,犯行当時は,奈良県C土木事務所工務第2課長と
して,a村土木工事の職務を公正かつ廉直に実施していくべき重大な職責を担って
いたにもかかわらず,土木業者が行った工事の製品検査に行った際に何度か宿泊
代,飲食代等を業者に支払ってもらい,いわゆる業者丸抱えの接待を受けたり,被
告人Bと個人的な付き合いをしたりするうち,本件賄賂まで収受するに至ったもの
で,公務員としての職責に対する自覚を全く欠いており,強く非難されなければな
らない。
 そもそも,c郡a村では,同村内の県道f線の一部(下方(北)にあたるF株式
会社奈良工場先付近から上方(南)のB土木の産業廃棄物中間施設及び資材置き場
までの約400メートルの区間)がB土木のダンプカーの通行等の影響や側溝が未
整備で水はけが悪かったことなどから,アスファルト舗装が割れ,路面が凸凹にな
ってはいたものの,最も水はけが悪く冬季に湧水等が凍結して通学にも危険が生ず
る箇所は上記工場付近の道路であったにもかかわらず,同箇所を差し置いて,B土
木の資材置き場前から優先的に工事を施行したり,被告人Bから促されるまま,当
初の設計図面とは異なって,同資材置き場前の道路が広くなるように側溝の場所を
変更した上,上記のとおり,自ら餞別名目で賄賂を要求したばかりか,上記土木事
務所内で勤務中,被告人Bから呼び出されて,白昼堂々と,その駐車場に駐車中の
自動車内で本件賄賂を受け取り,しかも,その翌日,同事務所の廊下で部下に対し
「これ,Bからや。」と言って本件賄賂のうち10万円を渡してもおり,その犯行
の態様及び犯行後の行状は,大胆かつ悪質というほかない。そして,受け取った金
員も50万円と決して少ない額ではなく,上記10万円以外の金員の
ほとんど全てを競馬に費消しているのである。近時,関係業者との癒着等,公務員
としての自覚に欠けた非常識な行動が厳しく非難され,その綱紀粛正が強く叫ばれ
ている現状を考慮すると,この種事犯に対する一般予防の見地も軽視できず,被告
人Aに対して厳しい態度で臨む必要があることもまた否定できない。
 以上の諸点に照らすと,被告人Aの刑責は重いというべきである。
 しかしながら,他方で,被告人Aが任意捜査の段階からこれまで一貫して罪を認
め,深く反省していること,本件工事自体は,以前より地元から強い要望がなされ
ていたもので,もっぱら被告人Bの意を酌んでなされたものではないこと,本件は
マスコミにも報道され,被告人Aは社会的にも厳しい非難にさらされた上,長年勤
務した奈良県職員を懲戒免職になるなど,相当の社会的制裁を受けていること,前
科前歴がないこと,養うべき家族があることなど,同被告人のために酌むべき事情
も認められるので,これらの諸事情を総合考慮すると,被告人Aに対してはその刑
の執行を猶予するのが相当であると考えた。
3 被告人Bについて
 被告人Bは,平成13年9月初旬ころ,いつものように上記土木事務所に赴き,
被告人Aの横に座って同被告人と雑談していた際,同被告人から本件工事の話を持
ち出されるや,自分の資材置き場前の道路の側溝が整備されれば水はけが良くなり
ダンプカーの出入りもしやすくなるとの思いから,同被告人に対し,同資材置き場
前から工事をしてほしいと頼み込み,その後,本件工事竣工検査の日に賄賂を要求
されると,便宜を図ってくれた礼として即座に了承し,今後も,工事の指導監督や
検査等に関して便宜を図ってもらいたいとの意向もあって,本件賄賂を供与したも
のであり,犯行の経緯に躊躇のあとがみられないばかりか,むしろ,具体的な便宜
を図ってもらったとして自発的に前回を大きく上回る金額を渡すなど,意欲的であ
ったと認められ,犯行の動機及びその経緯は誠に身勝手,自己中心的で酌量の余地
はなく,以前の同種行為に照らしても,規範意識の鈍麻は著しいというべきであ
る。
 以上の諸点に照らすと,被告人Bの刑責にも軽視できないものがある。
 しかしながら,他方で,被告人Bが素直に罪を認めて反省していること,本件賄
賂の提供自体は,被告人Aからの要求に基づくもので,受動的であること,本件事
件がマスコミで報道されたばかりか,B土木も,公共工事から指名停止をされた
上,指名業者としてのランクの減点も予想され,相当の社会的制裁を受けているこ
と,前科前歴がないこと,養うべき家族があり,妻が今後の被告人Bの監督を誓っ
ていることなど,同被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの諸事
情を総合考慮すると,被告人Bに対してもその刑の執行を猶予するのが相当である
と考えた。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑・被告人Aに対して懲役1年,追徴金50万円,被告人Bに対して懲役 1
0月)
 平成14年11月22日
   奈良地方裁判所刑事部
    裁判長裁判官 東   尾   龍   一
    裁判官 品   川   し の ぶ
    裁判官   鵜   飼   万 貴 子

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