弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人斉藤展夫等及び被告人本人が連名で提出した控訴趣意
書に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事板山隆重が提出した答弁書
にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
 第一 控訴趣意七について
 論旨は、要するに、被告人に対する現行犯人逮捕は、その要件も必要性もなく、
憲法三一条、三三条に違反したものであり、仮に被告人の本件行為が公職選挙法一
三八条二項に該当するとしても、これは、単なる騒音謝罪の挨拶に過ぎす、可罰的
違法性、実質的違法性が軽微であつたことからして、本件捜査及び公訴の提起は、
A党及び同党所属の候補者で被告人の妻Bに対する政治的弾圧を意図してなされた
不公正なものであり、その故に本件公訴の提起は公訴権を濫用したものとしてこれ
を棄却すべきであつたのに、これを看過した原判決は、不法に公訴を受理した違法
を犯したものである、というのである。
 しかしながら、原審記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して、
まず被告人に対する現行犯人逮捕手続の適法性についてみると、関係証拠によれ
ば、原判決説示のとおり、原判示a団地b街区の入居者Cから、被告人が「Bの夫
です。」などと言いあるいているとの通報を受けて同団地に赴いた警視庁町田警察
署のD刑事課長ら捜査官は、b街区八号棟及びc号棟の入居者数名から前記通報と
同旨の聞き込みを得、また被告人かEを伴つてc号棟の入居者宅を訪れて同旨の発
言をしているのを現認し、この間自ら右捜査を遂行し適宜捜査員から報告を受けて
いたD刑事課長において、右捜査活動に従事していた同署警察官Fらに命じ、c号
棟d号のG方を訪れ扉を開けて家人と会話を交していた被告人を公職選挙法一三八
条二項所定の戸別に候補者の氏名を言いあるいた罪の現行犯人として逮捕させたこ
とが認められる。なるほど、原判決が指摘するとおり、関係証拠を総合しても、被
告人が右G方においてBの氏名を言いあるく行為に及んだことは認められないけれ
ども、前記認定事実によれば、右逮捕の時点において、被告人に対する現行犯人逮
捕の要件が客観的に整つており、被告人の身上関係はもとより、犯行の動機・規
模、Eとの関係など犯罪事実の全貌が未だ判然とせず、被告人の身柄を確保して捜
査を進める必要性のあつたことは明らかであり、被告人の逮捕を命じたD刑事課長
及び現に被告人を逮捕した松本らもこれを認識していたと認められるのであつて、
右逮捕手続に何ら違法な点はなく、この点の所論は採用てきない。また、被告人の
本件犯行は、投票日が一週間後に迫つた時期に、長時間にわたり多数の選挙人方を
順次訪問して候補者の氏名を言いあるいたものであつて、軽微な事犯とは認め難い
から、その可罰的違法性、実質的違法性に欠けるところはなく、しかも、本件捜査
及び公訴の提起が所論のようにA党やBの弾圧を意図してなされたものと認めるに
足る証拠は存しないから、論旨は理由がない。
 第二 控訴趣意四について
 論旨は、要するに、原判決は、H及びCを除くその余の被訪問者一一名の各検察
官面前調書を証拠として採用しているが、一一名もの多数人が、事件の核心的部分
について、反対尋問を経、信用性の高い各自の原審証言と矛盾する供述をしている
こと、合理的理由もないのにIの供述調書には検察官の署名押印が欠落しているな
ど本件捜査は極めて杜撰であるうえ、被訪問者の取調を行つた二名の検察官の捜査
目的に従い各供述調書の内容に類型的差異があり、しかも、被告人が、一家の主人
の自己紹介として合理性も必然性もない、「Bの夫です。」とか「Bは私の女房で
す。」といつた発言をしたこととされ、被訪問者において単なる騒音謝罪に過ぎな
い被告人の訪問から投票依頼の趣旨を感得したとされるなど検察官による作為性、
違法な誘導が強く窺われることなどからして、前記各検察官面前調書には特信性が
ないにもかかわらず、原判決がこれを証拠として採用したのは訴訟手続の法令違反
に当たる、というのである。
 しかしながら、原審記録を調査して検討すると、前記一一名の被訪問者は、いず
れも当時a団地b街区に居住する家庭の主婦であつたところ、同女らの各検察官面
前調書は、各供述者が、本件犯行から二〇日を経ない記憶の新鮮な時期に、体験に
即して具体的、有りのままに供述した内容を録取したものであることが看取され、
しかも、暴行など違法な取調がなされたことを窺わせる証拠がないのに対し、右各
供述者の中にはその後a団地から転居した者もいるとはいえ、その各原審証言は、
本件犯行から三年八か月ないし五年九か月を経た時期に、被告人本人やその支援者
多数が在廷する公判廷でなされたものであり、各証言内容から、日時の経過による
記憶の低下、被告人らに対する遠慮、同情などが看取されることに照らすと、所論
指摘の各供述調書の任意性はもとよりその特信性を優に肯認することができる。な
るほど、二名の検察官が右各供述者の取調を分担して行つていて、作成者に応じて
供述調書の内容に所論指摘のような差異を認めることができるが、捜査官の個性、
捜査の目的などによつて取調状況は自ずと異つて来るのであり、また、これに応じ
て各供述者が記憶喚起を促されるなどして供述する範囲、内容の具体性、詳細さに
も差異が生じることは自然であつて、その故に直ちに各供述調書の任意性、特信性
が否定されるとはいえない。また、被告人は、後記のとおり、訪問先において、候
補者Bの選挙騒音を謝る挨拶をして同女の氏名を言いあるいたのであるから、被告
人が同女に主眼をおいた自己紹介をしたからといつて所論のように不合理なものと
はいえず、被告人の訪問の時期、態様などからして被訪間者が被告人の訪問を投票
依頼の趣旨と受け取つたとしても不自然な点はなく、その余の諸点を検討しても、
前記各供述調書の特信性を争う所論はいずれも採用することができず、論旨は理由
がない。
 第三 控訴趣意二、三(これと同旨の四・八中の部分を含む)及び五について
 所論のうち、控訴趣意五の論旨は、要するに、公職選挙法一三八条二項は、同条
一項の脱法行為を禁じているが、本来自由な個人の日常行為、政冶活動などと明白
に区別できるよう厳格に解釈することによつて初めてその合憲性を肯認することが
できる。従つて、同条二項にいう「選挙運動のため」戸別に候補者の氏名を言いあ
るく行為とは、実質的に、特定の候補者に投票を得又は得しめる目的をもつて行わ
れる戸別訪問といえるもので、しかも不正行為の温床となりやすいことなど戸別訪
問と同一の弊害をもたらし、これを禁止しなければ戸別訪問と同様に選挙の公正を
維持する目的が阻害されるものであることを要し、「候補者の氏名の言いあるき」
とは、文言どおり、又は他の行為に名を籍りつつ特定の候補者への投票を依頼する
ため、候補者の氏名を言いあるくもので、その行為の外観からみても特定の候補者
への投票依頼により強く結びつく形態のもののみをいうと解すべきであるにもかか
わらず、原判決が、「選挙運動のため」とは、戸別に特定の候補者の氏名を言いあ
るくことにより、特定の候補者を相手方選挙人に強く印象づけて、当該選挙人から
特定の候補者に投票を得させるにつき有利に働くものと認識し、かつ、これを積極
的に認容している場合をいうとし、「候補者の氏名の言いあるき」とは、単に特定
の候補者の氏名のみを言いあるく場合に限らず、他の行為に付随して特定の候補者
の氏名を言いあるく場合、さらにはかかる場合に候補者の氏名を何某の妻などと間
接的表現で言いあるくときも含むとして拡大解釈をなし、被告人の本件行為が同条
項に違反するとしたのは、法令の解釈を誤つたものである、というのであり、控訴
趣意二・三及び四・八中これと同旨の論旨は、要するに、a団地b街区は、九棟三
〇〇戸が全部分譲住宅であつて、居住者に持家意識の強い一つの生活共同体をなし
ており、騒音についても厳しい制約が存するところ、被告人は、騒音である点では
生活騒音と差のない選挙騒音の被害がb街区全体に及んでいて、近隣住民から苦情
が出ていたことから、騒音謝罪に好都合な日曜日を選び、円滑に訪問できるように
Eらを伴つて各入居者宅の扉の外から、「四号棟のBです。いつもお世話になりま
す。選挙か始まつて女房が朝から晩までうるさく廻つていると思いますが、御容赦
下さい。あと一週間迷惑をおかけします。」などと言いながら日常的挨拶を行つた
に過ぎず、このことは被告人の原審供述等関係証拠によつて明らかであるにもかか
わらず、何ら合理性のない根拠に基づき被告人の本件犯行を認定した原判決には重
大な事実誤認がある、というのである。
 そこで、検討すると、公職選挙法一三八条二項は、選挙運動のため戸別に特定の
候補者の氏名を言いあるく行為を前項に規定する禁止行為に該当するものとみなす
と規定しているが、それは、このような行為には、戸別訪問のもつ直接的な投票依
頼の効果には及ばないまでも、当該候補者を選挙人に強く印象づけ、当該選挙人か
ら同候補者への投票を得るのに有利に働く効果があり、往々にしてそれが戸別訪問
の脱法行為として行われるおそれがあるからであると解される。そして、脱法行為
を禁ずる以上は、いかなる手段方法をもつて行われようと、これを規制する必要が
あるのは当然であり、他面、特定の公職の選挙に立候補した候補者とはいえその氏
名を告げることは社会生活において日常起りうることであるし、またその必要があ
る場合もあるから、右の禁止行為に該当するとして規制されるのは、それが選挙運
動のために行われたときに限られるべきであつて、これらの点は法文上明らかにさ
れている。ところで、戸別に特定の候補者の氏名を言いあるく行為は、それ自体で
は選挙人に対する直接的な投票依頼を内容としないものであるけれども、候補者の
当選のために有利に働くことは否定し難く、それ故に戸別訪問とみなされているの
であるから、行為者が特定の候補者の氏名を言いあるくことを認識しているだけで
直ちにこれを選挙運動のために行つたものと解するとすれば、特に選挙運動のため
に行われたもののみを禁じた同条項の文言に反するばかりでなく、前記のように社
交儀礼として行うことなども制限されることになつて禁止の範囲が不当に広範にな
り、実質的にも相当でないといわなければならない。してみると、同条項にいう
「選挙運動のため」とは、単に戸別に候補者の氏名を言いあるく行為を行うことの
認識をもつて足りるものではなく、より積極的に当該立候補者のため投票を得若し
くは得させる目的のもとに行為に出ること、換言すれば、当該立候補者のため投票
を得若しくは得させることを動機として行為に出ることを要するものと解するのが
相当である。もとより、この場合、行為者において他の用件を併せもち又はこれに
付随しあるいは仮託していたとしても、右の目的があることは否定されない。ま
た、前記の立法趣旨から考えても、候補者の氏名のみを戸別に言いあるく態様の行
動などは通常考えられないことからみても、挨拶など日常行為の内容に含めてその
氏名を告げることも当然禁止されるものと解すべきである。また、特定の候補者を
指すことが明らかである以上何某の妻などといつた間接的表現も候補者の氏名に含
まれると解するのが相当であり、所論のようにこれを限定して解すべき根拠は見当
たらない。
 <要旨第一>そこで、原審記録を調査し当審における事実取調の結果をも参酌して
検討すると、原判決が挙示する証拠を総合すれば、原判示の昭和四九年
二月二四日施行の町田市議会議員選挙に立候補したBの夫である被告人は、投票日
が間近に迫つた同月一七日に、a団地内のB後援会の事務局長をしていたEらを伴
つて、現に選挙騒音の被害を受けていたa団地b街区の入居者を戸別に訪れ、直接
多数の選挙人に対し、原判示のとおり選挙騒音の謝罪挨拶をした中で「B」あるい
は「Bです。うちの家内が」などといつて同女の氏名を言いあるいていることが認
められる。そして、被告人が選挙騒音に対する謝罪を行うこと自体、その時期及び
対象者に照らし、各選挙人の、選挙騒音を発している側にいるBに対する感情を好
転させ、同女への投票を得るのに有利に働く可能性があることは明らかであり、ま
た、被告人の捜査段階及び原審特に第四八回公判における供述によれば、被告人
は、Bについて、近隣住民から立候補しても挨拶に来ないとか同女が従来からあま
り愛想のいい女ではないなどの誹誇か中傷がされていたことを聞知し、これを気し
て、選挙騒音の謝罪挨拶に回つて誹謗中傷で低下した同女への印象を回復するため
に、同女への投票獲得に有利に働く右行為に及んでいるのであるから、被告人がこ
れを選挙運動のために行つたと容易に認定することができる。してみると、被告人
について公職選挙法一三八条二項所定の戸別に候補者の氏名を言いあるく罪を犯し
たことを優に肯認することができる。
 なお、所論は、a団地b街区は入居者に持家意識の強い一つの生活共同体をなし
ている旨主張するが、原審及び当審において取調べた関係証拠に照らすと、所論が
a団地b街区の特殊性として主張するものは、入居者の専有、共有部分を有する集
合住宅において通常生じる、法律的・社会的制約や事務処理状況に過ぎないとみら
れ、同街区が所論のような特殊な共同体をなしているとは認め難いところであるけ
れども、所論を前提とし、原判示のとおり同街区には近隣の迷惑となる騒音や言動
を禁じる組合規約が存在し、入居者が日頃生活騒音について互に特別の配慮をして
生活しており、そのことが被告人が本件行為に及んだ一つの契機となつていたとし
ても、既に述べたとおり、選挙運動のために行う意思を有していたことが否定され
るものではないから、所論は採用の限りでない。
 従つて、被告人の本件行為が公職選挙法一三八条二項の罪を構成するものとした
原判決は、結局正当であつて、その余の所論を逐一検討してみても、原判決に所論
のような誤りは存せず、論旨は理由がない。
 第四 控訴趣意六について
 論旨は、要するに、(1)戸別訪問は、選挙運動における表現手段として、候補
者、選挙人間の双方向的な意思の伝達方法であるという長所を有し、弊害とされて
いる買収等の不正行為の温床となりやすいことなどはいずれも根拠を欠くものであ
るにもかかわらず、これを全面的に禁止した公職選挙法一三八条一項は憲法二一条
に違反しており、仮にそうでないとしても、公職選挙法一三八条二項は、同条一項
の脱法行為の禁止規定であるから、戸別訪問と同程度の諸弊害を伴う態様の行為の
みを禁止することによつてその立法目的を達成できるにもかかわらず、弊害を伴う
か否かを問わず法益侵害の具体的危険性のない行為についてまで脱法行為として一
律に禁止しているのであつて、表現の自由に対する規制として合理的で真にやむを
えない必要最少限度の範囲を超えており、また、同条二項所定の「選挙運動のた
め」という概念は、暖昧で、本来自由な政治活動や日常生活上の挨拶行為と区別す
る基準が明らかでなく、憲法三一条の保障する罪刑法定主義、構成要件の明確化の
要請に反するから、公職選挙法一三八条二項は、憲法前文、二一条、三一条に違反
するものであるにもかかわらず、最高裁判所の裁判例に従うのみで具体的検討を怠
たり、公職選挙法一三八条二項を同条一項と同一の理由で合憲とした原判決には理
由不備、法令解釈の誤りの違法がある、(2)被告人は、各訪問先で一分前後騒音
謝罪の挨拶を行つたに過ぎず、法益侵害の明白かつ現在の危険がないにもかかわら
ず、これに公職選挙法一三八条二項を適用した原判決は、憲法一三条、二一条、三
一条、三九条に違反する、というのである。
 そこで、まず、(1)について検討すると、公職選挙法一三八条一項の規定が憲
法二一条に違反するものてないことは、最高裁判所の確定した判例(昭和四四年四
月二三日大法廷判決・刑集二三巻四号二三五頁、昭和五六年六月一五日第二小法廷
判決・刑集三五巻四号二〇五頁、同年七月二一日第三小法廷判決・刑集三五巻五号
五六八頁、昭和五六年(あ)第四四三号同年六月一八日第一小法廷判決等)であつ
て、これを変更すべき理由も認められないので、当裁判所もこれに従うものである
(なお、昭和五六年(う)第八五号昭和五七年四月一五日東京高等裁判所判決参
照)。従つて、右公職選挙法一三八条一項の脱法行為とみなされて禁止される行為
を定めた同条二項の規定が憲法二一条に違反するものではないと解されるのである
か、以下、戸別に候補者の氏名を言いあるく行為に限つて、判例で示された判断基
準を参酌して、若干付言する。
 選挙運動のため戸別に候補者の氏名を言いあるくことは、戸別訪問のように国民
が直接の政治参加の場である選挙において政治的意見を表明し伝達するのに役立つ
手段でないにしても、候補者の知名度を高め投票獲得に有効な選挙運動としての利
点を有し、これを禁止することが憲法二一条の保障する表現の自由に対する制約と
なることは否定できないが、その制約の程度は戸別訪問のそれ以下にとどまるとい
つて差し支えないであろう。また、戸別訪問については、買収利害誘導などの温床
になり易く、これを許容すると、それらの違法行為のなされる機会が増えることと
なるばかりか、戸別訪問を放任するときは、候補者側も訪問回数を競う煩に耐えら
れなくなるうえ、多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなり、選
挙人の生活の平穏を害するという弊害が生じるものとされており、戸別に候補者の
氏名を言いあるく行為についても、これを放任するときは、戸別訪問の脱法手段と
化し、戸別訪問について指摘される前記諸弊害を生じるに至ることも十分予想され
るのである。そうだとすると、戸別に候補者の氏名を言いあるく行為を禁止して
も、戸別訪問の禁止が<要旨第二>合憲とされると同様の理由によつて合憲であると
解される。すなわち、戸別に候補者の氏名を言いあるく行為を禁止する
のは、これらの弊害を防止して選挙の公正をより確実なものにすることにあつて、
これを一率に禁止することとの間に十分な合理的関連性があるということができる
し、その規制目標は、明らかに、表現の内容そのものには向けられなくて、単にそ
の行為に伴う付随的な弊害の防止に向けられており、この規制が表現の自由に対し
て及ぼす制約は、戸別に候補者の氏名を言いあるくという手段方法によつて意見表
明をする自由を奪い、それだけ表現の機会を狭めることになるというにとどまると
ころ、公職選挙法においては他に各種の手段方法による選挙運動が広く許されてい
るから、この規制により得られる利益と失われる利益との均衡を失しているとはい
えない。それ故、いかなる手段方法により選挙を実施することが全体としての選挙
の公正を確保することができるかという積極的、政策的見地に立ち、利益考量の結
果とられた、戸別に候補者の氏名を言いあるく行為を一率に禁止する措置は、憲法
二一条との関係において国会の規制権限を逸脱した違憲の規制ということはでき
ず、従つてまた、これを禁じた公職選挙法一三八条二項は、すべての候補者、選挙
運動者などに対し公平に適用される選挙のルールに違反する行為を処罰している点
で合理性を有し、合憲なものということができる。
 さらに、公職選挙法における選挙運動の意義は、判例上確定しており(昭和三八
年一〇月二二日第三小法廷決定・刑集一七巻九号一七五五頁、昭和五三年一月二六
日第一小法廷判決・刑集三二巻一号一頁等参照)、同法一三八条二項の「選挙運動
のため」の意義についても、これと同様に解すべきであつて、前項に述べたとおり
何ら不明確な概念ではなく、もとより、同条項が選挙運動としてなされたものでな
い政治活動や日常生活上の挨拶行為をも処罰しようとするものではないから、これ
が憲法前文、三一条に違反するとの所論は前提を欠き、採用できない。また、原判
決の理由不備をいう所論部分は、いわゆる必要的判示事項以外の事柄に関する原判
決の説示の不備をいうに過ぎないから主張自体失当であるばかりでなく、公職選挙
法一三八条二項の合憲性に関する原判決の説示に何ら違法不当な点はない。
 次に、(2)について検討すると、公職選挙法一三八条二項は、いわゆる形式犯
ないし抽象的危険犯であつて、その成立に法益侵害の具体的危険性が生じることを
必要とするものではないから、所論はその前提を欠いていて失当であるばかりでな
く、被告人の本件行為は、そのなされた時期、態様などからして法益侵害の危険の
発生することが一般的に認められるのであつて、これを同条項に該当するものとし
た原判決の法令適用に何ら違法な点はない。論旨は理由かない。
 第五 控訴趣意八中法令適用の誤りの主張について
 論旨は、要するに、被告人は無罪であるにもかかわらず、原判決が原審証人Jら
に対して支給した訴訟費用の負担を被告人に命じたのは法令適用の誤りに当たる、
というのであるが、前記のとおり被告人の刑責を肯認できるのであるから、所論は
その前提を欠いているうえ、原審記録を調査しても原判決か所論の訴訟費用を被告
人に負担させたことに何ら不当な点はなく、論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 桑田連平 裁判官 香城敏麿 裁判官 植村立郎)

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