弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を原判示第一の一、第一の二の(1)、(2)、第一の三及び第
一の四の別表二の1ないし9の各罪につき懲役八月に、原判示第一の二の(3)な
いし(5)、第一の四の別表二の10ないし24、第一の五及び第二の各罪につき
懲役二年に、それぞれ処する。
     原審における未決勾留日数中四〇日を右懲役八月の刑に、同三二〇日を
右懲役二年の刑に、それぞれ算入する。
     原審訴訟費用中、証人A1、同A2、同A3に支給した分は原審相被告
人B1及び同B2と、証人A4に支給した分は原審相被告人B2と、証人A5、同
A6、同A7(第二九回公判期日分)、同A8に支給した分は原審相被告人B3
と、それぞれ連帯して、また、証人A9、同A10、同A11、同A12、同A1
3、同A14、同A15、同A16、同A17、同A18、同A19、同A20、
同A21、同A22に支給した分は単独で、被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人鈴木健弥作成の控訴趣意書記載のとおりであるのでこ
れを引用する。
 論旨Ⅱは、原判示第一の事実について、採証法則違背、事実誤認、法令の解釈適
用の誤りを主張するものである。
 所論第一は、本件犯行当時商品取引業界には、商品仲買人が自らの営業資金を調
達するため他から金融を受けるにつき、委託証拠金代用証券(以下単に代用証券と
いう。)として顧客から預託された有価証券を担保に差し入れることが許される旨
の商慣習が存在したと主張するのであるが、原審証人A23の証言によれば、当
時、商品取引の監督官庁である農林省では、顧客を保護し商品取引の公正を期する
ために、顧客から差し入れられた代用証券は、売買証拠金として商品取引所に差し
入れる場合及びその顧客との取引上の諸計算に充てる場合のほか、他に担保に供し
あるいは売却処分をするなどのことは、たとえ顧客の同意書を徴しても許されない
ものである旨指導し、もし、それに反する取扱いがなされた場合には、その是正を
命じていたことが明らかであり、さらに、当時商品仲買人が顧客から徴していた同
意書には、取引所における売買証拠金に充当し又は値洗金その他の諸計算金に充て
るための担保差入れを同意する旨記載されているだけで、所論主張のごとき行為に
同意することの記載がないことなどに照らせば、所論主張のごとく、商品仲買人
が、自らの営業資金を調達するため他から金融を受けるにつき、かかる代用証券を
担保に供することを許す旨の商慣習が存在しなかつたことは明白であり、被告人が
昭和四二年一二月一七日付検察官調書において、本件におけるがごとく、商品仲買
人が、その必要上顧客の代用証券を流用することが許されるものでないことが判つ
ていた旨供述していることによつても、このことは裏付けられている。これに反し
被告人は、原審及び当審公判廷においては、当時業界では、顧客の代用証券を担保
に金融を得ることが一般に行なわれていた旨供述しているけれども、仮にそのよう
な事実があつたとすれば、それは違法行為が存在したというにとどまり、それによ
つてかかる商慣習の存在が認められるわけのものではない。論旨は理由がない。
 所論第二は、商品仲買人は、代用証券につき根質権を有し、さらにその質権(原
質権)の範囲でそれを他に転質に供しうる権利を有するものであるところ、商品取
引の場合は、顧客の手仕舞にいたるまで被担保債権及び履行期が確定しないのであ
るから、転質は代用証券の価格相当額まで認められるべきであり、履行期について
も金融先との間に随時返還の約束がある限り無制限なものとして取り扱うべきもの
で、そうすれば、本件の場合は原質権の範囲内の転質として横領罪を構成しない旨
主張するものである。
 <要旨>そこで検討するに、商品仲買人が代用証券に対して有する権利か根質権で
あり、その有する権利の範囲でその質物を他に転質することが許されるこ
と、しかしその範囲を超えて他に転質した場合には、その転質行為が横領罪を構成
するものであることは、すでに、最高裁昭和四三年(あ)第二五四六号同四五年三
月二七日第二小法廷決定・刑集二四巻三号七六頁の明らかにしたところである。と
ころで、転質が原質権の範囲を超えるかどうかは、債権額、存続期間等転質の内
容、範囲、態様が原質権設定者に不利な結果を生ずるかいなかの観点から判断すべ
きものであるところ、記録によれば、被告人は、昭和三五年三月CからD穀物商品
取引所の商品仲買人であるE株式会社を買い取り、自ら代表取締役になつてその経
営にあたつていたのであるが、その当初から全国各地に支店、営業所等を設けて規
模の拡大をはかり、一時は全国的にも屈指の取引高を誇るにいたつたものの、もと
もと充分な自己資金のないまま会社経営に乗りだしたため、すでに同年四、五月ご
ろには顧客の代用証券を担保に他から金借して会社の営業資金を調達するほかない
状態で、それを繰り返して本件にいたつたものであること、本件犯行当時において
は、極度に資金に窮し、顧客から代用証券を預かると、その顧客の取引上の損益、
その金額、取引の存続期間等を顧慮することなく、直ちに、その代用証券を担保と
して金融機関に差し入れる状態で、なかには、顧客の取引が終了しても代用証券を
顧客に返還することなく被告人方会社に留保して同様金融機関の担保に供していた
ものもあること、担保に差し入れるときは、それが代用証券である等ということを
特に明らかにしないまま提供していたのであるが、担保差入れ先のほとんどは、い
わゆる街の金融機関で、一回の借入れ金は一〇〇万円ないし二、八〇〇万円という
高額にのぼり、その金利は、通常の会社経営によつては支払困難な高率なもので、
その期間もおおむね三〇日ないし六〇日とされていたが、更新するのが通常であつ
たこと、以上の事実が認められる。
 してみれば、顧客との取引が終了ししたがつて原質権が消滅した顧客の有価証券
を勝手に担保に供する行為が、横領罪を構成することはいうまでもないところであ
るが、取引が継続している顧客の代用証券であつても、前記のごとく、顧客の取引
上の損益、取引の存続期間等を無視し、当初から不安定な会社経営のもとで、高額
の営業資金を調達するため、高利の金融の担保に長期間差し入れることは、顧客に
とつては著しく不利益な結果を生ずるものといわなければならず、これが原質権の
範囲を超えるものであることは明らかである。論旨は、被担保債権及び履行期が確
定しないので、転質は代用証券の価格相当額まで認められるべきであり、履行期に
ついても金融先との間に随時返還の約束がある限り無制限なものとして取り扱うべ
きである旨主張するが、相場の変動があるため被担保債権が確定しないからといつ
て、原質権の被担保債権額を代用証券の価格相当額に増額すべき理由はなく、ま
た、履行期が確定しないことは、手仕舞によつて直ちにその期限の到来を招きこそ
すれそのために存続期間が無制限なものとなるわけはなく、さらに金融先との間に
随時担保物の差換えを許す約束がなされていたとしても、前記のごとき会社の経営
状態をもつてすれば、その確実な履行も期待できない状態にあつたものといわなけ
ればならないものである以上、そのために無制限に担保差入れが許されることにな
るわけのものではない。それゆえ、被告人が、その業務に関し前認定のごとき方法
で代用証券を担保に差し入れた行為が業務上横領罪を構成することは明らかであつ
て、論旨は理由がない。
 所論第三は、原判示第一の五の事実につき、これは、被告人が、本社からF支店
に送付していた代用証券で赤字の顧客の分を売却するように指示したのに、F支店
において、勝手に、同支店で顧客から預かつていた代用証券をも売却してしまつた
ものであつて、被告人には責任はない旨主張するものである。
 そこで検討するに、被告人は、当審公判廷においてその旨供述しているのである
か、当時の被告人方会社の資金状態に徴すればそのように範囲を限つて処分を命じ
うる程の余裕があつたものとは思われず、被告人が捜査段階で、G株式会社(E株
式会社の子会社ないし姉妹会社というべきもの)の顧客が、証拠金の返還を求めて
喧しく言つて来たので、その資金調達のためにはF支店で保管している有価証券を
処分するほかないものと思い、その旨F支店の総務課長であつたA1に指示したの
であるが、その際なるべく本社から送つている有価証券を処分するように言つたこ
とはあるが、それに限る趣旨ではなかつた旨供述し、さらに、原審公判廷で、本社
の有価証券を売つてくれればよいと思つてはいたが、特にそのようなことは言わな
かつた旨供述していることに照らすと、被告人の当審公判廷における供述には直ち
に信を措くことができず、かえつて、B1、A1らF支店関係者の供述するごと
く、被告人からの指示は、本社から送付したものを含め処分可能なものを処分して
資金を調達すべきことを命じたものであつて、所論主張のごときものではなかつた
ものと認めざるを得ない。してみれば、原判示第一の五の売却行為についても、被
告人はその責を負うべきことは明らかである。論旨は理由がない。
 論旨Ⅲは量刑不当を主張するものである。
 そこで、まず、原判決が、被告人を懲役一〇月に処した部分について検討する
と、記録によれば、その犯行は一七回に六五七万五、六五四円相当の有価証券を横
領したものであり、原審当時においては被害弁償も全くなされていなかつたのであ
るから、これらの罪につき被告人を懲役一〇月に処した原判決の量刑も充分理解す
ることができるのであるが、原判決後、被告人は、Hに一万四、五〇〇円、Iに三
〇万円、Jに一万円、Kに二五万円、Lに一〇万円、Mに一〇万円、Nに一万五、
〇〇〇円、Oに七万円、Pに一五万円を、それぞれ弁償し、それらの者から寛大な
処分を求める旨の上申書を得ていることなどに照らすと、現時点においては、原判
決の刑は重きにすぎ破棄しなければ明らかに正義に反するものと認められる。した
がつて、この部分は、刑訴法三九七条二項により破棄を免れない。
 次に原判決が、被告人を懲役二年六月に処した部分について検討することになる
が、所論量刑不当の主張に対する判断に先だち、職権によつて調査すると、原判決
は、原判示第一の六の所為についても、これを被告人の犯行として法令を適用しこ
の罪をも含めて被告人を懲役二年六月に処しているのであるが、右の所為は、原審
相被告人B2の単独犯行として起訴され原判決もその旨認定しているのであるか
ら、原判決はこの点において理由にくい違いがあるものといわなければならない。
また、被告人は、昭和四四年一二月一日原判示第二の一の(1)の犯行によつて勾
留され、その後これを含む原判示第二の各事実につき公訴提起がなされ、公判審理
が続けられたうえ、保釈許可決定により昭和四五年一二月二三日釈放されるにいた
るまで三八八日間勾留されていたのにかかわらず、原判決は、その量刑にあたりそ
の未決勾留日数を全く本刑に算入しなかつたのであるが、記録を調べても、このよ
うな長期間の未決勾留を本刑に算入しない特段の理由も発見できないのであるか
ら、原判決はこの点において量刑を誤つたものといわなければならない。以上の次
第であるので、被告人を懲役二年六月に処した部分は、刑訴法三九七条一項、三七
八条四号、三八一条により破棄を免れない。
 以上の理由により、原判決中被告人に関する部分をすべて破棄し、刑訴法四〇〇
条但書によりさらに判決することとし、原判決の認定した事実(ただし原判示第二
の一の(2)のQ株式会社株券一、〇〇〇株とあるのは、一〇、〇〇〇株の誤記で
あるので、その旨訂正する。)に原判決挙示の法令を適用(ただし原判示第一の六
に関するものを除く)し、原判示のとおり併合罪の処理をしたうえ、原判示第一の
一、第一の二の(1)、(2)、第一の三及び第一の四の別表二の1ないし9の各
罪につき被告人を懲役八月に、原判示第一の二の(3)ないし(5)、第一の四の
別表二の10ないし24、第一の五及び第二の各罪につき大部分の被害者に相当額
の弁償をしていることをはじめ量刑不当の所論をも勘案したうえ被告人を懲役二年
に、それぞれ処することとし、刑法二一条により、原審未決勾留日数中四〇日を右
懲役八月の刑に、同三二〇日を右懲役二年の刑に、それぞれ算入し、原審訴訟費用
は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用して主文のとおり負担させる。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河村澄夫 裁判官 深谷眞也 裁判官 近藤和義)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛