弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
         理    由
 弁護人杉之原舜一並びに被告人の控訴趣意はそれぞれ別紙のとおりである。
 弁護人の控訴趣意一の(1)について。
 本件記録に徴すれば、原審が検察官の面前におけるA、BCD、E、F、G、H
の各供述調書を刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号により証拠能力ありと認め
て証拠として採用し且つこれを原判決の証拠として引用したのは所論のとおりであ
る。弁護人は右A等は証人尋問期日において「本件組合大会当日の被告人の発言内
容については記憶していない、検察官の取調をうけた当時は記憶していた」と証言
しているので右証人尋問期日におけるA以下各証人の証言は刑事訴訟法第三百二十
一条第一項第二号後段に該当せず従つて同人等の検察官の面前における供述調書は
証拠能力がないと主張するのである。成る程本件記録中の証人尋問調書に依ると前
記A等の各証人が所論のごとき証言をして居ることは明らかであるが該供述には何
等前の供述と比較し得べき具体的の事実又は内容に触るるところがないのであるか
らこれを刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号後段に所謂「公判準備若しくは公
判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき」に
該当しないとする所<要旨第一>論は正当であるが如く考えられる。しかし右供述の
趣旨を追求すると結局「被告人の発言内容については記憶しないから証
言することができない」と言うに帰着するのである。かかる場合は証人が有罪の判
決を受くる虞ありとなし証言を拒絶する場合と比較し供述の再現が不可能であると
いう点に於ては何等異なるところはないのであるから曩に当裁判所が証人の証言拒
絶の場合につき判示「札幌高等裁判所昭和二五年(う)第三九二号同二六年一月二
三日第四部判決高等裁判所判例集第四巻第一号一九頁参照)した趣旨に則り同法第
三百二十一条第一項第二号前段に準じその任意性及び信用性の条件の充される限り
右A等の検察官の面前における各供述調書の証拠能力を認めるのが相当であると思
考される。しかも右供述調書の形式、内容とその他原審が取り調べた他の証拠と対
比しても該供述調書の任意性及び信用性の点においていささかも欠くるところがな
いので原審が右供述調書を証拠として採用し原判決においてこれを証拠として摘示
したのは何等訴訟手続に違背するものではない。論旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意一の(2)について。
 本件起訴状記載の公訴事実と原判示事実とを対比すれば、右公訴事実中にある
「被告人が「現在a町で工事中の官公道路は幅三間で戦車が通る様になつていると
云う事は米ソ戦争の際アメリカの軍用道路に使われるのだ……」と発言した」と同
一趣旨の事実を原判示事実において認定していることが明かであり、又原判示事実
が右公訴事実中に記載されていない「被告人が「委員長は税金が戦争準備の為に使
われていたいというが、平衡交付金が減らされた事自体戦争準備の為に使われてい
る証拠だ……」と発言した」という事実を認定して<要旨第二>いることは所論のと
おりである。しかし刑事訴訟法第三百七十八条第三号に所謂審判の請求を受けない
事件について判決をした場合とは公訴事実の同一性にかかわりなく全然
訴因として掲げられない事実につき又は公訴事実の同一性あるも訴因として掲げら
れない事実につき判決した場合を言うと解すべきところ原判決挙示の各証拠によれ
ば、被告人は本件組合大会の席上該事実と原判示事実中にある「現在工事中の観光
道路は、アメリカが戦争に備えて戦車を通すために造られているのだ、云々」とい
う事実とを併せて一体として発言し前者は単に後者の意味を明らかならしむるか又
はその意味を強めたるに過ぎないことが認められ本件の訴因そのものには何等のか
かわりもないのであるから右事実はこれを前記公訴事実の同一性あるも訴因として
掲げられない事実とは言い得ないのである。従つて原審が起訴状記載の公訴事実に
ない前記事実を原判決において判示したからといつて審判の請求を受けない事件に
ついて判決した違法があるとはいえない。論旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意二及び被告人の控訴趣意について。
 被告人の控訴趣意の要旨は原判決には事実誤認の違法がなるというにある。しか
しながら原判決挙示の各証拠によれば原判示事実を優に認めるに足り事実誤認と目
すべき点はない。弁護人並びに被告人の所論はいずれも独自の見解の下に原審の専
権に属する証拠の取捨判断を攻撃するもので採用することはできない。論旨はいず
れも理由がない。
 弁護人の控訴趣意三の(1)について。
 そもそも占領目的に有害な行為とは連合国最高司令官の日本国政府に対する指令
の趣旨に違反する行為を指すのであるが、千九百四十五年九月十日連合国最高司令
官の日本国政府にあて発せられた覚書第三項によれば、論議し得ざる事項とは
(イ)公式に発表せられざる連合国軍隊の動静(ロ)又は連合国に対する虚偽又は
破壊的なる批判(ハ)及び風説等であつて、被告人の原判示行為は右覚書に違反す
るものであり、該行為をなすが如きは、わが国民の間に占領軍を含む連合国に対す
る反抗気運を釀成して占領秩序を撹乱せんとするものであり、占領目的に有害な行
為と断ぜざるを得ない、論旨は独自の見解に基いて原審の適条を攻撃するもので採
用に値しない。
 弁護人の控訴趣意三の(2)について。
 地方税法第十二条第一項にいわゆる「せん動」とは原判決に説示してあるとお
り、他人に対して積極的に地方税の不納をアジる場合のみに限らないのであつて、
原判示の如き事情の下に、原判示の如き言辞を弄することは税金を納付しないこと
をせん動した場合に該るものというべきである。これを論難する所論は採用するに
由なきものである。
 そこで刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴はこれを棄却すべきものとして
主文のように判決した次第である。
 (裁判長判事 黒田駿一 判事 長友文士 判事 東徹)

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