弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1中央労働基準監督署長が原告に対し平成12年12月15日付けでした労働
者災害補償保険法に基づく療養給付,遺族給付,葬祭給付についての不支給処
分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,中央労働基準監督署長に対し,夫である亡aの死亡は通勤災
害によるものであるとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」とい
う。)に基づく療養給付,遺族給付及び葬祭給付の各支給を請求したが,中央労
働基準監督署長は亡aの死亡は通勤災害によるものであるとは認められないとし
てこれらを支給しない旨の処分をしたことから,その取消しを求めて審査請求及
び再審査請求をしたものの,いずれも棄却されたため,上記不支給処分の取消し
を求めた事案である。
1争いのない事実
(1)亡aが死亡するに至る経過
ア原告の夫である亡a(昭和▲年▲月▲日生。死亡時44歳)は,昭和4
9年4月1日,日特建設株式会社(東京都中央区<以下略>所在。以下
「日特建設」という。)に雇用され,平成11年4月から,その東京支店
(東京都中央区<以下略>所在。以下「東京支店」という。)の事務管理
部次長の役職にあった。
イ東京支店においては,毎月月初めに午後1時から午後5時まで,その2
階会議室において,主任会議が開催されており,本店,支店からの通達,
収支報告,営業・工事事務面での報告,安全,衛生面についての指導が行
われていた。主任会議には,関東近県の建設現場の現場主任以上の者,支
店長と事務管理部の主任以上の者,本店から役員ら総勢80名ほどが参加
していた。
また,主任会議終了後,勤務時間外である午後5時以降,5階及び6階
において,飲酒を伴う会合(以下「本件会合」という。)が開催され,主
に,主任会議に出席しない事務管理部等の従業員が出席した。
ウ亡aは,平成11年12月1日,主任会議に出席し,これが終了した午
後5時過ぎから,東京支店6階事務室において,同室に設置された会議テ
ーブルを囲んで行われた本件会合に出席した。
亡aは,午後10時15分ころ,退社して,本件会合に出席した部下と
ともに,帰宅の途についたが,午後10時27分ころ,地下鉄α線β駅の
入り口下り階段から18段下の踊り場まで転落して後頭部を打撲し,負傷
した(以下「本件事故」という。)。亡aは,直ちにγ病院に搬送され,
治療を受けたが,意識を回復しないまま骨折を伴う頭蓋内損傷により,同
月13日午前2時24分,死亡した。
(2)本件訴訟に至る経緯
ア亡aの妻である原告は,平成12年1月19日及び同年2月21日,亡
aの死亡事故が,事業所における就労を終えて,通常の帰宅経路を使って
自宅に帰宅する途上での事故であるから,労災保険法7条1項2号にいう
通勤災害に該当するとして,中央労働基準監督署長に対し,療養給付,遺
族給付及び葬祭給付の各請求を行った。
中央労働基準監督署長は,平成12年12月15日,本件事故は通勤災
害には当たらないとして,原告の上記各請求に対していずれも給付しない
旨の決定をした(以下「本件処分」という。)。
イ原告は,本件処分を不服として,平成13年1月17日,東京労働者災
害補償保険審査官に対し審査請求をしたが,同審査官は,同年8月10日,
これを棄却した。
原告は,平成13年9月19日,上記決定を不服として,労働保険審査
会に対し,再審査請求をしたが,同審査会が,平成17年3月16日,こ
れを棄却した(原告への裁決書送達は同月19日)ことから,同年6月1
4日,本件訴訟を提起した。
2争点
本件事故は労災保険法7条1項2号の通勤災害に該当するか(亡aの本件
会合への出席は業務であるか。)。
3争点に関する当事者の主張
(原告の主張)
(1)本件会合の業務遂行性
以下に述べるとおり亡aの本件会合への出席は業務であり,亡aは,本件
会合に出席した後,通常の通勤経路により帰途する途上で本件事故に遭った
のであるから,本件事故は通勤災害である。
ア本件会合と主任会議との一体性
本件会合は,平成3年ころから本件事故が発生するまで,毎月1回,主
任会議の後に必ず開催されており,主任会議から独立した名称はなく,主
任会議の開催通知と別個の開催通知もないから,本件会合は主任会議に付
随しそれと一体のものである。そして,主任会議への出席は業務であるか
ら,主任会議に付随しそれと一体である本件会合への出席も業務である。
イ本件会合の趣旨等
本件会合は,現場の従業員同士又は現場と事務管理部の部員同士が業務
に関する問題点等について肩肘を張らずに意見交換をすることが,業務の
円滑な推進及び向上に資することから始められたものであり,話題の中心
は,主任会議で報告された業務に関する情報であることが多く,特にトラ
ブルに関する情報であることが多かった。
また,本件会合は,事務管理部内における意見及び情報の交換等の意思
疎通を図る場としても活用され,安全及び人員配置の問題等に関する業務
の改善案が提案検討され,亡aが改善策を即決することもあり,また,亡
aが,随時,事務管理部のb部長及び東京支店の支店長に対し,本件会合
において提案された業務の改善案を口頭で報告し,その検討の結果が業務
に反映されることも多々あり,さらに,従業員相互で業務上の問題点を共
有する機会にもなるなど,本件会合は業務に関する会議そのものであった。
そして,本件会合は,普段の会議等において発言しにくい女性部員及び
若手部員がb部長及び亡aに対し自己の意見及び業務の改善案等を表明す
る場としても活用されていた。
したがって,本件会合の趣旨は業務に資するよう自由な意見及び情報交
換の場を設定するというものであるから,本件会合への出席は業務である。
ウ亡aの本件会合への出席等
事務管理部が本件会合を主催し,実質的に事務管理部を統括管理する事
務管理部次長であった亡aが本件会合の責任者であった。6階の本件会合
は,事務管理部内の意見及び情報交換の場であるとともに,b部長及び亡
aに業務上の問題点を聞いてもらう場でもあり,亡aが出席しなければ本
件会合が成り立たないため,亡aは,毎回必ず6階の本件会合に出席し,
6階の本件会合の進行役を務めていた。このため,亡aは本件会合の開始
時刻である午後5時から出席し,6階の本件会合は亡aの乾杯の音頭で始
められた。そして,亡aは,ほぼ毎回本件会合が終了するまで出席し,事
務管理部の部員が本件会合の片づけを終わらせるのを待って退社していた。
したがって,本件会合の責任者であり進行役であった亡aにとっては本
件会合に出席することは任意ではなく義務だったのであり,亡aの本件会
合への出席は業務である。
(2)本件事故当日の経過
本件事故が発生した平成11年12月1日に,事務管理部内の配置換え
(以下「本件配置換え」という。)があり,事務管理部の部員はその引継ぎ
業務に追われていた。本件配置換えにおいて同時に事務管理部の部員が13
名から10名に削減され,人手不足となること等もあって,事務管理部の部
員から不満及び苦情が多く出ていた。このため,本件事故当日は,本件配置
換えの引継ぎ業務をして遅れて本件会合に出席する部員が多く,さらに本件
会合において本件配置換えに関する部員からの不安及び不満が強く訴えられ
るなどして,午後9時過ぎまで本件配置換えに関して白熱した議論がなされ
た。
亡aは,事務管理部次長として本件配置換えの責任者であったため,本件
会合において,部員に対し,限られた人員の中での配置としてようやく決定
したのであるから,すぐに配置を見直すことはできないが,各チームでフォ
ローしながらしばらく様子を見てほしいと,新人員配置下において業務がス
ムーズに遂行されるように部員に対し意見聴取及び説得をしていた。
亡aは,同日,原告の入院中の実兄を見舞う予定であったほか,見舞いの
後に家族による亡aの誕生日祝いを行う予定であった。また,亡aは,本件
配置換えの問題で睡眠不足であり,精神的にも肉体的にも疲労が蓄積した状
態であった上,本件事故当日の数日前から風邪をひいており,咳も出ていて,
体調がかなり悪かったため,本件会合が通常終了する午後7時には退社する
予定であった。しかし,本件配置換えに関して議論が白熱し,本件会合は午
後7時には終了せず,亡aは,本件配置換えの議論の途中で退社することは
責任者としては不適当であると判断し,各部員の協力のもと新たな配置に従
って業務がスムーズに実行されるよう意見の聴取及び説得に努めたのである。
本件会合が,もし,単なる慰労会及び懇親会であれば,亡aは,予定通り午
後7時には退社していたはずであり,本件会合に出席し続ける必要はなかっ
た。
したがって,亡aが,本件配置換えに関する意見聴取及び説得に努めてい
た午後9時ころまでは,労働時間であったというべきである。
(3)本件事故発生日の事務管理部の部員に対する時間外手当の支給
日特建設は,本件事故当時,時間外手当に関し,一定の時間外労働時間の
枠を設定しており,本件会合の出席時間がこの時間外労働時間の枠内に収ま
る場合には,本件会合の出席時間を労働時間として,従業員に対して時間外
手当を支給しており,現に日特建設は事務管理部の部員であるc課長及びd
副長に対し時間外手当を支給していたのであるから,本件会合への出席は業
務であった。
(4)被告の主張に対する反論
ア本件会合の議題及び議事録がないことについて
本件会合の趣旨は業務に資するよう自由な意見及び情報交換の場を設定
するというものであったため,自由闊達な意見が出やすくなるように,本
店の役員及び東京支店長等の上位管理者はあえて本件会合に出席せず,ま
た,事前に議題を決めることも事後に議事録を作成することもなかったの
であって,本件会合に議題も議事録もないことをもって,これへの出席が
業務でないということはできない。
イ本件会合における飲酒について
(ア)本件会合においては酒類が供されているが,これは,本件会合の出
席者がリラックスしながら業務上の問題点及び意見を表明することがで
きることを目的として,日特建設がビール及びつまみ等を日特建設の費
用負担で(福利厚生費ではなく会議費として経理処理された。)提供す
るものであり,これに対し,慰労会又は懇親会は,本件会合とは別に,
本件会合の終了の後に,任意に希望者が社外において開催していたので
あるから,本件会合においては飲酒そのものが目的ではなく,本件会合
に酒類が供されていることをもって,これへの出席が業務でないという
ことはできない。
(イ)亡aは,普段は酒に強く,焼酎1升を飲んでも,酔って眠ったり,
足元がふらつくことなどはなかった。
しかし,亡aは,本件事故当日,疲労と風邪のため体調が悪く,また,
見舞い等の予定があったため,本件会合における飲酒の量をいつもに比
べて少なくしており,また,午後5時から午後9時ころまで約4時間か
けてゆっくりと飲酒したのであるから,時間の経過によりアルコール代
謝が進み,本件事故に遭った時点においては血中アルコール濃度は解消
傾向にあった。そして,亡aをはじめとする本件会合の出席者は,飲酒
していたが,午後7時から午後9時過ぎまで本件配置換えのことでかな
り激しく議論をしていた。
したがって,亡aが酒に酔っていたために,本件事故が発生したもの
ではない。
ウ居眠りについて
亡aは本件事故当日の本件会合の途中でいすに座ったまま居眠りをした
が,亡aが居眠りをしたのは本件配置換えに関する議論が終了した午後9
時30分ころから20ないし30分程度のことであり,亡aが議論中に眠
り込んでしまったのではない。
エその他
本件事故発生後,本件会合は開催されていないが,これは本件事故が発
生し亡aが死亡したため,日特建設が飲食を伴う本件会合を自粛している
にすぎないのであって,本件会合が業務上必要でないからではない。
(5)まとめ
以上より,本件事故は,亡aが事業場内における業務を終了し,通常の通
勤経路で帰宅する途上で発生したものであり,業務の終了時刻である午後9
時と本件事故に遭った午後10時27分との間は,約1時間30分しか経過
していないから,本件事故は通勤災害に当たる。
(被告の主張)
(1)本件会合自体の業務性
ア(ア)本件会合は,主任会議に出席した従業員同士で日頃の業務の繁忙を
相互にねぎらう懇親及び慰労の目的を持つものであり,日特建設の業務処
理上の格別の必要があったものではないこと,(イ)そのため,本件会合の
開催時間はいずれも労働時間終了後とされており,出席者も,主任会議出
席者のうちで都合のつく者であって,出席するか否かは任意とされ,全員
の出席が義務づけられたものではなく,本件事故当日に本件会合に出席し
た者は主として事務管理部の部員7名であったこと,(ウ)本件事故当日,
本件会合において人事異動に関連する話題が出たものの,それが格別日特
建設の業務運営上の方針の徹底を図るなどといったものでもない上,本件
会合における意見が議事録等に残されるとか,後に日特建設の上層部に伝
達されるといったものでもなく,結局懇談の域を出るものではなかったこ
と,(エ)このような趣旨のものであるからこそ,亡aは,本件事故当日,
事務管理部の部員に対し,あらかじめ午後7時過ぎに義兄の見舞いのため
退社する旨宣言していたのであり,また,本件会合の最中に約1時間ほど
居眠りをしたこと,(オ)さらに,本件事故発生以降は本件会合の開催が見
合わされており本件会合が日特建設の業務処理上必要なものではなかった
こと,(カ)本件会合の開催について,主任会議の開催通知書に何ら記載が
なく,主任会議終了後にも本件会合について開催場所及び開催時刻につい
て特に呼びかけることもなかったこと,(キ)開催場所も主任会議を行う2
階の会議室ではなく,5階又は6階の事務室内の打合せ室に移動し,同打
合せ室はせいぜい10人前後しか座ることのできない規模の部屋であった
ことからすると,本件会合の性格は,従業員相互間の業務終了後の私的な
飲酒を目的とした慰労会である。したがって,本件会合の開催自体に日特
建設の業務との関連性はない。
イなお,日特建設は,東京支店の従業員を中心とした懇親及び慰労の会合
に対して,福利厚生の措置として酒食の提供をしたにすぎないから,日特
建設が費用を負担したことをもって業務性を肯定することはできない。
また,本件会合に出席したc課長及びd副長はいずれも4級職の従業員
であり,時間外手当は支給されない。むしろ,時間外手当が支給される従
業員で,平成11年12月1日午後6時30分まで出納業務に従事し,午
後7時過ぎから本件会合に出席したe主任は,その旨正しく勤務表に入力
し,本件会合の出席時間を労働時間として申告していない。
(2)亡aの本件会合出席の業務性
(ア)本件会合は,通例,午後8時ないし午後8時30分ころ終了していた
にもかかわらず,平成11年4月から同年11月まで8回主任会議が開催さ
れた日の亡aの退社時刻はほとんど午後7時であったこと,(イ)本件会合の
酒食の準備等をした事務管理部の部員らも本件会合の終了を待たず退社して
いたこと,(ウ)本件会合において,人事異動についての話題が出て,亡aが
これに応答していたものの,亡aが議事をリードしたり司会進行をしたりし
たことはなく,むしろ亡aは本件会合が始まってまもなく酒を飲み始め,午
後9時前後から午後10時15分ころの退社時に至るまで居眠りをしていた
こと,(エ)亡aは,本件会合当日も,部員に対し,午後7時には退社する旨
告げていたこと,(オ)本件事故当日の亡aほか6階の本件会合の出席者の飲
酒量は,缶ビール2ないし3本及びウイスキー2ないし5杯等であり,多量
の飲酒を伴っていたことからすると,本件会合への出席を業務と見ることは
できず,そもそも事務管理部次長が業務として本件会合を主催運営していた
ことはなく,亡aにもその旨の認識はなかったのである。
したがって,亡aの本件会合への出席を業務と見ることはできない。
(3)本件会合終了後の帰宅行為の通勤該当性
以上のとおり,亡aの本件会合への出席は,業務としてなされたものとは
いえない。そして,業務である主任会議終了後の酒食を伴う本件会合への出
席は5時間余りに及ぶものであることなどをも考慮すると,亡aの帰宅行為
は,本件会合が介在することにより,「就業に関し」て行われたものとはい
えない。また,亡aは,本件事故当日,6階の本件会合において缶ビール3
本位,紙コップ半分位のオン・ザ・ロックのウイスキーを3杯飲んだのであ
り,本件のように相当量飲酒した状況での帰宅行為を通勤の方法として合理
的なものと認めることもできない。
(4)まとめ
以上のとおり,亡aの帰宅行為は労災保険法にいう通勤に該当するとは認
められないから,本件事故は通勤災害に当たらない。
第3争点に対する判断
1認定事実
前記争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認め
られる。
(1)亡a
ア亡aは,本件事故当時,事務管理部の次席である事務管理部次長であっ
て,事務管理部を実質上統括し,事務管理部の部員に対して実務に関する
具体的な指示を行っていた(甲11,27・1頁,28・1頁,29・1
頁,30・1頁,乙12・1頁,証人f2∼3頁)。
イ亡aの通勤経路は,自宅→(徒歩)→δ駅→(ε線)→ζ駅→(地下鉄
α線)→β駅→(徒歩)→東京支店であった(なお,括弧内は交通手段で
ある。)。
亡aの自宅から東京支店までの通勤時間は40分強であり,β駅から東
京支店まで歩いて約10分の距離であった。(乙4,5,12・5頁,1
4・2頁,原告3頁)
ウ亡aは,自宅においては,毎晩,約1時間で350ミリリットルの缶酎
ハイを約3本,休日の前日及び休日には,これに加えてさらに焼酎のお湯
割りを4,5杯飲んでいたが,日本酒であれば約1升,ウイスキーであれ
ば約1本飲めるほど酒に強く,自宅においても従前の本件会合においても
酒に酔って居眠りをすることはなかった(甲6・4頁,27・4頁,28
・1頁,29・3頁,30・3頁,乙11・3頁,12・4頁,13・3
頁,証人f14頁,原告7∼8頁)。
(2)事務管理部の構成,業務等
ア事務管理部は,総務及び経理の業務を行う事務部門であり,総務,出納,
工事金,工事事務の4つのチームに分かれている。事務管理部の主な業務
内容は,事務管理部が管轄している3つの部署の勤務表のチェック及び給
与計算,工事現場の経理書類のチェック及び経費の支払並びに工事代金の
入金,請求及び管理等である。
平成11年12月1日当時,事務管理部の部長はb部長であり,東京支
店の次長も兼務していた。
派遣従業員を除く事務管理部の部員は,平成11年11月1日当時,総
務チームが,リーダーg課長,h副長,i主任,j主任,k係員,出納チ
ームが,リーダーd副長,e主任,l係員,工事金チームが,リーダーf
課長,m主任,工事事務チームが,リーダーc課長,n副長,o主任とい
う構成であった。なお,副長は,課長の下で,主任の上の役職である。
しかし,平成11年12月にm主任が日特建設本社に異動することにな
り,その少し前にk係員が機材部に異動になって,事務管理部の部員が減
って事務管理部内における配置換えが必要になったため,平成11年12
月1日に事務管理部内において本件配置換えが実施された。
このため,平成11年12月1日時点においては,総務チームは,リー
ダーf課長,i主任,出納チームは,リーダーn副長,e主任,j主任,
工事金チームは,リーダーg課長,o主任,工事事務チームは,リーダー
c課長,d副長,l係員という構成になった。(甲10,28・2頁,3
0・5頁,31,乙12・1頁,45,46,証人f3頁・10∼11
頁)
イ事務管理部においては,毎月1回,午前8時30分から午後5時までの
勤務時間(ただし,正午から午後1時までは休憩時間である。)中に約2
ないし3時間,事務管理部の部員全員が出席する事務管理部会が開催され
る。
この事務管理部会においては,各リーダーが,各チームを代表し,各チ
ームが現在抱えている問題,解決策及び業務の改善案等を議題として提案
し,これについての発表や,ISOの教育訓練を行う。また,事務管理部
会では,酒類は提供されず,開催後には議事録が作成されている。
しかし,事務管理部会においては,あらかじめ決められた議題以外の事
項に関する議論をすることはできず,また,主任及び女性部員が発言する
こともあまりなく,主に各チームのリーダーが発言していた。
そして,事務管理部会において,事務管理部内の部員の配置換えが議題
となったことがあったが,部員の個別の意見を聞いていくと配置が決まら
ないので,亡aがチームリーダーと協議して配置換えを決定することにな
った。(甲27・3頁,28・2∼3頁,29・5頁,30・3頁,証人
f5頁・21∼22頁・27∼28頁,証人e5頁・21∼23頁)
(3)平成11年の日特建設及び事務管理部の状況
ア平成11年当初,東京支店があるη分室ビルには,ほかに日特建設の直
轄グラウト(グラウトとは,特殊工法の名称である。)工事部,直轄建築
工事部,直轄重工部が入っており,直轄グラウト工事部,直轄建築工事部,
直轄重工部は,東京支店と同格であるが,全国を対象とし,他方,東京支
店は関東近県を対象とし,それぞれが事務管理部門を有するので,東京支
店があるη分室ビルには四つの事務管理部門が存在していた。
このため,業務の効率化を目的に,平成11年4月1日に,東京支店が
直轄重工部を吸収合併し,東京支店,直轄グラウト工事部及び直轄建築工
事部の事務管理部門だけを統合するという一大組織改革が行われ,それま
で四つに分かれていた事務管理部門が東京支店の事務管理部に一つの部と
して統合された。(甲28・1∼2頁,甲29・1頁,30・1頁,乙1
2・5頁,13・1頁,証人f1∼2頁)
イそして,平成11年4月1日の統合により事務管理部の部員の人数は8
名から14名になり,人数が増加したため,これを3ないし4名のチーム
に分けて,事務管理部の業務を振り分けることになった。このため,平成
11年4月には,事務管理部は,総務,出納,工事の3チーム編成となっ
たが,工事チームの業務内容が,下請け業者及び商社に対する支払,月末
の収支管理等の入金業務及び支払業務と幅広かったため,平成11年9月
に編成替えをして,工事チームを工事事務チーム(支払業務担当)と工事
金チーム(入金業務担当)に分けて,事務管理部は4チーム編成となった。
しかし,東京支店,直轄重工部,直轄グラウト工事部及び直轄建築工事
部の事務管理部にはそれぞれの業務の処理方式があり,統合当初は四つの
業務処理方式が併存したため,事務管理部の業務量は非常に多く,事務管
理部の業務は混乱していた。業務処理方式は最終的に東京支店方式に統一
されたが,事務管理部の部員は,日々の通常業務をこなしつつ,業務処理
方式の統一等四つの事務管理部門の統合も進めなければならなかったため,
業務量が非常に多かった。
このように,平成11年は,事務管理部が非常に忙しい時期であり,し
かもチームの編成替え及び配置換えも4,9,12月と連続して行われ,
部員の異動が頻繁であったため,事務管理部内においては,今後どのよう
に業務を進めるか,どのような業務を削減するか等様々な課題が山積し,
部員には不満があった。(甲28・2頁・5頁,29・1∼2頁,30・
1頁,31,証人f2頁・3∼5頁)
(4)本件会合
ア本件会合の開催時間
本件会合は,主任会議終了後の午後5時ころから開始され,通常午後7
時ころまで開催されていた。
そして,部員のなかには本件会合の終了後にも自席に戻って仕事をする
者がいたので,部員の退社時刻と本件会合の終了時刻とが一致しない場合
もあった。(甲6・2頁,27・2頁,28・4頁,29・3頁,30・
2頁,証人f13頁・22∼23頁・25頁,証人e3頁,原告3頁)
なお,e主任は,陳述書(乙50・2頁)において,本件会合の終了時
刻は午後8時ないし午後8時30分ころであったと述べているのに対し,
当法廷においては,本件会合の終了時刻は通常午後7時ころであったと述
べ(証人e3頁),供述が変遷している。e主任は,この理由について,
普段は残業が多く退社時刻が遅かったため,主任会議の開催日は本件会合
が終了した後早めに退社するようにしていたといった程度の認識から本件
会合の終了時刻が午後8時ないし午後8時30分であると述べたが,勤務
表を確認したところ,勤務表上,e主任の主任会議開催日の退社時刻が午
後7時である日には本件会合終了後に残業をせずに退社していたことが多
かったことから,これは勘違いで,本件会合の終了時刻は午後7時であっ
たと述べており(甲30・2頁,証人e3頁),勤務表上平成11年7月
及び同年9月のe主任の主任会議開催日の退社時刻が午後7時であること
(甲21の9,23の8,証人f13頁・22∼23頁,証人e17頁,
原告3頁)とも一致することからすれば,その供述の変遷には合理的な理
由があるといえる。
イ本件会合の開催場所及び出席者
(ア)本件会合は東京支店の5階及び6階で開催され,営業及び工事の関
係者は5階の,安全及び事務管理の関係者(事務管理部の部員を含
む。)は6階の本件会合にそれぞれ出席していた。
6階の本件会合は,事務管理部の部員が執務する事務室の一角のパー
テーションで区切られた部分で行われ,そこには約10人が座ることの
できる会議用の楕円形のテーブルが置かれていた。(甲28・4頁,2
9・3頁,乙14・4頁,証人f7頁)
(イ)主任会議の出席者は主任会議の終了後本件会合に出席していたが,
本件会合への出席は任意であり,本件会合開催時間中いつでも出退席す
ることができた。
しかし,主任会議に出席した各現場の従業員は,いずれも多忙のため,
主任会議が終了するとすぐに東京支店から現場に必要な現金の仮払い等
を受けて,各現場に戻る者が多く,本件会合に出席した者は少なかった。
また,本件会合の出席者が自由に意見を発言することができるように
するため,役員,支店長の上位管理者は本件会合に出席しなかった。
(甲11,27・2頁,29・3頁,30・3頁,乙12・3頁,13
・3頁,15・2頁,49・1頁,50・1∼2頁,証人f18∼19
頁,証人e2頁・30頁)
(ウ)本件会合には5,6階合わせて毎回約20人が出席し,6階の本件
会合には事務管理部の部員を中心に毎回7ないし8人が出席していた。
b部長は,5階及び6階のいずれの本件会合にも少しの時間出席する
が,5階の本件会合により長い時間出席しており,亡aに対し,6階の
本件会合を任せて,部員等からの意見及び要望等の聴取及び対応を命じ
ていた。そして,b部長は5階の本件会合において営業及び工事関係の
情報を収集していた。
亡aは,本件会合に毎回出席し,ほぼ毎回本件会合の開始時から終了
時まで本件会合に出席していた。
e主任も,毎回,自己の業務が終了すると,本件会合に出席し,用事
がない限り,本件会合を途中退席せずに,最後まで本件会合に出席して
いた。
そして,f課長も毎回本件会合に出席していた。(甲6・2頁,11,
27・2頁,28・4頁,29・3頁,30・2頁,乙50・2頁,証
人f6∼7頁・28∼29頁,証人e2頁・4頁・18頁,原告2頁)
ウ本件会合の名称
東京支店の従業員のなかには,本件会合をご苦労さん会と称する者もい
たが,他方,本件会合には懇親会,慰労会及びご苦労さん会等の名称はな
いとする者もいた(甲6・2頁,11,27・1頁,28・3頁,29・
2頁,30・2頁,乙12・3頁,15・2頁・4頁,証人f5∼6頁,
証人e1∼2頁,原告2頁)。
エ本件会合の準備等
(ア)主任会議の主催者は東京支店長であったが,本件会合については,
事務管理部がこれを主催し,本件会合の準備に当たっていた。
そして,事務管理部内においては,総務チームが本件会合の準備を担
当した。(甲6・2頁,11,17,28・3頁,29・2頁,30・
2頁,乙15・2頁,49・1頁,50・1∼2頁,証人f6頁)
(イ)準備の具体的手順としては,まず,i主任が,出入りの酒屋に対し,
電話で,ビール,ウイスキー及び簡単なつまみ(乾きもの等)等を注文
して,主任会議開催日の午後4時30分ころに届けてもらい,また,事
務管理部の女性部員であるn副長が,主任会議を途中退席して,午後4
時30分ころから,l係員及びk係員とともに,紙皿につまみ等を盛り
付け,紙コップ,ビール,ウイスキー及び氷等を5階及び6階のテーブ
ルに置き,女性用にジュース及びウーロン茶を用意した。
そして,総務チームの女性部員はあらかじめゴミ袋を用意しておき,
本件会合が終了すると,最後まで本件会合に出席していた者が,これに
ゴミを集めてまとめた。(甲6・2頁,27・2∼3頁,乙13・3頁,
証人f8頁)
(ウ)本件会合のために注文する酒類は,5階及び6階の本件会合を合わ
せて,缶ビール2箱及びウイスキー2本程度であり,現場及び下請け業
者から差し入れられた酒類があれば,あわせて提供された。また,5階
の本件会合の出席者の方が6階の本件会合の出席者よりも人数が多かっ
たため,注文した酒類及びつまみも5階の本件会合に多く提供されてい
た。(甲27・2頁,乙12・2∼3頁,15・2頁,証人f27頁)
(エ)5階及び6階の本件会合に提供される酒類及びつまみ等の費用は一
般管理費会議費として日特建設が負担しており,その費用は,平成11
年12月の本件会合について5万3235円,同年11月の本件会合に
ついて4万9140円,同年10月の本件会合について4万6663円
であった(甲14の1,2,15の1,2,16の1,2,27・2頁,
甲28・4頁,29・2頁,30・2頁,乙13・3頁,証人f6頁・
27頁)。
オ本件会合の内容等
(ア)本件会合については,開催の稟議も案内状もなく,また,毎回,議
題もなく,事後に議事録等も作成されなかった(甲11,29・3頁,
30・3頁,証人f7頁・20頁)。
(イ)本件会合が開始される午後5時から本件会合に出席していた者は亡
a及びc課長であり,主任は通常業務を終えてから本件会合に出席する
者が多かった。また,主任の中には自己に関係がある話題のときだけ本
件会合に出席する者もいた。
亡aは,本件会合が始まっても通常業務を続けている部員に対し,声
をかけて本件会合への出席を促し,また,出席者に対して発言を促して
いた。(甲28・4頁,29・3∼4頁,証人f9頁・23∼24頁,
証人e30∼31頁)
(ウ)6階の本件会合においては,主任等の出席者が,毎回,業務上の意
見交換のほか,様々な業務上の問題点,不平不満,トラブルの対応策,
業務の改善案,他部門に対する苦言等を自由に発言し,これに対し,亡
aは,出席者の話をよく聞いて,業務上解決すべき問題点についてその
場で対応策を即決するなどした。また,亡aは,安全の問題及び事務管
理部内の人員配置の問題等,特に報告すべき事項があれば,b部長及び
支店長に対し随時口頭で報告するなどして,その結果,本件会合におけ
る意見が業務に反映されて業務が改善されることが多々あった。
例えば,前記(3)イのとおり,平成11年4月1日の事務管理部門の統
合当初,伝票の書き方等の業務処理が4方式に分かれて統一されていな
かったため,f課長は本件会合において重複する業務の廃止,整理を提
言し,それが実現したこともあった。
また,f課長が事務管理部が特に忙しい月初めに主任会議開催日以後
実施されている各営業所の主任のエリアミーティングに出席することに
なった経緯並びにそれについてb部長及び亡aの許可を得ていることを
説明し,その事情を知らない部員から出た苦情を解消したこともあった。
このように,本件会合においては,業務の改善案が提言されるなどし
ていたが,特に,平成11年4月1日には,直轄重工部の東京支店への
吸収合併,東京支店,直轄グラウト工事部及び直轄建築工事部の事務管
理部門との統合があり,統合後の事務管理部の業務量が非常に多く,事
務管理部の業務が混乱しており,また,平成11年には事務管理部内の
部員の配置換えが3回実施されて,様々な課題が山積し,部員には不満
が蓄積していたため,平成11年4月以降の本件会合においては,各チ
ーム内の問題等について毎回熱がこもった議論が交わされた。
他方,6階の本件会合では,多少なりとも私的な発言をする出席者も
おり,e主任は,本件会合において,5分ないし10分,亡aに対し,
休暇中に出かけるに際し東京の土産は何がいいかという相談をしたこと
があった。(甲11,27・2∼3頁,28・2頁・4頁,29・2∼
5頁,30・3頁,乙49・1頁,50・1∼2頁,証人f5頁・8頁
・16∼17頁,証人e3∼4頁・23∼24頁)
(5)本件配置換え
ア本件配置換えに関して,亡aは,11個の配置案を作成して,その案に
基づきチームリーダーと協議して3ないし4個の案に絞り,1個の案を更
に修正して,本件配置換えを決定した(甲7,27・3頁,28・3頁・
5頁,証人f10∼11頁)。
イそして,平成11年12月1日の本件配置換えにより,それまで出納チ
ームのリーダーであったd副長及び出納のベテランであるl係員が工事チ
ームに異動し,出納チームの構成員はn副長,e主任,j主任となり,n
副長が出納チームのリーダーとなった。
n副長は,本件配置換えにより初めてリーダーを任されたが,n副長は,
日特建設の創業者である高齢の会長の秘書も務めており,会長に対してそ
の持病のため出退社の際の出迎え及び見送りや食事などの世話をしなけれ
ばならず,会長の出社日には午前10時から午後1時ころまで呼出しに備
えなければならなかった。
また,j主任は,出納業務の経験がなく,急に欠勤するなど休みがちで,
残業を嫌がったりすることもあり,n副長は出納業務を十分に遂行できる
か非常に不安を感じ,本件配置換えに不満を持っていた。n副長とj主任
とは性格的にもそりが合わず,本件配置換え後に人間関係の良好を保ち得
ないおそれがあった。
そして,リーダーの4名中3名が男性で課長であったことから,n副長
は,配置換え後にその3名のリーダーと対等に意見を述べることにも不安
があった。
そのため,n副長は,初めてリーダーを任されて不安であり,出納の経
験もなく能力的にも問題があるj主任は工事チームに配属し,出納のベテ
ランであるl係員を出納チームに配属するのが適当であるとの意見を有し
ていたが,本件配置換えにおいてはn副長の意見は採用されなかった。
(甲27・4頁,28・5∼6頁,29・6頁,30・5頁,乙50・4
頁,証人f11∼12頁,証人e6∼8頁)
ウそして,e主任も,このようなn副長の不安を感じており,特に,j主
任が出納の経験もなく能力的にも落ちることから,出納チームが実質2人
体制となり,2人体制では業務に支障が出るおそれがあることを心配して
いた。
このため,e主任は平成11年12月1日の本件会合において亡aに対
し本件配置換え,特に出納チームのメンバーの編成及び業務の進め方に関
する不満及び不安を訴え,出納チームを事務管理部全体でどのようにフォ
ローするのかについて,亡aをはじめ他のリーダーから何らかの対応を引
き出したいと考えており,n副長からもそのように頼まれていた。また,
e主任は,本件配置換えの決定の経緯についても亡aから聞きたいと考え
ていた。(甲27・4頁,28・6頁,30・4∼6頁,証人e8∼10
頁・14頁)
(6)平成11年12月1日の経過
ア亡aは,平成11年12月1日のしばらく前から,本件配置換えに関し
てかなり悩んでおり,毎日夜遅くまで本件配置換えのための作業をして寝
不足であった。
また,亡aは,平成11年11月27日ころから,風邪をひいており,
のどの具合が悪く,咳をしていた。(甲6頁・3頁・4頁,26,28・
6頁,30・4頁,乙13・3頁,証人f15頁・18頁,証人e15頁
・27頁,原告4∼5頁・12頁)
イ亡aの義兄(原告の兄)は,東京都千代田区所在の社会福祉法人θ病院
に入院しており,平成11年11月30日に腎臓結石の手術を受けたため,
亡aは,同年12月1日,午後8時までの面会時間に間に合うように,午
後7時30分ころには退社して,東京支店から約20分ないし25分かか
る社会福祉法人θ病院に見舞いに行く予定であり,事務管理部の部員に対
しその旨告げていた。
また,平成▲年▲月▲日は,亡aの44歳の誕生日であったので,原告
は,イチゴのミルフィーユケーキを買って3歳の子供と一緒に亡aの帰り
を待っており,亡aは早めに帰宅する予定であった。(甲6・3∼4頁,
29・7頁,30・4頁,乙47,48,49・2頁,50・3頁,証人
f13頁・22頁,証人e11∼12頁,原告5∼7頁)
ウ平成11年12月1日に,主任会議が,午後1時から開催され,午後5
時少し前に終了し,その後午後5時ころから本件会合が開催された。
本件会合の開始時には,亡a,c課長,g課長が6階の本件会合に出席
して懇談するとともに,酒類を飲み始めた。
しかし,平成11年12月1日は,事務管理部の主任は,配置換えの引
継業務に忙しかった(甲11,27・3頁,28・5頁,29・6頁,3
0・4頁,乙15・3頁,証人f13頁)。
エそして,事務管理部の部員の平成11年12月1日の本件会合への出席
状況等は以下のとおりであった。なお,事務管理部の部員以外では安全部
のpが6階の本件会合に出席した。(甲11,証人f19頁)
(ア)b部長は,午後5時30分ころ,埼玉の現場から東京支店に戻り,
若干の打合せをした後,5階及び6階の本件会合に出席して懇談し,私
用のため午後6時15分ころ退社したが,この間に缶ビールを約2本飲
んだ(乙12・3頁,21)。
(イ)亡aは,午後1時から午後5時まで主任会議に出席し,午後5時こ
ろから本件会合に出席して懇談し,午後5時ころから午後8時ころまで
の間に缶ビールを約3本飲み,午後8時過ぎにビールがなくなったため,
午後8時過ぎから紙コップ半分位のオン・ザ・ロックのウイスキーを約
3杯飲み,その後,午後9時15分ころから居眠りをしたが,午後10
時15分ころ退社した。なお,亡aは,同日,見舞いの予定であり,ま
た,配置換えのため疲労しており,風邪もひいていて体調が悪かったた
めもあって,飲酒量は通常より控えめであった。(甲28・6頁,29
・7頁,30・7頁,乙13・3頁,14・2頁,21,50・3頁,
証人f14頁)
(ウ)g課長は,午後1時から午後5時まで主任会議に出席し,午後5時
ころから本件会合に出席して懇談し,午後7時までの間に缶ビールを約
2本飲み,その後本件会合を途中退席して,午後7時から午後8時ころ
まで直轄建築工事部において賞与内訳の打合せをし,午後8時過ぎから
午後9時ころまでf課長と業務引継の打合せをし,午後9時過ぎからま
た本件会合に出席して懇談し,その間ウイスキーを約3杯飲んで,午後
10時15分ころ退社した(乙21,50・6頁)。
(エ)c課長は,午後1時から午後5時まで主任会議に出席し,午後4時
過ぎから午後5時過ぎまで工事事務をし,午後5時過ぎから本件会合に
出席して,同日の配置換えの打合せ及び組織変更の話等をして,午後8
時ころまでの間に缶ビールを3本飲み,午後8時過ぎからウイスキーを
約5杯飲み,午後10時15分ころ退社した(乙14・4頁,21)。
(オ)f課長は,午後1時から午後5時まで主任会議に出席し,午後5時
から机の荷物を移動する等の引継業務をし,午後7時ころから本件会合
に短時間出席した後,また業務をし,午後8時過ぎから午後9時ころま
でg課長から総務チームの業務の引継を受け,午後9時10分からまた
本件会合に出席して懇談し,その間300ミリリットルの日本酒を1本
飲み,午後10時15分ころ退社した(甲29・6∼7頁,乙21,5
0・6頁,証人f24頁・28頁)。
(カ)d副長は,午後1時から午後1時30分まで主任会議に出席し,午
後1時30分過ぎから午後4時30分ころまで出納業務をし,午後4時
30分過ぎから午後6時30分ころまで業務の引継書を作成して,午後
6時30分から机を整理し,午後7時10分ころから本件会合に出席し
て懇談し,その間缶ビールを2本飲み,午後8時過ぎからウイスキーを
約2杯飲んだ後,午後10時15分ころ退社した(乙13・2∼4頁,
21)。
(キ)n副長は,午後1時から午後8時30分まで出納業務をしたが,午
後5時ころ本件会合に短時間出席し,その後途中退席して金庫の引継業
務をし,午後8時30分過ぎに退社した(甲27・3頁・4頁,30・
4頁,乙21,証人e9頁)。
(ク)i主任は,午後1時から午後1時30分まで主任会議に出席し,午
後1時30分過ぎから午後5時まで総務の業務をし,午後5時過ぎから
午後6時30分まで勤務表を取りまとめ,午後6時30分過ぎに退社し
た(乙21)。
(ケ)e主任は,主任会議に出席し,主任会議終了後午後5時ころから出
納チームの引継業務をし,午後6時50分ころから本件会合に出席して
懇談し,午後9時ころまでに缶ビールを3本飲み,午後8時過ぎから午
後10時ころまでにウイスキーを約5杯飲み,午後10時15分ころ退
社した(乙21,50・2∼3頁,証人e26頁)。
(コ)o主任は,午後1時から午後1時30分まで主任会議に出席し,午
後1時30分過ぎから午後7時まで工事金回収業務をし,午後7時過ぎ
に退社した(乙21)。
(サ)j主任は,午後1時から午後8時まで出納業務をし,午後8時過ぎ
に退社した(乙21)。
(シ)l係員は,午後1時から午後5時過ぎまで出納業務をし,午後5時
過ぎから午後8時30分まで雑務をし,午後8時30分過ぎに退社した
(乙21)。
オe主任は,平成11年12月1日午後6時50分ころ,本件会合に出席
し,亡aに休暇中のことについて相談し,午後7時10分ころから以下の
とおり本件配置換えについて亡aらに対し不満等を述べた(甲27・4頁,
28・5頁,29・7頁,30・4∼5頁,乙50・2∼3頁,証人e1
1∼12頁・26頁)。
(ア)まず,e主任は亡aに対しどうしてこのような配置になったのかに
ついて説明を求めたところ,亡aは,事務管理部全体で人員が減り,異
動はやむを得ないことであり,それぞれの経験を勘案して振分けを行っ
たと説明した(甲30・5頁,乙50・4頁,証人e12頁)。
(イ)次に,e主任は,亡aに対し,出納チームは150を超える現場の
出納のみならず,内勤の従業員の出納も行っており,当時のd副長,e
主任,l係員の3名で残業しても手一杯の状況であったところ,本件配
置換えにより,n副長,e主任,j主任の3名となったが,n副長は出
納の経験はあってもチームリーダーは初めてであり,j主任は出納は全
くの初めてであり,従前のl係員が出納のベテランであったことからす
ると,全体としてかなり能力的に落ちることになるので,何とかして欲
しいと訴えた。
これに対し,亡aは,そのような事情は十分に分かっているが,現在
の人員の中で考えた結果であると説明した。(乙50・4頁)
(ウ)さらに,e主任は,亡aに対し,n副長が,各リーダーの事前打合
せを行ってきたのに,自分の意見は採用されず,このような新体制では
責任は負いかねる,j主任では業務を遂行できないと当日不満を述べて
いたことをそのまま伝え,n副長の意見を聞かないのかと迫った。
これに対して,亡aは,そのことも考えたが,少し乱暴だが,今回の
配置換えはリーダー会議で決定したことであると説明し,現時点におい
てはとりあえずこの体制でしばらくやってみてほしいと述べたので,e
主任は,亡aに対し,決定したと言ってもn副長が納得していないと述
べた。
c課長は,e主任に対し,決まったことをここで覆すと,ゼロに戻っ
てしまうので,少しやってみて改善しようと述べ,安全部のpは,部外
者であるため間を取りなすように,e主任に対し,じゃあどうすればい
いのと言うなど,e主任は,同席していたc課長,g課長,d副長,安
全部のp等からも説得されたにもかかわらず,納得しなかった。(甲3
0・5頁・6頁,乙50・4∼5頁,証人e8∼9頁・13頁)
(エ)そこで,e主任は,亡aに対し,現状においてn副長がこの配置を
拒否している状況にあることをどのように考えるのかと再度詰め寄った。
これに対して,亡aは,d副長に対し,本件配置換えの検討資料を持
ってくるように指示し,その資料を使用して,本件配置換えに際しどの
ように検討したのかをe主任に説明した。
その資料には11個の配置案が記載されており,亡aは,e主任に対
し,亡aがまず原案を作成したうえで,チームリーダーも交えてその案
をいくつかに絞り,本件配置換えが決まった過程を詳しく説明した。
(甲7,27・4頁,28・5頁,29・7頁,30・5頁,乙50・
5頁,証人e12頁)
(オ)そこで,e主任は,亡aに対し,一応説明は分かったが,現実にこ
の状態で現在の出納業務をどのように処理するつもりであるのかを質問
したところ,亡aは,各チームリーダーの責任の下でj主任を指導教育
して現在の業務を処理してもらうしかなく,その中で,各チームリーダ
ーの責任を問うことも考えていると説明した。
これに対し,e主任は,亡aに対し,私個人は義務としてやるしかな
いとは思っているが,この新体制でやるしかないで済む問題ではないと
述べた。(乙50・5頁)
(カ)さらに,e主任は,亡aに対し,言い過ぎかもしれないが,事務管
理部の長として考えが甘いのではないかと述べたところ,亡aは,現在
の限られた人員の中で,工事事務チームと連携を取りながらやって欲し
いと述べた。
これに対し,e主任は,n副長のため,再度リーダー会議において打
合せをして欲しいと述べたが,亡aは,決定したことは変えられないが,
新体制で業務を遂行し,問題点を解決してゆくと述べた。(乙50・5
∼6頁)
(キ)そして,e主任は,亡aに対し,女性部員(n副長,l係員,k係
員の3名)の意見は聞いているのかと尋ねたところ,亡aから,そのこ
とは理解しているとの回答があったにとどまったので,女性部員の意見
を聞いていないように思われると述べ,さらに,n副長を納得させるよ
う要望した。
また,c課長は,e主任に対し,e主任はn副長とj主任との間にい
て困るだろうが,業務方法を工夫することで解決できないかと述べた。
その後も,亡aやc課長らをはじめとする課長らもe主任の説得に努
め,出納チームに派遣従業員を補充するとの案も出たが,出納チームは
現金,手形及び小切手を扱い,これを派遣従業員に対応させることは不
適切であるとされ,結局,亡aが,出納チームの人手が足りないときに
は,他のチームの手の空いている人に手伝わせることを約束し,e主任
も,この約束を一応納得して安心し,本件配置換えに関する議論は収ま
った。
なお,本件事故発生後,j主任は,早退,遅刻,欠勤を繰り返し,平
成12年4月には本店異動となったため,その後は出納チームにやむを
得ず派遣従業員を補充するとともに,工事チームからl係員を応援に当
たらせた。(甲28・6頁,30・6頁,乙50・6頁,証人e10∼
11頁・14頁・16頁)
(ク)c課長及びd副長は,本件配置換えに関する議論の途中で,亡aに
対し,見舞いの時間は大丈夫ですか,そろそろ出ないと見舞いに間に合
わないのでは,と何度か声をかけたが,亡aはそれには特に答えず午後
7時30分を過ぎてもe主任に対し本件配置換えに関する説明及び説得
を続けた(甲28・6頁,29・7頁,30・6頁,乙50・3頁,証
人f22頁,証人e15頁)。
カ本件配置換えに関する議論が終了したのは午後9時ころであり,午後9
時15分ころから,亡aは,椅子に座ったままほおにげんこつを当ててテ
ーブルに肘をついて居眠りをした。
その後,c課長及びe主任らは,午後10時ころ,後かたづけをして,
午後10時過ぎに亡aを起こし,亡a,g課長,c課長,f課長,d副長
及びe主任の6人で午後10時15分ころに退社して,一緒に最寄りの地
下鉄α線のβ駅に向かった。
本件事故当日は夕方から雨が降っていたが,亡aは,傘を持っていなか
ったので,途中の交差点まではe主任の傘に,その後はf課長の傘に一緒
に入って,β駅の入口まで歩き,争いのない事実(1)ウのとおり,午後10
時27分ころ本件事故に遭った。
本件会合は,亡aが本件事故により死亡した後は開催されていない。
(甲28・6頁,29・7頁,30・6∼7頁,乙12・5頁,13・3
頁・4頁,14・4頁,21,50・3頁,証人f14∼15頁・17頁
・24∼26頁,証人e15∼16頁・27∼28頁)
(7)時間外手当の支給状況
東京支店の従業員は,パソコン内にデータとして保存されている勤務表に
自ら労働時間を入力して労働時間を自主管理し,月1回勤務表に基づいて労
働時間を申告して,給与を支給されていた。
そして,東京支店の従業員は,午後5時以降に時間外労働をすると,時間
外手当が支給されたが,本件事故当時,日特建設は,時間外労働目標時間で
ある30時間以内の実際の時間外労働時間について時間外手当を支給してい
た。
この時間外手当は,主任には支給されていたが,4級職以上の管理職であ
る部長,次長,課長及び副長に対しては支給されず,深夜勤務手当のみが支
給されている。(甲11,18の1ないし25の14,乙12・1∼2頁,
13・1頁,28の1ないし42の3,証人f31頁,証人e31頁)
2判断
(1)本件会合の業務性
本件会合は,月1回開かれる主任会議の終了後,事務管理部の主催により,
東京支店の5階及び6階で開催され,6階の本件会合には事務管理部の部員
を中心に毎回7ないし8人が出席し,その費用は一般管理費会議費として日
特建設が負担していたもので,そこで懇談される内容も,業務上の問題点,
不平不満,トラブルの対応策,業務の改善案,他部門に対する苦言等業務に
関するものであって,このようなことからすると,本件会合は,業務の円滑
な遂行を確保することを目的とするものというべきであり,これが相応の成
果を挙げていたことは,伝票の書き方等の業務処理について重複する業務が
廃止されたり整理されたりしたほか,f課長が月初めの各営業所のエリアミ
ーティングに出席するようになった経緯を明らかにして苦情を解消するなど
したことなどの例からも明らかである。また,本件会合が酒類の提供を伴う
ものであるとしても,それは,忌憚のない意見を交換するためであると解さ
れ,また,業務外の話題に及ぶことがあったとしても,それは短時間の私的
会話の域を出ないものと解されるから,これらの事情が,上記目的の妨げと
なるものではない。
そして,亡aは事務管理部次長として事務管理部を実質上統括していたも
のであり,b部長から6階の本件会合で部員等から意見及び要望等を聴取し
て,これに対応することを命じられて毎回出席し,ほぼ開始時から終了時ま
で参加していたのであるから,一般には本件会合への参加が任意であるとし
ても,少なくとも亡aにとって,本件会合への出席は,これを主催する事務
管理部の実質上の統括者としての職務に当たるというべきである。
なお,東京支店の従業員の中には,本件会合を「ご苦労さん会」と称する
者もいたことが認められるが,本件会合は酒類の提供を伴うものであって,
慰労,懇親の趣旨も含まれていることは否定できないにしても,前述のよう
な本件会合の趣旨に照らすと,これが主として懇親等のための会であるとは
いえず,そのような呼称から直ちに本件会合への出席が業務に当たらないと
することはできない。
また,本件会合への出席が労働時間に含まれていない場合があったとして
も,亡aを含めて副長以上の職員に対しては,時間外手当が支給されず,ま
た,その他の職員に関しても,当時の日特建設の取扱いでは30時間までの
支給に制限されていたのであるから,そのまま申告する意義に乏しいもので
あった以上,そのようなことがあったからといって,これを理由に本件会合
の業務性を否定することはできない。
(2)本件事故当日の本件会合への出席の業務性
本件会合は,定期的に開催されているところ,これが業務としての性格を
有するものと解されることは前記のとおりであって,本件事故当日に開催さ
れた本件会合においても,亡aは,本件配置換えについて部員に不満及び不
安があったのに対し,本件配置換えが決まった経緯等について資料を使用し
て説明するなどして説得に努め,これについて一応納得させるなど,本件会
合の趣旨に従った業務に当たっていたことが明らかである。
ところで,亡aは,午後9時ころから居眠りをしているが,同人の飲酒量
が,通常に比して多量であったとはいえないこと,当日は風邪をひいていた
ことや前日までの睡眠不足のため体調が不良であったことからすれば,午後
10時15分ころに帰途につくまでの間一時居眠りをしたとしても,それは,
飲酒の影響を考慮しても,一時的な休息をとったものとの範囲を出るもので
はなく,社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど
のものとはいえない。
また,亡aは,飲酒後帰途についているが,その飲酒量や,飲酒後の経過
時間にかんがみ,また,当日は降雨があったため足元が滑りやすい状態であ
ったことからすると,飲酒の影響で本件事故が生じたとまで認めることはで
きないから,本件事故が通勤に伴う危険により生じたものには当たらないと
いうことはできない。
3結論
以上によれば,本件事故が通勤災害であることを否定した本件処分は違法で
あるから,取消しを免れない。よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官佐村浩之
裁判官増田吉則
裁判官後藤英時郎

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