弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
2控訴人は,被控訴人に対し,金22万円及びこれに対す
る平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
3被控訴人のその余の請求を棄却する。
4被控訴人の附帯控訴を棄却する。
5訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを5分し,その
1を控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。
6この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴及び附帯控訴の趣旨
1控訴人
(1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
2被控訴人
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)控訴人は,被控訴人に対し,金115万5000円及びこれに対する平成
20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じて控訴人の負担とする。
(4)仮執行宣言
第2事案の概要等(以下,略称は原判決に従う。)
1(1)控訴人は,不動産売買等を業とする株式会社,被控訴人は,翌年3月に大
学を卒業することを予定して就職活動を行っていたいわゆる新卒者であると
ころ,控訴人から採用についての本件内々定を得ていた被控訴人は,控訴人
に対し,同社が本件内々定の取消しをしたことは違法であるとして,債務不
履行又は不法行為に基づく損害賠償金115万5000円(慰謝料100万
円,就職活動費5万円,弁護士費用10万5000円)及び遅延損害金を請
求した。
(2)原審は,被控訴人の請求を一部認容(不法行為に基づき85万円(内訳
慰謝料75万円,弁護士費用10万円)及び遅延損害金)したことから,控
訴人が控訴し,おって被控訴人が附帯控訴した。
2本件における争いない事実等,争点及びこれに対する当事者の主張は,下記
のとおり当審において当事者が補足した主張を付加するほかは,原判決「事実
及び理由」の「第2事案の概要」の1,2に記載のとおりであるから,これ
を引用する(ただし,原判決4頁21行目の「適正試験」を「適性試験」と改
める。)。
(当審において当事者が補足した主張)
(1)控訴人
ア経済情勢の悪化という外部的要因による本件内々定取消しを信義則違反
として構成する被控訴人の主張は,誤っている。本件内々定取消しに至る
時期,控訴人において,マンション在庫が増加し,資金繰りが悪化してい
たことから,値引き販売を実施したものの,これのみでは悪化する景気に
対応できないとの経営判断から,賞与の削減,希望退職者の募集,出張手
当廃止などの方策を実施した。しかし,上記各対応によっても,近い将来
に景気改善の見通しは立たず,更に悪化する可能性が高かった。このよう
な経営判断を前提に,内定通知授与日の直前にやむなく本件内々定取消し
を行わざるを得なかったのであり,信義則違反とすることはできない。
イいわゆる契約締結上の過失による損害賠償責任の対象は信頼利益とされ
ており,この場合に慰謝料のみを認めるのは背理である。仮にこれが認め
られるとしても,原審判示の慰謝料額は高額に過ぎる。
(2)被控訴人
平成20年7月7日,被控訴人は,控訴人に対し,入社承諾書(甲2)を
提出していること,同年9月25日,被控訴人は,控訴人の人事事務担当者
であるAから架電があった際に,採用内定通知書交付日に控訴人に赴く意思
を表明していたのであるから,この時点において,控訴人は,被控訴人が控
訴人に入社することが確実であることを認識していたことからすれば,遅く
とも,前同日の時点において,控訴人,被控訴人間に始期付解約権留保付労
働契約が成立したと解しうることは,最高裁第二小法廷昭和54年7月20
日判決(民集33巻5号582頁)の趣旨からも明らかである。したがって,
本件内々定取消しについては,控訴人は被控訴人に対し,履行利益による損
害を賠償すべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,被控訴人の請求は主文の限度で認容すべきものと判断する。そ
の理由は,2のとおり原判決を加除訂正するほかは,原判決「事実及び理由」
の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2(1)原判決13頁25行目の次に改行の上,以下のとおり加える。
「もっとも,入社承諾書の返送後,被控訴人は,就職活動を終了したこと
を,Aら控訴人側に明確に伝えてはおらず,また,控訴人から,被控訴人
に対し,就職活動を止めるよう求めたこともなかった。そして,本件内々
定通知後,同年9月25日ころにAから被控訴人に対し電話連絡をする(下
記エ)までの間,説明会への参加要請がなされた(下記ウ)ほかは,控訴
人から被控訴人に対し何ら連絡をすることもなく,通例,企業が新卒者の
内定後に行うことがある社内報等の送付,近況報告やレポート等の提出,
研修等各種行事への参加を求めたこともなかった。」
(2)同14頁1行目の「今年度」を「当年度」と改める。
(3)同16頁13行目から同17頁8行目までを以下のとおり改める。
「(2)ア上記(1)の認定事実によれば,控訴人は,被控訴人に対し,倫理憲
章の存在等を理由とし,同年10月1日付けで内定を行うことを前提
として,本件内々定通知を発したものであるところ,本件内々定後に
具体的労働条件の提示,確認や入社に向けた手続等は行われておらず,
控訴人が入社承諾書の提出を求めているものの,その内容も,内定の
場合に多く見られるように,入社を誓約したり,企業側の解約権留保
を認めるなどというものでもない。
イ本件内々定通知及び入社誓約書提出後の控訴人と被控訴人との接触
状況をみると,説明会((1)ウ)が1回開催されたほかは,いわゆる入
社前教育等は全く行われず,控訴人によって被控訴人が他社への就職
活動を制限されることもなかったもので,本件内々定後,控訴人が同
社への入社を前提として被控訴人を拘束する関係はうかがわれない。
ウ被控訴人は,原審本人尋問において,本件内々定は正式な内定では
ないこと,本件内々定を受け取っていても,控訴人から入社を翻意さ
れる可能性があることは認識していた旨供述している。
エ平成19年(平成20年4月入社)までの就職活動では,複数の企
業から内々定のみならず内定を得る新卒者も存在し,平成20年(平
成21年4月入社)の就職活動も,当初は前年度と同様の状況であり,
Bを含めて内々定を受けながら就職活動を継続している新卒者も少な
くなかった。被控訴人においても,内々定を受けた複数の企業から就
職先を選択する新卒者の存在を認識していた。
以上によれば,本件内々定は,内定(労働契約に関する確定的な意思
の合致があること)とは明らかにその性質を異にするものであって,内
定までの間,企業が新卒者をできるだけ囲い込んで,他の企業に流れる
ことを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないというべきで
ある。したがって,控訴人が確定的な採用の意思表示(被控訴人の申込
みに対する承諾の意思表示)をしたと解することはできず,また,被控
訴人は,これを十分に認識していたといえるから,控訴人及び被控訴人
が本件内々定によって労働契約の確定的な拘束関係に入ったとの意識に
至っていないことが明らかといえる。本件において,被控訴人主張の始
期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえない。
そうすると,争点(2)について判断するまでもなく,労働契約の成立を
前提とする被控訴人の主張は理由がない。」
(4)同9行目の次に改行の上,以下のとおり加える。
「上記にみたとおり,本件内々定によって始期付解約権留保付労働契約が
成立したとはいえないが,契約当事者は,契約締結のための交渉を開始し
た時点から信頼関係に立ち,契約締結という共同目的に向かって協力関係
にあるから,契約締結に至る過程は契約上の信義則の適用を受けるものと
解すべきである。かかる法理は労働契約締結過程においても異ならない。」
(5)同15,16行目の「同年9月25日には,」から同17行目までを以下
のとおり改める。
「同年9月25日には,Aから被控訴人及びBに架電した上,同年10月1
日の同人らの内定を前提として,採用内定通知書交付の日程調整を行い,
その日程を同月2日に決めている(以下,Aの被控訴人に対する上記連絡
を「本件連絡」という。)。」
(6)同20行目の「採用」を「内定」と改め,「態度を」の次に「同人らに対
し」と加え,同26行目から同18頁1行目の「行っているところ,」まで
を以下のとおり改める。
「それにもかかわらず,控訴人は,本件連絡からわずか5日後で,採用内
定書交付予定日の2日前の同月30日ころ,突然,本件取消通知を被控訴
人に送付し,本件内々定取消しを行っている。控訴人は,同取消しは,急
激な景気悪化に伴う収益の落ち込み等によってやむを得ず行ったものであ
ると主張するが,前記認定(1(1)エ)によれば,遅くとも平成20年8月
ころには,取締役会等において,新卒者の採用見直しを含めた更なる経営
改善策が検討されており,他方,本件連絡の前後で経営環境が激変したと
も認め難いところである。かかる事情からすれば,本件連絡の当時,控訴
人において,被控訴人らの採用内定の可否につき検討が行われており,内
々定を取り消す可能性があることも十分認識されていたものと認められ
る。
このような事情の下,労働契約締結過程の一方当事者である控訴人とし
ては,被控訴人らにつき内々定取消しの可能性がある旨を人事担当者であ
るAに伝えて,被控訴人ら内々定者への対応につき遺漏なきよう期すべき
ものといえるところ,控訴人は,かかる事情をAに告知せず,このため同
人において従前の計画に基づき本件連絡をなしたもので,かかる控訴人の
対応は,労働契約締結過程における信義則に照らし不誠実といわざるを得
ない。
さらに,」
(7)同18頁6行目の「行うこともなかった。」の次に,以下のとおり加える。
「特に,前記のとおり,控訴人が,本件連絡からわずか5日後で,採用内定
書交付日の2日前の同月30日ころ,本件取消通知を被控訴人に送付し本
件内々定取消しを行ったことからすれば,このような突然の方針変更につ
いてしかるべき説明が必要なことは当然のことである。にもかかわらず,
控訴人は上記突然の方針変更について何ら説明をしていない。」
(8)同18頁9行目から同20行目までを削除し,同19頁5行目の「75万
円」を「20万円」と,同13行目の「10万円」を「2万円」と,同16
行目の「85万円」を「22万円」と改める。
3当審における当事者らの主張によっても,上記認定判断を覆すことはできな
い。
第4結論
よって,本件における内々定の合意の実体は,内定までの間に企業が新卒者が
他の企業に流れることを防止することを目的とする事実上のものであって,直接
的かつ確定的な法的効果を伴わないものである。したがって,被控訴人の請求の
うち,労働契約に基づくものは理由がないが,当事者双方が正式な労働契約締結
を目指す上での信義則違反による不法行為に基づく慰謝料請求は理由がある。そ
こで,原判決が認容した慰謝料額等を本件における事実関係に相応した額に変更
することとして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官廣田民生
裁判官高橋亮介
裁判官塚原聡

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