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平成13年(行ケ)第359号 特許取消決定取消請求事件
     判    決
 原 告 日本碍子株式会社
 訴訟代理人弁理士 三好秀和、岩崎幸邦、鈴木壯兵衞、伊藤由布子
 被 告  特許庁長官 太田信一郎
 指定代理人 橳島愼二、蓑輪安夫、山口由木、高木進、鈴木法明、林栄二
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
 以下において、「および」は「及び」に統一して表記した。その他、引用文にお
いて公用文の方式に従った箇所がある。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が異議2000-71691号事件について平成13年6月28日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 名称を「電極埋設品及びその製造方法」とする特許第2967024号の請求項
1ないし6に係る発明は、平成6年3月29日に特許出願され、平成11年8月1
3日に特許権の設定登録がされ、原告が特許権者である。本件特許について特許異
議の申立てがあって(異議2000-71691号)、平成13年4月23日に原
告による訂正請求があり、請求項が4つとなったが、平成13年6月28日、「訂
正を認める。特許第2967024号の請求項1ないし4に係る特許を取り消
す。」との決定があり、その謄本は、同年7月13日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
 (1) 訂正前発明
【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電
極とを備えている電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる
多数の孔が設けられている板状体からなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合
面のない一体焼結品であることを特徴とする、電極埋設品。
【請求項2】前記電極が金網であることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設
品。
【請求項3】前記電極がパンチングメタルであることを特徴とする、請求項1記載
の電極埋設品。
【請求項4】前記電極埋設品が、電気集塵機、電磁シールド、高周波電極及び静電
チャックからなる群より選ばれていることを特徴とする、請求項1-3のいずれか
一つの請求項に記載の電極埋設品。
【請求項5】前記電極埋設品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置
内に設置するための電極埋設品であることを特徴とする、請求項1-4のいずれか
一つの請求項に記載の電極埋設品。
【請求項6】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電
極とを備えている電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バ
ルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体と
このセラミックス成形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に
向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、前記基体を接合面のな
い一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充
填させることを特徴とする、電極埋設品の製造方法。
 (2) 訂正後発明(訂正請求に係るもの。請求項4、5を削除し、請求項6を請求
項4に繰上げ)
【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電
極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置する
ための、高周波電極及び静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であっ
て、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体か
らなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない-体焼結品であることを特
徴とする、電極埋設品。
【請求項2】前記電極が金網であることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設
品。
【請求項3】前記電極がパンチングメタルであることを特徴とする、請求項1記載
の電極埋設品。
【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電
極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置する
ための、高周波電極及び静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造す
る方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられて
いる板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設され
ている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス
焼結することにより、前記基体を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に前記
電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極埋設
品の製造方法。
       本件図面【図1】
               
 以下においては、訂正後の請求項1~4の発明をもって、本件発明1~4と表記
する。
 3 決定の理由
 別紙決定の理由のとおりである。すなわち、骨子次のとおりの判断である。引用
例1は、特開平4-304941号公報(甲第4号証)、引用例2は特開平5-1
3558号公報(甲第5号証)、引用例3は特開平5-275434号公報(甲第
6号証)を指す。
「本件訂正は、適法である。
 本件発明1は、引用例1ないし引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものである。本件発明1の効果も、引用例1ないし引
用例3に記載されたものからあらかじめ予測することができる程度のものであっ
て、格別優れたものとはいえない。
 本件発明2は、引用例1ないし引用例3に記載されたもの及び周知の事項に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
 本件発明3は、引用例1ないし引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものである。
 本件発明4は、引用例1ないし引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものである。本件発明4の効果も、引用例1ないし引
用例3に記載されたものからあらかじめ予測することができる程度のものであっ
て、格別優れたものとはいえない。」
第3 原告主張の決定取消事由(進歩性判断の誤り)
 1 本件発明1及び4に関して
 (1) 一致点の認定判断の誤り
 (1)-1 引用例1には、電極について次の記載がある。「円盤状のセラミックス
基体1の一方の主面1bに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そ
して、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上にセラミックス誘電体層6
が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体1
とセラミックス誘電体層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメ
タルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好とな
る。」(【0011】)。また、引用例1全体を通して、静電チャックの電極とし
て「膜状電極」以外の電極については記載されていない。
 「パンチングメタルのような穴明き形状」という記載は、膜状電極5の形状の一
態様を示すための比喩として「パンチングメタル」の語を使用したにすぎないこと
は明らかである。つまり「パンチングメタル」そのものを電極とすることは引用例
1には記載されていない。したがって、この記載から電極として、パンチングメタ
ルそのものが引用例1に記載されていると認定することは誤りである。
 (1)-2 ここで、「膜状電極」の用語を検討する必要がある。
 訂正明細書では、静電チャックの電極について、次のように「スクリーン印刷に
より形成される膜状電極」と「金属バルク体からなる電極」とを区別して説明して
いる。「(1)円盤状のセラミックスグリーンシート上に膜状電極をスクリーン印
刷し、この膜状電極を覆うように、他の円盤状セラミックスグリーンシートを載
せ、プレス成形し、・・・焼結させたものが知られている。しかし、・・・製造が
難しく、歩留りが悪い。」(【0002】)、「本発明の電極埋設品によれば、埋
設された面状の電極が金属バルク体からなっているので、電極の抵抗値が小さ
い。・・・スクリーン印刷電極は、厚みが高々数十μm程度なので、抵抗値が必然
的に大きくなる」(【0009】)。
 訂正明細書以外の公開特許公報の記載をみると、例えば、静電チャックに関する
本件特許権者による先願の明細書において、「膜状電極5Bは、タングステンのス
クリーン印刷によって形成した。」(引用例2【0051】及び特開平4-300
136号公報(甲第8号証)【0032】)、「膜状電極をスクリーン印刷し」
(特開平6-279974号公報(甲第9号証)【0002】)と記載され、同様
な表現である「膜状の内部電極」についても「スパッタリングで形成した。この厚
さは2000オングストローム以下にした。」(特開平5-200641号公報
(甲第10号証)【0027】)と記載されている。
 以上のことから、本件出願時において、引用例1に記載の「膜状電極」とは、
「数十μm以下の薄い膜からなる電極」を指す。本件発明の「金属バルク体」は、
電極としてこれとは別異のものである。
 しかるに、決定は、引用例1には記載されていない「前記電極が、面状の金属バ
ルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり」を一致点として認定し
ており、一致点の認定判断を誤っている。
 (1)-3 一般的な「膜状電極」の語の使用についていえば、被告が指摘するよう
に、スクリーン印刷、スパッタリング等で形成した電極、のみならず導電性接合剤
(合金)からなる円形シートに対しても使用されている。訂正明細書において、
「膜状電極」と区別して用いられている「金属バルク体」は、「ホットプレスの際
に電極の剛性によって電極の変形を防止できる」(訂正明細書【0025】)もの
である。上記スクリーン印刷、スパッタリングで形成した電極だけでなく、円形シ
ートも、ホットプレスの際に剛性を維持できるものではなく、明らかに訂正明細書
における「金属バルク体」とは別異の「膜状電極」である。
 仮に、引用例1に記載の電極が金属バルク体電極である「パンチングメタル」そ
のものであると解すると、孔の有無にかかわらず、「常圧焼結法」の焼結過程で、
収縮するセラミックス基体と収縮性のない「金属バルク体」との接合部で亀裂や割
れが発生し、実用可能な電極埋設品は得られない。引用例1に「パンチングメタル
そのもの」が開示されているとすれば、「常圧焼結法」以外の特別な焼結方法につ
いての説明がなされていなければならないが、その記載は引用例1にはない。した
がって、引用例1の電極は「常圧焼結法」と組み合わせて使用することのできる
「膜状電極」でなければならず、「金属バルク体」である「パンチングメタルその
もの」を意味すると解することはできない。
 特開平4-300136号公報(甲第8号証)には、「こうした静電チャックと
しては、円盤状のセラミックス絶縁体中に膜状の電極を埋設し、この円盤状体の側
周面に、電圧印加用の端子を露出したものが知られている。こうした静電チャック
を製造するには、円盤状のセラミックスグリーンシート上に電極をスクリーン印刷
し」(【0004】)との説明がある。この記載から、引用例1の出願当時の静電
チャックにおいて、膜状電極といえば主に、「スクリーン印刷体」を意味すること
が明らかである(実際に、引用例1の出願人でもある原告は、引用例1に記載の静
電チャックの膜状電極をスクリーン印刷法で作製していた。)。
 (1)-4 被告は、特開昭63-72877号公報(乙第12号証)、特開平4-
304942号公報(乙第13号証)及び特開平4-109562号公報(乙第1
4号証)を新たな根拠として、「膜状電極」との用語は、引用例1の頒布時に箔あ
るいは薄板状の金属材料からなる電極を含むものとして広く用いられていたと主張
している。ここで、金属材料技術研究所編「図解金属材料技術用語辞典」(200
0年1月30日、日刊工業新聞社発行、甲第16号証)によれば、「薄膜」とは、
「約1μm以下の厚さの膜をいう。薄膜はバルク材料とは異なる電磁気的、光学
的、機械的性質を示す」ものである。この解説からも明らかなように、「薄膜状電
極」、「導体薄膜」は、バルク材料に相当する「薄板金属材料」とは別異であるこ
とは、金属材料を扱う当業者(静電チャックの当業者を含む)の技術常識である。
また、乙第14号証は、「非水電解質二次電池」についての文献であり、静電チャ
ックとは全く関連性がないばかりか、セラミックス分野にも何ら関連性がない技術
に関するものである。
 (2) 相違点の看過
 決定が本件発明と引用例1記載の発明との間の相違点として認定した中には、引
用例1には記載されていない「前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔
が設けられている板状体からなり、」が挙げられていない。決定は、本件発明と引
用例1記載の発明との間のこの相違点を看過したものである。
 (3) 本件発明1に関する相違点判断の誤り
 引用例1に記載の静電チャックは、「ウエハー設置面の表面に、半導体ウエハー
を静電力によって吸着する」(【0003】)ものであり、「セラミックス誘電体
層6とウエハー9との間のクーロン引力により、ウエハー9をウエハー設置面22
へと吸着させる」(【0013】)ものである。そして、ウエハーに対する吸着力
を均一にするため、引用例1の静電チャックでは、電極として、面状の「膜状電
極」もしくは「膜状電極をパンチングメタルのような穴明き形状とするもの」が使
用されている(【0011】)。
 一方、引用例3の抵抗発熱体は、所定の抵抗を得るために線体あるいは板体の導
体をらせん状、蛇行状に配置したものであり、面状形状ではない。
 このように、引用例1の静電チャックと引用例3の半導体加熱用セラミックスヒ
ーターは、機能が異なり、これに伴って電極(抵抗発熱体)の形状も異なるもので
ある。
 さらに、引用例2の記載には、ウエハー吸着面での静電チャックの吸着力を均一
化するためには、電極設置深さに相当する誘電体層の厚みを数十μmオーダーの高
い精度で揃えることが望まれること、及び電極として「膜状電極」を使用する場合
に、単に通常の方法でプレス加工したのでは誘電体層が均一な静電チャックは得ら
れず、また接合面のない一体焼結品も得られないことが示唆されている。
 一方、半導体加熱用セラミックスヒーターは、抵抗加熱ヒーターの形状が面状体
ではないので、ウエハー設置面の温度を均一化するためには、設置面と発熱源であ
る抵抗発熱体との距離は離した方が望ましい。このため一般に抵抗発熱体は設置面
から数ミリ以上の深さ、あるいは引用例3の図2(d)や図7(c)に示すよう
に、基体の中央に設置され、この設置深さの調整については、静電チャックの誘電
体層の厚みのような精度は要求されない。
 このように、引用例1の静電チャックと引用例3のセラミックスヒーターとは、
機能の違いから、電極形状及び求められる成形精度が大きく異なるものであるか
ら、「膜状電極」を有する引用例1の静電チャックの製造方法として引用例3のセ
ラミックスヒーターの製造方法を転用することはできない。
 さらに、本件発明1は、「電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設け
られている板状体からなる」から、ホットプレス法を用いて誘電体層が均一な一体
焼結品を作製することが可能であり、「膜状電極」しか開示されていない引用例1
の電極埋設品に引用例3のホットプレス法を適用しても、誘電体層が不均一にな
り、静電チャックに必要な成形精度を得ることはできない。
 (4) 本件発明4に関する相違点判断の誤り
 前述のとおり、セラミックスヒーターの製造方法を静電チャックの製造方法とし
てそのまま転用することはできない。さらに、本件発明は、「電極が、面状の金属
バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなる」から、ホットプレス
法を用いて誘電体層が均一な一体焼結品を作製することが可能であり、「膜状電
極」しか開示されていない引用例1の電極埋設品に引用例3のホットプレス法を適
用しても、誘電体層が不均一になり、静電チャックに必要な成形精度を得ることは
できない。
 したがって、本件発明4と引用例1記載の発明との間の相違点(d-3)の構成
を容易に想到し得るとすることはできず、これに反する決定の判断(別紙決定の理
由336~345行)は誤りである。
 2 本件発明2及び3に関して
 前記のとおり、引用例1には、「膜状電極」及び「膜状電極をパンチングメタル
のような穴明き形状とする」ものしか記載がなく、面状の金属バルク体である「パ
ンチングメタル」そのものについては記載されていない。さらに、前記のとおり、
引用例1には「電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板
状体」も記載されていないのであるから、引用例1の記載に基づき「金網」を示唆
することはできない。
 被告は、金網を内部電極とすることが従来周知であるとして、乙第5号証(特開
昭63-119186号公報)及び乙第6号証(特開昭61-40801号公報)
を提示する。しかし、乙第5号証は、静電チャックとは製品分野が異なる板状ヒー
タを開示するものであり、さらに、乙第6号証も、静電チャックとは製品分野が全
く異なる水素吸蔵体に関するものであり、本件発明の金網を使用する目的とは大き
く異なる。
第4 決定取消事由に対する被告の反論
 1 本件発明1及び4の主張に対し
 (1) 一致点の認定判断の誤りの主張に対する反論
 (1)-1 引用例1には、静電チャックの構成に関して、「【0011】円盤状の
セラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成さ
れている。そして、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上にセラミック
ス誘電体層6が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミ
ックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、
パンチングメタルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が
良好となる。」との記載があり、上記記載によれば、「膜状電極5」は、パンチン
グメタルのような穴明き形状のもの、すなわち、パンチングメタルであるものが実
質上開示されている。
 また、本件出願時における静電チャックの技術水準を参照しても、引用例1に
は、パンチングメタルが静電チャックの内部電極として用いられることが実質上開
示されていることは明らかである。すなわち、静電チャックの内部電極として、金
属板が用いられることは従来周知であり(乙第1号証(実願昭62-104983
号(実開昭64-11542号)のマイクロフィルム)1頁15行~18行、乙第
2号証(実願昭62-171478号(実開平1-76045号)のマイクロフィ
ルム)1頁16行~2頁10行及び第3図、乙第3号証(実願昭63-17657
号(実開平1-123495号)のマイクロフィルム)4頁6行~11行、5頁1
行~11行及び第1図)、セラミック絶縁体の内部に異質材である金属板を入れる
構造のため、セラミック焼成時に焼成割れが発生し、歩留まりの低下をもたらすと
いう問題点があること(乙第1号証の3頁14行~18行)、また、その内部電極
がタングステン、モリブデン、銀-パラジウム、金、銀などの金属あるいはその合
金からなる場合には、この電極材は絶縁性誘電体層との接着性が悪いため、はがれ
や割れが発生するという不利があることも従来周知の技術的事項である(乙第4号
証(特開平5-235153号公報)【0004】)。
 そうすると、引用例1の上記記載は、セラミック絶縁体の内部に異質材である金
属板を入れる構造であるが故に、セラミック焼成時におけるセラミックと金属との
両者の膨張係数の差又は金属若しくは合金からなる電極材と絶縁性誘電体層との接
着性不良等に基づく周知の問題点であるはがれや割れの発生を防止するために、上
記膜状電極5をパンチングメタルのような穴明き形状のもの、すなわち、パンチン
グメタルとすることを実質上開示するものであり、引用例1記載の上記膜状電極5
としてパンチングメタルそのものを含んでいることは明らかである。
 さらに、引用例1記載の「パンチングメタルのような穴明き形状」なる用語が、
原告が主張するように「穴明き形状」を意味するならば、「パンチングメタルのよ
うな」という修飾語は全く必要がない上に、引用例1には、原告が引用例1の膜状
電極として主張する「数十μm以下の薄い膜からなる電極」をどのようにしてパン
チングメタルと同じような穴明き形状に形成するのかについて何ら記載されていな
いから、入手容易なパンチングメタルそのものをも意味することは明らかである。
 (1)-2 引用例2、特開平4-300136号(甲第8号証)及び特開平5-2
00641号公報(甲第10号証)の各記載における静電チャックは、あらかじめ
焼結によって作成したセラミック誘電体板にスクリーン印刷又はスパッタリングに
よって膜状電極又は内部電極を形成したものであって、引用例1に示されたような
セラミックス成形体中に電極を埋設し、その後、焼結する静電チャックの製造方法
に係るものではないから、そこに記載のスクリーン印刷又はスパッタリングによっ
て形成された「膜状電極」は、引用例1記載の「膜状電極」に対応するものではな
い。
 さらに、特開平6-279974号公報(甲第9号証)の記載は、セラミックス
グリーンシートにスクリーン印刷によって膜状電極を形成する従来周知の方法を開
示したものにすぎないし、原告が主張するように、膜状電極の厚さが数十μm以下
であるとの記載もない。
 また、引用例2には、膜状電極に関し、「導電性接合剤からなる円形シート5A
を準備する。これは、後述するように、電極としても機能するものである。」
(【0031】)との記載及び「厚さ100μmの円形シート5Aを準備した。こ
の組成は、銀71.3重量%、銅27.9重量%、チタン0.8重量%である。」
(【0046】)との記載があり、特開平4-300136号公報(甲第8号証)
にも、同様の「厚さ100μmの円形シート2を準備した。この組成は、銀 7
1.3重量%、銅27.9重量%、チタン0.8重量%である。」(【002
6】)との記載があって、あらかじめ形成された膜状電極として導電性接合剤(合
金)からなる厚さ100μmの円形シートが開示されている。
 以上のとおり、「膜状電極」は、専らスクリーン印刷による又はスパッタリング
によるもののみならず、あらかじめ形成された導電性の合金シートをも意味するこ
とは明らかであるから、引用例1の「膜状電極」は、「数十μm以下の薄い膜から
なる電極」のみを指すものではない。
 (1)-3 上述のように、引用例1には、静電チャックの電極として膜状電極が記
載され、膜状電極の具体例としてパンチングメタルのような穴明き形状のもの、す
なわち、パンチングメタルが実質上開示されている。そして、本件発明1及び4に
おいては、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体にパンチ
ングメタルが包含される。
 「膜状電極」とは、特開昭63-72877号公報(乙第12号証)、特開平4
-304942号公報(乙第13号証)及び特開平4-109562号公報(乙第
14号証)に記載があるように、引用例1の頒布時に、箔あるいは薄板状の金属材
料からなる電極を含むものとして、広く用いられていたものである。
 訂正明細書の【0033】によれば、本件発明で電極として使用される金網は、
線径φ0.03mm、150メッシュ以上とされており、0.03mmとは30μ
mである。これに対し、特開平4-109562号公報(乙第14号証)において
膜状電極として用いられる板や箔は、100μm以下であって、膜状電極として用
いられる板や箔は、大体その程度の厚さを有するものと考えられる。してみれば、
本件発明で電極として使用される金網が「ホットプレスの際に電極の剛性によって
電極の変形を防止できる」ものである以上、それと変わらない厚さを有する、膜状
電極として用いられる板や箔も、ホットプレスの際に電極の剛性によって電極の変
形を防止できる。
 引用例1の頒布時、金属バルク体を埋設したセラミックス製品を製造するのに、
ホットプレス法を用いることは周知であり、当業者は、引用例1における膜状電極
を、ホットプレス法によって容易に製造できる、箔あるいは薄板状の金属材料から
なる電極として認識することができたものである。したがって、引用例1の電極は
「常圧焼結法」と組み合わせて使用することのできる「膜状電極」でなければなら
ないと断定することはできない。
 (2) 相違点看過の主張に対する反論
 本件発明1及び4における「前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔
が設けられている板状体からなり、」の点は、既に述べた理由によって、両者の一
致点として挙げたものである。
 (3) 本件発明1に関する相違点判断誤りの主張に対する反論
 引用例3には、予備成形体7の上に抵抗発熱体2を設置し、抵抗発熱体2の上に
セラミックス粉体8を充填し、セラミックス粉体を一軸加圧成形し、得られた円盤
状成形体9をホットプレス法で焼結すること及び上記の方法によれば、抵抗発熱体
2がほぼ同一平面内にあるため、抵抗発熱体の型崩れという問題がほとんどなく、
ホットプレス焼結した場合も、抵抗発熱体2の平面形状が定まっていることから、
抵抗発熱体2の変形や位置ズレがほとんどなくなったことが開示されていることは
明らかである。
 引用例1記載のヒーター付き静電チャックと引用例3記載の半導体加熱用セラミ
ックスヒーターとは、半導体製造装置に関する技術において共通するばかりではな
く、セラミックス体内に平面的パターンの板状体からなる導電性部材を埋設する技
術である点においても共通するもので、引用例1の発明における電極の埋設に引用
例3の発明を適用するのに格別の困難性はない。
 そうすると、平面的パターンの導体が、引用例1では静電チャックの電極である
のに対し、引用例3では抵抗発熱体2である点で相違するものの、引用例1の静電
チャックの電極と引用例3の抵抗発熱体2との両者は、上部のセラミックス粉体
が、押圧によって充填される方向(厚さ方向)に空隙を有する平面的パターンの導
電性面状体である点において共通しているので、引用例3の記載に従って、セラミ
ックス予備成形体7の上に、引用例1記載の平面的パターンの導電性面状体である
パンチングメタルのような穴明き形状のものを設置し、その上にセラミックス粉体
8を充填し、セラミックス粉体を一軸加圧成形し、ホットプレス法で焼結して一体
焼結することは容易に想到し得ることであり、得られた一体焼結品は接合面のない
ものとなるであろうことは容易に予想することができたものである。
 (4) 本件発明4に関する相違点判断誤りの主張に対する反論
 上述の理由により、この点に関する原告の主張も失当である。
 2 本件発明2及び3の主張に対し
 上述のように、引用例1記載の膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き
形状のもの、すなわち、パンチングメタルそのものであって、引用例1には、膜状
電極がパンチングメタルであることが実質上記載されていることは明らかである。
 そして、金網は、引用例1記載のパンチングメタルと同様に、穴明き形状の金属
多孔板として極めてよく知られたものであり、また、金網を内部電極とすることも
従来周知であり(例えば、特開昭63-119186号公報(乙第5号証)2頁左
下欄7行~16行及び3頁右上欄3行~10行、特開昭61-40801号公報
(乙第6号証)2頁左下欄末行~右下欄6行)、そうすると、内部電極とセラミッ
クッス誘電体層との密着性が良好となるように、内部電極として、引用例1に実質
上開示されているパンチングメタルのような穴明き形状のものに代えて、同じく金
属製多孔板である金網を用いることは当業者が容易に想到し得ることである。
第5 当裁判所の判断
 1 本件発明1及び4について
 (1) 一致点の認定について
 (1)-1 引用例1(甲第4号証)には「本発明は、例えば半導体製造装置用のウ
エハー保持具に関するものである。」(【0001】)、「本発明の課題は、静電
チャック等のウエハー保持具の基材として緻密質セラミックスを用いた場合に、こ
のウエハー保持具のウエハー設置面に・・・浅い溝を、生産性良く良好に形成する
ことである。」(【0007】)、「円盤状のセラミックス基体1の一方の主面1
bに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そして、この膜状電極5
を覆うように、一方の主面1b上にセラミックス誘電体層6が形成され、一体化さ
れている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体1とセラミックス誘電体
層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き形
状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好となる。」(【0011】)と
の記載がある。
 これによれば、静電チャック等において、セラミックス基体とセラミックス誘電
体層との間にパンチングメタルのような穴明き形状の膜状電極を内蔵することは引
用例1に示されており、「穴明き形状の膜状電極」の例として「パンチングメタ
ル」が考えられているということができる。
 (1)-2 原告は、「パンチングメタルのような穴明き形状」という記載は、膜状
電極5の形状の一態様を示すための比喩として「パンチングメタル」の語を使用し
たにすぎず、「パンチングメタル」そのものを電極とすることは引用例1には記載
されていないと主張する。
 しかしながら、引用例1に「パンチングメタル」が例示として記載されているこ
とは上記のとおりであって、「穴明き形状の膜状電極」に関して「パンチングメタ
ル」が明確に意識されているということができ、特段の事由がなければ、「穴明き
形状の膜状電極」から「パンチングメタル」を除外することはできない。そして、
特開昭63-72877号公報(乙第12号証)には「この電極部材3の上面に
は、誘電体膜4で被覆された薄膜状電極5が固着されており、・・・上記電
極・・・は、・・・Al製電極5aにAl2O3の無機絶縁性誘電体膜4aを被覆し
たもの・・・が用いられ」(2頁左下欄20行~右下欄8行)と記載され、特開平
4-109562号公報(乙第14号証)には「このアルミニウム合金は十分な延
展性を有するため、100μm以下の板や箔に容易に加工でき、100μm以下の
薄膜電極が容易に作製できる。」(3頁右上欄15行~18行)との記載があり、
「薄膜状電極」、「薄膜電極」との用語は、箔あるいは薄板状の金属材料からなる
電極を含むものとして用いられていたということができる。原告は、金属材料技術
研究所編「図解金属材料技術用語辞典」(2000年1月30日、日刊工業新聞社
発行、甲第16号証)の「薄膜」についての「約1μm以下の厚さの膜をいう。薄
膜はバルク材料とは異なる電磁気的、光学的、機械的性質を示す」との記載を引用
し、「薄膜状電極」がバルク材料に相当する「薄板金属材料」とは別異であること
は、静電チャックの当業者を含む金属材料を扱う当業者の技術常識であると主張す
るが、上記のように、特開平4-109562号公報には「100μm以下の薄膜
電極」との記載があって、上記技術用語辞典の「薄膜」に関する「約1μm以下の
厚さの膜」との記載が特開平4-109562号公報における「薄膜状電極」ある
いは「薄膜電極」に当てはまるものではない。なお、同公報記載の発明は「非水電
解質二次電池」に関するものであるが、金属材料を扱う点で、本件発明1、4ある
いは引用例1記載の発明と相違するものではない。
 (1)-3 原告は、引用例1の「膜状電極」とは、「数十μm以下の薄い膜からな
る電極」をいうものであり、「金属バルク体」は電極として別異のものであると主
張する。
 しかしながら、引用例2(甲第5号証)には、「導電性接合剤からなる円形シー
ト5Aを準備する。これは、後述するように、電極としても機能するものであ
る。・・・セラミックス基体2Aの一方の主面2aは膜状電極5Aに対向する。」
(【0031】)、「厚さ100μmの円形シート5Aを準備した。この組成は、
銀71.3重量%、銅27.9重量%、チタン0.8重量%である。」(【004
6】)との記載がある。これによれば、厚さ100μmのものも「膜状電極」とさ
れており、「膜状電極」が「数十μm以下の薄い膜からなる電極」のみを意味する
ものということはできず、原告の上記主張は理由がない。
 (1)-4 原告は、本件発明の「金属バルク体」は「ホットプレスの際に電極の剛
性によって電極の変形を防止できる」ものであり、スクリーン印刷、スパッタリン
グで形成した電極だけでなく、円形シートも、ホットプレスの際に剛性を維持でき
るものではなく、明らかに本件発明の「金属バルク体」とは別異の「膜状電極」で
あると主張する。
 しかしながら、本件請求項1中には、「前記電極が、面状の金属バルク体からな
る多数の孔が設けられている板状体からなり」との記載があるものの、「ホットプ
レスの際に電極の剛性によって電極の変形を防止できる」との記載はなく、原告の
主張は請求項1の記載に基づかないものである。訂正明細書(甲第1号証)には、
「金網のメッシュ形状、線径等は特に限定しない。しかし、線径φ0.03mm、
150メッシュ~線径φ0.5mm、6メッシュにおいて、特に問題なく使用でき
た。」(【0033】)と記載されているし、本件発明で電極として使用される金
網についても、その線径について限定はない。上記明細書で例示されている0.0
3mmの線径も、原告が引用例1記載の「膜状電極」の厚さと主張する「数十μ
m」と変わるところがないのであって、いずれにしろ、原告の上記主張は理由がな
い。
 (1)-5 原告は、引用例1の電極は「常圧焼結法」と組み合わせて使用すること
のできる「膜状電極」でなければならず、「金属バルク体」である「パンチングメ
タルそのもの」を意味すると解することはできないと主張するが、引用例1には常
圧焼結法を用いるとの記載はなく、他の公知の焼結法の採用も可能であるといわざ
るを得ず(これを覆すべき記載を引用例1(甲第4号証)に見いだすことはできな
い。)、原告の上記主張は理由がない。
 (1)-6 原告は、特開平4-300136号公報(甲第8号証)に「こうした静
電チャックを製造するには、円盤状のセラミックスグリーンシート上に電極をスク
リーン印刷し」(【0004】)と記載され、引用例1の出願当時の静電チャック
において膜状電極といえば主に「スクリーン印刷体」を意味することが明らかであ
ると主張する。
 しかしながら、上記公報の記載は膜状の電極をスクリーン印刷によって製造する
一例を示すものであり、この記載から、引用例1記載の膜状電極を含むすべての膜
状電極がスクリーン印刷によって製造されるということはできない。
 (1)-7 以上のとおりであり、決定が、本件発明の「前記電極が、面状の金属バ
ルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり」をもって、本件発明1
及び4と引用例1に記載の発明との間の一致点と認定した点について誤りがあると
いうことはできない。
 (2) 相違点の看過の有無について
 原告は、決定が本件発明の「前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔
が設けられている板状体からなり」を相違点として挙げておらず、本件発明1及び
4と引用例1記載の発明との相違点を看過したものであると主張するが、上記(1)に
説示したところによれば、決定に原告主張の相違点の看過があるということはでき
ない。
 (3) 本件発明1に関する相違点の判断について
 原告は、引用例1の静電チャックと引用例3のセラミックスヒーターとは、機能
の違いから、電極形状及び求められる成形精度が大きく異なるものであるから、
「膜状電極」を有する引用例1の静電チャックの製造方法として引用例3のセラミ
ックスヒーターの製造方法を転用することはできないと主張する。
 しかしながら、決定は、相違点(a-3)「電極が、本件発明1では、基体中に
埋設されている・・・点」及び相違点(a-4)「電極を包囲する基体が、本件発
明1では、接合面のない一体焼結品である・・・点」について、すなわち、埋設、
一体焼結の点に関して引用例3記載の発明を適用し得るとしたものである。そし
て、引用例1(甲第4号証)には「本発明は、例えば半導体製造装置用のウエハー
保持具に関するものである。」(【0001】)との記載があり、引用例3(甲第
6号証)には「本発明は、各種の半導体製造装置・・・等に使用できる、半導体加
熱用セラミックスヒーター及びその製造方法に関するものである。」(【000
1】)との記載があり、しかも、引用例1記載の発明と引用例3記載の発明とは、
半導体製造装置に関する技術において共通する。さらに、引用例3(甲第6号証)
には基体の内部に抵抗発熱体を一体に埋設することが示されている。
 そうすると、引用例1記載の発明における電極の埋設に引用例3記載の埋設に関
する技術手段を適用することに格別の困難性があるものということはできない。原
告の上記主張は理由がない。
 (4) 本件発明4に関する相違点の判断について
 原告は、引用例3のセラミックスヒーターの製造方法を引用例1における静電チ
ャックの製造方法としてそのまま転用することはできず、さらに、「膜状電極」し
か開示されていない引用例1の電極埋設品に引用例3のホットプレス法を適用して
も、誘電体層が不均一になり、静電チャックに必要な成形精度を得ることはできな
いと主張する。しかしながら、引用例3のセラミックスヒーターの製造方法を引用
例1の静電チャックに適用することができないとの原告の主張、引用例1の「膜状
電極」と本件発明の「金属バルク体」とは別異のものであるとの原告の主張が理由
のないことは、上記説示のとおりであり、原告の主張は理由がない。
 2 本件発明2及び3について
 原告は、引用例1には、面状の金属バルク体である「パンチングメタル」そのも
のについての記載はなく、引用例1には「電極が、面状の金属バルク体からなる多
数の孔が設けられている板状体」も記載がないから、引用例1の記載に基づき「金
網」を示唆することはできないと主張する。
 しかしながら、引用例1の「膜状電極」と本件発明の「金属バルク体」とは別異
のものであるとの原告の主張に理由がないことは、上記説示のとおりである。ま
た、特開昭63-119186号公報(乙第5号証)には「第1図(a)は、本発
明の一実施例による板状ヒータを示す斜視図であり、・・・図において、板状に形
成された細かいメッシュの金網からなる電極板」(2頁右上欄20行~左下欄4
行)との記載があり、特開昭61-40801号公報(乙第6号証)には「本発明
に係る水素吸蔵体の・・・骨材としては、金網、孔明き板等の表面積の大きなもの
が選ばれ、・・・骨材を電極として・・・水素を放出させることが可能である。」
(2頁左下欄17行~右下欄12行)との記載がある。前者は板状ヒータ、後者は
水素吸蔵体に関するものであり、静電チャックとは製品分野を異にしているが、電
極を用いる点では共通するものであり、金網を電極とすることは周知であると認め
ることができる。原告の上記主張は理由がない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成14年12月19日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
            裁判官塩   月   秀   平
裁判官古   城   春   実
 裁判長裁判官永井紀昭は転補のため署名押印することができない。
            裁判官塩   月   秀   平
平成13年(行ケ)第359号 異議2000-71691
    決定の理由
1.手続の経緯
 特許第2967024号の請求項1ないし6に係る発明は、平成6年3月29日
に特許出願され、平成11年8月13日にその特許権の設定登録がなされ、その
後、特許異議申立人木村昭子及び特許異議申立人石田弘徳により特許異議の申立が
なされ、取消理由の通知がされ、その指定期間内である平成13年4月23日に訂
正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の要旨
a.訂正事項a
 明細書における特許請求の範囲の請求項1を以下のように訂正する。
「【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている
電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置す
るための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であ
って、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体
からなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない-体焼結品であることを
特徴とする、電極埋設品。」
b.訂正事項b
 明細書における特許請求の範囲の請求項4、請求項5を削除する。
c.訂正事項c
 明細書における特許請求の範囲の請求項6を請求項4とし、かつ以下のように訂
正する。
「【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている
電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置す
るための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製
造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けら
れている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設
されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプ
レス焼結することにより、前記基体を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に
前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極
埋設品の製造方法。」
d.訂正事項d
 明細書の段落番号【0007】を以下のように訂正する。
「【0007】【課題を解決するための手段】本発明は、緻密質セラミックスから
なる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性
ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャッ
クからなる群より選ばれた電極埋設品であって、電極が、面状の金属バルク体から
なる多数の孔が設けられている板状体からなり、電極を包囲する基体が、接合面の
ない一体焼結品であることを特徴とする。」
e.訂正事項e
 明細書の段落番号【0008】の1~2行(特許第2967024号公報の段落
番号【0008】の1~3行)の「また、本発明は、緻密質セラミックスからなる
基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えている電極埋設品を製造する方
法であって、」を「また、本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基
体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導
体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選
ばれた電極埋設品を製造する方法であって、」に訂正する。
f.訂正事項f
 明細書の段落番号【0012】の1~2行(特許第2967024号公報の段落
番号【0012】の1~3行)の「本発明に係る電極埋設品としては、電気集塵
機、電磁シールド、高周波電極、静電チャックが好ましい。」を「本発明に係る電
極埋設品は、高周波電極、静電チャックである。」に訂正する。
g.訂正事項g
 明細書の段落番号【0012】の5~7行(特許第2967024号公報の段落
番号【0012】の7~10行)の「また、電極埋設品が静電チャック、電気集塵
機である場合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャック、集塵
の応答速度の向上が可能である。」を「また、電極埋設品が静電チャックである場
合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャックの応答速度の向上
が可能である。」に訂正する。
h.訂正事項h
 明細書の段落番号【0013】の1~2行(特許第2967024号公報の段落
番号【0013】の1~3行)の「電極埋設品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用す
る半導体製造装置内に設置される電極埋設品である場合には、次の作用がある。」
を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
a.訂正事項aは、訂正前の請求項1に対して、訂正前の請求項4、5の記載を追
加し、かつ、この際、請求項から電磁集塵機と電磁シールドとの記載を除いたもの
である。
 したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂
正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であ
り、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
b.訂正事項bは、請求項4及び請求項5の削除である。
c.訂正事項cは、訂正前の請求項6において、電極埋設品が、ハロゲン系腐食性
ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための高周波電極および静電チャック
であることを規定したものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書
の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正で
あり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
d.訂正事項dは、訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、
これと適合させるための訂正であり、
訂正事項eは、訂正事項cにおける請求項6の特許請求の範囲の減縮に伴い、これ
と適合させるための訂正であり、
訂正事項f、g、hは、いずれも、訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲
の減縮に伴い、これと適合させるための訂正であり、
訂正事項dないしhは、いずれも、不明瞭な記載の釈明に該当するものである。
(3)むすび
 したがって、上記訂正は、特許法第等の一部を改正する法律(平成6年法律第1
16号)附則第6条第1項の規定により従前の例によるとされる平成11年改正前
の特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第
3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立についての判断
(1)本件請求項1ないし4に係る発明
 上記2.に記載したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし4に
係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記
載された事項により特定されるとおりのものである。(上記2.(1)参照)
【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電
極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置する
ための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であっ
て、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体か
らなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない一体焼結品であることを特
徴とする、電極埋設品。
【請求項2】前記電極が金網であることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設
品。
【請求項3】前記電極がパンチングメタルであることを特徴とする、請求項1記載
の電極埋設品。
【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電
極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置する
ための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造
する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられ
ている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設さ
れている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレ
ス焼結することにより、前記基体を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に前
記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極埋
設品の製造方法。
(2)引用例
a.異議甲第1号証:特開平4-304941号公報(以下、「引用例1」という。)
 引用例1には、(a-1)「図1は、セラミックスヒーターと一体化された静電チャッ
クを示す概略断面図・・・である。」(2頁右欄20行ないし23行)との記載、
 この静電チャック自体の構成に関する(a-2)「【0011】円盤状のセラミックス
基体1の一方の主面1bに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そ
して、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上にセラミックス誘電体層6
が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体1
とセラミックス誘電体層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメ
タルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好とな
る。」(2頁右欄35行ないし42行)との記載、(a-3)「セラミックス基体1、セ
ラミックス誘電体層6は、・・・窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウ
ム、アルミナ-炭化珪素複合体等とするのが好ましい。」(3頁右欄33行ないし
38行)との記載、(a-4)「図3に示すヒーター付き静電チャックを作成する。この
作成時には、セラミックス基体1とセラミックス誘電体6とを・・・一体焼結す
る。」(4頁左欄24行ないし27行)との記載、
 上記ヒーター付き静電チャックの作用に関する(a-5)「・・・膜状電極5がセラミ
ックス誘電体層6とセラミックス基体1との間に内蔵されているので、従来の金属
ヒーターの場合のような汚染を防止できる。」(3頁左欄31行ないし34行)と
の記載がある。
 引用例1の上記各記載によれば、引用例1には、以下のとおりの発明が記載され
ているものと認められる。
 (a-6)「窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複
合体等からなるセラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、膜状電極5が形成
され、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上に窒化珪素焼結体、サイア
ロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等からなるセラミックス誘電
体層6が形成され、一体化され、膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き
形状のものであり、セラミックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵さ
れている静電チャック。」
 (a-7)「窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複
合体等からなるセラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、パンチングメタル
のような穴明き形状の膜状電極5を形成し、この膜状電極5を覆うように、一方の
主面1b上に窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪
素複合体等からなるセラミックス誘電体層6を形成して一体焼成し、この膜状電極
5をセラミックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵させることよりな
る静電チャックの製造方法。」
b.異議甲第2号証:特開平5-13558号公報(以下、「引用例2」という。)
引用例2には、(b-1)従来技術に関する「スーパークリーン状態を必要とする半導
体製造用装置では、デポジション用ガス、エッチング用ガス、クリーニング用ガス
として塩素系ガス、フッ素系ガスなどの腐食性ガスが使用されている。このため、
ウェハーをこれらの腐食性ガスに接触させた状態で加熱するための加熱装置とし
て、・・・ヒーターを使用する」(2頁右欄3行ないし10行)との記載、(b-2)
「従来の半導体ウェハー固定技術としては、・・・静電チャックの各方式が知られ
ており、例えば、半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄、ダイシ
ング等に使用されている。・・・一方、特に、・・・成膜プロセスにおける半導体
ウェハー加熱、温度制御では、半導体ウェハーの被加熱面の温度を均一化できない
と、半導体生産時の歩留り低下の原因になる。」(2頁右欄33行ないし41行)
との記載、
 (b-3)「【0015】円盤状セラミックス基体2の一方の主面2aに沿って、例え
ば円形の膜状電極5が形成されている。そして、この膜状電極5を覆うように、一
方の主面2a上にセラミックス誘電体層4が形成され、一体化されている。これに
より、膜状電極5は、セラミックス基体2とセラミックス誘電体層4との間に内蔵
される。この膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き形状とすると、誘電
体層6の基材1との密着性が良好となる。」(3頁右欄34行ないし39行)との
記載がある。
c.異議甲第3号証:特開平5-275434号公報(以下、「引用例3」という。)
 引用例3には、(c-1)「金属箔1を・・・加工し、例えば図1(b)に示すような
平面的パターンの抵抗発熱体2を製造する。抵抗発熱体2においては、金属箔の主
要表面に対してほぼ平行に、細長い金属箔が延びた形状となっており、従って、抵
抗発熱体2の全体がほぼ同一平面上にある。」(3頁左欄14行ないし19行)と
の記載、(c-2)「下型5Aの上(枠6の内側)にセラミックス粉体を充填し、一旦プ
レス成形して予備成形体7を得る。次いで、予備成形体7の上に抵抗発熱体2を設
置し、・・・。抵抗発熱体2の上にセラミックス粉体8を充填する。次いで、図2
(c)に示すように、上型5Bと下型5Aとでセラミックス粉体を一軸加圧成形
し、円盤状成形体9を得る。次いで、図2(d)に示すように、下型5Aを上昇さ
せて円盤状成形体9を取り出す。【0013】次いで、円盤状成形体9を焼結して
セラミックスを緻密化させ、円盤状基体とする。・・・円盤状成形体9は、・・・
ホットプレス法で焼結する」(3頁左欄29行ないし45行)との記載、
 (c-3)「【0014】本実施例においては、金属箔からなる抵抗発熱体を用いてお
り、かつ抵抗発熱体2がほぼ同一平面内にある。このため、抵抗発熱体の型崩れと
いう問題がほとんどなく、・・・ホットプレス焼結・・・した場合も、抵抗発熱体
2の平面形状が定まっていることから、抵抗発熱体2の変形や位置ズレがほとんど
なくなった。」(3頁左欄48行ないし右欄7行)との記載、
 (c-4)「【0016】円盤状基体9Aを構成する緻密質セラミックスとしては、窒
化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン等を表示できる。・・・窒化アルミニウム
を使うと、ハロゲン系腐食性ガスに対して、高い耐蝕効果が得られる。」(3頁右
欄13行ないし18行)との記載がある。
(3).対比・判断
a.請求項1に係る発明について
 (一致点)
 上記引用例1に開示されている認められる(a-6)のヒーター付き静電チャック(以
下、「引用例1の発明」という。)と本件請求項1に係る発明とを対比すると、
 (a-1) 両者は、「セラミックスからなる基体と、この基体に一体化されたセラミ
ックス誘電体層とこれらに包囲されている電極とを備えている、静電チャックから
なる電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設
けられている板状体からなり、前記基体とセラミックス誘電体層が、一体焼結品で
ある電極埋設品。」である点で一致しており、
 (相違点)
 (a-2) セラミックスからなる基体が、本件請求項1に係る発明では、緻密質セラ
ミックスからなるのに対し、引用例1の発明では、緻密質セラミックスからなると
の直接的記載がない点、
 (a-3) 電極が、本件請求項1に係る発明では、基体中に埋設されているのに対
し、引用例1の発明では、基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵されてい
る点、
 (a-4)電極を包囲する基体が、本件請求項1に係る発明では、接合面のない一体焼
結品であるのに対し、引用例1の発明では、セラミックスからなる基体1と、この
基体に一体化されたセラミックス誘電体層6が一体焼結品であるが、両者の間に接
合面があるか否か記載されていない点
 (a-5)本件請求項1に係る発明では、高周波電極および静電チャックからなる群よ
り選ばれた電極埋設部品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に
設置するためのものであるのに対し、引用例1の発明では、静電チャックが、ハロ
ゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するためのものであるとの記
載がない点において相違している。
(判断)
ア. 上記相違点(a-2)について検討すると、基体を構成するセラミックスに関
し、本件特許明細書には、「基体を構成するセラミックスとしては、窒化珪素、窒
化アルミニウム、・・・サイアロン等の窒化物系セラミックス、・・・アルミナー
炭化珪素複合材料が好ましい。」【0015】との記載があり、上記セラミックス
は本件請求項1に係る発明における緻密質セラミックスに相当するものと認められ
る。
 一方、引用例1には、「セラミックス基体1、セラミックス誘電体層6
は、・・・窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素
複合体等とするのが好ましい。」(3頁右欄33行乃至38行)との記載がある。
 そうすると、両者の発明においては、基体及びこの基体に一体化されるセラミッ
クス誘電体層を構成するセラミックスは互いに一致しており、本件請求項1に係る
発明では、上記したように、基体を構成するセラミックスが緻密質セラミックスに
相当するものと認められるので、引用例1に記載の基体1及びセラミックス誘電体
層6を構成するセラミックスは、同様に、緻密質セラミックスに相当するものと認
められ、上記相違点(a-2)には実質的に差異はないものと認められる。
イ. 上記相違点(a-3)及び(a-4)について検討すると、引用例3の上記(c-1)及
び(c-2)の記載によれば、引用例3には、プレス成形して予備成形体7の上に平面的
パターンの板状体である抵抗発熱体2を設置し、抵抗発熱体2の上にセラミックス
粉体8を充填し、セラミックス粉体を一軸加圧成形し、得られた成形体9をホット
プレス法で焼結してセラミックスを緻密化させ、基体とすることが開示されている
ものと認められる。
 そして、引用例1記載の発明であるヒーター付き静電チャックと引用例3記載の
発明である半導体加熱用セラミックスヒーターとは、半導体製造装置内に設置さ
れ、半導体ウェハーを処理する際に用いられるものであって、同一技術分野に属す
るものであるから、両発明を組み合わせること、すなわち、引用例1の発明に引用
例3の発明を適用することに格別の困難性はない。
 そうすると、平面的パターンの導体が、引用例1では、静電チャックの電極であ
るのに対し、引用例3では、抵抗発熱体2である点で相違するものの、引用例1の
静電チャックの電極と引用例3の抵抗発熱体2との両者は、ともに、平面的パター
ンの面状体、すなわち、板状体である点で共通しているので、引用例3の記載にし
たがって、セラミックス予備成形体7の上に、引用例1に記載の平面的パターンの
面状体、すなわち、パンチングメタルのような穴明き形状の膜状電極5を設置し、
その上にセラミック粉体8を充填し、一軸加圧成形し、えられた成形体をホットプ
レス法で焼結して一体焼結することは容易に想到しうることであり、えられた一体
焼結品は接合面のないものとなり、上記膜状電極5は焼結されたセラミックス成形
体中に埋設されるであろうことは容易に予想することができることというべきであ
る。
ウ. 相違点(a-5)について検討すると、引用例2の記載によれば、半導体製造用
装置では、デポジション用ガス、エッチング用ガス、クリーニング用ガスとして塩
素系ガス、フッ素系ガスなどの腐食性ガスが使用されること、また、静電チャック
が半導体ウェハー固定技術として知られており、例えば、半導体ウェハーの搬送
用、露光、成膜、微細加工、洗浄等に使用されることは周知であることが認められ
る(異議申立人 石田弘徳が異議甲第1号証として提示した特開昭5-25136
5号公報を参照されたい。)。さらに、引用例2に記載のウェハ-加熱装置もヒー
ター付き静電チャックであって、半導体製造装置に設置して、塩素系ガスやフッ素
系ガス等のハロゲン系腐食性ガス雰囲気下で使用されることが開示されている。
 そして、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックは、引用例2に記載のもの
とと同様の構成を有するものであって、引用例1には、従来技術に関して、静電チ
ャックは、「半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄・・・等に使
用され」(【0002】参照)ること、そして、引用例1に記載の静電チャックも
半導体製造装置に設置して用いられることも開示されている。
 そうすると、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックを引用例2に記載のも
のと同様に、塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガスを使用する半導
体製造装置内に設置して使用することは容易に想到しうることである。
エ. したがって、本件請求項1に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載さ
れたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであ
る。
 そして、本件請求項1に係る発明の効果も、引用例1ないし引用例3に記載され
たものから予測することができる程度のものであって、格別優れたものとはいえな
い。
b.本件請求項2に係る発明について
ア. 本件請求項1に係る発明と引用例1に開示された(a-6)の発明(引用例1の
発明)との対比及び判断については(3)a.において前述したとおりである。
イ. そして、本件請求項2に係る発明における「前記電極が金網である」点につ
いて検討すると、引用例1には、膜状電極5として、「パンチングメタルのような
穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好となる。」(2頁右欄
41行ないし42行)との記載がある。そして、金網は、引用例1に記載のパンチ
ングメタルと同様に、穴明き形状の金属製品として極めてよく知られたものであ
り、金網を構成する金属線が導体となることは明らかである。
 そうすると、電極として、引用例1に記載のパンチングメタルにかえて金網を用
いることは容易に想到しうることであるから、本件請求項2に係る発明は、引用例
1ないし引用例3に記載されたもの及び従来周知の上記事項に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものというべきである。
c.本件請求項3に係る発明について
ア. 本件請求項1に係る発明と引用例1に開示された(a-6)の発明(引用例1の
発明)との対比及び判断については(3)a.において前述したとおりである。
イ. そして、本件請求項3に係る発明における「前記電極がパンチングメタルで
ある」点について検討すると、引用例1には、膜状電極5として、「パンチングメ
タルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好とな
る。」(2頁右欄41行ないし42行)との記載があり、引用例1に記載のパンチ
ングメタルは本件請求項3に係る発明におけるパンチングメタルに相当するもので
あることが認められる。
 したがって、本件請求項3に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載された
ものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
d.本件請求項4に係る発明について
ア. 本件請求項4に係る発明と引用例1に開示された(a-7)の電極埋設品の製造
方法(以下、「引用例1の方法の発明」という。)とを対比すると、
 (一致点)
 (d-1) 両者は、「セラミックスからなる基体と、この基体に一体化されたセラミ
ックス誘電体層とこれらに包囲されている電極とを備えている、静電チャックから
なる電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からな
る多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体を焼結すること
により、基体を一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設することよりなる電
極埋設品の製造方法。」である点で一致しており、
 (相違点)
 (d-2) セラミックスからなる基体が、本件請求項4に係る発明では、緻密質セラ
ミックスからなるのに対し、引用例1の方法の発明では、緻密質セラミックスから
なるとの直接的記載がない点、
 (d-3) 本件請求項4に係る発明では、セラミックス成形体とこのセラミックス成
形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加え
つつホットプレス焼結することにより、前記電極を接合面のない一体焼結品とし、
前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させるのに対し、
引用例1の方法の発明では、基体1とセラミックス誘電体層6との間に膜状電極5
を設け、基体1とセラミックス誘電体層6とを一体焼結し、膜状電極5を基体1と
セラミックス誘電体層6との間に内蔵させ、セラミックスからなる基体1と、この
基体に一体化されたセラミックス誘電体層6との間に接合面があるか否か記載され
ていない点、
 (d-4)本件請求項4に係る発明では、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造
装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた
電極埋設部品を製造する方法であるのに対し、引用例1の方法の発明は、静電チャ
ックの製造方法であって、上記静電チャックがハロゲン系腐食性ガスを使用する半
導体製造装置内に設置するためのものであるとの記載がない点において相違してい
る。
 (判断)
イ. 上記相違点(d-2)について検討すると、基体を構成するセラミックスに関
し、本件特許明細書には、「基体を構成するセラミックスとしては、窒化珪素、窒
化アルミニウム、・・・サイアロン等の窒化物系セラミックス、・・・アルミナ-
炭化珪素複合材料が好ましい。」【0015】との記載があり、上記セラミックス
は本件請求項4に係る発明における緻密質セラミックスに相当するものと認められ
る。
 一方、引用例1には、「セラミックス基体1、セラミックス誘電体層6
は、・・・窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素
複合体等とするのが好ましい。」(3頁右欄33行乃至38行)との記載がある。
 そうすると、両者の発明においては、基体及びこの基体に一体化されるセラミッ
クス誘電体層を構成するセラミックスは互いに一致しており、本件請求項4に係る
発明では、上記したように、基体を構成するセラミックスが緻密質セラミックスに
相当するものと認められるので、引用例1に記載の基体1及びセラミックス誘電体
層6を構成するセラミックスは、同様に、緻密質セラミックスに相当するものと認
められ、上記相違点(d-2)には実質的に差異はないものと認められる。
ウ. 上記相違点(d-3)について検討すると、引用例3の(c-2)及び(c-3)の記載に
よれば、引用例3には、プレス成形して予備成形体7の上に平面的パターンの板状
体である抵抗発熱体2を設置し、抵抗発熱体2の上にセラミックス粉体8を充填
し、セラミックス粉体を一軸加圧成形し成形体9を形成すること、及び得られた上
記成形体9をホットプレス法で焼結してセラミックスを緻密化させ、基体とするこ
とが開示されており、抵抗発熱体2の変形や位置ズレがないように、上記成形体9
をホットプレス法で焼結して緻密化させ、基体とするには、上記膜状電極5の厚さ
方向に向かって圧力を加えつつ上記セラミックス成形体9をホットプレス焼結して
基体とすることは自明の技術的事項である。
 そして、引用例1記載の発明であるヒーター付き静電チャックと引用例3記載の
発明である半導体加熱用セラミックヒーターとは、半導体製造装置内に設置され、
半導体ウェハーを処理する際に用いられるものであって、同一技術分野に属するも
のであるから、両発明を組み合わせ、引用例1記載の方法の発明に引用例3記載の
方法の発明を適用することに格別の困難性はない。
 そうすると、平面的パターンの導体が、引用例1では、静電チャックの電極であ
るのに対し、引用例3では、抵抗発熱体2である点で相違するものの、引用例1の
静電チャックの電極と引用例3の抵抗発熱体2との両者は、ともに、平面的パター
ンの面状体、すなわち、板状体である点で共通しているので、引用例3の記載にし
たがって、セラミックス予備成形体7の上に、引用例1に記載の平面的パターンの
面状体、すなわち、パンチングメタルのような穴明き形状の膜状電極5を設置し、
その上にセラミック粉体8を充填し、一軸加圧成形し、さらに、上記膜状電極5の
厚さ方向に向かって圧力を加えつつえられた成形体をホットプレス法で焼結して一
体焼結することは容易に想到しうることであって、上記膜状電極5の厚さ方向に向
かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、セラミックスが上記膜状
電極の穴内に充填され、接合面のない一体焼結品が製造されるであろうことは容易
に予想することができることというべきである。
エ. 相違点(d-4)について検討すると、引用例2の記載によれば、スーパークリ
ーン状態を必要とする半導体製造用装置では、デポジション用ガス、エッチング用
ガス、クリーニング用ガスとして塩素系ガス、フッ素系ガスなどの腐食性ガスが使
用され、静電チャックが半導体ウェハー固定技術として知られており、例えば、半
導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄等に使用されることは周知で
あることが認められる(異議申立人 石田弘徳が異議甲第1号証として提示した特
開昭5-251365号公報を参照されたい。)。さらに、引用例2に記載のウェ
ハ-加熱装置もヒーター付き静電チャックであって、半導体製造装置に設置して、
塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガス雰囲気下で使用されることが
開示されている。
 そして、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックは、引用例2に記載のもの
とと同様の構成を有するものであって、引用例1には、従来技術に関して、静電チ
ャックは、「半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄・・・等に使
用され」(【0002】参照)ること、そして、引用例1に記載の静電チャックも
半導体製造装置に設置して用いられることも開示されている。
 そうすると、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックを引用例2に記載のも
のと同様に、塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガスを使用する半導
体製造装置内に設置して使用することは容易に想到しうることである。
オ. したがって、本件請求項4に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載さ
れたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであ
る。
 そして、本件請求項4に係る発明の効果も、引用例1ないし引用例3に記載され
たものから予測することができる程度のものであって、格別優れたものとはいえな
い。
(4)むすび
 以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条
第2項の規定により特許を受けることができない。
 したがって、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は拒絶の査定をし
なければならない特許出願に対してされたものと認める。
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14
条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める
政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定す
る。

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