弁護士法人ITJ法律事務所

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平成12年(行ケ)第427号 審決取消請求事件(平成13年5月23日口頭弁
論終結)
          判         決
   原      告   ハイデルベルガー・ドルックマシーネン・
アクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士加   藤   義   明
同          川   田       篤
同鹿   野   直   子
       被      告   特許庁長官 及川耕造
       指定代理人      寺   島   義   則
同          宮   川   久   成
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成7年審判第2379号事件について平成12年6月26日にし
た審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文第1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  原告は、指定商品を商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正
前のもの、以下「旧別表」という。)による第9類「産業機械器具、動力機械器
具、風水力機械器具、事務用機械器具、その他の機械器具で他の類に属しないも
の、これらの部品及び附属品、機械要素」とし、「HELVETICA」の欧文字を書してな
る商標(以下「本願商標」という。)について、平成3年11月29日に商標登録
出願(商願平3-123869号)をしたが、平成6年10月26日に拒絶査定を
受けたので、平成7年2月8日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、
同請求を平成7年審判第2379号事件として審理した結果、平成12年6月26
日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月
12日、原告に送達された。
2 審決の理由
  審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、欧文書体であるサンセリフ体の一
種名と認められる本願商標を、その指定商品中「ヘルベチカ書体の活字及び写真植
字機の文字盤」に使用しても、単にその商品の品質を表示しているにすぎず、ま
た、これを上記以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせ
るおそれがあり、本件商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当す
るから、本件商標登録出願は拒絶されるべきであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
1 審決は、本願商標を、その指定商品中「ヘルベチカ書体の活字及び写真植字
機の文字盤」に使用しても、単にその商品の品質を表示しているにすぎず、また、
これを上記以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるお
それがあるとの誤った判断をしたから(取消事由)、違法として取り消されるべき
である。
2 取消事由(本願商標が品質表示及び品質誤認表示であるとする判断の誤り)
(1) ヘルベチカという名称の活字体及び印刷用書体(以下「書体」という。)
は、サンセリフという欧文書体の一種であるが、書体の一般名称は、多かれ少なか
れその書体の品質を含意しており、サンセリフとは、活字の先端及び末端に装飾さ
れている極細の直線がないことを意味するフランス語であり、まさに、書体を指称
するものとして一般的である。サンセリフ体は、特に20世紀に入り改良が進み、
原告の子会社であるハース活字鋳造株式会社(以下「ハース社」という。)が、
「ノイエ・ハース・グロテスク」という商標により、ヘルベチカの基礎となる活字
体を公表し、後に、「ヘルベチカ」という商標の下に機械植字用の活字体として公
表した。
  ヘルベチカは、ヘルベチアという名詞の形容詞女性形である。ヘルベチア
という名称は、今日のスイス連邦西域一帯に居住していたヘルベチア人に由来す
る。ヘルベチア人は、その後、ゲルマン系部族に吸収されたが、ヘルベチアという
名称は、ヘルベチア人の居住していた地域の呼称として残った。このように、ヘル
ベチアないしヘルベチカは、歴史上の民族又はスイスの地域を指称するもので、本
来、活字体とは関連性を有しない標章である。
  ハース社が「ノイエ・ハース・グロテスク」という商標に代えて、ヘルベ
チカという商標を用いたのは、他社の「ノイツァイト・グロテスク」という商標の
活字体と混同されるおそれがあったためであり、自他商品の識別を意識したもので
ある。そして、ハース社がスイス連邦の会社であることなどから、名詞形である
「ヘルベティア」という商標が考えられたが、当時のスイス連邦においてミシン会
社が「ヘルベティア」の商標を使用していたため、形容詞形である「ヘルベティ
カ」の商標が採用された。
  このように、本願商標は、ハース社のサンセリフ書体を同業他社のものか
ら区別するために採用されたものである。サンセリフの語は商品の品質又は形状を
記述するものであるが、ヘルベチカの標章は、スイス連邦の地名等を意味するもの
にすぎず、活字の形状等を意味するものではない。例えば、桑山弥三郎著「レタリ
ングデザイン」(甲第2号証)中に、サンセリフ、ローマン等の一般用語化してい
る書体が掲げられている一方、ヘルベチカが掲げられていないのは、これが一般用
語ではなく商標として認識されているからであり、また、このことは、現在、書体
を販売する際にヘルベチカが商標として使用されていることからも明らかである。
それにもかかわらず、ヘルベチカが特定のサンセリフを指称する一般名称であるか
のように錯覚されているのは、それだけヘルベチカが著名になったためにほかなら
ない。
  被告は、サンセリフ、ゴシック等の書体に関する概念が普通名称ないし品
質表示であることを前提として、ヘルベチカがそれらと同様に扱われていると主張
するが、被告提出の乙号証においても、マックス・ミーディンガーが創作者とし
て、ハース社が権利者として表示されているなど、ヘルベチカが一般名称ないし品
質表示としては扱われていない。
(2) 書体の創作者の権利を保護すべき制度は、今もなお決着をみておらず、国
際的に統一的な保護が確立していないし、諸外国においても、その保護の態様及び
程度は区々であるが、従来、活字を指定商品とする商標登録による保護の方法が採
られている。我が国においては、文字の数が多いことから、書体の創作は活発では
なく、書体保護の意識も外国に比べ薄かった経緯があり、現在でも、我が国におい
ては、著作権法、意匠法、不正競争防止法及び民法上の不法行為法のいずれによっ
ても書体の保護は不十分であり、商標法による保護の必要性が高い。
  もちろん、商標登録は、指定商品との関連においてされるものであり、伝
統的に書体は金属等により製作された活字の一部としてのみ存在し、活字に商標が
付されて取引されてきたから、指定商品である活字の保護により、間接的に書体の
保護が図られてきた。商標法により保護を受けるのは、直接的には、指定商品であ
る活字との関係における商標であり、活字に用いられた書体ではないから、例え
ば、ヘルベチカの商標で販売されている活字に第三者が別個の商標を付して販売す
ることは、法律上は自由であるが、実際は、活字及び書体の業界における信用力及
び業界慣行により、書体について保護を受けることができる。逆に、ヘルベチカが
単なる品質表示であるとすると、第三者は、ヘルベチカを任意の活字に付して自由
に販売することができることとなるが、このような行為は、業界の慣行上認められ
ず、かえって、原告の正当な利益が害されるのみならず、取引の公正を害する結果
となり、市場も大混乱に陥ることとなる。
(3) 指定商品を活字等とする本願商標は、1969年、ドイツ連邦共和国、フ
ランス共和国、イタリア共和国、ベネルックス3国等を指定国として国際登録がさ
れ、その後、連合王国(英国)、アメリカ合衆国、旧ドイツ民主共和国(東ドイ
ツ)等において登録されており、指定商品を活字以外の書体一般、写植書体、電子
書体としても、多くの国において登録されている。現在の国際的商品流通等を考慮
すると、商標登録の実体的要件に関しても国際的調和の必要性が高まっている。我
が国のみがこれと異なる判断をするならば、国際的に認められている本願商標に係
る原告の正当な利益を否定し、商品の正常な流通を妨げ、かつ、日本の国際的孤立
を招くことは必至である。
(4) 本願商標に係る「HELVETICA」は、ルフトハンザ・ドイツ航空などに採用
されて販路を拡大したが、1990年前後から、コンピュータによる文書の作成等
が急速に拡大していく中、コンピュータ製造会社大手のアイ・ビー・エム社など
と、次々に使用許諾契約を締結している。ゼロックス、アップル等の世界的企業
は、「HELVETICA」のライセンス契約中で、原告の著作権及び商標権を尊重すること
を合意し、何億円ものライセンス料を支払っている。
第4 被告の反論
 1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
 2 取消事由(本願商標が品質表示及び品質誤認表示であるとする判断の誤り)
について
(1) 特定人に対し書体について独占的排他的権利を認めることは、万人共通の
文化的財産である文字等について他人の使用を排除することとなり、容認すること
ができない。ヘルベチカは、サンセリフ、ローマン等と同様、単に書体名として使
用されているのであって、商標として使用されているものではない。ヘルベチカの
創作、命名過程が原告主張のとおりであるとしても、これが我が国において不特定
多数の者及び多数の出版物に使用されてきた結果、今日においては、本願商標は、
サンセリフ、ローマン等と同様、特定の書体であるヘルベチカ書体を表すものとし
て、取引者・需要者間に広く認識されている。このように、我が国において、ヘル
ベチカは、書体名として使用されているのであり、商標として使用されているので
はない。したがって、本願商標を指定商品中のヘルベチカ書体を用いた活字、写真
植字機等に使用しても、単に商品の品質(形状)を表しているにすぎず、また、こ
れを上記商品以外の指定商品に使用した場合には、商品の品質(形状)について誤
認を生じさせるおそれがある。
  商標として商品識別力を有し、特定の出所を表示するものとして使用され
ている登録商標も、商標権者の管理が十分でないときには、その商品の属する種類
の慣用的な名称になり、あるいは普通名称化することによって、個性化された商品
識別力を喪失することがある。ヘルベチカも同様に、商標権者の管理が十分でなか
ったために、不特定多数の取引者・需要者に広く使用された結果、印刷用活字の業
界においては、その商品の品質(形状)を表す語として普通に使用されてきたもの
である。
(2) 書体に付された名称が登録商標として保護されるかどうかは、各国の法制
度により異なっている上、商標保護の独立、すなわち、商標の登録出願及び登録の
条件は各同盟国において国内法令で定められ、かつ、その効力は当該国の領土内に
限られるという属地主義の原則が採られているから(パリ条約6条(3)参照)、本願
商標が他国において商標登録されているからといって、直ちに我が国において登録
を受けられるものではない。
(3) ヘルベチカが原告により創作され、原告とその使用者とがライセンス契約
を締結してライセンス料が支払われているとしても、本願商標の使用及び著作権の
利用に基づくものではない。ヘルベチカがハース社の権利に属することが記載され
ている例があるとしても、不測の争いを回避するなどの理由によるものと考えられ
る。世界的企業がヘルベチカについてライセンス契約を締結しライセンス料を支払
っているとしても、本願商標が登録されるべきかどうかとは別の問題であり、ま
た、本願商標が登録されていない以上、支払われているライセンス料は活字の登録
商標の使用料ではない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(本願商標が品質表示及び品質誤認表示であるとする判断の誤り)
について
  (1) 証拠(甲第2、第3、第5、第6、第12、第14、第24号証、乙第1
~第15号証)によれば、書体、レタリング等に関する国内文献やインターネット
のウェッブ・ページにおいて、本願商標の「HELVETICA」のほか、頭文字以外は小文
字の「Helvetica」及び本願商標を片仮名で表記した「ヘルベチカ」ないし「ヘルヴ
ェチカ」の語は、サンセリフ、ローマン等と同様、欧文書体の一書体名であるヘル
ベチカ書体を意味するものとして使用されていることが認められ、他方、本願商標
がその指定商品中のヘルベチカ書体を用いた活字、写真植字機等(以下「活字等」
という。)について特定の商品出所を表示する識別力を有すると認めるに足りる的
確な証拠はないから、我が国において、一般に、上記「HELVETICA」、「ヘルベチ
カ」等の語が一書体名を表す語として活字等の取引者又は需要者において認識され
用いられていることが推認される。もっとも、「アドビ社フォント販売用ホーム・
ページ」(甲第14号証)には、「Helveticaは、ライノタイプ・ヘル・アーゲー又
は(及び)その子会社の登録商標です。」との記載があるが、同号証は、フォント
販売用ホーム・ページであり、また、「Helvetica丸字体の基本的なデザイン
は、Helveticaの標準字体と同じです。」との記載もあるから、「Helvetica」は書
体を意味するものとして使用されていることが明らかである。また、「ALTSYS
FONTOGRAPHERユーザーズガイド」(甲第15号証)には、「Helveticaおよび
TimesはLinotype-HellAGまたはその子会社あるいはその両方の商標です。」(42
2頁)との記載があるが、同号証が活字体作成ソフトウェアであ
る「Fontographer」のユーザーズガイドであり、上記記載が活字体の商標権及び使
用許諾に関する記載であることは、原告も認めるところであって、これが活字等の
商標権に係るものであることをうかがわせる記載はない。
    そうすると、我が国において、本願商標を指定商品中「ヘルベチカ書体の
活字及び写真植字機の文字盤」に使用しても、単にその商品の品質を表しているに
すぎず、また、これを上記商品以外の指定商品に使用するときは、商品の品質につ
いて誤認を生じさせるおそれがあるとした審決の判断は正当というべきである。
なお、被告は、本願商標については、昭和57年1月18日、米国法人か
ら指定商品を旧別表による第9類「印刷機械器具、その他本類に属する商品」とす
る商標登録出願がされたが、特許庁は、公告決定後、第三者からの登録異議申立て
に基づき、商標法4条1項16号に該当するとして拒絶査定をし、これに対する不
服の審判(昭和62年審判第5538号)においても、平成5年2月5日、「本件
審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、これが確定した経緯がある旨主張
するところ、原告が上記経緯について争うことを明らかにしないことは、記録上明
らかである。
  (2) 原告は、ハース社が、「ヘルベチカ」という商標の下に機械植字用の活字
としてヘルベチカ書体を公表し、ヘルベチカは、歴史上の民族又はスイスの地域を
指称するもので、本来、活字体とは関連性を有しない標章である上、ハース社が他
社の商品との混同を避けるためにヘルベチカという商標を採用したことなど、その
由来について主張する。しかしながら、ヘルベチカ書体の創作、命名過程が原告主
張のとおりであるとしても、本願商標が登録されるべきであるかどうかは、専ら、
審決時において、我が国において本願商標が活字等の取引者又は需要者においてど
のような意味を有するものとして認識され用いられていたかによって判断されるべ
きである。一般に、商標としての商品識別力を有していた標章が時代の推移ととも
に商品識別力を喪失することはまれではなく、また、特定の国において商品識別力
を有する標章が、他国においては商品の一般名称又は品質表示として用いられてい
るということもまれではない。本願商標の由来が原告主張のようなものであったと
すれば、本願商標が長年にわたり広く使用された結果、今日の我が国においては、
サンセリフ、ローマン等と同様、欧文書体の一種であるヘルベチカ書体を表すもの
として、取引者又は需要者に広く認識され用いられるに至ったものと推認される。
原告も、本願商標が特定の欧文書体を指称する一般名称であるかのように錯覚され
ているのは、それだけヘルベチカが著名になったためであると主張しており、本願
商標が特定の書体を意味するものと解されていること自体は、争うところではな
い。
  (3) また、原告は、桑山弥三郎著「レタリングデザイン」(甲第2号証)中
に、サンセリフ、ローマン等の一般用語化している活字体が掲げられ、ヘルベチカ
が掲げられていないのは、これが一般用語ではなく商標として認識されているから
であると主張する。しかしながら、上記書証においても、「ヘルベチカ・ボール
ド」の書体が記載され、その説明として「この書体は以前にはノイエ・ハース・グ
ロテスク・ハルプフエットとよばれた。・・・現在ヨーロッパで最も使われている
サンセリフの一つである。1962年頃ヘルベチカと改名する。」(151頁)と
の記載があり、「ヘルベチカ」の語は書体名とされていることが明らかである。さ
らに、上記書証では、ヘルベチカ書体について、マックス・ミーディンガーが創作
者であり、ハース社が権利者であると解され得る記載があるが、上記書籍の著者が
ヘルベチカ書体について創作者を表示するとともに、ヘルベチカ書体に係る何らか
の権利がハース社に帰属しているとの認識の下に上記の表示をしたとしても、本願
商標がヘルベチカ書体を意味することと何ら矛盾するものではない。そして、本願
商標の指定商品中の活字等との関係においては、書体は商品の品質を表すものであ
るから、これと同旨の審決の判断に誤りがないことは上記(1)のとおりである。
  (4) 書体の創作者の権利をどのように保護すべきかについては、国際的に統一
的な保護の方法が確立しておらず、その保護の態様及び程度が各国ごとに異なるこ
とは、原告も認めるところである。原告主張のように、書体自体を保護すること
は、立法論として考慮する余地があり、比較法的にも、そのような法制度を採用す
る国がある。その際、書体を著作物として著作権法により保護する制度のほか、商
標法により書体を保護する制度も考えられないではない。しかしながら、本来、商
標法は、商品及び役務の取引に用いられる識別標識である商標を保護することによ
り、これを使用する者の業務上の信用を維持することを目的とするものであって、
著作権法、意匠法等のように創作者に独占的権利を付与することで創作を奨励する
制度とは目的を異にする上、商標法が保護するものは商標であって書体そのもので
はないから、根拠となる明文の規定のないまま商標法の解釈によって書体を保護す
ることは、法解釈として正当なものということはできない。原告は、伝統的に書体
が活字の一部としてのみ存在したことを根拠として、指定商品を活字として商標を
保護することにより間接的に書体の保護を図るべきであるとも主張するが、指定商
品である活字との関係において、書体はその品質にほかならないから、書体を表す
標章は活字等について商品出所の識別力があるということはできない。なお、原告
は、本願商標が品質表示であるとすると、第三者は、本願商標を任意の活字に付し
て自由に販売することができるとも主張するが、このような第三者の行為は、商品
の品質、内容について誤認させるような表示をする行為であって、不正競争防止法
2条1項12号に規定する不正競争に当たるから、現行法の下においても許容され
ることはない。
  (5) さらに、原告は、本願商標が多くの国において、指定商品を活字、書体等
として登録されている旨主張する。しかしながら、本願商標の登録出願は、活字等
を指定商品としてされているから、書体を指定商品とする登録を認める国において
その登録がされても、指定商品を異にする点で前提を異にする。また、本願商標が
外国において活字等を指定商品として登録されているとしても、上記のとおり、同
一の標章について、特定の国において商品出所の識別力を有しながら、他国におい
て商品の一般名称又は品質表示であるということもまれではないから、外国におい
て活字を指定商品として本願商標の登録がされているからといって、直ちに我が国
における登録が認められるべきであるということはできない。
    原告は、商標登録の実体的要件に関する国際的調和の必要性も主張する
が、同一の標章が国により商品出所の識別力を有するかどうかが異なり、これに応
じて商標登録が区々になるという事態は、国際的にも制度上予定されている事柄で
ある。すなわち、工業所有権の保護に関するパリ条約は、商標の登録出願及び登録
の条件は、各同盟国において国内法令で定めることとし(6条(1))、いずれかの同
盟国において正規に登録された商標は、他の同盟国(本国を含む。)において登録
された商標から独立したものとする(6条(3))との各国商標の独立の原則を規定す
るとともに、外国登録商標については、本国において正規に登録された商標が原則
として他の同盟国においてもそのままその登録を認められかつ保護される旨(6条
の5A(1))規定する一方、その例外として、当該商標が商品の品質を示すため取引
上使用されることがある表示のみをもって構成されたものである場合には、本国に
おいて正規に登録された商標であっても、その登録を拒絶され又は無効とされるこ
とがある旨(6条の5B2)規定している。また、平成12年3月14日我が国に
おいて発効したマドリッド議定書も、国際登録による標章の保護について国際事務
局から領域指定の通報を受けた締約国の官庁は、当該標章登録についてパリ条約上
援用可能な理由に基づく場合には、当該締約国においては当該標章に対する保護を
与えることができない旨を拒絶の通報において宣言する権利を有する旨規定してい
る(5条(1))。そうすると、本願商標は、商品の品質を示すため取引上使用される
ことがある表示のみをもって構成されたものとして、パリ条約及びマドリッド議定
書においても、その登録を拒絶され又は無効とされることがあるものであって、本
願商標の登録が拒絶されたからといって、原告主張のように、商標登録の実体的要
件に関する国際的調和に反するものでも、我が国の国際的孤立を招くものでもな
い。
  (6) なお、原告は、本願商標が世界的企業に使用許諾されていることを主張す
るが、これら企業がヘルベチカ書体を使用することについて使用許諾契約を締結す
ることは、各企業が種々の要素を考慮して総合的な経営判断により決定したもので
あり、我が国商標法の下で本願商標が登録されるべきかどうかの判断に影響を及ぼ
すものではない。加えて、本願商標が登録されるべきかどうかは、これが指定商品
である活字等について商品出所の識別力を有するかどうかによって判断されるべき
ものであって、書体であるヘルベチカ書体の使用許諾がされていることは、活字等
を指定商品とする本願商標の登録の許否とは次元を異にする。したがって、上記許
諾契約が締結されている事実は、審決の判断を正当とする当裁判所の結論に消長を
来すものではない。
 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟
法7条、民訴法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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