弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人山辺芝二の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、
ここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 論旨は、本件被告人の傷害の行為は正当防衛にあたると云うのてある。
 よつて記録並びに原審及び当審において取調べた各証拠に基き所論を検討する
に、原審並びに当審証人Aの証言の各一部当審証人B、同Cの各証言、被告人の原
審における供述、同人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、及び原審及び
当審の検証調書其の他各関係証拠を綜合すると、被告人は、本件の被害者Aとは遠
縁の間柄であり、又その実弟D夫妻の媒酌人でもあつたところ、右Aは弟Dの結婚
には当初より反対であつたため、とかく弟との間に喧嘩の絶間がなく、従つて被告
人に対しても不快の念を持ち反目を続けていたのであるが、Aは元来その性質極め
て粗暴であつて、既に過去約十年間に暴行傷害等の前科合計一三犯を有する危険な
男であり、昭和三三年一一月二六日夜も、又々弟Dと烈しい喧嘩を行ない、揚句の
果は予てより弟夫婦に住まわせている自分の家を即刻明渡して立退けよとの難題を
持ちかけ、頑として聞入れないため、弟D夫婦は当時妻Bか出産予定日を過ぎた身
重且重大な体であつたにも拘らず、無法の要求に施すべき術もなく、しかも深夜午
前二時前頃(翌二七日)引越のため、自動車を雇い家財道具を取纏め、一旦これを
近くの媒酌人たる被告人の家に預けたところ、この様子を凝視していたAが時を移
さず被告人方表廊下前に来り、大声で被告人に対し、「出て来い」「今日は日本刀
でも何でも持つて出て来い。顔を見たら一発で射ち殺すぞ、出て来ねば上つて行く
ぞ」等と罵詈雑言を浴せ、唯ならぬ気配を示したので、被告人は直ちに廊下に出
て、同人の理不尽の言いがかりに対し厳しくこれを詰問したところ、Aは被告人に
対し「Eともあろう者が、今になつて卑怯なことをするな」とか「はじきやげたろ
うか」(狙撃の意)等と云いながら、右手をオーバーのポケットに突込んだ(当夜
弟と喧嘩の際硝子の破片で負傷しタオルを巻いていたのでこれをかくすために突込
んだ)ので、被告人はAが凶器を取出し、自己に立ち向つて来るものと誤想し、そ
の生命、身体を防衛するためやむなく有り合わせの木刀を振つて、矢庭に右Aの右
手首を打ちすえ、更に同人が反攻に出たため数回殴打し因つて遂に原判示の如き傷
害を与えたことが認め得られる。
 そして、右の事実によれば、被害者Aの本件当夜の言動は、その悪態の限りを尽
し、喧騒を極めたものであつて、しかも前記の如き不穏且つ危険な言葉を発してい
るのであるから、これを同人の平素の行状と合せ考えると、被告人が右Aが右手を
オーバーのポケットに差入れた挙動を以て被告人に対し攻撃して来るものと思つた
ことは無理からぬことではあるけれども、前記認定の事情のもとにおいてはAの行
為が客観的に正当防衛の対象となる程度の急迫した侵害行為とは認められないから
弁護人の正当防衛の所論は該らない。
 <要旨>しかしながら、右に縷述した如く、被告人の本件行為は被害者Aが右手を
同人のオーバーのポケットに突込んだことにより、同人の凶暴な性格と、そ
の直前における前記の如き言動と合わせ、同人か被告人に対し凶器を以て攻撃し来
るものと、急迫の事態を錯覚し、自己の生命身体の危険を防ぐため、やむなく原判
示の如き傷害に及んだものであつて、換言せば、正当防衛の成立に必要な客観的条
件たる急迫不正の侵害がないのに、これが存するものと誤信して権利を防衛する意
思を以てした行為、すなわち講学上いわゆる誤想防衛行為と解すべきであつて、し
かも被告人の右錯誤については記録上これが同人の責に帰すべき過失によるものと
は認められないから、被告人の本件行為は、錯誤により犯罪の消極的構成要件事実
即ち正当防衛を認識したもので故意の内容たる犯罪事実の認識を欠ぐことになり従
つて犯意の成立が阻却されるから犯罪は成立しないものと云わざるを得ない。
 して見ると被告人の本件行為に対し刑事責任を認めた原判決は失当たること明か
であつて判決に影響すること勿論であるから、到底破棄を免れない。論旨は正当防
衛の主張であつて、その当らざること既に前記のとおりであるけれども、しかし、
被告人の本件行為の本質が防衛行為であるの故を以て、犯罪の不成立を訴える点よ
りすればその行為が正当防衛たると誤想防衛たるとを問わず広くそのいずれをも包
含する趣旨のものと解せられないでもないから論旨は結局その理由あるに帰する。
 そこで刑事訴訟法第三九七条、第三八二条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇
条但書により直ちに判決すべきものとする。
 本件公訴事実は、被告人は昭和三三年一一月二七日午前二時頃芦品郡a町大字b
町営住宅の自宅前庭において予て反目していたAがおしかけて来たのに激昂して木
刀をもつて同人の顔面、頭部等を数回殴打し、因つて同人に対し治療一五日間を要
する後頭部、前頭部、側頭部、挫創兼顔面部打撲等の傷害を与えたものである。と
云うにあり、被告人がAに対し右の如き傷害を負わせたことは証拠上認め得るが、
右は前記の如く被告人の誤想防衛行為に因るものであつて、被告人の行為は罪とな
らないから刑事訴訟法第四〇四条第三三六条に則り無罪の言渡を為すべきものとす
る。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 村木友市 判事 幸田輝治 判事 牛尾守三)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛